燃料デブリサンプルの採集と分析

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デブリサンプルの採集位置

 TMI-2事故では、内部調査やデブリ取り出しの進捗にともなって、原子炉圧力容器内の状態推定図が改定された(参考:TMI-2での内部調査、デブリ取り出しの概要)。事故の最終形態として描図された(図1)が広く知られている[1,2他]。炉内状況の推定のために、様々な内部調査や採集したサンプルの分析が行われた。圧力容器内からは、上部プレナム構造物の付着デブリ、CRDM(Control Rod Driving Mechanism)リードスクリューとその付着デブリ、リードスクリュー案内管、上部格子からぶら下がっていた一部形状を維持していた燃料集合体上部、炉心周辺部に残留していた燃料集合体、炉心中央上部に堆積していたデブリベッド、その下に存在していた溶融凝固層とその周囲を囲むクラスト層(ボーリングサンプル)、さらにその下に残留していた切り株状の燃料集合体、炉心下部構造物(LCSA: Lower Core Support Assembly)と付着デブリ、下部プレナム堆積デブリ(表層のルースデブリ、その下のハードデブリ)、炉心外周のコアフォーマ領域に堆積していたデブリ、下部ヘッド(計装管、下部ヘッド内面)、から、それぞれサンプルが採集され、分析が行われた。得られた分析結果に基づいて、それぞれの領域ごとに、事故進展中のピーク温度、構成材料間の反応、デブリ組成、デブリ酸化度、FP残留状態などが評価された[1,2]。

図1 TMI-2事故の最終形態 [1]

各領域の概要

  • 上部ヘッドとプレナム構造物: 事故時に高温水蒸気に曝された。上部格子の底部を除き、ほぼ本来形状が維持されていた。付着デブリやぶら下がりデブリ(燃料集合体上部、上部端栓)が観察された。
  • 上部空洞: 最深部で約1.5mの深さ、空間容積約9.3m3。空洞の周辺部に、本来炉心に装荷されていた177体の燃料集合体のうち42体が部分的に残留、うち2体のみは全長に対し90%以上無傷で残留していた。
  • 上部ルースデブリ(デブリベッド): 上部空洞の底部に堆積していた(堆積厚さ約0.6~1m、重量約26.4トン)。表層には、破砕されたが、あまり溶融した痕跡のない燃料棒や制御棒スパイダー、上部端栓などの一部が堆積していた。
  • 馬蹄形リング構造: 上部ルースデブリの周辺部(炉心外周部に残留していた燃料集合体の内側)に、やや硬く、探針が貫通できない領域が存在していることが、初期のデブリ取り出し中に明らかになった。炉心の全周ではなく、炉心北東側が馬蹄形に一部かけた構造であった。
  • 溶融凝固層: 上部ルースデブリの下で、炉心中央周辺に約3m径の領域に漏斗状の形状で存在していた。中央で約1.5m深さ、炉心中間領域で約0.25m深さ、重量約32.7トンと推定された。
  • クラスト層: 溶融凝固層を、上下及び周辺で取り囲む、硬いクラスト層が発見された。数cm~10数cmの厚さであった。
  • 切り株燃料集合体: 炉心下部構造物から約0.2~1.5m高さで残留していた。下部クラストの下で、溶融凝固層やルースデブリベッドの重量を支持していた。
  • 炉心下部構造物: ほとんど損傷を受けずに残留していた。周辺部に溶融デブリの移行経路が存在し、炉心周辺部近くの構造物表面にデブリが付着・堆積していた。
  • 下部プレナムデブリ: 下部プレナム底部に約0.75~1m厚さで堆積していた(堆積範囲約4m径、重量約19.2トン)。堆積状態はシンメトリックでなく小山状であった。下層のハードデブリと上層のルースデブリが存在していた。
  • コアフォーマ領域: 炉心周辺を囲むバッフル板の外側の円環状領域の一部(炉心南西側)が溶融デブリで破損し、そこを通過して溶融デブリが下部プレナムに移行していた。コアフォーマ領域内に約4tのデブリが残留していた。

参考:TMI-2での内部調査、デブリ取り出しの概要

参考:Quick Look調査

参考:初期の燃料デブリ取り出し中に得られた知見

参考:コアボーリング調査と溶融凝固層の破砕

参考:下部プレナム調査

参考:切り株燃料集合体の回収、調査中

参考:炉心下部構造物(LCSA)の切断解体

参考:炉心上部構造物(UCSA)の切断解体

参考:VIP計画、調査中

デブリサンプルの採集場所

  • CRDMのリードスクリュー、リードスクリュー支持管、付着デブリ: 圧力容器ヘッド内とプレナム構造物には、自然発火の可能性があるデブリが付着していた。ヘッドとプレナム構造物撤去時に、初めて大気と接触するため、付着デブリの自然発火可能性は重要な安全評価項目とされた。Quick Look調査のために引き抜いたリードスクリューと付着デブリ、プレナムカバー上の付着デブリ、CRDM貫通部の支持管がサンプルとして採集された。
  • 上部空洞周辺の残留燃料集合体: 炉心周辺に残留した燃料集合体のうち、炉心南東側の燃料棒の破損箇所周辺からサンプルが採集された。また、上部格子からぶら下がっていた燃料集合体の上部のうち、炉心西側の2体が採集された。
  • 上部ルースデブリ: 本来H8,E9集合体があった位置(炉心中央、炉心中間領域)から深さ方向に11個のサンプルが採集された(Core Grab sample)。
  • 溶融凝固層と周辺のクラスト層: 馬蹄形リング構造の内側について、10本のコアボーリングが行われ、そのうち5本(本来D8,G8,K9,K9,N5集合体があった位置)で硬いクラスト層を貫通した。そのうち3本(G8,K9,K6)では、クラスト層が上下層に成層化し両者の間に多孔質酸化物のもろい層(溶融凝固層)が存在していた。やや周辺の2本(D8,N5)では、上下クラスト層が一体化していた。これらのボーリングサンプルから分析用のサンプルが分取された。
  • 切り株燃料集合体: コアボーリング調査により、サンプルが採集された。
  • 炉心下部構造物: 炉心部の燃料デブリ取り出し後に、アークプラズマなどで切断し、サンプル採集された。
  • 下部プレナムルースデブリ: 圧力容器上部ヘッドを撤去した際に開口した、バッフル板の外側の円環領域を通じて長尺ツールを挿入し、下部プレナム周辺部のビデオ観察とルースデブリのサンプリングが行われた。さらに、コアボーリング孔を通じて、下部プレナム中央部のビデオ観察とルースデブリのサンプリングが行われた。
  • 下部プレナムハードデブリ: 下部プレナムルースデブリを回収した後に、残った凝固層をスライドハンマーで破砕し、その一部が分析サンプルとして分取された。国際協力(VIP計画)により分析が行われた。
  • コアフォーマ領域: バッフル板を縦に8分割した後、吊り上げて約90度回転し、付着サンプルがブラシ削り出して回収された。バッフル板裏側のコアフォーマ領域の堆積デブリが回収された。
  • 下部ヘッド: 国際協力(VIP計画)により、圧力容器内面サンプルが切り出され回収された。

参考:リードスクリューサンプルの分析データ

参考:炉心周辺に残留していた燃料集合体サンプルの分析データ

参考:形状を残していた燃料集合体の分析データ

参考:上部ルースデブリの詳細分析データ

参考:コアボーリングサンプルの分析データ

参考:下部プレナムデブリサンプルの分析データ

参考:コアフォーマ領域デブリの分析データ、調査中

参考:VIP計画、調査中

上部ヘッド内、上部プレナム構造物内から採集したサンプル

 参考文献[3-6]に、上部ヘッド内、上部プレナム構造物内から採集したサンプルの分析結果が示されている。

リードスクリューサンプルの分析

 このうち、リードスクリューサンプルについては、Quick Look調査の準備段階で回収されたH8(炉心中央)とB8(炉心外周)位置のCRDMリードスクリュー(全長7.3m)と付着デブリが、INEL(Idaho National Engineering Laboratory)で分析された[3,4]。H8リードスクリューの一部が小分けされ、Pacific Northwest Laboratory(PNL)、B&W社、GPUラボに輸送、分析された。分析項目は、目視観察、硬度測定、微細組織観察、化学・放射化学分析であり、(a)リードスクリュー全長にわたっての事故時のピーク温度の推定、(b)上部プレナム構造物の付着デブリの由来推定(炉心物質、構造物、FP)と物量評価、も行われた。あわせて、初めて圧力容器内から回収されたサンプルの分析であったことから、分析技術の試行錯誤的な検討も行われた。その結果、選定された分析結果に基づく、ピーク温度や物量の推定方法は技術的にフィージブルであると判定された。

主な分析結果

  • 硬度測定と微細組織分析に基づき、プレナム内の軸方向に大きな温度勾配ありと推定された。H8位置(炉心中央上): 427~982℃)、B8(炉心外周上): 482~843℃、評価誤差:28~56℃。
  • 酸溶解処理について、H8の付着デブリは固着成分が多く強酸にも難溶であった(#このため、アルカリ溶融法が推奨された)。一方、B8の付着デブリはルース成分が多く強酸に可溶であった。
  • 化学分析により、炉心に近い側(リードスクリュー下部)の付着デブリ中に、やや多い量のUO2とZrが検出された。
  • 放射化学分析により、上部プレナム構造物の上部に相当するリードスクリュー位置で高い線量が検出された。付着デブリの組成が軸方向に変化していると示唆された。
  • 上部プレナムに付着している炉心物質とFPは、炉心に装荷された初期量に対し、最大に見積もっても<2%と評価された。

リードスクリュー案内管サンプルの分析

 リードスクリュー案内管については、Quick Look調査の準備でH8位置の案内管の一部(9cm)を切り出して、主に付着物の分析が、Battelle研究所で行われた[5]。分析方法は、γ線分光、SIMS、EPMA、ICP-AES、XRD等、酸洗浄による支持管からの除染係数も測定された。

主な分析結果

  • 金属状の付着物が同定され、γスキャンと断面観察により、Cs-134とCs-137がほぼ均質に分布、Co-60,Sb-125,Ce-144を含有、付着形態はルース(外側)とタイト(内側)、ルース層の一部に金属状粒子が存在、などが示された。この傾向は、リードスクリューサンプルの分析結果と整合していた。
  • 化学分析により、外側ルース層でFe,Ag,In,Cd,Bが、内側タイト層でFe,Cr,Ni,Oが主に検出された。金属状粒子の主成分は、Ag-In-Cdであった。Iは検出されなかった。
  • XRDにより、Fe-Ni系合金が検出された。微量のAg単体が検出された。
  • SIMSにより、微量のCs,I,U,Zrが検出された。特に分布上の特徴は見られなかった。
  • 微細組織観察では、結晶粒界に炭化物相の析出が検出され、510~732℃を経験したと推定された。

デブリの自然発火性確認試験

 付着デブリサンプルを用いて、自然発火性確認試験が行われた[6]。元素分析で自然発火性物質の候補(Zr等)の濃度の調査、および、XRDで自然発火性のある化学形を持っているかどうかの調査が行われたが、自然発火性の候補物質は発見できなかった。さらに、DSC熱分析では、空中で500℃まで加熱しても発熱反応は見られなかった。金相観察と遮光粒度分析により、付着物の粒子サイズが調査された。付着デブリ重量の大半は10μm以上の粒子がしめていたが、10μm以下の微粒子が多く混入していた。γ分光では、線源の主成分はCs-137とCs-134であった。さらに、テスラコイルやプロパンガスを用いた着火試験、カナトコとハンマーによる打撃試験が行われたが、自然発火性は見られなかった。これらの結果から、付着デブリが自然発火する可能性は極めて低いと判断された

参考:リードスクリューサンプルの分析データ

参考:デブリの自然発火性確認試験

上部空洞周辺に残留していた燃料集合体

 上部空洞周辺に残留していた燃料集合体については、プレナム構造物撤去後に、ビデオカメラでの観察が行われた[7]。周辺燃料集合体サンプルからは、事故進展途中の情報(燃料破損過程、水素発生量、FP放出量など)が得られると期待された。炉心南東部の3個の燃料集合体(L1,N2,M2)から、6個のサンプルが切り出されて回収された。これらのサンプルについて、中性子ラジオグラフィー、ガンマ線分光、外観観察により、追加で微細組織観察や化学分析などの詳細分析を実施するかどうか判断するための簡易分析が行われた[8]。しかし、簡易分析の結果は、事故進展解析からの予想に合致したものであり、追加で詳細な破壊分析する必要性は低いと判断された[8]。

参考:初期の燃料デブリ取り出し中に得られた知見

参考:炉心周辺に残留していた燃料集合体サンプルの分析データ

一部形状を維持した燃料デブリ(上部格子からのぶら下がりデブリ)

図2 上部格子から取り外した残留燃料集合体の部位 [9]

 上部空洞周辺に残留していた燃料集合体(本来形状を一部維持)の分析については、参考文献[1,2]に分析結果の概略が、参考文献[9]に詳細が報告されている。分析結果から、事故進展中に炉心の径方向/軸方向の双方に大きな温度勾配があったと推定された。また、燃料集合体の上部にあるスペーサーグリッドの事故時ピーク温度は、1500~1700Kと推定された。事故進展中に溶融した制御材(Ag-In-Cd)は、その一部が、上部プレナムのスプリング部分にまで押し上げられていた。これは、制御材が溶融した時点では、圧力容器内が高圧に維持されていたため、制御棒が押しつぶされたためと推定された。一方で、上部格子からぶら下がっていた燃料集合体では、燃料棒が途中から、溶融ではなく機械的な破断により崩落した痕跡が観測された。破断面から上の燃料/被覆管ギャップ中には、溶融燃料や溶融制御材が数cm侵入していた。このことから、上部空洞の上の方では、事故進展中に破断面あたりが溶融物に浸されていた可能性が示唆された。なお、Quick Look調査の概要については参考文献[10]にまとめられている。

参考:Quick Look調査

参考:形状を残していた燃料集合体の分析データ

一部形状を維持した燃料デブリサンプル(上部格子からのぶらさがりサンプル)回収と分析までの経緯

  • 1982年6月:APSR挿入試験。Quick Look調査前に8本のAPSRを挿入し、一部はほぼ全挿入、一部はほとんど移動せず。炉心上部に損傷ありと判断。
  • 1982年7-8月:Quick Look調査実施。その準備作業としてリードスクリュー取り外し(前述)。H8,E9,B8集合体位置からCCTVを吊り下げて、上部ヘッドの内側から炉心上部にかけてビデオ観察。上部空洞、ルースデブリベッド、炉心周辺の燃料集合体残留、などを確認。
  • 1983年8月:上部空洞内の超音波Topography調査。上部空洞の3Dマップ作成。上部空洞の容積(本来炉心の約26%)と深さ(最深で約1.5m)、上部空洞底部や炉心周辺部のデブリや燃料の残留・堆積状態を確認。
  • 1984年7月:圧力容器上部ヘッドの取り外し
  • 1984年12月:プレナム構造物の初期リフト。上部格子からぶらさがりデブリ、端栓などを除去。
  • 1985年5月:プレナム構造物の最終リフト
  • 1985年11月~1986年1月:初期の燃料デブリ取り出し。18個の燃料集合体サンプル。110個の上部端栓と制御棒or可燃性毒物棒のスパイダー、5個の炉心周辺に残留していた燃料集合体の上部、ルースデブリの一部、を回収。
  • 1986年8月:INELで収納缶2個を開封、ぶら下がりデブリサンプルの分析開始。

#初期のデブリ回収作業では、炉心周辺部に残留していた燃料集合体どうしの固着箇所を切り離し、いったん上部空洞の底部に倒壊させてから、シャーリングで切断して収納缶内に回収した(49体の収納缶が使用され、第一回の構外輸送で21体がINELに移送された)。

図3 INELホットセルで分析された2体の集合体上部サンプル [9]

#収納缶番号D-141とD-153に回収したデブリサンプル(形状を一部維持した燃料集合体)について、INELのホットラボで詳細分析された。

サンプルの概要

 図2に、燃料集合体の上部が上部格子にぶらさがって残留しており、それを機械的に取り外した部位、および、INELでサンプル分析に供した燃料集合体サンプルを回収した部位(C7,B8)を示す。図3(a),(b)に、詳細分析された集合体サンプル(D-141-3D-153-9)の外観写真をそれぞれ示す。D-141-3では、インコネル製の上部スペーサーグリッドから制御棒スパイダーの上部までが、ほぼ無傷で残留していた。さらに、燃料棒と制御棒は、スペーサーグリッドの下まで残留していた。これらの燃料棒や制御棒は、分析のために引き抜きあるいは切断して回収された。ステンレス製の制御棒被覆管は途中で溶融し、それより下の部分が失われていた。一方で、ジルカロイ製の燃料棒被覆管は、溶融でなく脆性破壊で切断された痕跡が観察された。これらの脱落は、事故進展時あるいは、ルースデブリ上にいったん落として収納缶に回収した作業の途中で発生したと推定された。D-153-9では、上部スペーサーグリッドとタイプレートが一部で溶融破損し、一部では残留していた。図中の北西側領域では、エプロンの一部も溶融していた。一方で、南東側領域では、燃料棒や制御棒が、上部スペーサーグリッドの20-25cm下まで残留していた。

分析結果の概要

温度分布について

  • サンプル中の各種構造材、制御棒、燃料棒等の溶融状態や界面状態の違いから、事故時に、軸方向/径方向に大きな温度勾配が発生していたと推定された。このような温度勾配と局所的な水蒸気流量の変化により、Zryの酸化、水素化、相転移の局所的な違いが引き起こされていたと推定された。
  • 制御棒内でいったん溶融したAg-In-Cdは、外圧で制御棒が若干押しつぶされることにより、一部は制御棒内の上部プレナムのスプリングにまで押し上げられたと推定された。一部は押し下げられ、制御棒被覆管が破損した段階でデブリ中に放出されたと推定された。また、上部と下部でAg-In-Cdの冷却過程が異なっていたと推定された(#上部は急冷)。

Zryの酸化、水素化について

  • Zryの水素化の痕跡は、制御棒/案内管サンプル1個だけから検出された。燃料被覆管サンプルには水素化の痕跡が見られなかった。このことは、制御棒の事故時ピーク温度が相対的に低かったという推定と整合していた。
  • Zryの表面酸化はすべての燃料棒と案内管で検出された。酸化の程度は、軸方向、径方向、また燃料棒の内と外で、場所によって大きく異なっていた。

燃料集合体表面へのデブリ付着について

  • 上部炉心物質(燃料集合体など)の表面に付着した燃料棒、制御棒、構造材由来の成分の物量は<2.0kgと推定された(Zr,Sn,Fe,Ni,Cr以外)。この評価は不確かさが大きいが、分析値を、本来炉心の上部1/3の燃料集合体の表面積に外挿して評価したため、おそらく過大評価されており、実際には<0.4kgと推定された。
  • 付着物中に、多くのSnが検出された(Zry中の副成分由来)が、その付着メカニズムは同定できなかった。
  • Ag-In-Cdは、被覆管/案内管サンプルの表面にほぼ均質に付着していた。しかし、付着総量は高々1kgと評価された。Ag-In-Cdによるエアロゾル付着に関する知見は得られなかった。CdはAg-Inに比べて検出量が小さく、蒸発して炉心外に移行した可能性が示唆された。
  • 構造材由来物質の付着量は<2.0kgと推定された(Fe,Ni,Cr以外)。副成分に関する付着物の組成はSS中の組成と類似しており、何らかの副成分の濃化などは見られなかった。

FP残留について

  • ペレット中のFP残留の分析値は、ORIGEN-II計算からの推定値より低い値となった(40-70%)。今回の分析した燃料ペレットサンプルは、すべて燃料棒の最上部から回収されており、中性子束が小さいため、ORIGEN-IIの計算結果と一致していないと推定された。
  • ペレット中のFP残留の分析値を、Ce-144で規格化して評価したところ、Sb-125,Cs-134,Eu-154,Eu-155はいずれも予想より低い値であった。ORIGEN-IIの再評価と照らし合わせて今後検討が必要とされた。特に核分裂で直接形成されず、二次的な放射性壊変で形成されるFPについて解析誤差が大きい可能性が指摘された。
  • FP由来の成分の構造材表面の付着は、生成量の<0.1%と推定された。
  • 燃料棒/制御棒サンプルの内側と外側でFP分析値を比較したところ、一般的に外側での分析値が大きい傾向が見られた。これは、揮発性FPで顕著であった。
  • Ce-144,Ru-106,Eu-154,Eu-155の分析データからは、これらの付着傾向に差は見られず、Uとの同伴性が見られた。燃料ペレット由来の粉末が付着していたと推定された。
  • Sr-90の分析データからは、燃料棒/制御棒サンプルの表面にSr-90が広く均質に付着していた。このことから、Sr-90は冷却水中のなんらかのメカニズムにより、表面付着したと推定された。
  • Cs-137の分析データからは、Sr-90と異なるメカニズムで構造物表面に付着していたことが推定された。また、測定値の幅が大きく、吸着メカニズムが複数あることが推定された。
  • I-129の分析データからは、複数の吸着メカニズムがあることが推定された。

上部ルースデブリ

 上部ルースデブリサンプルの分析については、参考文献[1]に分析結果の概略が、参考文献[11]に詳細が報告されている。

参考:TMI-2での上部ルースデブリの詳細分析データ

図4 上部ルースデブリベッドのサンプリング位置[11]

サンプル採集の概要

 上部ルースデブリは2回に分けて、炉心中央(H8集合体のあった部分)と中間領域(E9集合体のあった部分)からサンプリングされた。ドリル型とグリップ型のサンプリングツールで、デブリベッド2か所に穴を開け、深さ方向に異なる位置から11個のサンプルが採集された。図4に、採集部位の詳細を示す[11]。サンプルごとに約17gから170gの重量であった。それぞれのサンプルは、まず、ふるいにかけられ、粒子のサイズにより分類された。形状分布はほぼ一様で、>90%の粒子は1~5mmのサイズであった。特徴的な粒子29個が分取され、微細組織分析が行われた。また、サンプル位置ごとに1mm以上の粒子、1mm以下の粒子群(Aliquot)が分取され、化学・放射化学分析が行われた。サンプル重量の約1/3ずつが再混合され、化学・放射化学分析に供された。サンプルの一部は、自然発火性確認試験に用いられた。

分析方法: 物理分析(外観写真、ガンマ線、中性子計測、かさ密度、粒度分布)、採集したサンプル全量

      微細組織分析(金相観察、SEM/EDX分析、オージェ分光分析)、29個の粒子を選定

      破壊分析(化学分析(ICP)、放射化学分析)、採集領域ごとにサンプルの一部を酸溶融

      磁性測定、自然発火性確認試験

分析結果の概要

外観、形状、粒子の分布について

  • ほとんどは1~5mmサイズの粒子(約80~90%)、最大で20mmサイズ
  • ルースデブリ表層近くでは、比較的大きな粒子のみ存在し、かさ密度が小さい
  • ルースデブリ下部では、大きな粒子と小さな粒子が混在し、かさ密度が大きい
  • 様々なタイプの粒子状デブリがよく混合(#デブリ粒子が振動で混合する事故過程があったと推定)

主要な炉心物質の特性について

  • デブリ粒子の構成成分を5グループに類型化(#詳細分析データの項目参照)
  • デブリ粒子の多くで、一部に(U,Zr)O2やUO2溶融の痕跡(#事故時のピーク温度>2810K、>3120Kと推定)
  • 一方で、デブリ粒子の多くで、粒子の大部分は高温に曝された形跡なし(#粒子の大部分は、ピーク温度<2000K、あるいは長時間>2000Kを超えていないと推定)
  • デブリ粒子中のU,Zr酸化物相の一部では、70%以上の酸化度を観測(#デブリ冷却時に、高圧水蒸気中(水素濃度低い)で酸化度が上昇した可能性について検証が必要)
  • 他方、(U,Zr)O2-x(hypostoichometry)を維持した領域も存在(#高温で形成されていたU-Zr-Oメルトが急冷凝固し、亜酸化状態が維持された可能性)
  • 多くのU-Zr-O溶融凝固相中で、Al,Cr,Fe,Niを検出。これらは粒界に濃化、あるいは空孔周辺に析出する傾向(#構造材酸化物(グリッド、スペーサー、その他のSS成分由来)や可燃性毒物棒(Al2O3含有)が溶融デブリと相互作用した可能性)
  • Ag-In-Cdは、SS系成分のように酸化して燃料デブリに混入せず、わずかにAgを主成分とする金属粒子を検出。また、ルースデブリベッド中の存在自体が少ない。(#In-Cdの大半とAgの一部は蒸発し、デブリベッド中にほとんど残留していない。残留したAgはNi-Sn金属と合金化)
  • バルーニングした燃料棒内のギャップ中で、U-Zr-Oメルトが流れ落ちて堆積した痕跡。被覆管外部でZrリッチメルトがキャンドリングした痕跡
  • デブリ粒子内で、複数の(U,Zr)O2メルト相あるいは固相が接触し、相互作用した痕跡(#昇温中に燃料棒軸方向に大きな温度勾配が形成されたと推定、また、U-Zr-Oメルトや(U,Zr)O2メルトの溶融凝固が複数回発生した可能性)
  • Zrが、本来炉心でのU:Zr比に比べ50%以上減少(#Zrは、デブリベッドより下方に、Uに比べて選択的に移行と推定)
  • Agは、本来炉心でのU:Ag比に比べて約90%減少(#Agは、蒸発だけでなく、溶融によってデブリベッドより下方に移行した可能性)
  • GdとAlについても、本来炉心でのUに対する比より減少(#Al,Gdも炉心下部に選択的に移行している可能性)
  • 主要な炉心物質は、粒子によって濃度の違いがあるが、よく混合して分布。特に、本来の装荷量が少ない可燃性毒物のGdが、どの粒子にも広く分布して存在(#炉心物質の混合が急速に進んだ過程として、燃料崩落途中、あるいは、堆積後の冷却水中での移行、が考えられる)
  • 揮発性のAg-In-Cdは、デブリ堆積物表層付近で検出量が大きく、また、小さなデブリ粒子への吸着量が多い。可燃性毒物棒成分のAlと、揮発性FPのTeについても、デブリ堆積物の表層付近で検出量が大きい(#デブリベッド上部がトラップとして機能していた可能性)
  • 構造材由来の成分(Fe,Ni,Crなど)は、本来炉心でのU:Zrに比べ、約30~50%がデブリベッド中に存在(#炉心内に装荷されていた構造材(グリッド、スペーサー、制御棒など)は、酸化され、燃料デブリとよく混合。一方で、端栓など炉心外の構造物は、燃料デブリとほとんど混合していない)
  • Uの同位体比は、H8,E9サンプルで有意な差がない(#崩落時に炉心物質がよく混合)

FPの分布について

  • Te(および可燃性毒物棒由来のAl)、I-129は、デブリベッド表面近くで多く検出(#デブリベッド上部の微小デブリ粒子が、揮発性物質をトラップするメカニズムが存在する可能性)
  • Cs-137とI-129の70-80%はデブリベッドから除去
  • Ru-106,Sb-125,Cs-137,Ce-144は、E9サンプル(炉心中間)中では、H8(炉心中央)サンプルに比べて高濃度で検出された。特に、Cs-137は18-85%高かった(#炉心中央はより高温に到達していた可能性)
  • Ru-106は、一部が燃料中に残留し、一部が構造材(特にNi系材料)に同伴
  • Sb-125はほぼ燃料から放出され、構造材(特にNi系材料)に同伴(#Ni系材料が、これらを吸着するメカニズムがあると推定)
  • Sr-90はほぼ全量燃料中に残留、微量が冷却水中に移行
  • 揮発性物質の燃料からの放出の大きさは、およそ蒸気圧の順番に従っていた。しかし、Ru-106は予想より高く、Sr-90は低かった(#Ru,Srの高次酸化物形成によると推定)
  • Ce酸化物が濃化している粒子を検出、一部ではUがほとんど共存していなかった(#Ce酸化物の蒸発移行のメカニズムが存在する可能性)
  • Ru-106とSb-125は、溶融Zrや溶融SSに同伴し、選択的に炉心下方に移行した可能性

1Fデブリ分析の着眼点

  • 1Fでは、TMI-2に比べて、初期炉心インベントリでの構造材(SS)やZrの物量が多い(#Uに対する相対値として)。
  • 1Fでは、事故が下部プレナムでのデブリ再溶融移行まで進んだと考えられており、下部プレナムのSS構造物が溶融しデブリに混合している可能性がある。
  • 圧力容器内での事故進展過程において、構造材がどの程度酸化し、どの程度デブリに溶融混合したのかにより、デブリの特性が大きく変化する可能性がある。
  • TMI-2では、燃料デブリは高圧水蒸気/水素にさらされており、崩落過程でのデブリ酸化度は、局所的にはUO2.25(UのV価形成)まで上昇していた。一方で、燃料昇温過程では、大量の水素が共存するため、UO2を大きく超える酸化度に到達することはないと推定されており、崩落過程でのデブリ酸化度上昇は未解明で残された。
  • さらにTMI-2では、炉心中央で溶融デブリプールを形成し、その一部が下部プレナムに移行しているが、これらのデブリ中でのU酸化度は、高々(U,Zr)O2+xであった。崩落途中のルースデブリ中で検出されたようなU4O9は同定されていない。
  • これに対し1Fでは、2,3号機でのデブリ溶融崩落過程は、低圧の水蒸気雰囲気で発生したと推定されている(1号機は高圧水蒸気)。このことから、水蒸気枯渇条件が発生していた可能性がある。1Fデブリの特性評価において、酸化度の分析は非常に重要な項目と考えられる。
  • 下部プレナムに堆積したデブリ中に、金属Zrがかなり残留し、さらに構造材が溶融した条件でのデブリふるまい模擬試験(MASCA試験)が行われている。
  • 一方で、試験的デブリ取り出しで回収されたデブリサンプル中では、Zr金属はほとんど観測されず、構造材の一部が酸化している様子が見られた。
  • 1F事故過程において、事故進展中に軸方向にマクロな炉心物質やFPの濃度変化が起きていた可能性がある。
  • 1Fの圧力容器内に、粒子状のデブリや、構造材が残留している場合、これらにTMI-2と同様のメカニズムで、揮発性物質がトラップされている可能性がある。

参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇

参考9:BWRドレナージ型シナリオ

参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇

参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融

参考15:MASCA模擬試験

炉心中央領域、溶融・凝固層、クラスト層

 炉心中央領域のデブリ分析については、参考文献[1,2]に分析結果の概略が、参考文献[12,13]に詳細が報告されている。上部ルースデブリの探針調査により、ルースデブリの下に硬い層が存在することが明らかになった。さらに、ボーリング調査により、硬い層は、クラスト層で囲まれた溶融・凝固層であることが確認された。

参考:コアボーリング調査

参考:コアボーリングサンプルの分析データ

溶融・凝固層(溶融プール)

 溶融・凝固層は、本来炉心の中央部あたりにおよそ3m径、炉心中央で約1.5m厚、炉心中間から周辺で約0.25m厚の範囲に広がっていた。重量は約32.7tと推定された。構造材、制御棒材、燃料棒に由来する炉心物質の混合物からなり、その溶融状態から、事故進展中のピーク温度は>2810K((U,Zr)O2融点)、局所的には>3120K(UO2融点)と推定された。主成分は、セラミック相と金属相の混合物で、ほぼ酸化物のみ、ほぼ金属のみの領域も存在していた。セラミック相領域は、主成分は(U,Zr)O2であり、副成分としてFe-Cr-Al系の酸化物が存在していた。金属相領域は、Fe-Ni系の合金相とAg-In-Sn系の析出相が観測された。また、Cr2O3の析出物も見られた。セラミック相と金属相の混合領域では、酸化物相は(U,Zr)O2とFe-Cr-Al系の酸化物であり、金属相はFe-Ni系とAg-In系の合金であった。溶融・凝固層中の金属相の体積割合は約15%であった。後述するクラスト層に近づくほど、金属相の割合が増える傾向が見られた。

 溶融・凝固層全体の傾向として、上部ルースデブリに比べて、金属成分リッチであったことから、事故進展過程で、炉心上部で燃料成分より先に溶融した制御棒や燃料集合体部材が、燃料被覆管と共に先に崩落し、いったん堆積したと推定された。図5に、溶融・凝固層中のデブリ粒子サンプルの断面金相写真(セラミック相、金属/セラミック混合相、金属相)を示す[12]。

図6 上部クラスト層中のデブリ粒子の断面金相写真 [12]
図7 下部クラスト層の断面金相写真 [12]

上部クラスト層

 上部クラスト層は、溶融・凝固層の上部で、上部ルースデブリとの界面付近に存在していた。セラミック相と金属相で構成され、溶融・凝固層に比べて金属相の体積割合が約25%と大きかった。セラミック相については、主要な構成成分は(U,Zr)O2とFe-Cr-Al系の酸化物であり、溶融・凝固層と類似していた。一方、金属相は、Fe-Ni系、Ag-In-U系、Ni-Sn系などの合金相からなっており、溶融・凝固層中の金属相とやや組成が異なっていた。金属ウランをある程度含有していることが特徴となっている。一方で、Cdはほとんど存在していない。これらの特徴から、事故時のピーク温度は>2810Kと推定された。図6に上部クラストから回収されたデブリ粒子の断面金相写真を示す[12]。

周辺クラスト層

 周辺クラスト層は、セラミック相の平均組成や相状態、金属相の体積割合などについて、上部クラスト層に類似していた。一方で、一部に未溶融の燃料ペレットが残留し、金属相の組成はZrリッチで、むしろ下部クラストに類似しており、Fe-Zr-Ni-Cr系、Ag-In系、Zr-Ni-In系などの合金相からなっていた。これらの金属成分の存在比は、U,Zr,Cdを除くと事故前の炉心平均に近かった。これらのことから、周辺クラストでは、事故進展初期に、炉心の中間部でZryや構造材、制御棒などが相互に共晶溶融しつつ、一部で燃料ペレットを巻き込みながら崩落したと推定された。移行過程でCdは蒸発したと推定された。事故時のピーク温度は、>2810Kと推定された。

下部クラスト

 下部クラスト層中では、燃料ペレットのスタック構造が残留し、その隙間に金属メルトの凝固物が堆積している様子が見られた。金属メルトの溶融・凝固物中では、周辺クラスト中の金属相に比べてZr濃度が高いことが特徴であり、Zr-Fe-Ni-Cr系、Ag-In系、Zr-Ni-In系などの合金相が検出された。さらに、金属メルトの溶融・凝固物中に、100~200ミクロンサイズの微小なUO2析出物が観測された。金属メルトを構成していた主成分の融点(Zr-Fe,Zr-Ni共晶温度)からは、事故時のピーク温度は>1300Kと推定された。一方で、微小UO2析出物の形状から、炉心上部で金属メルトがUO2を一部溶融して崩落し、崩落過程での温度低下により、UO2が析出したと推定された。このことから、金属メルトの凝固物のピーク温度は約2200K以下と推定された。図7に、典型的な下部クラスト層の断面金相写真を示す。

切り株燃料集合体

 切り株燃料集合体サンプルの分析については、参考文献[1,2]に分析結果の概略が、参考文献[12]に詳細が報告されている。ボーリング調査で、下部クラスト層の下に、ほとんど無傷の燃料集合体が存在していることが確認された。残留長は、炉心中央で約0.2~0.3m、炉心周辺で約1.5mであり、重量は約44.5トンと推定された。切り株燃料集合体と周辺に残留した燃料集合体、さらに下部クラスト層で、炉心中央に崩落(一部溶融)した燃料デブリを保持する構造となっていた。事故時のピーク温度は<1100Kと推定され、燃料棒には溶融の痕跡はほとんど見られなかった。一方で、下部クラスト層に近い領域では、制御棒中のAg-In-Cdに溶融・凝固の痕跡が見られた。また、計装案内管の一部に、Zrリッチ金属のメルトが侵入していた。メルトの一部は、下部格子まで到達していた。

参考:コアボーリング調査

参考:コアボーリングサンプルの分析データ

参考:炉心周辺に残留していた燃料集合体サンプルの分析データ

図8 下部プレナムルースデブリの断面金相写真 [14]

下部プレナムデブリ

 下部プレナムデブリサンプルの分析については、参考文献[1,2]に分析結果の概略が、参考文献[14]に詳細が報告されている。デブリは下部プレナムに約4m径で非対称・非均質に広がって堆積しており、堆積厚さは約0.75~1mであった。重量は約19.2トンと推定された。デブリ粒子のサイズは、最大で0.2m(岩石状)、小さいものでは0.1mm以下(粒子・粉末状)まで、広く分布していた。また、表層の下部プレナムルースデブリと下層の下部プレナムハードデブリに、およそ分類された。多孔質層からなっており、主成分として、溶融・凝固した(U,Zr)O2がほぼ均質に分布していた。一部に副成分としてFe-Al系の酸化物相が観測された。酸化物相の組成は、上部ルースデブリ、溶融・凝固物、クラスト中の酸化物相、下部プレナムデブリでほとんど一定で、事故前の炉心平均より若干ウランリッチであった。事故時のピーク温度は>2810K(一部では>3120K)と推定された。上部ルースデブリや炉心中央の溶融・凝固層に比べ、I,Sb,Ruの含有が少ないことが観測された。図8に、下部プレナムルースデブリの断面金相写真の例を示す[14]。

参考:下部プレナムデブリサンプルの分析データ

その他のデブリ

ここから、、、

下部プレナムハードデブリ

VIPサンプル

ex-vessel debris

デブリふるまいメカニズムの推定

 デブリサンプル分析結果、および炉心構成物質の化学反応の特徴から、以下のような事故進展メカニズムが推定されている[1,2]。

  • 炉心温度1100K:制御棒内でAg-In-Cdの溶融開始(しかしメルトは、制御棒内に保持される)。
  • 同1200K:インコネルやSSとZryの共晶開始(しかし、まだ反応速度が小さい)。
  • 同1500K:温度上昇に伴い、液相が拡大し、ZryとインコネルやSS材料の界面で共晶溶融反応が促進。金属メルト相が形成され、溶落開始。
  • 同1700K:Zrの水蒸気による酸化が急速に進展。温度急上昇。未酸化のSSやインコネルが溶融。制御棒が溶落し、Ag-In-Cdメルト放出。
  • 同2200K:金属メルトへのUO2溶融開始。
  • 炉心上部:金属メルトに溶融あるいは破砕されたUO2が含まれ、溶落開始(キャンドリング)。
  • 炉心中央~下部:移行してきた金属メルトが、冷却水水位の直上で凝固。凝固層は次第に径方向に拡大。(#TMI-2では、この際に冷却水水位が上昇)
  • 下部クラスト形成:径方向に拡大した金属メルトの凝固層はすり鉢状の下部クラスト層を形成。
  • デブリベッドの堆積:下部クラスト層の上に、崩落してきた炉心物質が堆積、デブリベッドを形成。
  • 溶融プールの形成:崩壊熱により、デブリベッドの中央で再溶融開始。溶融プールの拡大、上部クラスト層と周辺クラスト層の形成。
  • 溶融デブリの下部プレナム移行:溶融デブリの一部が短時間で下部プレナムに移行・凝固。

#これらのデブリふるまいメカニズムにより、上部ルースデブリ中や下部プレナムデブリ中では、炉心平均に比べてZrやSS成分の割合が小さい。一方で、上下クラスト層、周辺クラスト層、溶融・凝固層中の金属相では、ZrやSS成分の割合が大きいと推定されている。

観測結果のまとめ

 表1に、検出した相状態・組成、ピーク温度の推定結果、等をまとめて示す[1,2]。

  • 上部ルースデブリ、上部クラスト、周辺クラスト、溶融・凝固物、下部プレナムデブリの事故時ピーク温度は、2800-3100Kと推定
  • 下部クラストの温度は、>1300K、最高2200Kと推定
  • 金属相の組成は、場所によって異なっていた。下部クラスト、周辺クラストでは、Zrリッチの合金を多く検出(Zr-Fe-Ni, U-Ag-Cr-Sn-In-Mo-Cd等)。溶融・凝固物層中では、ZrとUの混入が少ない(Fe-Ni, Ag-Sn-Cr-Mo-In-Cd等)、また、存在割合自体が少ない(クラスト中の金属相体積:約25%、溶融・凝固物層中の金属相体積:約15%)。上部ルースデブリでは、Fe-U-Ni-Zrにマイナー成分としてAg-Cr-Sn-In-Mo-Cd。上部ルースデブリと下部プレナムデブリには、SSや制御棒材はほとんど混入されていなかった。
  • これらの観測結果から、炉心空焚き・燃料温度上昇により、最初に溶落するのは、インコネル製スペーサーグリッドとZry被覆管の共晶溶融物、次に、Zry制御棒案内管とSS制御棒被覆管の共晶溶融物であり、そこにAg-In-Cdが溶融することで流動性が高まったと推定された。燃料温度が1700K以上に上昇すると未酸化のZryの溶融が進み、2200Kを超えるとで、U-Zr-Oメルト中へのUO2溶融が進むと推定された。これらの燃料デブリ成分に対し、SS被覆管が溶けて、Ag-In-Cdが放出されると、さらに様々な金属相が形成されると推定された。

下の表、作成中

表1 TMI-2デブリサンプルの分析結果のまとめ [1,2]
デブリの分類 主な分析結果 事故時ピーク温度(K) 事故時の状態推定
上部プレナム付着デブリ
  • 構造材成分、揮発性FP成分などを検出
  • 燃料棒成分の付着は、上部プレナム下部を除いてほとんど見られず
  • 付着デブリの自然発火性は観測されず
  • 付着物は、炉心インベントリの高々1%以下
炉心中央上部: 700~1255K

炉心外周上部: 755~1116K

  • 事故進展中に揮発性FP、構造材、中性子吸収材などが付着
  • 付着層は、主に構造材成分からなるハード付着層と揮発性FPや中性子吸収材からなるルース付着層に分離
  • 上部プレナム内の温度勾配により、付着物の分布状態が変化
  • 付着デブリは機械的にはぎ取れるが、酸溶解では十分に除染できない
一部形状を維持した燃料集合体(ぶら下がりデブリ)
  • 破損した燃料集合体が上部格子からぶらさがり
  • 径方向部位によって、残留状態が変化
  • 燃料棒や制御棒の軸方向の途中で、機械的あるいは溶融により、燃料棒や制御棒が切断
  • 残留物中では、主に金属系の構造物で溶融進展の痕跡、一方、燃料ペレットは本来形状をほぼ保持
1500~1700K
  • スクラム後、約174分で発生した炉心上部での燃料崩落イベントにより、燃料集合体の上部が破損・溶融して崩落
  • 燃料集合体の一部は、最大数10cm長で、上部格子に固着して残留
  • 残留している燃料集合体内で、大きな径方向/軸方向の温度勾配(おそらく蒸気流量の差も)が発生
  • スクラム後、約174~224分での冷却水水位上昇イベントにより、デブリベッドに冷却水が侵入し、高温高圧の水蒸気が大量に発生、これにより、上部格子に固着して残留していた燃料集合体や上部格子の底部が一部溶融
炉心周辺に残留していた燃料集合体
  • 本来形状を維持していた部分については、燃料ペレット、燃料被覆管、制御棒等に大きな変化は見られない
  • 破損部位については、ぶら下がりデブリの破断面や上部ルースデブリ中の破砕燃料ペレットに類似
1500~1700K
  • スクラム後、約174分で発生した炉心上部での燃料崩落イベントにより、炉心上部に空洞形成、その下にデブリベッド形成
  • 炉心外周部で、42体の燃料集合体が燃料棒の一部が本来の全長を維持を維持、うち2体では燃料棒の90%以上が本来形状を維持(これらの残留燃料集合体では、ルースデブリベッドに近い下部での損傷が比較的大きい)
  • 一部で相互に固着・融着していた
上部ルースデブリ
  • デブリ粒子の外観形状の特徴から、ルースデブリを5群に類型化
  • 堆積深さ方向に、かさ密度と粒度分布の相違(堆積物下層では、小サイズ粒子が隙間を充填することで、かさ密度増加)
  • U,Zrはサンプル中に広く分布、しかしU:Zr組成は、本来の炉心組成に比べ、50%以上Zrが少ない
  • Agは、90%以上消失
  • Gdは、サンプル中に広く分布
  • Alは、堆積物上層に多く存在
  • 構造材成分(SS、インコネル)は、堆積物中に比較的均質に存在、その組成は、本来組成に近い
局所的に、>2810K、あるいは>3120K(溶融・崩落中のピーク温度)

デブリ全体としては、<2000K(崩落途中、堆積後)

  • スクラム後、約174分で発生した炉心上部での燃料崩落イベントにより、炉心上部に空洞形成、その下にデブリベッド形成
  • 崩落途中では、燃料棒は、一部で局所的に溶融し、U-Zr-Oメルトを形成して下方向に溶落(平均温度<2200K)
  • 一部では、溶融(U,Zr)O2形成(>2810K)、さらに、UO2にも溶融の痕跡(>3120K)
  • Zrを多く含むU-Zr-Oメルトは、さらに下方に移行し、U:Zr比に、軸方向の濃度分布ができた可能性
  • 燃料棒の大部分は、機械的に破損し、崩落(<2000K)、粒子状で堆積
  • 制御棒や燃料集合体部材は、Zr-Fe、Zr-Niなどの共晶反応で溶融し、下方に先行溶落。
  • ルースデブリ堆積時に、比較的下層では、かさ密度が相対的に増加(サイズの違うデブリ粒子により、充填率が上がった)
  • 揮発性FP(Te,Iなど)やAlが再分布(デブリベッド表面近くに多く残留、# ルースデブリが揮発性物質のトラップになっていた可能性
  • Gdは比較的均質に存在し、燃料崩落時に溶融・均質化が進んでいた可能性
溶融・凝固層
  • セラミック相領域、金属相領域、両者の混合領域におよそ分類
  • セラミック相の主成分は(U,Zr)O2で、U:Zr比ほぼ一定。第2相としてFe-Cr-Al系の酸化物相が空孔周辺や結晶粒界に析出
  • 金属相の主成分は、Fe-Ni、Ag-In由来の合金(U,Zr,Cd金属はあまり含まれない)
  • 金属相の体積割合は約15%
>2810K(U,Zr)O2相の溶融凝固の痕跡)

>3120K(局所的に、UO2粒子の溶融の痕跡)

  • 初期の崩落物が、冷却水水位の上にいったん堆積し、炉心下部閉塞により、崩壊熱で再昇温・再溶融
  • 冷却水の水位上昇に伴い、周囲をクラスト層で断熱されつつ、溶融デブリプールが拡大
  • スクラム後、約224分までには、周囲が完全に水没されたが、クラスト層により断熱継続
  • スクラム後、約224分で、上部/周辺クラストの一部が破損し、溶融デブリが短時間で噴出、バッフル板を破って下部プレナムに移行
  • デブリ物量の減少と堆積状態の変化により、デブリ冷却能が向上し、デブリ固化(漏斗状に堆積)
上部クラスト層
  • 構成成分は、溶融・凝固層に類似
  • 金属相の体積割合は約25%
同上
  • 溶融デブリプールの形成、冷却水水位の上昇、上部ルースデブリからの放熱、などにより、溶融デブリプールと上部ルースデブリの間に数cm~10数cm厚の硬いクラスト層形成
  • スクラム後、約224分に、一部が破損し、溶融デブリが噴出、下部プレナムに移行
周辺クラスト層 同上 同上
  • 冷却水水位の上昇に伴って、溶融デブリプールの側面に形成
  • 上部クラスト層や下部クラスト層との明確な境界は存在しない
  • 周辺クラスト層の上に馬蹄形リング構造が形成されていた
下部クラスト層
  • 残留した未溶融のペレットスタックの周囲に金属の溶融・凝固物が侵入
  • 溶融・凝固物中にUO2粒子析出
1300~1500K (金属メルト形成)

ベストエスティメートとして>1400K ~2200K (U-Zr-OメルトへのUO2溶融)

  • スクラム後、約174分までに発生していた制御棒や燃料集合体部材の共晶溶融により、主に金属系の物質が冷却水水位付近まで溶け落ち閉塞を形成
  • スクラム後、約174分以降の燃料崩落イベントにより、閉塞の上に燃料デブリがいったん堆積
  • 崩落物のうち、金属リッチな成分が下部クラスト層付近で堆積し、燃料被覆管や集合体部材を溶融して凝固
切り株燃料集合体
  • 上部で下部クラストと連結
  • ほとんど、本来形状を維持
  • 制御棒の上部で、Ag-In-Cdの溶融凝固の痕跡
  • 燃料棒の外周部をつたって、金属メルトが一部、下部格子まで溶落した痕跡あり
<1100K
  • 燃料崩落時に冷却水に覆われており、燃料棒形状を維持、溶融や酸化もほとんど発生せず
  • 下部クラスト形成以降は、炉心上部の重量を支えた
下部プレナムデブリ
  • 岩石状から粒子状まで、サイズ分布
  • 溶融・凝固した多孔質で、比較的均質
  • (U,Zr)O2が主成分、結晶粒界や空孔近辺にFe-Cr-Al酸化物の第2相が存在
  • 金属相はほとんど見られず、セラミック相中にわずかにNi-In合金などが析出
  • I, Ru, Sbなどの混入が少ない
>2810K(U,Zr)O2相の溶融凝固の痕跡)

>3120K(局所的に、UO2粒子の溶融の痕跡)

  • スクラム後、約224分のイベントで、炉心部の溶融デブリの一部が、短時間で下部プレナムに移動して凝固
  • 短時間で分散凝固した、比較的上層のルースデブリと、ある程度徐冷された比較的下層のハードデブリに大別
  • ハードデブリは溶岩状に広がり
下部ヘッドサンプル
ex-vessel debris

参考文献

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