炉心周辺に残留していた燃料集合体サンプルの分析データ

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 1982年7月に実施されたQuick Look調査により、炉心上部は大きく損傷して空洞が形成されており、その下にはルースデブリベッドが堆積していることが明らかになった[1]。また、炉心の周辺部には、一部損傷した燃料集合体42体が残留していた。1985年5月に上部プレナムが撤去され[2]、圧力容器上部に燃料デブリ取り出し作業用にプラットフォームが設置され、1985年10月にはルースデブリベッド上に崩落していた上部端栓などが収納缶に回収され、1985年12月から本格的にルースデブリ回収が開始された。ルースデブリ回収と並行して、周辺燃料集合体の回収方法を検討するために、炉心周辺部と上部ルースデブリベッド表層のビデオ観察が行われた[3]。この調査では、残留燃料集合体が吊り上げられるかどうか、上部格子との固着状態はどうか、ルースデブリ上に倒壊可能か、等を確認するため、燃料集合体上部を中心に観察が行われた。あわせて、燃料集合体の損傷状態やルースデブリベッドとの接続状態が観察された。他方、事故進展メカニズムの理解の観点では、燃料集合体の無傷に見える部分と損傷が激しい部分の境界領域の知見が重要とされた[4]。そこで、燃料デブリ回収のために倒壊された、本来炉心南東側にあったL1,M2,N2の3体の燃料集合体から燃料棒の一部がシャーリングで切り出され、分析試料として別途回収された(1985年12月)[5]。ここでは、その試料の分析結果について概要をまとめる。

参考:Quick Look調査

参考:上部プレナム構造物取り外し

参考:初期の燃料デブリ取り出し中に得られた知見

サンプルの概要

 図1に、回収した燃料棒サンプルが本来存在していた位置を示す[5]。約15cm長さの燃料棒サンプルが全部で6個回収された。このうち、L1燃料集合体のB10燃料棒から回収されたサンプルのうち1個(Segment-2)は、外観上無傷な部分と損傷している部分の境界から回収された。それ以外は、外観上無傷に見える部分からシャーリングで切り出された。図2に、L1,M2,N2燃料集合体周辺の画像データを示す。画質が悪いが、燃料集合体の残留状態が確認できる。L1集合体は、上部端栓と燃料集合体上部が部分的に残留し、上部端栓と第一スペーサグリッドの間にペレット、被覆管、燃料棒、スペーサーグリッド、ペレットホールドスプリング、などが見える。N2集合体は、上部端栓が一部損傷、燃料棒は一部無傷、半分以上は喪失していた。上部空洞に近い燃料棒の一部が回収された。M2集合体は、ビデオ観察後に空洞底部に倒壊していた。コアフォーマに近い側のサンプルが回収された。

分析の概要

 微細組織分析や化学分析等の詳細分析を行う前に、中性子ラジオグラフィー、ガンマ線分光、外観観察が行われ、詳細分析を行う必要があるかどうか判定することとされた。

中性子ラジオグラフィー

 L1のSegment-1では、燃料棒被覆管が熱膨張した痕跡が見られた、また、下の方では、被覆管が平らにつぶれていた。このことから、被覆管の膨張により、燃料ペレットが選択的に抜け落ちたと推定された。Segment-2では、燃料ペレットとジルカロイ被覆管の相互作用の痕跡は見られなかった。N2のSegemnt-3では、わずかに燃料ペレットとジルカロイ被覆管の相互作用の痕跡が見られた。それ以外のサンプルはほぼ無傷で損傷の様子は見られなかった。

ガンマ線分光

 6個のサンプルについて1cm間隔で18点の測定が行われ、Cs-137,Sb-125,Ru-106,Ce-144,Eu-154,Co-60が同定された。M2、Segment-5では、検出された核種のうち、Co-60以外は、サンプルの下から上に向かって、ガンマ線線量が徐々に低下した。これは、炉心周辺部では、中性子束が減少して燃焼度が低下する効果を反映していると推定された。Co-60はほぼ一様に分布しており、放射化された成分を含む腐食生成物が、一様に付着していたためと推定された。他の5個のサンプルについても同様の傾向が見られた。ORIGEN-IIの解析結果(燃料重量あたりのガンマ線強度)[6]と比較すると、Eu-154以外は、倍半分の精度で分析値と解析値は整合した。Eu-154は、解析値の数%から10数%の値であった。Eu-154は、その形成過程に中性子捕獲を含むため、炉心周辺での中性子束の変化に敏感で、元々解析制度が低いと指摘されている。

外観観察

 特に変形、損傷などの特徴は観測されなかった。

ここに、図を挿入、、

分析結果のまとめ

  • 中性子ラジオグラフィーで、UO2/Zry反応界面が一部で観測された。
  • ガンマ線分光で、ORIGEN-IIの解析と整合するFP濃度が検出された(Eu-154以外)。FPはほとんど燃料棒内に閉じ込められていた。
  • L1のSegment-1で、燃料ペレットが、事故時に形成された燃料棒切断面にあいた穴から崩落した痕跡が見られた。
  • 燃料被覆管酸化の明確な証拠は見られず、炉心周辺部の無傷な燃料棒は>1500Kに昇温されなかったと推定された。
  • 燃料棒内に溶融凝固層は検出されなかった。

 これらの予備分析の結果から、燃料デブリ回収の観点では、これ以上の詳細分析の必要性は小さいと判断された。しかし、事故進展メカニズムの詳細検討のために、サンプルは、国内外の研究機関に送付された。

参考文献

[1] Quick look inspection: Report on the insertion of a camera into the TMI-2 reactor vessel through a leadscrew opening, GEND-030, vol.1, 1983.

[2] D.C. Wilson, TMI-2 Reactor Vessel Plenum Final Lift, GEND-054, 1986.

[3] J.O. Carlson, TMI-2 Core Examination Plan, EGG-TMI-6169, 1984.

[4] M.L. Russell, TMI-2 Core Cavity Sides and Floor Examinations December 1985 and January 1986, GEND-INF-074, 1987.

[5] D.W. Akers, M.L. Russell, TMI-2 Standing Fuel Rod Segments: Preliminary Examiniation Report, GEND-INF-087, 1987.

[6] B.G. Schnitzler, J.B. Briggs, TMI-2 Isotopic Inventory Calculaations, EGG-PBS-6798, 1985.