廃炉における課題

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東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉作業を進めるにあたっては、燃料デブリの取出し及び取出した燃料デブリの保管管理及び処理処分に係る工程設計及び工程管理を行う必要がある。このためには、格納容器・圧力容器内の内部調査や、今後取得される燃料デブリ等サンプルの分析を行うことにより、燃料デブリの特性や堆積状態、核分裂生成物・線量の分布、構造材の破損や腐食状態等の現場の状況を明らかにすることが不可欠である。さらには、これら現場の状況に関して得られた知見や情報を用いて事故時に生じた現象を理解し、事故原因の究明を進めていくことにより得られる知見や情報を適時適切に廃炉の工程設計及び工程管理に反映するとともに、それらを継続的に改良していくことが重要である。今後、燃料デブリを含むサンプル分析及び内部調査が本格化することから、日本原子力研究開発機構 燃料デブリ等研究戦略検討作業部会では、廃炉作業を安全かつ着実に進めるニーズの観点で、燃料デブリに係る個別課題と分析内容の検討をおこなった。ここでは、その概要を解説する。詳細は、報告書[1]を参照のこと。

※本ページの内容については、廃炉事業者との認識合わせが重要であり、適宜更新されるものである。

燃料デブリの取出し工法の設計・燃料デブリの取出し作業

燃料デブリの臨界安全

保守的な仮定に基づくホウ酸水注入、不溶解性中性子吸収物質の事前投入、中性子測定に基づく未臨界度監視作業等が臨界安全対策として検討されているところ、燃料デブリサンプルの分析とそれに基づく合理的な評価により、号機ごとや部位ごとの燃料デブリの臨界可能性有無に係る根拠(例えば、中性子吸収物質のU との随伴性等)を示すことが重要となる。

分析対象項目は、燃料デブリ中の核分裂性核種の量と濃度、主な中性子吸収物質の混入程度、燃焼率、かさ密度に係る項目となる。

  • 燃料デブリ中のU及びPu濃度
  • UとPuの同位体比
  • 155Gd、157Gd の対U 比(可燃性毒物の残留濃度)
  • 構造材(Fe、Zr)等や中性子吸収材(B)の対U 比
  • 148Nd(あるいはそれに替わる燃焼率指標核種)の対U 比(燃焼率)
  • かさ密度
  • 核分裂性物質(U、Pu)の化学形

臨界安全評価では、重要となる元素あるいは核種(U、Pu、Gd、Fe、B 等)について、サンプル全体の平均的特徴(相割合、組成、空隙率)とそのばらつきの情報が重要となる。その知見を得るには、サンプルを構成する主要相(金属、酸化物、その他化合物)の特徴をそれぞれ調べる必要がある。その上で、工程設計に向けて、燃料デブリ取出しの対象となる領域から取得される燃料デブリサンプル全体(数個~最大数十個と予想)の平均値とばらつきを評価することになると考えられる。

燃料デブリの切断時α ダスト、Pu・Am・残留FP

燃料デブリ取出し中のダスト対策は、安全な作業進展のための重要課題である。模擬デブリを用いた切断模擬試験及び過去のホットセルでの経験等によるダスト飛散の概略評価が進んでおり、切断方法としては、レーザー切断や機械的な切断が検討されている[2]

レーザー切断に固有の課題として、燃料デブリが高温にさらされることによる燃料デブリ酸化度の変化やそこに含有される蒸発・揮発性物質[注 1]がどの程度飛散するかの評価が重要となる。燃料デブリの現状の化学状態(平均組成、化学形)を初期状態とし、高温での熱力学的評価を行うことで、蒸発・揮発傾向を概略推定できる。これまでの1F現場データや事故進展解析の評価結果に基づくと、1Fの燃料デブリは必ずしも酸化度が高くない可能性がある。その場合、熱力学的に金属系デブリ中に若干量(目安として1-2 wt%あるいはそれ以下)のU 金属が含有される可能性があり、レーザー切断ではその再蒸発も懸念される。また、燃料デブリの酸化度が低い場合には、Pu・Am の低次酸化物(PuO、AmO)が形成される可能性があり、レーザー切断ではその再蒸発も起こりうると考えられる。さらに、揮発性FP が燃料デブリ中に残留している可能性も否定できず、その蒸発・揮発の評価も課題である。レーザー切断については、サンプル分析で蒸発性・揮発性物質の化学状態を調べ、熱力学的な解析やFP 移行モデルによる評価、並びに必要に応じた模擬試験により、それらの燃料デブリからの蒸発・揮発性物質の最大飛散可能量を概略的に評価できれば、ダスト対策の設計に貢献できる可能性がある。

他方、機械的な切断に関しては、燃料デブリの機械的特性(硬さ、もろさ、融点等)を把握しておくことが望まれる。機械的特性では、燃料デブリ中の相や化合物そのものの物性としての特性だけでなく、それらの相や化合物の混合物・凝集物としての平均的・全体的な特性の把握が望まれる。したがって、機械的特性だけでなく、化学的な特性も評価し、適切な模擬デブリを調製して知見を拡充することで、より有用な知見を提供できる可能性がある。

分析対象項目は、U、Pu、Am 及び残留する揮発性FP(中揮発性も含む)の燃料デブリ中の化学状態と分布に係る項目、及び機械的特性の項目となる。

  • 燃料デブリ中のU・Pu・Am 濃度
  • U に対するPu・Am の随伴性・偏在性
  • 金属系デブリ中のU(金属)濃度
  • 酸化物系デブリの酸化度・Zr 相状態
  • 揮発性FPの分布、U に対する随伴性・偏在性
  • 揮発性FPの局所濃度
  • 機械的特性(硬さ、ヤング率)
  • 融解温度
  • もろさ(空隙率、取扱い時の経験)

工程設計においては、様々な物性や特徴を評価式あるいは評価値等の形で整理して設計のための基本データベースとして整備し、評価式や評価値に対する安全係数(設計係数)等のエンジニアリングジャッジの根拠を提供することが期待される。

燃料デブリの取扱い安全性・作業性・放射線量

取扱い安全性・作業性

1Fでは、号機ごとの破損状態が相当に異なっていることが明らかになってきているが、合理的な評価方法としては、分析結果に基づいて、燃料デブリの特徴をいくつかにグループ分けし、それぞれの取扱い上の課題を整理した上で、号機ごとのRPV/PCV 内領域ごとに、優先的に検討・評価しておく課題、副次的に見ておく課題等に分類し、その対策と紐付けする方針が考えられる。これまでのサンプル分析・データ評価・解析等で抽出された課題としては、化学的に活性と考えられる金属系デブリの取扱い、取出し作業における新たな燃料デブリ表面露出による局所的な化学反応・FP溶出、硬い物質(残留B4C、ホウ化物)の残留・析出等が挙げられる。また、空冷条件でデブリ取出しを行う場合、空冷に切り替えた段階で燃料デブリ表面に付着した微粒子等が飛散する可能性があり、グループ分けの際に、乾燥時の表面付着物も考慮しておくのが妥当と考えられる。サンプル分析に基づいて、号機ごと領域ごとに、上述したそれぞれの課題の重要度を評価し、対策と紐付けすることで、燃料デブリ取出し工程設計や取出し時の安全対策マニュアルの整備に貢献することが期待できる。

分析対象項目は、燃料デブリ中の主要成分(U、Zr、Fe 等)の化学状態と分布及びBの化学状態と分布に係る項目となる。

  • 燃料デブリの主成分相状態と組成、メゾスケール[注 2]での偏析、及びそのばらつき
  • 燃料デブリ中の析出物相状態と組成、メゾスケールでの偏析、及びそのばらつき
  • 金属系、酸化物系等のメゾスケールでの混合性、及びそのばらつき
  • 酸化物系デブリの酸化度(Zr・Fe の酸化度)、及びそのばらつき
  • U金属の形成有無
  • ホウ化物の化学状態・分布、メゾスケールでの偏析、及びそのばらつき
  • B4C残留程度・分布

まず、メゾスケールで、どのような特殊な性質を持つ相がどの程度析出・形成されているのかを分析することが重要となる。その上で、サンプル平均として、特殊な性質を持つ相がどの程度の割合で存在しているかを評価するのが妥当であると考えられる。

放射線量

燃料デブリの線量率は、廃炉工程での使用機器の耐放射線性や体系からの放射線の漏洩や遮蔽等に直接関わることから、作業者の被ばく管理や使用機器の寿命評価の基礎データとなる。さらに、今後のRPV/PCV の内部調査方法、燃料デブリ取出し工法の最適化や具体化にも必要となる情報である。経時変化、水位変化、除染、構造物の撤去、燃料デブリ掘削等により大きく変動することが予想されるため、線量率だけではなく、時々の線量率評価に必要な線源情報を分析により把握しておくことが重要であると考えられる。

燃料デブリの主要なγ線源であり、以下に示す各線源核種濃度が必要となる。

  • 137Cs(FP 起源)濃度[注 3](半減期:30.08 y、主なγ線エネルギー:661.66 keV)
  • 154Eu(FP 起源)濃度 (半減期:8.601 y、主なγ線エネルギー:123.07 keV, 1274.43 keV, 他)
  • 60Co(放射化起源)濃度(半減期:5.271 y、主なγ線エネルギー:1173 keV 及び1332 keV)
  • 125Sb(FP と放射化起源)濃度 (半減期:2.75856 y、主なγ線エネルギー:391.70 keV)

線量率データを積み重ねることで、炉内の線量分布の評価精度を向上させることができると考えられる。

発熱・冷却対策

燃料デブリの発熱特性については、現場での冷却水注入停止試験により温度分布の変化を評価することで解析的に評価できると考えられる。これに対し、燃料デブリの冷却対策に向けてサンプル分析が果たす役割は、冷却水注入停止試験で局所的な温度上昇が観測された領域から取得するサンプルの分析による原因究明、冷却水停止により雰囲気に直接さらされる燃料デブリ表面の変質、燃料デブリ取出し作業で新表面が露出した際の化学活性程度の予測等、冷却方法を変えたことによる化学環境変化が燃料デブリの特性に与える影響評価となる。空気中(あるいは窒素中)での燃料デブリ取出しの場合には、負圧管理(あるいは微正圧管理)が予想され、雰囲気への酸素混入に起因する燃料デブリ表面や堆積状態の変化を調べることが重要である。雰囲気変化の影響を受けやすい燃料デブリ表面、燃料デブリ取出し作業で課題となる切断で新たに暴露された断面等の情報が特に重要となると考えられる。

発熱量については、当面(数十年間)のγ線量率と崩壊熱は、主に137Cs(137mBa)、90Sr(90Y)等で決まることから、これらの核種の放射能強度測定を行う。137Csや90Srの燃料デブリからの放出率や溶出率が大きい場合、あるいは処理・処分を含む長期的な発熱評価の観点からは、Pu、Am、Cm 等の超ウラン元素(TRU)核種の寄与が大きくなることから、燃料デブリへの随伴性の確認は必要であるが、238Pu、244Cm、241Am(241Pu崩壊)の燃料デブリ中の濃度測定(対U比)も重要である。構造材が主要成分のサンプルの場合は、構造材由来の60Coの寄与分を評価することも必要になる可能性がある。

分析対象項目は、以下の通りとなる。

  • 燃料デブリ主成分のメゾスケールでの化学特性に係る項目(放射線量に同じ)
  • FPの残留と分布、化学状態(水溶性・難溶性)
  • 密度・気孔率
  • U同位体比(事故前炉心での燃焼率の違いがどの程度保存されているかの評価)

水素発生対策

主な水素発生源としては、β、γ核種(特に低エネルギー線の影響大)による冷却水の放射線分解[3]、及び燃料デブリ取出し時に新たな表面が暴露されることによる未酸化物質と冷却水との反応が考えられる。未酸化物質由来の水素発生については、取得したサンプルの金相断面を分析し、残留する活性金属量を評価することでサンプル全体としての潜在的な水素発生量を概算できると考えられる。

RPVの状態評価

RPVの状態(特に、下部プレナムの燃料デブリや構造材の堆積、下部ヘッドやCRDの破損)評価は、特に相当量の燃料デブリがRPV内に残留すると予想されている2、3 号機では、ペデスタルからの燃料デブリ取出しの工程設計への反映において重要であると考えられる。また、RPVの状態評価精度の向上は横アクセス工法の検討においては重要課題であると考えられる。RPV 内の残留物が均質に分布していない可能性が考えられ、堆積物の重心の偏心や局所的なRPV 容器の強度低下が起きている可能性も予想される。このため、ペデスタルからの燃料デブリ取出しの工程設計においては、例えばペデスタル側壁の構造的な安定性についての知見となる可能性等も考えられる。また、半溶融の酸化物や金属の残留により、様々な形態の燃料デブリや構造物が非均質に堆積している可能性が高いと考えられる。

ペデスタル等から取得されるサンプルの分析に基づいて、逆問題解析により、RPV下部プレナムでの燃料デブリ堆積や下部ヘッドの破損の状況の評価精度を向上することができれば、作業の安全性に対し、重要な知見を提示できる可能性があると考えられる。また、RPV内部の破損・堆積状態について、予めある程度の見通しを立てておくことで、今後、RPV 内部にアクセス(内部調査、試験的取出し)する際に予備的な知見として活用することも期待できる。

分析対象項目は、燃料デブリや堆積物の主成分(U、Zr、Fe、B等)の化学特性とその評価に係る項目となる。特に重要なのはUを含有する粒子及び相の化学特性である。

  • 燃料デブリ・堆積物の主成分(U、Zr、Fe、B 等)の相状態(組成、U:Zr 比、U+Zr:Fe 比、結晶構造(高温形成相か低温形成相か)、分布、結晶サイズ、析出状態)
  • ZrとFeの酸化度

現状では冷却水がRPV からPCV に流れ込んでいる状況になっており、一部物質がRPVからPCVに流れ落ちている可能性がある。この観点では、SEM-EDX等の非破壊分析で粒子状物質を探索し、その生成メカニズムを考察することが有用となる可能性がある。燃料デブリの主成分だけでなく、破損した構造材の一部等が回収される場合、RPV内部情報の検討に有用な知見を提供できる可能性がある。

燃料デブリ分析の評価指標(燃焼率)の考え方

詳細は「燃料デブリ分析の評価指標(燃焼率)の考え方」を参照。

その他の課題

残留海水成分

1Fでは、炉心冷却のために海水を投入した。熱力学的な評価や基礎試験に基づくと、海水成分の一部は、UやFPと選択的に反応し、蒸発特性等の化学的特性を変化させ、分布特性を変化させる可能性が考えられる。また、Clイオンは構造材の腐食を促進する懸念があるFP 化学、水中沈殿物、ガラスデブリ形成には、Na、Mg、硫酸イオン等も関わっていることが考えられるが、ここでは、過去に実施した海水成分混入時の熱力学解析[4]に基づき影響がありそうなものとしてClを選定している。。サンプル分析により、海水由来成分の残留濃度や、海水由来成分と核燃料や構成材料成分の反応の有無を調べることで、燃料デブリ取出しに与える海水由来成分の重要性を事前に評価することは、燃料デブリ取出し設計に向けて重要な知見となると考えられる。

アクセス性・被ばく低減・解体撤去

①線源・放射線分布

PCV内、さらにはRPV内の燃料デブリにアクセスする場合には、アクセスルートや工法の設計、作業員の被ばく低減対策の観点で、線源分布・放射線分布の情報が必要となる。現状では、事故進展解析によるFP分布に現場情報を加味して、いくつかのケースを仮定した上で線源(燃料デブリとFP)を仮想的に配置し、ケーススタディがなされている。燃料デブリやFPの分析によって、これらのケーススタディの中から、比較的妥当なものを随時絞り込み、評価精度を向上させていくのが現実的であると考えられる。

燃料デブリについては、、kg 規模で取得される燃料デブリサンプルの平均値として、FPやPu、マイナーアクチノイドの残留量を評価することができる。並行して、サンプルの放射線分析により、線量を評価し、対象とする燃料デブリ全体の評価につなげることができると考えられる。限られたサンプル数から、対象領域全体について評価する方法論を整備することが重要である。

線源・放射線分布の評価においては、燃料デブリや付着FP の経年変化の影響を考慮することが重要である。例えば、燃料デブリ表面が長期間酸化性雰囲気にさらされることにより、表面が変質して内包する放射性物質が放出されることや、構造材等に付着しているFP化合物が湿分の影響で変質し遊離特性が変化すること等である。

②α粒子のPCVからオペレーションフロアや環境への移行経路

炉内からオペレーションフロアまでの粒子の移行径路には、αダストが堆積している可能性が大きく、その移行経路の同定は、アクセス性・被ばく低減・解体撤去に資する重要課題となっている。移行径路の可能性としては、以下の2つが考えられている。

  • RPV が昇圧し、部分開となったと考えられるSRVを通じて、S/C 経由でD/Wに移行。PCVが加圧され、PCVトップフランジの浮き上がりによってリークが生じ、蒸気流に乗ってオペレーションフロアに移行。
  • RPV 破損により炉心物質の一部がペデスタルに流出。ペデスタルに存在していた冷却材が、高温の過熱蒸気となり、PCV 内に存在していた放射性物質を、トップフランジからのリークでオペレーションフロアに移行。

オペレーションフロアやそこに繋がる移行径路から取得されるサンプルの分析は、被ばく低減、解体撤去、αダスト対策等の重要知見となる可能性がある。分析方法は、スミアサンプル中のウラン粒子の点分析及び形態分析(SEM-EDX、TEM-EDX、SR-XA 等)が考えられる。これらの詳細分析により、移行時あるいは形成時の化学形態や温度の評価に資するデータや知見を取得できることが見込まれる。

③建屋解体

燃料デブリ取出し以降の建屋解体段階において、線源・放射線分布及びα粒子のPCVからオペレーションフロアや環境への移行経路で測定、評価されるFP の量及び線量分布に関わる知見及びFPと構造材の付着とその除染あるいは遮蔽性に係る知見が有用となる。この観点でも、付着濃度及び量だけでなく、化学形態の情報が重要となると考えられる。また、建屋解体までには数十年以上を要し、作業は原則空気雰囲気で実施されると考えられることから、FPの化学状態の変化による、二次的飛散の程度を予測しておくことも重要である。

ペデスタル掘削時の核燃料物質含有領域終了の判断

ペデスタルからの燃料デブリ取出しに際し、燃料がどこまでコンクリート中に侵食しているかは、取出し工程管理の観点からだけでなく、廃棄物処理の観点からも重要な検討項目となると考えられる。まずは、燃料デブリサンプルの分析と解析手法により、堆積深さ方向の分布に関する概略予測を行う。次に、U、Pu 及び放射性核種濃度の堆積深さ方向の変化を定期的に調べ、計測結果と解析結果と比較することで、解析モデルを高精度化し、解析による評価精度を向上させていくことができると考えられる。

これまでの模擬試験や解析研究によると、溶融物と未溶融コンクリートの界面近傍では、炉心物質の濃度が急激に変化するが、コンクリート自体の変質やコンクリートへの核燃料物質の拡散等もあることがわかってきている。したがって、堆積物の物理的、化学的な特性の観点だけでは、燃料デブリと残留コンクリートを明確に分離できる境界を判定できないと考えられる。燃料デブリ表面から堆積深さ方向への濃度変化を実際の分析と解析を併用して評価し、ある段階で、核燃料物質の濃度が極端に減少する層が見つかれば、そのあたりを燃料のコンクリートへの侵食の最深地点と評価する方法も考えられる。

次に、最深地点近傍の燃料デブリサンプルを取得し、核燃料物質の侵食深さやコンクリートの変質程度を評価する。この知見を用いて、境界領域近傍の物質をどこまで燃料デブリと定義し、どこからはTRU 廃棄物等のカテゴリーに入ると定義するかを検討することが現実的であると考えられる。

被ばく管理、遊離・浮遊物対策管理関係

被ばく管理や被ばく低減対策のためには、燃料デブリ取出し時のR/B 内アクセス経路、及びPCV内部の壁や機器表面等の放射性物質による汚染分布、並びに汚染の遊離によるPCV等バウンダリ内の放射性物質濃度変化等を評価することが重要である。外部被ばくの観点からは、線量測定データの逆解析により線源分布を求める手法が重要である。一方、PCV 内等バウンダリ管理の対象となる遊離・浮遊した粒子状放射性物質については濃度分布を評価することが重要である。137Cs に加えて、主な内部被ばく線源となるSr、Pu、Am 等に係る分析が重要と考えられる。さらには、その他のFP 核種についても可能な限り分析を行い、137Cs との放射能比の場所ごとの傾向等を評価することができれば、合理的な被ばく管理や廃棄物管理のためのインベントリ評価のための基礎的な情報となり得る可能性が考えられる。FP付着・再放出に影響を与える固着性状に係る項目として、エアロゾルの形状・寸法及び組成、エアロゾルの形状・寸法及び組成、炉外試験等による付着FP の再放出特性等の情報が重要となる。

保障措置との関係

我が国における核燃料物質に係る全ての活動は、IAEAとの保障措置協定のもと、核燃料物質が申告どおり平和目的だけに利用されていることを示すことが求められており、事故後の1Fでの活動もその例外ではない。

通常、原子力発電所においては、核燃料物質の計量管理は「燃料体としてのアイテム管理」で行われる。しかし、現在の1Fのように事故が発生した原子炉においては、燃料体が損壊、溶融、混合し、燃料デブリとなって原形を留めていないものもあり、それらは、今後の取出しを想定した際には、燃料体としてのアイテム管理は困難が予想される。1F はこのように、通常の原子炉における計量管理手法の適用が困難な状況下にある。

燃料デブリは、様々な物理・化学形態の核燃料物質・核分裂生成物(FP)が非均質に混合していることに加え、種々の構造材や制御材等と非均質な状態にあると想定される。このような非均質物質中の核燃料物質の定量分析は極めて難易度が高い。こうした状況を踏まえ、合理的な保障措置手段の採用が期待される。

保管管理

燃料デブリを取出した後、収納缶への収納前、収納時及び保管時における、保管管理に係る分析として、臨界安全、核種・放射能、化学的安定性・経年変化及び保管施設の合理化について記載する。

臨界安全

取出した燃料デブリを収納する収納缶の設計、許認可において、容器収納・保管時の臨界安全を評価するための基礎データとして燃料デブリ中の核燃料物質の組成及び同位体比が必要であると考えられる。また、主な中性子吸収物質(可燃性毒物であるGd、FPとしてGd及び155Eu、制御材であるB、炉内構造材料(Fe 等))の組成や同位体比、燃料デブリの密度、含水率等の基礎情報も必要であると考えられる。さらに、燃料デブリ分析・評価の指標となり得る148Nd 等の情報もFPの寄与を評価する上で重要である。

発熱量評価

取出した燃料デブリを収納する収納缶の設計においては、収納する燃料デブリからの崩壊熱を考慮して、冷却設備の能力を検討する必要があると考えられる。これを踏まえ、収納容器内の放射性核種の種類とその放射能強度を分析し、収納缶の発熱量を評価する。また、これらの分析・評価は設計のみならず、燃料デブリの収納時において、収納缶に充填された燃料デブリの発熱量が設計値を上回らないことを確認する上でも有効である。

経年変化

燃料デブリの経年変化挙動の評価は基本的に模擬燃料デブリによって進められるが、経年変化のメカニズムがある程度推測され、経年変化予測が可能になってきた段階において、その予測を実際の燃料デブリを用いて実証することが重要であると考えられる。具体的には、経年変化検討のベースとなる燃料デブリの特性の確認(特にアクチノイド元素等のキーとなる元素の存在状態、化学状態)、物理的・化学的・生物学的メカニズムの検証(温度変動による風化、水との接触による溶出、微生物による分解作用等)等、実際の燃料デブリサンプルを利用して模擬燃料デブリを用いて得られた知見を確認・検証してくことが重要と考えられる。分析項目は以下の通りとなる。

  • SEM-EDX/WDX やαスペクトロメータ、あるいはICP-AES/MS 等の破壊分析による、主要マトリックスの同定、アクチノイド元素組成、同位体組成
  • 必須ではないが、SR-XAによるアクチノイド元素等の化学状態等分析
  • 密度測定装置による密度(真密度、かさ密度、気孔率等)
  • ビッカース硬さ計等による機械的特性測定
  • 模擬燃料デブリを用いた経年変化メカニズムの推測

腐食評価

収納容器の材質はSUS316材を候補としているが、SUS316材はClイオンによりすきま腐食等が発生することが知られており、海水を冷却水として投入した1Fの燃料デブリを保管する場合、燃料中のClイオン量を調べて腐食の評価を行う必要があると考えられる。また、水中の窒素酸化物も収納容器の腐食に影響を与えることからこの分析を行う。分析項目は以下の通りとなる。

  • pH 電極による液相中のpH 分析
  • イオンクロマトグラフ、イオン電極による液相中の塩素イオン濃度分析
  • イオンクロマトグラフによる液相中の窒素酸化物濃度分析
  • 溶解度測定による材料表面分析
  • SEM、TEM-EDX 等を用いた燃料デブリ収納条件・環境下における容器材料の物理・化学変性分析

処理処分

1F廃炉に伴い発生する燃料デブリの処理処分については、中長期ロードマップ[5]において以下のように記述されている。

取り出した燃料デブリの処理・処分方法については、現在設計を行っている放射性物質分析・研究施設の活用を視野に入れながら必要な技術の検討を進め、燃料デブリ取出し開始後の第3期に決定する。

ここでは以下、「処理処分の観点からの燃料デブリの分析項目とその重要性」、「分析項目の詳細とその取得方法、時期」について記述する。なお、実際の分析項目及び内容について、 関係者間との協議に基づき、技術開発のためのニーズを踏まえて決定されていくものである。

処理処分の観点からの燃料デブリの分析項目とその重要性

現状、燃料デブリは廃棄物としては扱われていないため、その処分方法は決まっていない。しかし、燃料デブリには、Pu、U 等の長半減期核種が相当量含まれることから燃料デブリ等は地層処分対象の廃棄物であることが想定されている[6]。燃料デブリ等を地層処分する場合、長期間にわたって安定な廃棄体に処理し、適切な人工バリアを設置することで、その安全性を確保する必要がある。このような燃料デブリ等を地層処分する場合の安全性は、安定な廃棄体(臨界安全の観点から安定等)であることを前提に、既存の地層処分の安全評価の結果[5]との比較や地層処分の評価パラメータの影響特性からおおよそ推定できる。

しかし、安全性に影響を及ぼす主たる要因が廃棄物中の核種濃度である別のシナリオ(人間侵入シナリオ)の場合や処分環境条件等が変動する場合は、廃棄物が均質でないことによる不確実性の取り扱いや核種の移行抑制機能の低減に起因した安全裕度の低下が予想される。このような処分環境条件下においても処分の安全性が確保されることを提示するためには、非均質な廃棄物に対しても、不確実性の低い、精度の高いインベントリ等の情報が必要となる。さらに、燃料デブリ等を地層処分する場合の前提となる廃棄体の安定性(臨界安全の観点から安定等)を確認するため、インベントリに加えて、燃料デブリの臨界安全評価(化学特性、幾何形状等の把握を含む)を行う必要がある。

また、処分の安全性はインベントリ以外に、廃棄体及び人工バリア、天然バリア中を移行する核種の移行特性に依存する。この移行特性は核種移行パラメータ(燃料デブリからの核種の溶出 率、元素の溶解度、バリアの収着分配係数、拡散係数等)によって表される。そのため、燃料デブリの分析においては、それらに関連する燃料デブリの溶出特性と核種移行パラメータの値を変化させ、結果として安全性に影響を与える可能性のある燃料デブリに含有されている物質(影響物質)の化学組成・量の把握が重要となる。さらに、処分の安全性の観点からは、廃棄物に含まれる環境に影響を与える物質(有害物質)の移行を評価する必要がある。そのため、有害物質の種類、量の把握が重要となる。

また、処分の実施においては、処分方法ごとに分類された廃棄物の処分施設を適切に合理的に設計する必要がある。そのためには、オーバーパックによる一定期間の核種の完全閉じ込め機能 の有無の検討を含め、燃料デブリの処分施設の設計に大きな影響を与える可能性のある燃料デブリの熱的・力学的特性、放射線分解や腐食に伴う水素発生特性、放射線影響による腐食への影響を適切に把握することが重要となる。

分析項目の詳細とその取得方法・時期

燃料デブリのインベントリ

処理処分の安全性の評価においては、重要と考えられる放射性核種を抽出し、それらを対象としてインベントリや核種の安全評価に影響を及ぼす核種移行パラメータ値を取得する必要がある。大熊の分析研究施設においては、処分において重要と考えられる38 核種(既存の高レベル放射性廃棄物[7]や低レベル放射性廃棄物[8][9][10][11]の処分の安全評価結果等を参照して選定)を暫定的に分析対象核種として選定し、それらを対象とした分析計画が立てられている[12]。38核種を以下に示す。

3H, 14C, 36Cl, 41Ca, 60Co, 59Ni, 63Ni, 79Se, 90Sr, 93Zr, 94Nb, 93Mo, 99Tc, 107Pd, 126Sn, 129I, 135Cs, 137Cs, 151Sm, 152Eu, 154Eu, 233U, 234U, 235U, 236U, 238U, 237Np, 238Pu, 239Pu, 240Pu, 241Pu, 242Pu, 241Am, 242mAm, 243Am, 244Cm, 245Cm, 246Cm

ここで、これらの38核種は、インベントリ(組成)が既知である既存の廃棄物と既存の処分概念を対象に選定された核種であることに注意が必要である。インベントリが十分に把握されていない事故廃棄物の場合、これらが変わることも想定され、研究開発の進展に伴い見直される可能性がある。

燃料デブリ取出し時に、上述の38核種の分析を行うことは、廃炉作業を安全かつ効率的に行う観点において、有意な影響を与える可能性がある。そのため、この分析の負担を軽減する方策の検討が必要と考える。ソースタームの評価結果の反映による燃料デブリ及びRPV、PCV、R/B内での核種のインベントリ分布の精度向上が可能となれば、代表核種の選定に資する情報が整備されると共に、精度の高い移行率の設定が可能となり、燃料デブリに限らず、事故で発生する全ての廃棄物のインベントリの評価精度が向上する可能性がある。このようなソースターム評価のインベントリ評価への適用については、今後研究課題として重要となると考えられる。

燃料デブリの臨界安全評価、溶出特性、燃料デブリに含まれる影響物質、環境影響物質

1F廃炉に伴い発生する燃料デブリを安全かつ実現可能な方法で処理処分するためには、廃棄体が長期的に安定であること(臨界安全の観点から安定等)を前提として、処分の安全評価におい て必要となるであろう処分環境条件の変動を把握し、信頼性の高い安全性を示すことが必要となると考えられる。そのためには、燃料デブリの臨界安全評価、燃料デブリからの核種の溶出特性(処理後の廃棄体を含む)、処分環境条件(核種移行パラメータ(溶解度、バリアの収着分配係数、拡散係数等)に影響を及ぼす液性)や人工バリアの諸特性に影響を及ぼす含有物質(影響物質)の化学組成、量の把握が重要となる。さらに、これらの影響物質の把握と併せて、環境に影響を与える有害物質の組成、量の把握も重要となる。このような物質としては、燃料デブリに含まれる物質だけでなく、取出しに伴い添加される物質も対象となる。

燃料デブリの熱的・力学的特性、水素発生特性や腐食等への影響

適切な廃棄体や処分施設の設計を行うためには、廃棄物の特性を把握することが重要となる。特に、燃料デブリの場合、周囲の処分環境条件に熱影響を与える可能性があることから、その影 響を評価することが重要となる。燃料デブリがこのような影響を与える場合は、人工バリアの性能に有意な影響を与えないように埋設距離を確保するとともに、その有意な発熱が収束するまでの期間、核種を完全に閉じ込めるための処置(オーバーパックによる封入)が必要となる可能性が考えられる。このような処分施設の設計を行う場合は、処分施設内の温度の時間変化の解析や施設の力学的安定性に関する解析が必要となり、廃棄物中の核種のインベントリと合わせて、廃棄物の熱的・力学的性等も評価していくことが重要である。

また、上記のようなオーバーパックによる閉じ込めの実現可能性を検討する際には、放射線分解による水素発生に係わる廃棄体中の水分含有率に関する情報(含水率の算出に用いる空隙率、 放射線分解による水素発生にかかわるG 値等)が必要となる。この水素発生に関する懸念は、固化の過程で廃棄物中の水分が消失し、容器内部における腐食と水素の発生の懸念が小さいガラス固化体とは異なる燃料デブリの特徴であり、処理処分の検討においてこれを考慮することは重要である。また、熱解析の結果、オーバーパックによる閉じ込めが必要ない場合、燃料デブリからの放射線による廃棄体自身、またはバリア材料への腐食、変質等に関する影響把握が必要となると考えられる。


注釈

  1. 蒸発 = 液体から気体に相転移する現象、昇華 = 固体から気体に相転移する現象、揮発 = 常温・常圧での蒸発を指す。揮発性 = 常温・常圧で液体からの気化しやすさを指す。一般的にFPは、常温・常圧で液体状態とは限らず、固体で存在するものもあり、蒸発のみならず、昇華によって気化する場合も考えられる。ここでは、元の相状態にかかわらず、気化しやすいFPについて「揮発性FP」と定義することとする。
  2. ここでは、ミクロスケール(μm レベル)とマクロスケール(mm レベル)の中間のスケールと定義する。
  3. 137Cs は厳密な意味ではγ線源ではなく、β壊変して137mBa となり、137mBa からγ 線が放出される。

参考文献

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