燃料デブリ分析の評価指標(燃焼率)の考え方

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目的

TMI-2 事故は、初装荷炉心において数ヵ月後に事故が発生したことから、燃料溶融前の燃料の燃焼度の範囲は数GWd/tのあたりに集中している。一方で、1F事故の場合は、何れの号機も平衡サイクル炉心(5~6 バッチ装荷)であったことから、炉心の径方向及び軸方向の分布まで考慮すると、事故直前の炉内には0~50GWd/t程度の広範囲な燃焼度の燃料が存在していたと推定される。1F 事故では、これらの燃焼度が異なる燃料が溶融混合して燃料デブリを形成したものと考えられるが、その混合状態は号機や部位に依存するものと考えられ、その詳細は現状では不明である。U、Pu、可燃性毒物Gd の同位体及びFP 核種のほとんどは、燃焼度に依存して消滅または生成するため、以上のことが、TMI-2 の燃料デブリに比べて、1F1~3号機の燃料デブリの臨界安全、崩壊熱、線量率等の評価を難しくしている。また、燃焼度が異なる燃料の溶融混合状態が一様でなければ、多数のサンプル分析をしても評価対象とする核種量は燃焼度の範囲で大きくばらつく可能性があり、限られた分析結果から得られる知見は乏しいものになる可能性がある。以下では、臨界安全、崩壊熱、線量率等に直接寄与はしないが、分析対象とすることにより、これらの評価をより効果的または合理的に実施できる可能性がある分析項目について記載する。

必要となる(あるいは期待される)知見や情報

分析対象項目(着目する現象、挙動、物理量)

図1: Nd-148生成量の線形性

燃料デブリ中のU、Pu、可燃性毒物、FP 核種の濃度が不明である場合、燃料デブリの臨界安全や冷却、輸送・貯蔵容器の放射線遮蔽、導入機器の耐放射線性、水素発生等の対策においては、最大(または最小)燃焼度仮定、可燃性Gd なし、残存FP なし(または全FP 残存)等、燃料デブリ取扱いに応じた保守的仮定を行って、安全性評価が進められると考えられる。極端な保守的仮定は取扱い量が多くなる燃料デブリの取出しを遅延させ、新たなリスクを発生させる可能性があるため、限られたサンプル分析により、より合理的な保守的評価を可能にすることが望ましい。そこで、以下に述べる燃焼率指標の分析を提案する。

  • 燃料デブリ中の148Nd(または代替となる核種or元素)質量/U質量
  • 燃料デブリ中の235U質量/U質量

燃焼率は、%FIMA(% percentage the number of fissions per initial metallic atom)の単位で表わされ、初期重元素数に対する核分裂数の割合を意味するものである。1核分裂あたり約200 MeV の核分裂エネルギーが得られることから、燃焼率は、商用炉で良く使用されるGWd/t等を単位とする燃焼度に換算することができる(1 %FIMA=約9.6 GWd/t)。燃焼率は、原子炉運転期間中における燃料の核分裂総数を表すものであることから、235U の消滅量、Pu 同位体等の生成量、可燃性毒物核種である155Gd や157Gd の消滅量、137Csや90Sr等のFP核種の生成量等、臨界安全、崩壊熱、線量率等に直接的に関わる多くの核種インベントリは、燃焼率に大きく依存して変化する[1]。このため、軽水炉の使用済み燃料の核種組成分析では、148Ndを用いた燃焼率測定が行われており[2]、これをスケールとして利用することにより、他核種のインベントリを燃焼計算の結果や比較的少ない分析値のフィッティング式等から間接的に推定することが可能となっている。

148Nd は、中性子吸収に比べて核分裂収率による生成が支配的であり、加えて235Uと239Puの核分裂収率がほぼ同等であることから、その生成率は、ウラン濃縮度等の燃料仕様や運転条件(ボイド率、炉停止、出力密度変化等)にはほとんど依存せず、図1に示すように燃焼率(燃焼度)のみに依存した優れた線形性を有する。燃焼率が異なる複数の燃料が溶融混合した燃料デブリに対しては、燃焼率の概念が意味を持たないと考えられがちであるが、図1のような線形性を有する核種は、混合系であってもその平均の燃焼率を与える特性を有する。実際に、JAEA ではこの特性を利用して、六ヶ所再処理工場の高レベル廃液に対する放射能インベントリ評価[3]において、Nd同位体の分析結果から79Se等の難分析超寿命FP核種の濃度予測に成功した実績がある。燃料デブリにおいても燃焼率の分析結果から、燃料デブリの取出しに重要な他核種のインベントリ推定に役立つ可能性がある。例えば、燃料デブリ中の148Nd/U 質量比と137Cs/U 質量比の分析結果を燃焼計算の結果と比較することにより、137Cs の燃料デブリからの放出率を推定することができれば、燃料デブリの線量率や崩壊熱の評価を最大保守仮定(最大燃焼度、Cs 放出率ゼロ)で行う必要はなくなるものと期待される。しかし、燃料溶融と硝酸溶解とでは燃料の混合条件が大きく異なるため、先ずは、148Nd 等の燃焼率指標核種が、マクロスケールでUやPuと随伴し、燃料デブリの共通スケールとして有効かどうか判断することが重要である。また、235U/U 質量比も燃焼率指標として利用できることが期待できるが、BWR燃料集合体では濃縮度の異なるU燃料が装荷されていることと、運転中のボイド率の影響で235U/U 質量比は変動するため、燃料デブリでは正確な燃焼率指標として利用できない可能性がある。よって、148Nd/U 質量比と235U/U 質量比の双方を分析してクロスチェックができるようにしておくことが望ましい。

148Nd/235Uという核種選択については、さまざまな燃料デブリ形成過程におけるランタノイド核種等とUとの随伴性がわかっておらず、PCV水中長期経過時のさまざまな燃料デブリ中のランタノイド核種等やU の溶出特性の違いも定かではないので、これらを推定しておき燃料デブリサンプルの分析によって確認するとともに、燃料デブリに対する簡便な溶解法適用時における溶液への抽出率や、溶液中同位体の分析精度等も考慮して検討する。その結果として、148Nd 以外にも、U、Pu 同位体あるいは他のランタノイドの同位体比を補完的に測定することも考えられる。

分析方針・分析手法・得られる知見

148Ndは安定核種であり、また、235Uは半減期7.04×108 年でほぼ安定核種とみなせることから、回収したサンプルから、特徴的な部位をいくつか分取し、これを酸等で溶融・液調製してICP-MS 等で質量分析を行う。148Nd の質量分析では、妨害核種排除のための元素相互分離等の前処理手法の検証が必要であり、145Nd、146Nd、140Ce 等も148Nd の代替・バックアップとして燃焼率指標核種として考慮しておくことが望ましい。

Nd元素も燃焼率に対する線形性を有するため、質量分析を用いないでICP-AES等を用いたNd元素分析でも代替できる可能性がある。以上のように、燃焼率指標の分析手法には様々な選択肢があるが、分析の初期段階においては、クロスチェックの観点から複数の手法を試みて、より簡便で有効な手法を選定しておくことが望ましい。

148Nd/U比等の燃焼率指標に対して、同じサンプルから得られる他の評価対象核種の分析結果(例えば235U/U、137Cs/U、90Sr/U 等)をプロットして整理することにより、比較的少ないサンプル分析により燃料デブリの特性(臨界安全に係る特性、崩壊熱、線量率等)に繋がる情報が得られる可能性がある。

燃焼率評価では、燃料デブリが一旦コリウムを形成(全溶融)したかどうかの確認が重要となる。研磨断面の微細組織(以下、金相)や、SEMでもある程度判断がつくが、235U質量/U質量や148Nd質量/U質量分析を燃料デブリサンプル内の特徴的な数箇所で実施し、その偏差を見ることでも確認できる。また、仮に、上記の同位体比にあまり偏差が見られない場合、その場所でのコリウムの混合状態の目安になる可能性があると考えられる。例えば、2号機では大規模なコリウムが形成されなかった可能性もあり、ペデスタルに落ちている燃料デブリ中の同位体比は、場所ごとに異なる可能性がある。このように、燃料デブリ中の同位体比が異なっている場合においても、一定の偏差に入っている場合においても、RPV内の燃料デブリ堆積状態を評価するための手がかりになり得ると考えられる。


参考文献

  1. 奥村啓介, 岡本力, 軽水炉使用済み燃料の核種インベントリ, JAEA-Data/Code 2011-020, 2012, 193 p, https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Data-Code-2011-020.pdf
  2. OECD/NEA, SFCOMPO2, Database of measured isotopic concentrations of spent nuclear fuel, with operational histories and design data, https://www.oecd-nea.org/sfcompo/ .
  3. 石川 真澄, 金子 悟, 北山 一美, 石黒 勝彦, 植田 浩義, 若杉 圭一郎, 篠原 伸夫, 奥村 啓介, 茅野 政道, 守屋 登康, 地層処分の安全評価の観点からのガラス固化体中の核種インベントリ評価の信頼性向上の取り組み,日本原子力学会和文論文誌,vol. 8, no. 4, 2009, pp. 304-312, https://doi.org/10.3327/taesj.J09.002

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