燃料デブリふるまいの要素現象

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BWRでの燃料溶融・崩落の概略的な理解

原子炉圧力容器内フェーズ(in-vessel phase)

 1Fと同型の沸騰水型軽水炉(BWR: Boiling Water Reactor)のシビアアクシデントにおける燃料溶融・崩落進展の概略を図1[1]に示す。また、図2[2]に、BWRの典型的な燃料集合体の模式図を示す。 

シビアアクシデントが発生した際に引き起こされる、原子炉圧力容器(RPV: Reactor Pressure Vessel)内での燃料溶融・崩落進展は、以下の3つのフェーズに分けて理解されている。PWRとBWRでは、炉心内の制御棒の配置、RPV下部にある下部プレナム内の構造物の構成、炉心を構成する主要物質の割合、中性子吸収剤の種類、等が異なるため、燃料溶融・崩落の要素現象の進展には違いが出るが、3つのフェーズという大きな流れは維持されると考えられている。また、PWR,BWR関係なく、燃料溶融・崩落が発生した段階でのRPV内圧力や冷却水水位の違いが、溶融・破損した燃料デブリの下方への移行と堆積の傾向に大きく影響すると考えられている。

1. 初期フェーズ

 何らかの原因により炉心への冷却水供給が十分でなくなり、冷却水の水位が低下する。燃料が冷却水から露出し水蒸気に覆われると、冷却能が不足するため、崩壊熱を十分に除熱できなくなり燃料棒の温度上昇が始まる。この時の温度上昇は、スクラム後の経過時間や水蒸気流量にもよるが、1℃/秒あるいはそれ以下と考えられる。燃料温度が、およそ1400℃を超えると燃料被覆管主成分のZrの水蒸気酸化が急速に進む。この反応は、Zr + 2H2O → ZrO2 + 2H2 + ΔH と書くことができ、大量の水素と熱の発生をともなう。これにより、燃料棒の温度上昇は数℃/秒というレベルになる。燃料棒の温度上昇にともなって、燃料ペレットが膨張して燃料ペレットと燃料被覆管の間のギャップが閉じられ、両者の界面で成分が相互拡散し、二酸化ウランが一部還元されて合金形成し、その溶融が進む。しかし、この段階では燃料棒の形状はまだ維持されている。この燃料棒内で溶融が進むが、その崩落直前まで形状が維持されている段階を初期フェーズという。初期フェーズにおいては、制御棒は、中性子吸収剤(B4C)と制御棒被覆管(SS)の共晶溶融反応(およそ1200℃)や制御棒被覆管などのステンレス鋼材とジルカロイ製のチャンネルボックスの共晶溶融反応(Zrリッチ側:937℃、Feリッチ側:1314℃)によって溶融し、燃料棒より先に下方に溶落する。崩落した制御棒は、冷却水水位の直上あたりでいったん堆積すると考えられている。これは、トランジエントフェーズで崩落する燃料デブリを堆積させるための下部クラスト形成につながる。一方で、燃料被覆管が破損し、希ガスや揮発性のFPが燃料棒から放出される。

2. トランジエントフェーズ

 炉心上部から崩落した燃料棒が、冷却水水位の直上あたりでいったん堆積、温度低下するまでのデブリの崩落・移行過程である。初期フェーズの最終段階では、燃料ペレットと燃料被覆管の界面で液相(U-Zr-Oメルト)が成長し、およそ2000~2300℃の温度で、メルトが被覆管外周の酸化膜を破って燃料棒の外に噴出すると考えられている。これにより、U-Zr-Oメルトと未溶融の燃料ペレットや外周部の酸化膜が混合して崩落する(参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム)。燃料デブリの化学的な特性の観点では、トランジエントフェーズでは、燃料デブリの平均的な酸化度は、まだそれほど高くないことに注意が必要である。これは、U-Zr-Oメルトは、ほとんどUO2とZrの間の成分相互拡散で形成され、外部からの酸素混入がないために、その亜酸化状態が維持されることによる。また、一般的にBWRの燃料被覆管はPWRより肉厚で、U-Zr-Oメルトの物量が相対的に多くなりやすい。このため、デブリの酸化度が低く維持されやすい傾向がある。

 燃料棒の崩落には、温度上昇や被覆管酸化の履歴、炉心内での位置や接触状態等の様々な因子が係るため、場所によって崩落の条件がかなり異なると考えられる。したがって、局所的に崩落タイミングが遅れて、UとZrの混合二酸化物の融点(約2550℃)を超えるような温度に到達することも起こりうる。トランジエントフェーズでは、燃料デブリが水蒸気に曝されるため、その平均的な酸化度が上昇する。しかし、1Fの1~3号機の事故進展解析では、トランジエントフェーズから後期フェーズに移行した段階でも、燃料デブリの平均的な酸化度は、二酸化物にはいたらなかったと評価されている。これは、下部プレナム堆積時点では、Zr金属が相当残留していたことを示している。FPについては、燃料棒の形状が失われ、2300℃を超えるような高温になるため、中揮発性のFPも放出され始める。

3. 後期フェーズ

 炉心下部でいったん堆積したデブリは、Zrの比表面積が急減することにより、その酸化反応熱が抑制され、いったん温度低下する。堆積したデブリはデブリベッドと呼ばれ、その内部には、水蒸気が侵入しにくくなるため、崩壊熱でデブリベッドの中心部は再昇温・再溶融する。再溶融したデブリメルトは、次第に連結・拡大してデブリ溶融プール(コリウムプール)を形成する。デブリベッド下部の閉塞程度は、堆積物物中に供給される水蒸気流量に影響し、その結果としてコリウムプールの拡大や崩落の傾向にも影響する。再溶融したデブリは、短時間でメルトとして、あるいは徐々に固液混合状態で、下部プレナムに移行し、そこに残留する冷却水によって再度固化する。その後、冷却が回復しない場合には、崩壊熱でドライアウトし、再昇温・再溶融して、RPV破損に至る。このデブリベッド形成から下部プレナムへの移行、さらに、RPV破損に至るまでの過程を後期フェーズと言う。

 後期フェーズについては、コリウムプールが炉心のどの位置に形成されるか、あるいは、溶融デブリが下部プレナムにどのように移行するか等の傾向が、事故シナリオや炉型により異なる可能性が指摘されている[3,4]。典型シナリオとしては、TMI-2事故の解析に基づいて、次のような事故進展が考えられている。炉心上部から崩落したデブリが炉心部(冷却水の水位の直上)でいったん堆積・固化した後に、再溶融してコリウムプールを形成し、コリウムプールの周囲は断熱性のクラスト層で覆われる。クラスト層が次第に拡大するコリウムプールを支えられなくなると、一部破損して、溶融デブリが短時間で下部プレナムに崩落する。これに対し、BWRでは、制御棒が制御棒ブレードとして局所配置されていること等により、堆積物による閉塞が稠密になりにくく、コリウムプールが成長しにくい事故進展シナリオがあり得る。これをBWRドレナージシナリオと言い、この場合には、溶融物と未溶融物が混合しながら、次第に下方に移行すると推定されている参考9:BWRドレナージ型シナリオ)。BWRドレナージシナリオでは、下方に崩落する燃料デブリの平均的な温度が低くなる。


4. RPV内フェーズでの炉心物質の溶融に係る指標温度

 炉心には、燃料棒、制御棒、燃料集合体部材、など様々な構造物に由来する物質が存在しており、炉心溶融・崩落過程では、それらの相互作用が複雑に進行する。これを概略的に理解するために、基本となる炉心構成物質の融点や主要物質間の相互作用温度(共晶など)、模擬試験で観測された事象、解析モデルで想定している現象、などを温度上昇に対して示すことで、現象理解の指標として用いることができる。評価者によって様々なバージョンが作成されているが、ここでは、JAEAでの最近の検討結果に基づく温度指標を、図3として示す。


下部プレナム堆積以降のデブリふるまい

(以下、作成中)

 TMI-2事故では、炉心部で形成された溶融デブリの一部が下部プレナムに移行した段階までに、デブリベッドはほぼ再冠水しており、下部プレナムに移行したデブリは冷却されて固化し、事故は終息に向かった。

原子炉圧力容器内外フェーズ(ex-vessel phase)(準備中)

(図3,4を挿入予定、参考文献追加予定)


 以下では、それぞれの事故フェーズにおいて注目すべき燃料デブリふるまいのメカニズムについて解説する。

 参考1~参考6では、主に制御棒由来の鋼材やB4C、および、燃料棒やチャンネルボックス由来の未酸化のZrを主成分とする、『金属デブリ』の、RPV内でのふるまいにおける化学反応をまとめる。

 参考7~参考16では、主に核燃料や燃料被覆管を主成分とする、『燃料デブリ』の、RPV内でのふるまいにおける化学反応をまとめる。

 参考17~では、ex-vesselでのデブリふるまいにおける化学反応をまとめる。

参考1:制御棒の共晶溶融

制御棒の共晶溶融反応の概要

 1Fと同型の沸騰水型軽水炉(BWR: Boiling Water Reactor)における燃料集合体の形状を、図1[2]に示す。直径約1cmΦ、長さ約4mの燃料棒が、ジルカロイ製のチャンネルボックスといわれるケースに囲まれて、1体の燃料集合体を形成している。4個の燃料集合体の間に、制御棒を束ね十字型の断面を構成する制御棒ブレードが装荷されている。スクラム時には、制御棒ブレードが炉心下から炉心内に全挿入される。制御棒の内部には、顆粒状のB4Cが中性子吸収剤として充填されている。制御棒の被覆管およびブレード材はステンレス鋼である。1Fでは、B4CとSS(Feで代表)の重量比は、およそ0.82t:17.7t(表1[5])であり、B4C濃度に換算すると4.4wt%に相当する。さらに、B:Feモル比に換算すると、B:Fe = 約16:84に相当する。

 BWRでの冷却水喪失型(LOCA: Loss of Coolant Accident)のシビアアクシデントでは、冷却水が失われ、炉心・燃料温度が上昇すると、約1200℃以上で、制御棒ブレード内に配置された制御棒内で、中性子吸収剤のB4Cと制御棒被覆管のステンレス鋼(SS: Stainless Steel)の間で共晶溶融が急速に進展する。

 制御棒の共晶溶融における化学反応メカニズムは、制御棒被覆管と中性子吸収剤のそれぞれの主成分であるFeとBの間の相状態を示す、Fe-B二元系状態図図2[6])を用いて説明することができる。FeとBが共存する系では、その組成によって、金属間化合物(Fe2B、FeB)が形成され、これらとFeあるいはBの間で、それらの融点より低い温度で液相が出現する。これを共晶溶融と言い、図3中に赤矢印で共晶点を示す。共晶点の温度と組成では、静置系においてFe-B合金はすべて液相に変態することがわかる。制御棒の共晶溶融は、これらのうちFeに近い方の共晶点(図3中左側、B濃度:16.6mol%、共晶温度:1436K(1163℃))での反応に相当する。

静置系と制御棒形状での共晶溶融の反応進展の違い

 1F炉心平均でのB:Feモル比16:84(図2中の青矢印)は、ほぼ共晶組成に相当している。したがって、静置系では、制御棒は、約1200℃でほぼ均質に溶融し、それが凝固すると均質な合金を形成すると考えられる。ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT: Karlsruhe Institute of Technology)が実施した静置系での制御棒溶融試験では、4wt%のB添加でSSがほぼ均質に溶融していることが確認されている。(図3[7])

 これに対し、実際の制御棒は全長約4m、直径7~8mmΦの細長い棒状であり、さらに、制御棒ブレードという断面十字型のケース内に装荷されているため(図1)、形成される液相は次々に溶落すると考えられる。このため、液相化の進展にともなって、軸方向に組成の非均質化が発生する。Fe-B二元系状態図からは、Fe中にわずかにBが溶融しただけで液相が出現(図2中の緑矢印)すると推定される。このFeリッチな液相が軸方向に先行溶落すると、制御棒の上部はB4Cリッチな物質が残留すると考えられる。事故が進んで、さらに温度上昇すると、制御棒の上部に残留した物質も溶融し、あるいは破損して機械的に下方へ崩落すると考えられる。

 1Fのような国内のBWRでは、中性子吸収剤として顆粒状のB4Cが用いられている。したがって、実際の制御棒の破損溶融では、一部のB4CはSS液相に溶融して先行溶落するが、相当量のB4Cは顆粒状を維持し、その周囲をSS液相に覆われたのちに、粒子状で崩落すると推定される。

崩落途中、及び、崩落後の制御棒溶融物のふるまい

 制御棒の共晶溶融では、SS(Fe)にわずかにBやCが溶融した合金が先行溶落し、次に、残留した顆粒状のB4Cが周囲をSS合金で覆われて、機械的に崩落する。JAEAが実施した制御棒ブレードの破損模擬試験では、破損した制御棒断面で顆粒状のB4Cが残留し、周囲をSS合金で覆われていることが確認されている。また、残留したB4CとSS液相の界面に、Cr2BやFe2Bなどの金属間化合物が析出することも確認されている。これらは、系全体が平衡に向かう途中で形成される中間生成物であり、実際に事故で発生する制御棒溶融物の中にも存在している可能性がある。(図4[8])

 BやCが溶融したSS液相や、周囲をSS液相で覆われたB4C顆粒は、崩落過程で水蒸気に曝される。したがって、含有されるBやCは次第に酸化され、HBO, H3BO3, CO, CO2等の化学形で蒸発すると推定される。一方で、金属メルトは表面に不働態層が形成されやすく、バルクは酸化されにくい傾向を持っている。このため、残留したB4C、SS中に固溶したBやC、およびその金属間化合物の相当量は、崩落・堆積以降でも金属デブリ中に保持される可能性が高い。

 破損・溶融した制御棒(ここでは、金属デブリと称する)は、炉心の下方に移行し、いったん堆積する。この時、冷却水の水位が重要因子となる。崩落した金属デブリの大部分は冷却水水位の直上あたりで、いったん堆積し、閉塞を引き起こすと考えられている。他方、閉塞部がさらに温度上昇して再溶融した金属デブリは、下部プレナムに崩落し、残留する冷却水と接触し、いったん凝固すると考えられる。再溶融温度は、参考2で示すFe-Zr系の共晶溶融温度(約1000-1300℃)から、Fe2Zr化合物の融点約1650℃あたりと推定される。(参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融

制御棒の共晶溶融で発生した金属デブリの特徴

 下部プレナムまで崩落し、いったん凝固した金属デブリは、(i) BやCをわずかに固溶したSS材、(ii) 未溶融のB4C顆粒、(iii) SS(Fe)-B系の金属間化合物、および、参考2で述べる、(iv) 溶融SS材とZryチャンネルボックスの共晶反応生成物等の混合物、等から形成されていると推定される。(参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融

 いったん下部プレナムに堆積した金属デブリ中に残留する、未溶融のB4Cや様々な金属間化合物は、崩壊熱により金属デブリが再溶融する際に、次第にSS-Zr合金を主成分とする液相中に溶解し、均質化すると推定される。(参考3:金属デブリの再溶融

参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融

制御棒溶融物とチャンネルボックスの共晶溶融反応の概要

 制御棒ブレードの共晶溶融で先行溶落したBやCを含有するSSメルトは、制御棒チャンネルの下方で、Zry製のチャンネルボックスとの隙間で、いったん凝固し、閉塞する(参考1:制御棒の共晶溶融)。

 1Fでは、制御棒ブレードを構成するSS(Feで代表)とチャンネルボックス(Zrで代表)の重量比は、17.7t:18.7tである(表1[5]) 。これを、Fe:Zrのモル比に換算すると約3:2に相当する。チャンネルボックスが約50%酸化していたと仮定すると、Fe:Zr金属のモル比約3:1に相当する。

 制御棒溶融物とZryとの共晶溶融メカニズムは、Fe-Zr二元系状態図図1[6])を用いておよそ説明することができる。Fe-Zr系では、組成によって、金属間化合物Fe2ZrとFeZr2, FeZr3等が形成されるが、このうち、主に共晶溶融反応に寄与するのはFe2Zrである。系の平均組成に応じて、Fe2ZrとFeあるいはZrの間で、共晶反応が出現する。これを図中に赤矢印で共晶点として示す。制御棒溶融物とZryが、準静的な条件で接触する場合には、Zryの酸化度に応じて、Feリッチ側あるいはZrリッチ側の共晶溶融反応が発生すると考えられる。これらの共晶反応では、Fe2Zr化合物とFeリッチあるいはZrリッチな液相がそれぞれ形成される。

 Zrは、単体では比較的融点の高い金属だが、Zr濃度が高い条件で、数mol%のFeが共存すると、共晶温度1000℃(1273K)でも金属メルトを形成する性質を有する。このことは、金属デブリの再溶融時のふるまいに大きく影響する。

静置系と制御棒/チャンネルボックス形状での共晶溶融の反応進展の違い

 実際の体系では、軸方向に温度勾配があるため、炉心上部で形成された制御棒の溶融物は、制御棒ブレードとチャンネルボックスの隙間を溶落し、残留する冷却水水位の直上あたりで、いったん凝固し閉塞すると考えられる。閉塞の様子は、JAEAの実施した模擬試験でも確認されている。(図2[8])

 チャンネルボックスの下の方は、冷却水から露出した直後で、まだ温度が上がっておらず、Zrの酸化が進みにくい。したがって、閉塞部位あたりでのFe:Zrモル比は、Zrリッチ側によっていると考えられる。このことから、閉塞部では局所的にZrリッチ側の共晶溶融(図2中の緑矢印)が発生すると考えられる。Zrリッチ側の共晶溶融では、Zrを多く含む溶融温度1000℃以下の液相とFe2Zr固相が形成される。Zrリッチな液相が先行溶落すると、閉塞部にはFe2Zrが多く残留する。

崩落途中、及び、崩落後の制御/チャンネルボックス溶融物のふるまい

 制御棒ブレードとチャンネルボックスの閉塞部(図2[8])には、上方から、SSメルト、B4C、ホウ化物などが崩落してくる。一方で、閉塞部が温度上昇することで形成されるZrリッチの液相(共晶溶融温度1000℃(1273K)以下)は下方に先行溶落する。これらから、金属間化合物Fe2Zr等を主成分とする物質が閉塞部に残留すると考えられる。その融点は約1657℃(1930K)であり、閉塞部の温度が上昇することで、この金属間化合物も再溶融し、下方に移動すると考えられる。この温度条件(約1000-1657℃)では、チャンネルボックス内のに装荷されている燃料棒は、表面が酸化されるが、まだその形状を維持している。

 これらのことから、金属デブリによる閉塞は、温度上昇にともなって、いったん解消されると考えられる。一方で、チャンネルボックスの溶融が進むと、溶融物が径方向に拡大して燃料棒と接触し、炉心の下の方で、燃料棒の破損・溶融が促進される可能性が考えられる。BWRでは、炉心の閉塞・再溶融傾向が場所や物質によって異なるため、炉心全体とし非均質に溶融・崩落がすすむ可能性が考えられる。これをBWRドレナージ型のデブリ崩落という(参考9:BWRドレナージ型シナリオ)。

 ここでも、金属デブリや燃料デブリが崩落した時の冷却水の水位が重要因子となる。

制御棒とZryの共晶溶融で発生した金属デブリの特徴

 下部プレナムに崩落した金属デブリは、冷却と接触し、いったん凝固すると考えられる。下部プレナムに崩落した直後の金属デブリは、(i) BやCをわずかに固溶したSS材、(ii) 未溶融のB4C顆粒、(iii) SS(Fe)-B系の金属間化合物、および、(iv) 溶融SS材とZryチャンネルボックスの共晶反応生成物の混合、等を主成分としていると推定される(参考1:制御棒の共晶溶融)。

 金属デブリの主成分は、Fe-Zr-B三元系状態図図3[6])でおよそ理解できる。Feリッチな合金にZrやBが溶解した相、Zrリッチな合金にFeやBが溶解した相、各種の金属間化合物が混合していると推定される。さらに、未溶融のB4C顆粒や、中間生成物であるCr系の化合物、等も共存すると考えられる。状態図から、下部プレナムにいったん堆積した金属デブリ中に残留する、未溶融のB4Cや中間生成物の各種金属間化合物は、崩壊熱により金属デブリが再溶融する際に、次第にSS-Zr液相中に溶解し均質化すると推定される(参考3:金属デブリの再溶融)。

参考3:金属デブリの再溶融(下部プレナムにいったん堆積した後)

金属デブリの再溶融反応の概要

 1F事故条件では、様々な成分を含んだ金属デブリは下部プレナムに崩落し、冷却水と接触していったん凝固したと推定される。

 堆積後に、崩壊熱により、冷却水がドライアウトし、ついでデブリの再昇温・再溶融に進むと考えられる。デブリ全体としての再溶融については、参考11でまとめた。一般的にな傾向として、金属デブリ成分が先に溶融開始すると考えられるが、金属デブリと酸化物デブリの下部プレナムでの堆積・混合状態の違いが、溶融進展に影響すると推定される。(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融

 しかし、金属デブリと酸化物デブリの混合状態については、不確かさが大きい。以下には、現状の事故進展解析に基づく定性的な検討結果を示す。

 2,3号機では、燃料デブリより先に金属デブリの一部が下部プレナムに溶落したと推定される。一方、1号機では、TMI-2事故シナリオと同様に、炉心部で溶融デブリプールが形成され、溶融した燃料デブリが先に下部プレナムに移行した可能性が高いと推定されている。

 デブリ崩落時に下部プレナムに残留していた冷却水の物量については、2,3号機では、SRV弁開放操作やADSの作動により冷却水水位がBAF以下に低下した後に、ある程度の注水に成功していることから、BAF近くまで水位が維持されていたと考えられる。これに対し、1号機では、SRV弁からのリークが継続し、ほとんど注水されていないため、冷却水の水位は、BAFよりさらに低下していたと推定される。

 これらから、2,3号機では、デブリ本体と残留していた金属デブリが混合しながら下部プレナムに崩落したと考えられる。崩落時に、燃料デブリの温度が相対的に低く、粒子状の固体酸化物が主に崩落したと推定される2号機では、下部プレナムへの崩落・堆積後に、金属デブリ(塊状)と酸化物デブリ(粒子状)が、分離されやすかった可能性が考えられる。比較的高温で、塊デブリが崩落したと推定される3号機では、金属デブリ(塊状)と酸化物デブリ(塊状)が、混合しやすかった可能性が考えられる。(参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇

 これに対し、1号機では、溶融デブリ(U-Zr-Oメルト)が先に崩落した後に、冷却水水位が低かったため、炉心下部から炉心支持板あたりに残留していた物質が混合して崩落した可能性が考えられる。定性的には、金属デブリと酸化物デブリが分離して堆積していた2号機と、混合状態であった1,3号機と示唆される。このことから、2号機では、金属デブリの再溶融が進みやすかった可能性がある。

 いったん堆積した後の金属デブリが、崩壊熱で再溶融する際には、温度上昇にともなって様々な成分がお互いに溶融しあい、溶融合金中で均質化していくと推定される。また、酸化物デブリの酸化度が比較的低く、その再溶融時にU-Zr-Oメルトが形成される場合には、溶融金属デブリとU-Zr-Oメルトとの溶融・混合も発生すると考えられる。(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融

 ここでは、金属デブリの再溶溶融反応と、そこに酸化物デブリが共存状態していた場合の影響について、概要をまとめる。下部プレナムでのデブリ再溶融反応の詳細は、参考11に示す。

金属デブリの再溶融反応の特徴

 下部プレナムに堆積した状態は、準静置系にとみなす事ができる。したがって、金属デブリ再溶融反応の特徴は、その主成分となるSS(制御棒ブレード材、燃料集合体部材等、Feで代表)、ジルカロイ(チャンネルボックス、Zrで代表)、B4C(中性子吸収剤)の炉心平均組成での溶融パスを示すことで、およそ理解できる。1Fで炉心部に装荷されていたB4C:Fe:Zrのモル比は、およそ2.8:59.0:38.2と与えられる。再溶融パスは、この組成における熱力学的に予想される最安定相の温度変化を示した図である。(図1[JAEAでの解析])(表1[5])

 解析結果から、低い温度では様々な金属間化合物が熱力学的に安定となるが、約900℃(1173K)で、金属デブリの再溶融が始まることがわかる(緑矢印)。この温度は、参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融で示した、Zrリッチ側での共晶溶融に相当し、形成される液相はZrリッチと考えられる。一方で、約900℃では、Fe2ZrやZrB2などの化合物は固相として残留する。この反応メカニズムは、参考4:再溶融した金属デブリとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融でも発生する。B4Cは、この系における最も安定な相ではないため化学平衡計算では現れないが、実際の系では残留しており、約900℃以上で形成される金属メルト中に溶融すると考えられる。中間生成物としてZrB2を形成する可能性がある。また、実際の系では、Cr系のホウ化物も中間生成物として形成されると考えられるが、金属デブリの再溶融パスでの液相出現と液相拡大の傾向には、マイナー成分であるCrはあまり影響しないと推定される。

 図1において、約1280℃(1553K)で、炭化物を除くすべての金属間化合物は金属メルト中に溶融する(青矢印)。金属デブリメルトの温度上昇にともなって、CRDやCRGTなど鋼材が溶融・混入するため、金属デブリメルトは次第にFeリッチとなると推定される。BWRでは、PWRに比べて、炉心部および炉心より下部に、かなり多くの鋼材(燃料に対する重量比として、PWRの約4倍)が存在している(表2[9])。金属デブリメルト中に、どの程度鋼材が溶融するかは、RPVの破損モードに影響すると考えられる。(参考4:再溶融した金属デブリとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融)

 さらに、金属デブリメルト中に溶融したBやCは、次第に水蒸気酸化して蒸発していくと考えられる。

金属デブリと酸化物デブリの混合状態での再溶融反応の特徴

 金属デブリと酸化物デブリが混合した場合の再溶融反応の特徴は、UO2(燃料主成分)、Zr(燃料被覆管とチャンネルボックスの主成分)、Fe(制御棒ブレード、その他燃料集合体部材の主成分)の平均組成での再溶融パスを示すことで、およそ理解できる。なお、この解析では、炉心崩落過程でZrの50%が酸化しZrO2に変化したと仮定した。鋼材については、炉心部に装荷されていた物量のみが溶融したと仮定し、炉心支持板たCRGT等が溶融する効果は見ていない。また、計算の単純化のため、B4Cは無視した。(図2[JAEAでの解析])実際には、Zr酸化度は、下部プレナムでのデブリ再溶融メカニズムに大きく影響し、その結果として、RPV破損モードやデブリ分布、デブリ特性に大きく影響する。詳しくは、参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇で考察する。1Fでは、事故シナリオ解析により、号機ごとにZr酸化度が異なっていたと評価されている。酸化度の高い順に、2号機>3号機>1号機と評価され、現状の解析では、Zr酸化度はおよそ50~80%の範囲と推定されている[10]。したがって、図2の解析は、Zr金属が比較的多く残留する条件に相当する。なお、B4Cについては、図1で示したように、金属デブリメルト中に均質に溶融し、さらに、水蒸気酸化により蒸発すると考えられる。

 解析結果から、比較的低い温度では、UやZrの二酸化物からなる酸化物デブリと、未酸化のZr(α-Zr(O))、および、Fe2Zrの共存状態が熱力学的には最も安定と評価される。実際の体系では、これらに加えて、残留B4Cや中間生成物(ホウ化物、SS合金相)などが共存していると考えられる。この組成条件では、約1220℃(1493K)で、デブリ溶融が始まる(図2中の青矢印)。金属デブリ中のZrがある程度酸化している場合には、上述した金属デブリのみの条件での金属デブリの溶融開始温度(約900℃)より、約300℃高い温度まで固相状態が維持(約1200℃まで)される。さらに、形成される金属メルト中にはUが数mol%溶融する(Fe-U-Zrメルトの形成)。さらに温度上昇すると、約1220℃(1493K)~約1360℃(1633K)にかけて、金属デブリメルト中に金属間化合物が溶融するため、液相の割合は温度上昇に伴って増加する。一方で、酸化物デブリの大部分は、二酸化物の固相として、金属デブリメルトと共存する。熱力学的には、約1360(1493K)~約2450℃(2723K)の広い温度範囲で、二酸化物の固相とFe-U-Zrメルトが共存する系が安定となる。約2450℃(2723K)以上に達すると、酸化物固相が溶融してU-Zr-Oメルトを形成することで、金属デブリメルトと酸化物デブリメルトが共存する状態となる。

 実際の体系では、下部プレナム全体が平均的に溶融進展することはなく、堆積位置によって、異なるデブリ組成、酸化度、温度に基づいて、局所的な反応が進むと考えられる。しかし、熱力学解析により、下部プレナムでのデブリふるまいの化学的な特徴を概略理解することができる。また実際の体系では、酸化物デブリと金属デブリがすべて溶融する前に、RPV鋼材や溶接部との共晶溶融反応により、デブリはペデスタル内に移行すると考えられる(参考4:再溶融した金属デブリとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融)。

 これらの状態図解析から、Zrの酸化度がさらに上昇すると、Fe-U-Zrメルトの物量が減少すること、一方、CRGT等が溶融するとFe-U-Zrメルトの物量が増加することが推定される。したがって、RPV破損時点までに、酸化物デブリ(固相)と金属デブリメルトの共存状態がどこまで進んでいたか、および、金属デブリメルト中にCRGT等の鋼材がどの程度溶融していたか、が、デブリ分布やデブリ特性評価の重要因子となる。

参考4:再溶融した金属デブリとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融

金属デブリメルトとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融反応の概要

 様々な成分を含んだ金属デブリは、下部プレナムに崩落後、冷却水と接触していったん凝固したと推定される。

 いったん堆積した金属デブリ中に、Zr金属が残留している場合、再溶融時に金属デブリメルトを形成すると推定される。

 金属デブリメルトとCRD溶接部などとの局所的な共晶溶融反応が発生すると、比較的低い温度で、局所的なRPV破損が発生する可能性がある。ここでは、金属デブリによるRPV下部ヘッド破損試験の結果を示す。

RPV下部ヘッド破損模擬試験の概要

 JAEAでは、金属デブリによる、CRD溶接部の局所破損の様子を調べるため、模擬試験を実施した。(図1[11])

 その結果、模擬金属デブリの昇温過程(約930℃)で、Zrリッチ成分の金属デブリメルトが形成されたることが確認された。また、金属デブリメルト中に、CRDスタブチューブやCRDハウジングが溶融することで、金属デブリメルトの組成が次第にFeリッチに変化し、Fe-Zr二元系状態図で示されるFeリッチ側の共晶温度(約1300℃、参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融)まで温度上昇するにつれて、金属デブリメルトによる溶融範囲が拡大することが確認された。さらに、Niが存在する部位では、局所的な溶融反応が促進される傾向が観測された。

 実際の体系では、金属デブリメルトの広がりに伴って、RPV内壁との濡れ性が向上するため、RPV破損モードの検討においては、RPV鋼材と下部プレナム堆積物全体としての伝熱解析を実施する必要がある。(参考5:2号機下部プレナム堆積物の伝熱解析

図1 RPV下部ヘッド破損試験の概要[11]























参考5:2号機下部プレナム堆積物の伝熱解析

検討の概要と解析条件

 JAEAで実施された1F事故進展基盤研究に関わる分科会[12]において、1F事故進展の理解の深化に向けた専門家意見交換が行われ、デブリのふるまいに係る重要2課題として、(i) RPV下部プレナムでのデブリ堆積からRPV破損に至る過程でのデブリふるまい、(ii) ペデスタル内に崩落したデブリの深さ方向の状態変化、が週出された。ここでは、課題(i)の検討例として、2号機での下部プレナム堆積物の伝熱解析[13]の概要を示す。

 解析では、実機設計データを参照して、下部プレナムにCRGTを配置し(図1[13])、また、2号機のミューオン測定で評価された燃料デブリの堆積厚さ約1.5m[14]を参照してデブリを配置した(図2)。デブリ物量、組成、温度などの解析のオンセット条件として、2号機事故進展のMAAP解析結果に基づき、2号機でデブリが下部プレナムに崩落し、冷却水がドライアウトした条件(スクラム後85.5時間)を選定した。

デブリとCRDハウジングの温度変化と液相化に係る解析結果の要点

 解析結果の要点は、T. YamashitaらのICEM-2023国際会議発表資料[13]、解析結果の詳細は、廃炉処理水対策事業報告書[11]に掲載されている。主な結果を以下に示す。(図3[11])

 デブリドライアウトから約8時間経過すると、デブリ温度とCRDハウジングの温度が、約1700Kに到達した。参考3:金属デブリの再溶融で述べた金属デブリの再溶融の特徴を考慮すると、この温度では、CRDハウジングと金属デブリは共晶溶融し、相互に混合すると評価された。さらに、デブリとCRDハウジング温度は約1900Kまで、なだらかに上昇するが、それ以上の温度には昇温しない結果が得られた。金属デブリとCRDの溶融物が拡大すると、そこからの放熱と崩壊熱がバランスするため、約1900Kよりは温度が上昇しないと推定された。この温度条件は、金属デブリ溶融物と酸化物デブリの固体が共存している状態に相当する。

RPVの温度と応力変化に係る解析結果の要点

 RPV壁の温度と応力解析を実施したところ、RPV壁の温度は、底部中心部で最も高く、側面に向かってなだらかに低下する結果が得られた。(図4[13])

 応力については、デブリが堆積した直後に大きな応力が発生するが、まだRPV温度が高くないため、いったん緩和されると評価された。その後、デブリの温度上昇に伴って、再度応力が発生し、底部中心部で低く、側面に向かうにつれて大きくなる結果が得られた。

 これらの結果から、クリープ損傷の程度を評価したところ、RPV側面にクリープ損傷が集中すると評価された。これは、2号機で、一部未溶融の燃料集合体部材などが、ペデスタルに崩落していたという観測事実から、2号機RPVの底部側面には、大規模な破損孔があるという推定結果と整合している。

図4 RPV壁の温度と応力、クリープ損傷の解析結果[13]































参考6:金属デブリの再酸化(作成中)

参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム

事故初期フェーズでの燃料棒の溶融・破損の概要

 ここでは、初期フェーズで発生する、燃料棒の溶融・破損の概要を説明する。

 軽水炉過酷事故における燃料棒の溶融・破損現象は、約1900℃(2173K)以上で、UO2燃料ペレットとZry被覆管の界面で急速に液相化が進み、約2000~2300℃(2273~2573K)(被覆管の酸化度や燃料の昇温速度に依存して変化)で、粒子状あるいは塊状のデブリとして崩落する『スランピング』現象として理解するのが適切である。(図1[4])

 燃料ペレットと被覆管界面での液相化で形成される物質は『U-Zr-Oメルト』と言われる溶融物であり、二酸化物の溶融物ではなく、亜酸化状態のメルトであることに注意が必要である。このU-Zr-Oメルトと、溶け残ったUO2ペレット、酸化した外周部の被覆管(主成分:ZrO2)が、スランピングする物質の主要な成分となる。

 メルトダウンという言葉からは、炉心上部で溶融した燃料が、燃料棒に沿って溶け落ちる『キャンドリング』現象が想像されるが、これは燃料の崩落においてはマイナー事象と考えられている。

 また、燃料集合体内には、燃料棒を支えるために支持格子やスプリングが装荷されている。これらは、ステンレス鋼やインコネル製であり、Zry被覆管との間で、1900℃(2173K)より低い温度で共晶溶融を引き起こすと考えられる。この反応は、局所的に燃料集合体の崩落を促進すると考えられている。

 定性的な傾向として、スランピング開始温度が高くなると、外周で被覆管の酸化が進んで、その内側にU-Zr-Oメルトが保持され、拡大しやすくなるため、崩落時に塊状デブリの割合が増加すると考えられている。逆に、スランピング開始温度が低い場合には、U-Zr-Oメルトが成長せず、粒子状の物質が多く崩落すると考えられる。外周部での被覆管酸化は、昇温速度や雰囲気中の水素/水蒸気比、圧力等に応じて変化すると考えられる。

 崩落時のデブリが、塊状か、粒子状かは、崩落途中のデブリ酸化度の上昇傾向に影響する。

 デブリの酸化度や崩落時の形状は、下部プレナムでのデブリ堆積状態に影響し、その結果、デブリの再溶融現象に影響する。

#備考:共晶溶融について・・ 『UO2とZryは、共晶で溶融する』と言われることが多い。しかし、厳密には、UO2とZryの液相化現象は、共晶型の溶融現象とは異なる。共晶型の溶融では、熱力学的に定まる定温の共晶温度で溶融開始し、それ以下の温度では液相は出現しない。 これに対し、UO2とZryの液相化反応では、すでに1500℃以下の温度において、Zrによって一部還元されたUがU-Zr合金を形成し、界面近傍でこれが液相化する。比較的低温では出現する液相の物量は限定的だが、原理的に共晶型の溶融反応と異なるメカニズムで液相が出現する。温度がおよそ1900~2000℃(事故時の昇温速度や被覆管酸化度に依存して変動、共晶反応でないため定温ではない)に到達すると、残留していたZry(α-Zr(O)、β’-Zrと言われる)が液相化し、これをきっかけにU-Zr-Oメルトが急速に拡大する。さらに温度上昇すると、U-Zr-Oメルト中に残留したペレットや酸化した被覆管が溶解することで液相範囲が拡大する。このようにUO2とZryの液相化現象は、ある温度以上で急速に液相化が進むため、みかけの反応が共晶型の溶融に類似している。[4]

図1 事故初期フェーズでの燃料溶融進展模式図[4]














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初期フェーズでの燃料棒溶融の化学反応メカニズムについて

約1900℃以下

 約1900℃以下では、UO2ペレットとZry被覆管の間で、成分拡散と局所的な液相化が進展する。この時の燃料棒内の状態は、U-Zr-O三元系状態図と、Zry/UO2反応断面の模式図を使って理解することができる。(図2[4,6,15])

 通常運転中の燃料棒内では、燃料ペレットの中心部から被覆管に向かっておよそ1500℃の温度勾配が形成される。被覆管表面の温度はおよそ350℃である。BWRでは、Zry被覆管の表面におよそ20μmの酸化被膜が形成されている。事故により炉心がスクラムすると、核分裂反応が停止し、崩壊熱による発熱のみが維持されるため、燃料棒径方向の温度勾配は急速に緩和され、温度分布は平坦化する。

 冷却水が喪われると、崩壊熱の除熱能が不足するため、燃料温度(被覆管温度)が次第に上昇し、それに伴って、熱膨張により燃料と被覆管の間のギャップが閉塞する。低圧条件で事故進展する場合には、約700-800℃で、燃料棒内圧によりZry被覆管が一部で破裂(バルーニング現象)し、燃料棒の一部に水蒸気が侵入するが、ここでは、詳細は割愛する。ギャップが閉塞すると、燃料ペレット側からZry被覆管側に酸素が拡散し、UO2~β-Zry相に向かう、燃料ペレット側の拡散パスが形成される。これを図2中の状態図と反応層模式図に、それぞれ、茶色の太線、で示す。Zrが酸素を奪うことで、若干のUが還元され、U-Zr合金の液相(U-Zr-Oメルト)を形成し、燃料/被覆管の界面近傍でα-Zr(O)と共存する。これは、U-Zr-O状態図中の領域①:固液混合状態に相当する。

 他方、被覆管外周から内部に向けて酸素が拡散し、ZrO2~β-Zr相に向かう被覆管外周側の拡散パスが形成される。これを図2中に、それぞれ、青色の太線、で示す。U-Zr-O状態図に描かれる拡散パスは、Hofmannらの実験による観測結果[15]を合理的に説明している。このような、燃料棒内部の相状態は、それぞれの反応層が温度上昇にともなって成長しつつ、約1400~1900℃(1673~2173K)の温度範囲で発生していると考えられる。

#備考:切り株燃料集合体での燃料ペレット/被覆管界面の状態について・・ 1FのRPV内に、切り株燃料集合体が残留していた場合、燃料棒の形状は維持されているが、燃料/被覆管の界面では、ここで示したような反応生成物が冷却・固化され残留している可能性がある。すなわち、切り株燃料の外周部は酸化し、燃料/被覆管界面には、金属Uを少量含む合金層が形成されている可能性がある。

図2 U-Zr-O三元系状態図(1800℃)とUO2ペレットとZry被覆管の反応層模式図[4,6,15]




















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約1900~2000℃

 燃料(被覆管)温度が、約1900-2000℃に達すると、燃料/被覆管界面でのU-Zr-Oメルトの範囲が急速に拡大する。この現象もU-Zr-O状態図(図3[4,6])用いて理解することができる。約1900-2000℃では、図3の右側模式図に示したように、燃料/被覆管の拡散パス内に形成された金属層がほぼすべて液相化することで、U-Zr-Oメルトが急速に拡大する。外周には酸化した被覆管が、内側にはUO2ペレットが残留する。この状態は、U-Zr-O状態図上で、UO2とα-Zr(O)を結ぶ線(図3中にオレンジ色の太線で記載)のうち、α-Zr(O)に近い部分に向けて、U-Zr-Oメルトの組成領域が広がることに相当する。これを、図中に矢印②で示す。

 U-Zr-O状態図上で、U-Zr-Oメルト相が、UO2とα-Zr(O)を結ぶ線を横切る温度は、およそ2050℃であり、これが、共晶溶融モデルでの燃料溶融開始温度に相当する。この時点では、燃料デブリの平均的な酸化度は、図3中の黄色丸印()で示される。亜酸化状態が維持されていることに留意する必要がある。

 この時までに形成される被覆管外周の酸化皮膜の厚さにより、その後の崩落温度が影響を受けると考えられている。現状の理解では、U-Zr-Oメルト放出の閾値として、外周ZrO2皮膜厚さ250μmが目安とされている。外周部のZrO2がU-Zr-Oメルト中に溶融し、その厚さが250μm以下になると、被覆管酸化膜が破れ、溶融燃料が放出されると理解されている。

#備考:燃料デブリの崩落条件について・・ 典型的なLOCA条件で事故が発生する場合には、冷却水の水位が少しずつ低下し、炉心の上部から次第に水蒸気中に露出して、燃料被覆管やチャンネルボックスの酸化が進むと考えられる。この事故シナリオでは、燃料温度が1900~2000℃に達する以前に、外周部でZrO2皮膜が厚く形成されるため、U-Zr-Oメルトが燃料棒内に保持されやすくなる。このために、燃料の崩落開始温度が比較的高くなり、塊状のデブリが崩落しやすい。この場合、U-Zr-O状態図から熱力学的に予想される燃料溶融開始温度2050℃(2323K)では、あまり燃料が崩落しないと考えられる。この現象を背景として、シビアアクシデント解析コードでは、実際に起こる『スランピング』現象に対応させて、燃料溶融・崩落温度(みかけの共晶温度)として約2223℃(2500K)が採用されている。

 これに対し、1F2,3号機では、冷却水水位が短時間でBAF以下まで低下する事故シナリオが発生したと考えられている。この場合には、炉心部への水蒸気供給が抑制されるため、一時的に水素が充満する水蒸気枯渇雰囲気になっていた可能性が示唆される。水蒸気枯渇雰囲気下では、被覆管の酸化が抑制されるため、燃料の崩落温度が比較的低くなり、かつU-Zr-Oメルトがあまり成長しないため、粒子状のデブリが崩落しやすい。1Fでは、粒子状デブリ崩落の傾向に向かいやすい順に、2号機>3号機>1号機と考えられている。

図3 U-Zr-O三元系状態図(2000℃)とU-Zr-Oメルト形成の模式図[4,6]



















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トランジエントフェーズでの燃料棒溶融・崩落中の化学反応メカニズムについて

 燃料(被覆管)温度が約2000-2300℃に到達し、一部溶融した燃料が崩落(スランピング)して、RPVの下方に堆積する過程を、トランジエントフェーズという。トランジエントフェーズにおける、溶融・破損燃料の化学的な状態も、U-Zr-O状態図(図4[4,6])用いて理解することができる。デブリ崩落中には、水蒸気酸化により、燃料デブリの平均的な酸化度が次第に上昇する。これを図4中に経路③として示す。一般に、いったん塊状となったメルトの内部は酸化されにくいため、崩落中であっても、燃料デブリの平均的な酸化度は、亜酸化状態を維持すると考えられる。これは、図4において、黄色丸印(で示されるデブリの平均酸化度が、UO2とZrO2の間に広がる二酸化物固相の存在範囲よりも下に位置していることで示される。

 現状の1F1~3号機の事故進展解析では、下部プレナムに崩落した時点でも、被覆管やチャンネルボックス主成分であるZrの酸化度は100%に達していないと評価されている(高々70%程度)。これは、トランジエントフェーズでは、亜酸化状態が維持されるという、熱力学的な予測と整合している(参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇)。

 一方で、燃料温度が2200-2300℃を超えると、U-Zr-O状態図において、二酸化物より高酸化度側(図4中紫色の丸で示す()にも、U-Zr-Oメルトが存在しうることがわかる。このことから、炉心内で温度が上昇しやすい領域が局所的に形成される場合には、トランジエントフェーズにおいて、Uリッチな酸化度の高いメルトも形成されうることが示唆される。この相は、ガス相とも平衡しており、蒸発しやすいと考えられる。

#備考:(U,Fe)を含む粒子の分析結果について・・ 1号機のシールドプラグスミア、3号機のペデスタル内調査ROVのスミア、等からは、(U,Fe)O2を主相とし、ZrO2をほとんど含まないU粒子が検出されている。これは、上述の高い酸化度のU-Zr-Oメルト由来の可能性がある。一方で、1号機のD/W堆積物、3号機のペデスタル内調査ROVのスミア、等からは、α-Zr(O)相を含むU粒子が検出されている。これは、亜酸化U-Zr-Oメルトからの凝固に由来する可能性がある。(U含有粒子の特性のまとめを参照

#備考:下部プレナムでの燃料堆積条件について・・ 1F1~3号機では、下部プレナムに崩落した直後の燃料デブリは、平均的には、亜酸化状態を維持していたと考えられる。下部プレナムでのデブリ再溶融過程は、堆積したデブリの酸化度、CRGT等のもともと下部プレナムにあった鋼材との接触・溶融の程度、再溶融デブリの最高到達温度に大きく影響を受け、それ以降の、RPV破損からデブリのペデスタルへの移行にも影響する(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融参考15:MASCA模擬試験

 一方で、デブリ再溶融時にも、水蒸気との反応で局所的に酸化度が高い溶融デブリが形成される可能性があり、そこでは、デブリが蒸発しやすくなる可能性が考えられる(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融)。

図4 U-Zr-O三元系状態図(2300℃)[4,6]
















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参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇

デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇の概要

 トランジエントフェーズにおいて、燃料デブリは、粒子状あるいは塊状で崩落する。参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズムの項で示したように、燃料/被覆管界面でのU-Zr-Oメルトの成長と外周部での酸化皮膜の厚さにより、デブリが崩落開始する温度と、崩落するデブリの形状が変化する。U-Zr-Oメルトと外周の酸化皮膜がそれぞれ成長すると、デブリが崩落する温度が高くなる。炉心の持っている熱エネルギー(炉心エネルギー)に置き換えると、炉心エネルギーが大きい状態で燃料デブリが崩落することに対応する。逆に、U-Zr-Oメルトと外周酸化皮膜があまり成長しない場合には、比較的低い温度で燃料デブリが崩落する。すなわち、崩落時の炉心エネルギーは小さくなる。一方で、燃料デブリは、崩落開始前には、平均的には亜酸化状態である。したがって、崩落途中で、水蒸気と反応して酸化度が上昇する。酸化進展の傾向は、デブリの形状に影響を受ける。一般に、粒子状のデブリは酸化が進みやすく、塊状のデブリは酸化が進みにくい。

 ここでは、トラジエントフェーズでの燃料デブリのふるまいにおける、2つの重要因子、炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇についてまとめる。

炉心エネルギーの上昇

 炉心が空焚き状態になると、崩壊熱で燃料(被覆管)温度が上昇する。温度がおよそ1200~1400℃以上に達すると、Zrの水蒸気酸化が急速に進み、その反応熱によって燃料温度が、数℃/秒というレベルで急速に上昇する。炉心温度の上昇は、炉心の部位によって異なり、一般には早期に露出する炉心上部で温度上昇しやすい。また、炉心の中央部では温度が上昇しやすくなる。また、炉心温度の上昇は、事故シナリオに応じた冷却水の水位変化にも影響を受ける。

 炉心の温度上昇は部位によってばらつくため、炉心全体での熱エネルギーの上昇に換算することで、1F1~3号機での事故シナリオの傾向の違いを理解することができる。

 1F2,3号機では、事故進展中に、SRV弁開操作(2号機)、ADS作動(3号機)によって、短時間で冷却水水位が炉心支持板以下まで低下し、炉心がボイド化するイベントが発生した。この際に起こる減圧沸騰により、燃料温度はいったん低下し、冷却水水位がBAF以下まで低下した。その後すぐに十分な注水が行われなかったため、炉心部では一定の期間、水蒸気枯渇条件が発生した。2号機では、炉心ボイド化イベントは、冷却水水位がまだ有効燃料長頂部(TAF: Top of Active Fuel Length)の上にある段階で発生したと推定されている。これに対し3号機では、冷却水水位がTAFを下回り、炉心上部での空焚きがある程度進行してから、炉心ボイド化が発生したと推定されている。炉心が短時間でボイド化すると、水蒸気枯渇条件下で、崩壊熱により燃料温度が上昇する。冷却水の注入で、水位が有効燃料長底部(BAF: Bottom of Active Fuel Length)上まで回復すると、燃料棒の水蒸気酸化が発生し、Zrの酸化熱によって、炉心温度がさらに上昇しつつ、水蒸気潤沢条件に復帰する。

 様々なSA解析コードで解析されている、2,3号機の炉心ボイド化以降の炉心温度の上昇を、炉心全体としての熱エネルギーの増加に換算した、JAEAの解析結果を図1に示す。炉心ボイド化時点での炉心エネルギーをオンセットとして評価している。2号機では、炉心温度があまり上昇しない(炉心エネルギーが蓄積しない)うちに、燃料の崩落(スランピング)が発生したという解析結果が得られた。3号機では、炉心温度がある程度上昇(炉心エネルギーが蓄積)してから、スランピングが発生したという解析結果が得られた。これは、3号機では、燃料デブリ崩落前に炉心上部が空焚き状態になっていたことに対応している。1号機では、急速な炉心ボイド化は発生せず、水蒸気潤沢条件を維持しつつ冷却水水位が徐々に低下したと考えられるため、3号機よりさらに大きな熱エネルギーを有してデブリ崩落した可能性が高い。

図1 1F2,3号機の炉心ボイド化以降の炉心エネルギーの変化 [10]














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1Fでのデブリ崩落と堆積の特徴

 図1の解析結果と、参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム参考1:制御棒の共晶溶融参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融、とを照らし合わせると、デブリ崩落について以下の特徴が推定される。

 2号機では、制御棒等の金属部材の溶落が水蒸気枯渇条件で進行し、この時点では水位が回復していないため、その大部分は炉心支持板の直上あたりでいったん堆積、一部は下部プレナムまで溶落したと考えられる。燃料棒については、被覆管外周の酸化皮膜があまり成長しないうちに、スランピング開始し、したがって比較的低い温度で粒子状の燃料デブリが多く崩落し、おそらく金属デブリの上に堆積したと推定される。

 3号機では、炉心ボイド化の前に制御棒の溶落が進んでいたと考えられる。燃料棒については、被覆管外周の酸化皮膜が成長してから、比較的高い温度で塊状の燃料デブリが多く崩落したと推定される。

 2,3号機共に、燃料デブリ崩落時には、炉心支持板の少し上あたりまで水位が回復しており、崩落した燃料デブリはいったんその上に堆積したと考えられる。

 2,3号機共に、いったん堆積した燃料デブリによる閉塞度が重要であり、2号機の方が、金属デブリによる閉塞不十分だったため、燃料デブによる閉塞も不十分だった可能性がある。閉塞不十分の場合、参考9:BWRドレナージ型シナリオでのデブリ崩落に進みやすい。

 1号機は、事故時のプラントデータが十分でないため、解析の不確かさが大きいが、スランピング開始時点では、水位は炉心支持板の少し上あたりにり、したがって、そのあたりから上に燃料デブリがいったん堆積した可能性が高いと考えられている。水位が炉心内にあるため、閉塞は稠密に起こりやすかったことが示唆される。

デブリ酸化度の上昇

 熱水力解析(GOTHICコード利用)で、S/CとD/W内の圧力変動と、凝縮性ガス(主に水蒸気)、非凝縮性ガス(主に水素)のふるまい解析から、RPV内での事故進展中に発生した水素量を逆算できる[20]。さらに、水素発生量から、Zrの酸化割合を逆推定できる。また、SA解析コード(MAAPなど利用)では、初期フェーズでのZry/水蒸気反応モデルからZrの酸化割合を評価できる。これらによって解析した、1,2,3号機でのZr酸化度の変化を示す(図2)。

 1号機では、冷却水水位が少しずつ低下するSBO(Station Black Out)の典型的なシナリオに基づいて、MAAPコードを用いて、Zr酸化度を評価した。水蒸気/Zr反応によるZr酸化度は約20%に到達し、さらに、燃料崩落過程で数%上昇したという結果が得られている。MAAPコードの特性として、溶融プールを形成し、Zr表面積が減少するとほとんどZr酸化が進まなくなるため、崩落過程や再溶融過程でのZr酸化度は比較的低い値でとどまっている。実際には、下部プレナムに崩落したデブリの再溶融過程での酸化度上昇や、酸化したCRGTなどの構造材との反応により、Zr酸化度はさらに上昇したと考えられる。

 2号機では、GOTHIC解析により、燃料崩落開始までに約15%が酸化し(参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズムでの被覆管外周部の酸化に相当)、燃料崩落過程では、事故進展で見られる第2圧力ピーク終了時点までに約50%の酸化度に到達したという結果が得られている。これは、2号機では、崩落時の温度が低く粒子状デブリが多かったため、崩落途中に酸化度が上昇しやすかったためである。それ以降は、下部プレナムに残留した冷却水でいったん冷却され、冷却水ドライアウトまでは、Zr酸化度はほとんど上昇しない傾向が示された。MAAP解析では、これより低いZr酸化度が得られている。2号機についても、下部プレナムでのデブリドライアウト過程や酸化した構造材との相互作用により、実際のZr酸化度はさらに上昇していたと考えられる。また、ドレナージ型で崩落した可能性が高い2号機では、Zr酸化度上昇傾向の上では、下部プレナムへの崩落タイミングが、明確に見えていない。(参考9:BWRドレナージ型シナリオ

 3号機では、炉心ボイド化以前に、炉心上部でZr酸化が進んでいたため、その効果をMAAPで解析した結果を示している。燃料崩落開始時点でのZr酸化度は約25%に到達している。MAAPモデルの特性により炉心部での溶融プール形成中はZ酸化度が上昇せず、下部プレナムへの崩落途中で、GOTHIC解析では約50%まで、MAAP解析では約40%までZr酸化度が上昇している。塊状デブリが多く崩落したと推定されている3号機では、下部プレナム崩落中のZr酸化度の上昇は、粒子状デブリが多く崩落したと推定されている2号機より、相対的に小さい。

図2 RPV内事故進展中のZr酸化度の上昇傾向 [20]

















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1Fでのデブリ酸化度上昇の特徴

 図2の解析結果と、参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズムを照らし合わせると、デブリ酸化について以下の特徴が推定される。

 2号機では、粒子状のデブリが多く崩落したこと、および、崩落が約1時間かけて徐々に進んだことで、デブリ崩落途中での酸化度上昇が大きい。このことから、下部プレナムに堆積した燃料デブリは、比較的酸化度が高く、かつ隙間の多い粒子状を維持していたと推定される。一方で、制御棒などに由来する金属デブリは、あまり酸化せずに堆積したと推定される。

 3号機では、塊状のデブリが短時間で崩落したことで、デブリ崩落時の酸化度上昇が比較的小さい。このことから、下部プレナムに堆積した燃料デブリは、比較的酸化度が低く、かつ塊状になっていたと推定される。金属デブリについては、2号機よりは、化合物形成等の反応が進んでいた可能性が考えられる。

 1号機では、デブリ酸化度は、3号機より低かった可能性が考えられる。

 このような、下部プレナム堆積デブリの特徴は、参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融、に大きく影響する。

参考9:BWRドレナージ型シナリオ

in-vesselの後期フェーズでの事故進展シナリオ

 BWR(@1F)では、PWR(@TMI)に比べて、制御棒ブレードが非均質装荷されているため、デブリ崩落が非均質に起こりやすく、したがって炉心下部の閉塞が稠密に発生せず、炉心へのガス透過度が維持される傾向があると考えられている[3]。この傾向は、in-vesselの後期フェーズでの事故進展シナリオに影響する。

TMI-2型シナリオ: 炉心下部での閉塞が稠密で、炉心部へのガス供給がなくなると、崩落した燃料デブリが崩壊熱で再昇温・再溶融し、デブリ溶融プールが形成される。高温のデブリ溶融プールを取り囲むように、クラスト層が形成される。デブリ溶融プールは次第に拡大し、クラスト層がこれを支えきれなくなると、一部破損し、溶融デブリは短時間で下部プレナムに移行し、冷却水と反応して、いったん再凝固する。これをTMI-2型シナリオと言い、PWRのLOCA事故における、典型的な事故進展として理解されている。この時に、デブリ溶融プール内でおこる炉心物質の化学状態の変化は、参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇、にまとめる。

BWRドレナージ型シナリオ: これに対し、炉心下部での閉塞が稠密でなく、炉心部へのガス供給がある程度維持されると、崩落した燃料デブリはある程度除熱されるため、温度上昇が抑制され、再溶融は局所にとどまる。このため、燃料デブリは固液混合状態を維持した粒子状で、徐々に下方に崩落する。これをBWRドレナージ型シナリオという(図1[3])。

#備考:1F事故シナリオの特徴について・・ 1F2,3号機では、事故シナリオの概略で説明したように、デブリ崩落時には、炉心支持板の少し上あたりに水位があったと解析されており、稠密でない閉塞部位がそのあたりに形成されたと推定される。2号機の方が、閉塞がより非均質で、稠密でなかった可能性があり、ドレナージ型崩落の傾向が強い可能性がある。ドレナージ型の傾向が強い順に、2号機>3号機>1号機と推定されている。

図1 BWRドレナージシナリオとTMIシナリオの分岐[3]
















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事故シナリオによるデブリふるまいの傾向

 デブリ崩落時の冷却水水位、崩落したデブリの堆積状態(稠密度)により、in-vesselでのデブリふるまいは、大きく2つのシナリオに分岐すると考えられている(図2[4])。

TMI-2型

- 炉心下部で拡大・成長したデブリ溶融プール内で高温溶融した二酸化物メルト(融点>2550℃)が、クラストを破損し、短時間で下部プレナムの冷却水中に移行する。

- 下部プレナム内で冷却されたデブリは、比較的均質に堆積すると考えられる。デブリの一部は、破砕され分散される。

- 下部プレナムでいったん堆積した燃料デブリ(主に酸化物デブリ、亜酸化度を維持)は、冷却水ドライアウト後に、崩壊熱で、比較的均質に再昇温・再溶融される。

- 再溶融過程で、燃料デブリの酸化度が上昇する。溶融デブリはクラストで断熱される。

- RPV下部プレナムからペデスタル内へは、高温溶融デブリが短時間で移行する。

BWRドレナージ型

- デブリ溶融プールはあまり拡大・成長せず、固液混合状態(2000-2300℃)で徐々に下部プレナムに崩落する。

- 下部プレナム内で冷却されたデブリは、CRDやCRGTの隙間に堆積する。金属デブリの物量が比較的多いと考えられる。

- いったん堆積した燃料デブリ(亜酸化状態のU-Zr-Oや金属デブリを含む)は、冷却水ドライアウト後に、崩壊熱で再昇温し、比較的非均質に再溶融が進む。

- 金属デブリが先行溶融(1000-1300℃)し、そこに、U-Zr-OメルトやCRDが次第に溶融する。制御棒由来の残留B4Cや中間生成物の金属間化合物、貴金属FPなどもそこに溶融する。再溶融した金属デブリはクラストを形成しにくく、RPV内壁と濡れやすいと考えられる。

- 金属デブリが溶融し、酸化物デブリはまだ十分に溶融しない状態で、RPV下部破損孔から、ペデスタル内部に徐々にデブリが移行する。デブリの酸化度が高く溶融が進まない条件では、固体デブリはRPV内に多く残留すると考えられる。

- これらの傾向から、デブリのペデスタル移行もドレナージ型になる。

#備考:MASCA模擬試験・・ 下部プレナムでの再溶融傾向の理解には、不確かさが多く残されている。デブリの酸化度、CRD等の鋼材の溶融程度、最高到達温度などが影響すると考えられており、コールドクルーシブル法を用いたMASCA模擬試験が実施されている。(参考15:MASCA模擬試験

図2 事故シナリオ分岐とデブリふるまいの相違[4]

















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参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇

デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度の上昇(後期フェーズ)の概要

 トランジエントフェーズで、下方に崩落したデブリは、炉心下部あるいは下部プレナムにいったん堆積する。この際に、燃料棒の表面積が急減して水蒸気/Zr反応が抑制されるため、また、デブリが冷却水中に崩落して冷却されるため、デブリの温度はいったん低下し凝固すると考えられる。崩落するデブリは粒子状や塊状の固液混合物であり、空隙の多い状態で堆積すると考えられている。これをルースデブリと言う。

 いったん堆積したデブリは、崩壊熱で再昇温・再溶融する。これ以降が後期フェーズに相当する。この項目では、SA解析コード(MAAP、ASTEC等)に組み込まれているデブリ溶融プールの形成・拡大モデルに基づいて、後期フェーズにおける燃料デブリの相状態を考察する。燃料デブリと金属デブリとの反応については別途考察する。(参考3:金属デブリの再溶融参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融

デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇の化学反応メカニズム

 MAAP, ASTECコードでは、デブリ溶融プールのふるまいモデルを、U-Zr-O状態図(図1[4,6])に基づいて整備している。初期フェーズ及びトランジエントフェーズの項目で記載したように、いったん堆積した燃料デブリの平均的な酸化度は、二酸化物より低い亜酸化状態である。したがって、再昇温時には、参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズムで示したのと同様のメカニズムにより、約1900~2000℃以上の温度でU-Zr-Oメルトが急速に成長し、約2000~2300℃では、U-Zr-Oメルトと二酸化物の固相(UO2, ZrO2, (U,Zr)O2)とが共存すると考えられる。これは、図1に黄色の〇で示した領域①()に相当する。2100℃(図1左)では、黄色の〇は、二酸化物固相の近くにプロットされ、タイラインを通じて相平衡するU-Zr-Oメルトは、プロット位置から離れている。状態図におけるてこの原理により、2100℃では固相の物量が多いことを示している。2300℃(図1中)では、U-Zr-Oメルトの範囲が拡大し、黄色の〇のプロットから、二酸化物の固相とU-Zr-Oメルトへの距離がほぼ等しくなっている。このことは、2100℃から2300℃に温度上昇することで、メルトの割合が急速に増加する、つまり、デブリ溶融プールが拡大することに対応している。この時に、メルトは亜酸化状態であることに注意が必要である。すなわち、堆積したルースデブリの中央で次第に拡大するデブリ溶融物は亜酸化状態を維持したU-Zr-Oメルトで代表され、その周囲のクラスト層が二酸化物の固相で代表される。温度上昇にともなって、メルトが拡大し、周囲の二酸化物を溶融するため、デブリ溶融プールの酸化度は少しずつ上昇するが、亜酸化状態が維持される。

 一方で、デブリ温度が約2300℃に達すると、高酸化度側にもU-Zr-Oメルトが出現する。図1中のオレンジ色の〇で示した領域②()に相当する。これは、約2300℃以上に到達すると、局所的にデブリの一部が高酸化度になる可能性があることを示している。例えば、デブリの外周部で、水蒸気によく接触しやすい部位などが高酸化度に達する可能性がある。高酸化度のデブリメルトのふるまいについては、後で述べる(参考12:溶融デブリの凝固)。また、高酸化度側のメルトはガス相と平衡し、蒸発しやすい可能性がある。これは、1FU含有粒子の分析で、蒸発凝縮したとみられるU含有粒子の一部に、UとFeからなる粒子が検出された原因となっている可能性が示唆される。約2550℃を超えると(図1右)、2種類のメルトは連結する。これは、系内の物質がすべて溶融することに相当する。この温度に到達する前に、クラスト層がU-Zr-Oメルトを支えられずに破損し、溶融デブリが下部プレナムに移行すると考えられる。

1F燃料デブリ特性への影響

 1F事故では、炉心部あるいは下部プレナムで、燃料デブリの酸化度と最高到達温度が、どこまで上昇したのかが、燃料デブリの特性に大きく影響すると考えられる。酸化物と金属が共存するデブリの化学的な特性は、U-Zr-O状態図(図1[4,6])、および、Fe-U-Zr-O状態図(図2[6])を用いて理解することができる。

 前述したように、燃料デブリが鋼材と共存しない場合、U-Zr-Oメルトを主成分とするデブリ溶融プールの酸化度は、二酸化物の固相より低い()。したがって、再溶融が進んでいる状態での燃料デブリの熱力学的な安定状態は、亜酸化U-Zr-Oメルトと、U:Zrモル比およそ1:1の立方晶の(U,Zr)O2固相が共存することである。従って、燃料デブリ凝固は、亜酸化U-Zr-Oメルトの凝固パスを用いて考察することが妥当である。これは後で示す。(参考12:溶融デブリの凝固

 これに対し、最高到達温度が約2300℃を超えると、局所的に二酸化物より酸化度の高いU-Zr-Oメルトが形成される()。つまり、高温では、高酸化度のU-Zr-Oメルトが局所的に存在する可能性がある。

 低酸素濃度(hypo)側のU-Zr-OメルトへのFeの溶融については、図2を用いて考察できる。図2は、正四面体で表現されるFe-U-Zr-Oの四元系状態図の展開図(2300℃)を示したものである。この温度では、Fe-U-Zr面はすべて液相となるため、図2では省略している。亜酸化U-Zr-Oメルト中には、広い組成範囲でU、Zr、Oが溶融できるが、Feが共存することで酸素の溶解度限が急減することがわかる(図2)。U-Zr-OメルトにFeが溶融すると、U-Zr-O系の特徴である、ミシビリティギャップの突出部(赤丸で囲った領域)が失われる。このことは、Feが共存すると、U-Zr-OメルトがFe-U-Zrメルトに変質し、その結果として、二酸化物固相とFe-U-Zrメルトが共存することを示唆している。このことは、鋼材が溶融することで、比重が変化し、燃料デブリ固相と金属デブリメルトが分離しやすいだけでなく、化学的にも酸化物デブリと金属デブリメルトが相分離しやすくなることを示唆している。また、Feの溶融により、酸素が余るため、金属デブリメルト中に溶融するUやZrが酸化して、固相として析出すると考えられる。これは、これまでに採集された1Fサンプルの多くで、鋼材成分の中にU含有粒子が酸化物として存在していたことと整合している(参考13:U-Zr-Oメルトと鋼材の反応)。

 一方、高酸化度(hyper)側のU-Zr-Oメルトについては、選択的にUO2やFeOが溶融しやすく、逆にZrO2は溶解しにくいと推定される。従って、高酸化度メルトの主成分はU-Fe-Oに変化する可能性がある。さらに、そこから蒸発・凝縮するウラン粒子は、(U,Fe)O2を主成分とする可能性が示唆される。

#備考:燃料デブリサンプルの分析・・ 実デブリサンプルの分析においては、デブリの酸化状態の評価が重要項目の一つとなる。小規模サンプルの分析であっても、デブリの酸化度とU,Zr,Feの相状態を解明することで、デブリ特性に大きく影響する下部プレナムでの金属/酸化物デブリの混合・再溶融状態の理解が進むと期待される。

図1 U-Zr-O三元系状態図を用いた溶融デブリプールの拡大の理解[4,6]







図2 Fe-U-Zr-O四元系状態図を用いた燃料デブリと金属デブリの相互作用の理解[6]




















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参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融

従来の理解について

 in-vesselの後期フェーズにおいて、最終的には、燃料デブリは下部プレナムまで崩落・堆積し、冷却が不十分な場合には、さらに再昇温・再溶融すると考えられている。TMI-2事故では、下部プレナムに堆積した燃料デブリが再溶融する前にデブリが冷却されたため、下部プレナムでのデブリ再溶融現象については、実機の知見が得られていない。したがって、その理解には不確かさが大きいと認識されている。参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇、で述べたように、下部プレナムでのデブリ再溶融過程には、デブリの酸化度と鋼材の溶融量が大きく影響すると考えられている。OECD/NEAにおいて、模擬デブリを用いて、MSACA模擬試験が実施され、その結果に基づいて、いくつかの典型条件について、デブリ再溶融の傾向が整理されている(図1[4,16])。

 MASCA計画では、TMI-2事故の最終状態において、酸化物デブリとRPV内壁との間に断熱層が形成されていたことに基づいて、下部プレナムでは、再溶融したデブリメルトがある程度保持されることを仮定して、1-2kg規模の模擬デブリを用いて、コールドクルーシブルによる燃料デブリと金属デブリのメルト成層化試験が行われた。試験のパラメーターとして、金属Feの混入量とデブリ(MASCA試験では、炉心物質:コリウムとしている)の酸化度を変化させた。その結果、

鋼材(Fe)の混入が少なく、コリウムの酸化度が小さい場合・・ 金属Zrによって、UO2が還元されて金属デブリ中に溶融し、重い金属メルト(HM)と二酸化物メルトに成層化する。

鋼材(Fe)の混入が多く、コリウムの酸化度が大きい場合・・ 金属メルトはFeリッチになり、軽い金属メルト(LM)と二酸化物メルトに成層化する。

という傾向があることが解明された[16]。(参考15:MASCA模擬試験

1F事故での下部プレナム堆積条件について

 BWRである1Fは、PWRであるTMI-2に比べて、下部プレナムにおける鋼材の物量が、燃料に対する重量比として数倍多いことが特徴となる。また、2,3号機では事故進展中に短時間で炉心ボイド化が発生した、等の固有のシナリオがあったことも下部プレナムでのデブリ堆積条件に影響する。従来理解の典型条件に比べデブリ酸化度(Zr酸化度)が相対的に低かった可能性が高い。さらに、SA解析コードによる1F事故解析では、燃料デブリの平均温度がメルト成層化に必要な温度に到達するより、かなり低い温度のうちに、RPVが破損し、デブリはペデスタル内に崩落した、と評価されている。この温度では、下部プレナムで酸化物デブリと金属デブリのメルト成層化が起こる手前の段階、すなわち、金属デブリのみが溶融し、酸化物デブリは固相で残留する『固液混合状態』で、RPV破損したことを示唆している。図2[10]は、1F固有の条件として、2号機の下部プレナム破損時のデブリの状態を模式的に示している。2号機では、金属デブリが主に溶融してペデスタルに崩落し、粒子状の酸化物デブリは固体のまま残留したと推定されている。

 以下では、Fe-U-Zr-O系の平衡状態図に基づいて、下部プレナムにいったん堆積したデブリの、ドライアウト後の再溶融過程について考察する。

下部プレナムでの堆積直後のデブリの状態

 1F1~3号機では、下部プレナムに、以下の物質が、非均質に堆積したと考えられる。

 ここで、デブリ酸化度(Zr酸化度)は100%ではなく、デブリ全体としては亜酸化状態であることが大きな特徴である。現状の1F事故解析では、デブリ酸化度は、2号機>3号機>1号機、の順に高いと推定されている(不確かさが大きいが、50~80%程度の酸化度の範囲と推定されている)。

 また、崩落時の炉心エネルギーは、1号機>3号機>2号機、の順に高かったと推定されている。崩落時の炉心エネルギーは、デブリ溶融プールの成長しやすさや塊状デブリの形成しやすさに影響する(参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇)。

 いずれの号機でも、デブリ崩落時には、下部プレナムに冷却水が残留しており、CRDやCRGT等の鋼材への伝熱もあるため、いったんデブリはほとんど凝固したと推定される。


【下部プレナムに堆積した物質の分類】

   ルースデブリ(粒子状、亜酸化状態のデブリ溶融プール(主成分:U-Zr-Oメルト)からの崩落物が冷却水との反応で破砕したもの)

   ハードデブリ(塊状、亜酸化状態のデブリ溶融プール(主成分:U-Zr-Oメルト)からの崩落物が冷却水中で急冷したもの)

   未溶融のUO2ペレット(粒子状、おそらく周囲はU-Zr-Oメルトの凝固物で覆われている)

   酸化したジルカロイ(粒子状、燃料被覆管やチャンネルボックス表面の酸化膜)

   U-Zr-Oメルトの凝固物(いったん、デブリ溶融プール周辺のクラストを形成)

   制御棒溶融・凝固物(SS,B,C等)、制御棒/チャンネルボックス溶融・凝固物(SS,Zrなど)、金属間化合物を含む

   未溶融B4C(おそらく、溶融・凝固した鋼材で覆われている)

   倒壊した鋼材(CRD、CRGT、炉心支持板など、塊状や粒子状の燃料デブリと固着している可能性がある)

   FP成分、海水成分、等(それぞれの元素の化学的な特徴に基づき、金属デブリと燃料デブリの間で分配している可能性がある)

下部プレナムでのデブリ再溶融進展の概略、デブリ相状態の変化

 これらの下部プレナムに堆積した物質のうち、未溶融のUO2ペレットと酸化したジルカロイ以外は、ほぼ金属と酸化物の混合状態であったと推定される。その主成分の相状態変化は、Fe-U-Zr-O系の熱力学解析に基づいて、概略推定することができる。金属/酸化物混合デブリの再溶融で考慮すべき主な化学反応と、それが発生する温度をまとめて示す(図3)。図中には、1~3号機の下部プレナムでのデブリ最高到達温度(RPV破損時のデブリ温度)のJAEAの解析値を示す[10]。RPV破損時のデブリ温度は、号機ごとに大きく異なると評価されており、これはデブリ再分布やデブリ特性に強く影響したと推定される。

図3 燃料デブリと金属デブリの溶融進展の概略 



















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 酸化物デブリと金属デブリの共存状態について、以下の3個の条件で溶融パスを解析した(図4[10])。

(1) 炉心に装荷されていたZrの50%が酸化し、UO2および炉心部にあった鋼材(Fe)と共に下部プレナムで堆積、再昇温・再溶融が進展

(2) CRD、CRGTや炉心支持板、炉心支持金具の溶融を考慮して、(1)に比べて、鋼材(Fe)の物量を2倍にした条件で、再昇温・再溶融が進展

(3) (2)の条件に、さらに、炉心部に装荷されていたB4Cを添加

 これらの解析における、温度上昇にともなう相分率の温度変化から、下部プレナムに堆積したデブリの再溶融について以下のことが推定される。

① 解析条件(1)(図2(a))では、約1220℃(1493K)で、金属デブリの共晶溶融が始まる。この溶融反応に主に寄与するのは、SS(Fe)とZrであるが、炉心から崩落したZrの酸化度が低い場合、Uの一部が還元され、金属デブリメルト中に溶融すると推定される(参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇)。

② さらに、金属デブリメルト中には、制御棒とチャンネルボックスの共晶反応における中間生成物として形成されるFe-Zr, Cr-Zr系等の金属間化合物が溶融すると推定される(参考1:制御棒の共晶溶融参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融)。

③   一方、酸化物デブリ中のUの一部が還元されて、金属デブリメルトに移行するため、燃料デブリ本体の固相は、ややZrリッチの組成に変化する。

④ ここで形成される、金属デブリメルト(Fe-U-Zr(-O))中には、最大で10mol%ほどのUが溶融すると評価される(参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇参考14:Fe-U-Zr-O状態図の展開図)。

⑤ デブリ温度が、約2400℃(2673K)を超えると、酸化物デブリも溶融し、酸化物メルトと金属メルトが形成される。

⑥ したがって、約1400℃~2400℃の温度範囲では、金属メルトと酸化物メルトの共存状態が、熱力学的には最も安定となる。# おそらく、その途中のどこかでRPVが破損し、デブリはペデスタルに崩落する。

⑦ SS量が増えると、Fe-U-Zr(-O)メルトの相分率が増加する(図2(b))。

⑧ ホウ化物や残留B4Cは、炭化物を除いて、約1300℃(1573K)以下で、金属デブリメルト中に溶融する(図2(c))。

溶融デブリによるRPV破損メカニズムの推定

 東電とJAEAで実施した解析によると、1,2,3号機でのRPV破損時点でのデブリ平均温度は、それぞれ、約2150℃、950-1550℃の範囲、1750-1950℃の範囲、と推定されている(図3)。また、Zr酸化度は2,3号機でおよそ60-80%、1号機ではそれよりやや小さいと推定されている。これを、デブリ再溶融状態の推定結果と照らし合わせると、RPV破損時のデブリの状態として、以下が推定される。

 1号機:現状でのRPV破損時点でのデブリ温度の解析値からは、酸化物固相と金属メルトの共存状態の時に、RPV破損したと推定される。メルトの割合は3つの号機のうち最も高い。また、2,3号機に比べてZr酸化度が低いため、金属Fe-U-Zr(-O)メルトの物量、および、金属メルトへのUの移行量が大きくなると推定される。逆に酸化物デブリの溶融開始温度が上昇するため、酸化物デブリは高温まで固相を維持しやすい。一方で、事故シナリオの推定では、高温状態のデブリが短時間でペデスタルに崩落したと考えられている。これらのことからは、実際のデブリ崩落時の酸化物デブリの温度は、解析値より高く(>2400℃)、酸化物もメルト形成していたの可能性があるのではないかと推定される。下部プレナムで、高温までデブリメルトが維持されるため、鋼材の溶融が進むと推定される。図2(b)の条件が1号機下部プレナムでのデブリ溶融進展に最も近いと推定される。さらに、図2(a)と図2(b)を比較することで、鋼材溶融量が増加した場合のデブリ相状態への影響を理解することができる。金属メルト(Fe-U-Zr(-O))の割合が増加し、メルト中のFeの量が増加すると推定される。一方で、金属デブリの凝固温度はあまり変化しない。

 2号機:RPV破損時のデブリ温度が最も低く、金属Fe-U-Zr(-O)デブリの溶融拡大途中でペデスタルに溶落したと推定される。1,3号機に比べ、Zr酸化度が高いため、金属メルトへのU、Zrの移行量は小さくなる。図2(d)に、Zr酸化度を80%にした条件での解析結果を示す。図2(a)(再掲:Zr酸化度50%)と比較することで、Zr酸化度の変化によるデブリ溶融状態の違いが理解できる。Zr酸化度が上昇すると、金属デブリメルト中のU,Zrの割合が減少し、Feを主成分とする金属デブリメルトと二酸化物の固相が共存する状態が安定となる。およそ1227℃(1500K)~1500℃(1773K)では、Feを主成分とする金属デブリメルトと固相のZrリッチ正方晶、Uリッチ立方晶が共存する状態が、熱力学的に安定となる。

 3号機:酸化物固相と金属メルトの共存状態でRPV破損したと推定されるが、1号機よりはデブリ温度が低いと評価されている。また、1号機に比べてZr酸化度が高いため、金属メルトへのUの移行量が小さくなる。デブリのペデスタル移行に1時間程度かかっていると考えられることから、固液混合状態の高粘性デブリが徐々に崩落したのではないかと推定される。すなわち、図2(d)の固液混合状態でのデブリが崩落した可能性が考えられる。図2(d)では、Uリッチの立方晶、Zrリッチの正方晶と金属デブリが共存する温度範囲が広くなっており、実デブリ中でこれらが共存している可能性が示唆される。

#備考:金属デブリメルトからのU粒子の析出・・・ 金属デブリメルトが水蒸気酸化すると、そこに含有されるU,Zrが選択的に酸化されるため、現在検出されているU含有粒子の形成メカニズムのひとつになっている可能性がある。

参考12:溶融デブリの凝固

溶融デブリ凝固の概要

 1Fでの燃料デブリは、in-vesselにおいて、崩落途中、及びデブリ溶融プール中で、U-Zr-Oメルトをいったん形成し、冷却・凝固したと考えられる。このメルトは、亜酸化状態と推定される。

 従来は、溶融した燃料デブリは二酸化物まで酸化度が上昇し、(U,Zr)O2のメルトとして成長し、凝固すると理解されている。[17]

 これに対し、1F事故条件では、亜酸化状態のメルトからの凝固、あるいは、一部で形成される可能性がある、高酸化状態メルトからの凝固を考慮する必要がある。

 ここでは、従来の疑似二元系UO2-ZrO2状態図を使ったデブリ凝固の理解と、1F事故で形成されたデブリの特性理解で必要となるhypo側(亜酸化)、hyper側(高酸化)でのメルト凝固の理解を比較する。

疑似二元系状態図を用いた従来理解

 図1[17]に、従来のデブリ凝固理解で用いられている、UO2-ZrO2の疑似二元系状態図を示す。この理解では、溶融デブリは二酸化物の液相であることが前提となる。冷却により、約2550℃(2823K)で、U:Zrを全率で固溶する蛍石相(fluorite)の立方晶(cubic)を形成する。デブリが急冷される場合には、この立方晶が維持されるが、徐冷される場合には、約1550℃(1823K)以下で、Uリッチの低温立方晶と、Zrリッチのt-(Zr,U)O2(正方晶)に相分離すると考えられている。さらに、平衡状態図からは、約1050℃(1323K)以下では、t-(Zr,U)O2(正方晶)がm-ZrO2(単斜晶)に変態する可能性が考えられる。しかし、正方晶から単斜晶への変態は、固相から固相への変態のため、成分の拡散速度が小さく、実際のデブリ中には出現しにくいと考えられている。

 これに対し、TMI-2デブリやVULCANO試験の模擬デブリ中では、図1に示した平衡状態図より広い組成範囲で、t-(Zr,U)O2が検出された。これは、疑似二元系状態図に基づくデブリの冷却過程で形成される相状態の予想と異なっており、平衡論的には準安定状態であるとみなされている[17]。

 しかし、1F事故条件でのデブリ酸化度は、参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融、に示したメカニズムにより、hypo側あるいはhyper側にずれており、UO2-ZrO2の疑似二元系状態図の相変化から、その凝固過程を理解しようとするのは適切ではない。すなわち、U-Zr-O系、あるいは、Fe-U-Zr-O系で形成される亜酸化デブリメルト、あるいは、高酸化デブリメルトの凝固パスに基づいて理解すべきである。

図1 UO2-ZrO2疑似二元系状態図[17]
















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U-Zr-Oメルトの凝固 -hypo側

 従来理解では、溶融デブリは二酸化物のメルトであることを前提として、UO2-ZrO2疑似二元系状態図を用いて、凝固メカニズムが考察されている。これに対し1F事故では、亜酸化U-Zr-Oメルトの凝固メカニズムを考察することがより適切となる。溶融デブリは酸化度が低い組成域での液相であることが前提となる。亜酸化U-Zr-Oの組成は温度にともなって変化するが、二酸化物の固相との共存状態という観点では、およそ1900~2300℃の温度範囲が特に重要と考えられる。ここでは、2300℃で形成されるU-Zr-Oメルトの凝固を考察する。(参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇

 図2に、2300℃でのU-Zr-O三元系状態図を示す。図中の赤丸()が、この温度での典型的なU-Zr-Oメルトの組成となる。タイラインで示されるように、およそU:Zr=モル比1:1の立方晶と平衡する。このうち、U-Zr-Oメルトに注目して、準静的な凝固過程での相変態を解析したのが図3である。いわゆる凝固パス解析に相当する。図から、U-Zr-Oメルトが冷却開始されるとただちに、c-(U,Zr)O2(立方晶)が析出することがわかる(①)。ここでのタイラインの向きから、析出する立方晶の組成は、およそU:Zr=モル比1:1と推定される。ついで、約1900℃(2173K)でα-Zr(O)が析出開始する(②)。さらに温度が低下すると、約1350℃ (1623K)でtet-(Zr,U)O2(正方晶)が出現する。同時に、立方晶相中のZr溶解度が著く減少し立方晶の低温相となる(③)。過程②で析出するα-Zr(O)は化学的な活性が高いため、実際の系では、さらに酸化してt-(Zr,U)O2(正方晶)あるいはm-ZrO2(単斜晶)に相変態すると推定される。約1150℃(1423K)まで温度低下すると、準静的な条件では、正方晶相がm-ZrO2(単斜晶)に変態する(④)。過程④は固相内での成分拡散をともなうため、反応速度が小さく、実際には起こりにくいと推定される。hypo側U-Zr-Oメルトの凝固過程(図3)では、従来理解(図1)に比べ、正方晶が存在する温度範囲が狭く、α-Zr(O) 相が出現する可能性がある。

 まあた、hypo側U-Zr-Oメルトの凝固過程では、析出する立方晶相中のU:Zrモル比が約1:1はほぼ固定されることも注目される。図4に、1800℃(2073K)と1400℃(1673K)で、α-Zr(O)と平衡する立方晶相のタイラインを示す。2300℃でのU-Zr-Oメルトの組成を通過するタイラインは、いずれもU:Zr=モル比約1:1に向かっていることがわかる。このことから、hypo側U-Zr-Oメルトの凝固過程では、従来理解に比べて約200℃低い温度まで、U:Zr=1:1の立方晶が維持されることが示唆される。

 これらのことから、1F燃料デブリ中では、U:Zr=約1:1の立方晶相と、Zrリッチ正方晶、α-Zr(O) が共存することが示唆される。さらに、正方晶のかわりに、単斜晶が形成される可能性が示唆される。

図4 hypo側U-Zr-Oメルトと二酸化物固相のタイライン[6,10]













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U-Zr-Oメルトの凝固 -hyper側

 (作成中)

参考13:U-Zr-Oメルトと鋼材の反応

概要

 燃料デブリの酸化度が低い場合には、その再昇温・再溶融過程で、亜酸化状態のU-Zr-Oメルトが、約1500℃以下の温度で形成され、次第に成長・拡大すると考えられる。一方で、約1000-1300℃の範囲では、SS(Fe)とZrを主成分とする金属デブリの共晶溶融物が形成される。亜酸化U-Zr-Oメルトと金属デブリメルトは、相互に溶融すると考えられるが、その際に、酸素の溶解度が大きく減少する。これは、U含有粒子の形成メカニズムの一つとなっている可能性がある。ここでは、そのメカニズムを示す。

U-Zr-Oメルトと金属メルトの相互溶解おける酸素溶解度限の低下

 図1[10]に、正四面体で示されるFe-U-Zr-O状態図における、酸素の溶解度限を、U-Zr-O断面に投影して示す。酸素溶解度の変化を示すために、他の項目で用いているU-Zr-O三元系状態図とは、ZrとUの位置が入れ替わっていることに注意が必要である。U-Zr-Oメルトは、約2000℃以上で、Zrリッチ側の組成で酸素溶解度が急に増加する(組成の突出部を形成)特徴を有している。(参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇

 図1右図から、U-Zr-O中にSS(Fe)が数モル%溶融すると、この突出部が消失することがわかる。これが、Fe-U-Zr(-O)中の酸素濃度の急激な減少に対応している。ここで形成される金属メルトは、二酸化物の固相と平衡状態を形成する。この現象が、下部プレナムでのデブリ再溶融時に発生する可能性がある。また、余剰の酸素は、金属メルト中のU、Zrを酸化させ、U含有粒子の形成メカニズムになっている可能性が示唆される。(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融ウラン含有粒子の特性のまとめ

図1 U-Zr-Oメルトと鋼材の反応による酸素溶解度限の変化[10]










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参考14:Fe-U-Zr-O状態図の展開図

概要

 この項目では、デブリふるまいの理解で必要となる、Fe-U-Zr-O四元系状態図の温度変化をまとめて示す。

状態図に基づく、金属/酸化物混合デブリの相状態の理解

1773K~1873K

領域①: 亜酸化領域では、UO2-ZrO2疑似二元系断面に比べて、約200℃低い温度まで、c-(U,Zr)O2高温相が安定化する。これにともなって、相対的にt-(Zr,U)O2相の存在範囲が縮小する。このことからは、デブリ凝固時に、α-Zr(O)とU:Zrモル比=約1:1の立方晶相が析出する可能性が示唆される。

領域②: 比較的低い温度から、液相としてFe-U-Zrの合金相が溶融する。約1600℃(1873K)より低い温度では、そこへの酸素溶解度は小さい。

1973K~2073K

領域①: 亜酸化領域では、c-(U,Zr)O2高温相が安定化し(UとZrの固溶範囲が拡大)、広く存在する。

領域②: 約1700℃(1973K)以上の温度では、液相への酸素溶解度が上昇し始める。これは、燃料溶融時のUO2ペレットとZry被覆管界面でのU-Zr-Oメルト形成に相当する。また、デブリ再溶融時に、U,Zrの一部が、SS(Fe)側に溶融することに相当する。

領域③: Fe2Zrが消失する。

領域④: U3O8が消失する。

2173K~2273K

領域①: 液相範囲が、特にZrリッチ側で拡大し、酸素溶解度の突出部が出現する。この突出部の成長が、燃料溶融時のUO2/Zryの共晶溶融温度に相当する。Feが溶融する条件では、酸素溶解度が急激に減少し、この突出部が失われる。

領域②: β-Zrが消失し、α-Zr(O)の存在範囲も急速に減少する。これが、燃料溶融時のU-Zr-Oメルト成長に相当している。

領域③: t-(Zr,U)O2相は、立方晶相に対し、比較的高酸化度側で安定に存在する。これは、U含有粒子の形成メカニズムに関係している可能性がある。

2373K~2473K

領域①: 酸素溶解度の突出部が成長する。これは、デブリ溶融プール中のU-Zr-Oメルトの酸化度増加に相当するが、まだ、デブリは亜酸化状態であると考えられる。

領域②: Feが溶融する条件では、酸素溶解度が急激に減少し、この突出部が失なわれる。

領域③: t-(Zr,U)O2相が消失する。

領域④: 高酸化度側に、U-Zr-Oメルトの別相が発生する。これは、局所的にデブリ温度が上がると、選択的にUO2が溶融して、高酸化度メルトが形成されるメカニズムがあることを示唆している。高酸化度メルトにはFeが相当溶融すると示唆される。また、立方晶の固相においても、Uリッチ領域では、数モル%のFeが固溶しうる。逆に、高酸化度側では、FeOx中に相当量のUやZrが溶解することができる。

2573K~2673K

領域①: およそ2200℃(2573K)以上では、U-Zr-O亜酸化メルトと立方晶相の相状態は、温度が上昇してもあまり変化しない。

領域②: Feが溶融する条件では、酸素溶解度が急激に減少し、この突出部が失なわれる。Feが多く溶ける条件では、Fe(-U,Zr)液相と立方晶の固相が共存すると推定される。この固液混合状態は、約1800℃(2073K)から約2400℃(2673K)までほとんど変化しないと推定される。

領域③: 高酸化度側の、U-Zr-Oメルトの別相が拡大する。

2773K~2873K

領域①: およそ2500℃(2773K)で、U-O断面においても、UO2近傍に液相が出現し、液相のミシビリティギャップが出現する。このことから、酸化物固相も溶融し、固液混合状態から、酸化物メルトと金属メルトの2相状態に変化すると推定される。

領域②: 高酸化度側の、U-Zr-Oメルトが拡大する。さらに、FeOリッチな液相とも一体化する。これ以上の温度では、固相よりもメルトの方が酸化度が高くなる。これは、UやFeが蒸発しやすくなることを示唆している。

図 Fe-U-Zr-O四元系状態図の展開図その1






図 Fe-U-Zr-O四元系状態図の展開図その2






図 Fe-U-Zr-O四元系状態図の展開図その3






図 Fe-U-Zr-O四元系状態図の展開図その4






図 Fe-U-Zr-O四元系状態図の展開図その5






図 Fe-U-Zr-O四元系状態図の展開図その6

































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参考15:MASCA模擬試験

概要

 TMI-2事故では、RPV内事故進展の後期フェーズにおいて、下部プレナムに堆積したデブリは再溶融に至らなかった。しかし、デブリの下部プレナム堆積後に冷却能力が不足する場合には、デブリがドライアウトから再昇温・再溶融して、RPV破損に至ると考えられる。一方で、TMI-2事故の最終形態では、下部プレナムに堆積したハードデブリとRPV容器に間に断熱性のクラスト層が形成されたことが確認されている。このことからは、デブリの再溶融状態がある程度進むまでは、デブリメルトは断熱性のクラストで保持され、その後にRPVが破損する可能性が高いと推定される。MASCA模擬試験[16,18,19]では、TMI-2事故の先の段階に関する知見を得るため、UO2、ZrO2、Zr、鋼材を主成分に、コールドクルーシブル法で、模擬デブリの溶融試験(試験体重量:約1.5kg、温度:2400℃以上)を実施した。一部の試験では、模擬FP成分を加えている。表1に試験条件を示す。

 ここでは、表2,3に示した1F炉心物質の平均組成と、MASACA模擬試験の条件、および試験結果を比較することで、1F事故条件とMASCA模擬試験の類似性を考察する。

表1 MASCA模擬試験での試験体初期組成と1Fデブリ組成の比較


















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1F1~3号機でのデブリ酸化度(Zr酸化度)の評価

 下部プレナムでのデブリ再溶融において、重要因子の一つが、デブリ酸化度(Zr酸化度)である。軽水炉シビアアクシデントでは、燃料デブリが炉心から崩落し、下部プレナムに堆積・再溶融する過程で、Zr金属の酸化が次第に進む。1F事故についてJAEAと東電が協働で実施した解析では、Zr酸化度が低い順に、1号機>3号機>2号機と評価されている[10]。解析結果の不確かさは大きいが、1号機で40-50%程度、3号機で60-70%程度、2号機で70-80%程度の酸化度と見積もられている。(参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇

 表1~3から、1F事故条件で、下部プレナムにデブリが崩落した時点でのZr酸化度が、およそ50%、およそ80%となる条件は、それぞれ、MASCA試験のMA-1,MA-2に比較的近い事がわかる。

MASCA試験の結果

 図1に、MASCA試験での試験後サンプルの外観を示す。一般的な傾向として、デブリ中のZr金属量が多いとUO2が還元されて金属メルト側に移行するため、酸化物メルトより比重の大きい重金属メルト(HM)を形成する。一方、デブリ中のZr金属量が少ない場合、あるいは、デブリ中に鋼材が多く溶融する場合には、金属メルトの比重が酸化物メルトより小さくなり、軽金属メルト(LM)を形成する。

 MA-1,MA-3,MA-4試験では、HMが酸化物メルトの下に存在し、MA-2試験ではメルトどうしの比重が近接して混合状態を形成し、MA-6試験ではLMが酸化物メルトの上に存在していることがわかる。このことから、下部プレナムの堆積物が再溶融する場合には、金属メルトと酸化物メルトは、わずかの条件の違いで、混合したり、成層化したり、あるいは、成層化状態が逆転したりすると推定されている。表4に、MASCA試験で分析された金属デブリの比重データを理論値と比較してしめす。

#備考:酸化物メルトの比重・・ 金属Uの生成量や、鋼材の溶融量により、金属メルトの比重はかあり変化するが、一方で、酸化物メルトの比重はそれほど変化しない。これは、RPV内の条件では、鋼材の酸化物形成とデブリへの溶融は限定的であり、かつ、コンクリート成分などの混入がないためである。

図1 MASCA模擬試験の試験後のサンプル外観[16,18.19]






図1 MASCA模擬試験の試験後のサンプル外観(その2)[16,18,19]








表4 MASCA模擬試験で形成された金属デブリの比重[16,18,19]




















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1F事故条件とMASCA試験条件の比較

 現状で推定されている1,3号機のデブリ酸化度は、MA-3試験の条件に比較的近い。したがって、下部プレナムでのデブリ再溶融の初期には、HMが底部に形成された可能性が示唆される。HM中に鋼材が溶融するにつれて金属メルトの比重が低下し、酸化物メルトと逆転した可能性がある。すなわち、MA-4条件からMA-6条件に変化したと推定される。

 2号機は、MA-2に比較的近く、金属メルトの比重は最初からあまり大きくなかったと推定される。一方で、RPV破損時のデブリ温度が低いため、まだ酸化物デブリは粒子状の固体を維持しており、形成されたLMはその下の方に堆積したと推定される。

 現状の事故進展解析では、ペデスタル内への崩落直前のデブリ温度について、1号機(平均2127℃、最高2327℃)、3号機(1727-1927℃)、2号機(927-1527℃)と評価している。デブリ温度が比較的高い1号機では、CRGT等の溶融が進み、大量の金属デブリメルトが形成された可能性がある。

 MASCA試験では、金属デブリメルト中の組成を分析している(表5)。金属デブリメルト中に、Uが6-16mol%溶融する結果が得られている。堆積したデブリ中の金属Zrの残留が少なく、鋼材の溶融が多い条では、U濃度が相対的に低下する。

 熱力学的な解析によると、金属デブリの再溶融過程では、B4Cもメルト中に溶融する(特に、1000-1500℃の温度範囲で溶融が進む)と推定される。B4Cがすべて溶融した場合、金属デブリメルト中のB濃度はおよそ10mol%に達する可能性がある。

#備考:2号機デブリ取り出し・・ ここで示したような、UやBを溶融した金属デブリメルトの凝固物が採集される可能性がある。デブリ中のUとB濃度、および酸化状態が、下部プレナムの状態を逆推定するための重要データとなる。

表5 MASCA模擬試験で得られた金属デブリの組成











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コンクリートと金属デブリメルトの反応について

 金属デブリメルト中には、U,Zrが溶融しているため、コンクリートに対し化学的な還元力を有すること、また、金属デブリメルト中には、さらに鋼材が溶融できることに留意する必要がある。

 金属デブリメルトが水蒸気酸化すると、まず選択的にU,Zrが酸化し、ついで、Fe,Crが酸化してSpinelを形成すると考えられる。Bが含有されている場合には、Fe,Crの酸化の前にBが酸化する。この傾向は、U含有粒子の分析結果と整合している。(参考6:金属デブリの再酸化(作成中))

#備考:1号機について・・ このような金属デブリメルトの化学的性質は、1号機ペデスタル内でのデブリふるまいに影響した可能性がある。例えば、内部調査で観測された棚状堆積物中に、Fe酸化物を多く含むと推定される茶褐色の層が確認されている。コンクリート成分と金属デブリの酸化物が、事故過程で混合し、凝固時に偏析した可能性が示唆される。

参考16:Ex-vesselデブリふるまいのメカニズムについて(作成中)

(作成中)

参考文献

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※各担当者様

(2024.01.31 )