OECD/NEA/CSNIでのデブリ分析

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 TMI-2炉から回収されるデブリサンプルの分析では、特に破損燃料と炉心デブリ取り出しの後半に向けて、廃炉作業への知見提供より、むしろ、事故進展理解の精緻化に主眼がおかれるようになった。これに伴って、RPV内サンプルの分析プロジェクトの運営主体が、DOEと電力会社から、NRCとOECD/NEA/CSNIの枠組みでの国際協力に変更された。下部ヘッド損傷状態の確認と破損までのマージン評価については、VIP(Vessel Investigation Project)プロジェクト[1]が提案され、下部ヘッドサンプルや下部プレナムハードデブリサンプルが各国の研究機関に送付された。一方で、事故進展中のデブリふるまいの理解については、VIPプロジェクトとは別にOECD/NEA/CSNIの枠組みでのプロジェクトが提案され、保管されていたコアボーリングサンプルや、炉心部デブリの破砕作業で回収された岩石状デブリが各国の研究機関に送付された[2]。この項目では、後者のプロジェクトについて概要をまとめる。

 本プロジェクトで得られた炉心部デブリの分析結果、および、VIPプロジェクトで得られた下部プレナムデブリの分析結果、この段階までに実施された各種デブリサンプルの分析結果、等に基づいて、事故時の圧力容器内での炉心物質のふるまいに関する知見が整理された[2]。知見整理にあたっては、LOFT(Loss-of-Fluid Test)[3]やPBF(Power Burst Facility)[4]といった大規模模擬試験で得られた知見との比較や、炉心物質相互の要素反応試験[5]の結果も参照された。

 このデブリ分析プロジェクトには、カナダ、ドイツ、フランス、スウェーデン、スイス、英国、米国、日本、韓国、欧州研究センターが参画した。日本からは、日本原子力研究所(当時)が代表機関として参画した。参考文献[2]のvol.2には、各機関の分析結果がまとめられている。なお、日本と韓国の分析結果は、ここには掲載されていない。

 主な観測結果は、以下のようにまとめられている。

  • 事故初期に溶け落ちた制御棒や構造材などの金属メルトにより、炉心下部(冷却水水位のあたり)で閉塞が発生し、下部クラスト層が形成された。従って、下部クラスト層は金属成分リッチであった。
  • 炉心部で、下部クラスト層の上に崩落・堆積した燃料棒は、溶融して、(U,Zr)O2を主成分とする溶融プールを形成し、下部プレナムにその一部が移行した後で凝固した。溶融時に上部や周辺にクラスト層が形成された。
  • 炉心上部が再冠水したタイミングで、残留していた燃料棒が破砕・崩落し、上部ルースデブリベッドが形成された。
  • 初期の金属メルトの先行溶落と炉心下部での閉塞形成は、LOFTやPBFでも観測されている。
  • 炉心部、および、下部プレナム部の(U,Zr)O2を主成分とするセラミックデブリ中では、立方晶単相領域と、Uリッチ立方晶とZrリッチ正方晶やZrリッチ単斜晶に相分離した領域が見られた。これは、デブリの一部が冷却水との直接接触により急冷されたこと、一方で、他の部分(塊状デブリの内部など)は、徐冷されたことを示唆している。
  • 下部プレナムデブリは、主に(U,Zr)O2と約3wt%の構造材酸化物からなっていた。このため、SSやインコネルの融点以下まで、固液混合したスラリー状態であったと推定された。
  • 初期の金属メルト形成は、制御棒と案内管、可燃性毒物棒と案内管などの金属構造物の相互作用によって形成された。
  • 形成された金属メルトによる、炉心下部での燃料棒損傷は、CORA試験やLOFT試験でも観測された。
  • 可燃性毒物棒と案内管の周辺で、Zr-Al-O系の共晶溶融反応が発生し、これが金属構造材溶融の起点になっていたと推定された。これは、TMI-2において、可燃性毒物棒周辺の損傷が激しいという観測結果と整合した。
  • 一方で、LOFT試験では、制御材のAgと案内管のZrの共晶溶融反応が観測されたが、TMI-2では観測されなかった。これは、高圧条件で事故が進んだTMI-2では、制御材が噴出しにくかったためと推定された。
  • デブリ粒子中の主要成分の酸化状態の分析から、事故時の樽俎ポテンシャルは、-150kJ/mol(2273K、燃料棒の大規模溶融が始まる温度)、-500kJ/mol(1473K、金属成分の溶融が始まる温度)の範囲にあると推定された。この酸素ポテンシャルでは、Crは酸化(Cr2O3,(Fe,Cr)3O4)、Feは酸化物(FeO,Fe3O4)と金属(Fe-Ni-Sn)に分配すると推定された。
  • 炉心周辺や炉心化部に残留した燃料棒中の被覆管形状が維持されている部分では、内部で燃料ペレット形状が維持され、希ガス以外のFPが保持されていた。
  • 下部ヘッドやLCSAは、溶融デブリと接触したが、溶融デブリがスラリー状の状態であったことなどにより、大きく損傷することなく強度をが保持された。

参考:VIPプロジェクト

参考:コアボーリング調査と溶融凝固層の破砕

参考:下部ヘッドサンプルの分析データ(VIPプロジェクト)

参考:下部プレナムハードデブリサンプルの分析データ(VIPプロジェクト)

参考:コアボーリングサンプルの分析データ

図1 コアボーリングサンプルの採集位置 [6]

デブリサンプルの分配

 図1にコアボーリングサンプルの採集位置を示す[6]。このうち、溶融凝固層とクラスト層が回収された炉心中央~中間の5本のボーリングサンプルからデブリ粒子が取り出され、各機関に輸送された[2]。同時に、溶融凝固層破砕後に回収されたデブリ粒子、切り株燃料棒や制御棒なども輸送された。表1に、各機関に輸送されたサンプル一覧をまとめる[2]。#機関名は、現在の名称(略称)で記載。

炉心物質の溶融現象のまとめ

炉心物質の溶融要素現象

 炉心露出後に起こりうる、PWRの主要な炉心物質の溶融反応について、以下にまとめる[2,5]。

  • 1070K、中性子吸収材(Ag-In-Cd)の溶融
  • 1220K、SS材やインコネル材(制御棒、可燃性毒物棒、スプリング、等)とZry(案内管、燃料被覆管)の共晶溶融開始(Fe-Zr、Ni-Zr)
  • 制御棒破損にともない、溶融Ag-In-Cd放出、金属メルトあるいはエアロゾル
  • 1470K、放出された中性子吸収材とZryの共晶溶融(Ag-Zr)
  • >1470K、ZryやSS材の急速酸化開始、α-Zr(O)層や外周ZrO2層の形成開始
  • 1620K、可燃性毒物(Al2O3-B4C)中のAl-OとZry(案内管)の共晶溶融(Al-Zr-O)、(#TMI-2事故では、可燃性毒物棒周辺での破損が激しかった。)
  • 1720K、酸化しなかったSS材やインコネル材(金属)の溶融、Zr-FeやZr-Ni共晶溶融反応の加速
  • 2030K、未酸化Zry(および、α-Zr(O))の溶融(#最近のデータでは、2070K)、(#このあたりの温度以上で、U-Zr-Oメルト相の拡大、UO2やZrO2の溶解)
  • 2810K、(U,Zr)O2の融点(#U:Zr=約1:1、(U,Zr)O2の融点は、組成がある程度変化してもあまり変化しない ⇒UO2-ZrO2状態図参照)
  • 2960K、ZrO2融点
  • 3120K、UO2融点

 これらのことから、事故初期に金属メルトが溶落し、炉心下部のスペーサグリッドあたりで閉塞形成すると考えられる(下部クラスト形成)。これは、模擬試験でもTMI-2でも観測された。

 下部クラストの上に、燃料成分(U,Zr)O2あるいはU-Zr-Oが崩落・堆積する。この時のデブリ酸化度は水蒸気供給量に影響される。

 崩壊熱により、炉心中央から下部にかけて、溶融デブリプールが形成される。

 炉心の上の方では、デブリベッドが形成される。

炉心物質の酸化度上昇

 デブリの酸化度は、水蒸気供給量と、デブリ再冠水までの炉心・燃料破損進展の程度に影響される。水蒸気供給は、デブリの昇温速度にも影響する。

  • 昇温速度:0.5K/s程度、炉心崩落前にZry被覆管はほぼ完全に酸化する。このケースでは、U-Zr-Oメルトがほとんど形成されないと考えられる。従って、酸化度の高いデブリ粒子がスパンピングすると考えられる。
  • 昇温速度:約1~5K/s、昇温途中で、燃料ペレットとZry被覆管界面にU-Zr-Oが形成される。約2000K以上でU-Zr-Oメルトと酸化物固体のスランピングが発生すると考えられる。
  • 昇温速度:約5K/s以上、Zry被覆管外周のZrO2酸化皮膜が薄く、α-Zr(O)融点近辺から、U-Zr-Oメルトのキャンドリングが始まると考えられる。

炉心・デブリの再冠水

 炉心・デブリの再冠水は、炉心部の破損進展(特に炉心上部)や、水素発生量に影響する。

  • LOFT-LP-FP-2模擬試験では、再冠水時にもかなりの金属Zrが残留していた。このため、再冠水によりZrの急速酸化が発生し、同時に大量の水素が発生した。これは、TMI-2と近い状態ではないかと推定された。

デブリサンプル分析結果のまとめ

 参加機関ごとに、外観観察」、写真撮影、密度測定、金相写真、SEM/EDS、EPMA、SIMS、X線回折、中性子線回折、等の手法で分析が行われた。以下に、各機関で得られた分析結果のまとめを示す。

密度

 表2に、デブリ粒子の密度の測定結果を示す[2]。

  • 溶融凝固層については、6.70~8.68g/cm3(単純平均:7.71g/cm3)であった。粒子ごとの密度の違いは、空孔率と相関していると推定された。
  • 下部プレナムデブリでは、8.19g/cm3であり、溶融凝固層と同程度であった。炉心部で形成された溶融デブリプールが下部プレナムに移行したという推定と整合していた。
  • 下部クラストは、6.70g/cm3であり、INELでの分析結果と整合していた。
表2 デブリ粒子の密度測定結果 [2]
デブリ採集位置 サンプルID 密度(g/cm3 測定機関
炉心外周部の残留燃料棒

(燃料ペレット)

C7-3-35 9.03 JRC-KA(欧)
上部ルースデブリ H8-7 7.14~9.83
溶融凝固層 G12-P2-E 7.38
G12-P6-E 7.45
G12-P9-B 7.12
G12-P10-A 8.68
G8-P4-A-1 7.84 KIT(独)、当時KfK
G8-P4-A-2 7.77
G12-P10-C 7.29
K9-P4-C 6.70
N5-P1-B 8.31
O7-P3-O 7.82
K9-P3-M 8.50 CEA(仏)
G8-P8-C 8.34 PSI(スイス)
下部クラスト N5-P1-E 6.70 JRC-KA(欧)
下部プレナムデブリ 11-1-A 8.19 KIT(独)、当時KfK

金相、微細組織

 分析担当機関とサンプル採集位置は、図1表1参照[2,6]。

切り株燃料棒

  • 外観上の損傷が少なく、わずかにZry表面で変色が見られた。
  • 外周部の一部に、上部から溶け落ちてきたと考えられるデブリが付着していた。
  • 燃料ペレットには結晶成長が見られなかった。
  • Zryの相変態や表面酸化膜形成もほとんど見られなかった。
  • これらのことから、事故時の最高到達温度は800~1230Kと推定された。

上部クラスト層

図2 上部クラスト層でのセラミック相への金属相の侵入 [8]
  • 本プロジェクトにおいて、6個のサンプル分析が行われた。
  • 金属相とセラミック相の混合物で形成されていた。
  • セラミック相のクラック中に、金属相が侵入した痕跡が見られた(図2参照)[2]。#まず、セラミック相が形成され、その後で、上部ルースデブリ側から金属メルトが侵入したと推定された。
  • セラミック相は、多くの領域で、Uリッチ相とZrリッチ相への相分離が見られた。わずかにスピネル相が同定された。
  • 図3 UO2-ZrO2疑似二元系状態図 [7]
    Uリッチ相とZrリッチ相は、それぞれ他方の元素を約10%含有していた。結晶構造は、Uリッチ相が立方晶、Zrリッチ相が正方晶か単斜晶であり、UO2-ZrO2二元系状態図(図3)と整合していた[7]。
  • 金属相中では、複数の合金相が同定された。
  • Ag-In合金は他相とは別に存在しており、Cdはほとんど失われていた。#Cdは選択的に蒸発したと推定された。
  • Fe-Ni-Sn合金相が多く検出された。Snは酸化Zrから分離し、金属相側に移行したと推定された。#このことから、炉心部でのデブリ中の酸素ポテンシャルはFe/FeO平衡の付近にあると推定された。
  • 一部で、Ni3Sn2合金が同定された[2]。#この金属間化合物は、<1500Kで安定に存在する相であり、その温度域である程度の時間保持されたと推定された。
  • 中性子線回折では、一部にγ-Fe,Ni相が検出された、。#この相は、<1700Kで安定に存在する相であり、その温度域である程度の時間保持されたと推定された。
  • Fe-Ni-Sn合金中に、FP由来と思われるRuが検出された。
  • 一方で、構造材成分のCrは、金属相側ではほとんど検出されず、酸化物側に移行し、主にスピネルとして同定された。
  • Ag,In,Ni,Snは、ほぼすべて金属相側で検出された。Feは金属、セラミックの双方で検出された。
  • 図4 TMI-2事故時の圧力容器内の酸素ポテンシャルの評価 [2]
    Ellingham図を参照すると(図4)[2]、燃料溶融が進んだと考えられる1200~2000℃の範囲で、酸素ポテンシャルが、-150kJ/mol(2273K、Sn/SnO2平衡)~-500kJ/mol(1473K、Cr/Cr2O3平衡)の範囲にあったと推定された。

溶融凝固層

  • セラミック相と金属相が見られた。周辺クラスト層の近くで、セラミック相クラックへの静脈状の金属相の侵入が見られた。
  • 溶融凝固層の中央部分はほとんどセラミック相であった。#これらのことから、セラミック相が形成された後に、金属メルトが侵入したと推定された。
  • セラミック相は、立方晶単相領域と、立方晶と正方晶への相分離領域で形成されていた。一部にスピネルが共存していた。
  • Zrリッチ立方晶中のUO2濃度は約10mol%であり、UO2-ZrO2状態図、および、結晶サイズから、約1750K以下で3~72時間保持されたと推定された。
  • 二酸化物の格子定数は、若干のhyper側の酸化度を示唆した。しかし、U3O8は検出されていない。
  • 上部クラスト中でほとんど検出されていないAlが、スピネル中に同定された。#これは、可燃性毒物棒が事故初期に破損し、先行的に炉心下部に移行したことを示唆している。放出されたAlとZrの間でZr-Al-Oメルトが形成され、炉心溶融が促進された可能性が示唆された(>1620K)。

下部クラスト層

  • 本来形状を維持した燃料ペレットの周辺に金属の溶融凝固物が堆積していた(図5)[2]。
  • Zry被覆管はほとんど失われていたが、しばしば、ZrO2酸化皮膜が残留していた。
  • 金属の溶融凝固物の主成分は、Ag-In-Cd(Cdはほとんど喪失)、構造材(SS、インコネル)、Zry中のSnなどであった。
  • 合金相として、Fe-Ni-Sn、Zr-Fe、Fe-Ni-Cr-Al、Zr-Fe-Ni-Cr等が同定された。一部にU-Zr-O相が同定された。残留ペレット近くに、(U,Zr)O2の酸化物析出相が見られた。
  • 金属相内に、Cr2O3が球状に析出していた。また、Cr-Fe-Ni酸化物(おそらくスピネル)、UO2やZrO2(わずかにFe,Ni酸化物を含む)が検出された。
  • 金属相のマトリックスは66wt%Fe-33wt%Niであった。一部にNi3Sn化合物が析出していた。
  • 図5 下部クラスト層の断面金相写真 [8]
    一部に、Ag-In合金が析出していた。

下部プレナムデブリ

  • 全体的に、溶融凝固層との類似性が見られた。
  • 主成分は(U,Zr)O2で3wt%程度のSS酸化物が共存していた。
  • セラミック相中には、単相領域、あるいは相分離領域が見られた。結晶粒界にはスピネル相が見られた。#スピネルの融点はSS金属より低く、溶融デブリは固液混合のスラリー状で移動したと推定された。また、このことで、下部ヘッド内面と溶融デブリの直接接触が抑制され、ヘッドの加熱が抑制されたと推定された。
  • X線回折では(U,Zr)O2立方晶ピークのブロードニングが見られ、急冷状態が示唆された。
  • 一方で、最大で14mol%UO2を含む正方晶や単斜晶が同定され、徐冷状態が示唆された。

上部ルースデブリ

  • 多くの物質が同定された(酸化Zry被覆管、UO2ペレット残差(クラックの一部にFe-Ni-Crメルト侵入の痕跡)、破損制御棒、金属構造材の溶融・凝固物、(U,Zr)O2の溶融・凝固物)。
  • これらのことから、炉心中央部で上部クラストが形成された後に、炉心上部が再冠水したタイミングで残留していた燃料棒が破損・崩落して堆積したと推定された。

FP分析

  • ICP-AES、放射線分析に加えて、新たに、FPガス放出分析、SIMS、γ線マップなどの分析が行われた。
  • 下部プレナムハードデブリの分析結果は、溶融凝固層と同様であった。従来実施されたコアボーリングサンプルや下部プレナムルースデブリの分析結果とも整合していた。
  • FPガス放出分析では(@JRC-KA)、希ガスFPが残留していないこと、Cs-137は一部残留しており、デブリを約2000℃まで加熱すると放出開始され、デブリ溶融温度近傍の約2500℃で一気に放出されることが確認された。同時にCeやEuの放出も検出された。
  • SIMS分析では、Mo,Ru,TcがSS金属相と同伴していることが確認された。
  • 金属成分はボイドの近くに偏在する傾向があり、また、ボイド内にβ核種、γ核種が検出された(オートラジオグラフ)。
  • セラミック相が相分離していた領域では、REとSrがZrリッチ正方相側に偏在する傾向が見られた。
  • Ag-In-Sn相には、FPの偏在は見られなかった。SnTeがTeの安定化学相となるが、Teの偏在も見られなかった。
  • 切り株燃料棒、周辺残留燃料棒中には、希ガスを除くFPが、ほぼ炉心インベントリどうりに残留していた。#従って、周辺燃料や切り株燃料から炉心部へのFP移行は起きていないと推定された。
  • 揮発性FPは、コールドスポットでの表面付着が観測された。

分析結果に基づく新たな知見

炉心物質の成層化

  • 大規模模擬試験、TMI-2事故の双方で、炉心下部への金属成分の先行溶落と閉塞が発生していた(下部クラスト形成)。
  • しかし、大規模模擬試験では、その上に堆積した(U,Zr)O2の溶融相は局所にとどまり、かなりの燃料棒が本来構造を維持していた。
  • これに対し、TMI-2では、セラミックメルトが連結・成長し、溶融プールに成長していた。
  • 両者の違いは、事故進展の経過に対応していると推定された。
  • 上部クラストの上に上部ルースデブリ(デブリベッド)が堆積していた。
  • デブリベッドは、炉心上部が再冠水した際に、残留していた燃料棒が崩落して形成されたと推定された。この現象は、大規模模擬試験でも観測されていた。
  • 上部クラストで、セラミック相のクラックに金属相が侵入していたことから、両者の融点に温度差があり、セラミック相固化後に、しばらく金属相メルトが維持されていたことを示唆した。

セラミック相の相状態(炉心部)

  • 立方晶の単相領域と、Uリッチ相とZrリッチ相への相分離領域が見られた。#これは、冷却条件の違いを反映していると推定された。
  • Zrリッチ相としては、立方晶と単斜晶が見られた。後者が存在する領域では、1400K以下での保持時間が長かった可能性が推定された。
  • 溶融凝固層の全体的な徐冷は、事故時の熱電対測定値と整合していた(炉心部で数日間高温を計測)。

下部プレナムでのデブリふるまい

  • 約3wt%の比較的低融点の構造材酸化物相が混入しており、構造材との伝熱条件に影響した可能性が示唆された。
  • 固液混合のスラリー状態において、水蒸気、構造材金属蒸気、中性子吸収材蒸気などが発生し、ボイドが発生したと推定された。
  • 構造材を含むセラミック相の固相線温度はSS構造材の融点以下と推定された。

燃料溶融のトリガー反応

  • 炉心溶融では、低融点物質の溶融がトリガーとなっている可能性が示唆された。
  • Zr-Fe,Zr-Ni共晶溶融は、SS材やインコネル材の融点以下で発生した(>1220K)。成分拡散を考慮すると、液相成長するのは1400K以上と推定された。
  • 可燃性毒物棒と案内管の間での、Zr-Al-O共晶溶融が発生した(1620K)。
  • 一方で、LOFT模擬試験で観測されたZr-Ag共晶溶融の痕跡は、TMI-2サンプルでは検出されなかった。#TMI-2は高圧条件であり、Agの噴出が抑制され、メルトではなくエアロゾルとして放出された可能性が考えられた。
  • 燃料棒の溶融に関しては、酸素を固溶したZryの溶融とU-Zr-Oメルトの成長、さらに、(U,Zr)O2メルトの成長が重要であるとされた。
  • 2000Kを少し超えた温度で、未酸化のZrが一気に溶融し、形成されるU-Zr-OメルトへのUO2やZrO2の溶解が一気に進行すると推定された。

デブリの酸化度

  • デブリの酸化度は、系内の酸素ポテンシャルによって決定される。
  • 炉心部では、金属相側の主成分はAg,In,Fe,Ni,Snであり、Zr,Cr,Cdはほとんど残留していない。
  • 一方、セラミック相側の主成分はU,Zr,Cr,Al,Feであった。
  • これらのことから、炉心部の酸素ポテンシャルの範囲が推定された。
  • 下部プレナムでは、Feがほぼ酸化物側に移行しており、やや高い酸素ポテンシャルが推定された。

燃料成分のマクロな混合

  • U富化度の高い炉心周辺の燃料集合体はほぼ残留していた。
  • それ以外の部分では、U富化度やFP濃度について、炉心中央と炉心中間の燃料集合体の平均値に近い値が観測された。#粒子デブリが機械的によく混合したこと、炉心中央で溶融プールが成長したことと整合していた。
表1 TMI-2サンプルリスト(各機関への分配)[2]
サンプルID 採集位置 重量(g) 粒子の密度(g/cm3 送付先(CSNIプロジェクト) 送付先(米国内)
D8-P1 下部クラスト 632 7.05 KIT(独)、CEA(仏)、CNL(加) ANL-E、INEL
D8-P2 周辺クラスト 494 7.59 JRC-KA(欧)、JAEA(日)、KAERI(韓) INEL
D8-P3 上部クラスト 746 9.74 JRC-KA(欧)、JAEA(日)、AEA-T(英)、Studsvik(スウェーデン) INEL
D8-P11 上部クラスト 1847 8.24 JAEA(日)、PSI(スイス) INEL
G12-P1 溶融凝固層 513 7.57 KIT(独)、AEA-T(英)、Studsvik(スウェーデン)、CEA(仏)、JAEA(日)、CNL(加) ANL-E、INEL
K9-P1 下部クラスト 1303 7.21 AEA-T(英)、KAERI(韓)、KIT(独)、CNL(加) ANL-E、INEL
K9-P2 上部クラスト 913 7.87 KIT(独)、AEA-T(英)、KAERI(韓)、PSI(スイス) ANL-E、INEL
O7-P4 上部/周辺クラスト 728 8.78 JAEA(日)、KIT(独)、JRC-KA(欧) INEL
D4-P2-D 溶融凝固層 27.2 - - ANL-E
D4-P2-A 19.7 8.9 - INEL
D4-P2-B 19.1 - AEA-T(英) -
D4-P2-C 6.8 9.4 JAEA(日) -
D8-P4-A 67.98 8.67 - INEL
D8-P4-D 62.02 - - ANL-E
D8-P4-B 51.84 - CNL(加) -
D8-P4-C 37.63 7.77 - INEL
G8-P10-A 268.60 8.24 - INEL
G8-P7-A 198.00 7.35
G8-P9-A 163.20 7.34
G8-P6-B 157.80 7.62
G8-P5-B 120.00 7.96
G8-P8-A 118.50 7.40
G8-P4-B 60.49 - - ANL-E
G8-P4-A 55.14 7.45

7.84、7.77(輸送後に測定)

KIT(独) -
G8-P5-A 50.06 -
G8-P8-C 50.03 8.34(輸送後に測定) PSI(スイス) -
G8-P7-B 38.45 - - ANL-E
G8-P7-C 36.10 8.80 - INEL
G8-P9-B 33.78 - - ANL-E
G8-P6-A 21.10 7.69 JAEA(日) -
G12-P9-A 132.18 7.65 - INEL
G12-P4-A 90.48 7.84
G12-P8-A 82.16 - - ANL-E
G12-P10-A 64.28 8.68(輸送後に測定) JRTC-KA(欧) -
G12-P2-B 60.93 8.47 - INEL
G12-P10-B 54.65 - Studsvik(スウェーデン) -
G12-P8-B 48.93 7.66 JAEA(日) -
G12-P2-E 46.71 7.38(輸送後に測定) JRC-KA(欧) -
G12-P3-A 45.41 7.70 JAEA(日) -
G12-P2-D 40.93 8.33 -
G12-P6-E 36.92 7.45(輸送後に測定) JRC-KA(欧) -
G12-P9-B 33.54 7.12(輸送後に測定) JRC-KA(欧) -
G12-P10-C 28.95 7.29(輸送後に測定) KIT(独) -
K9-P3-L 75.55 - - ANL-E
K9-P4-G 67.73 - CNL(加) -
K9-P4-D 61.34 6.92 - INEL
K9-P3-A 55.80 7.56
K9-P3-D 43.82 7.44
K9-P3-M 41.63 7.50

8.50(輸送後に測定)

CEA(仏) -
K9-P3-C 37.73 - KAERI(韓) -
K9-P4-M 33.56 - - ANL-E
K9-P4-J 26.83 -
K9-P3-F 26.68 7.78 - INEL
K9-P4-A 24.33 - KAERI(韓) -
K9-P3-G 23.97 - AEA-T(英) -
K9-P3-B 19.47 - KIT(独) -
K9-P4-C 18.85 6.70(輸送後に測定)
N5-P1-D 35.55 8.28 - INEL
N5-P1-H 22.25 9.09
N5-P1-F 18.06 - JAEA(日) -
N5-P1-A 10.50 7.97 - INEL
N5-P1-E 10.34 6.70(輸送後に測定)

下部クラストに相当

JRC-KA(欧) -
N5-P1-B 5.97 8.31(輸送後に測定) KIT(独) -
N12-P1-A 145.64 - - ANL-E
N12-P1-B 0.66 - JAEA(日) -
O7-P6 76.03 5.43 - INEL
O7-P5 34.45 - CEA(仏) -
O7-P8-B 21.80 - KIT(独) -
O7-P1-A 4.48 7.61 JAEA(日) INEL
O7-P3 - 7.82(輸送後に測定) KIT(独) -
O9-P1-A 30.00 6.91 - INEL
O9-P1-B 20.44 7.22 -
M11-P2 溶融凝固層の

破砕後デブリ

1075 7.6 JAEA(日) -
M11-P10 63 8.4
H9/K9-P4 26 7.7
H9/K9-P5 31 7.0
H9/K9-P6 74 8.1
H9/K9-P9 24 7.3 KAERI(韓) -
残留長さ(cm) 輸送部分(cm)
D4-R9 切り株燃料棒 123 10~20

38~48 64~74 107~117

- INEL
D4-R12 122 11~21

38~48 56~66 107~117

JAEA(日) -
D8-R4

ガドリニア燃料

69 13~23 - INEL
G8-R9 64 11~21

28~38 43~53

- INEL
G12-R4 105 13~23

38~48 74~84

- ANL-E
G12-R8-8 105 91.5~101.5 CNL(加) -
K9-R5 42 11~21

22~32 32~42

- INEL
K9-R9 41 10~20

23~33 33~41

- ANL-E
K9-R14 51 23~33

33~43

AEA-T(英) -
N12-R11 113 63.5~73.5

96.5~106.5

PSI(スイス) -
D4-R8 制御棒、案内管 122 11.5~21.5

33~43 66~76 104~114

- INEL
K9-R13 49.5 5~15

20~30 36~46

- INEL
N12-R7 117 107~117 - INEL
N12-R13 52 5~15

25~35 46~56

- ANL-E
O7-R7

デブリ付着

74 64~74 - INEL
G8-R11 可燃性毒物棒、案内管 30.5 10~20 - INEL
G12-R13-2 88 20~30 - INEL
G12-R13-4 88 56~66 KIT(独) -
R12-R16 98 23~33

56~66

KIT(独) -
N5-R7 122 5~15

48~58 76~86 99~109

- ANL-E
G8-R3

デブリ付着

計装管 56 4~14

16.5~17.5 36~46

- INEL
G12-R12

デブリ付着

113 8~18

28~38 69~79 97~107

JAEA(日) -
K9-R4 39 10~20

25~35

JAEA(日) -
N5-R15 60 25~35 - INEL

参考文献

[1] A.M. Rubin, Overview and Organization of Three Mile Island Unit 2 Vessel Investigation Project, 1994.

[2] D.W. Akers et al., TMI-2 Examination results from the OECD-CSNI program, vol.1, EGG-OECD-9168, 1992.

[3] S.M. Jensen et al., Postirradiation Examination Data and Analyses for OECD LOFT Fission Product Experiment LP-FP-2, vol. 1 and 2, OECD-LOFT-T-3810, 1989.

[4] D.A. Petti et al., Power Burst Facility (PBF) Severe Fuel Damage Test 1-4 Test Results Report, NUREG/CR-5163, EGG-2542, 1989.

[5] P. Hofmann et al., Reactor Core Material Interactions at Very High Temperatures, Nucl. Technol. 87 (1989) 146-186.

[6] E.L. Tolman, TMI-2 Core Bore Acquisition Summary Report, EGG-TMI-7385, rev. 1, 1987.

[7] UO2-ZrO2状態図

[8] D.W. Akers et al., TMI-2 Core Bore Examinations, vol. 1, GEND-INF-092, 1990.