今後の内部調査に向けて、実デブリサンプルの採取に向けて(開発中)

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 日米CNWG(Japan-US Civil Nuclear Energy Research and Development Working Group)における、1F事故解析分野での情報交換(1F Forensics Expert Meeting)での米国側提案を踏まえて、東京電力HDは、1F1~3号機について、内部調査が望まれる部位と調査項目を整理している[1]。ここでは、それを参考にしつつ、1F事故進展解析に関する最近の進捗を考慮して、デブリ/FPふるまいに係る内部調査の部位と項目を整理した。

RPV内部の調査、実デブリサンプル採取に向けて(1~3号機共通)

・この項目では、1F1~3号機のRPV内部について、デブリ/FPふるまいに係る調査部位と調査項目を整理した。

・さらに、RPV内でのデブリふるまいの理解の深化に向けて、特に重要となる2課題について、内部調査とサンプル分析で拡充したい知見をとりまとめた。

RPV内部調査での、デブリ/FPふるまいに係る調査部位と調査項目

・1~3号機共通で、RPV内部調査・サンプリングの注目部位は、①RPV内の上部構造物、②シュラウド、③本来炉心があった部位(本来炉心支持板や支持金具があった部位を含む)、④下部プレナム(本来炉心支持板があった部位の下)、に大別できる(図1)。

表1に、それぞれの部位について、調査方法・項目、現状での推定、調査の目的、についてまとめて示す。

図1 RPV内部の主な調査部位

















表1 RPV内部の調査部位、調査方法、調査項目、調査目的、及び、現状推定



























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RPV内でのデブリふるまいにおける、重要2課題

 表2に、1~3号機におけるRPV内の事故進展の違いを比較して示す。また、図2、図3には、号機ごとのRPV内事故進展について、現状での評価結果を模式図で示す。1~3号機で、冷却水の水位と圧力低下の進み方が異なっており、これが、RPV内での燃料棒や制御棒の破損・溶融に影響したと考えられる。燃料棒や制御棒の破損・溶融進展の違いは、デブリの酸化度の変化傾向や、デブリの崩落・堆積状態に影響し、さらに、その再溶融や下部プレナムへの移行パスに影響したと考えられる。その結果として、下部プレナムに堆積した段階でのデブリの化学的な特性やデブリと構造材の混合状態、などが異なり、デブリ再溶融やRPV破損のメカニズムに影響したと推定される。また、1~3号機で、デブリ崩落のタイミングが異なるため、崩壊熱の大きさがかなり異なっている事にも留意が必要である。

 RPV内での燃料デブリのふるまいについて、特に、以下の2課題の理解の深化が重要である。

① 炉心部でのデブリ堆積~デブリ溶融プールの形成・拡大~下部プレナムへのデブリ移行

 1~3号機では、炉心物質が溶融・崩落し、下部プレナムに移行・堆積するまでの過程が異なっており、デブリふるまいに影響したと考えられる。

〇 燃料破損・溶融~デブリ崩落時の雰囲気

  • 1号機: RPV内高圧条件で冷却水水位が徐々に低下、従って、炉心物質は水蒸気潤沢雰囲気に曝されていた。
  • 2号機: SRV弁開操作で冷却水の減圧沸騰が発生、従って、制御棒溶落~燃料棒崩落の初期は、RPV内が低圧の水蒸気枯渇条件で維持されていた。それ以降でも、炉心の上部では、燃料崩落まで水素濃度の高い条件が継続した。
  • 3号機: 冷却水水位が徐々に低下して炉心上部が露出、燃料溶融が一部開始された段階で、ADS作動により冷却水の減圧沸騰が発生、以降の制御棒溶落~燃料棒崩落の初期は、RPV内が低圧の水蒸気枯渇条件で維持された。

〇 デブリ酸化度

 燃料被覆管の酸化が進みやすい条件では、燃料棒外周の酸化皮膜が厚く形成されやすく、燃料棒の形状が比較的高温まで維持されやすい。このために燃料ペレットと燃料被覆管の界面で形成されるU-Zr-Oメルトが維持・拡大しやすい。U-Zr-Oメルトが成長すると、崩落時のデブリが塊状になりやすい。塊状のデブリでは、崩落時にその内部の酸化が進みにくい。逆に、燃料被覆管の酸化が進みにくい条件では、比較的低い温度でU-Zr-Oメルトが燃料棒の外に噴出し、燃料棒の形状が変化する可能性が高い。この場合には、デブリは粒子状になりやすい。粒子状のデブリでは、崩落時にその酸化が進みやすい。(参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム参考8:デブリ崩落時の炉心エネルギーとデブリ酸化度の上昇

  • 1号機: 水蒸気潤沢条件で燃料被覆管の表面酸化が進み、最も高温まで燃料棒の形状が維持され、燃料棒内部でのU-Zr-Oメルト成長が最も進んだ。このため、崩落直前までのデブリ酸化(Zr酸化)は進みやすいが、崩落・堆積以降のデブリ酸化は進みにくかったと推定されている。
  • 2号機: 水蒸気枯渇条件で、初期の燃料被覆管酸化が進み、比較的低い温度で、燃料棒の崩落が主に粒子状で発生した。このため、崩落直前までのデブリ酸化度は比較的低いが、崩落・堆積途中で酸化が進んだと考えられる。さらに、制御棒ブレードとチャンネルボックスの崩落は水蒸気枯渇条件で発生したため、その溶落物による炉心下部の閉塞が比較的非均質であった可能性がある。(参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融
  • 3号機: 炉心上部の破損は1号機と同様に進んだが、途中から、水蒸気枯渇条件が発生した。このため、2号機よりは、塊状のデブリが多く形成され、崩落・堆積時点でのデブリ酸化度が低かったと考えられる。

〇 炉心部で堆積したデブリの再溶融

 1~3号機共に、炉心支持板の直上付近で、デブリがいったん堆積したと推定されている。(参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇

  • デブリ堆積状態とデブリ酸化度の違いが、デブリ再溶融進展にどう影響するか?が重要課題となる。
  • 熱水力的には、デブリ堆積状態(水蒸気透過度)の違いにより、堆積物内部での温度上昇と溶融プールの形成・拡大がどこまで進むのか?が重要となる。
  • 材料反応的には、比較的低温で形成される亜酸化U-Zr-O系メルトへの二酸化物の溶融進展過程がどこまで進むのか?が重要となる。
  • これらのメカニズムの理解を深化することで、SA解析コードにおける、デブリ溶融・移行モデルの精緻化・高度化が期待される。

〇 デブリの下部プレナム移行

 炉心部でいったん堆積した燃料デブリは、下部プレナムに崩落・移行したと考えられるが、その移行メカニズムとして、大きく2つがありうると考えられている。

  • TMI-2型シナリオ: 炉心部で、溶融デブリプールが成長・拡大し、その周囲を断熱性のクラスト層が覆う。ある段階で、クラスト層が溶融デブリプールを支えきれなくなり、溶融デブリは短時間で下部プレナムに移行する。下部プレナムに冷却水が残留している場合、燃料/冷却水反応を起こしつつ、燃料デブリはいったん冷却・固化される。TMI-2事故では、クラスト層の破損が溶融プールの側面で発生しており、溶融デブリはシュラウドを破損し、その外側を通過して下部プレナムに移行した。
  • BWRドレナージ型シナリオ: デブリの堆積・閉塞が稠密でない場合には、溶融デブリプールが成長しにくく、局所的に形成された溶融デブリと固体デブリが混合しつつ崩落するシナリオが考えられる。このシナリオは、制御棒ブレードが非均質に装荷されており、また、炉心に装荷されたZr量が多くデブリ酸化度が上がりにくい、BWRで起きやすいと考えられている。(参考9:BWRドレナージ型シナリオ
  • TMI-2事故で発生した、炉心部でのデブリ溶融プールの形成と拡大~溶融デブリによるシュラウド破損~下部プレナムへのデブリ移行が、RPV内の事故進展において、どの程度普遍的に起こりうるのかに関する知見を取得することが望まれる。
表2 1,2,3号機RPV内でのデブリふるまいの比較



























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炉心部でのデブリ崩落~下部プレナムへのデブリ移行シナリオ(1号機)

・3/11 18:00頃に、冷却水水位がTAFに到達。それまでは、燃料温度はほぼ冷却水温度と等しい。燃料被覆管外周の酸化は、通常運転時に形成される酸化皮膜20μm程度にとどまっていた。

・3/11 19:00頃に、炉心上部が露出。炉心上部で燃料温度が最高1800℃程度まで上昇し、部分的な溶融が開始した。炉心上部での制御棒温度は1200℃を超え、下方への溶落開始した。炉心上部での燃料被覆管やチャンネルボックスの酸化が進行した。一方で、冷却水に浸かっている炉心中央以下の燃料温度や酸化度は低いまま維持されていた。

・3/11 20:00~22:00頃に、炉心上部での温度が2000℃を超え、燃料崩落が開始した。溶融・崩落の過程で局所的に2550℃以上の高温に到達した。燃料は、高温に到達してから塊状で崩落しやすかったと推定される。したがって、崩落開始まではデブリ(Zr)酸化度が上昇しやすいが、崩落途中では上昇しにくい。

・3/11 22:00~3/12 1:00頃に、炉心支持板の直上あたりで、崩落した燃料デブリがいったん堆積し、いったん温度低下した。冷却水水位はBAF以下まで低下した。その後、崩壊熱で、堆積物の中央で温度上昇し、溶融デブリプールが形成・拡大した。溶融デブリプールが形成・拡大する場合、上下のクラスト層も形成されやすいと考えられる。溶融デブリの主成分は、亜酸化のU-Zr-Oメルトと推定され、周囲の酸化物を溶融しながら拡大する。溶融デブリプールの温度は、2300~2550℃程度と推定される。二酸化物の融点より数100℃低い。

・3/11 2:00~3:00頃に、クラスト層の一部が破損し、溶融デブリが短時間で下部プレナムに移行した。内部調査により、溶融デブリの移行経路、および、炉心下部の構造物や堆積物の残留程度の知見取得が期待される。

図2(a) 1号機でのRPV内デブリふるまいシナリオ(下部プレナム堆積まで)






















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炉心部でのデブリ崩落~下部プレナムへのデブリ移行シナリオ(2号機)

・3/14 18:00頃に、SRV開操作。それまでは、炉心は冷却水中に維持されており、燃料温度はほぼ冷却水温度と等しい。燃料被覆管外周の酸化は、通常運転時に形成される酸化皮膜20μm程度にとどまっていた。

・3/14 18:00~18:30頃に、冷却水が減圧沸騰して炉心上部が露出。燃料温度は冷却水温度以下までいったん低下した。この過程でのZr酸化度の上昇はほとんどないと考えられる。

・3/14 20:30頃まで、炉心部にほとんど水蒸気が供給されず、水蒸気枯渇条件が発生した。この条件で、燃料温度は最高2000℃程度まで上昇したが、燃料被覆管外周の酸化は限定的であった。制御棒温度は1200℃を超え、下方へ溶落した。チャンネルボックスの酸化が限定的で、制御棒溶融物とZryチャンネルボックスの共晶溶融が進みやすかったと考えられる。この場合、炉心下部での金属デブリによる閉塞は稠密になりにくい。この時点までのZr酸化度は数%程度と推定される。

・3/14 20:30頃に、冷却水水位がBAF以下に回復、あるいは、金属デブリメルトの下部プレナム崩落、等の、限定的な事象により、RPV内で最初の圧力ピークが発生した。これにより、炉心に水蒸気が供給され、炉心上部での温度が2000℃を超え、燃料崩落が開始した。燃料被覆管の酸化度が低かったため、燃料は、比較的低い温度で粒子状で崩落しやすかったと推定される。したがって、崩落開始まのデブリ(Zr)酸化度は限定的であるが、崩落途中では上昇しやすい。炉心部での燃料崩落過程で、Zr酸化度は崩落直前に約15%、崩落堆積時点で約55%まで上昇したと推定される。

・3/14 22:30~3/15 1:00頃に、RPV圧力が連続的に上昇した。これは、いったん炉心支持板の直上あたりで、崩落した燃料デブリがいったん堆積し、いったん温度低下した後に、崩壊熱で、再溶融し、下部プレナムの冷却水中に少しずつ移行したことを示している。炉心部でいったん堆積したデブリ中で、どの程度溶融デブリプールの形成・拡大が進んだのかは不明である。溶融デブリの主成分は、亜酸化のU-Zr-Oメルトと推定され、周囲の酸化物を溶融しながら拡大する。溶融デブリプールの拡大が限定的で、BWRドレナージ型でデブリ崩落した場合のデブリ温度は、2000~2300℃程度と推定される。下部プレナムの移行過程で、Zr酸化度はさらに上昇したと考えられるが、デブリ移行メカニズムが不明のため、不確かさが大きい評価になっている。BWRドレナージ型では、酸化度が上昇しやすいと推定される。

・2号機では、デブリのいったん堆積~下部プレナムへの移行パス、および、炉心下部の構造物や堆積物の残留程度の不確かさが大きく、内部調査による知見取得が期待される。

図2(b) 2号機でのRPV内デブリふるまいシナリオ(下部プレナム堆積まで)





















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炉心部でのデブリ崩落~下部プレナムへのデブリ移行シナリオ(3号機)

・3/13 6:00頃に、冷却水水位がTAFに到達。それまでは、炉心は冷却水中に維持されており、燃料温度はほぼ冷却水温度と等しい。燃料被覆管外周の酸化は、通常運転時に形成される酸化皮膜20μm程度にとどまっていた。

・3/13 9:00頃までに、炉心上部が露出。露出部では、燃料温度は最高2000℃程度まで上昇し、燃料溶融・崩落が開始した。燃料被覆管外周の酸化も進行した。制御棒温度は1200℃を超え、下方へ溶落した。チャンネルボックスの酸化が進行しており、制御棒は下方に移行しやすかった。炉心の中央部以下は、冷却水に覆われており、温度は冷却水温度と同程度、Zr酸化はほとんど進行していなかった。この時点までのZr酸化度は15%程度と推定されている。

・3/13 9:00過ぎに、ADSが作動し、冷却水水位が短時間でBAF以下に低下した。減圧沸騰が起こり、燃料温度はいったん冷却水の温度以下まで低下した。それ以降1時間程度は、炉心部で水蒸気が枯渇する条件で、燃料温度が上昇したと推定される。

・3/13 9:00以降に、数回にわたる、比較的急峻なRPVピークが観測された。これは、いったん炉心支持板の直上あたりで、崩落した燃料デブリがいったん堆積し、いったん温度低下した後に、崩壊熱で、再溶融し、下部プレナムの冷却水中に塊状で移行したことを示している。炉心部でいったん堆積したデブリ中で、どの程度溶融デブリプールの形成・拡大が進んだのかは不明である。しかし、炉心上部である程度酸化が進み塊状のデブリがすでに形成されていたことから、炉心部での堆積物中で温度が上昇しやすく、2号機よりは、溶融デブリプールが形成・拡大しやすかったと推定される。炉心部でのいったん堆積時点までのZr酸化度は55%程度と推定される。この場合、溶融デブリの主成分は、亜酸化のU-Zr-Oメルトとなり、周囲の酸化物を溶融しながら拡大する。

・3/13 12:00~13:00にかけて、最大の圧力ピークが検出されており、この段階でデブリの下部プレナムへの移行が、およそ終了したと推定される。塊状デブリが多いため、2号機に比べ、下部プレナム堆積時点でのZr酸化度が低いと考えられる。炉心下部の構造物や堆積物の残留程度の不確かさが大きく、内部調査による知見取得が期待される。

図2(c) 3号機でのRPV内デブリふるまいシナリオ(下部プレナム堆積まで)























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② 下部プレナムでのデブリ再溶融~RPV破損・デブリのペデスタル内移行

〇 下部プレナムでのデブリ堆積

 1~3号機では、酸化度100%に達していない燃料デブリが、いったん下部プレナムに堆積し、その後に崩壊熱で再溶融し、RPV破損に至ったと推定されている。炉心部からのデブリ移行パスとデブリ酸化度(Zr酸化度)は、号機ごとに異なっていたと推定されている。

  • 1号機: TMI-2型パスでデブリ移行。本来下部プレナムにあった構造物や炉心支持板、支持金具等は、下部プレナムへのデブリ移行時点では、形状を維持していたと考えられる。移行したデブリはメルト状、あるいは塊状で、酸化度は最も低かったと推定されている。
  • 2号機: BWRドレナージ型パスでデブリ移行した可能性。下部プレナムへのデブリ移行時点で、すでに燃料デブリと構造材が物理的に混合していた可能性が考えられる。移行したデブリは粒子状で、酸化度は最も高く、かつ空隙が多かったと推定されている。
  • 3号機: 塊状あるいはメルト状のデブリが複数回に分けて、下部プレナムに移行したと推定される。鋼材はある程度破損し、燃料デブリと混合していた可能性が考えられる。移行したデブリは塊状で、酸化度は2号機より低かったと推定されている。

〇 下部プレナムでのデブリ再溶融

 下部プレナムに堆積したデブリは、二酸化物(UO2、ZrO2)、亜酸化物(U-Zr-O)、金属デブリ(破損・溶融した制御棒やチャンネルボックス)、破損した構造材、などの混合物と考えられる。残留していた冷却水により、いったん凝固したと推定されている。その再溶融は非均質に進行するため、化学的な溶融特性を考慮する必要がある(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融)。また、デブリ酸化度と構造材(鋼材)の溶融が、デブリ再溶融状態に与える影響については、MASCA模擬試験の知見が参考になる(参考15:MASCA模擬試験)。号機ごとの崩壊熱の違いも重要な因子となる(例:1号機ではデブリ昇温が急速に進みやすい)。堆積状態やデブリ酸化度の違いから、以下のデブリ再溶融過程が推定される。

  • 1号機: 堆積時にデブリと構造材があまり混合しておらず、再溶融初期にデブリ成分のみ溶融する(U-Zr-Oメルト形成)。U-Zr-Oメルト中に次第に鋼材が溶融し、重金属メルト(HM: Fe-U-Zr(-O))が形成される。崩壊熱が最も大きく、酸化物デブリから金属メルトに向けて、大きな温度勾配が発生した可能性がある。
  • 2号機: 堆積時にデブリと構造材が粒子状で混合しており、再溶融初期に主に金属デブリ(Fe-Zr-B4C)の溶融が進行する。デブリ酸化度が高いため、Uをあまり含まない軽金属メルト(LM: Fe-Zr(-B,C))が形成され、これがRPV底部に広がり、一部で鋼材成分と共晶溶融する。粒子状の酸化物は、空隙が多く、またLMに覆われるため、溶融まで至らなかったと考えられる。
  • 3号機: 堆積時に塊状のデブリと構造物が共存しており、U-Zr-Oメルト形成~鋼材の溶融が進行しやすい。したがって初期に形成された重金属メルトへの鋼材溶融で比重が軽くなり、金属メルトと酸化物固相あるいはメルトが混合しやすかった可能性がある。これは、高粘性デブリ形成の一因となっている可能性がある。

〇 RPV破損

 下部プレナムで再溶融したデブリの化学的特性や温度分布によって、RPV破損モードが号機ごとに異なっていた可能性が考えられる。

  • 1号機: 急速にデブリ昇温。酸化物メルトと金属メルトの成層化状態を形成し、RPV破損に至った可能性が考えられる。デブリとRPVとの伝熱状態により、RPV破損個所や破損メカニズム(共晶溶融、クリープ破断、等)が影響を受ける。
  • 2号機: デブリの昇温は、比較的緩やかだった可能性。軽金属メルトがRPV底部に広がり、RPVとの伝熱と応力集中により、RPV底部側面が大規模破損したと推定されている。一方で、軽金属メルトとRPV底部溶接部で局所的な共晶溶融が発生し、小規模破損したと推定されている。(参考5:2号機下部プレナム堆積物の伝熱解析
  • 3号機: 重金属メルトと酸化物の固相あるいはメルトとの混合状態を形成しやすかったと推定される。この過程で形成される高粘性デブリと、RPVとの伝熱、応力、化学反応により、RPV底部が大規模に破損し、構造物を巻き込みながら、デブリがペデスタル内に移行したと推定される。
  • これらの推定されている、デブリ再溶融~RPV破損に至るシナリオ分岐と、それをもたらす要素現象(デブリ酸化度、鋼材の溶融程度、ピーク温度、金属/酸化物の混合程度、RPV/デブリ界面でのクラスト形成、等)の条件を、SA解析コードの下部プレナムモデル、ペデスタル移行モデルの高度化に向けて、解明することが望まれる。

〇 RPV内部調査(下部プレナム)への期待

 堆積物表面状態の観察と深さ方向調査(デブリ成分の分布とマクロな相互作用進展の解明)、サンプル採取と分析(デブリ化学状態の解明)、RPV変形調査、デブリとの界面状態調査(伝熱条件の検討)、などによる知見拡充が望まれる。

炉心部でのデブリ崩落~下部プレナムへのデブリ移行シナリオ(1号機)

・炉心部位から、下部プレナムに、TMI-2型パスでデブリ移行した。このため、炉心支持板、炉心支持金具、CRGT等は、デブリ崩落の時点では、ほぼ本来形状を保っていたと推定される。また、崩落したデブリは塊状が多く、デブリ酸化度は比較的低いと推定されている。

・堆積したデブリからの崩壊熱により、下部プレナムに残留していた冷却水が蒸発し、デブリがドライアウトした。それ以降、デブリの温度上昇が開始された。

・1号機では、下部プレナムでのデブリ堆積時に、デブリと構造物(鋼材)との混合があまり起きていないと考えられ、温度上昇過程では、まずデブリ内部での溶融が進んだと考えられる。酸化度が低いデブリの場合には、1400℃以下で、U-Zr-Oメルトの溶融が始まり、周囲の酸化物を溶融しつつ、メルトの範囲が拡大すると考えられる。

・U-Zr-Oメルトと鋼材が接触すると、溶融したFeなどがU-Zr-Oメルトに溶融する。Feが溶融すると、U-Zr-Oメルト中の酸素濃度が減少するため、U,Zrの酸化物が析出する可能性がある。これは、ウラン粒子の形成メカニズムの一つになっていると考えられる。Feの溶融量が少ないうちは、Fe-U-Zr(-O)メルトが形成され、U濃度が大きいために比重が大きく、重金属メルト(HM)として、酸化物メルトの下に成層化すると考えられる。

・1号機では崩壊熱が大きいため、デブリ内で大きな温度勾配ができやすく、酸化物相もメルト化した可能性が考えられる。

・形成されたHMは、残留した構造物の下の方に広がると推定され、構造物が次第に溶融していくと考えられる。このために、構造物の倒壊が発生した可能性が考えられる。

・これらのことから、1号機については、RPV底部の伝熱・応力による変形、金属あるいは酸化物メルトとRPVの間のクラスト形成、なども、RPV破損個所と破損メカニズムの評価に向けた重要因子となる。

図3(a) 1号機事故シナリオ(RPV破損まで)















炉心部でのデブリ崩落~下部プレナムへのデブリ移行シナリオ(2号機)

・炉心部位から、下部プレナムに、BWRドレナージ型パスでデブリ移行した可能性がある。このため、炉心支持板、炉心支持金具、CRGT等も、ある程度巻き込まれながら、下部プレナムに崩落したと推定される。また、崩落したデブリは粒子状が多く、デブリ酸化度は比較的高いと推定されている。

・堆積したデブリからの崩壊熱により、下部プレナムに残留していた冷却水が蒸発し、デブリがドライアウトした。それ以降、デブリの温度上昇が開始された。

・2号機では、下部プレナムでのデブリ堆積時に、デブリと構造物(鋼材)との混合がある程度発生していたと考えられる。このため、温度上昇過程では、まず金属デブリの溶融が進んだ可能性がある。金属デブリの主成分は、SS-Zr-B4Cなどであり、Zrの局所的な組成によるが、950-1350℃程度で共晶溶融が急速に進む。酸化物デブリ中の亜酸化成分(U-Zr-O)は、金属デブリメルト中に溶融する。

・金属デブリメルトとU-Zr-Oメルトor固相の相互作用は、ウラン粒子の形成メカニズムの一つになっていると考えられる。

・2号機では、U濃度が小さいために比重が小さく、軽金属メルト(LM)が広がったと考えられる。その溶融温度が比較的低いため、酸化物デブリはほとんど溶融しなかったと考えられる。

・形成されたLMは、堆積物の下の方に広がると推定され、構造物が次第に溶融していくと考えられる。

・これらのことから、2号機については、RPV底部の伝熱・応力による変形が、RPV破損の重要過程になっていると推定されている。参考、による解析では、RPV底部側面に伝熱・応力が集中すると評価されている。一方で、RPV底部では、LMと溶接部などの脆弱部で局所的な共晶溶融が進んだと考えられる。(参考)

図3(b) 2号機事故シナリオ(RPV破損まで)













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炉心部でのデブリ崩落~下部プレナムへのデブリ移行シナリオ(3号機)

・炉心部位から、下部プレナムには、塊状のデブリが複数回崩落したと推定されている。炉心支持板、炉心支持金具、CRGT等も、2号機よりは少ないが、ある程度巻き込まれながら、下部プレナムに崩落したと推定される。また、崩落したデブリは塊状が多く、デブリ酸化度は比較的低いと推定されている。

・堆積したデブリからの崩壊熱により、下部プレナムに残留していた冷却水が蒸発し、デブリがドライアウトした。それ以降、デブリの温度上昇が開始された。

・3号機では、温度上昇過程で、デブリ内部でのU-Zr-Oメルトの形成とデブリ周辺での金属デブリの溶融が同時並行で進んだ可能性がある。U-Zr-Oメルトは1400℃以下で溶融開始し、次第に溶融範囲が拡大する。一方、金属デブリの主成分は、SS-Zr-B4Cなどであり、Zrの局所的な組成によるが、950-1350℃程度で共晶溶融が急速に進む。これらのメルトが接触すると相互に溶融すると考えられる。

・金属デブリメルトとU-Zr-Oメルトの相互作用は、ウラン粒子の形成メカニズムの一つになっていると考えられる。

・3号機では、酸化物デブリから金属デブリに向けて、大きな温度勾配が発生した可能性がある。このため、U-Zr-Oと金属デブリメルトの混合物と、二酸化物メルト(or固相)が共存・混合しやすかった可能性がある。このことから、固液混合状態の高粘性デブリが形成された可能性がある。

・これらのことから、3号機については、RPV底部の伝熱・応力による変形が、RPV破損の重要過程になっていると推定されている。高粘性デブリとRPVの伝熱・応力、及び、デブリとRPVの間のクラスト形成の程度、溶接部などでの局所的な共晶溶融の有無などの知見取得が望まれる。

図3(c) 3号機事故シナリオ(RPV破損まで)













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参考文献

[1] https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2022/08/4-1.pdf