TMI-2での事故進展に伴うデブリ移行挙動

OECD/NEA/CSNIで実施されたVIP(Vessel Investigation Project)プロジェクトのサマリーレポートにおいて、TMI-2事故における原子炉圧力容器内のデブリふるまい事象が取りまとめられている[1]。また、TMI-2事故後の炉心形状、事故時の計測データ、種々のメカニズム解析に基づく炉心物質移行の時系列の推定結果は、参考文献[2-6]にとりまとめられている。ここでは、その概要を整理する。
図1に、TMI-2事故でのスクラム後約4時間のRPV内圧力変化と主なイベントを示す[2]。TMI-2事故では、1979年3月28日午前4時に、給水流量喪失事象が発生し、タービンがトリップし原子炉が自動停止した。その後、加圧器逃し弁の開固着、高圧注水ポンプの手動停止などにより、スクラム後100分で冷却水供給が停止し、炉心水位が低下、炉心上部から次第に燃料が露出し、燃料溶融開始した。
図2に、事故時の各種プラントデータの測定値を示す[1]。別項目に示したTMI-2炉の事故前の構成を確認しつつ、事故シークエンスを理解されたい(参考:TMI-2炉の概要(事故前))。ソースレンジモニターの指示値が、スクラム後約100分、170分、220分で急上昇していることがわかる、後述するように、これらはそれぞれ、炉心上部露出、炉心部での燃料崩落、溶融デブリの下部プレナム移行に、それぞれ対応していると考えられている。冷却水フローモニターの指示値からは、スクラム後約70分でB系が停止、110分でA系が停止していることがわかる。15.5時間後に、冷却水フローが再構築されている。高圧注水系ポンプの起動タイミングも図示されている。冷却水アウトレット温度は、スクラム後約120分以降に急上昇しており、炉心上部が露出されたことに対応している。RPV内圧については、図1以降の変動も示されている。スクラム後約300分からは、炉心への注水量を細かく変化させて、冷却状態を安定させる取り組みがなされている。
これらのプラントデータと、RPV内部調査の結果、事故解析の結果などに基づいて、RPV内のデブリふるまい(in-vessel phase)は、5個のフェーズに分けて理解されている。フェーズが進むにつれて、不確かさが伝播し、拡大する。特に、Phase-4以に発生した、溶融デブリの下部プレナム移行と、デブリと下部ヘッドの相互作用については不確かさが大きいとされ、国際協力によりサンプル分析とRPV破損マージンの解析が行われた(VIPプロジェクト)。
Phase-1(冷却水喪失)、スクラム後100分まで
- スクラム前:二次系給水ポンプが停止し、蒸気発生器水量の低下したことで、二次系による一次系からの除熱能が減少。蒸気発生器への冷却水供給量が低下したことにより、RPV内での冷却水の対流時間が増加し、これにともなって一次系(RCS: Reactor Coolant System)内の圧力が上昇。RPV内圧15.7MPaに到達した段階で、加圧器上部の圧力開放弁(PORV: Pilo-Operated Relief Valve)をマニュアルで開放。RPV内圧16.3MPa到達時点(PORV開放後8秒)で原子炉スクラム、制御棒自動挿入(図2)。
- スクラム直後: 一次冷却水の注水停止、高圧注入ポンプを手動で起動、RPV内圧が低下。一方で、PORVが開で固着していたため、小破断LOCA発生、冷却水喪失開始。運転員は、加圧器の水位の指示値から、RCS系は満水と判断し、緊急冷却水系の供給流量を低下。しかし、PORVが開いていたため、RCS系から原子炉格納容器内への蒸気放出が継続。
- RCS系の圧力減少は、約7MPaで一旦停止。一方で、PORVからの蒸気放出継続により、冷却水中のボイド率増加、冷却水ポンプ内にもボイド発生。
- スクラム後73分: 高ボイド二相流(気液流)により振動したため、B系の冷却水ポンプ2基を手動で停止。B系統での除熱能を喪失。
- スクラム後100分: 同様に、A系の冷却水ポンプ2基を手動で停止。炉心部からの冷却水対流による除熱能を喪失。この段階までは、炉心上部はまだ気液二相冷却水中に保持され、除熱されていた。
Phase-2(炉心加熱、炉心崩落開始)、スクラム後100~174分まで
- スクラム後100分: A系ポンプ停止により、炉心上部の気液二相流がRPV外に排出され、気液分離、RPV内に水位形成(炉心上部のボイド化)。崩壊熱を除熱できず、次第に水位低下。
- スクラム後113分: 炉心頂部から露出開始。
- スクラム後114~120分: 炉心上部で燃料温度上昇。燃料温度約800℃到達で、Zry被覆管のバルーニング・破断発生、FPガスや高揮発性FPの放出開始。
- スクラム後139分: PORVの元弁を閉鎖、格納容器への蒸気やFPガスの流出停止、RPV内圧再上昇。
- スクラム後140分: 格納容器内線量が急上昇、FPガスの放出と整合。一方で、冷却水水位は炉心中央あたりまで低下。
- スクラム後140~150分: 炉心ピーク温度が1200℃に到すると、制御棒のSS被覆管とZry案内管の共晶溶融、あるいはインコネル製スペーサーグリッドとZry被覆管の共晶溶融による溶落が発生。金属成分を多く含む溶落物は、炉心下部の冷却水水位直上あたり(下部格子からおよそ0.6m高さ)で堆積・凝固し、冷却材流路を閉塞(下部クラスト層形成)。金属成分の溶融は、炉心中央から次第に外周方向に広がり、これに対応して、下部クラスト層も径方向に広がり。溶融制御棒材の放出。金属メルトの主成分は、Zr-Ag-In-Fe-Ni。
- スクラム後150~165分: 炉心ピーク温度1400~1500℃に到達すると、Zry酸化による急速昇温と水素発生開始。さらに、燃料温度>1800℃で、ジルカロイ溶融とUO2のジルカロイメルトへ溶解が急速に進行(U-Zr-Oメルト形成)、溶融物の溶落開始(キャンドリング)。下部クラスト層の上に崩落。【図3参照】
- RPV内圧が5.5MPaまで再上昇。水素ガス発生により、気体での除熱性能が低下し、炉心温度がさらに上昇。
- スクラム後174分まで: 炉心中央下部での下部クラスト層により、炉心中央での水蒸気流はほぼ完全に遮断。炉心中央部での崩落デブリの温度上昇、溶融進展、メルトの連結。デブリ崩落により、Zry表面積が減少し、Zry酸化や水蒸気発生が抑制。一方で、炉心外周部はバイパスされた水蒸気流によりある程度の冷却が継続。冷却水水位は次第に上昇し、この時点で上から2個目のスペーサーグリッドあたりまで回復。#この水位上昇に対応して、下部クラスト形状が漏斗型になったと推定されている。クラスト層に断熱されたため、炉心中央は冷却水の水位以下にあったが、十分に除熱されていない。【図4参照】
- 炉心部での溶融デブリの温度は、最高2850℃(UO2融点)、平均で2300~2550℃(それぞれ、U-Zr-Oの溶融温度、(U,Zr)O2の融点に相当)と推定。FPは、結晶粒界を通じた拡散により放出され、この時点でのFPガスと高揮発性FPの放出率は約45%という解析結果。
Phase-3(炉心溶融進展)、スクラム後174~224分まで
- スクラム後174分: 次冷却水B系ループのポンプ1基が19分間再起動。しかし、実効的な注水は最初の15秒間程度と推定。注水量は少なく、実効的な炉心冷却はできなかったが、高温に曝されていた炉心上部に熱衝撃が加えられた。水蒸気・水素発生により、RPV内圧の急上昇(約15MPaまで)。
- 一方で、炉心周辺部の燃料集合体は冷却(インコアモニター熱電対指示値の低下)。SPND指示値が低下。
- これらがきっかけで注水後数分間以内で炉心上部の燃料棒破砕・崩落・炉心形状の喪失(スランピング)、初期の炉心下部閉塞物の上にデブリベッドを形成。一方で、炉心崩落により、Zry酸化はいったんほぼ停止し、崩落したデブリベッドの温度はいったん低下。【第一回目のリロケーション】【図5参照】
- 破砕された粒子状デブリの一部は、冷却水中で撹拌され、最終的に下部プレナムに堆積。制御棒等の金属デブリ成分の一部もこの時に下部プレナムに移行したと推定されている。
- 一方で、発生した高温の水蒸気・水素ガスにより、上部格子が一部溶融・酸化。その上の上部プレナム構造物はほとんど損傷していないが、制御棒成分やFPが付着。CRDMのリードスクリュー分析[7]によると、上部格子すぐ上の上部プレナム構造物温度は、炉心中央で930℃、炉心周辺で730℃程度。ホットレグ入り口あたりで430℃程度。
- 174~200分: 冷却水水位は、デブリ崩落にともなって再び低下(2mあたり)。192分に、PORVを手動開放したが、デブリベッド内に冷却ガスは侵入できず、デブリ再昇温・再溶融開始。溶融プールの拡大。
- ここから、、、
- 200~224分: 200分に、高圧注入ポンプを手動で再起動。207分までに燃料デブリはほぼ再冠水。しかし、上部のデブリベッド内への冷却水侵入に20分くらい時間を要した可能性(#不確かさが大きい推定)。デブリはほぼ水没したが、その内部の除熱は十分に行われず、溶融デブリプール(U-Zr-Oメルト)が成長。【図5】 この時発生した高温水蒸気+水素ガスにより、上部格子が一部溶融したと推定(図8)。
- 224~226分: 上部ルースデブリへの冷却水侵入により、上部クラストの上下で圧力差発生。溶融デブリプールが加圧。一方で、下部クラストは冷却継続され、強度を維持。このため、側部(周辺)クラストが炉心南東部の上の方で破れ溶融プールの一部がバッフル板に到達、炉心南東部の燃料集合体の隙間、およびバッフル板を貫通してコアフォーマ領域を通じて下部プレナムに短時間で移行(1-2分程度と推定)。冷却水と溶融デブリとの相互作用により移行したデブリは凝固、RPV内圧力上昇。移行したデブリとRPV壁の隙間に水層形成。RPV壁の温度はSSの融点を超えていないと推定。しかし、計装案内管は一部で溶融。【第二回目のリロケーション】【図6】
- 226分~15.50時間: 燃料デブリの幾何学形状の変化により、デブリは冷却されやすくなった。高圧注入ポンプにより冷却水供給継続。RPV底部にホットスポット形成。ホットスポットでのデブリ温度>2773K、鋼材ピーク温度<1373K、加熱時間約30分と評価。15時間50分後に、一次系冷却ポンプの手動再起動による強制循環。下部ヘッドにおけるデブリベッドの冷却、一次冷却系の循環冷却(安定冷却)の確立。冷却水pH:7.5~7.7、ホウ素濃度>4350ppm。【図7】
これらの事故進展における、デブリふるまいフェーズは、大きく、初期フェーズ、トランジエント、後期フェーズに分類できる[6]。初期フェーズは、炉心・燃料露出により、燃料温度が昇温し、炉心の形状が大きく変化する直前までに相当する。制御棒や燃料棒の一部は崩落開始し、炉心の下の方(冷却水水位の直上あたり)には、初期閉塞が形成されている。トランジエントは、炉心・燃料が崩落し、本来形状が喪失する過程に対応する。炉心の下の方でいったん堆積し、デブリベッドを形成する。後期フェーズは、いったん堆積したデブリがさらに下部プレナムに移行して堆積し、崩壊熱で再昇温・再溶融する過程に対応する。再溶融したデブリにより、RPV破損し、デブリがRPV外に移行すると、RPV外フェーズ(ex-vessel phase)に移行する。(参考:BWRでの燃料溶融・崩落の概略的な理解)
TMI-2事故の場合、一部溶融した燃料棒や低融点の物質(Zry、SUS、Ag-In-Cdなど)が初期に落下し、炉心下部の水位面近傍で堆積・凝固することによりクラストが形成され、これが坩堝の役割を果たすことで溶融プール形成の起点となったと考えられている。図9に、被覆管部分が主に溶融し燃料ペレットが残留したデブリの写真を示す。これは、下部クラストを形成した典型的な物質の一つとして、デブリサンプル分析によって同定されている。
このようなTMI-2での事故進展に対し、1F事故1~3号機では、いずれも炉心・燃料崩落時に、炉心の有効燃料部に水位を形成していなかった可能性が高い。また、炉心・燃料崩落以降に、デブリが次第に冠水したTMI-2事故と異なり、1F1~3号機では冷却水の水位が低く維持されていた可能性が高い。これらにより、溶融プールの形成・拡大傾向や、溶融プール周囲のクラスト形成の傾向が異なっていた可能性が考えられる。おそらく、堆積物の底部から冷却水の水位に向けて、急峻な温度勾配を形成していたと推定される。特に、1F2号機では、大規模な溶融プールの形成には至らず、BWRドレナージ型のデブリ崩落や金属デブリの先行溶落が発生していた可能性がある。(参考9:BWRドレナージ型シナリオ、参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇)
参考:VIPプロジェクト
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図3 スクラム後150分での炉内状況の推定 [2,3]
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図4 スクラム後174分での炉内状況の推定 [2,3]
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図4 スクラム後175~180分の炉内状況の推定 [1,2]
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図5 スクラム後224分での炉内状況の推定 [1,2]
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図6 スクラム後224分(クラスト破損時)の炉内状況の推定 [1,2]
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図7 TMI-2事故炉の最終形態 [1,2]
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図8 上部格子の破損状態 [1,2]
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図9 TMI-2事故で形成された下部クラストサンプルの断面画像 [1,2]
参考文献
[1] J.R. Wolf et al., TMI-2 Vessel Investigation Project Integration Report, NUREG/CR-6197, 1994.
[2] J.M. Broughton, P. Kuan, D.A. Petti, E.L., A scenario of the Three Mile Island Unit 2 accident, Nucl. Technol. 87 (1989) 34-53.
[3] E.L. Tolman, P. Kuan, and J.M. Broughton, TMI-2 accident scenario update, Nucl. Eng. Design 108 (1988) 45-54.
[4] E.L. Tolman, TMI-2 Accident Evaluation Program, EGG-TMI-7048, EG&G Idaho, 1986.
[5] D.J. Osetek, J.M. Broughton, R.R. Hobbins, The TMI-2 accident Evaluation Program, EGG-M-89109, 1989.
[6] 渡会偵祐、井上康、舛田藤夫、TMI-2号機の調査研究成果、日本原子力学会誌解説、32(4) (1990) 338-350.
[7] リードスクリュー分析
---[6] M. Kurata et al., Chapter 14 - Advances in fuel chemistry during a severe accident: Update after Fukushima Daiichi Nuclear Power Station (FDNPS) accident, in Advances in Nuclear Fuel Chemistry, edited by M. Piro, pp. 555-625 (2020), Woodhead Publishing Series in Energy.