OECD/NEA/CSNIでのデブリ分析

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2025年12月9日 (火) 13:59時点におけるKurata Masaki (トーク | 投稿記録)による版
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 TMI-2炉から回収されるデブリサンプルの分析では、特に破損燃料と炉心デブリ取り出しの後半に向けて、廃炉作業への知見提供より、むしろ、事故進展理解の精緻化に主眼がおかれるようになった。これに伴って、RPV内サンプルの分析プロジェクトの運営主体が、DOEと電力会社から、NRCとOECD/NEA/CSNIの枠組みでの国際協力に変更された。下部ヘッド損傷状態の確認と破損までのマージン評価については、VIP(Vessel Investigation Project)プロジェクト[1]が提案され、下部ヘッドサンプルや下部プレナムハードデブリサンプルが各国の研究機関に送付された。一方で、事故進展中のデブリふるまいの理解については、VIPプロジェクトとは別にOECD/NEA/CSNIの枠組みでのプロジェクトが提案され、保管されていたコアボーリングサンプルや、炉心部デブリの破砕作業で回収された岩石状デブリが各国の研究機関に送付された[2]。この項目では、後者のプロジェクトについて概要をまとめる。

 本プロジェクトで得られた炉心部デブリの分析結果、および、VIPプロジェクトで得られた下部プレナムデブリの分析結果、この段階までに実施された各種デブリサンプルの分析結果、等に基づいて、事故時の圧力容器内での炉心物質のふるまいに関する知見が整理された[2]。知見整理にあたっては、LOFT(Loss-of-Fluid Test)[3]やPBF(Power Burst Facility)[4]といった大規模模擬試験で得られた知見との比較や、炉心物質相互の要素反応試験[5]の結果も参照された。

 このデブリ分析プロジェクトには、カナダ、ドイツ、フランス、スウェーデン、スイス、英国、米国、日本、韓国、欧州研究センターが参画した。日本からは、日本原子力研究所(当時)が代表機関として参画した。参考文献[2]のvol.2には、各機関の分析結果がまとめられている。なお、日本と韓国の分析結果は、ここには掲載されていない。

 主な観測結果は、以下のようにまとめられている。

  • 事故初期に溶け落ちた制御棒や構造材などの金属メルトにより、炉心下部(冷却水水位のあたり)で閉塞が発生し、下部クラスト層が形成された。従って、下部クラスト層は金属成分リッチであった。
  • 炉心部で、下部クラスト層の上に崩落・堆積した燃料棒は、溶融して、(U,Zr)O2を主成分とする溶融プールを形成し、下部プレナムにその一部が移行した後で凝固した。溶融時に上部や周辺にクラスト層が形成された。
  • 炉心上部が再冠水したタイミングで、残留していた燃料棒が破砕・崩落し、上部ルースデブリベッドが形成された。
  • 初期の金属メルトの先行溶落と炉心下部での閉塞形成は、LOFTやPBFでも観測されている。
  • 炉心部、および、下部プレナム部の(U,Zr)O2を主成分とするセラミックデブリ中では、立方晶単相領域と、Uリッチ立方晶とZrリッチ正方晶やZrリッチ単斜晶に相分離した領域が見られた。これは、デブリの一部が冷却水との直接接触により急冷されたこと、一方で、他の部分(塊状デブリの内部など)は、徐冷されたことを示唆している。
  • 下部プレナムデブリは、主に(U,Zr)O2と約3wt%の構造材酸化物からなっていた。このため、SSやインコネルの融点以下まで、固液混合したスラリー状態であったと推定された。
  • 初期の金属メルト形成は、制御棒と案内管、可燃性毒物棒と案内管などの金属構造物の相互作用によって形成された。
  • 形成された金属メルトによる、炉心下部での燃料棒損傷は、CORA試験やLOFT試験でも観測された。
  • 可燃性毒物棒と案内管の周辺で、Zr-Al-O系の共晶溶融反応が発生し、これが金属構造材溶融の起点になっていたと推定された。これは、TMI-2において、可燃性毒物棒周辺の損傷が激しいという観測結果と整合した。
  • 一方で、LOFT試験では、制御材のAgと案内管のZrの共晶溶融反応が観測されたが、TMI-2では観測されなかった。これは、高圧条件で事故が進んだTMI-2では、制御材が噴出しにくかったためと推定された。
  • デブリ粒子中の主要成分の酸化状態の分析から、事故時の樽俎ポテンシャルは、-150kJ/mol(2273K、燃料棒の大規模溶融が始まる温度)、-500kJ/mol(1473K、金属成分の溶融が始まる温度)の範囲にあると推定された。この酸素ポテンシャルでは、Crは酸化(Cr2O3,(Fe,Cr)3O4)、Feは酸化物(FeO,Fe3O4)と金属(Fe-Ni-Sn)に分配すると推定された。
  • 炉心周辺や炉心化部に残留した燃料棒中の被覆管形状が維持されている部分では、内部で燃料ペレット形状が維持され、希ガス以外のFPが保持されていた。
  • 下部ヘッドやLCSAは、溶融デブリと接触したが、溶融デブリがスラリー状の状態であったことなどにより、大きく損傷することなく強度をが保持された。

参考:VIPプロジェクト

参考:コアボーリング調査と溶融凝固層の破砕

参考:下部ヘッドサンプルの分析データ(VIPプロジェクト)

参考:下部プレナムハードデブリサンプルの分析データ(VIPプロジェクト)

参考:コアボーリングサンプルの分析データ

デブリサンプルの分配

 図1にコアボーリングサンプルの採集位置を示す[6]。このうち、溶融凝固層とクラスト層が回収された炉心中央~中間の5本のボーリングサンプルからデブリ粒子が取り出され、各機関に輸送された[2]。同時に、溶融凝固層破砕後に回収されたデブリ粒子、切り株燃料棒や制御棒なども輸送された。表1に、各機関に輸送されたサンプル一覧をまとめる[2]。#機関名は、現在の名称(略称)で記載。

炉心物質の溶融現象のまとめ

表1 TMI-2サンプルリスト(各機関への分配)[2]
サンプルID 採集位置 重量(g) 粒子の密度(g/cm3 送付先(CSNIプロジェクト) 送付先(米国内)
D8-P1 下部クラスト 632 7.05 KIT(独)、CEA(仏)、CNL(加) ANL-E、INEL
D8-P2 周辺クラスト 494 7.59 JRC-KA(欧)、JAEA(日)、KAERI(韓) INEL
D8-P3 上部クラスト 746 9.74 JRC-KA(欧)、JAEA(日)、AEA-T(英)、Studsvik(スウェーデン) INEL
D8-P11 上部クラスト 1847 8.24 JAEA(日)、PSI(スイス) INEL
G12-P1 溶融凝固層 513 7.57 KIT(独)、AEA-T(英)、Studsvik(スウェーデン)、CEA(仏)、JAEA(日)、CNL(加) ANL-E、INEL
K9-P1 下部クラスト 1303 7.21 AEA-T(英)、KAERI(韓)、KIT(独)、CNL(加) ANL-E、INEL
K9-P2 上部クラスト 913 7.87 KIT(独)、AEA-T(英)、KAERI(韓)、PSI(スイス) ANL-E、INEL
O7-P4 上部/周辺クラスト 728 8.78 JAEA(日)、KIT(独)、JRC-KA(欧) INEL
D4-P2-D 溶融凝固層 27.2 - - ANL-E
D4-P2-A 19.7 8.9 - INEL
D4-P2-B 19.1 - AEA-T(英) -
D4-P2-C 6.8 9.4 JAEA(日) -
D8-P4-A 67.98 8.67 - INEL
D8-P4-D 62.02 - - ANL-E
D8-P4-B 51.84 - CNL(加) -
D8-P4-C 37.63 7.77 - INEL
G8-P10-A 268.60 8.24 - INEL
G8-P7-A 198.00 7.35
G8-P9-A 163.20 7.34
G8-P6-B 157.80 7.62
G8-P5-B 120.00 7.96
G8-P8-A 118.50 7.40
G8-P4-B 60.49 - - ANL-E
G8-P4-A 55.14 7.45 KIT(独) -
G8-P5-A 50.06 -
G8-P8-C 50.03 - PSI(スイス) -
G8-P7-B 38.45 - - ANL-E
G8-P7-C 36.10 8.80 - INEL
G8-P9-B 33.78 - - ANL-E
G8-P6-A 21.10 7.69 JAEA(日) -
G12-P9-A 132.18 7.65 - INEL
G12-P4-A 90.48 7.84
G12-P8-A 82.16 - - ANL-E
G12-P10-A 64.28 - JRTC-KA(欧) -
G12-P2-B 60.93 8.47 - INEL
G12-P10-B 54.65 - Studsvik(スウェーデン) -
G12-P8-B 48.93 7.66 JAEA(日) -
G12-P2-E 46.71 - JRC-KA(欧) -
G12-P3-A 45.41 7.70 JAEA(日) -
G12-P2-D 40.93 8.33 -
G12-P6-E 36.92 - JRC-KA(欧) -
G12-P9-B 33.54 - JRC-KA(欧) -
G12-P10-C 28.95 - KIT(独) -
K9-P3-L 75.55 - - ANL-E
K9-P4-G 67.73 - CNL(加) -
K9-P4-D 61.34 6.92 - INEL
K9-P3-A 55.80 7.56
K9-P3-D 43.82 7.44
K9-P3-M 41.63 7.50 CEA(仏) -
K9-P3-C 37.73 - KAERI(韓) -
K9-P4-M 33.56 - - ANL-E
K9-P4-J 26.83 -
K9-P3-F 26.68 7.78 - INEL
K9-P4-A 24.33 - KAERI(韓) -
K9-P3-G 23.97 - AEA-T(英) -
K9-P3-B 19.47 - KIT(独) -
K9-P4-C 18.85 -
N5-P1-D 35.55 8.28 - INEL
N5-P1-H 22.25 9.09
N5-P1-F 18.06 - JAEA(日) -
N5-P1-A 10.50 7.97 - INEL
N5-P1-E 10.34 - JRC-KA(欧) -
N5-P1-B 5.97 - KIT(独) -
N12-P1-A 145.64 - - ANL-E
N12-P1-B 0.66 - JAEA(日) -
O7-P6 76.03 5.43 - INEL
O7-P5 34.45 - CEA(仏) -
O7-P8-B 21.80 - KIT(独) -
O7-P1-A 4.48 7.61 JAEA(日) INEL
O7-P3 - - KIT(独) -
O9-P1-A 30.00 6.91 - INEL
O9-P1-B 20.44 7.22 -
M11-P2 溶融凝固層の

破砕後デブリ

1075 7.6 JAEA(日) -
M11-P10 63 8.4
H9/K9-P4 26 7.7
H9/K9-P5 31 7.0
H9/K9-P6 74 8.1
H9/K9-P9 24 7.3 KAERI(韓) -
残留長さ(cm) 輸送部分(cm)
D4-R9 切り株燃料棒 123 10~20

38~48 64~74 107~117

- INEL
D4-R12 122 11~21

38~48 56~66 107~117

JAEA(日) -
D8-R4

ガドリニア燃料

69 13~23 - INEL
G8-R9 64 11~21

28~38 43~53

- INEL
G12-R4 105 13~23

38~48 74~84

- ANL-E
G12-R8-8 105 91.5~101.5 CNL(加) -
K9-R5 42 11~21

22~32 32~42

- INEL
K9-R9 41 10~20

23~33 33~41

- ANL-E
K9-R14 51 23~33

33~43

AEA-T(英) -
N12-R11 113 63.5~73.5

96.5~106.5

PSI(スイス) -
D4-R8 制御棒、案内管 122 11.5~21.5

33~43 66~76 104~114

- INEL
K9-R13 49.5 5~15

20~30 36~46

- INEL
N12-R7 117 107~117 - INEL
N12-R13 52 5~15

25~35 46~56

- ANL-E
O7-R7

デブリ付着

74 64~74 - INEL
G8-R11 可燃性毒物棒、案内管 30.5 10~20 - INEL
G12-R13-2 88 20~30 - INEL
G12-R13-4 88 56~66 KIT(独) -
R12-R16 98 23~33

56~66

KIT(独) -
N5-R7 122 5~15

48~58 76~86 99~109

- ANL-E
G8-R3

デブリ付着

計装管 56 4~14

16.5~17.5 36~46

- INEL
G12-R12

デブリ付着

113 8~18

28~38 69~79 97~107

JAEA(日) -
K9-R4 39 10~20

25~35

JAEA(日) -
N5-R15 60 25~35 - INEL

参考文献

[1] A.M. Rubin, Overview and Organization of Three Mile Island Unit 2 Vessel Investigation Project, 1994.

[2] D.W. Akers et al., TMI-2 Examination results from the OECD-CSNI program, vol.1, EGG-OECD-9168, 1992.

[3] S.M. Jensen et al., Postirradiation Examination Data and Analyses for OECD LOFT Fission Product Experiment LP-FP-2, vol. 1 and 2, OECD-LOFT-T-3810, 1989.

[4] D.A. Petti et al., Power Burst Facility (PBF) Severe Fuel Damage Test 1-4 Test Results Report, NUREG/CR-5163, EGG-2542, 1989.

[5] P. Hofmann et al., Reactor Core Material Interactions at Very High Temperatures, Nucl. Technol. 87 (1989) 146-186.

[6] E.L. Tolman, TMI-2 Core Bore Acquisition Summary Report, EGG-TMI-7385, rev. 1, 1987.