下部プレナムハードデブリサンプルの分析データ(VIPプロジェクト)

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 VIP(Vessel Investigation Project)プロジェクトでは[1]、vesselサンプルの他に、すでに回収されていた下部プレナムハードデブリの一部が分取され、OECD/NEA/CSNIの枠組みで、各国・機関に輸送され、分析が行われた。ここでは、その分析結果の概要を示す。デブリ取り出しの後期になると、取り出し工法の検討や原子炉クリーンアップの目的で実デブリを詳細に分析する重要性は低くなっていた。一方で、下部プレナムに約19トンの溶融デブリが崩落したこと、下部プレナムからのデブリ取り出し過程で、下部ヘッド内面にホットスポットが見つかり、ヘッド内面のSSライナーにクラックがあることが観測されたこと、等から、原子炉安全評価の観点で、デブリ崩落後の圧力容器破損までのマージン解析と、下部プレナムでのデブリふるまいモデル開発のための知見取得の重要性が指摘された。これらを背景として、NRCが主導し、VIPプロジェクトが立ち上がった。

 一方で、VIPプロジェクトとは別の枠組みでのOECD/NEA/CSNIでの国際協力で、これまでに採集されていたデブリサンプル(コアボーリングサンプル、溶融凝固層破砕サンプル、等)についても、各国・機関にサンプル送付され詳細分析が行われた。得られたデータに基づいて、圧力容器内のデブリふるまいについて、国際的な認識共有が行われた[2]。

参考:VIPプロジェクト

参考:OECD/NEA/CSNIでのデブリ分析

参考:コアボーリングサンプルの分析データ

参考:下部プレナムルースデブリサンプルの分析データ

下部プレナムハードデブリの回収

図1 下部プレナムのルースデブリとハードデブリの堆積状態 [2]
図2 回収された下部プレナムハードデブリサンプルの外観 [2]

 下部プレナムルースデブリがPick-and-Place工法やエアリフトで回収された後に、残留した下部プレナムハードデブリはスライドハンマーで打撃破砕された。図1に、下部プレナムでのルースデブリの堆積厚さ分布とルースデブリ回収後のハードデブリの堆積厚さ分布を示す[2]。破砕後の岩石状のデブリサンプルは、下部プレナムをおよそ四分割し、それぞれの四半領域の中央付近から回収された。したがって、回収されたサンプルが本来存在していた位置についての情報は失われている。また、北東四半領域では、微粒子デブリのみが残留していたため、岩石状デブリは回収されなかった。図2に、写真の画質が悪いが、回収されたハードデブリサンプルの外観を示す[3]。

下部プレナムハードデブリサンプルの分析の目的

 下部プレナムハードデブリをサンプリングする段階では、すでに、デブリ取り出しや原子炉クリーンアップの観点では、デブリサンプルの詳細分析を行う理由は薄れていた。一方で、事故進展解析の観点では、デブリの物理的、微細組織的、放射化学的特性を分析し、デブリと下部ヘッド内面との相互作用を解明することで、下部ヘッド破損とデブリふるまいモデルの開発に向けた知見取得が重視された。そこで、NRCが主導し、OECD/NEA/CSNIの枠組みを使って、サンプル採集と各国・機関への輸送と分析が行われた。

 非破壊分析としては、外観観察、写真撮影、重量測定、かさ密度とデブリ粒子密度の測定、空孔率測定、が行われた。破壊分析としては、金相観察、SEM/EDX、EPMA、ICP-AES、放射線分析、等が行われた。

 さらに、FP分析結果に基づいて、事故時の崩壊熱計算が行われた。主要成分とFPについて、INELで行われた下部プレナムルースデブリの分析結果と比較された。

 参加機関は、SCK・CEN(ベルギー、原子力研究センター)、STUK(フィンランド、放射線・原子力安全センター)、IRSN(フランス、放射線防護・原子力安全研究所)、CEA(フランス、原子力・代替エネルギー庁)、GRS(ドイツ、原子炉安全協会)、CNEN(イタリア、原子力および代替エネルギーの研究開発のための国家委員会)、JAERI(日本、日本原子力研究所)、CSN(スペイン、原子力安全委員会)、SKI(スウェーデン、原子力発電検査機関)、OFEN(スイス、連邦エネルギー庁)、AEA-T(英国、AEAテクノロジー社)、NRC(米国、原子力安全委員会)、EPRI(米国、電力研究所)であった。

VIPプロジェクト立ち上げまでの経緯

  • TMI-2事故では、スクラム後224分に、約19トンの溶融デブリが、短時間(2分間以内)で炉心部の溶融プールから下部プレナムに移行した。
  • 1985年に下部プレナムのビデオ調査[4]、1986年にコアボーリング調査[5]がそれぞれ実施された。前者の調査では、上部プレナム構造物撤去後に、容器槽と遮蔽体の間の円環状の隙間を使って、下部プレナム周辺部が調査された。同時に下部プレナムルースデブリサンプルが採集された。後者の調査では、炉心中央から中間領域にかけて、合計10本のボーリングが行われ、うち3本はLCSAを貫通し、下部プレナム中央部のビデオ調査が行われた。
  • 下部プレナム調査で採集された下部プレナムルースデブリの分析が行われた[6]。
  • さらに、1988~89年にかけて実施された下部プレナム構造物とデブリ取り出しの過程で、下部プレナム内のノズルが大きく損傷している領域(ホットスポット)があり、また、下部ヘッド内面ライナーの一部にクラックが形成されていることが観測された[4]。
  • 下部ヘッド破損状態の解明と解析モデル開発に向けた知見獲得を目的として、OECD/NEA/CSNIの枠組みを利用して、VIPプロジェクトが提案された[1]。
  • 1990年1月のデブリ取り出しと圧力容器内のクリーンアップ完了後に、工程を約3か月中断し、下部ヘッドサンプルが採集された[1]。
  • VIPプロジェクトの一環として、予め採集されていた、下部ヘッド上に付着・堆積していた下部プレナムハードデブリサンプルが、各国・機関に配布された[1]。

サンプル採集

 サンプル採集の詳細は、別項目に記載した。

 図1に示すように、ビデオ調査により、ルースデブリとハードデブリの堆積マップが作成された[3]。ハードデブリの堆積厚さは、5~45cm程度であった。最大厚さは、下部プレナム中央部のH9,H10,I9,I10集合体位置の下あたりであった。ハードデブリ層は、136kg重のスライドハンマーを約6.1m高さから落下させることで破砕された。破砕物は均質で、目視では金属相は観測されなかった(金属微粒子がわずかに観測された)。図2に示すように、およそ4領域からデブリサンプルが回収された[3]。破砕されたハードデブリサンプルから、代表的なデブリ粒子がクラムシェルツールで拾い上げられ収納缶に回収された。採集の過程で、デブリと下部ヘッド内面との固着は観測されなかった。

 これらのサンプルは破砕後に回収されているため、必ずしも採集した位置の情報をそのまま持っているとは考えられないことに注意が必要である。

 サンプル回収の前に、下部プレナムのハードデブリ堆積状態の3D模式図が作成されている。その例を図3に示す[7]。

参考:VIPプロジェクト

ここに図を挿入、、、

非破壊分析の結果

重量、密度、外観

図4 下部プレナムハードデブリ粒子(破砕後)の外観 [3]

 表1に、4領域から採集されたサンプル重量とかさ密度を示す[3]。最も高密度のデブリ粒子は南東1/4領域から回収された。北西1/4領域からは、粉末状のデブリしか回収されていないため、これを除いてかさ密度を単純平均すると、8.7g/cm3と評価された。後述の化学分析では、これらの領域でのデブリ組成はほぼ類似しており、かさ密度の違いは主に空孔率によると考えられた。

 詳細分析用に、11個のデブリ粒子が採集された。

  • 1-9-A,1-9-B,1-9-C,1-9-F,1-9-G: 最初にデブリが落ちた周辺、南東1/4領域
  • 1-11-R,1-11-C,1-11-D: ノズルなどの損傷がひどかった領域、南西1/4領域
  • 1-12-R,1-12-C,1-12-D: 北東1/4領域
表1 下部プレナムハードデブリの採集重量と平均かさ密度 [3]
採集場所 重量(g) かさ密度測定した

サンプル量(g)

かさ密度(g/cm3 サンプル番号
南東1/4領域 2436 51.81 9.4 1-9
北西1/4領域 0.50 0.50 6.9 1-10
南西1/4領域 1214 52.23 8.6 1-11
北東1/4領域 2700 47.16 8.2 1-12

 図4に、代表的なデブリ粒子の外観写真を示す[3]。岩石状であり、わずかに金属微粒子が含有されていた。全体的に薄い灰色であり、部分的に黄色の部分があった。なお、図中の1-9,1-11,1-12はこれらの粒子が採集された四半領域を示す(表1参照)。

図5 下部プレナムハードデブリ粒子の切断研磨断面の金相写真 [3]

 表2に、図4に示したデブリ粒子の重量と密度の測定結果を、かさ密度と比較して示す[3]。測定結果は、7.45~9.40g/cm3の範囲にあり、内部に空孔を有する(U,Zr)O2の密度と整合していた。#(U,Zr)O2の密度は、UO2とZrO2の理論密度から、組成の加重平均として評価されている。

表2 下部プレナムハードデブリのかさ密度と粒子密度 [3]
採集場所 粒子(群)重量(g) 密度(g/cm3
南東1/4領域 51.81、複数粒子 9.40
14.90、1-9-F粒子 7.45
12.10、1-9-G粒子 8.07
南西1/4領域 52.23、複数粒子 8.62
49.50、1-11-C粒子 8.39
76.40、1-11-D粒子 8.30
北東1/4領域 47.16、複数粒子 8.18
45.50、1-12-C粒子 9.29
15.20、1-12-D粒子 7.60

空孔率

 デブリ粒子の密度は、空孔率に大きく影響されていた。空孔率は、図5に示す、デブリ粒子切断面の金相写真から計測された[3,7]。表3に、評価結果をまとめて示す[3],7]。クラックや、他の研磨面に比べて色が薄く、空孔の一部(くぼみ)と考えられる領域も空孔としてカウントされている。なお、金相観察用の切断面は、図4中に記載している。

 単純平均として、南東1/4領域(1-9)で20.8±7%、南西1/4領域(1-11)で18±14%、北東1/4領域で17±9%であった。しかし、いくつかのサンプルで極端に大きい値を示しており、単純平均はその値に影響されていることに注意する必要がある。全体平均は18±11%であった。

表3 デブリ粒子の空孔率 [3,7]
デブリ粒子ID 空孔率(%) デブリ粒子ID 空孔率
1-9-A 29.2 1-11-T 7.0
1-9-B1 10.8 1-11-T 5.7
1-9-B2 19.5 1-11-D-B 47.5
1-9-F 27.0 1-12 9.5
1-9-G 17.3 1-12 19.8
1-11-C 7.6 1-12 22.0
1-11-D-A 20.5 1-12-C 5.7
1-11-L 21.0 1-12-D 31.7

破壊分析の結果

図6 下部プレナムハードデブリの断面金相拡大(1-9-A粒子)[2]

 11個のデブリ粒子が、破壊分析用に選定された。

  • 南東1/4領域(1-9)は、溶融デブリが最初に崩落したと推定される領域であり、1-9-A、1-9-B、1-9-C、1-9-F、1-9-Gの5個が選定された。
  • 南西1/4領域(1-11)は、ホットスポットが形成され、下部ヘッドにクラックが観測された領域であり、1-11、1-11-C、1-11-Dの3個が選定された。
  • 北東1/4領域(1-12)は、壁状のデブリ堆積面(おそらく、デブリ広がりの終点)が観測された領域であり、1-12、1-12-C、1-12-Dの3個が選定された。

微細組織分析(全体的な傾向)

  • 上述のサンプルのうち、1-9-Bは取り扱い中にサンプルが分割し、1-9-B1、1-9-B2とナンバリングされた。
  • 1-11は、軸方向と径方向でそれぞれ切断され、1-11-L、1-11-Tとナンバリングされた。
  • 1-11-Dは、取り扱い中に分割し、1-11-D-Aと1-11-D-Bとナンバリングされた。
  • 図5に、これらの金相断面の例を示す[3]。上述したように、これらの断面から空孔率が計測された。
  • 金則写真を拡大すると、多くのデブリ粒子で、縞模様の構造が見られ、空孔が連結していた。図6に、代表的な金相拡大写真を示す[3]。
  • 一方で、丸く、孤立している空孔も観測された(図4,1-11-D粒子参照)。
  • 空孔の形成メカニズムとして、水蒸気の取り込み、構造材金属の蒸気によるバブリングが原因と推定された。
  • 全てのデブリ粒子で、基本組織は、均質な(U,Zr)O2であった。一方で、縞模様の部位では、マトリックスの相分離や主にFe-Crを含有するスピネル相が検出された。
  • 溶融金属の液滴状の析出物は、1-11-L、1-11-T、1-11-D-Aだけで検出された。

微細組織分析(特徴的な領域)

  • 空孔はサイズによって成層化しており、大きな空孔の周囲に微細空孔が存在し、また、バルクの(U,Zr)O2が相分離している領域に多く存在していた。図7に、マトリクス相が(U,Zr)O2単相からなっていた領域の拡大金相写真の例を示す[3]。図8に、比較的平滑な単相領域とまだら状の相分離領域からなる領域の拡大金相写真の例を示す[3]。これら2つの領域は、下部プレナムハードデブリ全体で観測された。
  • これらの相状態は、デブリの一部が急冷され、別の一部は徐冷されたことのエビデンスと考えられた。
  • 別のデブリ粒子中には、金属の析出粒子が観測された。金属粒子は、空孔の近くにみられることが多く、後述のSEM/EDX分析では、AgやSnを主成分とする粒子が同定された。図9,10に、典型的な金属粒子の析出状態を示す[3]。
図11 1-9-A粒子の二次電子像(SEI)(左)、拡大部位の組成像(BSI)(右) [3]

SEM/EDX分析、WDX分析

 1-9-A、1-9-B、1-11-T粒子について、詳細SEM分析、EDX分析、WDX分析が行われた。

  • 図11に、1-9-A粒子の断面二次電子像(SEI)と、拡大した領域の組成像(BSI)をそれぞれ示す[2]。金相観察と同様に、稠密な単相領域とまだらな相分離領域が観察された。#なお、組成像では、重元素の存在部位が明るく示される。
  • 単相領域は、(U,Zr)O2からなっていた。おそらく立方晶と考えられる。
  • 相分離領域は、比較的空孔が多く、Uリッチ相とZrリッチ相からなっていた。組成の違いは、BSIの濃淡に反映されている。
  • WDX面分析は、SEM分析を参考にして、測定対象範囲を絞り、U,Zr,Ag,Al,Cd,Cr,Fe,In,Mg,Mn,Mo,Nb,Ni,Sn,Oについて行われた。
  • 全体的な傾向として、単相領域は、ほぼ(U,Zr)O2で構成されており、それ以外の元素はほとんど同定されなかった。微量のMg,Nbなどが検出された。酸素については、当時の分析技術では感度が悪く、精度よく検出できていない。
  • Fe,Cr等を主成分とする第二相(おそらくスピネル相)が、空孔の周辺や結晶粒界に、多く観察された。
  • UとZrの二酸化物を主成分とする初晶と、Fe-CrおよびAl等の酸化物からなる第二相の融点の違いにより、溶融デブリの凝固途中で、スラリー状の固液混合状態が形成され、その状態がある程度の時間保持されたと推定された。

 WDX分析の結果については、1-11-T粒子についての分析結果を示す(図12)[2]。

  • 上述したように、1-11-T粒子では、金属析出物が観測された。そこで、研磨断面で、観察された金属析出物や空孔の周辺について、WDX面分析を実施した。
  • ROI#1(Region of Interest、WDXでの詳細分析領域#1)、空孔の内表面にライナー状の析出層が観測された。ライナー層中には、Al,Mgがやや多く観測された。おそらく、Cs等の揮発性物質も付着していると推定される。固相側のマトリックス相では、UとZrがほぼ同伴しており、(U,Zr)O2立方晶を形成していたと推定された。一方で、Fe,Crはこれと別相を形成(第二相)しており、スピネル相と推定された。
  • ROI#2、空孔内にAgを主成分とする金属相が析出していた。その周囲では、セラミック固相のマトリクスがUリッチ相とZrリッチ相に相分離し、さらに、それらとは別にFe,Crを含むスピネル相が析出していた。
  • ROI#3、空孔周辺にFe,Cr酸化物が濃化している様子が確認された。また、Sn金属粒子が検出された。
  • ROI#4、ROI#3と同様に、空孔周辺にFe,Cr酸化物の濃化が観測された。Alが同伴していた。
  • ROI#5、ROI#1~#4と類似した観測結果が得られた。

化学・放射化学分析

  • 化学・放射化学分析では、分析サンプルの酸溶解前にγ線測定を行った。その後、硫酸系溶媒を用いてアルカリ溶融し、液調製後のサンプルについて、ICP発光法やγ線分光法で分析が行われた。分析技術の詳細は、文献[8]に記載されている。本まとめでも、別項目で掲載する予定である。
  • アルカリ溶融作業中に、蒸発する可能性のあるI-129とSr-90については、トレーサーが添加されている。

炉心主要元素のICP発光分析

  • 下部プレナムハードデブリについては、炉心物質について、TMI-2の初期インベントリ[8]を参考に、15元素が抽出され、分析が行われた。(B,Gd,Si,Cuについては、分析が行われていない)
  • 表4に、下部プレナムの3個の四半領域から回収されたデブリサンプルの分析結果をまとめて示す[3]。(#これらの分析値は、数10gのデブリ粒子について実施されたものであり、分析値はそれらの単純平均であることに留意)
  • Sn,Ag,Akl,Mg,Mo,Nbについては、ICP発光分析の測定限界以下であった。(#Alは、WDX点分析では、主にスピネル相中にわずかに検出されている。)
  • 3個の四半領域の平均値がほぼ一致しており、炉心部で溶融したデブリはかなり均質であったと推定された。
  • 一方で、炉心から下部プレナムへのデブリ移行過程で、構造材成分をわずかに溶融し、Fe,Cr,Niの物量が増えている可能性が指摘された。
  • カチオンの検出量は、総じてサンプル重量の約84~88%であり、残りはICP発光法で分析できない酸素と推定された。
  • 全体的な傾向として、Sn以外の燃料棒成分が多く、制御棒や他の構造材由来の成分は少なかった。
  • 中性子吸収材、可燃性毒物材、構造材などの相対的な濃度が、初期炉心平均より小さい値となっており、相対的にU濃度が高くなっている。
  • UとZrの比について、炉心平均よりU濃度が高くなっている。
表4 下部プレナムハードデブリサンプル中の炉心物質分析結果(wt%)[3]
元素 初期インベントリ 領域
南東(1-9サンプル) 南西(1-11サンプル) 北東(1-12サンプル)
平均値 1-9-A粒子 1-9-B粒子 平均値 1-11-A粒子 1-11-B粒子 1-11-C粒子 平均値 1-12-A粒子 1-12-C粒子 1-12-D粒子
U 燃料棒 65.8 72.3 73.2 71.4 70.8 65.1 73.2 74.2 68.2 73.6 66.6 64.4
Zr 18.0 14.1 14.3 14.0 12.0 11.0 13.0 13.1 15.2 13.9 16.4 15.3
Sn 0.3 ND ND ND
Ag 中性子吸収材 1.8 #
In 0.3 0.28# 0.283 ND 0.26# 0.178 ND 0.348 ND# ND ND ND
Cd 0.1 NA
Al 可燃性毒物材 0.2 ND ND ND
B 0.1 NA
Gd 0.01 NA
Cu 構造材 0.01 NA
Cr 1.0 0.33 0.329 0.325 0.26 0.216 0.348 0.216 0.52 0.464 0.925 0.184
Fe 3.0 0.74 0.751 0.723 0.53 0.444 0.739 0.420 0.93 0.562 1.22 1.02
Mg 0.01 ND ND ND
Mn 0.08 0.030 0.034 0.027 0.026 0.024 0.031 0.022 0.028 0.022 0.035 ND
Mo 0.03 ND ND ND
Nb 0.04 ND ND ND
Ni 0.9 0.099 0.105 0.094 0.081 0.059 0.107 0.078 0.10 0.081 0.118 0.113
Si 0.04 NA
検出量の合計(%) 87.8 84.3 85.1

ND: Not Detected

NM: Not Analyzed

#: Agはアルカリ溶融作業中に失われた可能性。Inは、検出されたサンプルの平均値を示している。

主要FPのγ線分光分析

  • 主要FPについては、他のデブリサンプルと同様に、炉心中央と炉心中間領域の燃料集合体中のFP量について、ORIGEN-IIコードで解析を行い、Uに対して規格化することで、同伴傾向が評価されている。
  • 高揮発性FPとしてはI-129とCd-137が、中揮発性FPとしてはSr-90、Sb-125、Ru-106が、低揮発性FPとしてはCe-144とEu-154が分析された。
  • 表5に、下部プレナムの3個の四半領域から回収されたデブリサンプルの分析結果をまとめて示す[3]。(#これらの分析値は、数10gのデブリ粒子について実施されたものであり、分析値はそれらの単純平均であることに留意)
  • 全体的な傾向として、低揮発性FPは、Uと同伴し、デブリ中に残留していた。Eu-154については、やや低い捕捉率が得られたが、ORIGEN-II解析自体の解析精度に起因する可能性も指摘された。
  • 中揮発性FPについては、Sr-90は相当量が保持されていたが、一部喪失していた。Sb-125については、一部が金属相中に残留していた。下部プレナムではデブリの酸素ポテンシャルが上昇したと考えられており、Sb酸化物として蒸発した可能性が指摘された。炉心部デブリの分析結果から、Sbの残留と金属デブリの残留には相関があることが示されており、下部プレナムデブリ中に金属デブリが少ない傾向が推定された。
  • 高揮発性FPについては、Cs-137が空孔中などにトラップされて一部残留していた。切り株燃料中の残留率よりは小さかった。
  • 北東四半領域サンプルで、Sr-90、Cs-137、Sb-125、Ce-144の保持率が高い理由は不明であった。

事故時の崩壊熱解析

  • FP分析結果に基づいて、事故時の下部プレナムデブリの崩壊熱解析が行われた。
  • デブリが下部プレナムに移行した直後(スクラム後224分)、デブリが冷却状態に到達した段階(スクラム後600分)での解析が行われた。希ガスFPは解析から除外された。
  • 計算結果は、0.13W/g(224分)、0.096W/g(600分)となった。
  • この解析結果から、デブリがメルト状態を維持するには、デブリの除熱性が悪いことが必要であると評価された。
表5 下部プレナムハードデブリサンプル中の主要FPの保持率(ORIGEN-II解析値との比較、Uに対して規格化、%)[3]
FP核種 揮発性 領域ごとの平均値
南東(1-9) 南西(1-11) 北東(1-12)
Sr-90 48 47 96
Ru-106 NR
Sb-125 1.9# 1.1# 5.6#
I-129 NA
Cs-137 3.6 1.3 18
Ce-144 91 85 97
Eu-154 83 84 80

#Sb-125については、検出されたサンプルの平均値を示す。

NA: このレポートの段階では、I-129は分析されていない。

NR: このレポートでは分析結果が示されていない。

参考:TMI-2デブリ分析手法

下部プレナムルースデブリ分析結果との比較

 OECD/NEA/CSNIプロジェクトにおいて、INELで実施された下部プレナムルールデブリ(ボーリング調査前に下部プレナム周辺部から採集)の分析結果[6]と、下部プレナムハードデブリ(下部プレナムルースデブリ回収後に破砕して回収)の分析結果の比較が行われた[3]。

  • かさ密度について、ルースデブリでは6.57~8.25(平均7.1)g/cm3。ハードデブリでは7.45~9.4(平均8.7)g/cm3。ルースデブリの方がやや小さい傾向が確認された。
  • 空孔率について、ルースデブリでは 9~31(平均27)。ハードデブリでは5~41(平均18±11)%。かさ密度の分析結果と整合していた。一部に空孔率の大きいデブリ粒子サンプルが存在するが、全体としては、ハードデブリの方が空孔率が低い傾向が確認された。
  • U,Zr濃度について、ルースデブリでは62~73(平均65)wt%-U、平均12.6wt%-Zr。ハードデブリでは平均70wt%-U、平均13.8wt%-Zr。ハードデブリで、U,Zrの含有量がやや大きい傾向が示された。
  • 構造材成分について、ルースデブリでは1.8~3.7(平均2.4)wt%-Fe。ハードデブリでは平均0.7wt%-Fe。Cr,Ni,Mn,MO等についても、ルースデブリ側での検出濃度が大きい傾向が示された。ハードデブリ側で構造材成分がより少ない理由は不明とされた。
  • FP成分について、ルースデブリとハードデブリで顕著な差は示されなかった。

下部ヘッド破損までのマージン解析モデル開発のためのデータ整理

 OECD/NEA/CSNIプロジェクトにおいて、下部ヘッド破損マージンに関する解析モデル開発に向けた、デブリの物理的、材料的、放射化学的特性が整理された[3]。

  • デブリかさ密度について、ハードデブリの平均値である8.7g/cm3が選定された。UO2とZrO2の理論密度(10.9、5.6g/cm3)の組成加重平均値10.4g/cm3となり、空孔率を18%とすると、かさ密度は8.8g/cm3と評価される。これは実測値の平均値と整合していた。
  • 空孔率について、ハードデブリの平均値18%と、ルースデブリの平均値27%がそれぞれ選定された。
  • デブリの形状と分布について、ハードデブリは岩石状の塊とされ、ルースデブリは30~40cmサイズの岩石状デブリと微粒子デブリの混合状態とされた。下部プレナムデブリ取り出し時に撮影された画像データから、両者の分布が推定された。
  • デブリ温度について、デブリの微細組織データ、平均組成、既報の状態図を照らし合わせることで、デブリ温度の推定が行われた。Hofmannらによると、被覆管メルト(Zr-O)によるUO2の大規模溶解は1760℃以上で発生する[9]。一方で、デブリ中の燃料成分の平均組成78wt%-UO2と17wt%-ZrO2とすると、その最高到達温度は2600~2850℃と評価された。これらのことからデブリ温度は>2600℃と設定された。
  • 構造材成分の混入について、構造材成分の混入は<3wt%であり、セラミックの第二相を形成していたと設定された。
  • セラミックマトリックスの相分離とデブリ冷却速度について、デブリサンプルの一部で観測されたセラミックス相の相分離については、Zrリッチ相の相分離が起こるには、溶融デブリが室温近くまで冷却されるのに3~72時間必要と推定された[10]。
  • デブリ平均組成について、分析値に基づいて、成分の挿話が100%になるように換算され、70wt%U-13.75wt%Zr-13wt%O、残りの3wt%が構造材成分など設定された。
  • 崩壊熱について、解析結果が単位U重量あたりに換算され、0.18W/g-U(224分)、0.14W/g-U(600分)と設定された。

下部プレナムへのデブリ移行シナリオの更新

 VIPプロジェクトにおいて、従来の様々な検討結果に加えて、下部プレナムハードデブリの分析結果を考慮して、TMI-2での下部プレナムへのデブリ移行シナリオについて検討が行われた[1,7]。

炉心部でのデブリふるまい

  • スクラム後100~174分に、炉心部での燃料空焚き、炉心上部での燃料崩落とデブリベッド堆積、炉心中央での溶融プール形成が進行した。
  • 燃料崩落初期に発生した金属メルトの溶け落ちにより、一番下のスペーサーグリッドあたりにあった冷却水水位周辺で下部クラスト(10~15cm厚)が形成された。
  • スクラム後174分に、B系ポンプの再稼働イベントが、約19分間発生し、高温に空焚きされた状態の炉心上部に冷却水が注入され、燃料の大規模崩落のきっかけとなった。#主な冷却水注入は最初の15秒間(RPV加圧前)
  • この時の注水イベントにより、Zryが急速酸化し、発生した高温水素/水蒸気により上部格子が一部溶融・破損した。同時に、制御材由来のハイドロゾルが上部プレナムに輸送され、上部プレナム構造物や制御棒リードスクリューに付着した。
  • 同時期に燃料成分や制御棒成分が破砕されて形成された1mm以下サイズのデブリの一部は、冷却水中を撹拌・拡散し、下部プレナムに到達・堆積したと推定された。その結果として、ノズル表面やヘッドクラックにAg-In-Cd相が観測された。#しかし、この時期の下部プレナム移行量は不明である。
  • 主に、この注水イベントの際に形成された上部ルースデブリ(約27トン)の約3~10wt%は1mm以下のサイズであり、デブリベッドとして堆積した。#上部ルースデブリの分析結果より

下部プレナムへの溶融デブリの移行

  • スクラム後224~226分に、炉心部溶融デブリの下部プレナム移行イベントが発生した。
  • この時点でのSPND(Self Powered Neutron Detector)の計測値とSPND警報発報のタイミング、及び、RPV内圧データで見られた圧力パルスにより、溶融デブリの移行は炉の東側で発生したと推定された。
  • 切り株燃料取り出し時に、R6位置のバッフル板に破損孔(23 x 3cmと20 x 7cmサイズ)が観測された(図13)[7]。また、R6,P5位置の燃料集合体下部に、デブリフローが固着した痕跡(しかし、途中で固化)が見られた。
  • これらのことから、溶融デブリは、R6位置のバッフル板破損孔から、UCSAのコアフォーマ領域に侵入して広がり、さらにLCSAに移行したと推定された。#詳細な移行ルートは同定されていない。
  • コアフォーマ領域でのデブリ堆積の様子から、流入してきた溶融デブリが固着してどこかのフローホールがつまると、そこをフローオーバーした溶融デブリが、別のホールから下に移行したのではないかと推定された。
  • コアフォーマ領域からLCSA表面に到達した溶融デブリは、LCSAの東端と周辺部を伝わってさらに下部に移行したと推定された。
  • LCSA内部でも、フローホールの一部が閉塞すると、そこを乗り越えたデブリがさらに下に移行していったと推定された。図14に、LCSA解体作業時にとりまとめられたLCSA構造の閉塞マップを示す[7]。この閉塞部の周囲を伝わって、溶融デブリはLCSA最下層のEFD上に移行したと推定された。
  • 図15に、EFDのつまりマップを示す。図14のLCSA上部層の閉塞位置と整合していることが確認できる(例:H15,K15,K14で両者の閉塞が一致、C-14とD-13,D14が近接)。LCSA周辺部ではかなりの数のフローホールが閉塞されていた。
  • EFDがあまり損傷していないことから、最初にEFD位置まで到達したデブリはかなり冷却されていたと推定された。
  • デブリはEFDのフローホールから、下部ヘッド上に崩落した。

下部ヘッドと溶融デブリの相互作用

  • デブリの温度は、デブリ組成と崩壊熱、除熱性のバランスで決まる。
  • 溶融デブリの移行過程で、本来有していた熱エネルギーの一部は、UCSA溶融のために失われている。さらに、下部プレナム冷却水でデブリが冷却されている。デブリが均質な(U,Zr)O2であった場合、デブリが固化して流動性が失われると考えられる。一方で、デブリが相分離し、結晶粒界やデブリと構造材の界面に低融点物質が存在しているなら、これが流動性を保持して、固体デブリも移行できたと推定される。実デブリの分析において、スピネル系酸化物と(U,Zr)O2からなる共晶組織が観察されている。この共晶組織部分は比較的低融点だったと考えられる。
  • 下部ヘッドと溶融デブリの相互作用における疑問点は
  1. なぜ、下部ヘッド上に溶融デブリが移行したのに、ヘッドの大規模破損にいたらなかったのか?
  2. 一方で、なぜ、いくつかのインコアモニターノズルは激しく損傷溶融していたのか?
  • 以下の仮説が検討された。
  1. 最初のデブリフローが来た時に、ヘッドとノズルの接合部などがヒートシンクになり、デブリ固化して、クラスト層を形成

・いくつかのルートで、EFDを経由してデブリが下部ヘッド上に堆積し、初期クラスト層をおわん型に形成

・次により高温のデブリが移行してきて、その上に堆積、ノズルを破損・溶融(ノズル破損の観察結果より)(Fig. 8-6

・ノズル破損は、このような複数デブリフローによってもたらされた可能性。

・一方で、ヘッドはクラスト層で防護

・例、M9ノズルは、25cm上で破損。H5は15cm上。クラスト層の厚さと整合すると推定

・下部クラスト層の上に堆積したデブリメルトが凝固し、ハードクラスト層を形成したと推定

・最後に下部プレナムにやってきたデブリは、ルースデブリに相当。


・ホットスポット形成

・ヘッドのやや側面で(デブリの初期崩落位置と離れた場所)、クラストの薄い部分が形成された。

・堆積した溶融デブリ径方向に移動し、クラストの薄い部分でホットスポット形成

・この仮説は、ホットスポット形成位置が、デブリ堆積厚さが厚いところではないという観測結果と整合

・下部ヘッド冷却

・デブリサンプルの分析結果から評価された徐冷条件での直接の熱バランスでは、RPVは破損する。

・一方で、ヘッドサンプルは1100℃で30分から急冷(50℃/分)。

・別の除熱モードを検討。

・有力シナリオは、デブリベッド内のクラックを通じた冷却水流、ヘッドとデブリの間の水層形成

・十分な水層・水流形成のために30分くらい必要だったのではないか?

参考文献

[1] A.M. Rubin, Overview and Organization of Three Mile Island Unit 2 Vessel Investigation Project, 1994.

[2] D.W. Akers et al., TMI-2 Examination Results from the OECD-CSNI Program, vol. 1 and 2, EGG-OECD-9168, 1992.

[3] D.W. Akers et al., Examination of Relocated Fuel Debris Adjacent to the Lower Head of the TMI-2 Reactor Vessel, NUREG/CR-6195, 1994.

[4] J.P. Adams et al., TMI-2 Lower Plenum Video Data Summary, EGG-TMI-7429, 1987.

[5] E. Tolman et al., TMI-2 Core Bore Acquisition Summary Report, EGG-TMI-7385, 1987.

[6] C.S. Olsen et al., Examination of Debris from the Lower Head of the TMI-2 Reactor, GEND-INF-084, 1988.

[7] J.R. Wolf et al., TMI-2 Vessel Investigation Project Integration Report, NUREG/CR-6197, 1994.

[8] D.W. Akers et al., TMI-2 Core Bore Examinations, vol. 1 and 2, GEND-INF-092, 1990.

[9] P. Hofmann et al., Reactor Core Materials Interactions at Very High Temperatures, Nucl. Technol. 87 (1989) 146-186,

[10] G. Bart, TMI-2 Core Sample Evaluation at Paul Scherrere Institute, EGG-OECD-9168, 1990.