「燃料デブリの分類と堆積状態」の版間の差分
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=== (E) '''酸化物デブリの再溶融・凝固物(多孔質デブリ)'''=== | === (E) '''酸化物デブリの再溶融・凝固物(多孔質デブリ)'''=== | ||
'''分類(D)'''のルースデブが下部プレナムにいったん堆積した後、崩壊熱で再昇温・再溶融してから凝固したデブリであり、ルースデブリの内部に存在していると推定される。1,2,3号機で、RPV破損時のデブリ温度が異なっていたと推定されており、酸化物デブリの再溶融進展は、1号機>3号機>2号機の順に進んでいたと考えられる。溶融が進むと、分類(C)の金属デブリメルトと相互作用し、成分の再分布が発生する。また、金属デブリメルトと酸化物デブリ固相との共存状態、るいは、金属メルトと酸化物メルトの成層化状態が形成されたと考えられる。([[燃料デブリふるまいの要素現象#.E5.8F.82.E8.80.8311.EF.BC.9A.E4.B8.8B.E9.83.A8.E3.83.97.E3.83.AC.E3.83.8A.E3.83.A0.E5.A0.86.E7.A9.8D.E5.BE.8C.E3.81.AE.E3.83.87.E3.83.96.E3.83.AA.E5.86.8D.E6.BA.B6.E8.9E.8D|'''参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融''']]、[[燃料デブリふるまいの要素現象#.E5.8F.82.E8.80.8315.EF.BC.9AMASCA.E6.A8.A1.E6.93.AC.E8.A9.A6.E9.A8.93|'''参考15:MASCA模擬試験''']]) | |||
TMI-2事故では、溶融デブリが下部プレナムに崩落した際に、一部が塊状を形成しており('''図4''')、1F事故での酸化物デブリの外観や形状と類似している可能性が考えられる。 | |||
溶融・凝固過程でガス成分が多く発生すると考えられることから、内部は多孔質になっている可能性が高い。 | |||
金属デブリメルトと相互作用していた場合、酸化物デブリの溶融物も亜酸化状態であったと推定される。その凝固物の相状態は、U-Zr-Oメルトの凝固パスに基づいて評価するのが適切である。([[燃料デブリふるまいの要素現象#.E5.8F.82.E8.80.8312.EF.BC.9A.E6.BA.B6.E8.9E.8D.E3.83.87.E3.83.96.E3.83.AA.E3.81.AE.E5.87.9D.E5.9B.BA|'''参考12:溶融デブリの凝固''']]) | |||
'''【主なデブリ構成成分(別表の物性リスト参照)】''' | '''【主なデブリ構成成分(別表の物性リスト参照)】''' | ||
・バルク成分:U-Zr-O(-Fe)メルトの凝固物(c-(U,Zr)O<sub><small>2</small></sub>、t-(Zr,U)O<sub><small>2</small></sub>、m-(Zr,U)O<sub><small>2</small></sub>) | |||
・金属デブリメルトと相互作用すると鋼材成分が多く混入し、(Fe,Cr)<sub><small>2</small></sub>(Zr,U)、Spinel(FeCr<sub><small>2</small></sub>O<sub><small>4</small></sub>、Fe<sub><small>3</small></sub>O<sub><small>4</small></sub>)、α-Zr(O)などが析出す | |||
・海水成分、FP成分などが混入している可能性[[ファイル:TMI2デブリ写真.png|サムネイル]] | |||
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2024年3月8日 (金) 12:15時点における版
1号機
RPV内での事故進展における1号機の固有事象(詳細:事故シナリオの特徴と燃料デブリのふるまいの推定)
(作成中)
2号機
RPV内での事故進展における2号機の固有事象(詳細:事故シナリオの特徴と燃料デブリのふるまいの推定)
① SRV開操作による短時間での冷却水の減圧沸騰、炉心露出。その後の注水不十分による水蒸気枯渇条件の発生。
② 水蒸気枯渇条件で、制御棒が先行溶落。
③ 炉心崩落時の崩壊熱が比較的小さい。
④ 水位が炉心支持板直上あたりまで回復、水蒸気潤沢条件に復帰。
⑤ 炉心エネルギーが比較的小さい条件で燃料崩落(燃料温度が比較的低い)。
⑥ 炉心部でいったん堆積した燃料デブリは、ドレナージ型で、2-3時間かけて徐々に、下部プレナムに移行。
⑦ デブリの下部プレナム崩落時には、冷却水が残留。
RPV内でのデブリふるまいにおける2号機の固有事象(詳細:事故シナリオの特徴と燃料デブリのふるまいの推定)
①②により、
・B,Cを少量溶融したSSメルトが先行溶落し、さらに、チャンネルボックスに接触して共晶溶融しつつ下方に移行。
・制御棒上部では溶け残った顆粒状B4Cが金属メルトに覆われていったん残留し、その後に、制御棒チャンネル内で物理的に崩落。
・炉心最上部の集合体部材(上部タイプレートなど)は、一部は未溶融のまま崩落。
・炉心下部での、崩落制御棒による初期閉塞は稠密性が不十分だった可能性。
③により
・崩落時のデブリ温度が比較的低く、主に粒子状で崩落した。このため、崩落途中で酸化度が上昇した。崩落後にも粒子状を維持し、隙間が多い状態で堆積した。
・溶融プールは、炉心支持板の直上あたりに形成され、かつ、閉塞不十分のため、成長・拡大しにくかった可能性がある。したがって、溶融プールの上下クラスト層も形成されにくかったのではないかと推定される。
・溶融プールを形成すると、表面に酸化被膜を形成し、バルクのメルトは、固体状態に比べて酸化がすすみにくい。
・燃料デブリは、下部プレナムに崩落した後、いったん冷却・凝固し、崩壊熱で再昇温した。再昇温の過程で、崩落したルースデブリ中に、局所的に溶融プールが形成された。
・溶融プールの化学状態は、U-Zr-Oメルトと(U,(Zr))O2固相の固液共存状態として理解できる。U-Zr-Oメルト相は、周囲を(U,(Zr))O2固相等のクラスト層で覆われるため、その内部は酸化されにくい。
・下部プレナムにいったん堆積したデブリは、崩壊熱で再溶融した。その際に、金属デブリが先に溶融した。
・U-Zr-Oメルトは凝固時に相分離する。
・粒子状デブリは、デブリ再溶融時に、かなり高温まで固体状態を維持した。
・一方で、酸化物デブリの一部は、亜酸化状態を維持した可能性があり、金属デブリに溶融する可能性がある。
・炉心下部の支持金具やCRGTは大きく破損、一部は未溶融のまま下部プレナムに堆積した。
・溶融金属デブリや破損・溶融した酸化物デブリは、下部プレナムの冷却水中に崩落し、いったん急冷・凝固した。
・冷却水との反応により、デブリの一部が、微粒子化・粉体化した。
・U-Zr-Oメルトと鋼材が接触すると、メルト中の酸素溶解度が急減し、UO2やZrO2の粉末が析出する可能性がある。
デブリの分類(2号機RPV底部)
2号機のRPV内部調査はまだ実施されていない。ミューオン調査では、炉心部に重金属がほとんど存在しておらず、RPV下部プレナム底部に重金属が堆積している観測結果が得られている。ミューオン調査結果に加えて、事故進展解析、およびPCV内部調査の結果から、2号機RPV底部の燃料デブリの分類は、以下のように推定されている。(図1:2号機の炉内状態推定図から抜粋)
しかし、内部の堆積状態(特に堆積物の形状)については、かなり不確かさが大きいことに注意が必要である。図1に示すデブリ分類は、TMI-2事故の最終形態の評価やシビアアクシデント事故進展の理解に基づいて、現状では、このような種類のデブリが存在しうるというレベルで推定したものである。
(A) 切り株燃料集合体・・ 本来炉心があったあたりの外周下部に残留している可能性がある。# 切り株燃料集合体の存在が確認されているわけではないが、現時点でこれを否定する根拠もない。
(B) 破損した金属部材・・ 崩落したCRGT(おそらく下部が大きく溶融・損傷)、炉心支持金具、炉心支持板、燃料集合体部材の一部(タイプレート、制御棒ブレードなど)が、一部は未溶融のままで、おそらく下部プレナム底部の堆積物の上の方に存在している可能性がある。堆積している金属部材の下の方は、溶融・凝固した金属デブリに溶融・固着している可能性が高い。
(C) 金属デブリの再溶融/凝固物・・ SS/Zrを主成分とする合金がいったん溶融した後に凝固していると推定される。2号機では、下部プレナム崩落時点でのデブリ酸化度(Zr酸化度)が70-80%程度と予想されており、その再溶融時に、UやBが還元されて、金属デブリメルト中に溶融すると考えられる。溶解度は、デブリの到達温度に依存するが、およそ、Uについて数モル%~10数モル%、Bについても10モル%程度溶融する可能性がある。溶融・凝固時に、粒子状酸化物デブリ(破砕したペレットなど)や未溶融B4C粒子、制御棒やチャンネルボックスの共晶溶融で中間生成物として形成される金属間化合物などを巻き込んでいる可能性が高い。金属デブリメルトが酸化されると、U,Zrリッチな析出物が形成されると推定される。
(D) 粒子状の酸化物デブリ(ルースデブリ)・・ 粒子状のデブリは、主に2つの形成メカニズムがあると考えられる。1つ目として、破損・溶融した燃料棒が崩落して炉心部でいったん堆積した際に隙間の多いルースデブリを形成し。その一部が、あまり再溶融せずに、下部プレナムに機械的に崩落した可能性が考えられる。2つ目として、炉心部で再溶融したデブリが下部プレナムの冷却水中に崩落した際に、燃料/冷却水反応により、一部が破砕された可能性が考えられる。前者は、残留ペレットや破砕された燃料棒などが主成分となる。後者は、いったん溶融する過程を経ているため、内部が均質化されていると推定される。
(E) 酸化物デブリの再溶融/凝固物(多孔質デブリ)・・ ルースデブリの一部が再溶融・凝固し塊状を形成したものである。金属デブリメルトと接触すると、溶融・混合・成層化する可能性がある。その際に、デブリ主成分やFPについて、化学的な物質再分布が発生すると考えられる。溶融・凝固時に多孔質になっている可能性が高い。凝固時に成分再分布する可能性がある。
(F) スラリー状のデブリ・・ デブリの破砕などにより、1号機PCV底部で見られているようなスラリー状のデブリが2号機下部プレナムでも堆積していると推定される。
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破損・堆積状態(2号機RPV底部)
RPV内部の状態については不確かさが大きい。上で示したような分類のデブリが存在しているとすると、堆積物の上の方から、以下のような堆積状態になっていると推定されている(図1)。今後のRPV内部調査により、理解を精緻化していく必要がある。
(a) 切り株燃料集合体・・ 本来の炉心部の周辺下部に存在している可能性がある。その下には、おそらく、CRGTが残留している。# CRGTが一部倒壊している可能性や、CRGT内部にデブリが侵入している可能性も考えられる。切り株燃料ごと、下部プレナムに崩落しているようなこともありうる。
(b) 破損した金属部材(CRGT、炉心支持板、炉心支持金具、燃料集合体部材など)・・ 崩落した金属部材は、堆積物の上の方では、本来形状を一部維持した未溶融の状態で堆積している可能性が考えられる。下の方では、酸化物のルースデブリや再溶融・凝固物、あるいは、金属デブリの再溶融・凝固物と一体となっている可能性が考えられる。本来、下部プレナム底部にあったCRDスタブチューブはデブリとの接触により溶融・消失し、CRDハウジング支持金具に着座、一部で、破損孔を形成している可能性が考えられる。
(c) スラリー状のデブリ・・ RPV内の冷却水の水位によるが、下部プレナム堆積物の上の方にスラリー状や粉末状の物質が存在している可能性がある。
(d) 粒子状の酸化物デブリ(ルースデブリ)・・ 破損した金属部材などと共に、堆積物の比較的上のほうに存在していると考えられる。スラリー状の堆積物と混在していると推定される。隙間が多いと考えられるが、堆積物の下の方では、金属デブリや多孔質デブリと固着している可能性がある。
(e) 酸化物デブリの再溶融/凝固物(多孔質デブリ)・・ ルースデブリの下の方(内部)で形成されている可能性がある。金属デブリの再溶融・凝固物と溶融・混合し、固着・一体化、あるいは成層化している可能性がある。
(f) 金属デブリの再溶融/凝固物・・ 下部プレナムにいったん堆積したデブリの中で、金属デブリが先行溶融すると、RPV底面に濡れ広がる可能性が考えられる。そこへのCRGTや炉心支持版の溶融量によって、金属メルトの物量が増えると推定される。金属デブリの相当量がペデスタル内に流出したと考えられるため、下部プレナム堆積物の内部(特に側面の大規模破損孔周辺)に空洞がある可能性がある。酸化物デブリの再溶融・凝固物と溶融・混合し、固着・一体化、あるいは成層化している可能性がある。
また、2号機下部プレナムでは、以下のような破損孔が形成されていると考えられる。破損孔近くでは、RPV鋼材とデブリが相互溶融したり、固着したりしている可能性がある。
(g) 側面大規模破損孔・・ 下部プレナム堆積物が再昇温する際に、シュラウドサポートとスカートの間で、クリープ破損が累積する傾向が解析されており、上部タイプレートが通り抜ける程度の大規模破損孔が、下部ヘッド側面に形成されている可能性がある。(参考5:2号機下部プレナム堆積物の伝熱解析)
(h) 底部局所破損孔・・ 金属デブリとCRDハウジング等の溶接部で発生する共晶溶融により、共晶反応生成物(合金層+化合物相、酸化物デブリ巻き込み?)が、CRD内に流入、あるいは、CRDハウジング外周部に付着すると推定される。(参考4:再溶融した金属デブリとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融)
さらに、流出したデブリの一部は、RPV下に取り付けられている保温層の上に堆積している可能性がある。
(i) RPVと保温層の間の堆積物・・ 金属デブリや燃料デブリが、ペデスタル内に崩落せずに、一部が残留・堆積している可能性がある。他方、CRD内部に流入したデブリによる、内側からのCRD破損はないと推定している。
#備考:2号機RPV堆積物のコアボーリングについて・・ 2号機では、RPV下部プレナム堆積物の深さ方向サンプルを、部分的にでも採集できれば、デブリ特性に大きく影響すると考えられる【下部プレナムでのデブリ再溶融状態】に関する知見を得ることができる。これにより、RPV底部堆積物の均質・非均質の程度や、ペデスタル内に移行したデブリの特性に関する知見も精緻化できると期待される。
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デブリの分類(2号機ペデスタル内部)
破損・堆積状態(2号機ペデスタル内部)
3号機
RPV内での事故進展における3号機の固有事象(詳細:事故シナリオの特徴と燃料デブリのふるまいの推定)
(作成中)
分類ごとのデブリの特性(RPV内部)
(A) 切り株燃料集合体
1F1~3号機のRPV内に切り株燃料集合体が残留していた場合、TMI-2事故で形成されていた切り株燃料集合体と異なる外観や特性を有していると考えられる。
TMI-2事故では、炉心部で水位が徐々に低下し、水蒸気潤沢条件で酸化・破損・溶融した燃料棒や制御棒が冷却水水位の直上(炉心底部から約1/3の高さ)まで崩落して、ルースデブリとしていったん堆積した。その後、崩壊熱により、ルースデブリの内部(堆積物の中央下あたり)でデブリ溶融プールが形成・拡大し、溶融デブリの一部は、RPV側面を経由して下部プレナムに移行した。デブリ溶融プールの形成・拡大時に、その底面には厚さ数cmの稠密なクラスト層が形成された。切り株燃料集合体は下部クラストの下に残留していた。下部クラストの下では、冷却水の水位が維持されていたため、切り株燃料集合体は、ほぼ事故前の形状を維持していた。また、ほとんど温度上昇を経験してないため、燃料棒や制御棒の内部での溶融も進行していなかった。(図1)
これに対し、1F2号機では、事故進展中に炉心が短時間でボイド化する過程が発生した。このため、制御棒ブレードの崩落が水蒸気枯渇条件で発生したと推定されている。BWRでは、元々、制御棒が制御棒ブレードとして非均質に配置されている。さらに、比較的酸化しにくい条件で破損した制御棒が崩落したため、炉心下部での閉塞が非均質であった可能性が高い(参考1:制御棒の共晶溶融、参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融)。また、炉心ボイド化のため、最初の閉塞位置は、TMI-2に比べて低く、炉心支持板の直上あたりだったと推定されている。炉心下部の閉塞が稠密でない場合には、いったん堆積したルースデブリ中にある程度水蒸気が流入するため、2号機では溶融デブリプールがあまり拡大・成長しなかったと推定されている(参考9:BWRドレナージ型シナリオ)。したがって、切り株燃料集合体は炉心の中央部分には存在していないと考えられる。炉心の周辺部では、わずかに残留している可能性は排除できない。2号機では、下部プレナムでのデブリ再溶融が1,3号機に比べて進んでいないと考えられることから、切り株燃料集合体が残留している可能性は、2号機が最も高い。(2号機推定図、2号機事故シナリオ)
1F3号機でも、事故進展中に炉心が短時間でボイド化する過程が発生した。2号機との相違は、ボイド化の前に炉心上部が露出し、ジルカロイの水蒸気酸化が始まっていた点である。3号機では、炉心ボイド化により、制御棒だけでなく初期の燃料棒の崩落が、水蒸気枯渇条件で進行した可能性が高い。2号機に比べて、デブリ崩落時の温度が高く、塊状のデブリが多く崩落したと推定されている。デブリが炉心部でいったん堆積した位置は、2号機と同様に炉心支持板の直上と推定されている。したがって、2号機と同様に、炉心中央部に切り株燃料集合体が残留している可能性は低い。炉心の周辺部では、わずかに残留している可能性は排除できない。(3号機推定図、3号機事故シナリオ)
1F1号機は、冷却水がほとんど注入されない条件で、水位が低下し、炉心崩落にいたったと考えられている。このため、2,3号機のような炉心ボイド化は起きておらず、高圧水蒸気が潤沢にある条件でデブリが崩落した。現状の事故進展解析では、1号機においても、デブリ崩落時の水位は炉心支持板の直上あたりと推定されている。1号機では、溶融デブリプールが形成・拡大した可能性が高いが、その位置が炉心支持板の直上と考えられるため、炉心中央部には切り株燃料集合体は残留していないと考えられる。一方で、炉心の周辺部に切り株燃料集合体がわずかに残留している可能性は排除できない。1号機では、下部プレナムでのデブリ再溶融が2,3号機に比べてかなり進んでおり、破損状態も激しいことから、切り株燃料集合体が残留している可能性は、1号機が最も低い。(1号機推定図、1号機事故シナリオ)
このような事故進展シナリオの特徴から、2,3号機の炉心周辺部に切り株燃料集合体が残留していた場合には、以下のような特徴を有していると感が和えられる。まず、上部については、稠密なクラスト層が形成されず、明確な境界が存在しない可能性が高い。BWRドレナージ型シナリオで上部から崩落してきた、酸化・破損・溶融した燃料棒や制御棒ブレードが非均質に閉塞を引き起こしていると推定される。JAEAが実施した制御棒ブレードの崩落試験で観測されたような状態(図2)が参考になると考えられる。また、周井に水位がなかったため、切り株燃料集合体がある程度の高温を経験していると考えられる。このため、制御棒ブレードはかなり下の方まで溶け落ちていると推定される。燃料棒内では、ペレットと被覆管の界面で、U-Zr-Oメルトの形成・凝固が進展していた可能性が高い。この場合、化学的な活性を持つ物質が燃料棒内に残留している可能性がある。(参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム)
1号機については、デブリ溶融プールが形成・拡大した可能性が高いため、切り株燃料集合体が存在していた場合、その上部にはクラストが固着している可能性が考えられる。
【主な構成成分(別表:物性リスト)】
・形状を維持している燃料棒、その隙間に、上部から崩落してきた燃料棒(UO2ペレット、表面酸化したZry被覆管(ZrO2、α-Zr(O))
・ペレット/被覆管界面では、U-Zr-Oメルトの凝固層を形成(c-(U,Zr)O2、t-(Zr,U)O2、m-(Zr,U)O2、α-Zr(O))
・形状をおよそ維持しているチャンネルボックス(ZrO2、α-Zr(O))
・破損・崩落してきた制御棒や金属部材
(B) 破損した金属部材
様々なタイプの金属部材(燃料集合体部材)が、一部は未溶融で形状を維持し、RPV底部堆積物の比較的上の方に堆積していると考えられる。
堆積物の下の方は、分類(C)や分類(E)の溶融・凝固デブリと固着・一体化している可能性がある。
分類(B)のデブリの一部が、分類(C)の再溶融した金属デブリがペデスタル内に流出した際に巻き込まれたと推定される。(図1)
【主なデブリ構成成分(別表の物性リスト参照)】
・燃料集合体の上部の部材(UTP、など)
・制御棒由来(ブレード材、制御棒被覆管、共晶溶融/凝固物:SSにB,C固溶、その内部にFe3O4、Cr2O3、B4C巻き込み)
・チャンネルボックスや燃料棒由来(表面酸化したZry材やSS材(Zry、SS、ZrO2、α-Zr(O)、Fe3O4、Cr2O3)
・制御棒ブレードとチャンネルボックスの共晶溶融/凝固物(表面酸化したZry材とSS材、界面に化合物相析出((Fe,Cr)2Zr、ZrB2、Cr2Bなど)
・破損した炉心支持金具、炉心支持板、CRGT、CRDハウジング、など(表面酸化した鋼材)
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(C) 金属デブリの再溶融・凝固物
炉心部では、制御棒ブレードとチャンネルボックスの共晶溶融反応により、ZrやFeを主成分とする金属デブリメルトが溶け落ちた。また、中間的な生成物として、(Fe,Cr)2Zr等の金属間化合物が形成され、物理的に崩落した。また、B4Cについては、一部は金属デブリメルト中に溶出し、大部分は、金属デブリメルトに覆われて物理的に崩落した。(参考1:制御棒の共晶溶融、参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融)
これらの金属デブリは、下部プレナムに移行し、いったん凝固・堆積した後に、崩壊熱で再昇温。再溶融した。再溶融の過程で、金属間化合物やB4Cは金属デブリメルト中に均質に溶融すると考えられる。また、金属デブリ中に金属Zrが残留しているため、酸化還元反応により、Uの一部が還元され、金属デブリメルト中に溶融すると考えられる。(参考3:金属デブリの再溶融、参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融)
金属デブリメルトが形成・拡大すると、そこにCRDハウジングやCRGTなどの鋼材が溶融し、金属デブリメルトの組成や比重が変化する。(参考14:Fe-U-Zr-O状態図の展開図、参考15:MASCA模擬試験)
金属デブリの再溶融・凝固物の特性は、ここで示したような下部プレナムでの再溶融反応がどこまで進んでいたかに強く依存する。熱力学的な平衡状態近くまで溶融が進んでいた場合には、Fe-U-Zr-O系状態図におけるhypo側領域のメルトの凝固パスにより、金属デブリの特性を理解することができる。(参考14:Fe-U-Zr-O状態図の展開図)
また、金属デブリメルトが水蒸気や液相水と反応した場合には、そこに含有されるUやZrが選択的に酸化され、急冷されて、U含有粒子として放出される可能性が考えられる。
・金属デブリメルトの大部分はペデスタル内に流出し、一部は、グレーチング(大きな破損孔の周辺)に固着していると考えられる(図1)。このため、RPV底部の堆積物中には、金属デブリメルトの流出による空洞が形成されている可能性がある。金属デブリの再溶融・凝固物の類似物として、JAEAの模擬制御棒ブレード破損試験で形成された金属デブリが参考になると思われる(図2)。
#備考:2号機試験的デブリ取り出しに向けて・・ 2号機試験的デブリ取り出しでは、金属デブリの再溶融・凝固物が採集される可能性が高い。採集されたデブリ中の、合金相と化合物相の組成や分布、B,Cの固溶度、Uの含有程度、酸化度、などが重要な分析項目となる。これらの分析結果から、下部プレナムでのデブリ再溶融条件(デブリ酸化度、最高到達温度、物質再分布の傾向)を逆推定できると期待される。
【主なデブリ構成成分(別表の物性リスト参照)】
・バルク成分:SS-Zr(-U-B-C)合金、SS、酸化したSS(Crが選択的に酸化している可能性)
・析出成分:c-(U,Zr)O2、t-(Zr,U)O2、m-(Zr,U)O2、α-Zr(O)、(Fe,Cr)2(Zr,U)、Spinel(FeCr2O4、Fe3O4)、Fe2B、Fe3C
・酸化物デブリ成分、海水成分、FP成分などが混入している可能性
(D) 粒子状の酸化物デブリ(ルースデブリ)
粒子状の酸化物デブリが、下部プレナム堆積物の比較的上の方に存在していると考えられる。大きく以下の2つの形成メカニズムがあると考えられる。
一つ目として、TMI-2事故の最終形態で観測された上部ルースデブリと類似した物質が、炉心部から下部プレナムに物理的に崩落し、そのまま再溶融することなく堆積したケースである。図1に、TMI-2事故で観測されたデブリの分類を、図2に、上部ルースデブリの写真を示す。粒子状で、隙間が多く、破損した燃料ペレットがU-Zr-Oメルトの凝固物に覆われたような状態になっている。内部は非均質である可能性が高い。これ以外にも、燃料被覆管やチャンネルボックスの外周で酸化・破砕されたZr酸化物なども含まれていると推定される。
二つ目として、炉心下部で、いったん堆積し再溶融したデブリが下部プレナムの冷却水中に崩落し、破砕されたケースである。図3に、TMI-2事故で観測された下部プレナムルースデブリの写真を示す。いったん溶融した過程を経ているため、内部は均質化していると考えられる。
【主なデブリ構成成分(別表の物性リスト参照)】
・破損した燃料棒(粒子状のZrO2、UO2)、U-Zr-Oメルトの凝固物(c-(U,Zr)O2、t-(Zr,U)O2、m-(Zr,U)O2、α-Zr(O))
・金属デブリ成分、海水成分、FP成分などが混入している可能性
(E) 酸化物デブリの再溶融・凝固物(多孔質デブリ)
分類(D)のルースデブが下部プレナムにいったん堆積した後、崩壊熱で再昇温・再溶融してから凝固したデブリであり、ルースデブリの内部に存在していると推定される。1,2,3号機で、RPV破損時のデブリ温度が異なっていたと推定されており、酸化物デブリの再溶融進展は、1号機>3号機>2号機の順に進んでいたと考えられる。溶融が進むと、分類(C)の金属デブリメルトと相互作用し、成分の再分布が発生する。また、金属デブリメルトと酸化物デブリ固相との共存状態、るいは、金属メルトと酸化物メルトの成層化状態が形成されたと考えられる。(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融、参考15:MASCA模擬試験)
TMI-2事故では、溶融デブリが下部プレナムに崩落した際に、一部が塊状を形成しており(図4)、1F事故での酸化物デブリの外観や形状と類似している可能性が考えられる。
溶融・凝固過程でガス成分が多く発生すると考えられることから、内部は多孔質になっている可能性が高い。
金属デブリメルトと相互作用していた場合、酸化物デブリの溶融物も亜酸化状態であったと推定される。その凝固物の相状態は、U-Zr-Oメルトの凝固パスに基づいて評価するのが適切である。(参考12:溶融デブリの凝固)
【主なデブリ構成成分(別表の物性リスト参照)】
・バルク成分:U-Zr-O(-Fe)メルトの凝固物(c-(U,Zr)O2、t-(Zr,U)O2、m-(Zr,U)O2)
・金属デブリメルトと相互作用すると鋼材成分が多く混入し、(Fe,Cr)2(Zr,U)、Spinel(FeCr2O4、Fe3O4)、α-Zr(O)などが析出す
・海水成分、FP成分などが混入している可能性
参考文献
[1] A. Pshenichnnikov et al., J. Nucl. Sci. Technol. 59 (3), 267-291, 2022.
[2] 東京電力ホールディングズ株式会社、福島第一原子力発電所2号機格納容器内部調査実施結果、2018年2月1日
[3] M. Takano, A. Onozawa, M. Suzuki, et al. Proceedings of HOTLAB 2017; 2017 Sep 17-22; Mito, Japan.
[4]