Nucl.Technol.誌のTMI-2特集号の概要
TMI-2の内部調査とサンプル分析で得られた成果は、Nucl. Technol.誌の1989年特別号でまとめられている。本項目では、その概要を紹介する。
はじめに
Authors List
Nucl. Technol. 87(1) (1989) 1-12.
第一巻の著者リスト
Nucl .Technol. 87(2) (1989) 335-343.
第二巻の著者リスト
Nucl. Technol. 87(3) (1989) 563-567.
第三巻の著者リスト
Nucl. Technol. 87(4) (1989) 701-715.
第四巻の著者リスト
Dedication
Nucl. Technol. 87(1) (1989) 13.
謹呈
Introduction
S. Langer, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 15.
TMI-2事故から約10年後に、分野ごとの情報共有会議が開催され、1979年の事故に関するすべての分野での要約がとりまとめられた。このNucl. Technol.誌特別号では、1988年10月30日から11月4日まで、ワシントンD.C.で開催された会議で発表された138本の論文の内容を記載した。この特別号は、4つの巻で構成されており、それぞれが、燃料・材料の挙動、健康物理および環境放出、リモート技術と工学、汚染除去および廃棄物管理に対応している。さらに、17個の技術セッションの成果が共有された全体会議の議事録もこの号に含まれている。「原子炉安全性の向上:TMI-2から学んだ教訓」というテーマで行われたパネルディスカッションの議事録は、第4巻に掲載される予定である。この特集号は、リカバリー、クリーンアップ、研究開発に直接関与した多くの組織からの寛大な寄付によって一部補助された(GPU社、Bechtal National社、Bechtal Power社、Babcock&Wilcox社、日本の軽水炉研究委員会、DOE、NRC、EPRI)。
Preface、全体の前文
R.K. McCardell, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 17.
TMI-2事故は、世界に衝撃を与え、米国および海外の原子力事業者に深刻な悪影響を及ぼし、信頼できる工学的安全措置があっても、原子力発電所で重大な事故が発生する可能性があることが強調された。TMI-2事故によって、大きな被害を受けた人は存在しなかった。溶融した核燃料は原子炉圧力容器(RPV)の中に封じ込められており、放出された核分裂生成物は、貴ガスと少量のヨウ素を除いて、すべて原子炉格納容器内に封じ込められていた。しかし、地方レベルから連邦レベルおよび他の公的機関は試練を受け、事故の規制上の影響は広範囲に及んだ。しかし、事故の大きな悪影響は、過去10年間にわたるTMI-2での慎重かつ集中的な科学調査から得られた豊富な情報によって回復されるであろう。
この号の表紙に見られるように、TMI-2炉心の大部分が溶融した。最初に、制御棒、構造材、燃料棒の被覆管などの金属成分が溶融し、炉心下部に移動したが、冷却水の水位に達すると凝固し、 クラストを形成した。この下部クラスト層の上には、セラミック燃料が溶けて形成された卵型形状の溶融凝固領域が存在していた。炉心中央の溶融プール領域は成長を続け、ついには周辺クラストを突き破り、約20トンの溶融炉心物質が下部プレナムに移動し、RPV下部ヘッドの健全性が課題となった。下部プレナムの冷却水が溶融デブリを冷却し、RPVは損傷しなかった。材料間の相互作用の詳細、核分裂生成物の放出と輸送、事故シナリオの解析、健康物理学的影響、遠隔技術、燃料取り出し技術、廃棄物管理の進展がこの特別号に含まれており、将来の本質的に安全な原子炉開発に貴重な知見を提供している。この特別号を誇りに思い、その準備に関与できたことに感謝する。
Preface: TMI-2 Health Physics and Environmental Releases、第2巻前文
C.H. Distenfeld, Nucl. Technol. 87(2) 345.
放射線防護には、ニーズに応じて対応を変えていく能力が必要となる。これは、自然環境における放射線測定から、ストップウォッチで管理しなければならない現場処理までの範囲をカバーしている。TMI-2事故では、この現場対応性を必要とした。事故当日から、作業は環境評価のオフサイト作業と、事故の封じ込めおよび施設リカバリーのオンサイト作業に分けられた。
この巻では、いくつかの独立した組織の作業を概説する。それぞれのグループは、環境への放出の特定と評価、原子炉建屋への初めてのエントリー、現場作業者のための放射線防護、TMI-2プラントの放射線的特性評価、一次系および二次系における核燃料物質の同定、などに対応して、別々に作業した。作業員の線量計測、保護衣、人工吸気装置、被ばく結果のアーカイブ、そして核燃料を含むソースの分析に関して技術的開発が必要だった。
初期の事故復旧期間中、「教訓」は使い古された言葉になった。この表現は、機器や訓練を改善するための最新の推奨事項をあらかじめ抽出する役割を果たした。しかし、二つの重要で明確な教訓が見落とされがちである。第一に、 格納容器の機能が適切だったため、環境影響はほとんどなかったこと、第二に、我々は炉心溶融事故から安全に回復できたということである。
Preface: Three Mile Island Unit 2 -Remote Technology and Engineering、第3巻前文
P. Bengel, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 569.
第3巻では、TMI-2の除染、燃料取り出し、廃炉に用いられた遠隔技術についてまとめる。
RPV周辺の高線量により、TMI-2施設の除染、燃料取り出し、廃炉作業にかかわる手作業によるアプローチを困難にした。除染計画を最終的に決定する前に、リモート操作車両(ROV)が、原子炉建屋の地下で物理的および放射線的な状況を視覚化、監視、記録するために使用された。リモート操作のマニピュレータが、除染ツールやビデオカメラを操作するために広範に使用された。
燃料・炉心デブリの取り出し作業における制約(高い放射線レベル、凝固した炉心物質の存在)が、精緻な燃料取り出し機器の開発を促した。冷却水で満たされたRPV上に設置された作業プラットフォームにより、作業員はRPVの真上から、長尺ツールを使ってデブリを回収することができた。凝固した炉心物質からのサンプル採取や最終的な破砕作業のためのコアボーリング作業は、専用のドリルリグと硬質ビットを用いて実施された。通常炉では頻繁に行われている、圧力容器ヘッドと上部プレナム構造物の撤去も、TMI-2炉では遠隔機器を使用して行わなければならなかった。
炉心内部を特性評価するために使用される機器は、原子炉配管を通って水中を進むことができる遠隔操作装置に放射線検出器を組み込むか、炉心キャビティの奥深くに届く長尺ツールの先端に取り付けられた。
炉心部からのデブリ取り出し後、プラズマアーク切断装置が、5300ppmのホウ素水中の推進35フィートの条件で作業するように設計され、LCSAの切断・解体に使用された。LCSAを撤去することで、事故中に溶融デブリが流入し、再固化した下部プレナムにアクセスできるようになった。
RPVの三次元コンピュータモデルと、燃料取り出しツールモデルにより、実際に取り出しツールを製作する前に、プロトタイプの燃料取り出し作業を検討する手段が提供された。これにより、時間、コスト、および被曝を節約することができた。
TMI-2の廃炉のために設計された技術と設備は、現在他の原子力施設で使用されており、世界中の廃炉計画に組み込まれている。除染および廃炉技術の技術移転は、TMI-2リカバリープログラムの有益な成果の一つとなっている。
Preface: Three Mile Island Unit 2 Decontamination and Waste Management、第4巻前文
H.W. Reno, Nucl. Technol. 87(4) 719.
TMI-2事故は、前例のないイベントでありながら前例を作り、政策のないイベントでありながら政策に影響を与え、歴史のないイベントでありながら歴史を作り続けているイベントとなった。TMI-2の全体ストーリーは、多様な(しかし競合する)組織、連邦政府および州政府、そして公私の企業間の協力の物語であり、すべてが、共通する目的—事故後の回復とクリーンアップ—に焦点を当てている。このことが、TMI-2に関連する行動が前例を作り、政策に影響を与え、歴史を作る基盤となっている。
第4巻は、TMI-2と県連施設の除染と廃炉、炉心および一次冷却系における生物的制御、そして事故で発生した一般的でない放射性廃棄物の管理に焦点を当てている。これらの広範なテーマについて寄稿された論文は、既存のハードウェアやシステム、技術を新しく創造的な方法で応用することで複雑な状況を克服し、前例を作る方法を明確に示してくれている。また、多様な組織間の協力が複雑な問題の解決にいかに貢献し、政策に影響を与えたかも示している。さらに、これらの論文は、TMI-2事故対応が多くのコストを必要とするベントであったにもかかわらず、後世の歴史家たちはそのポジティブな影響について長く語り継ぐことになるだろうということを示している。TMI-2は、国内外の原子力の実践と政策において過去、現在、そして将来にわたり影響を与え続けている。
記述が冗長になるリスクを冒すことになるが、読者にはTMI-2が何に貢献し、何を示しているのかに特に注意を払うようお願いしたい。TMI-2事故対応は、汚染除去用のロボット技術の開発、事故由来の放射性廃棄物の管理、輸送、処理のための特別システムの開発、輸送キャスクのライセンス取得の簡素化、州や地方の政府および一般市民との効果的な対話戦略の適用に貢献した。また、TMI-2事故対応では、さまざまな特徴や科学的専門知識を持った人々のグループが、既存の技術を活用し、その技術を革新的な方法で使用することによって、献身、協力、オープンなコミュニケーションを構築し、複雑な目標を達成できることを示した。
規制、事故対応、汚染評価、作業環境、環境・公衆影響、体制
After Three Mile Island Unit 2 - A Decade of Change
E.E. Kintner, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 21-22.
事故発生以降、約10年間のGPU Nuclear社の対応について概説されている。
Three Mile Island - The Political Legacy
R.T. Kennedy, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 23-26.
事故時、および、廃炉に向けた政府の対応が時系列として整理されている。
Regulatory Impact of the Three Mile Island Unit 2 Accident
J.F. Aheame, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 27-33.
TMI-2事故により、米国の原子力規制委員会(NRC)、産業界、電力会社、政府は、大きな影響を受けた。NRCの受けた影響は、産業界と規制機関の関係を再構築することであった。TMI-2事故以前は、技術的な専門性に基づく良好な情報交換であったが、事故以降は、むしろ対立する関係になり、距離を置き、法律によって支配される関係となった。
Three Mile Island Unit 2: Plant Recovery
F.R. Standerfer, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 54-56.
TMI-2現場での、復旧作業の概要が示されている。
Three Mile Island Unit 2: The Early Radiological Conditions of the Reactor Building
W.C. Hopkins, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 347-360.
TMI-2事故直後、GPU社は、Bechtal Power社の原子力技術者と共同で原子炉建屋内の状況評価タスクフォース(CATF: Containment Assessment Task Force)を設置し、原子炉建屋内の線量状態の評価を実施した。CATFは、初期の原子炉建屋立ち入り、建屋内パージ、および、建屋内の回復に向けて、様々な測定や分析を行った。これらの分析は以下を評価するために行われた。
1. 放射性微粒子の量、2. 表面汚染レベル、3. 建屋地階滞留水の線量ソースタームの大きさ、4. 全体的な線量環境
CATFが実施した初期のタスクは以下であった。
1. 原子炉建屋ハッチを通してのGe(Li)測定機によるγ線スキャン、2. 予備の原子炉建屋開口部を通してのNaI測定機によるγ線スキャン、3. 放射性微粒子のサンプリング、4. 原子炉建屋地階の滞留水のサンプリング、5. 開口部を通じての遠隔ビデオカメラと線量計の挿入調査
Radiological Conditions and Experiences in the Three Mile Island Unit 2 Auxiliary Building
P.E. Ruhter and W.G. Zurlience, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 361-367.
TMI-2号機事故後の放射線状況は通常とは異なるものであったが、作業員に潜在的影響を与えたのは、主に補助建屋および燃料取扱建屋に限られていた。最も重要な放射性物質の移行経路は、冷却水処理のLetdown系、Makeup系、および浄化システムであった。補助建屋および燃料取扱建屋の一部の場所で、事故後数日間は線量率が3mSv/s(1000R/h)を超えた。線量率は3~4日後に低下し、約1週間後に安定した。空気中の放射能レベルは、当初は希ガスの放出によるものであり、その後は表面汚染の再浮遊によるものであった。最初の1ヶ月間、原子炉冷却材中の核分裂生成物の寄与は、主にCs単元素から、SrとCsがほぼ同量に変化した。これにより、非常に高いβ線源が発生した。Sr濃度が高かったため、汚染管理限度は事故前の限度の半分に引き下げられた。
Environmental Measurements during the Three Mile Island Unit 2 Accident
A.P. Hull, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 383-394.
TMI-2事故では、あらかじめ準備されていた計画に基づいて(これは、現在の基準からすれば最小限であったが)、連邦および州による大規模な統合環境モニタリングが実施された。特に、米国エネルギー省(DOE)は多くの資源を投入した。そこには、ブルックヘブン国立研究所を拠点とする放射線支援プログラム、大気放出に関する勧告、航空測定システムなどがあり、DOE傘下の他の国立研究所からのバックアップ要員の派遣も含まれていた。環境保護庁(EPA)からも資源が提供された。
モニタリング活動には、プルームの追跡、現場環境モニタリングとサンプリング、サンプル分析、線量評価が含まれていた。あらかじめ設置されていたプラントモニターの測定範囲を超えたため、これらの活動で採集されたデータは、事故後数週間にわたるプラントからの日々の放出に含まれる核種とその量を特定する上で重要な役割を果たした。特に、継続的な放出はほぼすべて放射性ガスで構成されており、そこには、ごく少量の放射性ヨウ素が含まれていたことが判明した。
測定された地上レベルでの最高線量率は1.3×102C/kg(50 mR/h)、放射性I-131の最大線量は<3.7×10-6Bq/cm3(1×10-10Ci/cm3)だった。DOEによる公衆の被ばく線量評価では、個人被ばく線量の最高値は<1mSv/h(<100mR/h)、総被ばく線量は20人Sv(約2000人レム)だった。
これらはアドホック対応であったが、今日の連邦放射線監視評価プログラムの基本モデルとなり、米国の原子力施設で重大事故が発生した場合に運用されることとなった。
Three Mile Island and the Environment
B.A. Good et al., Nucl. Technol. 87(2) (1989) 395-406.
プラントのルーチン運転では、液体や気体中での放射性物質の放出は限定されている。排出コントロールプラグラムにより、排出量は最小化され、連邦基準を超えないようにされている。排出コントロールは、ベンチレーションシステムとフィルター、排ガス貯蔵タンク、脱塩装置、蒸発システムなどによって行われている。排出量の最小化に加えて、排出コントロールプログラムは、排出物や周辺環境のモニタリングも含んでいる。
TMIプラントの環境線量プログラムは、環境線量の測定と環境サンプルの採集、放射性物質の含有量と影響評価のための分析、からなっている。人体への移行経路を重視して、水生、大気、陸生環境からのサンプルが収集された。
公衆への放射線量は、外部線源からの線量率の直接測定と、内部被ばく線量に寄与する可能性のある環境中の放射性核種濃度の測定から推定される。通常のプラント運転中の環境線量率と放射性核種の濃度は、測定するには小さすぎる。そのため、環境中の放射性物質の濃度を予測し、放射線量を推定するコンピュータモデルを使用して、潜在的な敷地外被ばく線量が計算される。
TMIプラントの所有者(GPU社)と独立機関がそれぞれ実施した放射線環境モニタリングにより、工学設計および排出管理の適切性が確認された。通常プラント運転中の公衆への放射線量は、米国環境保護庁(EPA)の環境基準、米国原子力規制委員会(NRC)の線量限度ガイドライン、そして自然放射線からの被ばく線量をはるかに下回っていた。独立機関によって検証された長年にわたる排水と環境の監視の結果に基づき、TMI からの放射性物質の放出は環境にも公衆の健康や安全にも悪影響を及ぼしていないと結論付けられた。
Characterization of the Radiological Conditions of the Three Mile Island Reactor Building Basement and D-Rings
H.K. Peterson, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 433-442.
TMI-2事故発生時および事故後に、高濃度汚染水が原子炉建屋(RB)地階に放出され、構造物が2.59 mの深さまで浸水した。RBから水が除去された後も、RB上部の空間線量は予想通りに減少しなかった。地階の放射線源は、TLDを吊り降ろした測定により特定された。TLDデータは、ISOSHLDコンピュータコードで放射線源としてモデル化され、RB内でのその後の復旧作業における作業員被ばく影響の評価に用いられた。
Heat Stress Control in the Three Mile Island Unit 2 Defueling and Decontamination Activities
J.S. Schork and B.A. Parfitt, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 486-489.
TMI-2での燃料取り出しおよび除染作業では、RB内の高汚染環境で作業を行う作業員は、防護服を何枚も重ね着する必要があった。このため、防護服の断熱性が作業員に熱ストレスを与えることが認識されていた。そこで、作業員の熱ストレスを抑制するための具体的なプログラムが策定された。これには、作業員の健康検査、訓練と教育、作業時間制限、そして個人用冷却装置としての「アイスベスト」の広範な使用が含まれていた。ここでは、プログラムの各段階におけるロジスティクスと運用面についてもまとめる。最後に、原子炉建屋における熱ストレスに対処し、個人用防護装置への依存を減らすための工学的制御の活用について説明する。
The Significance of Radiological and Environmental Controls Documentation in Litigation
G.M. Lodde and T.D. Murphy, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 490-497.
商業用原子力施設では、企業方針、規制、ライセンス、技術仕様の要件に基づき、放射線管理および環境管理プログラムのデータと文書が蓄積される。TMI-2事故発生時および事故後に、通常であれば作成されないであろう多くの文書が作成された。この文書量の増加に対処するため、GPU社は記録管理プログラムを設計・実装した。
この記録管理プログラムは、TMI-2事故後、経済的損失や放射線障害を主張する集団訴訟を含む訴訟をGPUが経験した際に、非常に有用であった。通常の業務過程においても、適切な放射線および環境に関する文書とデータを慎重に計画し体系的に作成することで、放射線障害訴訟において、そのような記録とデータを証拠として採用しやすくなる。
ここでは、事故後の訴訟の状況、文書作成の規模、訴訟における放射線および環境管理の記録、放射線および環境管理の文書化、および過去の放射線障害訴訟事例から得られた教訓について説明する。
Computer System Development to Support Three Mile Island Unit 2 Radiological Controls Operations and Records Management Activities
R.D. Schauss, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 498-503.
TMI-2事故発生時、世界中から支援活動を行う人員が現場に派遣された。数千人規模に及ぶ大規模な人員流入について、現場で発生していた大量の作業処理に対応できるよう設計されておらず、そのための人員も配置されていなかったため、TMI-2発電所の放射線被ばく管理(REM)システムに多大な負担が発生した。それ以上に、放射線学的およびロジスティクスの観点から見た事故状況の特異な特性により、これまで予期していなかった多くの新たな保健物理学情報管理のニーズと要件が継続的に発生した。この状況により、数百件ものREMシステム変更要請が行われた。その多くは、全体的なロジスティクスと情報フローの面で非常に広範囲かつ複雑であり、当時の設計のままでは実施に多大な費用がかかる可能性があった。その後すぐに、事故に起因する特別な要件を満たすためには、既存のREMシステムを完全に再設計することが最善のアプローチであることが明らかになった。銀行や小売業など、他の業界で使用されている「オンライン」取引処理コンセプトを採用した、全く新しいREMコンピュータシステムを設計・開発することが決定された。GPU社の現在のオンラインコンピュータREMシステム(REMオンライン)の設計・開発に影響を与えた主要な問題と決定について考察する。
A Guide to Technical Information Regarding Three Mile Island Unit 2
K.D. Auclair and J.S. Epler, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 504-508.
TMI-2事故から多くの貴重な知見が得られた。技術的、法的、財政的、そして政治的な課題が引き起こされた。これらは複雑で解決が難しいため、これに対応した組織構造も複雑に見える。得られた情報量が膨大であるため、TMI-2事故からの復旧の過程で整備された「技術データ」が重要である。ここでは、整備された情報の概要と、それを管理する組織についてまとめる。
Dealing with Public Perceptions of Health Risks in a Nuclear World
R.S. Friedman, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 509-513.
科学技術の専門家と一般公衆の間には、健康・安全リスクに対する認知に大きな隔たりがある。特に原子力技術に関しては、大きな隔たりがある。ギャップについての調査結果がまとめられている。結論としては、専門家の分析結果と公衆の反応の双方を考慮した認知プロセスの開発が必要である。これは奇跡に近いことかもしれないが、社会的に、かつ、経済的に有用な技術と、そのリスクとをバランスさせて、正しくリスクを理解することに向けた努力を続ける必要がある。
Exposure of the General Public Near Three Mile Island
M. Eisenbud, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 514-519.
TMI-2事故により、多くの一次系冷却水が、原子炉建屋、補助建屋、燃料取り扱い建屋に放出された。希ガスとヨウ素が建屋内に放出され、プラントの換気系にいったんスタックされてから、環境に放出された。汚染水は建屋内に保持され環境放出は起こらなかった。
政府系機関と国立研究所による線量モニタリングの専門家がTMI-2に集められた。彼らの測定したデータは、ペンシルバニア州職員、国立研究所、原子力規制委員会、環境防護機構、保健福祉省、の専門家によって評価された。これらの活動により、最大の個人被ばく線量と80.5km圏内の住民2百万人の集団線量が評価された。
集団線量は28~35人Sv(2800~3500人rem)で、個人の最大被ばくは<1mSv(100mrem)であった。
その原因は、約370PBq(1000万Ci)の希ガスFPであった。加えて、<1.1TBq(30Ci)のI-131と0.148TBq(4Ci)のI-133が環境放出されたと評価された。ごく微量のFPはサスケハンナ川に放出された。
これらの線量によるリスクが評価され、被ばくした公衆の人生において、この線量によるがん発生増加はないと結論された。
An Upgraded Personnel Dosimetry System for Use at Three Mile Island Unit 2
J.W. Schmidt and J.M. Harworth, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 520-526.
TMI-2事故後、異常な放射線環境が発生したため、除染と復旧を支援するために改良TLDシステムが必要であると判断された。その結果、GPU社はパナソニック社ベースのTLDシステムを開発し、TMI-2施設に設置した。その結果、得られた改良型802型パナソニック線量計の設計と関連アルゴリズムは、ミシガン大学のPhillip Plato氏との契約に基づき開発された。この線量計/アルゴリズム設計は、線量計によって収集されたベータスペクトルデータから導出される変化するベータ補正係数の使用を可能にした。システムのコンピュータベースの処理装置は、International Science Associates社との契約に基づき開発されたソフトウェアを使用して駆動された。システムの長期的な安定性は、システム運用に統合された広範な品質管理プログラムによって保証された。いくつかの小さな改良を除いて、線量測定システムは1983年2月に最初に導入されて以来、基本的に変更されていません。さらに、このシステムはすべてのモニタリングカテゴリーにおいて、国家自主試験所認定プログラムの認証を継続的に維持している。
Respiratory Protection Lessons Learned at Three Mile Island
E.F. Gee, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 527-530.
TMI-2事故の対応において、人工吸気システムの準備が不足していた。計画的なメンテナンスのために、必要な安全係数をかけて、人工吸気システムが準備されていたが、事故進展中とその後の対応には全く不足していた。事故直後に顕在化した課題は、緊急時対応用の備品供給が十分でなく、圧縮空気のチャージが不足し、熟練技術者が不足し、プラントの訓練施設や装着施設へのアクセスが不足したことであった。長期のクリーンアップにおいては、人工吸気システムについて抜本的な改定が必要である。専従の専門家の評価により、(1)訓練プログラムの充実と装着方法の改良、(2)準備数の増加、(3)緊急時対応マニュアルの詳細化、(4)大規模除染とメンテナンス施設の準備、の重要性が指摘された。
Personnel Contamination Protection Techniques Applied during the Three Mile Island Unit 2 Cleanup
J.E. Hildebrand, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 531-534.
TMI-2事故により生じた放射線学的に危険な環境では、作業員の汚染を効果的に防護するためにさまざまな技術を適用する必要があった。クリーンアップ作業中には、布製の防護服から、高強度ベータ線汚染区域での作業に適した頑丈な消防士用の防護服まで、多種多様な防護服が使用された。防護服の選定では、作業員への全体的なリスクを考慮し、計画された作業が最大限の効率で遂行されるよう配慮がなされた。適切な防護服を着用することで、皮膚の汚染は効果的に最小限に抑えられた。
Assessment and Control of the Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Atmosphere
G.M. Lodde et al., Nucl Technol. 87(2) (1989) 535-544.
TMI-2事故の結果、損傷した原子炉の炉心から大量の核分裂ガスと揮発性放射性核種 (主に放射性ヨウ素) が密閉された原子炉建屋 (RB) の雰囲気中に放出された。事故から約1年後、RB雰囲気サンプルから、残留放射性核種としてKr-85が検出された。
TMI-2での制御されたベントの経験により、事故時に放出された放射性ガスは、短寿命核種の放射性崩壊に適切な期間を経た後に、大気拡散によって安全に処分できることが実証された。
氷ベストの使用と空気冷却装置の設置により、防護服を着用した作業員にとって、RB内で許容できる作業環境が確保された。
作業員の体内に蓄積した放射能による線量への影響は、体外の放射線源による影響と比較すると無視できるほど小さいことが確認された。TMI-2では、放射性物質の体内への取り込みはそれほど大きくなかったことは明らかであった。
Three Mile Island Unit 2 Licensing History
J.J. Byrne and R.E. Rogan, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 683-689.
TMI-2は、米国の商業用原子力発電史上、最も重大な原子力事故の現場となった。1979年3月28日の事故以来、TMI-2では、発電所を安全で安定で保証された事故後状態にまで回復するためのクリーンアップが行われている。クリーンアッププログラム完了後、事業者のGPU社は、TMI-2を「燃料取出後のモニタリング貯蔵」と呼ばれる状態に移行させる。本稿では、事故後のTMI-2での許認可取得の経緯を、いくつかの重要な出来事に焦点を当てて概観し、規制プロセスへの影響について解説する。
インベントリ評価、計量、臨界
Three Mile Island Unit 2 Fission Product Inventory Estimate
D.W. Akers et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 205-213.
1988年に実施された、事故後のFP核種のインベントリと分布についての検討結果がとりまとめられた。ベストエスティメートインベントリが、Kr-85、Cs-137、I-129、Sb-125、Sr-90、Ru-106、Ce-144について評価された。このインベントリ評価では、原子炉建屋内での滞留や、環境放出予測も含められた。核種の捕捉率は、Ce-144が105%、Sr-90が90%、Cs-137が95%、Kr-85が91%となった。放射性I-129の捕捉率はCs-137と同程度と評価された。Cs,I,および希ガスの滞留の多くは、原子炉建屋内であり、そのほか核種についてはRPV内であった。
Core Materials Inventory and Behavior
D.W. Akers and R.K. McCardell, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 214-223.
TMI-2の圧力容器(RPV)内サンプルの分析結果と、そこから予想される事故時のふるまいをとりまとめた。TMI-2のCore Material Examination計画に基づいて[1]、RPV内から採集されたすべてのサンプルが分析された(上部プレナムのリードスクリューサンプルから、事故時に下部プレナムに移行した溶融凝固デブリサンプルまで)。これらの分析結果により、炉心物質の>99%はRPV内に保持されていたが、RPV内の配置や体積は大きく変化していたことが確認された。また、分析結果は、金属物質と酸化物との熱力学的な特性におよそ基づいて、物質再分布が起きていたことを示した。
RCS Characterization and SNM Accountability: Trace Fuel Circulation in the RCS, Reactor Building, and Auxiliary Building at TMI-2
J. Greenborg, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 457-460.
RCS系内に堆積している核物質量の評価に向けて、その状態の検討結果がとりまとめられている。TMI-2事故時の一次系冷却水の循環により、燃料物質が、RCS系内とRCS系が連結されている補助建屋内に移行した。移行後に堆積した位置は、一般的に低い地点、水平面、そして、それに比べて物量は少ないが垂直面であった。補助建屋で、燃料物質の移行の影響を受けたのは、冷却水ドレインタンク、下流側(letdown)、供給側(makeup)、精製系(脱塩装置)、液体廃棄物系、冷却水ポンプシールの戻りラインが含まれていた。一方で、蒸気発生器への蒸気流により、デブリ微粒子(<1mm)が移行・堆積した。炉心損傷進展時に発生した煙が、RCS系の上部で構造材表面に形成されていた膜状物質の大部分を占めていた。蒸気発生器内で見つかった比較的大きなデブリ粒子は、B系ポンプの再稼働イベントの際に移行したと考えられる。
Ex-vessel Fuel Characterization Results in the Three Mile Island Unit 2 Reactor Building
R. Kobayashi et al., Nucl. Technol. 87(2) (1989) 461-469.
TMI-2での事故進展中および事故以降の冷却水の強制循環により、燃料成分が、原子炉建屋内の一次系(RCS系)と設備類、および、補助建屋と燃料取り扱い建屋に拡散した。放出された燃料成分のほとんどは、RCS系内と原子炉建屋内にとどまっていたが、わずかな量が燃料取り扱い建屋に移行した。これらのex-vesselデブリの分布と物量の調査は1985年から開始された。原子炉建屋内から圧力容器にかけての調査結果の概要をまとめる。
調査は、中性子測定、アルファ線測定、サンプリング、外観検査、ガンマ線分光、総合ガンマ線測定の6手法で行われた。特定の領域ごとにベストエスティメートのために用いられた手法は、それぞれの領域の状態によって変わり、しばしば、複数の手法のコンビネーションが用いられた。
これらのデータを用いて、燃料物質の最小値と最大値が、原子炉建屋内のex-vessel領域ごとに見積もられた。見積値の合計は、76.2~215.1kgの範囲となった。
Criticality Analysis Support for the Three Mile Island Unit 2 Fuel Removal Operations
C.V. Parks et al., Nucl. Technol. 87(3) (1989) 660-678.
1984年に、TMI-2の燃料取り出し設計チームが設置され、すべての燃料除去作業のライセンス活動を支援するために、オークリッジ国立研究所(ORNL)に臨界安全解析を依頼した。ここでは、臨界安全解析で使用された計算手法と基本的な解析モデルについてまとめる。臨界解析が要請された分野をレビューし、解析結果を整理、考察した。
Criticality Prevention during Postaccident Decontamination of Three Mile Island Unit 2 Plant Systems
G.L. Palou, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 679-682.
TMI-2事故の際、少量の燃料が原子炉冷却系(RCS)以外のプラント配管システムに移送された。クリーンアップ作業中にRCS系以外で臨界状態になる可能性は非常に小さかったが、TMI-2で発生する可能性がある、あらゆる臨界イベントの影響を考慮すると、臨界状態になることを防ぐためにあるゆる手順を講じることが常に必要となった。したがって、燃料材料を含むプラントシステムの除染において、常に臨界防止されるようにする工学的管理策が開発された。
Potential for Recriticality of the Relocated Core
B.R. Bandini and A.J. Baratta, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 926-931.
TMI-2事故における、様々に配置された損傷燃料での有効増倍係数(keff)に関する知見は、燃料取り出し作業に大きく影響している。最近のDOT 4.3離散オルドネート解析によると、事故後のkeffに関する従来分析を、いくつかの重要な期間における臨界性の「ベストエスティメート」予測にまで拡張できた。現在の分析結果は、TMI-2燃料は事故の間ずっと高い未臨界度の配置にあった可能性が最も高いことを示している。さらに、保守的な計算においても、事故時に重要となる初期の冷却材沸騰イベント中に、臨界に到達するのに必要な条件が極めて起こりにくいことが示された。
サンプル分析
Metallurgical Reactions Involving Ag-In-Cd Control Rod Assemblies(炉心中央の切り株燃料集合体中の制御棒の分析)
Y.Y. Liu et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 95-103.
炉心中央(N12位置)の切り株燃料集合体から採集された、制御棒とZry案内管の3個のサンプルがANLで分析された(炉心下端から5cm~52cmの部分)。微細組織と局所的な化学反応が、炉心の高さ方向の位置との関係として同定された。炉心下端からの距離47cmから52cmの間で、微細組織が、Ag-In-Cdメルトのキャンドリング(SS成分を含まない)とSS被覆管とZryの固相反応から、制御棒がほぼそのまま無傷で残留し、Zry案内管がβ相に総変態する状態に変化していた。このような組織変化は、事故時の温度評価のマーカーに利用できる。
Examination of Three Mile Island Unit 2 Core Materials at CEA
J. Duco and M. Trotabas, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 104-119.
OECD/NEA/CSNIのTMI-2事故タスクグループの活動の一環として、CEAでは5個のサンプルを分析した(炉心外周部L1から採集された破損燃料棒、C7位置の上部格子からぶらさがっていた破損燃料棒、炉心中央の溶融凝固層の3サンプル)。
分析手法は、外観観察、浸出法での密度測定、金相観察、SEM/EDX、XRD、熱重量分析、γ線分光分析、中性子活性化分析であった。分析結果から、事故時の局所的な最高温度の評価、C7位置での炉心物質間の反応進展メカニズム、FPと制御材のふるまい推定が行われた。微量なサンプルの分析結果ではあったが、他の機関の分析結果と合わせることで、包括的なデータベースとして整備され、事故シナリオの理解に活用された。
Metallurgical Examination of Bore Samples from the Three Mile Island Unit 2 Reactor Core
P.D. Bottomley and M. Coquerelle, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 120-136.
TMI-2のAccident Evaluation Programの一環として、溶融凝固層のボーリングサンプルの分析が行われた。サンプルは、燃料棒、制御棒、溶融デブリ、粉末状のデブリ、を含んでいた。
SEM/EDXとEPMAにより、サンプルの表面と断面の微細組織が分析された。γ線分光とFP放出試験も実施された。
G12ボーリングサンプルから得られた溶融凝固物中には、ほぼポーラスな、UとZrの二酸化物を主成分とするセラミック相を主成分とし、微小なUO2リッチとZrO2リッチの共晶組織、および、構造材の酸化物が観察された。サンプル内で、空孔と構造材酸化物の分布は変化していたが、UO2とZrO2の共晶組織は共通していた。
FP分析では、Cs-137、Ru-106、Eu-154などが、照射後燃料より小さい割合で検出された。揮発性のI-129は検出されなかった。それ以外の核種は、デブリ中にある程度保持されていた。
Zr(O)-UO2系の共晶反応、および、ZrO2-UO2系の共晶反応については(事故時の酸素ポテンシャルに依存すると考えられる)、状態図から、それぞれの共晶溶融温度が2173 Kと2873 Kであえい、事故時にこの温度まで到達していたことが示唆された。また、完全に溶融した領域については、UO2融点の3073 Kまで到達していたと示唆された。一方で、完全に溶融していない凝集物相(agglomerate)については、ピーク温度が約1673K程度、あるいはSS構造材の融点程度であると示唆された。残留していた切り株状の燃料棒については、ほとんど形状変化は見られず、温度上昇がほとんどなかったと推定された。
Analysis of Crystalline Phases in Core Bore Materials from Three Mile Island Unit 2
A. Brown et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 137-145.
溶融凝固層、下部クラスト、下部プレナムデブリの3個のサンプルが、XRDで分析された。さらに、γ線分光分析とPIXE(Particle-Induced X-ray Emission)でも分析が行われた。
分析結果から、主要相として、(a) UO2リッチの非均質な溶融凝固相(おそらく、ZrO2を含有し、酸化度は若干superstoichiometric)、(b) ZrO2リッチのBaddeleyite相(1200K以下での安定相)とtetragonal-ZrO2相(1200~1600Kの安定相)、(c) Ni,Cr,FeのSpinel相[(Ni,Fe)(Fe,Cr)2O4]が同定された。格子定数測定からは、ZrO2相中にUO2が固溶していることと、Spinel相中のCr,Fe部位にAlが混入していることが推定された。PIXEの測定値からは、Spinel中のNi含有率が小さいことが示された。
これらの相のサンプル中の分布が、XRDの強度分布から評価され、UO2-ZrO2状態図からの推定と比較された。下部プレナムから採集されたサンプルは、明らかに急冷過程で形成されていた。下部クラストサンプルでは、状態図中の平衡相が同定され、徐冷により形成されたと推定された。溶融凝固層は、中間的な傾向をもっており、一面で冷却され、多面で加熱されたような状態が観測された。
Three Mile Island Unit 2 B-Loop Steam Generator Tubesheet Loose Debris Examination and Analysis
G.O. Hayner and T.L. Hardt, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 191-196.
B系蒸気発生器の上部チューブシートから回収されたデブリサンプルの分析結果がまとめられている。ルースで粒子状のデブリサンプルについて、スクラム後174分から192分に発生したB系冷却水ポンプの再稼働イベントの際に、炉心部から輸送された物質であると推定されていた。5つのサイズ群に分類され、大きな粒子10個について、化学/放射化学分析、微細組織観察、SEM/EDX分析が行われた。非破壊分析としては、外観写真撮影、密度測定が行われた。分析結果により、B系ポンプ再稼働イベント時点でのRPV内の状態が推定された。
Fission Product and Core Materials Distribution Outside the Three Mile Island Unit 2 Reactor Vessel
C.V. McIsaac et al, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 224-233.
原子炉建屋と補助建屋から採集されたサンプルについて、放射化学分析、元素分析、粒子サイズ分析が行われた。事故後数日経過時点での、ヨウ素混入飛散微粒子(おそらく有機物)の分析から、原子炉建屋内に放出された炉心物質は0.03%以下であると評価された。ヨウ素は事故進展中に冷却水中に溶解され、炉心インベントリ中の約14%が原子炉建屋地階の滞留水中に移行したと評価された。ヨウ素の8~100%は、原子炉建屋地階の汚泥中に存在していた。セシウムの約47%は、炉心から外部に放出された。その大部分は、原子炉建屋地階の滞留水中に移行した。アンチモンとルテニウムは、ほとんどが圧力容器内で、おそらく構造材に吸着して保持されていた。ストロンチウムとセリウムは、酸化物デブリ中に保持されていた。Reactor Coolant Drain Tank中では、燃料成分と制御材成分が検出された。これらはハイドロゾルとして炉心部から輸送されたと推定された。
Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Basement Concrete Activity Distribution
P.J. Babel et al., Nucl. Technol. 87 (2) (1989) 450-456.
原子炉建屋地階のコンクリート壁面と床面に残留している放射性物質の物量を評価するために、サンプル分析が行われた。原子炉建屋地階のレイアウト、分析方法、評価結果がとりまとめられた。Cs-137は、稠密コンクリート内にはあまり深く侵入していまかったが、ポーラスなコンクリートブロック内には侵入していた。線量の大きさは、地階での高さ位置に依存しており、全体での評価値975TBq(26,400Ci)±25%にたいし、その約72%がコンクリートブロックに、約23%が低圧強化型コンクリート壁面に、約2%が低圧強化型コンクリート床面に、約3%が高圧強化型コンクリート壁面に存在していた。
Sampling and Examination Methods Used for Three Mile Island Unit 2
A.W. Marley et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 845-856.
TMI-2で回収されたサンプルは、補助建物の大気サンプルから炉心デブリまで、さまざまな技術を使用して収集され、分析された。多くのサンプルはリモートで取り扱う必要があり、標準的な実験室の分析技術は、高線量を考慮して改良された。TMI-2サンプルの分析経験により、サンプリングや多くのサンプルタイプの分析における、固有の問題が提示された。
Scanning Electron Microanalysis Techniques for Three Mile Island Unit 2 Core Samples
B.A. Pregger and C.S. Olsen, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 875-883.
走査電子顕微鏡は、TMI-2炉から回収された高放射性物質の詳細分析に用いられた。波長分散型X線(WDX)分光法では、放射線場が最大60 R/h(接触γ線として)のサンプル中での金属および酸化物相の定量分析が可能であった。金のスパッタリングにより、リモート分析に有効となる試料のコーティングが行われた。この方法は、簡便で、炭素蒸発によるコーティングよりも均一な層を形成し、定量的なポイント分析とも互換性があることが分かった。電子線画像、EDX分析、WDXマップ、WDX点分析の組み合わせにより、炉心物質の酸化度、微量に含有される核分裂生成物の分布、事故時の温度推定のための相状態に関するデータを取得することが可能となった。
事故シナリオ、ベンチマーク解析
A Scenario of the Three Mile Island Unit 2 Accident
J.M. Broughton et al., , Nucl. Technol., 87(1) (1989) 34-53.
TMI-2のAccident Evaluation Program [2]の目的は、TMI-2事故の包括的で矛盾のないTMI-2事故の理解であった。このプログラムでとりまとめられたTMI-2事故シナリオを示す。(a) 炉心損傷の進展により、一部溶融物を含む堆積層が形成され、(b) この堆積層内での温度上昇により、溶融デブリプールが形成され、(c) 溶融デブリプールを支えていたクラスト層の破損により、溶融デブリの一部(15~20トン)がUCSAとLCSAに侵入し、さらに下部プレナムに移行し、(d) 下部プレナムでの溶融デブリと冷却水および構造物との相互作用により、デブリが凝固した。事故進展中のFP放出傾向についてもとりまとめられた。
The Three Mile Island Analysis Exercise
D.F. Giessing, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 298-301.
TMI-2事故は、当時、世界で唯一の実機規模でのシビアアクシデントの検証の場であった。事故を契機として、世界各国で、事故の理解の精緻化や解析ツール開発が行われた。事故進展を理解するためのデータは、事故のリカバリーとクリーンアップの過程で採集された。同時に、シビアアクシデント解析コードについて、その解析結果を実機データと比較することで開発がすすめられた(ベンチマーク解析)[3]。1987年10月から開始されたOECD/NEA/CSNIでの解析プロジェクトは、1990年初旬までにおよそ完了した。9か国を代表する13機関によって、ベンチマーク解析が行われた。この経験により、シビアアクシデント解析手法に関する共通認識が醸成された。
Modeling of the Three Mile Island Unit 2 Accident with MELPROG/TRAC and Calculation Results for Phases 1 and 2
F.E. Motley and R.P. Jenks, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 302-309.
TMI-2事故解析に利用する、MELPROG/TRACコードのための解析モデルの開発が行われた。TMI-2事故解析用の解析モデルの概要と、スクラム後174分までの解析結果をとりまとめる。TMI-2ベンチマーク解析プロジェクト[3]で推奨された境界条件を用いることで、加圧器からの排水と燃料損傷前の炉心の水没状況について、妥当な解析結果が得られた。感度解析により、冷却水のmaekupフィルターへの流量を減少させることで、より、実プラントの状況と整合する解析結果が得られた。現在、事故のPhase-3(スクラム後174~227分)、Phase-4(スクラム後227~300分)の解析を実施中である。
MARCH Calculations Performed for the Three Mile Island Unit 2 Analysis Exercise
R.O. Wooton, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 310-325.
MARCHコードのSTCPバージョンにより、TMI-2事故のベンチマーク解析が行われた。TNI-2事故のより適切な解析のためには、様々なコードでモデルの改良が必要であり、MARCHコードについて、その概要が示された。改良されたMARCHコードにより、多くの重要イベントが再現された(炉心加熱のタイミング、溶融デブリと被覆管の反応進展、一次系圧力、原子炉建屋への水素放出)。水素放出イベントについては、スクラム後10時間で水素燃焼が起きている。
Summary of the Three Mile Island Unit 2 Analysis Exercise
D.W. Golden et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 326-333.
OECD/NEA/CSNIでのTMI-2事故解析プロジェクト(米国DOEとの共同プロジェクトによるベンチマーク解析)の概要が紹介された。参加機関はそれぞれの有する最新のシビアアクシデント解析コードを用いて、TMI-2事故解析を実施した。定性的には解析結果はほぼ類似した傾向を示したが、定量的には大きく異なった結果が得られた。シビアアクシデント解析コードの開発継続の必要性が明らかになった。
Timing of the Three Mile Island Unit 2 Core Degradation as Determined by Forensic Engineering
J.O. Henrie, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 857-864.
事故イベントのコンピュータシミュレーションとは異なり、事故のForensics工学は、イベント後の記録データや損傷した部品および生存している部品を評価して、事故イベント進行の原因を特定する取り組みである。1979年のTMI-2事故に関するForensics評価により、スクラム後130分の6時10分にA系蒸気発生器内にガスが蓄積し始めたことが解明された。したがって、その時点で燃料被覆管の破損とジルコニウム-水反応が開始されたと推定される。ジルコニウムの酸化と水素生成率は、スクラム後175分で発生した炉心急冷と燃料崩壊イベント中に最も高くなり、約70 kg/分の生成速度で水素発生したと評価された。スクラム後180分経過時点で、事故においてジルコニウムと水の反応によって生成された水素のうち、85%以上がすでに発生しており、約400kgの水素が原子炉冷却系に蓄積されていた。その時点で、2系統ある蒸気発生器の水蒸気/液相水界面での水素濃度は90%に近かった。203分経過時点で、崩落した炉心は再び冷却水で満たされ、その後は水蒸気にさらされることはなかった。したがって、225分の時点で、炉心は完全に水中にあり、その条件で溶融炉心物質がRPV下部プレナムに移行した。
Three Mile Island Unit 2 Core Geometry
M.L. Russell and R.K. McCardell, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 865-874.
1979年3月28日のTMI-2事故での事故最終段階での炉心物質の配置についてまとめる。この情報は、現場での測定、RPV内での燃料取り出し中の観察結果、および回収されたサンプルの分析から得られた。統合された情報により、溶融デブリが大量に漏れ出す前に炉心周辺部に凝固したクラスト領域が形成されたことが確認された。溶融デブリは、主に溶融デブリの重力流によってコアフォーマ領域、LCSA、およびRPV下部プレナムへと移動した。
Three Mile Island Unit 2 Data Qualification and Data Bases
D.W. Golden et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 897-906.
TMI-2のデータは科学界にとって非常に重要であり、1979年3月の事故は、フルスケールの商用原子炉におけるシビアアクシデントにいたる唯一の事例である。ここでは、事故分析に利用可能なデータソース、時系列、サンプルデータを定義・定量化するための技術、および、事故解析の専門家が使用するために開発されたデータベースについてまとめる。アプリケーション処理機能がソフトウェア設計に組み込まれており、エンドユーザーに対して、データのソート、表示、分析を行うための多くの便利な機能が提供されている。
Analysis of Hydrogen Burn in the Three Mile Island Unit 2 Accident with the CONTAIN 1.1 Computer Code
K. Muramatsu and K. Soda, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 907-911.
TMI-2事故で発生した水素燃焼イベントはシビアアクシデントの際の、軽水炉の封じ込めの完全性に対する潜在的な脅威についての懸念を引き起こした。多くの分析および実験研究が事故後に行われた。TMI-2事故における水素の挙動を適切に評価するためには、格納容器内の熱水力学的応答を十分に説明する必要がある。本研究の目的は、CONTAINl 1.1コードを使用してTMI-2事故における水素燃焼時の熱水力学的応答を推定することであった。本検討により、適切に選択された水素燃焼モデルのパラメータセットを用いることで、CONTAIN 1.1で、水素の挙動が合理的に予測されることが結論づけられた。
Analysis of the Refill Phenomena during the Three Mile Island Unit 2 Accident
Y. Nomura and J.L. Anderson, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 912-925.
TMI-2事故におけるスクラム後200分から217分までに発生した冷却水の注入イベントについて、原子炉冷却系(RCS)圧力および加圧器水位を含む測定データを使用して分析された。200分の時点で、高圧注入(HPI)システムがRCS系に冷却水を注入し始め、蒸気の凝縮により一次系圧力が低下した。また、加圧器の水がRPVに排出され、炉心部の冷却水水位が上昇した。加圧器の水位レベルの低下とRCS系の圧力低下が停止した207分の時点で、炉心部は完全に再冠水していたと考えられる。継続的なHPI注水により、ホットレグの水位が上昇し、約210分で加圧器の水位レベルが上昇し始めた。これは、水位がホットレグへのサージラインの入口のレベルに達したことを示している。RCS内の水位が一定であると仮定した冷却水充填分析では、実際に観察された現象を説明できない。非凝縮性ガスの圧縮を考慮に入れた冷却水充填現象を記述する一連の方程式が理論的な考察から導出されており、RCS全体の水位に対する解が得られ、冷却水充填期間中に発生していた現象を正確に予測することができた。
Three Mile Island Unit 2 Analysis Exercise: CATHARE Computations of Phase 1 and 2 of the Accident
P. Dumez, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 946-955.
TMI-2事故解析エクササイズの一環として、事故のフェーズ1および2(スクラム後0分から174分)の計算が、CATHARE1とCATHARE 1/ICAREの予備バージョンを用いて行われた。
初期の過渡状態(0分から30分)はCATHAREによって正確に予測された。熱水力学的には、フェーズ1の残りの部分も非常によく再現され、全体事象についても、フェーズ1についてはそれほど難しくはないことが証明された。
一方で、フェーズ2の分析では、これらのコンピューターコードが炉心物質の再配置を解析できないため、得られた解析結果は限定的であった。しかし、被覆管のばるーニングと酸化現象はは正しく予測されていた。
デブリふるまい評価・解析
Summary - Three Mile Island Unit 2; Materials Behavior
D.E. Owen, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 19-20.
TMI-2事故の分析において、炉心物質の高温反応、FPふるまい、解析モデルの整備、がすすめられたことを、イントロダクションとして紹介している。
Materials Interactions and Temperatures in the Three Mile Island Unit 2 Core
C.S. Olsen et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 57-94.
炉心部の様々な領域から採集されたデブリサンプルの分析が、炉心物質相互の反応や冷却水との反応を調べ、事故時ピーク温度評価とデブリふるまいの推定のために、行われた。事故時ピーク温度の推定は、炉心損傷進展とFPふるまいに影響する重要因子である。ピーク温度の推定は、サンプルの微細組織の観察結果を状態図と比較することでおこなわれた。微細組織の分析は、金相、SEM/EDX、EPMA、オージェ走査電顕で行われた。
炉心構成成分間の相互作用は極めて複雑で、Zry被覆管とUO2ペレット反応だけではなく、制御棒とインコネルスペーサーグリッドの反応など、多くの相互作用を含んでいた。これらの複雑系の理解の基礎となる状態図は、いくつかの系については報告例がなかった。また、物質移送による効果も考慮する必要があった。
現状、シビアアクシデント解析コードに組み込まれているデブリの溶融進展モデルは単純化されており、このような高温での物質移動に関する複雑な現象をより適切に推定できるように改良する必要がある。
Reactor Core Materials Interactions at Very High Temperature
P. Hoffman et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 146-186.
軽水炉のシビアアクシデントで起こりうる、燃料バンドル内での化学反応についてまとめる。成分としては、UO2燃料、ジルカロイ被覆管、Ag-In-Cd、Al2O3-B4C、SS、インコネル、などが含まれ、温度は数100℃からデブリの溶融温度までが対象となる。重要な化学反応の速度論(kinetics)と、その結果として現れる相状態についてもまとめる。ほとんどの系で、反応相の融点は、本来の構成成分の融点より低くなる傾向がある。その結果として、各成分液相化による移動が融点以下で発生する。炉心溶融進展については、3つの特徴的な温度範囲が存在している。基本形はU-Zr-Oであり、重点的に研究された。そこへの鋼材系成分の混入についても言及されている。これらの検討結果は、PWR体系についてのものであることに注意が必要である。
Fuel Relocation Mechanisms Based on Microstructures of Debris
R.V. Strain et al, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 187-190.
下部プレナムから採集されたデブリの微細組織と化学状態の詳細な分析が行われた。マトリックスは、UO2とZrO2からなるセラミックスの溶融凝固物を主成分としており、一部にFe,Cr,Ni,Alの酸化物が第2相として存在していた。
その組織は、急冷固化された溶融物に典型的なものであり、丸い形状の結晶粒と比較的大きな結晶粒界からなっていた。析出する初晶は、酸化物メルトから急冷されたUO2-ZrO2の二酸化物固溶相であった。しかし、この析出相は、2相に相分離する傾向が見られ、一部の領域では、完全に2相分離していた。このような領域では、固相変態が起こるのに十分なある程度ゆっくりした冷却速度であったと推定された。いくつかのサンプルでは、広い範囲で結晶粒界相が形成されており、その内部に共晶組織が観測された。この共晶組織のマトリックス相は、Fe-Cr系酸化物であり、AlとNi酸化物をわずかに含んでいた。この相は、UO2-ZrO2の析出相周囲の結晶粒界にも見られた。
この結晶粒界相のsolidusはおよそ1600Kと推定され、初晶の融点(およそ2823K)と比較すると、初晶が析出した後に、しばらく液相として存在していたと推定された。このことから、初晶が析出した後もしばらくの間、デブリは、下部プレナムで砂のようにゆっくり移動していた可能性が考えられる。その温度は、おそらく、SS構造材の融点(1673K)より低い。このような砂状物質は、下部ヘッドを溶融損傷しにくかった可能性がある。
Thermal Interaction of Core Melt Debris with Three Mile Island Unit 2 Vessel Components
A.W. Cronenberg and E.L. Tolman, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 273-282.
RPV内の構造物と溶融デブリとの熱的な相互作用の解析結果は有用である。構造物の損傷状態の観測結果と、それを引き起こした物理現象の理解についての検討結果がまとめられた。特に、炉心周辺を取り囲んでいるバッフルプレート、コアフォーマプレート、下部ヘッドのインコアモニター貫通部、下部ヘッドの熱損傷解析が行われた。解析結果から、これらの構造物の損傷状態の特徴の違いは、主に、溶融デブリとの接触時間と構造物の熱容量と冷却水との接触に影響されることが示された。VIP計画[4]によるサンプル分析データは、本研究による解析結果の精緻化に貢献すると期待される。
Thermal Behavior of Molten Corium during the Three Mile Island Unit 2 Core Relocation Event
J.L. Anderson and J.J. Sienicki, , Nucl. Technol. 87(1) (1989) 283-293.
TMI-2の事故進展中に、炉心部に溶融デブリプールと周辺クラスト層が形成された。スクラム後224分に、クラスト層が破損し、約19トンの溶融デブリが、RPV東側の燃料集合体とその外側のコアフォーマ領域を通過して、下部プレナムに移行した。ここでは、加熱状態と溶融デブリとUCSA構造物の急激な相互作用の解析結果がまとめられている。
Just How much Water is Required to Cool a Molten Core?
S. Langer, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 294-297.
古典的なシビアアクシデント研究では、炉心溶融によりRPVが破損し、最終的には格納容器が破損して核分裂生成物が環境に放出される、という前提があった。この仮定は、TMI-2事故によってくつがえされた。TMI-2事故では、炉心のおよそ50%が溶融したにもかかわらず、環境へのFP放出は、希ガスであっても5%以下であった。TMI-2では、事故終息時点において、RPV内に液相水が残留していたことが重要である。本研究では、デブリの冷却に必要な冷却水の条件が計算された。得られた知見は、将来のアクシデントマネージメントにも利用できると期待される。とにかく、冷却水を供給し続けることが重要であることが強調されている。
Application of Severe Fuel Damage Experiments to Evaluating Three Mile Island Unit 2 Core Materials Behavior
C.S. Olsen et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 884-896.
TMI-2の炉心デブリの分析は、事故シナリオの理解において重要だった。その評価には、系統的に計画された炉内および炉外試験結果が必要だった。特に、アイダホ国立工学研究所で行われたパワーバースト施設で実施された燃料損傷試験や、ドイツKfKで行われた非照射燃料バンドル試験と材料相互作用試験から得られた結果は、TMI-2の炉心物質の特性評価に有用だった。ここでは、これらの模擬試験結果のTMI-2炉心デブリの特性評価への適用についてまとめた。
FPふるまい評価・解析
Fission Product Release Pathways in Three Mile Island Unit 2
S. Langer et al., Nucl Technol. 87(1) (1989) 196-204.
TMI-2事故でのFP放出は小規模で抑制され、その主成分は希ガス(ほぼ全量)とI-131の一部(15Ci)であった。ヨウ素の放出が大きく抑制されたのは、炉心部からセシウムの52%とヨウ素の40%が放出されたことを考慮すると、驚くべきことであった。FP放出は、スクラム後約138分に、燃料棒が大きく破損することで発生したと推定される。環境へのFP移行経路は、補助建屋に設置されていた冷却水浄化系(Letdown/makeup系)から、補助建屋内への漏洩と考えられている。希ガス(約40-50%)、セシウム、ヨウ素の一部は、原子炉建屋内に放出されたが、その内部で約1年間以上保持された。希ガスは、制御された条件で環境放出された、セシウムやヨウ素は、建屋地階の滞留水や汚泥に多く存在しており、少しずつ除染された。
Consideration of Cesium and Iodine Chemistry and Transport Behavior during the Three Mile Island Unit 2 Accident
A.W. Cronenberg and S. Langer, , Nucl. Technol. 87(1) (1989) 234-242.
TMI-2事故の解析から、プラント外へのCs-137とI-129の放出は、ごくわずかであったことが解明されている(数10Ci以下)。このような限定的な放出となった要因となる物理化学的なメカニズムを調査するために、TMI-2事故途中でのCsとIの化学形と移行の詳細解析が行われた。解析結果から、CsとIの燃料からの放出化学形は、高温での水蒸気/水素との反応で形成されるCsIとCsOHのガス相であることが示された。さらに、CsOHについては、上部プレナムやホットレグ配管での凝集と化学吸着が起こると推定された。CsOHが除かれると、ガス相中での水蒸気、CsI、CsOH、HIなどの平衡状態が変化し、CsIが相対的に不安定化してCsOHに変化し、あわせてHIが形成されると推定された。同様に、CsIがホウ酸水と反応すると、CsIがホウ酸化セシウムとHIに変化すると推定された。これらにより、CsI、HI、CsOHの混合物が、RPVから一次冷却水系への移行におけるCsとIの化学形態と推定された。これらは水溶性であり、冷却水中にCsやIが保持される要因となったと推定された。
Analysis of Fission Product Release Behavior from the Three Mile Island Unit 2 Core
D.A. Petti et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 243-263.
TMI-2事故におけるFP放出ふるまいの評価は、事故シナリオのベストエスティメートとサンプル分析から得られたFPデータの双方と整合させて、FP挙動を理解するために実施された。TMI-2事故の様々な段階における、損傷のない燃料、破損した燃料、溶融した燃料からのFP放出を説明するために、「第一原理」のFP放出モデルが用いられた。
広範囲にわたりガス状および揮発性のFP再放出が発生したと評価され、炉心領域では最大100%の放出が見られた。初期の炉心加熱時には燃料やデブリ内の拡散がFP放出を支配し、後期の溶融デブリプール領域からは気泡の合体と上昇メカニズムがFP放出を支配したと評価された。これらの評価結果は、上部プレナムおよび下部プレナムのデブリベッドサンプルから得られたFP残留データと概ね一致していた。ただし、下部プレナムサンプルには少量のセシウムが残留しており、これはセシウムが低揮発性の化学形態であった可能性を示唆している。
揮発性の低いFP酸化物(SrO、Eu2O3、Ce2O3)の放出率が低かったのは、溶融デブリプール中でのこれらの分圧が低いことと、凝固後のデブリの表面積と体積の比が低いことが原因であると評価された。金属元素(RuとSb)は、金属製の炉心構造物質デブリに同伴・付着していると推定されている。
Fission Product Partitioning in Core Materials
D.W. Akers and R.K. McCardell, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 264-272.
RPV内での燃料物質からのFP分離と放出の傾向と、そこから予想されるFP化学についてとりまとめられた。TMI-2のCore Material Examination計画に基づいて、RPV内から採集されたすべてのサンプルが分析された(上部プレナムのリードスクリューサンプルから、事故時に下部プレナムに移行した溶融凝固デブリサンプルまで)。これらの分析結果により、FPふるまいの相違は、FP核種の揮発性と化学的な特性に依存することが確認された。Ce-144のような低揮発性FPは、燃料物質のマトリックス中にほぼ保持され、一方で、Sb-125のような酸化されにくい中揮発性FPは、金属構造材との同伴性が確認された。高揮発性FPのCs-137とI-129は、多くが溶融凝固デブリから放出されたが、放出割合は単純な予測より小さかった。これらの高揮発性FPは、デブリの結晶粒界に存在していた構造材酸化物の第2相や空孔内に一部が保持されていた。
内部調査、デブリ取り出し、探査技術、クリーンアップ
Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Entry Program
J.W. Langenbach, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 368-382.
TMI-2事故以降、初期の原子炉建屋内立ち入りまでのイベントをまとめる。このペーパーには、最初の 2 回のエントリの結果と、エントリ準備として実施された実験が含まれており、初期エントリにおける課題とその解決策を理解することができる。
Surface Activity Characterization with Thermoluminescent Detector Pseudo Cores
R.J. Vallem et al., Nucl. Technol. 87(2) (1989) 421-423.
TMI-2では、原子炉建屋の線量低減プログラムの一環として、表面放射能測定法が開発された。この方法は、コンクリートコアサンプル中のベータ線と汚染レベルとの相関関係に基づいている。放射線測定には、専用のホルダーに取り付けられた熱ルミネッセンス検出器付き個人用線量計が使用された。この方法は実験によって実証され、他の構造物の表面汚染測定にも適用された。
A Fast Sorting Measurement Technique to Determine Decontamination Priority
C.H. Distenfeld et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 424-428.
TMI-2の原子炉建屋の除染の優先順位づけは、システマチックに行う必要があるが、そのためには多くの人員とコストを必要とする。作業員の被ばくを最小限に抑える方法は、集団線量に大きく寄与する表面線源を特定し、そこを優先的に処理することである。その宣言の表面特性を特定することで、そこに適した除染技術を開発できる。TMI-2では、線源の高速選別技術が開発され、被ばく低減の対象となる表面の優先順位付けに使用された。この技術では、2 回目のクイックソートにより、次に対象とする表面の特性を調べ、除染方法を定め、期待されるパフォーマンスを予測できる。
開発されたクイックソート技術は、Eberline HP 220A方向探査システムをベースとしている。HP 220Aプローブの角度応答は2πsrに近く、接近型および離間型の測定が可能である。しかし、4πsrに分布する線源を特定することは困難である。プローブシールドの再設計により、角度分解能をおよそπ/2srまで向上できた。この改良により、実質的に角度の重複や測定漏れがなく、6方向(上下、前、後、右、左)の測定が可能となった。シンプルで軽量なスタンドを使用し、長方形のパッケージに収納されたプローブの角度基準を確立した。長方形の6つの表面は、角度基準と連動して6つの視野角を確立した。
Robotic Characterization of the 86.1-m Elevation of the Three Mile Island Unit 2 Reactor Building
D.E. Ferguson, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 443-449.
TMI-2でのロボット特性評価プログラムは、実施された作業中に明らかになった要件と問題に応じて進化した。1987年10月31日~11月9日にかけて、原子炉建屋地階の調査が、RoverロボットとDiver方向探査システムを使って実施された。操作作業員は、Diverを使って、243カ所の線量を測定した。1988年8月19日から24日にかけて、追加サーベイが行われた。これらの測定により、除染作業により建屋地階の線量が減少したこと、個別の除染作業の有効性を検証するためにはデータ点が不足することが明らかになった。このサーベイの結果とロボット特性評価プログラムにおいて得られたツールとサーベイ技術に関する教訓をとりまとめた。これによって、建屋地階の状況理解の精緻化と、ロボットサーベイ技術の今後の開発に有用な知見が得られた。
Reactor Fuel Detection and Distribution in the Three Mile Island Unit 2 Auxiliary Building
P.J. Babel et al., Nucl. Technol. 87(2) (1989) 470-477.
TMI-2プラントの補助建屋と燃料取り扱い建屋に残留する燃料成分の物量と分布が検討された。物量と分布の評価に用いられた手法(γ線分光システム、線量輸送コード、経験則的な分析技術)についても紹介する。検討の結果、少量の核燃料物質が、makeup系と脱塩系、および、廃液処理系に残留していることが確認された。
Using Ex-Core Neutron Detectors to Estimate Fuel Quantities in the Reactor Vessel Lower Head
R. Rainisch and V.R. Fricke, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 478-485.
TMI-2事故では、相当量の炉心デブリが原子炉容器の下部プレナムに移動した。その後、炉心部での燃料取出し作業により燃料成分が再分配され、一部の炉心デブリが下部プレナム領域に移動した。ここでは、炉心外の中性子検出器の測定値の変化から、下部プレナムに堆積したデブリ物量の相対的な増加を評価する解析的アプローチを示す。原子炉容器下部プレナム内の燃料の中性子源強度と、下部ヘッドにおける中性子の未臨界増倍の程度が調査された。解析により、炉心下部での燃料取出し作業(1986年9月から1987年11月)中に、約12トンから23.5トンの炉心物質が下部プレナムに移動したと推定された。
The Role of Radiation Instruments in the Recovery of Three Mile Island Unit 2
R.D. Holmes and G.W. Frank, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 545-552.
TMI-2プラントのリカバリ、燃料・炉心デブリ回収、環境的に安定状態への復旧は、様々な放射線強度の複雑な放射線条件下で実施する必要があり、労働集約的な作業であった。TMI-2での放射線管理プログラムが、作業員の被ばくを最小限に抑えることに成功した一因として、様々な携帯型計測機器の効果的な活用があげられる。作業環境一般での放射線場を定量化し、ホットスポットを特定し、表面汚染レベルと空気中の放射性核種の濃度を評価するため、体系的な調査が実施された。詳細かつ正確な放射線調査と現場測定は、合理的に達成可能な限り低い被ばく線量に抑制するためのレビューや、防護措置に関する放射線作業許可の仕様作成、そして作業員への説明に不可欠であった。TMI-2で使用された放射線計測機器には、密封された放射線源、汚染された表面、空気中の放射性微粒子などからの放射線場を評価できるさまざまな装置が含まれている。
リカバリーの過程で、原子炉建屋と補助建屋全体での、汚染レベルの体系的な特性評価が行われた。被ばく低減の対象となる表面を特定・優先順位付けし、除染活動の有効性を迅速に評価するための高速選別測定技術が開発された。Eberline社製のHP-220-AやRO-7といった標準機器は、方向に対する感度を改良する必要があった。また、除染作業のためには、様々な放射性核種の空気中濃度を広範囲に監視することも必要だった。呼吸により、空気中から人体に侵入する放射能の有無を評価するため、エリアエアサンプルと呼吸ゾーンエアサンプラーが広く使用された。作業員の皮膚や衣服の汚染の検出を最適化するために、パンケーキ型プローブによる身体検査は、自動化された作業員汚染モニターに置き換えられたり、補完されたりした。
放射線計測機器の保守と較正は、放射線管理部門の有資格技術者グループによって現場で行われた。すべての較正および修理は、様々な監査、検査、内部および外部評価の対象となった。品質保証監査員は、定期的にステーションの手順の遵守を確認し、主要な機器が較正のために認定された研究所に送られていることを確認し、較正用のソースがトレーサブルであることを国立標準局に対して証明した。
Data Acquisition Methods Used at Three Mile Island Unit 2
R.L. Patterson et al., Nucl. Technol. 87(3) 571-586.
TMI-2のRCS系でのデータ採集に使用された方法についてまとめる。あわせて、データ採集にかかわる各タスクの計画、ツール開発、ALARA概念の導入、および、タスク遂行中に遭遇した予期しない問題についても説明する。これらの方法は、RCSからの安全かつ効率的な燃料除去のためのDefueling計画に必要な情報を提供することに成功した。
Fuel Removal Equipment for Three Mile Island Unit 2
G.L. Calhoun, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 587-594.
TMI-2で使用された基本的な燃料取出しシステムは、(a) 原子炉容器上に設置された遮蔽作業プラットフォーム(SWP)、(b) SWPから吊り下げられ、その内部にデブリを積み込む円筒形の収納缶、(c) 格納容器内で収納缶を圧力容器から燃料移送システムまで移送する乾式キャスク、(d) 格納容器内から使用済み燃料ピットへの収納缶の水中移送、(e) 郊外輸送まで使用済み燃料ピット内での湿式貯蔵、から構成されていた。実際の炉心状態に関する知見が得られるにつれて、炉心デブリを除去するための要件は大幅に変化し、取り出しツールの必要性能や必要数を予測する取り組みが妨げられた。全体的な生産性は、ロジスティクス、作業員の熟練度、およびツールの信頼性によって決定された。取り出し初期に発生した冷却水中の透明度の低下により、生産性は大幅に低下した。作業員のトレーニングと実物大のモックアップ試験は、効果的な現場作業に不可欠であった。さまざまなツールの設計と使用で得られた経験が、教訓としてまとめられた。
Disassembly and Defueling of the Three Mile Island Unit 2 Reactor Vessel Lower Core Support Assembly
L.H. Porter and W.E. Austin, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 595-608.
1979年のTMI-2事故により、炉心は深刻な損傷を受けた。事故の過程で、炉心物質が炉心支持構造物を経由してRPV下部プレナムに移動した。リカバリープログラムの一環として、下部炉心支持構造(LCSA)から炉心デブリを取り除き、RPV下部プレナムへのアクセスを提供する必要があった。LCSAの状態を同定し、デブリを除去するための技術を選定・試験し、燃料・デブリ取り出しの詳細な計画を作成し、計画を実施するための設備と施設を提供するために、3年間の計画、検査、研究開発プログラムが設定された。LCSAに対しては、実用的な範囲内で可能な限り、LCSA構造物を最大限を解体・撤去する「層状」アプローチが用いられ、燃料・デブリ取り出しが行われている(#この論文執筆時。LCSA解体・撤去作業中)。ステンレス鋼製の騒擾構造物は、油田掘削機械に似たコアボーリングマシンと特別に設計されたプラズマアークトーチ、およびマニピュレータ制御システムを使用して取り外しのために切断された。下部グリッドトップリブセクション(第1層)と分配プレート(第2層)は取り外され、鍛造構造物(第3層)の除去作業が開始された。
Three Mile Island Unit 2 Preparations for Defueling
P.M. Shearer and S. Levin, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 609-615.
TMI-2事故により、炉心は深刻な損傷を受けた。一般に用いられている、損傷していない原子炉での燃料交換用に設計された炉心物質の回収方法と設備は、大幅な改造を必要とした。破損した燃料の封じ込め、取り出しツール、汚染管理、および水処理は、ロボット技術ではなく、マニュアル作業により、既知および推定されたRPV内の条件に合わせて調整された。RPV内の物理的状況に関する明確なデータがほとんどなかったため、作業のフレキシビリティは設備設計の重要な要素であった。
Ex-vessel Defueling for Three Mile Island Unit 2
R.J. Wolfgang and R.L. Patterson, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 616-623.
1979年のTMI-2事故では、燃料微粒子や破片が原子炉冷却システム(RCS)全体に拡散した。RPVバウンダリの外にあるRCS系内の燃料物質量の推定が行われた(ex-vessel areaとして定義)。これらの推定値は、その回収・取り出しの優先順位や重要度の検討に向けて、ALARA概念と併せて使用され、どのex-vessel debrisの回収が必要かを選定するために利用された。
Development of Remotely Controlled Devices for Three Mile Island Unit 2
R.H. Fillnow et al., Nucl. Technol. 87(3) (1989) 624-630.
事故後のTMI-2は、異なる放射線レベルの汚染区域が入り組んだ迷路のような状態であった。補助建屋のいくつかの区画は、調査のために入ることも、ましてや除染を行うことも不可能であった。原子炉建屋の地階は、放射線量が最大1100 R/hに達する最も汚染された区域であった。浮遊物、堆積物、そして滞留水には数千キュリーのセシウムとストロンチウムが含有され、地階の除染は困難であった。これらの危険区域の特性評価と除染を行うため、作業員は遠隔操作(ロボット)装置の使用を検討せざるを得なかった。TMI-2における遠隔装置プログラムは、必要性に迫られた結果として、作業員の放射線被ばくを大幅に削減した。このプログラムで開発された遠隔操作装置と、それぞれの設計に定められた一般的な基準についてまとめた。
Conception and Development of Two Mobile Teleoperated Systems for Three Mile Island Unit 2
L.E. Champeny and W.L. Whittaker, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 631-640.
TMI-2の事故復旧活動のために開発された2つの移動式遠隔操作システムは、将来の遠隔システム開発に重要な視点を提供している。遠隔調査車両(RRV)は、遠隔運用ロジスティクスの先がけであり、システム理念を検証し、復旧目標を明確にすることができた。その後、除染活動用に開発された遠隔作業車両(RWV)は、先行車両技術の限界を克服し、関連分野から採用された設計理念を進化・統合し、除染および解体作業に必要な機能を実現した。RRVとRWVの特徴と機能、そして開発に影響を与えた課題について考察した。
Implementation of Remote Equipment at Three Mile Island Unit 2
D.L. Giefer and A.B. Jeffries, Nucl. Technol. 87(3) (1989) 641-647.
1982年から1989年に、TMI-2で使用中または使用が計画されている遠隔操作装置には、共通の特徴があった。これらの特徴は、TMI-2の過酷な環境における遠隔操作に理想的であったことが証明された。遠隔調査車両(LOUIE)、自動切断装置システムなどの遠隔操作装置は、プラント内の様々な区域における放射線レベルを低減するための作業に効果的に導入された。これらの装置の導入には、遠隔操作装置の動作を支援するシステムの綿密な計画、設計、製造が必要であった。これらの装置は、主に原子炉建屋地階、シール注入弁室、冷却水処理系と脱塩装置室、RPV内で使用された。TMI-2の遠隔操作ロボット装置は、作業効率を大幅に向上させ、作業員の放射線被ばくを最小限に抑えた。
Performance of the Automated Cutting Equipment System during the Plasma Cutting of the Three Mile Island Unit 2 Lower Core Support Assembly
M.S. McGough et al., Nucl. Technol. 87(3) (1989) 648-659.
TMI-2のLCSAは、事故進展中に構造的な損傷を受けなかった。LCSA領域から燃料物質を回収するため、LCSAはアクセスできるように切断された。LCSAに、プラズマ切断、回転研削、研磨ウォータージェットの作業ツールの先端作業部分を到達させるため、5軸遠隔操作装置が開発された。さらに、自動切断装置システム(ACES)マニピュレータとプラズマシステムは、バッフルプレートの垂直切断にも使用された。ACESと先端ツールは、PCI Energy Services社によって設計、製造、試験、そして現場での実装が行われた。実機の複雑な形状の切断は、RPV内の化学条件と圧力条件を模擬したモックアップ施設で行われた。RPV内での実作業は1988年5月初旬に開始され、1989年4月11日に完了した。
Application of Three-Dimensional Computer Solids Modeling to Three Mile Island Unit 2 Defueling Activities
R.D. Schauss et al., Nucl. Technol. 87(3) (1989) 690-700.
1985年2月、TMI-2の原子炉建屋(RB)システムおよび施設の三次元コンピュータモデルを開発する作業が開始された。当初、このモデルは放射線特性評価のためのデータ収集を支援するために使用される予定だったが、本モデル固有の能力であるプラント構成データを単一のソースに統合する能力が、他のさまざまなTMI-2復旧のエンジニアリングを支援するための理想的なツールとなった。RBモデルに加えて、補助建屋および燃料取り扱い建屋のモデル、さらにRPVの詳細モデルも開発された。RPVモデルを使用して、RPV内からの燃料・炉心デブリ取り出し、および、構造物の解体・撤去に関連する活動がサポートされた。
Drilling Operations to Remove the Lower Core Support Assembly at Three Mile Island Unit 2
H.W. Kirkland et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 932-945.
TMI-2事故後に燃料取り出し作業が直面した重要な課題の一つは、激しく損傷した炉心の解体と撤去であった。デブリベッドや溶融凝固層を粉砕するために使用された最も効果的なツールの一つが、コアボーリングマシンであった。このマシンは、事故後の炉心からのサンプル採集とデータ分析のための炉心成層化サンプリングプログラムにおいて成功を収めた。このマシンは、さらに、炉心物質を粉砕することで燃料取り出しを進めるため、硬い溶融凝固層に何百もの穴を掘るためにも使用された。ここでも、このマシンは有効であった。損傷した燃料集合体がすべてRPVから取り除かれた後、RPV内に残るデブリの大部分は、LCSA内と下部プレナムに存在していた。これらのデブリにアクセスする唯一の方法は、デブリ取り出しツールと機器の使用を妨害するLCSAの巨大な層状SSプレート群を切断・解体することであった。
LCSAを解体除去の包括的なプログラムが開始され、コアボーリングマシンとプラズマアーク切断システムが導入され、これらを用いてLCSAを効果的に解体除去できると期待されている(#この論文の時点では、作業進展中)。この論文では、コアボーリングマシンを利用して、LCSAを切断除去するために使用された掘削機器と方法を解説する。コアボーリングマシンは、遠隔で水中のステンレス鋼構造物を切断できる技術であることが証明されている。
除染、線量低減、廃棄物
The Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Gross Decontamination Experiment; Effects on Loose Surface Contamination Levels
E.N. Lazo, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 407-420.
1982年3月に、原子炉建屋の総合除染試験が実施された。そこには大きな2つの目的があった。(a) 一般的な除染技術のうち、垂直面と水平面の汚染レベルを低減するのに最も効果的な方法を決定する。(b) 原子炉建屋内のアクセス可能なエリアにおける放射線と表面汚染のレベルを低減し、今後の内部作業における被ばくコストを低減する。アクセス可能なエリアは、D-リング内、閉鎖系の階段、282ft高さレベルの建屋地階、を除く原子炉建屋全域であった。総合除染試験は、6個の独立タスクで構成されており、さらに9個のワークパッケージに分割され、第15回目の原子炉建屋エントリーとして、30日間にわたって実施された。この作業に、0.4人Svの被ばくコストが用いられた。試験遂行中に当初の計画から変更したことや、試験前後でのデータ収集が十分でなかったことがあったが、平均の汚染レベルは約10分の1に低下し、また、最も効果的な除染技術が決定された。放射性ヨウ素に関する除染係数は最大125に到達した。
Airborne Recontamination of the Three Mile Island Unit 2 Reactor Building
J.E. Tarpinian, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 429-432.
TMI-2のRB内の線量低減目標は、作業区域の線量率を下げ、作業員の集団被ばく線量を合理的に達成可能な限り低く抑えることであった。この目標の一環として、RB建屋表面について大規模な除染の取り組みが行われた。除去可能な表面汚染レベルが非常に高く、場所によっては1.7 x 103Bq/cm2(4.6μCi/100 cm2)を超えることもあり、空気中の放射能濃度が高く、呼吸器系防護具の広範な使用が必要であった。そのため、除染プログラムでは、除去可能な汚染レベルを、呼吸器系防護具の使用を減らす、あるいは完全に不要にできるレベルまで低減することを目標とした。
除染プログラムの進捗は、RB内の広範囲で再汚染が発生していることが判明したことで阻害された。再汚染速度は、一日当たり約1.5 Bq/cm2(4.1 X 10-3 μCi/100cm2)と測定された。一連の検査の結果、RB内の空調システムが高度に汚染されており、その表面から放射能が拡散されていることが判明した。エアロゾルのカスケード効果調査では、粒子径について2ピーク分布を示した。等価直径が>20μmを超える放射性粒子は、放射能の約30%を占め、<5μm未満の放射性微粒子は放射能の60%を占めていた。光学顕微鏡、電子顕微鏡、ラマン分光法による検査の結果、大きな放射性粒子は空調システムに由来する有機粉塵であり、富者性微粒子は処理水中に溶解していたホウ酸に由来することが判明した。
冷却ファンの風量を減らし、高汚染されたDリングへの風量を制限することで、再汚染速度を一日当たり4 x 10-2 Bq/cm2(1.1 x 10-4 μCi/100cm2)まで低減できた。これにより、空気を媒体とした構造物の表面再汚染は大きな懸念事項ではなくなった。そこで、床面をさらに除染するいことで、人工呼吸具の使用を大幅に削減することができた。
Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Dose Reduction Task Force
R.S. Daniels, Nucl. Technol. 87(2) (1989) 553-555.
1982年に発生した原子炉建屋内の線量増加により(最初のエントリーの2年後)、2つの結論が導かれた。(a) 原子炉建屋内で現在計画されている活動は、作業員の被ばく量を過度に増加させることにつながり、合理的に達成可能な限り低いレベルで被ばく線量を抑制するという概念と相いれない。(b) これまでに計画された活動は、既存の作業員の人的資源では、四半期および年間の線量限度を超えずに達成することが困難であった。そこで、個人被曝を制限する必要性と財政資源の制約に基づいて、包括的な線量低減プログラムが実施された。
このような線量低減プログラムは、迅速に実施できる対策から着手し、段階的に進める必要がある。初期段階での措置に続いて、現場データにもとづく技術的な計画と対応する機器の調達を通じて、実施可能な次の段階の線量低減活動を行う必要があった。これらの初期の線量低減活動が終了した後、線量率の低下により、次に重要となる新たな線源が特定されることになる。線量低減には、除染と現場復旧のプロセス全体を通じて、継続的に取り組む必要がある。
TMI-2の線量低減タスクフォースは、線量低減に向けた3段階のアプローチを策定した。線量低減プログラムの結果を時系列で示し、予測と比較した。
Review of Radiation Shielding Concerns Associated with the Three Mile Island Unit 2 Defueling Systems
N.L. Osgood et al., Nucl. Technol. 87(2) (1989) 556-561.
TMI-2での燃料取出システムの設計プログラムにおいて重要な要素の一つは、燃料取出作業中の放射線源の影響評価であった。あらゆる燃料取出作業中に予想される放射線影響を評価するために、包括的な放射線分析プログラムが開発された。この分析結果は、作業員の適切な放射線防護と、集団線量の最小化に使用された。この分析プログラムの開発は、燃料取り出し設計プロセスと連携して実施された。これにより、取り出し設計に重要な放射線防護機能を組み込むことが可能となった。
Quality Assurance in the Removal and Transport of the Three Mile Island Unit 2 Core
G.R. Hayes and J.F. Marsden, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 721-728.
EG&Gアイダホ社は、DOEを代行して、TMI-2プラント所有者GPU社と協力し、TMI-2炉心物質のアイダホ国立工学研究所(INEL)への移動と輸送を行った。品質保証(QA)は、TMI-2の損傷した炉心物質取り外しと輸送において重要な役割を果たした。この論文では、三種類の異なる機器の設計、製造、受け入れおよび使用において利用された重要なQA技術のいくつかが議論されている(a)コアボーリングマシン、(b)デブリ収納缶、(c)輸送キャスク。それぞれの作業のQAの詳細を議論するのではなく、それぞれの機器に特有のQA原則と方法論について解説する。このアプローチは、QAにおける「作業チームワーク」の重要性を効果的に伝えることを目的としている。
The Effects of Hydrogen Generation on Radioactive Waste Handling Technology
J.O. Henrie, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 729-736. TMI-2事故で発生した汚染水から、核分裂生成物は、ステンレス製の容器内で混合ゼオライトに吸着させることによって除去された。水の放射分解によって、これらの容器内で水素と酸素の気体が生成され、その生成速度は約70L/週のレベルに達した。パラジウム-アルミナ触媒ペレットは、それぞれの容器に遠隔作業で装荷され、気体を水に再結合させることで安全な輸送と保管を可能にした。廃棄物容器がワシントン州ハンフォードサイトに輸送された後、監視によって、99%以上の気体が再結合されており、わずかな漏れにより容器の圧力が-110 kPa(絶対値16 psi)で安定していることが確認された。触媒ベッドは、デブリからの水素と酸素ガス発生が予想されるデブリ収納缶用にも設計され、製造された(約20L/週の速度でガス生成されると予測)。テストにより適切な触媒の種類が特定され、触媒ベッドの設計パラメータが確立された。INELラボに輸送された後、水素-酸素の濃度が可燃性限界をはるかに下回っており、したがって安全であることが確認された。
水素ガス生成の対象となる廃棄物の輸送に関する連邦規制は、TMI廃棄物の輸送の結果として確立された。それらの規制は、酸素濃度または水素濃度のいずれかが5%未満であることを要求することで、非可燃条件を確保している。それらの要件は適切であると考えられる。酸素濃度に関係なく、水素濃度だけが5%を超えないようにするというより厳しい要件は、不適切であると考えられる。
Processing and Disposal of Radioactive Sediments at Three Mile Island Unit 2
G.D. Cremeans and R.F. Mahle, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 737-744.
1979年3月のTMI-2事故では、RPV内の冷却水と炉心物質の粒子が原子炉建屋の地下に放出され、さらに、様々な副流により補助建屋と燃料取り扱い建屋にも流入した。その結果、既設のプラント構成物質やデブリは、一次系からの放出物との接触により放射能で汚染された。さらに、冷却水供給系(メイクアップ)および冷却水精製系の脱塩樹脂は、容器に閉じ込められた数千キュリーのヨウ素やセシウムにより劣化した。これらのエリアの放射線レベルは、10から1000R/hの範囲に達したため、これらのエリアへのアクセスは禁止または厳しく制限され、また、除染作業も禁止された。
これらのエリアを除染するために、いくつかの代替方法が評価され、これらの放射性物質と劣化樹脂を収集、処理、廃棄するための最も経済的に受け入れやすく、かつプラントに適した遠隔方法が選定された。
2基の14.38 kL(3800ガロン)の使用済み樹脂貯蔵タンク(SRST)を改修し、密度差によるデカンテーションによる粒子分離器として使用するという決定が行われた。このプロセスによる粒子濃度のレベルは、材料の物理的および放射化学的特性に基づいて、固化および廃棄作業に対するその後の要件に関連していた。
各SRSTには、沈殿物や樹脂を濃縮できるように、さまざまな修正や機能が追加された。操作の手順は、浮遊した固体を含む冷却水のバッチをタンクにポンプアップ、沈殿操作を行ってから、上澄みをデカントし、このプロセスを十分な量の固体が回収されるまで繰り返し、その後、固体を固化廃棄容器にポンプで移送する。
SRSTによって処理された最初の2つの廃棄物フローは、閉鎖された建屋地階の堆積物と、クリーンアップされた脱塩装置から回収された汚染樹脂である。現在、脱塩装置から汚染樹脂を除去するための作業が進行中である。
Final Disposition of Three Mile Island Unit 2 Accident-Generated Water
G.D. Cremeans, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 745-754.
1979年3月のTMI-2事故とその後の10年間のクリーンアップ作業により、約8706 m3(230万ガロン)の放射性汚染物の処理水が生成された。これを事故生成水(AGW)と呼ぶ。AGWのほとんどは、河川放出可能な規制レベルまで除染され、ススケハナ川に放流されることができる状況であったが、ランカスター市との和解契約においては、NRCの環境評価の前に、河川放出を行うことが禁止された。
大量の処理水の在庫を処分するために、9つの代替処分方法が評価された。この評価では、それぞれの方法の技術的実現可能性、環境への影響、コスト、そして公共の受容性が考慮された。これらの基準に基づいた評価により、政治的および制度的な考慮事項も含めて、AGWの処分では、強制蒸発処理と蒸発後の固形物の回収と処分による方法が最も受け入れられやすいとして選択された。
選択された方法は、AGW内の放射性粒子に対して1000の除染係数が達成されるように設計された。このシステムは、(a) AGWを閉鎖系の循環プロセスで蒸留して、精製蒸留物を回収するための蒸気再圧縮蒸留ユニット、(b) 主蒸発器からの残渣をさらに濃縮するための補助蒸発器、(c) 精製蒸留物を制御された監視の下で、大気中に放出するフラッシング蒸発器ユニット、(d) 濃縮廃棄物から乾燥した固体を生成するブレンダー/ドライヤー、(e) 商業用低レベル放射性廃棄物処分場での輸送および埋設に適した容器に固体廃棄物を格納する収納システム、で構成されている。
AGW廃棄物処理作業の期間は約2年と予想されており、8706 m3(230万ガロン)の処理時間とシステムメンテナンス時間が考慮されている。この作業で、生成され、格納され、出荷される放射性廃棄物の推定量は約145トンである。この廃棄物は、クラスAの埋設要件、および低レベル放射性物質お輸送要件に適合している。
U.S. Nuclear Regulatory Commission Inspection of Transportation Casks
C.M. Abbate and J.W. Craig, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 755-758.
最近まで、NRCの輸送キャスクに関する検査作業は、輸送キャスクの製造業者および下請け業者によって文書化された品質保証プログラム、および米国運輸省の文書要件に焦点を当てており、キャスクの製造中の品質保証プログラムの実施自体にはあまり注目していなかった。現在、検査の要点は、書類によるレビューから、機器のより徹底的な検査と、輸送容器などの部品の製造中の品質管理プログラムの実施による安全性のレビューに移行している。このNRCによる検査アプローチの修正は、TMI-2デブリの取り出しと輸送のために設計・製造された収納缶および2基の輸送キャスクに対する最近の製造業者検査に反映された。これらの検査では、製造プロセスの欠陥が特定され、ベンダーによる是正措置が行われ、管理が改善され、製品の品質が向上した。放射性物質の輸送は今後増加する見込みであり、輸送キャスクを設計、製造、使用する事業者の責任として、高い安全レベルが維持され、要求事項が満たされ、高品質のキャスクが使用されることを確実にしていく必要がある。
Plant Equipment Modifications Required to Place Three Mile Island Unit 2 in a Postdefueling Monitored Storage Configuration
T.C. Fonner, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 759-771.
TMI-2の燃料取り出しが進む中、TMI-2を「燃料取り出し後の監視保管」(PDMS: Post-Defueling Monitored Storage)状態にするために必要となる、プラント設備の変更を取り入れた移行プログラムが開発されている。プラントを再稼働させるか廃止するかの最終的な決定は、将来、決定される段階まで保留されている。
PDMS期間は、ほぼすべての燃料物質が回収された段階で開始され、TMI-2の解体または再開プログラムが始まる段階で終了する。この期間中、TMI-2プラントは安全で安定した保管状態に置かれる。
PDMS条件でプラントを維持するには、プラントシステムと設備を安全で継続的に稼働させる設備から、最低限の稼働あるいは待機でプラントを安全かつ安定に保つことができる設備に変換するための改修が必要である。必要な改修を行うことで、安全で安定したプラントが維持され、公衆およびTMI-2で働く作業者の健康と安全が確保される。
Three Mile Island Unit 2 Postdefueling Regulatory Considerations
S.W. Smith and J.J. Byrne, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 772-777.
クリーンアップ完了し、燃料物質取り出し後のPDMS段階に入るための取り組みの一環として、TMI-2事業者はNRCに安全評価報告書を提出した。この報告書には、連邦規則集(CFR)第10部50条の規制レビューが含まれている。レビューの結果、CFR第10部50条における要求事項は、TMI-2にはほぼ適用されないとの判断が下された。ある原子力施設が早期解体プロセス(SAF-STOR)の一環としての非稼働かつ燃料取り出し段階に入ることは、TMI-2の状況に非常に似ているため、この新しく明確な規制ガイダンスは原子力産業全体にとって有益である。
The Evaluation of Radionuclide Penetration of Structural Concrete Surfaces in the Three Mile Island Unit 2 Reactor Building
C.M. Davis, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 778-785.
1979年3月28日のTMI-2でのLOCA事故では、原子炉建屋の内部コンクリート表面約3000 m2が、液体および蒸気に由来する汚染物質にさらされた。これらの表面と液体や気体状の放射性物質含有媒体との接触期間は数日から数年にわたった。
1982年に実施された、原子炉建屋内での総合除染試験で、建屋内でアクセス可能な高所の除染が、水洗浄、高圧スプレー、剥離コーティング法、手作業での拭き取りによって行われた時点でも、建屋内の空間線量率は予想以上のレベルに留まっていた。内部調査と予備的な表面サンプル分析の結果、汚染物質が構造コンクリートの保護コーティング層に浸透しており、 相当量の線源を形成していることが明らかになった。コンクリートへの汚染物質の浸透深度を評価するために、1983年9月により広範囲でのサンプリングプログラムが実施された。
このプログラムの結果に基づいて、コンクリートの表面コーティングが完全である場合には、コーティング層を超えての放射性物質の浸透はあまり重要ではないと判断された。しかし、事故前に表面コーティングが損傷していた場合、コンクリートへの浸透が最大20mm観察された。その後、これらの値を使用したISOSHLDIIコードによるモデリングが行われ、1983年に観察された線量率の23%から40%がこの汚染に起因する可能性があることが示された。回収されたサンプルに対して実施された剥ぎ取りコーティング試験では、コーティングの除去により、線源の50%から98%が除去される可能性があることが示された。そこで、追加的に実施された原子炉建屋内でのアクセス可能な高所でのコーティング剥ぎ取りとコンクリート自体のはつり作業により、線量の15%から38%の削減が達成された。
これらのデータと、原子炉建屋地階でのその後の除染作業のデータは、構造コンクリートの保護コーティングにより、コンクリートバルク材中への水溶性の放射性物質の浸透を大幅に減少させることを示した。いったん吸収された放射性物質を効果的に除去する方法として、放射性核種の大部分を含むコーティング層を除去することで、潜在的にはより多くの放射性核種を保持できるコンクリートバルクをはつり除去するのに必要な膨大な作業に比べて少ない労力で、表面汚染を除去できるかもしれない。
Analysis of Data from Leaching Concrete Samples Taken from the Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Basement
E.D. Collins et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 786-796.
TMI-2の原子炉建屋地階の汚染コンクリートのサンプルを用いて、完全な水没条件下での拡散で制御された浸出と、多孔質コンクリートブロック壁の強制フロー浸出による除染の可能性を評価するために、オークリッジ国立研究所で試験と分析が行われた。関連するコンクリートの物理的特性が測定され、浸出試験が行われた。得られたデータは確立された質量移動原理に基づいて分析され、数年間スパンでの浸出予測が行われた。数値アルゴリズムが、強制フロー浸出によるCs-137除染モデル化に使用された。結果として、強制フロー浸出では除染に数日しかかからないのに対し、水没での浸出のみでは完全な除染には数年かかることが示された。
Design of a Filter Aid and Coagulant Addition System at Three Mile Island Unit 2
P.R. van Stolk and M.D. Smith, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 797-802.
設置されていた一次系冷却水浄化システムのフィルターは、稼働寿命が著しく短かった。これは、TMI-2の一次系冷却水内に存在するコロイド状の物質によるフィルターメディアの閉塞が原因となっていた。実験室での試験により、フィルターメディアに負荷した凝集剤とフィルター補助剤の組み合わせにより、稼働時間を10倍に延長できることが明らかになった。凝集剤とフィルター補助剤をTMI-2原子炉建屋内のフィルターに適用するためのポンプ、混合機、タンク、および制御システムが開発された。
Characterization Studies of Solids from Reactor Coolant System Water and Test Filter Media from Three Mile Island Unit 2
D.O. Campbell, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 803-813.
TMI-2における燃料取り出し作業への水質劣化の影響を受けて、RPV内冷却水中の懸濁粒子を同定するための研究が行われた。異なる時間帯に異なる透明度を持った三つのRPV内冷却水サンプルが、ポアサイズが減少するNucleporeフィルターを通じてフィルタリングされ、ろ過後の固体成分は、走査型電子顕微鏡とX線蛍光によって分析された。また、ろ過特性を改善するために研究中であったpoly-electrolyteと珪藻土添加剤を添加した試験も行われた。模擬のRPV内冷却水での試験で、すぐに詰まってしまったDWCSフィルターメディアのサンプルも分析された。
Nucleporeフィルター上では多種多様な固体物質が観察され、分析により少なくとも26元素の存在が確認された。ここには、炉心物質の主要成分、除染に使用された化学物質およびゼオライト、一般的な不純物、さらにはいくつかの予想外の元素が含まれていた。また、有機物系の物質も含まれていた。これらのサイズは、>10μmから<0.1μmまで分布し、さまざまな形状であった。微粒子が凝集することで、フィルターポアの開口部が部分的に塞がれていた。さらに、ステンレス鋼製のDWCSテストフィルターでは、その使用により、水の透明度が大幅に改善された後では、主に有機的な性質からシリカ質に変化する薄い表面膜でコーティングされていた。
Utilization of Three Mile Island Unit 2 Research and Development Information in Japan
N. Tabata and F. Masuda, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 814-823.
1984年以降、TMI-2での技術研究開発に関する日米協力協定が発効した。ここでは、この協定に基づく日本川の活動とその結果が概説されている。以下は、TMI-2リカバリープログラムから得られた情報の利用例である。1. 電気回路の特性評価および診断システム、2. 原子炉内部の切断用設備、3. SDSシステム/EPICOR-IIシステム、4. 機械的除染技術、5. 日本における軽水炉の安全評価。ここでは、上記の各項目について、評価結果が示され、通常運転、廃炉、および原子力発電所の安全評価におけるTMI-2情報の適用が示されている。
Use of Deep-Bed Filtration Technology in the Cleanup of Three Mile Island Unit 2
M.D. Smith, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 824-836.
TMI-2での燃料取り出しは、放射線遮蔽と核臨界制御のために水深9.15 m(30 ft)で行われた。この作業では、十分な冷却水透明度が必要であった。本格的な燃料取り出しが開始された直後から、冷却水の透明度は、懸濁コロイドと微生物の成長により急速に悪化し、元々設計されていたろ過システムでは十分に除去できなかった。したがって、代替的なろ過技術が必要となり、深層ベッドろ過法が代替手段として選ばれ、試験された。
深層ベッドろ過の試験プログラムは、3つの異なるフェーズで構成されていた:1. 原子炉冷却材と脱イオン水を使用した小規模な単一要素テスト、2. 脱イオン水を使用したフルスケールの水圧試験、3. 模擬knockout収納缶を使用した収納缶充填試験。ここでは、各フェーズのテストデータが、その分析結果と共に提示されている。濁度の目標値が1NTU未満だったのに対し、積算でのフィルタ流量が378500 L(100000ガロン)を超えられなかったため、深層ベッドろ過技術は、本来のフィルターの代替手段とはならなかった。深層ベッドろ過法では、限られた累積フィルタ流量の条件でろ過することができたが、その時の冷却水の透明度の改善はTMI-2のニーズには不十分であった。
一般的に、深層ベッドろ過試験の結果は、効果的なろ過効率が提供される場合には、その負荷がろ過の有効性を犠牲にするため、フィルター稼働時間と累積フロー量を減少させてしまうことを示している。一方で、より高い累積フィルターフローと稼働時間を提供する場合には、ろ過効率が犠牲になった。さらに、RPV内冷却水中の懸濁レベルが高くなると、効果的なろ過条件が提供できなかった。
TMI-2の水質透明度の問題を最終的に解決するためには、珪藻土を付加することで強化されたメラミン-ホルムアルデヒド凝集剤が使用された。
The Identification and Control of Microorganisms at Three Mile Island Unit 2
K.J. Hofstetter and B.S. Ausmus, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 837-844.
TMI-2のRPV内と関連システムにおける微生物汚染では、微生物が腐食を促進し、水中の視認性を低下させるという懸念を引き起こした。1985年中頃には、燃料プール内で藻類の大きな個体群の発生により視界が制限され、燃料取り出しや除染作業に直接的な影響があった。1986年初頭には、燃料取り出し作業員はRPV内冷却水中の微生物発生による視界の完全な喪失を経験した。水中の放射性核種と化学条件によりその制御技術の開発は複雑だったが、過酸化水素を殺生物剤として使用することで、十分な生物学的制御が達成された。RPV内から回収された構造物、燃料取り出しツール、デブリ収納缶に、微生物による腐食の痕跡は見られなかった。
プレナリーセッション
Closing Plenary -Enhanced Reactor Safety Lessons Leaned from Three Mile Island Unit 2
S. Langer and D. Owen, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 956-974.
1988年10月30日から11月4日までワシントンD.C.で開催されたTMI-2事故Topical MeetingでのClosing Plenary Sessionの記録である。パネルには、電力会社、ベンダー、規制当局、科学者、学者、そして原子力発電評論家など、著名な代表者が参加した。この会議の様子は、米国原子力学会からビデオテープとして入手可能である。
Thermal Interactions during the Three Mile Island Unit 2 2-B Coolant Pump Transient
P. Kuan et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 977-989.
TMI-2の2B系統冷却材ポンプの再稼働イベントにおける熱的な相互作用は、プレナム構造物の部分的な溶融の要因として考えられている。一次系の圧力応答を用いて、ポンプ再稼働イベント中に炉心から冷却材へ伝達されるエネルギーと蒸気発生速度を計算した。そして、この蒸気発生速度を用いてプレナム構造物の加熱度を計算した。エネルギーバランスから、蒸気によるジルカロイの発熱酸化が起こったことが示唆された。プレナム構造物の加熱計算では、酸化プロセス中に発生する水素の影響をシミュレートするため、蒸気の熱放射率を低下させた。計算結果から、相当量の水素(約60%)が存在する場合、プレナム構造物の底部にある薄い構造物のみが溶融し、比較的厚い構造は部分的に熱衝撃を受けたことが判明した。これらの結果は、観測された損傷と整合している。
Three Mile Island Unit 2 Degraded Core Heatup and Cooldown Analysis
R.L. Moore et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 990-1004.
TMI-2における174分から224分までの炉心加熱と、224分に約25トンの炉心物質が原子炉下部プレナムへ移動した後の、炉心部の溶融凝固領域の冷却をシミュレートするための2次元有限要素モデルが開発された。このモデルでは、破損炉心領域表面での熱損失、炉心物質の溶融、溶融プール内の対流熱伝達、そして揮発性核分裂生成物の放出による崩壊熱の減少が考慮されている。解析結果によると、224分に移動した約25トンの炉心物質を生成するには、174分時点で溶融凝固領域での炉心物質の少なくとも17%が溶融していた必要があることが示された。冷却計算によれば、炉心が冷却水で覆われている限り、事故発生後約324 分で熱的に安定した炉心構成の状態が維持され、プールの冷却が始まることが示された。
Molten Material Behavior in the Three Mile Island Unit 2 Accident
R.R. Hobbins et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1005-1012.
シビアアクシデント進展における溶融デブリの挙動は、事故が下部ヘッド破損まで進展した際の原子炉圧力容器から放出されるデブリの性質(組成および核分裂生成物のインベントリ)と、下部プレナムが破損しなかった事故条件での様々な段階におけるデブリの冷却性に影響を及ぼす。TMI-2事故における炉心溶融は、様々な炉心損傷実験よりも進行しており、そのためTMI-2は、溶融デブリの下部プレナムへの再移動イベントを含む、炉心溶融が後期フェーズ(Late Phase)まで及んだ貴重な情報源となっている。TMI-2原子炉圧力容器内の溶融凝固デブリの調査と評価から、溶融デブリが炉心内で冷却不可能な形状を形成する可能性がある一方で、周囲のクラスト層を突き破って下部プレナムに大量に再移動し、下部プレナム内の水との相互作用によって破砕され、冷却可能な形状のデブリ瓦礫層を形成する可能性があることが示された。溶融デブリの化学組成、特に酸素ポテンシャルは、核分裂生成物の化学形態、ひいては溶融デブリ中のFP残留量に影響する。また、溶融デブリと原子炉圧力容器内の構造材との相互作用もデブリの化学組成によって決定される。
The Overall Source Range Monitor Response during the Three Mile Island Unit 2 Accident
A.J. Baratta et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1013-1020.
TMI-2事故発生後25時間におけるソースレンジモニター(SRM)の応答を解析した。SRM応答は、様々な下部ヘッドでの炉心物質分布モデルを用いて静的中性子輸送計算を行うことでシミュレートされた。あらかじめ評価されているスクラム後225分および3年後における炉心および下部ヘッド物質の構成を初期条件として、スクラム後225分から25時間までの下部ヘッド物質分布の変化を推定した。この輸送解析から得られた推定下部ヘッド物質分布は、TMI-2事故評価プログラムの下で実施された他の解析結果と整合している。
The Three Mile Island Unit 2 Core Relocation -Heat Transfer and Mechanism
M. Epstein and H.K. Fauske, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1021-1035.
TMI-2炉心の様々な領域から採取された炉心デブリサンプルを調査し、炉心構成物質と冷却材との相互作用の特性評価、相互作用発生時のピーク温度の推定、そしてTMI-2における炉心溶融の進行状況の評価を行った。温度は炉心損傷の進行とFP挙動に強い影響を与えるため、これらのサンプル分析からピーク温度を推定する必要があった。ピーク温度は、微細構造の観察と相の組成を既存の状態図と比較することで推定できる。微細構造は金相顕微鏡と走査型電子顕微鏡によって、組成はエネルギー分散型および波長分散型X線分光法と走査型オージェ分光法によって決定された。
炉心構成物質間での化学的な相互作用は非常に複雑であり、ジルカロイ被覆管とUO2燃料の相互作用だけでなく、制御棒材料(Ag-In-Cd)やインコネルスペーサーグリッドとの相互作用も伴っていた。一部の複雑な物質の組み合わせについては状態図が存在しないため、モデルを簡素化し、物質移動を伴うより重要な相互作用に焦点を絞る必要があるかもしれない。
現在の炉心溶融進展モデルには、物質移動温度など、過酷事故時の炉心の挙動をより正確に予測するために、これらのより複雑な化学的な相互作用を組み込む必要がある。
Comparison of Thermal and Mechanical Responses of the Three Mile Island Unit 2 Reactor Vessel
G.L. Thinnes and R.L. Moore, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1036-1049.
TMI-2事故では、炉心物質の約47%が溶融し、約15%が原子炉容器の下部ヘッドへ移動した。この事故の深刻さから、原子炉容器下部ヘッドの破損に対する安全余裕度について疑問が生じている。その理由は、現場から得られたすべてのエビデンスが圧力容器底部の重大な破損を示唆していないためである。移動した溶融デブリと下部ヘッドの熱伝達に関する解析が、想定される炉心溶融シナリオと、下部ヘッドとの接触中に形成されるデブリに基づいて実施された。
ここでは、原子炉圧力容器の構造的強度に影響を及ぼすと判断された温度過渡事象を用いた、下部ヘッドの構造有限要素クリープ破断解析について記述する。この温度過渡事象に対する圧力容器応答の評価は、容器壁のクリープメカニズム、現実的な破損モード、そして今後の内部検査によって事故時の容器壁のピーク温度が推定された場合に、その破損までの裕度を評価するための手段に関する知見をもたらされた。この分野におけるより広範な研究のための提案も示す。
MELCOR Analysis of the Three Mile Island Unit 2 Accident
E.A. Boucheron and J.E. Kelly, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1050-1057.
MELCORコードにより、TMI-2事故の最初の174分間の解析が行われた。MELCORは、原子力発電所における過酷事故の解析を目的として、米国原子力規制委員会(NRC)向けにサンディア国立研究所で開発されている。コードの予測値を既存データと比較した結果、MELCORはTMI-2事故の主要な事象をモデル化でき、既存データと妥当な一致が得られた。特に、炉心劣化および水素発生モデルは、事故のこの段階におけるベストエスティメートと一致した。MELCORコードでは簡略化モデルを使用しているが、原子炉システムおよび事故現象の重要な特性はすべてモデル化できている。この解析エクササイズは、MELCORが過酷事故解析に適用可能であることを示している。
Thermal-Hydraulic Analysis of the Initial Phase of the Three Mile Island Unit 2 Accident
K. Hashimoto et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1058-1066.
TMI-2事故の初期174分間の熱水力解析を、THALES(THermal-Hydraulic Analysis of Loss-of-Coolant, Emergency Core Cooling and Severe Core Damage)-PM1/TMIコードを用いて実施した。本解析の目的は、THALES-PM1/TMIコードが実際の原子力発電所における事故進展を記述できるかどうかを検証することであった。初期条件および境界条件は、OECD/NEAのCSNIがTMI-2事故解析エクササイズを実施する際に使用したTMI-2標準問題データベースに基づいている。解析結果は実際の挙動と概ね一致しており、コードで採用されている物理モデルが妥当であることを示している。本解析により、デブリノードが元の位置に留まると仮定した過渡現象の初期段階における炉心劣化挙動に関して、より良い結果が得られた。しかし、燃料の移動とデブリの形成に関する物理モデルは、過渡状態の後期段階における事故の進行と一致するようにさらに改良する必要がある。
Simulation of the First 174 Minutes of the Three Mile Island Unit 2 Accident Using MAAP 3.0B
A. Sharon et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1067-1085.
TMI-2事故の最初の174分は、フルパワー運転からのリカバリー措置を講じることなく深刻な燃料損傷に至った、事故の最初の2つの段階に相当する。この段階でのプラント運転員の行動とプラントの初期条件および境界条件は、過酷事故コードのベンチマークのためのスタンダードデータベースとして、EG&G Idaho社によって開発された。
これらの標準プラントパラメータと事故境界条件は、MAAP 3.OB解析で使用され、最初の炉心回復が試みられたスクラム後174分までの事故進展がシミュレーションされた。すべての入力は公開されているパッケージから取得され、モデリングパラメータは公称値のみが使用された。シミュレーションした時間帯の大半において、ほとんどのデータと良好な一致が見られた。
このシミュレーションにより、過酷事故時に注意を要する2つの主要な現象が明らかになった。1. 一次系における水素の発生と輸送、2. ホットレッグでボイド発生している際の加圧器サージラインを通る冷却材フロー、である。これらの現象に対する具体的なモデルが、事故のシミュレーションを成功させる鍵となる。
ATHLET Analysis of the Thee Mile Island Unit 2 Accident
A.B. Wahba and F. Steinhoff, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1086-1096.
TMI-2事故解析に使用された熱水力コードATHLETは、U字管式蒸気発生器を備えた加圧水型原子炉の安全解析を目的として、ドイツ連邦共和国の原子炉研究所(Gesellschaft fur Reaktorsicherheit)で開発された。
二次系側のシミュレーションを行わない事故初期フェーズ(Phase-1)の最初の解析は予備的なもので、蒸気発生器における正確な熱流量が必要であることが示された。利用可能な値については、システム圧力の挙動が不正確だった。
貫流型蒸気発生器の詳細なシミュレーションを用いた2回目の解析では、アスピレーター内の流動抵抗がコールドレグ温度に及ぼす影響や、システム挙動が補助給水注入の速度と位置に依存することなど、興味深い情報が得られた。
Worker Exposures during th Three Mile Island Unit 2 Recovery
D.J. Merchant, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1099-1105.
TMI-2復旧作業に従事した作業員の外部被曝および内部被曝について検証する。1979年の事故により、発電所内には、数分以上立ち入れば連邦放射線限度に達する放射線環境にある区域が複数箇所発生した。復旧作業には、米国の商業原子力産業でこれまで試みられたことのない多くの特殊な作業が必要となった。「合理的に達成可能な限り低く抑える(ALARA)」という原則に全面的に取り組んだことで、個人被曝および集団被曝を許容できる程度に低く抑えつつ、復旧作業を迅速に進めることができた。
1979年に発電所を安定化させ、事故による被害を評価するために行われた作業員の初期活動以降、規制限度を超える個人被ばくは発生していない。1980年以降の個人年間被ばく線量はいずれも0.04シーベルト(4レム)未満であり、作業員の年間平均被ばく線量は米国の業界平均と同程度である。年間集団被ばく線量は、発電所の初期安定化以降増加している。1980年から1983年にかけての比較的低い集団被ばく線量は、初期の除染および線量低減措置を実施しながら復旧作業の技術的計画およびエンジニアリング段階にあったことを反映している。原子炉容器の予備準備および実際の燃料取出しは、1984年と1985年に開始された。1986年と1987年の集団被ばく線量は、本格的な燃料取出しおよび除染作業に対応している。
1988年8月までの実際の累積職業線量は、約53人Sv(5,300人レム)であり、リカバリー作業に費やされた線量は70人Sv(7,000人レム)未満と予想された。これらの集団線量は、米国原子力規制委員会(NRC)の当初推定値である30~80人Sv(3,000~8,000人レム)の範囲内であり、同時期の米国の商用原子力発電所の平均集団線量とほぼ同等であった。
Thee Mile Island Unit 2 Reactor Vessel Head and Plenum Removal
C.W. Hultman and R.W. Jackson, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1109-1111.
TMI-2では、炉心の損傷により、原子炉圧力容器ヘッドと上部プレナム構造物を撤去するための標準的な方法が使用できなかった。通常よりも高い放射線レベルと空気中の放射能汚染が発生した。作業員の被ばくを最小限に抑え、汚染の拡大を防ぐための特別な予防措置を重視した計画が策定された。この計画では、既存の設備と作業方法の改修が盛り込まれ、原子炉会う力容器ヘッドとプレナム構造物の安全な撤去と保管のために遠隔操作が採用された。ヘッドは1984年7月に撤去され、保管された。プレナム構造物は1985年5月に撤去され、保管された。
Three Mile Island Unit 2 Coe Region Defueling
J.M. Rodabaugh and D.K. Cowser, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1112-1116.
TMI-2の炉心損傷は甚大であった。事故により、深さ1.5mの上部空洞が形成され、炉心のほぼ外周まで広がった。当初設置されていた177体の燃料集合体すべてに損傷の兆候が見られた。損傷した炉心の除去を完了するまでに、データ収集、計画、機器設計、そして燃料取り出し作業に合計5年を要した。
Disassembly and Defueling of the Three Mile Island Unit 2 Upper Core Support Assembly
J.M. Rodabaugh, Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1117-1121.
TMI-2の炉心損傷時、溶融した炉心物質が炉心支持構造の周辺部を溶融し、炉心領域の通常の境界を越えて、通常はアクセスできないバッフルプレートの背後の領域に流れ込んだ。この溶融した炉心物質は炉心領域の周囲を完全に囲み、原子炉圧力容器の下部ヘッドまで流れ込んだ。この結果、このデブリを回収するには、炉心支持構造の大部分を解体する必要があった。
Operations and Achievements of Remote Equipment at Three Mile Island Unit 2
M.D. Pavelek II et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1122-1133.
1980年、TMI-2プロジェクトチームは、事故からの復旧作業に利用する遠隔操作ツールとロボット装置の技術評価を行った。放射線レベルの高さと防護服および防護装置の高コストのため、TMI-2では遠隔操作ツールが重要であった。プラント施設の安全で効率的な除染は、GPU社の主目的となった。この目標を念頭に、2種類の遠隔操作ツールが配備された。1つ目は、ホッジス遠隔操作移動マニピュレーター(RCMM)で、3方向の自由度をもつアームを備えた小型でシンプルなリモートツールであった。これにより、Pick-and-place操作が可能になり、フラッシング装置の制御も可能になった。RCMMは、簡単な改造であり補助建屋キュービクルの汚染を低減にも適用できると評価された。
GPU社とBechtel国立研究所チームは、RCMMの信頼性と運用能力の向上に努め、改修および試験期間を経て、RCMMは補助建屋地下にあった2台の高汚染キュービクルの除染に運用された。この除染作業終了時に、RCMMの視覚および駆動システムを改善する必要があると判断された。RCMMを信頼性の高い方法で運用するために必要な改修を行うことは、現実的な解決策ではなかった。RCMMの現場適用から得られた経験を活かし、プロジェクトチームは、第2クラスの遠隔ロボットとして遠隔偵察車両(RRV)を開発したカーネギーメロン大学と緊密に協力した。RRVは、TMI-2の高度に汚染された原子炉建屋地下に、数種類の遠隔操作ツールおよび監視機器を輸送することに成功した。ここ9では、TMI-2リカバリープロジェクト中に利用されたRRVおよび第2クラスの別の遠隔ロボットであるLouie-2の実際の操作について説明する。
An Overview of Nuclear Criticality Safety Analyses Performed to Support Three Mile Island Unit 2 Defueling
D.S. Williams et al., Nucl. Technol. 87(4) (1989) 1134-1144.
TMI-2で実施された様々な燃料取出し作業において、臨界安全性と確立された反応度(keff)基準の遵守を実証する必要があった。これには、一次系冷却材中への適切な中性子毒物添加の決定、デブリ収納缶、収納缶取扱装置、保管ラック、および輸送容器の設計が含まれる。燃料取出し作業に必要なツール、機器、および支援システムも、臨界安全性要件に準拠する必要があった。一次系冷却水の中性子毒物濃度を定義するために使用されたkeff基準は<0.99であった。この基準と極めて保守的な炉心モデルを組み合わせることで、適切な安全裕度を有する中性子毒物濃度が実現された。デブリ収納缶内に装荷される中性子毒物の要件を定義するために、すべての想定される構成において、単独の収納缶と複数収納缶の両方に対して<0.95のkeff基準が使用された。すべての設計解析において、境界仮定が立てられた。実施された各解析セットにおいて、keff の評価には計算値の不確実性を考慮するための余裕度が組み込まれた。一次系冷却水解析とデブリ収納缶解析の両方において適切なコンピュータコードバイアス値を決定するために、臨界性ベンチマーク調査が実施された。
一次系冷却水中のホウ素濃度を定義するために、燃料インベントリー全体を含んだレンズ状モデルが使用された。オークリッジ国立研究所による分析に基づくと、keff 基準を満たすには 4350 ppm のホウ素濃度が必要であった。Babcok&Wilcox社が燃料取出用収納缶の設計解析を実施した。3タイプの収納缶は、KENOコードを使用してモデル化され解析された。設計要件では、収納缶の直径を臨界安全寸法よりも大きくする必要があるため、固体状のホウ素含有物質が取り付けられた。収納缶に使用された中性子毒物は、Boralプレートまたは積層焼結炭化ホウ素ペレットのいずれかであった。収納缶内の中性子毒物質の量と配置は、keff 制限と収納缶の運用基準に基づいて決定された。収納缶取扱装置内に配置された収納缶の keffが 0.95 未満であることを確認するための解析も実施された。
参考文献
[1] J.O. Carlson, TMI-2 Core Examination Plan, EGG-TMI-6169, 1984.
[2] M.L. Russell, R.K, McCardell, M.D. Peters, M.R. Martin, J.O. Carlson, J.M. Broughton, TMI-2 Accident Evaluation Program Sample Acquisition and Examination Plan, EGG-TMI-7132, 1986.
[3] D.W. Golden et al., TMI-2 Standard Problem Package, EGG-TMI-7382, 1986.