VIP(Vessel Investigation Project)プロジェクト
TMI-2の下部プレナムの調査とデブリ取り出しが進むにつれ、溶融デブリにより下部ヘッド内面や計装管などが損傷していることが明らかになった。しかし、下部ヘッドが大きく破損し、デブリが圧力容器の外に流出する事象は発生していなかった。TMI-2事故では、下部ヘッドからデブリが放出されるまでどの程度のマージンがあったのか、事故事象が進んで下部ヘッドが破損する場合に、その破損モードはどのようなものか、は、国際的に注目された。そこで、OECD/NEA協定に基づいて、1988年に、米国NRCが主導し10か国と共同して、TMI-2下部ヘッドサンプルの採集と分を行う国際研究協力協定が締結された(VIPプロジェクト(Vessel Investigation Project))[1]。VIPプロジェクトの目的は、以下の3項目とされた。
- TMI-2下部プレナムから採集したサンプルの特性調査
- 化学的、熱的な下部ヘッド損傷程度の評価
- 構造強度マージンの評価
これを実施する3個のタスク(下部ヘッドサンプルの採集、サンプルの分析、分析結果に基づく解析)が行われた。
VIPプロジェクト立案までの経緯
1979年3月にTMI-2事故が発生した。事故直後は、炉心損傷は限定的との推定が主流であったが、1982年7月に、原子炉圧力容器内部がCCTVカメラで調査され、炉心上部は空洞となっており、デブリが崩落・堆積していることが明らかになった[2]。その後のボーリング調査[3]や下部プレナム調査[4]により、事故後の圧力容器内の状態(最終形態)が推定された(図1)[5]。下部プレナムには、約19トンのデブリが移行したと推定された。
圧力容器内の調査や、クリーンアップ作業の技術的なサポートは、GEND体制で行われた(GEND: GPU社、EPRI、NRC、DOE)[6]。その中で、事故進展解析については、DOEが主導して、AEP(Accident Evaluation Program)において進められ、炉心上部の損傷理解、炉心加熱と溶融プール形成メカニズムの検討、溶融デブリの下部プレナムへの移行メカニズムの検討、それらの過程でのFP放出・移行の評価、が行われた。他方、国際協力としては、OECD/NEA/CSNIにおいて、AEPが進められ、複数国・機関が参加した。TMI-2の事故解析や内部調査が進捗するにつれて、下部プレナムに移行したデブリのふるまい、及び、下部ヘッドの損傷可能性が重要課題として顕在化した。TMI-2事故は原子炉圧力容器内で終息したが、圧力容器破損までのマージン評価が重要となった。
これらを受けて、1987年10月に、米国NRCが、OECD/NEA/CSNIの枠組みにおける国際共同プロジェクト提案を行った。このプロジェクトには、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、日本、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国が参加することとなった。対象となるサンプルとして、ヘッド鋼材、貫通部、堆積デブリ(ヘッドと接触)などを採集し、各国・機関が分担して、分析・解析を行うこととなった。下部プレナムからデブリ取り出し後に、クリーアップ工程を30日間中断して、サンプル採集が行われることになった[1]。
Quick Look調査
ボーリング調査
下部プレナム調査
GEND体制について
サンプル採集
サンプル採集方法の開発
MPR社が、サンプル採集技術の開発を担当した。そこでは、30日のサンプリング期間でできるだけ多くのサンプルを回収すること、原子炉圧力容器を脆弱化したり、破損したりしないこと、圧力容器上部に設置されていた遮蔽付き作業プラットフォーム(SWP:Shielded Working Platform)から、長尺ツールを用いたマニュアル操作で作業できること、が設計条件となった。検討の結果、アーク切断と電極の水冷を基本と下、Metal Disintegration Machining (MDM)法が採用されることとなった[7]。
サンプル採集位置の決定
サンプル採集装置の設計・製作と並行して、サンプル採集場所の検討が進められた。候補として、以下が選定された。
- 炉心からの溶融デブリが崩落した直下
- 下部プレナムでのデブリ堆積厚さが最も厚かった部分の真下
- 下部プレナム北側で、下部プレナムデブリの堆積壁が見えていたあたり(#デブリ広がりの先端)
- デブリが存在していない領域
- インコアモニターの貫通部周辺
MDM装置を使ったはじめてのサンプリングのため、事前にサンプル個数や重量を正確に見積もることができなかった。しかし、30日間で8~20個くらいのサンプル採集を目標として、結局、ヘッド内面サンプル15個、ノズルサンプル14個、インコアモニター案内管サンプル2個(これは、圧力容器の外から採集)の回収に成功した[1]。図2に、サンプル採集位置を示す[8]。
サンプル分析結果の概要
サンプル分析結果の詳細は別項目()で記載する[9]。採集サンプルは、米国INELに輸送され、外観観察、除染、切断・小分けが行われた後で、8つの機関に送付された(ベルギー、イタリア、フィンランド、フランス、ドイツ、スペイン、英国、米国)。各機関が手分けして、金属組織観察や機械特性分析、さらに、応力、クリープ、シャルピー打撃、硬さ、写真、化学組成分析などが行われた。分析データに基づいて、事故時の機械的特性、最高温度の評価が行われた。
Vessel内面サンプルの分析
図3に、Vesselサンプルの分析結果から推定された、ヘッド内面の事故時ホットスポットの推定結果を示す[1]。ホットスポットは、ノズル損傷が最も大きかった部位と一致した。サンプルの微細組織の分析結果から、ヘッド内面の事故時最高温度は1075~1100℃と評価された。また、表面から約0.45cmの深さでは、それより約100℃低いと評価された。ホットスポット以外では、727℃(フェライト/オーステナイト鋼の相変態温度)をこえないと推定された。事故時の冷却速度については、10~100℃/分と評価され、ホットスポットでの最高温度保持時間は30分程度と推定された。
機械特性試験では、 600~700℃の条件でクリープ試験が行われ、事故時に727℃を超えたサンプルと超えなかったサンプルであまり差がないことが明らかになった。ひっぱり応力試験では、727℃を超えたサンプルでは結晶硬化が発生した。ホットスポットから遠いサンプルは、より急冷されたことが逆推定された。ノズル近辺から回収されたサンプルには、裂け、クラックが観測されたが、基盤鋼材までは到達しておらず、表面のSSライナー内にとどまっていた。このことから、機械的な破損は、SS鋼と低炭素鋼の熱膨張の差で発生したと推定された。クラック内に、Zr-Ag-Cd-In系の物質が検出された。このことから、デブリ本体が崩落する前に、金属デブリがやってきていたと推定された。
ノズルサンプルの分析
・14個のノズルと2個の案内管サンプルを切り出し(なるべくヘッド内面に近いところ)
・ホットスポット近くの4個のノズルはほぼ溶融・固着してサンプリングできず
・微細写真、マクロ写真、光学顕微鏡、SEM、ガンマ線、断面での溶融深さ調査、硬度
・ノズルの損傷程度の調査、デブリの侵入程度の調査
・INEL,ANLさらにCEAで分析
・ノズルとデブリの接触深さは120~270mm
・最初のデブリがヘッド内面近くで凝固、その上の溶融デブリがノズルを破損して侵入の痕跡
・事故時の温度は1415~1000℃と推定、インコネル材の融点を超えた可能性(ヘッド面からの距離:140~64mm)
・ノズル内へのデブリ侵入程度は、温度、デブリ組成、粘性に依存
・ノズル表面にZrとAg-Cd析出(デブリ本体より先に、制御材が移行してきた可能性、その物量評価は困難)
〇Companionサンプルの分析(同伴デブリ)
・下部ヘッドに付着していたハードデブリサンプル
・組成分析、崩壊熱推定
・下部プレナムハードデブリは、きわめて固いことが判明(デブリ取り出し過程で)
・しかし、大半は固着していなかった
・サンプルの本来位置は必ずしも明確でない。およその位置のみ把握
・主要成分は(U,Zr)O2、副成分は<1wt%(Fe,Ni,Cr)、Ag-In-Cdは少ない(<0.5wt%)
・平均傘密度8.4±0.6g/cc、平均ボイド率18±11%
・みかけはほぼ均質
・事故時に2600℃程度まで昇温していたと推定(炉心部)、下部プレナム到達時の温度は不明
・下部プレナム到達時に溶融していたと推定、さらに、ある程度徐冷の痕跡
・中揮発性、低揮発性FP残留、高揮発性FPはほぼ喪失
・移行時のデブリ崩壊熱は0.13±20% W/gと推定、スクラム後600分
・下部プレナムデブリの崩壊熱総量は2.47MW/19トンあたり
〇RPV破損までのマージン解析
・検討された破損モードは、配管破損、配管脱落、局所的なヘッド破損、ヘッド全体的なクリープ破損
・解析に使ったデータは、(a)ノズルの分析データ、(b)付着デブリの分析データ、(c)ヘッド鋼材の分析データ
・RPV破損メカニズムの推定
・解析の結果、配管破損と配管脱落のモードは可能性低いとして排除された
・セラミックデブリはヘッド内面から下にはほとんど侵入しない解析結果(ex-vesselでの配管破損は可能性低い)
・溶接部はあまり損傷しない(RPV内が加圧された条件でも)、配管脱落は可能性低い
・デブリジェット衝突の計算により、溶融デブリが下部プレナムに移動する際の破砕量は無視できる。
・ホットスポットの温度の大きさと持続時間は、デブリ流が直接当たったことによって引き起こされたとは考えられない解析結果。むしろ、堆積デブリからの中期的な伝熱による
・ヘッドの大規模破損の可能性について解析、クリープ破損
・デブリ崩落・ドライアウト後2時間程度で発生する可能性(RPV内高圧条件)
・ヘッドの局所破損について、ホットスポット
・1100℃、30分では起こらない
・それ以降の破損可能性については、崩落したデブリ重量に大きく依存
・デブリは徐冷と推定、しかし、崩落後2時間以内に、ヘッドは十分に冷却される状態になった
・不確かさ、デブリの冷却と破損モードの相関(クリープ破損、局所破損)
下部ヘッドサンプルの分析結果
下部プレナムルースデブリの分析結果
下部プレナムハードデブリの分析結果
まとめ
・局所ホットスポット(0.8~1m径)、最高温度1100℃、30分保持、13.7cm厚さの圧力容器のうち、表面0.45cm入ると温度は100℃低下、ホットスポット以外では727℃以下
・デブリは北東から南東領域で広がり開始、ホットスポットに向けて移動
・配管破損までのマージンは大きい。解析では破損に至らない
・局所ホットスポットの形成により、クリープ破損が起こる可能性、TMI-2条件では起こらない
・ヒットスポット形成時に、約300分間加圧継続されると、RPVのクリープ破損が起きた可能性
・金属とセラミックメルトからなるデブリと下部ヘッドが断熱層で分離されていた可能性(直接接触なし)、ホットスポットあたりでは断熱層の厚さが十分でなかった可能性
参考文献
[1] A.M. Rubin, Overview and Organization of Three Mile Island Unit 2 Vessel Investigation Project, 1994.
[2]
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
[8] Removal of Test Specimens from the TMI-2 Reactor Vessel Bottom Head, Phase 3 Project Summary, MPR-1195, 1990.
[9]