TMI-2での内部調査、デブリ取り出しの概要(簡略版)
TMI-2事故で発生したデブリの最終処分に向けて、IAEAで研究プログラムT13015が提示された。米国アイダホ国立研究所(INL)は、それに対し、TMI-2事故でのRPV内部調査とデブリ取り出しの経緯についてレポートをとりまとめ報告した[1]。RPV内部調査とデブリ取り出しの経緯がわかりやすく時系列でまとめられている。切り株燃料集合体取り出し以降については、GENDレポートでの報告が少なくなっており、このレポートでの記述が参考になる。
TMI-2デブリ貯蔵の現状
TMI-2事故で発生したデブリは、様々な長尺ツールを用いたPick-and-Place方式とエアリフトやダイアフラムポンプを用いた真空吸引システムにより、3タイプの収納缶に回収された。また、炉心支持構造物はプラズマアークトーチ(ACES)やコアボーリングマシン(CBM)を用いて解体・撤去された。収納缶は、それ以降の輸送、中間貯蔵(湿式および乾式)においても重要な役割を果たした。デブリ輸送や貯蔵中の水素発生の対策として、収納缶には再結合触媒とベントシステムが取り付けられた。合計で344体(Fuel収納缶268体、Filter収納缶62体、Knockout収納缶12体)が7体ずつ郊外輸送キャスクに装荷され、INLサイトに輸送されてプール内に貯蔵された。収納缶を乾式貯蔵に移行する決定がなされ、加熱条件での真空吸引が行われた。処理された収納缶12体ごとに、乾式貯蔵キャニスターに装荷され、コンクリートで遮蔽された乾式貯蔵エリアに移送された。現在、最終処分に向けた検討が継続している。
最終処分に向けた現状案では、乾式貯蔵キャニスターから個々のデブリ収納缶を取り出し、最終処分に適した標準的な収納缶オーバーパックに詰め替える方式が検討されている。オプションとして、デブリの減容化やガラス固化なども検討されている。
RPV内の状態調査
事故直後に事故シナリオとRPV内の損傷状態が推定され[2]、それに基づいて、破損燃料の取り出し方法の検討が開始された。当時は、炉心損傷は比較的軽微で、燃料集合体の形状は炉心中央上部以外では、ほぼ維持されていると推定されていた。
炉心からの燃料物質の取り出しを進めるために、圧力容器ヘッドの制御棒駆動システムから、RPV内にビデオを挿入する内部調査が計画、実施された[3]。その結果、圧力容器上部では燃料集合体が大きく破損・崩落していることが明らかになり、デブリ取り出し方法やツールの検討、さらなる内部調査の計画がDOE予算により進められた。デブリの再臨界可能性について解析が行われ、十分な安全裕度を持つために、燃料取り出し中の冷却水中のホウ酸濃度>4350ppmという基準が定められた。
事故進展の観点では、事故時の熱水力的なふるまい、炉心物質の相互作用とデブリふるまい、圧力容器破損モード、FP放出と輸送、などが重視され、内部調査やサンプル分析に基づく評価が行われた。
デブリの取り扱いや貯蔵の観点では、デブリの物理化学的な安定性、汚染の広がり、自然発火性、臨界性が課題とされ、安全評価が行われた。
長期貯蔵や最終処分に向けては、滲出性試験が行われている。基礎知見として、デブリの状態調査についての知見の整理が必要である。
デブリ特性評価の概要
- 原子炉圧力容器ヘッドを取り外す前に、ビデオカメラによる炉心上部とヘッド内部の調査[3]と、リードスクリュー開口部からアクセス可能な範囲(炉心中央、炉心中間)での上部ルースデブリのサンプリングと分析が行われた[4]。
- 圧力容器ヘッドの撤去後に、超音波探査プローブによる上部空洞の調査が行われた[5]。さらに、様々なサンプルが回収され(ぶら下がり燃料集合体[6]、炉心周辺の燃料棒[7]、など)、溶融凝固層のボーリング調査[8]と回収されたサンプルの分析[9]が行われた[8]。
- 一次冷却系のサンプルとしては、プレナムカバーや冷却水浄化系フィルターの付着デブリの分析、また、リードスクリュー[10]や案内管[11]の付着デブリの分析が行われた。
- 上部ルースデブリ、溶融凝固層、残留燃料棒や制御棒、リードスクリュー付着物、などについては、化学・放射化学分析が行われた。
- これらのサンプル中の主要成分の分布、微細構造、相状態については、金相顕微鏡、走査型電子顕微鏡、などによる分析が行われた。
- デブリの結晶構造については、X線回折、中性子線回折分析が行われた。
- 微細組織の組成については、EDX、WDX分析が行われた。
RPV内部のビデオカメラ調査
Quick Look調査
- 1982年7~8月に、Quick Look調査が行われた[3]。図1に、調査の模式図を示す[12]。小型のCCTVが、制御棒リードスクリューを撤去した後の開口部3カ所(炉心中央、炉心中間、炉心周辺)から挿入された。
- 炉心上部に約1.2m深さの空洞が形成され、その下にデブリベッドが堆積していた。SS棒による探針調査が行われ、約30cm侵入すると、ハードストップがあることが確認された。
- 上部格子板には、燃料集合体の上部や上部端栓が残留していた。冷却水の透明度が不十分で、上部空洞周辺のデブリや燃料の残留状態は十分に解明できなかった。
下部プレナムの調査
- 1985年2月以降、数回にわたって、コアフォーマ領域と圧力容器槽の間の円環状の隙間を利用して、下部プレナム周辺領域のビデオ調査とデブリサンプリングが行われた[13]。炉心下部支持構造(LCSA)の損傷はほとんど見られないが、約10~20トンのデブリが堆積していることが明らかになった。
炉心上部、炉心周辺の調査
- Quick Look調査後に、上部プレナム構造物や上部支持格子版の調査(Quick Scan)が行われた。当初は水中カメラで、冷却水水位低下後には大気中で調査が行われ、構造物の損傷状態とデブリの堆積状態が調査された。
- デブリ取り出し開始後に、炉心周辺に残留していた燃料集合体が撤去されたことで、バッフル板の損傷状態が観測できるようになった。
ボーリング調査、LCSA調査
- 1986年7月のボーリング調査で形成された開口部を利用して、炉心下部の成層化状態と下部プレナムの状態が調査された[8]。
- LCSAの5層構造内でのデブリ堆積状態の調査が行われた。
参考:Quick Look調査
参考:下部プレナム調査
参考:ボーリング調査
上部ルースデブリの回収と分析
- 1983年9~10月と1984年5月に、クラムシェル型と探査棒型のサンプリングツールを用いて、炉心中央(H8位置)と炉心中間部(E9位置)において、上部ルースデブリのサンプリングが行われた(合計11カ所)。図2に、サンプリング方法の模式図を、図3に、サンプル回収位置を、それぞれ示す[4]。図4に、回収されたサンプルの様子を示す[1]。
- 合計で1.37kgのサンプルが回収され、INELで分析が行われた[4]。
- デブリ取り出しツールの設計に向けて、デブリの平均密度と粒度分布が測定された。また、自然発火性と磁性についても分析が行われた。
- FPソースタームについては、放射化学分析が行われ、高揮発性、中揮発性、低揮発性に分けて、FP保持率が測定された。
- 炉心物質の組成については、ICP発光分析が行われ、Ag,Al,B,Cd,Cr,Cu,Fe,Gd,In,Mn,Mo,Ni,Nb,Si,Sn,U,Zrの存在割合が測定された。FPのうち、Teについての測定も行われた。
- X線回折により結晶構造が、金相顕微鏡と走査型電子顕微鏡により、微細組織が調査された。
- デブリサンプルの溶解手法についての検討が行われ、硝酸やフッ酸への溶解性調査や、不溶解残差のアルカリ溶融処理が行われた。
- デブリの酸化度についてはオージェ分光分析により測定された。
- これらの分析により、上部ルースデブリの主成分は溶融凝固したUO2とZrO2の混合物であり、一部にUO2の溶融凝固物が含まれていることがわかった。これらのことから、事故時のピーク温度は約210K以上(局所的に3120K以上)と評価された。この他に、構造材の金属成分あるいは酸化物成分が含まれていた。
- デブリ粒子のサイズは、大半が約30μmから6mmの範囲であった。粒子タイプはおよそ5群に類型化され、破損燃料ペレット、破損被覆管、溶融凝固したUとZrの混合酸化物、金属粒子、燃料成分と構造材の混合酸化物に分類された。図5に、典型的なデブリ粒子の写真を示す[1]。
- 一部のデブリサンプルを用いて、デブリ取り出し作業中にデブリ破砕が発生した場合のCs放出試験が行われた[14]。また、デブリの自然発火性に関する徹底的な検討が行われた[4]。これらの結果から、デブリ粒子が破砕されても、ほとんど追加のCs放出が起こらないこと、デブリの自然発火可能性は極めて低いこと、が示された。
- さらに、H8とB8リードスクリューと付着デブリの分析が行われ[10]、事故時のプレナム構造物の温度評価、付着デブリ中のFP量評価、付着デブリの自然発火性の確認などが行われた。
- なお、これらの調査を実施した際の原子炉建屋内の線量は、圧力容器内が水没して遮蔽されていたため、建屋エントリーレベルでは4.3~1.5 mSv/h、RPVトップレベルでは0.6mSv/hであった。図6に、建屋エントリー開始前と開始後の線量を比較して示す[1]。なお、この時点では、建屋地階に高線量の滞留水が存在していた。
参考:上部ルースデブリの分析
参考:デブリの自然発火性
参考:リードスクリューサンプルの分析
Core Topography調査
- 1983年〇月に、上部空洞の形状とデブリ堆積や燃料集合体の残留状態を調査するために、超音波プローブを用いたCore Topography調査が行われた[5]。
- 調査結果に基づいて、上部空洞周辺の3Dマップが描図され(図7)、アクリル製の模型が製作された(図8)[5]。これらは、初期のデブリ取り出しの工法と手順を決めるために用いられた。
圧力容器ヘッドと上部プレナム構造物の撤去
参考文献
[1] P.L. Winston, Management of the Three Mile Island Unit 2 Accident Corium and Severely Damaged Fuel Debris, Contribution to International Atomic Energy Agency Coordinated Research Proposal T13015, INL/EXT-21-61607, rev. 2, 2022.
[2] D.W. Croucher, Three Mile Island Unit-2 Core Status Summary: A Basis for Tool Development for Reactor Disassembly and Defueling, GEND-007, 1981.
[3] Quick Look Inspection: Report on the Insertion of a Camera into the TMI-2 Reactor vessel through a Leadscrew Opening, GEND-030, vol. 1, 1983.
[4] D.W. Akers et al., TMI-2 Core CDebris Grab Samples -Examination and Analysis, GEND-INF-075-PT1 and PT2, 1986.
[5] L.S. Beller and H.L. Brown, Design and Operation of the Core Topography Data Acquisition System for TMI-2, GEND-INF-012, 1984.
[6] S.M. Jensen et al., Examination of the TMI-2 Core Distinct Components, GEND-INF-082, 1987.
[7] D.W. Alers et al., TMI-2 Standing Fuel Rod Segments Preliminary Examination Report, GEND-INF-087, 1987.
[8] E.L. Tolman et al., TMI-2 Core Bore Acquisition Summary Report, EGG-TMI-7385, rev. 1, 1987.
[9] D.W. Akers et al., TMI-2 Core Bore Examination, GEND-INF-092, vol. 1 and vol. 2, 1990.
[10] K. Vinjamuri et al., Examination of H8 and B8 Leadscrews from Three Mile Island Unit 2 (TMI-2), GEND-INF-052, 1985.
[11] M.P. Failey et al., Examination of the Leadscrew Support Tube from Three Mile Island Reactor Unit 2, GEND-INF-067, 1986.
[12] W.C. Holton et al., The Cleanup of Three Mile Island Unit 2, A Technical History: 1979 to 1990, EPRI-NP-6931, 1990.
[13] J.P. Adams et al., TMI-2 Lower Plenum Video Data Summary, EGG-TMI-7429, 1987.
[14]