Nucl.Technol.誌のTMI-2特集号の概要
TMI-2の内部調査とサンプル分析で得られた成果は、Nucl. Technol.誌の1989年特別号でまとめられている。本項目では、その概要を紹介する。
規制、安全評価
Regulatory Impact of the Three Mile Island Unit 2 Accident
J.F. Aheame, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 27-33.
TMI-2事故により、米国の原子力規制委員会(NRC)、産業界、電力会社、政府は、大きな影響を受けた。NRCの受けた影響は、産業界と規制機関の関係を再構築することであった。TMI-2事故以前は、技術的な専門性に基づく良好な情報交換であったが、事故以降は、むしろ対立する関係になり、距離を置き、法律によって支配される関係となった。
インベントリ評価
Three Mile Island Unit 2 Fission Product Inventory Estimate
D.W. Akers et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 205-213.
1988年に実施された、事故後のFP核種のインベントリと分布についての検討結果がとりまとめられた。ベストエスティメートインベントリが、Kr-85、Cs-137、I-129、Sb-125、Sr-90、Ru-106、Ce-144について評価された。このインベントリ評価では、原子炉建屋内での滞留や、環境放出予測も含められた。核種の捕捉率は、Ce-144が105%、Sr-90が90%、Cs-137が95%、Kr-85が91%となった。放射性I-129の捕捉率はCs-137と同程度と評価された。Cs,I,および希ガスの滞留の多くは、原子炉建屋内であり、そのほか核種についてはRPV内であった。
Core Materials Inventory and Behavior
D.W. Akers and R.K. McCardell, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 214-223.
TMI-2の圧力容器(RPV)内サンプルの分析結果と、そこから予想される事故時のふるまいをとりまとめた。TMI-2のCore Material Examination計画に基づいて[1]、RPV内から採集されたすべてのサンプルが分析された(上部プレナムのリードスクリューサンプルから、事故時に下部プレナムに移行した溶融凝固デブリサンプルまで)。これらの分析結果により、炉心物質の>99%はRPV内に保持されていたが、RPV内の配置や体積は大きく変化していたことが確認された。また、分析結果は、金属物質と酸化物との熱力学的な特性におよそ基づいて、物質再分布が起きていたことを示した。
サンプル分析
Examination of Three Mile Island Unit 2 Core Materials at CEA
J. Duco and M. Trotabas, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 104-119.
OECD/NEA/CSNIのTMI-2事故タスクグループの活動の一環として、CEAでは5個のサンプルを分析した(炉心外周部L1から採集された破損燃料棒、C7位置の上部格子からぶらさがっていた破損燃料棒、炉心中央の溶融凝固層の3サンプル)。
分析手法は、外観観察、浸出法での密度測定、金相観察、SEM/EDX、XRD、熱重量分析、γ線分光分析、中性子活性化分析であった。分析結果から、事故時の局所的な最高温度の評価、C7位置での炉心物質間の反応進展メカニズム、FPと制御材のふるまい推定が行われた。微量なサンプルの分析結果ではあったが、他の機関の分析結果と合わせることで、包括的なデータベースとして整備され、事故シナリオの理解に活用された。
Metallurgical Examination of Bore Samples from the Three Mile Island Unit 2 Reactor Core
P.D. Bottomley and M. Coquerelle, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 120-136.
TMI-2のAccident Evaluation Programの一環として、溶融凝固層のボーリングサンプルの分析が行われた。サンプルは、燃料棒、制御棒、溶融デブリ、粉末状のデブリ、を含んでいた。
SEM/EDXとEPMAにより、サンプルの表面と断面の微細組織が分析された。γ線分光とFP放出試験も実施された。
G12ボーリングサンプルから得られた溶融凝固物中には、ほぼポーラスな、UとZrの二酸化物を主成分とするセラミック相を主成分とし、微小なUO2リッチとZrO2リッチの共晶組織、および、構造材の酸化物が観察された。サンプル内で、空孔と構造材酸化物の分布は変化していたが、UO2とZrO2の共晶組織は共通していた。
FP分析では、Cs-137、Ru-106、Eu-154などが、照射後燃料より小さい割合で検出された。揮発性のI-129は検出されなかった。それ以外の核種は、デブリ中にある程度保持されていた。
Zr(O)-UO2系の共晶反応、および、ZrO2-UO2系の共晶反応については(事故時の酸素ポテンシャルに依存すると考えられる)、状態図から、それぞれの共晶溶融温度が2173 Kと2873 Kであえい、事故時にこの温度まで到達していたことが示唆された。また、完全に溶融した領域については、UO2融点の3073 Kまで到達していたと示唆された。一方で、完全に溶融していない凝集物相(agglomerate)については、ピーク温度が約1673K程度、あるいはSS構造材の融点程度であると示唆された。残留していた切り株状の燃料棒については、ほとんど形状変化は見られず、温度上昇がほとんどなかったと推定された。
Analysis of Crystalline Phases in Core Bore Materials from Three Mile Island Unit 2
A. Brown et al., Nucl. Technol. 87(1) (1989) 137-145.
溶融凝固層、下部クラスト、下部プレナムデブリの3個のサンプルが、XRDで分析された。さらに、γ線分光分析とPIXE(Particle-Induced X-ray Emission)でも分析が行われた。
分析結果から、主要相として、(a) UO2リッチの非均質な溶融凝固相(おそらく、ZrO2を含有し、酸化度は若干superstoichiometric)、(b) ZrO2リッチのBaddeleyite相(1200K以下での安定相)とtetragonal-ZrO2相(1200~1600Kの安定相)、(c) Ni,Cr,FeのSpinel相[(Ni,Fe)(Fe,Cr)2O4]が同定された。格子定数測定からは、ZrO2相中にUO2が固溶していることと、Spinel相中のCr,Fe部位にAlが混入していることが推定された。PIXEの測定値からは、Spinel中のNi含有率が小さいことが示された。
これらの相のサンプル中の分布が、XRDの強度分布から評価され、UO2-ZrO2状態図からの推定と比較された。下部プレナムから採集されたサンプルは、明らかに急冷過程で形成されていた。下部クラストサンプルでは、状態図中の平衡相が同定され、徐冷により形成されたと推定された。溶融凝固層は、中間的な傾向をもっており、一面で冷却され、多面で加熱されたような状態が観測された。
事故シナリオ、ベンチマーク解析
A Scenario of the Three Mile Island Unit 2 Accident
J.M. Broughton et al., , Nucl. Technol., 87(1) (1989) 34-53.
TMI-2のAccident Evaluation Program [2]の目的は、TMI-2事故の包括的で矛盾のないTMI-2事故の理解であった。このプログラムでとりまとめられたTMI-2事故シナリオを示す。(a) 炉心損傷の進展により、一部溶融物を含む堆積層が形成され、(b) この堆積層内での温度上昇により、溶融デブリプールが形成され、(c) 溶融デブリプールを支えていたクラスト層の破損により、溶融デブリの一部(15~20トン)がUCSAとLCSAに侵入し、さらに下部プレナムに移行し、(d) 下部プレナムでの溶融デブリと冷却水および構造物との相互作用により、デブリが凝固した。事故進展中のFP放出傾向についてもとりまとめられた。
The Three Mile Island Analysis Exercise
D.F. Giessing, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 298-301.
TMI-2事故は、当時、世界で唯一の実機規模でのシビアアクシデントの検証の場であった。事故を契機として、世界各国で、事故の理解の精緻化や解析ツール開発が行われた。事故進展を理解するためのデータは、事故のリカバリーとクリーンアップの過程で採集された。同時に、シビアアクシデント解析コードについて、その解析結果を実機データと比較することで開発がすすめられた(ベンチマーク解析)[3]。1987年10月から開始されたOECD/NEA/CSNIでの解析プロジェクトは、1990年初旬までにおよそ完了した。9か国を代表する13機関によって、ベンチマーク解析が行われた。この経験により、シビアアクシデント解析手法に関する共通認識が醸成された。
Summary of the Three Mile Island Unit 2 Analysis Exercise
D.W. Golden et al., , Nucl. Technol. 87(1) (1989) 326-333.
OECD/NEA/CSNIでのTMI-2事故解析プロジェクト(米国DOEとの共同プロジェクトによるベンチマーク解析)の概要が紹介された。参加機関はそれぞれの有する最新のシビアアクシデント解析コードを用いて、TMI-2事故解析を実施した。定性的には解析結果はほぼ類似した傾向を示したが、定量的には大きく異なった結果が得られた。シビアアクシデント解析コードの開発継続の必要性が明らかになった。
デブリふるまい解析
Thermal Interaction of Core Melt Debris with Three Mile Island Unit 2 Vessel Components
A.W. Cronenberg and E.L. Tolman, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 273-282.
RPV内の構造物と溶融デブリとの熱的な相互作用の解析結果は有用である。構造物の損傷状態の観測結果と、それを引き起こした物理現象の理解についての検討結果がまとめられた。特に、炉心周辺を取り囲んでいるバッフルプレート、コアフォーマプレート、下部ヘッドのインコアモニター貫通部、下部ヘッドの熱損傷解析が行われた。解析結果から、これらの構造物の損傷状態の特徴の違いは、主に、溶融デブリとの接触時間と構造物の熱容量と冷却水との接触に影響されることが示された。VIP計画[4]によるサンプル分析データは、本研究による解析結果の精緻化に貢献すると期待される。
Thermal Behavior of Molten Corium during the Three Mile Island Unit 2 Core Relocation Event
J.L. Anderson and J.J. Sienicki, , Nucl. Technol. 87(1) (1989) 283-293.
TMI-2の事故進展中に、炉心部に溶融デブリプールと周辺クラスト層が形成された。スクラム後224分に、クラスト層が破損し、約19トンの溶融デブリが、RPV東側の燃料集合体とその外側のコアフォーマ領域を通過して、下部プレナムに移行した。ここでは、加熱状態と溶融デブリとUCSA構造物の急激な相互作用の解析結果がまとめられている。
FPふるまい評価
Consideration of Cesium and Iodine Chemistry and Transport Behavior during the Three Mile Island Unit 2 Accident
A.W. Cronenberg and S. Langer, , Nucl. Technol. 87(1) (1989) 234-242.
TMI-2事故の解析から、プラント外へのCs-137とI-129の放出は、ごくわずかであったことが解明されている(数10Ci以下)。このような限定的な放出となった要因となる物理化学的なメカニズムを調査するために、TMI-2事故途中でのCsとIの化学形と移行の詳細解析が行われた。解析結果から、CsとIの燃料からの放出化学形は、高温での水蒸気/水素との反応で形成されるCsIとCsOHのガス相であることが示された。さらに、CsOHについては、上部プレナムやホットレグ配管での凝集と化学吸着が起こると推定された。CsOHが除かれると、ガス相中での水蒸気、CsI、CsOH、HIなどの平衡状態が変化し、CsIが相対的に不安定化してCsOHに変化し、あわせてHIが形成されると推定された。同様に、CsIがホウ酸水と反応すると、CsIがホウ酸化セシウムとHIに変化すると推定された。これらにより、CsI、HI、CsOHの混合物が、RPVから一次冷却水系への移行におけるCsとIの化学形態と推定された。これらは水溶性であり、冷却水中にCsやIが保持される要因となったと推定された。
Fission Product Partitioning in Core Materials
D.W. Akers and R.K. McCardell, Nucl. Technol. 87(1) (1989) 264-272.
RPV内での燃料物質からのFP分離と放出の傾向と、そこから予想されるFP化学についてとりまとめられた。TMI-2のCore Material Examination計画に基づいて、RPV内から採集されたすべてのサンプルが分析された(上部プレナムのリードスクリューサンプルから、事故時に下部プレナムに移行した溶融凝固デブリサンプルまで)。これらの分析結果により、FPふるまいの相違は、FP核種の揮発性と化学的な特性に依存することが確認された。Ce-144のような低揮発性FPは、燃料物質のマトリックス中にほぼ保持され、一方で、Sb-125のような酸化されにくい中揮発性FPは、金属構造材との同伴性が確認された。高揮発性FPのCs-137とI-129は、多くが溶融凝固デブリから放出されたが、放出割合は単純な予測より小さかった。これらの高揮発性FPは、デブリの結晶粒界に存在していた構造材酸化物の第2相や空孔内に一部が保持されていた。
参考文献
[1] Core Material Examination計画
[2] Accident Evaluation Program
[3] CSNIのベンチマーク解析
[4] VIP計画