燃料デブリふるまいの要素現象
燃料デブリふるまいの要素現象
金属デブリふるまいのメカニズムについて
ここでは、主に制御棒由来の鋼材やB4C、および、燃料棒やチャンネルボックス由来の未酸化のZrを主成分とする、『金属デブリ』のふるまいの化学反応の詳細を、参考資料としてまとめる。
参考1:制御棒の共晶溶融
制御棒の共晶溶融反応の概要
1Fと同型の沸騰水型軽水炉(BWR: Boiling Water Reactor)における燃料集合体の形状を、図1[参考文献2]に示す。直径約1cmΦ、長さ約4mの燃料棒が、ジルカロイ製のチャンネルボックスといわれるケースに囲まれて、1体の燃料集合体を形成している。4個の燃料集合体の間に、制御棒を束ね十字型の断面を構成する制御棒ブレードが装荷されている。スクラム時には、制御棒ブレードが炉心下から炉心内に全挿入される。制御棒の内部には、顆粒状のB4Cが中性子吸収剤として充填されている。制御棒の被覆管およびブレード材はステンレス鋼である。1Fでは、B4CとSS(Feで代表)の重量比は、およそ0.82t:17.7t(表1[参考文献1])であり、B4C濃度に換算すると4.4wt%に相当する。さらに、B:Feモル比に換算すると、B:Fe = 約16:84に相当する。
BWRでの冷却水喪失型(LOCA: Loss of Coolant Accident)のシビアアクシデントでは、冷却水が失われ、炉心・燃料温度が上昇すると、約1200℃で、制御棒ブレード内に配置された制御棒内で、中性子吸収剤のB4Cと制御棒被覆管のステンレス鋼(SS: Stainless Steel)の間で共晶溶融が発生する。
制御棒の共晶溶融における化学反応メカニズムは、制御棒被覆管と中性子吸収剤のそれぞれの主成分であるFeとBの間の相状態を示す、Fe-B二元系状態図(図2[参考文献3])を用いて説明することができる。FeとBが共存する系では、その組成によって、金属間化合物(Fe2B、FeB)が形成され、これらとFeあるいはBの間で、それらの融点より低い温度で液相が出現する。これを共晶溶融と言い、図中に赤矢印で共晶点を示す。図2から、共晶点の温度と組成では、静置系においてFe-B合金はすべて液相に変態することがわかる。制御棒の共晶溶融は、これらのうちFeに近い方の共晶点(図中左側、B濃度:16.6mol%、共晶温度:1436K(1163℃))での反応に相当する。
静置系と制御棒形状での共晶溶融の反応進展の違い
1F炉心平均でのB:Feモル比16:84(青矢印)は、ほぼ共晶組成に相当している。したがって、静置系では、制御棒は、約1200℃でほぼ均質に溶融し、それが凝固すると均質な合金を形成すると考えられる。ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT: Karlsruhe Institute of Technology)が実施した静置系での制御棒溶融試験では、4wt%のB添加でSSがほぼ均質に溶融していることが確認されている。(図3[参考文献4])
これに対し、実際の制御棒は全長約4m、直径7~8mmΦの細長い棒状であり、さらに、制御棒ブレードという断面十字型のケース内に装荷されているため(図1)、形成される液相は次々に溶落すると考えられる。このため、液相化の進展にともなって、軸方向に組成の非均質化が発生する。Fe-B二元系状態図からは、Fe中にわずかにBが溶融しただけで液相が出現(緑矢印)すると推定される。このFeリッチな液相が軸方向に先行溶落すると、制御棒の上部はB4Cリッチな物質が残留すると考えられる。事故が進んで、さらに温度上昇すると、制御棒の上部に残留した物質も溶融し、あるいは破損して機械的に下方へ崩落すると考えられる。
1Fのような国内のBWRでは、中性子吸収剤として顆粒状のB4Cが用いられている。したがって、実際の制御棒の破損溶融では、一部のB4CはSS液相に溶融して先行溶落するが、相当量のB4Cは顆粒状を維持し、その周囲をSS液相に覆われたのちに、粒子状で崩落すると推定される。