TMI-2での事故進展に伴うデブリ移行挙動

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 TMI-2事故後の炉心形状、事故時の計測データ、種々のメカニズム解析に基づく炉心物質移行の時系列の推定結果は、参考文献[1-5]にとりまとめられている。

 図1に、TMI-2事故でのスクラム後約4時間のRPV内圧力変化と主なイベントを示す。TMI-2事故では、1979年3月28日午前4時に、給水流量喪失事象が発生し、タービンがトリップし原子炉が自動停止した。その後、加圧器逃し弁の開固着、高圧注水ポンプの手動停止などにより、スクラム後100分で冷却水供給が停止し、炉心水位が低下、炉心上部から次第に燃料が露出し、燃料溶融開始した。以降のRPV内でのデブリふるまい(in-vessel phase)は、以下のようにいくつかのフェーズに分けて理解されている。

  • 事故開始直後: 二次系給水ポンプ停止、蒸気発生器水量の低下。一次系からの除熱能減少、一次系冷却水の温度上昇。一次系圧力上昇。加圧逃し弁(PORV: Pilot-operated Relief Valve)開操作し、8秒後に制御棒自動挿入、スクラム。一次冷却水の注水停止、高圧注入ポンプ手動起動、RPV内圧低下。加圧器逃し弁開固着により小破断LOCA条件発生、冷却水喪失開始。
  • 0~100分: 一次冷却材ポンプが高ボイド二相流で振動したため、Bループの一次冷却水ポンプ手動停止(73分)、Aループの一次冷却水ポンプ手動停止(100分)、炉心はまだ冷却水中に保持されていた。
  • 100~174分: 一次冷却水ポンプの停止により、液相水と水蒸気が分離。113分までに炉心頂部から露出開始、140分までに冷却水水位は炉心中央あたりまで低下。燃料上部の温度1100K到達と推定、被覆管の破損開始、希ガス、揮発性FP放出開始。139分に、加圧器逃し弁の元弁を閉鎖、RPV内圧の再上昇開始。150分までに、炉心ピーク温度>1800Kに到達し、Zry酸化による急速昇温、水素発生開始。燃料温度>2100Kで、ジルカロイ溶融とUO2のジルカロいメルトへの一部溶解(U-Zr-Oメルト形成)が急速に進み、溶融物の溶落開始(キャンドリング)。同時期に制御棒と案内管の溶落も発生していたと推定。溶落物は、燃料棒下部の炉心水位直上あたり(0.6-0.9m)で堆積・凝固し、冷却材流路を閉塞。冷却水水位は0.5m程度と推定。燃料溶落領域が径方向に広がり。【図2、3
  • 175~180分: 一次冷却水B系ループの起動・注水(しかし、注水量は少なく、炉心中央は実効的な冷却はできなかった)。周辺部の燃料集合は冷却。RPV内圧の急上昇(約15MPaまで)。これらがきっかけで注水後数分間以内で炉心上部の崩落・炉心形状の喪失、初期の炉心下部閉塞物の上にデブリベッドの形成。炉心崩落により、Zry酸化はいったんほぼ停止。デブリベッドの温度はいったん低下。【第一回目のリロケーション】図4
  • 174~200分: 174分に2Bループから最初の大規模注水開始。水蒸気/水素発生により、圧力容器内圧力上昇。熱/機械的な衝撃により、燃料棒破砕・崩落開始(スランピング)。デブリベッドの形成。同時期に冷却水水位の上昇。192分に、加圧器逃し弁元弁を手動開放したが、デブリベッド内に冷却ガスは侵入できず、デブリ再昇温・再溶融開始。溶融プールの拡大。
  • 200~224分: 200分に、高圧注入ポンプを手動で再起動。207分までに燃料デブリはほぼ再冠水。しかし、上部のデブリベッド内への冷却水侵入に20分くらい時間を要した可能性(#不確かさが大きい推定)。デブリはほぼ水没したが、その内部の除熱は十分に行われず、溶融デブリプール(U-Zr-Oメルト)が成長。【図5】 この時発生した高温水蒸気+水素ガスにより、上部格子が一部溶融したと推定(図8)。
  • 224~226分: 上部ルースデブリへの冷却水侵入により、上部クラストの上下で圧力差発生。溶融デブリプールが加圧。一方で、下部クラストは冷却継続され、強度を維持。このため、側部(周辺)クラストが炉心南東部の上の方で破れ溶融プールの一部がバッフル板に到達、炉心南東部の燃料集合体の隙間、およびバッフル板を貫通してコアフォーマ領域を通じて下部プレナムに短時間で移行(1-2分程度と推定)。冷却水と溶融デブリとの相互作用により移行したデブリは凝固、RPV内圧力上昇。移行したデブリとRPV壁の隙間に水層形成。RPV壁の温度はSSの融点を超えていないと推定。しかし、計装案内管は一部で溶融。【第二回目のリロケーション】図6
  • 226分~15.50時間: 燃料デブリの幾何学形状の変化により、デブリは冷却されやすくなった。高圧注入ポンプにより冷却水供給継続。RPV底部にホットスポット形成。ホットスポットでのデブリ温度>2773K、鋼材ピーク温度<1373K、加熱時間約30分と評価。15時間50分後に、一次系冷却ポンプの手動再起動による強制循環。下部ヘッドにおけるデブリベッドの冷却、一次冷却系の循環冷却(安定冷却)の確立。冷却水pH:7.5~7.7、ホウ素濃度>4350ppm。【図7

 これらの事故進展における、デブリふるまいフェーズは、大きく、初期フェーズ、トランジエント、後期フェーズに分類できる[6]。初期フェーズは、炉心・燃料露出により、燃料温度が昇温し、炉心の形状が大きく変化する直前までに相当する。制御棒や燃料棒の一部は崩落開始し、炉心の下の方(冷却水水位の直上あたり)には、初期閉塞が形成されている。トランジエントは、炉心・燃料が崩落し、本来形状が喪失する過程に対応する。炉心の下の方でいったん堆積し、デブリベッドを形成する。後期フェーズは、いったん堆積したデブリがさらに下部プレナムに移行して堆積し、崩壊熱で再昇温・再溶融する過程に対応する。再溶融したデブリにより、RPV破損し、デブリがRPV外に移行すると、RPV外フェーズ(ex-vessel phase)に移行する。(BWRでの燃料溶融・崩落の概略的な理解

 TMI-2事故の場合、一部溶融した燃料棒や低融点の物質(Zry、SUS、Ag-In-Cdなど)が初期に落下し、炉心下部の水位面近傍で堆積・凝固することによりクラストが形成され、これが坩堝の役割を果たすことで溶融プール形成の起点となったと考えられている。図9に、被覆管部分が主に溶融し燃料ペレットが残留したデブリの写真を示す。これは、下部クラストを形成した典型的な物質の一つとして、デブリサンプル分析によって同定されている。

 このようなTMI-2での事故進展に対し、1F事故1~3号機では、いずれも炉心・燃料崩落時に、炉心の有効燃料部に水位を形成していなかった可能性が高い。また、炉心・燃料崩落以降に、デブリが次第に冠水したTMI-2事故と異なり、1F1~3号機では冷却水の水位が低く維持されていた可能性が高い。これらにより、溶融プールの形成・拡大傾向や、溶融プール周囲のクラスト形成の傾向が異なっていた可能性が考えられる。おそらく、堆積物の底部から冷却水の水位に向けて、急峻な温度勾配を形成していたと推定される。特に、1F2号機では、大規模な溶融プールの形成には至らず、BWRドレナージ型のデブリ崩落や金属デブリの先行溶落が発生していた可能性がある。(参考9:BWRドレナージ型シナリオ参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇

図1 TMI-2事故でのスクラム後、約4時間のRPV内圧変化と主なイベント [1,2]




















参考文献

[1] J.M. Broughton, P. Kuan, D.A. Petti, E.L., A scenario of the Three Mile Island Unit 2 accident, Nucl. Technol. 87 (1989) 34-53.

[2] E.L. Tolman, P. Kuan, and J.M. Broughton, TMI-2 accident scenario update, Nucl. Eng. Design 108 (1988) 45-54.

[3] E.L. Tolman, TMI-2 Accident Evaluation Program, EGG-TMI-7048, EG&G Idaho, 1986.

[4] D.J. Osetek, J.M. Broughton, R.R. Hobbins, The TMI-2 accident Evaluation Program, EGG-M-89109, 1989.

[5] 渡会偵祐、井上康、舛田藤夫、TMI-2号機の調査研究成果、日本原子力学会誌解説、32(4) (1990) 338-350.

[6] M. Kurata et al., Chapter 14 - Advances in fuel chemistry during a severe accident: Update after Fukushima Daiichi Nuclear Power Station (FDNPS) accident, in Advances in Nuclear Fuel Chemistry, edited by M. Piro, pp. 555-625 (2020), Woodhead Publishing Series in Energy.