「燃料デブリふるまいの要素現象」の版間の差分
Kurata Masaki (トーク | 投稿記録) 細 (文章推敲) |
Kurata Masaki (トーク | 投稿記録) 細 (文章推敲) |
||
2行目: | 2行目: | ||
== '''金属デブリふるまいのメカニズムについて''' == | == '''金属デブリふるまいのメカニズムについて''' == | ||
ここでは、主に制御棒由来の鋼材やB<sub>4</sub> | ここでは、主に制御棒由来の鋼材やB<sub>4</sub>C、および、燃料棒やチャンネルボックス由来の未酸化のZrを主成分とする、『金属デブリ』のふるまいにける化学反応の詳細を、参考資料としてまとめる。 | ||
9行目: | 9行目: | ||
==== '''制御棒の共晶溶融反応の概要''' ==== | ==== '''制御棒の共晶溶融反応の概要''' ==== | ||
1Fと同型の沸騰水型軽水炉('''BWR''': Boiling Water Reactor)における燃料集合体の形状を、'''図1[ | 1Fと同型の沸騰水型軽水炉('''BWR''': Boiling Water Reactor)における燃料集合体の形状を、'''図1[参考文1]'''に示す。直径約1cmΦ、長さ約4mの燃料棒が、ジルカロイ製のチャンネルボックスといわれるケースに囲まれて、1体の燃料集合体を形成している。4個の燃料集合体の間に、制御棒を束ね十字型の断面を構成する制御棒ブレードが装荷されている。スクラム時には、制御棒ブレードが炉心下から炉心内に全挿入される。制御棒の内部には、顆粒状のB<sub>4</sub>Cが中性子吸収剤として充填されている。制御棒の被覆管およびブレード材はステンレス鋼である。1Fでは、B<sub>4</sub>CとSS(Feで代表)の重量比は、およそ0.82t:17.7t('''表1[参考文献2]''')であり、B<sub>4</sub>C濃度に換算すると4.4wt%に相当する。さらに、B:Feモル比に換算すると、B:Fe = 約16:84に相当する。 | ||
BWRでの冷却水喪失型('''LOCA''': Loss of Coolant Accident)のシビアアクシデントでは、冷却水が失われ、炉心・燃料温度が上昇すると、約1200℃で、制御棒ブレード内に配置された制御棒内で、中性子吸収剤のB<sub>4</sub>Cと制御棒被覆管のステンレス鋼(SS: Stainless Steel)の間で'''共晶溶融'''が発生する。 | BWRでの冷却水喪失型('''LOCA''': Loss of Coolant Accident)のシビアアクシデントでは、冷却水が失われ、炉心・燃料温度が上昇すると、約1200℃で、制御棒ブレード内に配置された制御棒内で、中性子吸収剤のB<sub>4</sub>Cと制御棒被覆管のステンレス鋼(SS: Stainless Steel)の間で'''共晶溶融'''が発生する。 | ||
制御棒の共晶溶融における化学反応メカニズムは、制御棒被覆管と中性子吸収剤のそれぞれの主成分であるFeとBの間の相状態を示す、'''Fe-B二元系状態図'''('''図2[参考文献3]''')を用いて説明することができる。FeとBが共存する系では、その組成によって、金属間化合物(Fe<sub>2</sub> | 制御棒の共晶溶融における化学反応メカニズムは、制御棒被覆管と中性子吸収剤のそれぞれの主成分であるFeとBの間の相状態を示す、'''Fe-B二元系状態図'''('''図2[参考文献3]''')を用いて説明することができる。FeとBが共存する系では、その組成によって、金属間化合物(Fe<sub>2</sub>B、FeB)が形成され、これらとFeあるいはBの間で、それらの融点より低い温度で液相が出現する。これを共晶溶融と言い、図2中に'''赤矢印'''で共晶点を示す。図2から、共晶点の温度と組成では、静置系においてFe-B合金はすべて液相に変態することがわかる。制御棒の共晶溶融は、これらのうちFeに近い方の共晶点(図中左側、B濃度:16.6mol%、共晶温度:1436K(1163℃))での反応に相当する。 | ||
==== 静置系と制御棒形状での共晶溶融の反応進展の違い ==== | ==== 静置系と制御棒形状での共晶溶融の反応進展の違い ==== | ||
1F炉心平均でのB:Feモル比16: | 1F炉心平均でのB:Feモル比16:84(図2中の'''青矢印''')は、ほぼ共晶組成に相当している。したがって、'''静置系'''では、制御棒は、約1200℃でほぼ均質に溶融し、それが凝固すると均質な合金を形成すると考えられる。ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT: Karlsruhe Institute of Technology)が実施した静置系での制御棒溶融試験では、4wt%のB添加でSSがほぼ均質に溶融していることが確認されている。('''図3[参考文献4]''') | ||
これに対し、実際の制御棒は全長約4m、直径7~8mmΦの細長い棒状であり、さらに、制御棒ブレードという断面十字型のケース内に装荷されているため('''図1''')、形成される液相は次々に溶落すると考えられる。このため、液相化の進展にともなって、軸方向に組成の非均質化が発生する。Fe- | これに対し、実際の制御棒は全長約4m、直径7~8mmΦの細長い棒状であり、さらに、制御棒ブレードという断面十字型のケース内に装荷されているため('''図1''')、形成される液相は次々に溶落すると考えられる。このため、液相化の進展にともなって、軸方向に組成の非均質化が発生する。Fe-B二元系状態図からは、Fe中にわずかにBが溶融しただけで液相が出現(図2中の'''緑矢印''')すると推定される。このFeリッチな液相が軸方向に先行溶落すると、制御棒の上部はB<sub>4</sub>Cリッチな物質が残留すると考えられる。事故が進んで、さらに温度上昇すると、制御棒の上部に残留した物質も溶融し、あるいは破損して機械的に下方へ崩落すると考えられる。 | ||
1Fのような国内のBWRでは、中性子吸収剤として'''顆粒状のB<sub>4</sub>C'''が用いられている。したがって、実際の制御棒の破損溶融では、一部のB<sub>4</sub>CはSS液相に溶融して先行溶落するが、相当量のB<sub>4</sub>Cは顆粒状を維持し、その周囲をSS液相に覆われたのちに、粒子状で崩落すると推定される。 | 1Fのような国内のBWRでは、中性子吸収剤として'''顆粒状のB<sub>4</sub>C'''が用いられている。したがって、実際の制御棒の破損溶融では、一部のB<sub>4</sub>CはSS液相に溶融して先行溶落するが、相当量のB<sub>4</sub>Cは顆粒状を維持し、その周囲をSS液相に覆われたのちに、粒子状で崩落すると推定される。 | ||
==== 崩落途中、及び、崩落後の制御棒溶融物のふるまい ==== | |||
制御棒の共晶溶融では、SS(Fe)にわずかにBやCが溶融した合金が先行溶落し、次に、残留した顆粒状のB<sub>4</sub>Cが周囲をSS合金で覆われて、機械的に崩落する。JAEAが実施した制御棒ブレードの破損模擬試験では、破損した制御棒断面で顆粒状のB<sub>4</sub>Cが残留し、周囲をSS合金で覆われていることが確認されている。また、残留したB<sub>4</sub>CとSS液相の界面に、Cr<sub>2</sub>BやFe<sub>2</sub>Bなどの金属間化合物が析出することも確認されている。これらは、系全体が平衡に向かう途中で形成される中間生成物であり、実際に事故で発生する制御棒溶融物の中にも存在している可能性がある。('''図4[参考文献5]''') | |||
BやCが溶融したSS液相や、周囲をSS液相で覆われたB<sub>4</sub>C顆粒は、崩落過程で水蒸気に曝される。したがって、含有されるBやCは次第に酸化され、HBO, H<sub>3</sub>BO<sub>3</sub>, CO, CO<sub>2</sub>等の化学形で蒸発すると推定される。一方で、金属メルトは表面に不働態層が形成されやすく、バルクは酸化されにくい傾向を持っている。このため、残留したB<sub>4</sub>C、SS中に固溶したBやC、およびその金属間化合物の相当量は、崩落・堆積以降でも金属デブリ中に保持される可能性が高い。 | |||
破損・溶融した制御棒(金属デブリと称する)は、炉心の下方に移行し、いったん堆積する。この時、冷却水の水位が重要因子となる。崩落した金属デブリの大部分は冷却水水位の直上あたりで、いったん堆積し、閉塞を引き起こすと考えられている。他方、閉塞部がさらに温度上昇して再溶融した金属デブリは、下部プレナムに崩落し、残留する冷却水と接触し、いったん凝固すると考えられる。再溶融温度は、'''参考2'''で示すFe-Zr系の共晶溶融温度(約1000-1300℃)から、Fe<sub>2</sub>Zr化合物の融点約1650℃あたりと推定される。('''<u>参考2:制御棒溶融物とZryの共晶溶融</u>''') | |||
==== 制御棒の共晶溶融で発生した金属デブリの特徴 ==== | |||
下部プレナムまで崩落し、いったん凝固した金属デブリは、(i) BやCをわずかに固溶したSS材、(ii) 未溶融のB<sub>4</sub>C顆粒、(iii) SS(Fe)-B系の金属間化合物、および、'''参考2'''で述べる、(iv) 溶融SS材とZryチャンネルボックスの共晶反応生成物等の混合物、等から形成されていると推定される。('''<u>参考2:制御棒溶融物とZryの共晶溶融</u>''') | |||
いったん下部プレナムに堆積した金属デブリ中に残留する、未溶融のB<sub>4</sub>Cや様々な金属間化合物は、崩壊熱により金属デブリが再溶融する際に、次第にSS-Zr合金を主成分とする液相中に溶解し、均質化すると推定される。('''<u>参考3:金属デブリの再溶融</u>''') | |||
(==>大津さん、ここに、図1、表1,図2、図3、図4を挿入してください。) | |||
=='''参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融''' == | |||
===='''制御棒溶融物とチャンネルボックスの共晶溶融反応の概要'''==== | |||
制御棒ブレードの共晶溶融('''<u>参考1:制御棒の共晶溶融</u>''')で先行溶落したBやCを含有するSSメルトは、制御棒チャンネルの下方で、Zry製のチャンネルボックスとの隙間で、いったん凝固し、閉塞する。 | |||
1Fでは、制御棒ブレードを構成するSS(Feで代表)とチャンネルボックス(Zrで代表)の重量比は、17.7t:18.7tである('''表1[参考文献1]''') 。これを、Fe:Zrのモル比に換算すると約3:2に相当する。チャンネルボックスが約50%酸化していたと仮定すると、Fe:Zr金属のモル比約3:1に相当する。 | |||
制御棒溶融物とZryとの共晶溶融メカニズムは、'''Fe-Zr二元系状態図'''('''図5[参考文献3]''')を用いておよそ説明することができる。Fe-Zr系では、組成によって、金属間化合物Fe<sub>2</sub>ZrとFeZr<sub>2</sub>, FeZr<sub>3</sub>等が形成されるが、このうち、主に共晶溶融反応に寄与するのはFe<sub>2</sub>Zrである。系の平均組成に応じて、Fe<sub>2</sub>ZrとFeあるいはZrの間で、共晶反応が出現する。これを図中に'''赤矢印'''で共晶点として示す。制御棒溶融物とZryが、準静的な条件で接触する場合には、Zryの酸化度に応じて、Feリッチ側あるいはZrリッチ側の共晶溶融反応が発生すると考えられる。これらの共晶反応では、Fe<sub>2</sub>Zr化合物とFeリッチあるいはZrリッチな液相がそれぞれ形成される。 | |||
Zrは、単体では比較的融点の高い金属だが、Zr濃度が高い条件で、数mol%のFeが共存すると、共晶温度1000℃(1273K)でも金属メルトを形成する性質を有する。このことは、金属デブリの再溶融時のふるまいに大きく影響する。 | |||
==== 静置系と制御棒/チャンネルボックス形状での共晶溶融の反応進展の違い ==== | |||
実際の体系では、軸方向に温度勾配があるため、炉心上部で形成された制御棒の溶融物は、制御棒ブレードとチャンネルボックスの隙間を溶落し、残留する冷却水水位の直上あたりで、いったん凝固し閉塞すると考えられる。閉塞の様子は、JAEAの実施した模擬試験でも確認されている。('''図6[参考文献5]''') | |||
チャンネルボックスの下の方は、冷却水から露出した直後で、まだ温度が上がっておらず、Zrの酸化が進みにくい。したがって、閉塞部位あたりでのFe:Zrモル比は、Zrリッチ側によっていると考えられる。このことから、閉塞部では局所的にZrリッチ側の共晶溶融(図5中の'''緑矢印''')が発生すると考えられる。Zrリッチ側の共晶溶融では、Zrを多く含む溶融温度1000℃以下の液相とFe<sub>2</sub>Zr固相が形成される。Zrリッチな液相が先行溶落すると、閉塞部にはFe<sub>2</sub>Zrが多く残留する。 | |||
==== 崩落途中、及び、崩落後の制御/チャンネルボックス溶融物のふるまい ==== | |||
制御棒ブレードとチャンネルボックスの閉塞部('''図6[参考文献5]''')には、上方から、SSメルト、B<sub>4</sub>C、ホウ化物などが崩落してくる。一方で、閉塞部が温度上昇することで形成されるZrリッチの液相(共晶溶融温度1000℃(1273K)以下)は下方に先行溶落する。これらから、金属間化合物Fe<sub>2</sub>Zr等を主成分とする物質が閉塞部に残留すると考えられる。その融点は約1657℃(1930K)であり、閉塞部の温度が上昇することで、この金属間化合物も再溶融し、下方に移動すると考えられる。この温度条件(約1000-1657℃)では、チャンネルボックス内のに装荷されている燃料棒は、表面が酸化されるが、まだその形状を維持している。 | |||
これらのことから、金属デブリによる閉塞は、温度上昇にともなって、いったん解消されると考えられる。一方で、チャンネルボックスの溶融が進むと、溶融物が径方向に拡大して燃料棒と接触し、炉心の下の方で、燃料棒の破損・溶融が促進される可能性が考えられる。BWRでは、炉心の閉塞・再溶融傾向が場所や物質によって異なるため、炉心全体とし非均質に溶融・崩落がすすむ可能性が考えられる。これを'''BWRドレナージ型'''のデブリ崩落という。('''<u>参考9:BWRドレナージ型のデブリ崩落</u>''') | |||
ここでも、金属デブリや燃料デブリが崩落した時の冷却水の水位が重要因子となる。 | |||
==== 制御棒とZryの共晶溶融で発生した金属デブリの特徴 ==== | |||
下部プレナムに崩落した金属デブリは、冷却と接触し、いったん凝固すると考えられる。下部プレナムに崩落した直後の金属デブリは、(i) BやCをわずかに固溶したSS材、(ii) 未溶融のB<sub>4</sub>C顆粒、(iii) SS(Fe)-B系の金属間化合物、および、(iv) 溶融SS材とZryチャンネルボックスの共晶反応生成物の混合、等を主成分としていると推定される。('''<u>参考1:制御棒の共晶溶融</u>''') | |||
金属デブリの主成分は、'''Fe-Zr-B三元系状態図'''('''図7[参考文献2]''')でおよそ理解できる。Feリッチな合金にZrやBが溶解した相、Zrリッチな合金にFeやBが溶解した相、各種の金属間化合物が混合していると推定される。さらに、未溶融のB<sub>4</sub>C顆粒や、中間生成物であるCr系の化合物、等も共存すると考えられる。状態図から、下部プレナムにいったん堆積した金属デブリ中に残留する、未溶融のB<sub>4</sub>Cや中間生成物の各種金属間化合物は、崩壊熱により金属デブリが再溶融する際に、次第にSS-Zr液相中に溶解し均質化すると推定される。('''<u>参考3:金属デブリの再溶融</u>''') | |||
(==>大津さん、ここに、表1(再度)、図5-7を挿入してください。) | |||
=='''参考3:金属デブリの再溶融(下部プレナムにいったん堆積した後''' == | |||
===='''金属デブリの再溶融反応の概要'''==== | |||
制御棒ブレードの共晶p1F事故条件では、様々な成分を含んだ金属デブリは下部プレナムに崩落し、冷却水と接触していったん凝固したと推定される。(参考1:制御棒の共晶溶融、参考2:制御棒溶融物とZryの共晶溶融) | |||
p2,3号機については、燃料デブリより先に金属デブリが下部プレナムに崩落したと推定される。(参考9:BWRドレナージ型のデブリ崩落) | |||
p1号では、炉心部で溶融デブリプールが形成された可能性が高く、溶融した燃料デブリが先に下部プレナムに移行した可能性が高い。これは、TMI-2事故と類似するデブリふるまいである。 | |||
pいったん堆積した後の金属デブリが、崩壊熱で再溶融する際には、温度上昇にともなって様々な成分がお互いに溶融しあい、溶融合金中で均質化していくと推定される。また、下部プレナムに堆積した酸化物デブリの酸化度が比較的低く、その再溶融時にU-Zr-Oメルトが形成される場合には、溶融金属デブリとU-Zr-Oメルトとの化学反応も発生すると考えられる。(参考11:下部プレナムでのデブリ再溶融) | |||
p参考3では、金属デブリのみの条件での再溶融と、金属デブリと酸化物デブリの共存状態での反応の概略について述べる。下部プレナムでのデブリ再溶融反応の詳細は、参考11に示す。 | |||
===再溶融した金属デブリとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融 === | ===再溶融した金属デブリとRPV鋼材、溶接部の共晶溶融 === | ||
===2号機下部プレナム堆積物の伝熱解析 === | ===2号機下部プレナム堆積物の伝熱解析 === |
2024年1月25日 (木) 12:12時点における版
燃料デブリふるまいの要素現象
金属デブリふるまいのメカニズムについて
ここでは、主に制御棒由来の鋼材やB4C、および、燃料棒やチャンネルボックス由来の未酸化のZrを主成分とする、『金属デブリ』のふるまいにける化学反応の詳細を、参考資料としてまとめる。
参考1:制御棒の共晶溶融
制御棒の共晶溶融反応の概要
1Fと同型の沸騰水型軽水炉(BWR: Boiling Water Reactor)における燃料集合体の形状を、図1[参考文1]に示す。直径約1cmΦ、長さ約4mの燃料棒が、ジルカロイ製のチャンネルボックスといわれるケースに囲まれて、1体の燃料集合体を形成している。4個の燃料集合体の間に、制御棒を束ね十字型の断面を構成する制御棒ブレードが装荷されている。スクラム時には、制御棒ブレードが炉心下から炉心内に全挿入される。制御棒の内部には、顆粒状のB4Cが中性子吸収剤として充填されている。制御棒の被覆管およびブレード材はステンレス鋼である。1Fでは、B4CとSS(Feで代表)の重量比は、およそ0.82t:17.7t(表1[参考文献2])であり、B4C濃度に換算すると4.4wt%に相当する。さらに、B:Feモル比に換算すると、B:Fe = 約16:84に相当する。
BWRでの冷却水喪失型(LOCA: Loss of Coolant Accident)のシビアアクシデントでは、冷却水が失われ、炉心・燃料温度が上昇すると、約1200℃で、制御棒ブレード内に配置された制御棒内で、中性子吸収剤のB4Cと制御棒被覆管のステンレス鋼(SS: Stainless Steel)の間で共晶溶融が発生する。
制御棒の共晶溶融における化学反応メカニズムは、制御棒被覆管と中性子吸収剤のそれぞれの主成分であるFeとBの間の相状態を示す、Fe-B二元系状態図(図2[参考文献3])を用いて説明することができる。FeとBが共存する系では、その組成によって、金属間化合物(Fe2B、FeB)が形成され、これらとFeあるいはBの間で、それらの融点より低い温度で液相が出現する。これを共晶溶融と言い、図2中に赤矢印で共晶点を示す。図2から、共晶点の温度と組成では、静置系においてFe-B合金はすべて液相に変態することがわかる。制御棒の共晶溶融は、これらのうちFeに近い方の共晶点(図中左側、B濃度:16.6mol%、共晶温度:1436K(1163℃))での反応に相当する。
静置系と制御棒形状での共晶溶融の反応進展の違い
1F炉心平均でのB:Feモル比16:84(図2中の青矢印)は、ほぼ共晶組成に相当している。したがって、静置系では、制御棒は、約1200℃でほぼ均質に溶融し、それが凝固すると均質な合金を形成すると考えられる。ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT: Karlsruhe Institute of Technology)が実施した静置系での制御棒溶融試験では、4wt%のB添加でSSがほぼ均質に溶融していることが確認されている。(図3[参考文献4])
これに対し、実際の制御棒は全長約4m、直径7~8mmΦの細長い棒状であり、さらに、制御棒ブレードという断面十字型のケース内に装荷されているため(図1)、形成される液相は次々に溶落すると考えられる。このため、液相化の進展にともなって、軸方向に組成の非均質化が発生する。Fe-B二元系状態図からは、Fe中にわずかにBが溶融しただけで液相が出現(図2中の緑矢印)すると推定される。このFeリッチな液相が軸方向に先行溶落すると、制御棒の上部はB4Cリッチな物質が残留すると考えられる。事故が進んで、さらに温度上昇すると、制御棒の上部に残留した物質も溶融し、あるいは破損して機械的に下方へ崩落すると考えられる。
1Fのような国内のBWRでは、中性子吸収剤として顆粒状のB4Cが用いられている。したがって、実際の制御棒の破損溶融では、一部のB4CはSS液相に溶融して先行溶落するが、相当量のB4Cは顆粒状を維持し、その周囲をSS液相に覆われたのちに、粒子状で崩落すると推定される。
崩落途中、及び、崩落後の制御棒溶融物のふるまい
制御棒の共晶溶融では、SS(Fe)にわずかにBやCが溶融した合金が先行溶落し、次に、残留した顆粒状のB4Cが周囲をSS合金で覆われて、機械的に崩落する。JAEAが実施した制御棒ブレードの破損模擬試験では、破損した制御棒断面で顆粒状のB4Cが残留し、周囲をSS合金で覆われていることが確認されている。また、残留したB4CとSS液相の界面に、Cr2BやFe2Bなどの金属間化合物が析出することも確認されている。これらは、系全体が平衡に向かう途中で形成される中間生成物であり、実際に事故で発生する制御棒溶融物の中にも存在している可能性がある。(図4[参考文献5])
BやCが溶融したSS液相や、周囲をSS液相で覆われたB4C顆粒は、崩落過程で水蒸気に曝される。したがって、含有されるBやCは次第に酸化され、HBO, H3BO3, CO, CO2等の化学形で蒸発すると推定される。一方で、金属メルトは表面に不働態層が形成されやすく、バルクは酸化されにくい傾向を持っている。このため、残留したB4C、SS中に固溶したBやC、およびその金属間化合物の相当量は、崩落・堆積以降でも金属デブリ中に保持される可能性が高い。
破損・溶融した制御棒(金属デブリと称する)は、炉心の下方に移行し、いったん堆積する。この時、冷却水の水位が重要因子となる。崩落した金属デブリの大部分は冷却水水位の直上あたりで、いったん堆積し、閉塞を引き起こすと考えられている。他方、閉塞部がさらに温度上昇して再溶融した金属デブリは、下部プレナムに崩落し、残留する冷却水と接触し、いったん凝固すると考えられる。再溶融温度は、参考2で示すFe-Zr系の共晶溶融温度(約1000-1300℃)から、Fe2Zr化合物の融点約1650℃あたりと推定される。(参考2:制御棒溶融物とZryの共晶溶融)
制御棒の共晶溶融で発生した金属デブリの特徴
下部プレナムまで崩落し、いったん凝固した金属デブリは、(i) BやCをわずかに固溶したSS材、(ii) 未溶融のB4C顆粒、(iii) SS(Fe)-B系の金属間化合物、および、参考2で述べる、(iv) 溶融SS材とZryチャンネルボックスの共晶反応生成物等の混合物、等から形成されていると推定される。(参考2:制御棒溶融物とZryの共晶溶融)
いったん下部プレナムに堆積した金属デブリ中に残留する、未溶融のB4Cや様々な金属間化合物は、崩壊熱により金属デブリが再溶融する際に、次第にSS-Zr合金を主成分とする液相中に溶解し、均質化すると推定される。(参考3:金属デブリの再溶融)
(==>大津さん、ここに、図1、表1,図2、図3、図4を挿入してください。)
参考2:制御棒溶融物とチャンネルボックス(Zry)の共晶溶融
制御棒溶融物とチャンネルボックスの共晶溶融反応の概要
制御棒ブレードの共晶溶融(参考1:制御棒の共晶溶融)で先行溶落したBやCを含有するSSメルトは、制御棒チャンネルの下方で、Zry製のチャンネルボックスとの隙間で、いったん凝固し、閉塞する。
1Fでは、制御棒ブレードを構成するSS(Feで代表)とチャンネルボックス(Zrで代表)の重量比は、17.7t:18.7tである(表1[参考文献1]) 。これを、Fe:Zrのモル比に換算すると約3:2に相当する。チャンネルボックスが約50%酸化していたと仮定すると、Fe:Zr金属のモル比約3:1に相当する。
制御棒溶融物とZryとの共晶溶融メカニズムは、Fe-Zr二元系状態図(図5[参考文献3])を用いておよそ説明することができる。Fe-Zr系では、組成によって、金属間化合物Fe2ZrとFeZr2, FeZr3等が形成されるが、このうち、主に共晶溶融反応に寄与するのはFe2Zrである。系の平均組成に応じて、Fe2ZrとFeあるいはZrの間で、共晶反応が出現する。これを図中に赤矢印で共晶点として示す。制御棒溶融物とZryが、準静的な条件で接触する場合には、Zryの酸化度に応じて、Feリッチ側あるいはZrリッチ側の共晶溶融反応が発生すると考えられる。これらの共晶反応では、Fe2Zr化合物とFeリッチあるいはZrリッチな液相がそれぞれ形成される。
Zrは、単体では比較的融点の高い金属だが、Zr濃度が高い条件で、数mol%のFeが共存すると、共晶温度1000℃(1273K)でも金属メルトを形成する性質を有する。このことは、金属デブリの再溶融時のふるまいに大きく影響する。
静置系と制御棒/チャンネルボックス形状での共晶溶融の反応進展の違い
実際の体系では、軸方向に温度勾配があるため、炉心上部で形成された制御棒の溶融物は、制御棒ブレードとチャンネルボックスの隙間を溶落し、残留する冷却水水位の直上あたりで、いったん凝固し閉塞すると考えられる。閉塞の様子は、JAEAの実施した模擬試験でも確認されている。(図6[参考文献5])
チャンネルボックスの下の方は、冷却水から露出した直後で、まだ温度が上がっておらず、Zrの酸化が進みにくい。したがって、閉塞部位あたりでのFe:Zrモル比は、Zrリッチ側によっていると考えられる。このことから、閉塞部では局所的にZrリッチ側の共晶溶融(図5中の緑矢印)が発生すると考えられる。Zrリッチ側の共晶溶融では、Zrを多く含む溶融温度1000℃以下の液相とFe2Zr固相が形成される。Zrリッチな液相が先行溶落すると、閉塞部にはFe2Zrが多く残留する。
崩落途中、及び、崩落後の制御/チャンネルボックス溶融物のふるまい
制御棒ブレードとチャンネルボックスの閉塞部(図6[参考文献5])には、上方から、SSメルト、B4C、ホウ化物などが崩落してくる。一方で、閉塞部が温度上昇することで形成されるZrリッチの液相(共晶溶融温度1000℃(1273K)以下)は下方に先行溶落する。これらから、金属間化合物Fe2Zr等を主成分とする物質が閉塞部に残留すると考えられる。その融点は約1657℃(1930K)であり、閉塞部の温度が上昇することで、この金属間化合物も再溶融し、下方に移動すると考えられる。この温度条件(約1000-1657℃)では、チャンネルボックス内のに装荷されている燃料棒は、表面が酸化されるが、まだその形状を維持している。
これらのことから、金属デブリによる閉塞は、温度上昇にともなって、いったん解消されると考えられる。一方で、チャンネルボックスの溶融が進むと、溶融物が径方向に拡大して燃料棒と接触し、炉心の下の方で、燃料棒の破損・溶融が促進される可能性が考えられる。BWRでは、炉心の閉塞・再溶融傾向が場所や物質によって異なるため、炉心全体とし非均質に溶融・崩落がすすむ可能性が考えられる。これをBWRドレナージ型のデブリ崩落という。(参考9:BWRドレナージ型のデブリ崩落)
ここでも、金属デブリや燃料デブリが崩落した時の冷却水の水位が重要因子となる。
制御棒とZryの共晶溶融で発生した金属デブリの特徴
下部プレナムに崩落した金属デブリは、冷却と接触し、いったん凝固すると考えられる。下部プレナムに崩落した直後の金属デブリは、(i) BやCをわずかに固溶したSS材、(ii) 未溶融のB4C顆粒、(iii) SS(Fe)-B系の金属間化合物、および、(iv) 溶融SS材とZryチャンネルボックスの共晶反応生成物の混合、等を主成分としていると推定される。(参考1:制御棒の共晶溶融)
金属デブリの主成分は、Fe-Zr-B三元系状態図(図7[参考文献2])でおよそ理解できる。Feリッチな合金にZrやBが溶解した相、Zrリッチな合金にFeやBが溶解した相、各種の金属間化合物が混合していると推定される。さらに、未溶融のB4C顆粒や、中間生成物であるCr系の化合物、等も共存すると考えられる。状態図から、下部プレナムにいったん堆積した金属デブリ中に残留する、未溶融のB4Cや中間生成物の各種金属間化合物は、崩壊熱により金属デブリが再溶融する際に、次第にSS-Zr液相中に溶解し均質化すると推定される。(参考3:金属デブリの再溶融)
(==>大津さん、ここに、表1(再度)、図5-7を挿入してください。)
参考3:金属デブリの再溶融(下部プレナムにいったん堆積した後
金属デブリの再溶融反応の概要
制御棒ブレードの共晶p1F事故条件では、様々な成分を含んだ金属デブリは下部プレナムに崩落し、冷却水と接触していったん凝固したと推定される。(参考1:制御棒の共晶溶融、参考2:制御棒溶融物とZryの共晶溶融)
p2,3号機については、燃料デブリより先に金属デブリが下部プレナムに崩落したと推定される。(参考9:BWRドレナージ型のデブリ崩落)
p1号では、炉心部で溶融デブリプールが形成された可能性が高く、溶融した燃料デブリが先に下部プレナムに移行した可能性が高い。これは、TMI-2事故と類似するデブリふるまいである。
pいったん堆積した後の金属デブリが、崩壊熱で再溶融する際には、温度上昇にともなって様々な成分がお互いに溶融しあい、溶融合金中で均質化していくと推定される。また、下部プレナムに堆積した酸化物デブリの酸化度が比較的低く、その再溶融時にU-Zr-Oメルトが形成される場合には、溶融金属デブリとU-Zr-Oメルトとの化学反応も発生すると考えられる。(参考11:下部プレナムでのデブリ再溶融)
p参考3では、金属デブリのみの条件での再溶融と、金属デブリと酸化物デブリの共存状態での反応の概略について述べる。下部プレナムでのデブリ再溶融反応の詳細は、参考11に示す。