「燃料デブリ経年変化特性の推定技術開発 準備中」の版間の差分

提供:debrisWiki
ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
30行目: 30行目:
:<li>1F燃料デブリの化学的経年変化予測</li>
:<li>1F燃料デブリの化学的経年変化予測</li>
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 1)経年変化が発生する条件評価(資料:41,48,50,58~62,64,69~71,73ページ)]
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 1)経年変化が発生する条件評価(資料:41,48,50,58~62,64,69~71,73ページ)]
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 2)燃料デブリの経年変化予測及び影響評価(資料:51~54、65~66、74~76ページ)]<br>
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 2)燃料デブリの経年変化予測及び影響評価(資料:51~54、65~66、74~76ページ)]<br><br>
<br>
 
'''1F燃料デブリの経年変化要因の設定および評価方法立案'''<br>
'''1F燃料デブリの経年変化要因の設定および評価方法立案'''<br>
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 チェルノブイリ燃料デブリの特徴と微粒子化要因の推定(資料:12~14ページ)]<br>
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 チェルノブイリ燃料デブリの特徴と微粒子化要因の推定(資料:12~14ページ)]<br>
43行目: 43行目:
:燃料デブリの経年変化現象としては、組成変化、機械的特性の変化、微粒子形成・飛散、燃料デブリバルクの崩壊(バルク:塊状の燃料デブリのことを言う)等が考えられる。
:燃料デブリの経年変化現象としては、組成変化、機械的特性の変化、微粒子形成・飛散、燃料デブリバルクの崩壊(バルク:塊状の燃料デブリのことを言う)等が考えられる。
:燃料デブリの経年変化により、廃炉工程における臨界管理で取扱い時などに燃料デブリが急に形状変化し臨界リスクに影響、燃料デブリ取出し作業で切削等の機械加工において微粒子の飛散リスクを増大、移送・保管中に微粒子が放出・飛散するリスクを増大、等の可能性が考えられる。このため、基礎データとして、燃料デブリバルクの崩壊による微粒子形成に着目した経年変化の要因を設定した。
:燃料デブリの経年変化により、廃炉工程における臨界管理で取扱い時などに燃料デブリが急に形状変化し臨界リスクに影響、燃料デブリ取出し作業で切削等の機械加工において微粒子の飛散リスクを増大、移送・保管中に微粒子が放出・飛散するリスクを増大、等の可能性が考えられる。このため、基礎データとして、燃料デブリバルクの崩壊による微粒子形成に着目した経年変化の要因を設定した。
:今後の廃炉作業で想定される環境変化として、燃料デブリ取出しに向けた原子炉格納容器の負圧管理にともなう空気混入の影響(現状は窒素雰囲気で封入)、水位低下による燃料デブリ表面付着水中の放射線分解による化学活性物質(ラジカル)濃度上昇の影響、取出した後の燃料デブリの空気保管による影響、を想定した。また、微粒子形成メカニズムとして、気中での局所的な酸化進行⇒体積増加・亀裂発生⇒錆の発生・バルク崩壊、のプロセスと、水中での局所的な酸化進行と溶出⇒体積変化・亀裂発生⇒バルク崩壊、のプロセスを想定した。これらのプロセスは、ex-vessel debrisについては、チェルノブイリ事故で形成された燃料デブリと変化の要因が共通すると予想される。In-vessel debrisについては、TMI-2事故で形成された燃料デブリと同様に、このようなプロセスがほとんど観測されない可能性も考えられるが、1F事故では燃料溶融がTMI-2事故よりも進んでいると考えられ、上で推定した微粒子化のメカニズムは共通するため、変化の程度を模擬試験で確認することとした。
:今後の廃炉作業で想定される環境変化として、燃料デブリ取出しに向けた原子炉格納容器の負圧管理にともなう空気混入の影響(現状は窒素雰囲気で封入)、水位低下による燃料デブリ表面付着水中の放射線分解による化学活性物質(ラジカル)濃度上昇の影響、取出した後の燃料デブリの空気保管による影響、を想定した。また、微粒子形成メカニズムとして、気中での局所的な酸化進行⇒体積増加・亀裂発生⇒錆の発生・バルク崩壊、のプロセスと、水中での局所的な酸化進行と溶出⇒体積変化・亀裂発生⇒バルク崩壊、のプロセスを想定した。これらのプロセスは、ex-vessel debrisについては、チェルノブイリ事故で形成された燃料デブリと変化の要因が共通すると予想される。In-vessel debrisについては、TMI-2事故で形成された燃料デブリと同様に、このようなプロセスがほとんど観測されない可能性も考えられるが、1F事故では燃料溶融がTMI-2事故よりも進んでいると考えられ、上で推定した微粒子化のメカニズムは共通するため、変化の程度を模擬試験で確認することとした。<br><br>
:
 
<br>
'''燃料デブリの経年変化評価試験'''<br>
'''燃料デブリの経年変化評価試験'''<br>
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 調製した模擬燃料デブリ、気中・水中試験項目、1F燃料デブリとの対応(2019年度実施分)(資料:20~22ページ)]<br>
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 調製した模擬燃料デブリ、気中・水中試験項目、1F燃料デブリとの対応(2019年度実施分)(資料:20~22ページ)]<br>
83行目: 82行目:
:鉄あるいは酸化鉄を析出させたガラス状物質の模擬デブリを用いた気中試験の結果を70、71ページに示す。気中での微粒子発生は温度上昇により増大した。微粒子はほとんどが鉄系物質であり、ウランは含有していなかった。一部試料では、微粒子中にシリコンが検出された。鉄金属が析出している模擬デブリでは、微粒子発生が大きいことが示された。鉄系物質を析出させた模擬デブリの気中、水中試験では、反応の見かけの活性化エネルギーを評価した。
:鉄あるいは酸化鉄を析出させたガラス状物質の模擬デブリを用いた気中試験の結果を70、71ページに示す。気中での微粒子発生は温度上昇により増大した。微粒子はほとんどが鉄系物質であり、ウランは含有していなかった。一部試料では、微粒子中にシリコンが検出された。鉄金属が析出している模擬デブリでは、微粒子発生が大きいことが示された。鉄系物質を析出させた模擬デブリの気中、水中試験では、反応の見かけの活性化エネルギーを評価した。
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 第2,3期の気中試験結果(酸化物と鉄析出物が混在しているガラス状マトリックスの模擬デブリ)(資料:72~73ページ)]<br>
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 第2,3期の気中試験結果(酸化物と鉄析出物が混在しているガラス状マトリックスの模擬デブリ)(資料:72~73ページ)]<br>
:ウランとジルコニウムの酸化物析出物、および鉄あるいは酸化鉄をそれぞれ析出させたガラス状物質の模擬デブリの調製方法と水中試験の結果を72、73ページにそれぞれ示す。それぞれの析出物どうしの相互作用の効果はほとんど観測されなかった。模擬デブリ調製時に、析出物が化合すると微粒子発生に影響する可能性が示された。<br>
:ウランとジルコニウムの酸化物析出物、および鉄あるいは酸化鉄をそれぞれ析出させたガラス状物質の模擬デブリの調製方法と水中試験の結果を72、73ページにそれぞれ示す。それぞれの析出物どうしの相互作用の効果はほとんど観測されなかった。模擬デブリ調製時に、析出物が化合すると微粒子発生に影響する可能性が示された。<br><br>
:


'''経年変化が発生する条件評価'''<br>
'''経年変化が発生する条件評価'''<br>
94行目: 92行目:
:カバーガスが窒素雰囲気(現状で燃料デブリが堆積しているPCV内部を模擬)では微粒子発生は観測されなかった。カバーガス中に酸素が2%含有される条件では微粒子発生が観測され、カバーガスが空気の条件では微粒子発生量が増加した。併せて、燃料デブリ中に酸化物析出物が介在する場合、その選択的酸化による局所体積変化があると微粒子発生が増加する可能性が示された。また、水の交換頻度が大きいと微粒子発生が増大した。水中にウランが微量溶出し、その溶出量はpHの影響を受けることが確認されたが、微粒子発生への影響は見られなかった。これらのことから、燃料デブリ取出し前や取出し中に冷却水中の溶存酸素が制御されている条件であれば、また、燃料デブリの保管を窒素ガスなどの低酸素分圧雰囲気で実施すれば、微粒子化を抑制できる可能性があると推定された。
:カバーガスが窒素雰囲気(現状で燃料デブリが堆積しているPCV内部を模擬)では微粒子発生は観測されなかった。カバーガス中に酸素が2%含有される条件では微粒子発生が観測され、カバーガスが空気の条件では微粒子発生量が増加した。併せて、燃料デブリ中に酸化物析出物が介在する場合、その選択的酸化による局所体積変化があると微粒子発生が増加する可能性が示された。また、水の交換頻度が大きいと微粒子発生が増大した。水中にウランが微量溶出し、その溶出量はpHの影響を受けることが確認されたが、微粒子発生への影響は見られなかった。これらのことから、燃料デブリ取出し前や取出し中に冷却水中の溶存酸素が制御されている条件であれば、また、燃料デブリの保管を窒素ガスなどの低酸素分圧雰囲気で実施すれば、微粒子化を抑制できる可能性があると推定された。
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 鉄や酸化鉄の析出物が介在するデブリ経年劣化要因の評価(69~71、73ページ)]<br>
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 〇 鉄や酸化鉄の析出物が介在するデブリ経年劣化要因の評価(69~71、73ページ)]<br>
:気中条件では、温度、雰囲気が、水中条件ではカバーガス雰囲気、水の交換頻度が、それぞれ微粒子発生に影響することが示された。また、金属鉄が析出している場合、微粒子発生が増加することが示された。しかし、このメカニズムで発生する微粒子はウランを含有しないことが確認された。析出物中で鉄系物質とウランやジルコニウムが化合している場合にはさらに調査が必要である。<br>
:気中条件では、温度、雰囲気が、水中条件ではカバーガス雰囲気、水の交換頻度が、それぞれ微粒子発生に影響することが示された。また、金属鉄が析出している場合、微粒子発生が増加することが示された。しかし、このメカニズムで発生する微粒子はウランを含有しないことが確認された。析出物中で鉄系物質とウランやジルコニウムが化合している場合にはさらに調査が必要である。<br><br>
:


'''燃料デブリの経年変化予測及び影響評価'''<br>
'''燃料デブリの経年変化予測及び影響評価'''<br>
127行目: 124行目:
*Zr(O)と二酸化物、あるいは、二酸化物とガラス状物質からなる模擬燃料デブリからの微粒子発生は、試験温度、気中の酸素濃度、水中の溶存酸素濃度などに依存して増加した。酸素濃度を抑制することで微粒子化が抑制される傾向を示した。
*Zr(O)と二酸化物、あるいは、二酸化物とガラス状物質からなる模擬燃料デブリからの微粒子発生は、試験温度、気中の酸素濃度、水中の溶存酸素濃度などに依存して増加した。酸素濃度を抑制することで微粒子化が抑制される傾向を示した。
*微粒子発生の温度依存性から、みかけの活性化エネルギーを算出し、気中、および水中での微粒子発生の経年変化推定式を予備的に求めた。今後、長期予測性の向上や、微粒子発生する燃料デブリの組成条件、環境影響因子の条件を明確にするため、試験データを拡充し、微粒子化挙動をより明確にすることが重要と考えられる。<br>
*微粒子発生の温度依存性から、みかけの活性化エネルギーを算出し、気中、および水中での微粒子発生の経年変化推定式を予備的に求めた。今後、長期予測性の向上や、微粒子発生する燃料デブリの組成条件、環境影響因子の条件を明確にするため、試験データを拡充し、微粒子化挙動をより明確にすることが重要と考えられる。<br>
<li>研究成果の概要</li>
<ol style="list-style-type:upper-roman">
<li>[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 燃料デブリの経年劣化特性の推定技術の開発(東芝エネルギーシステムズ株式会社実施事業)]※以下では、本事業の成果の概要を、公開されている事業成果資料の該当ページと対応させて説明する。</li>
<ol>
<li>研究項目、目的、進め方、スケジュール<br>
東芝エネルギーシステムズ株式会社の提案は、以下の2個の実施項目((1) 燃料デブリの経年変化の要因として考えられる現象を確認するための試験方法立案及び実施、(2) 1F燃料デブリの化学的経年変化予測)からなる。<br>
事業は2019年7月から2021年2月に実施された。<br>
得られた知見は・データは、関連研究プロジェクト(燃料デブリの性状把握のための分析・推定技術の開発、燃料デブリ・炉内構造物の取出し規模の更なる拡大に向けた技術の開発、燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発、燃料デブリ臨界管理技術の開発、固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)に提供された。<br>
[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 東芝ESS事業の概要(資料3-6ページ)]<br>
</li>
<li>実施内容<br>
(1)燃料デブリの経年変化の要因として考えられる現象を確認するための試験方法立案及び実施
:1)1F燃料デブリの経年変化要因の設定および評価方法立案
:チェルノブイリ原発事故で発生した燃料デブリで見られた微粒子化及び自己崩壊の知見から、1F燃料デブリの経年変化を引き起こす可能性が考えられる要因を設定し、そこで着目したメカニズムに応じた模擬燃料デブリの酸化・溶出試験方法を立案した。
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf チェルノブイリ燃料デブリの特徴と微粒子化要因の推定(資料12-14ページ)]
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 1F燃料デブリの特徴(資料15ページ debrisWikiの炉内状況推定図)]
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 廃炉作業に影響を与える経年変化現象、要因の設定(資料16-19ページ)]
:
:2)燃料デブリの経年変化評価試験
:1F事故の模擬燃料デブリを複数作製し、酸化・溶出による経年変化の予測が可能となる試験データを取得した。
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 調製した模擬燃料デブリ、気中・水中試験項目、1F燃料デブリとの対応(資料20-22ページ)]
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 試験条件、試験方法(資料23-26ページ)]
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 試験結果(資料27-48ページ)]
:
(2)1F燃料デブリの化学的経年変化予測
:1)経年変化が発生する条件評価(気中)
:酸化・溶出による経年変化が生じる燃料デブリの組成条件、雰囲気条件を明確にした。
:気中試験で得られた酸素濃度依存性について、窒素雰囲気(現状で燃料デブリが堆積しているPCV内部を模擬)では微粒子発生は観測されなかった。他方、気中の酸素濃度の増加にともない微粒子発生量が増加した。このことから、燃料デブリ取出し前や取出し中に、燃料デブリ表面が冷却水に覆われている状態であれば(空気と直接接触しない条件であれば)、微粒子化は進行しにくいと推定された。さらに、燃料デブリの保管を、窒素ガスなどの低酸素分圧雰囲気で実施すれば、微粒子化を抑制できる可能性があると推定された。窒素雰囲気でなく、空気雰囲気中に長時間、燃料デブリが曝された場合の、詳細な微粒子形成については、環境温度50℃での、模擬燃料デブリからの微粒子発生量評価式を推定した。経過時間約1.5年を想定した模擬試験では、微粒子発生を抑制するメカニズムは推定されなかった。経過時間14年を想定した模擬試験では、微粒子発生が若干緩和される傾向が見られた。さらに、燃料デブリ中のU:Zr比が大きい場合、及び、燃料デブリ凝固時に微細構造(相状態)が形成される場合には、微粒子発生が減少する傾向が観測された。これらの微粒子発生メカニズムを考慮すると、微粒子中にはPuやAm, Cmなどのマイナーアクチニドが混入されると推定された。空気雰囲気中に燃料デブリが長時間曝される条件(保守的条件)での、微粒子発生のモデル式を試算した。
:[https://fdada-plus.info/wiki/nsfr_img_auth.php/e/e9/20211117ToshibaESS.pdf 燃料デブリ経年変化の発生条件の推定(資料41-54ページ)]
:
</li>
</ol>
</ol>
</ol>

2022年4月26日 (火) 10:56時点における版

燃料デブリの経年変化特性の推定技術の開発

    研究開発の目的、事業の概要
    東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、原子炉圧力容器(RPV: Reactor Pressure Vessel)及び原子炉格納容器(PCV: Primary Containment Vessel)内に燃料デブリが存在していると考えられる。燃料デブリの取出しに向けて、取出し作業中及び取出し後の保管中におけるその性状や長期間の安定性を把握しておくことが重要である。
    チェルノブイリ原子力発電所4号機の事故においては、溶融炉心がコンクリート等の構造物を取りこんで、溶融炉心-コンクリート反応(MCCI: Molten Core Concrete Interaction)が起こり、様々な燃料デブリが発生した。これらの燃料デブリの一部は、時間の経過とともに放射線や酸化などによる自己崩壊が進行し、事故から30年以上経過した現時点では、そこから微粒子が発生していることが報告されている。このため、チェルノブイリプラントでは、微粒子が気中に飛散、液中に流出して拡散することで、汚染や被ばくが拡大することが懸念されている。

    他方、スリーマイルアイランド原子力発電所2号機(TMI-2)の事故で発生した燃料デブリは、事故から40年以上経過した現在でも顕著な経年変化を生じず、塊状を維持している。また、事故後に採集したサンプルを分析する際に、酸による液調製が課題であったことが報告されており、TMI-2事故の燃料デブリは化学的に高い安定性を有していると推定されている。
    このような、実際の原子力発電所の過酷事故で発生した燃料デブリの経年変化現象の違いは、どのような原因やメカニズムによって引き起こされているのかは明らかになっていない。
    1F事故プラントからの燃料デブリ取出し時の汚染や被ばくの低減や閉じ込め性能の維持、取出した後の収納・移送・保管方法を検討するために、燃料デブリに経年変化が起きた場合の影響を把握し、その状態変化の重要度に応じて適切な対策を予め講じておくことが必要である。そのために、燃料デブリの経年変化に起因する微粒子化や形態変化、水中への移行挙動等に関する知見を取得することで、1F燃料デブリの経年変化現象を予測しておことが重要となる。
    本研究開発事業では、1F燃料デブリが長期間置かれると考えられる環境下での経年変化の有無を明らかにし、経年劣化が生じる場合には、その様態の経時変化を予測し、それらの基礎知見に基づいて、燃料デブリ取出しや収納・移送・保管等への経年変化現象の影響の有無や程度の推定を行った。

    なお、燃料デブリの経年変化特性の推定技術の開発は、廃炉・汚染水対策事業補助金により、2019-2020年度に、燃料デブリ性状把握のための分析・推定技術の開発事業の一環として公募され、東芝エネルギーシステムズ株式会社、および、ROSATOM/TENEX社の研究提案(合せて2件)が採択され実施された。その成果の概要を以下に示すと共に、公開されている成果説明資料を掲載する。
    燃料デブリ経年変化の要因としては、主に、放射線損傷などによる物理的要因、酸化や腐食などの化学的要因、微生物などによる生物学的要因が考えられる。下記の廃炉汚染水対策事業では、このうち主に物理的要因、化学的要因について検討した。これらとは別に英知事業において、化学的要因(東北大英知事業)と生物学的要因(東工大英知事業)について検討が進められている。

    燃料デブリの経年変化特性の推定技術の開発(東芝エネルギーシステムズ株式会社提案のプロジェクト、2019-2020年度実施)
    Development of Estimation Technology of Aging Properties of Fuel Debris (ROSATOM/TENEX社提案のプロジェクト、2019-2020年度実施)
    東北大事業
    東工大事業



    以下に東芝エネルギーシステム(株)とTENEX社の事業の概要を紹介する。
    燃料デブリの経年変化特性の推定技術の開発の概要(東芝エネルギーシステムズ株式会社提案のプロジェクト、2019-2020年度実施)

    〇 研究項目、目的、進め方、スケジュール(資料:3-6ページ)

    東芝エネルギーシステムズ株式会社の提案は、以下の2個の実施項目((1) 燃料デブリの経年変化の要因として考えられる現象を確認するための試験方法立案及び実施、(2) 1F燃料デブリの化学的経年変化予測)からなる。
    事業は2019年7月から2021年2月に実施された。
    得られた知見は・データは、関連研究プロジェクト(燃料デブリの性状把握のための分析・推定技術の開発、燃料デブリ・炉内構造物の取出し規模の更なる拡大に向けた技術の開発、燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発、燃料デブリ臨界管理技術の開発、固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)に提供された。



    実施内容

  1. 燃料デブリの経年変化の要因として考えられる現象を確認するための試験方法立案及び実施
  2. 1)1F燃料デブリの経年変化要因の設定および評価方法立案(資料:12~19ページ)
    2)燃料デブリの経年変化評価試験(資料:20-52ページ、55~64ページ、67-73ページ)
  3. 1F燃料デブリの化学的経年変化予測
  4. 1)経年変化が発生する条件評価(資料:41,48,50,58~62,64,69~71,73ページ)
    2)燃料デブリの経年変化予測及び影響評価(資料:51~54、65~66、74~76ページ)

    1F燃料デブリの経年変化要因の設定および評価方法立案
    〇 チェルノブイリ燃料デブリの特徴と微粒子化要因の推定(資料:12~14ページ)

    チェルノブイリ原発事故で発生した燃料デブリで見られた微粒子化及び自己崩壊の知見から、1F燃料デブリの経年変化を引き起こす可能性が考えられる要因を設定し、そこで着目したメカニズムに応じた模擬燃料デブリの酸化・溶出試験方法を立案した。
    チェルノブイリ事故で発生した燃料デブリは、コンクリートと溶融反応したことにより、マトリックスとしてガラス状の構造を有し、その内部に、ジルコニウムを固溶した二酸化ウラン、ジルコニウムとウランと酸素の混合物(二酸化物ではない)、チェルノビライトと言われるジルコニウム、ウラン、シリコンを主成分とする混合酸化物、金属鉄、等のミクロな介在物が含有されている。
    チェルノブイリ事故後数十年経過して、燃料デブリの表面に黄色の物質が形成されていることが観測された。XRD分析により、六価ウランによるウラニル相が主成分であることが解明された。チェルノブイリ事故の燃料デブリは、外気に曝されているため、ウラニル相の形成メカニズムは、空気中の酸素、あるいは放射線で形成される過酸化水素による燃料デブリの酸化、炭酸水による酸化および溶出、炭酸ナトリウムとの鉱物化および溶出などのメカニズムに起因すると推定されている。このような化学的な要因による微粒子化は経年と共に進行すると推定される。
    さらに、微粒子発生の要因として、燃料デブリが空隙や亀裂の多い構造であり、そこに侵入した水分の氷結による崩壊、あるいは燃料デブリ形成時の残留応力による亀裂進捗のような、物理的な因子も影響していると考えられる。

    〇 1F燃料デブリの特徴(資料:15ページ、炉内状況推定図)

    1F事故で発生したと想定される燃料デブリは、コンクリート成分を含まず原子炉圧力容器内にとどまっているデブリ(U-Zr-O酸化物を主成分とする燃料デブリ、in-vessel debrisと言う)と原子炉圧力容器から放出されコンクリートと反応あるいはコンクリートの上に堆積しているデブリ(MCCIによるガラス状物質を含む燃料デブリ、ex-vessel debrisと言う)に大別されると考えられている。

    〇 廃炉作業に影響を与える経年変化現象、要因の設定(資料:16~19ページ)

    燃料デブリの経年変化現象としては、組成変化、機械的特性の変化、微粒子形成・飛散、燃料デブリバルクの崩壊(バルク:塊状の燃料デブリのことを言う)等が考えられる。
    燃料デブリの経年変化により、廃炉工程における臨界管理で取扱い時などに燃料デブリが急に形状変化し臨界リスクに影響、燃料デブリ取出し作業で切削等の機械加工において微粒子の飛散リスクを増大、移送・保管中に微粒子が放出・飛散するリスクを増大、等の可能性が考えられる。このため、基礎データとして、燃料デブリバルクの崩壊による微粒子形成に着目した経年変化の要因を設定した。
    今後の廃炉作業で想定される環境変化として、燃料デブリ取出しに向けた原子炉格納容器の負圧管理にともなう空気混入の影響(現状は窒素雰囲気で封入)、水位低下による燃料デブリ表面付着水中の放射線分解による化学活性物質(ラジカル)濃度上昇の影響、取出した後の燃料デブリの空気保管による影響、を想定した。また、微粒子形成メカニズムとして、気中での局所的な酸化進行⇒体積増加・亀裂発生⇒錆の発生・バルク崩壊、のプロセスと、水中での局所的な酸化進行と溶出⇒体積変化・亀裂発生⇒バルク崩壊、のプロセスを想定した。これらのプロセスは、ex-vessel debrisについては、チェルノブイリ事故で形成された燃料デブリと変化の要因が共通すると予想される。In-vessel debrisについては、TMI-2事故で形成された燃料デブリと同様に、このようなプロセスがほとんど観測されない可能性も考えられるが、1F事故では燃料溶融がTMI-2事故よりも進んでいると考えられ、上で推定した微粒子化のメカニズムは共通するため、変化の程度を模擬試験で確認することとした。

    燃料デブリの経年変化評価試験
    〇 調製した模擬燃料デブリ、気中・水中試験項目、1F燃料デブリとの対応(2019年度実施分)(資料:20~22ページ)

    1F事故の模擬燃料デブリを複数作製し、酸化・溶出による経年変化の予測が可能となる試験データを取得した。
    経年変化試験に供した模擬デブリ(9種類)を、資料20ページに示すように調製した。またその組成を資料21ページに、9種類の模擬デブリが模擬している1F燃料デブリの状況を22ページに示した。1F事故の炉内状況推定図に基づき、様々な化学形態の燃料デブリが堆積していると推定されている。

    〇 第1期試験の試験条件、試験方法(資料:23~26ページ)

    模擬デブリは、粉末状の試薬を混合・成形・加熱焼結して調製した。
    気中試験では、ペレット状に成型した模擬デブリを電気炉内に設置し、所定の雰囲気、温度、時間で加熱した。試験前後の模擬デブリの外観と重量の変化、および、発生した微粒子の個数、サイズの分布を測定した。さらに、密度を10g/cm3と仮定して粒子の重量分布を算出した。
    水中試験では、ペレット状に成型した模擬デブリを試験水中に浸漬し、所定温度、時間、カバーガスで放置した。試験前後の模擬デブリの外観と重量の変化、および、溶出元素の重量を測定した。さらに、微粒子が発生していた場合には、その発生量(個数、サイズの分布)を計測した。
    第1期の気中試験では、50℃で500時間放置する条件と、加速試験として110℃で100時間放置する条件を採用した。ここで50℃は気中で取出し・移送・保管における燃料デブリの温度を想定した。同じく水中試験では、30℃で500時間放置する条件と、加速試験として80あるいは90℃で100時間放置する条件を採用した。ここで、30℃は水中で取出し・移送・保管における燃料デブリの温度を想定した。

    〇 第1期試験の結果(資料:27~41ページ)

    第1期試験の試験結果を、資料の27から40ページに、9種類の模擬燃料デブリの気中および水中での微粒子発生試験の試験データとして示す。資料の41ページに、第1期試験における、試験後の観測結果の概要をまとめて示す。二酸化物模擬デブリ(二酸化ウランと二酸化ジルコニウムの固溶物、模擬デブリ種類1)では、気中水中共に微粒子の発生はほとんど見られなかった。水中試験で、微量のウラン溶出を観測した。
    二酸化物とαジルコニウムZr(O)の混合物模擬デブリ(模擬デブリ種類2)では、気中試験においてジルコニウムの酸化に起因するウラン含有微粒子の発生を観測した。#微粒子発生要因その1(気中)
    二酸化ウラン結晶が一部析出しているガラス状の模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類3)では、水中試験において、ウランを過剰に含むガラス状物質の酸化に起因するウラン含有微粒子の発生を観測した。#微粒子発生要因その2(水中)
    二酸化物にまで酸化されていないジルコニウムとウラン(U-Zr-O)がガラス状に形成された模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類4)では、気中水中共に微粒子の発生は観測されなかった。
    金属鉄(Fe)が内部に析出しているガラス状の模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類5)では、気中水中共に鉄が酸化されて鉄錆となり、それを含有する微粒子が発生した。#微粒子発生要因その3(鉄成分の選択的酸化)
    一酸化鉄(FeO)が内部に析出しているガラス状の模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類6)では、気中試験で一酸化鉄の酸化が起こり、それを含有する微粒子が発生した。#微粒子発生要因その3(鉄成分の選択的酸化)
    ガラス状物質のみからなる模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類7)では、水中試験での成分溶出は観測されなかった。
    ホウ素を含有するガラス状物質の模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類8)では、水中試験でホウ素についても成分溶出は観測されなかった。
    ウランとジルコニウムの固溶した二酸化物が内部に析出しているガラス状の模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類9)では、空気雰囲気のカバーガスで実施した水中試験で、二酸化物の酸化度上昇により、ウランを含有する微粒子が発生した。(微粒子発生要因その2)

    〇 第2,3期試験の試験条件、試験方法(資料:42~45ページ)

    第1期試験により、微粒子が発生する条件(燃料デブリの材質と環境の組合せ)がいくつか存在することを確認した(#微粒子発生要因その1~その3)。第2、3期試験では、微粒子発生条件を明確化し、長期変化の予測を行うために、試験計画を立案した。詳細な試験マトリクスを資料43、44ページに掲載している。
    第2、3期試験では、燃料デブリの組成、試験温度、カバーガス雰囲気を、より精緻に設定した。燃料デブリの組成については、微粒子化しやすいαジルコニウムと二酸化物の比率やミクロ組織をパラメータとした。カバーガスについては、様々な廃炉工程を想定し、空気環境、窒素雰囲気、低酸素分圧(微量酸素の窒素雰囲気への混入)をパラメータとした。さらに、変化の長期予測のために、加速試験の温度を変化させて微粒子を形成する主要反応の活性化エネルギーと加速倍率を評価すると共に、より長時間の試験を行って、変化のメカニズムを確認した。

    〇 第2,3期の気中試験結果(資料:46~52ページ)

    第2,3期のうち気中試験の結果を資料46から52ページに示す。以下のような傾向が明らかになった。
    二酸化物とαジルコニウムが共存する模擬燃料デブリ(模擬デブリ種類2)について、気中での微粒子発生は、温度やカバーガス中の酸素濃度の上昇によって増大した。従って、燃料デブリの取出し前や取出し中に、燃料デブリが水中に存在あるいは冷却水に表面を覆われている状態であれば、#微粒子発生要因1に起因する微粒子発生は進行しにくいと予想される。また、燃料デブリの保管において、窒素ガスなどの低酸素分圧で雰囲気管理すれば、気中での微粒子発生を抑制できると見込まれる。
    模擬デブリのミクロ組織については、αジルコニウムの割合が少ないほど微粒子発生は低下した。また、模擬デブリを急速に冷却して調製した試料(ミクロ組織が微細化)では、微粒子発生が低下した。これらの結果から、燃料デブリのミクロ組織は微粒子発生に影響する可能性が推定される。
    燃料デブリ変化の長期予測については、微粒子発生が時間とともに増加するが、その増加傾向は対数的に変化する(今回の試験データでは、時間に対して約0.64乗)ことが明らかになった。発生量低下の要因としては、模擬燃料デブリ表面近傍のαジルコニウムが選択的に酸化し、次第に減少したためと示唆される。

    〇 第2,3期の水中試験結果(酸化物とガラスからなる模擬デブリ)(資料:55~64ページ)

    第2,3期のうち、ウランとジルコニウムの酸化物析出相とガラスマトリックスからなる模擬デブリの水中試験の目的を資料55ページに示す。模擬燃料デブリの特性と水環境を評価因子とした。資料56ページに模擬デブリの調製方法を、資料57ページに結果のまとめを示す。また、結果の詳細を58-64ページに示す。
    燃料デブリ中のウランとジルコニウムの組成の影響を調べるため、ウランリッチの正方晶(c-(U,Zr)O2)とジルコニウムリッチの斜方晶(m-(Zr,U)O2)、および、鉄、ジルコニウム、アルミニウム、ウラン、カルシウム、シリコンの酸化物と炭酸ナトリウムの粉末から調製したガラス状物質が混合する模擬デブリを調製した。この模擬デブリを用いて、浸出温度、浸出時間、カバーガスの雰囲気をパラメータとして、水中での微粒子発生を調査した。
    その結果、水中での微粒子発生量は、温度や平衡酸素分圧、水の交換頻度と相関する傾向を確認した。酸素を含有しない窒素カバーガスでの試験では、水中での微粒子発生はほとんど観測されなかった。カバーガス中に酸素2%含有する条件では水中の微粒子発生が見られ、空気をカバーガスとする条件では、微粒子発生量が若干増加した。模擬デブリのミクロ組織については、αジルコニウムの割合が少ないほど微粒子発生は低下した。また、模擬デブリを急速に冷却して調製した試料(ミクロ組織が微細化)では、微粒子発生が低下した。水交換頻度が増えると微粒子発生が増加する傾向が示された。

    〇 第2,3期の水中試験結果(鉄析出物とガラスからなる模擬デブリ)(資料:67~69ページ)

    第2,3期のうち、鉄あるいは酸化鉄を析出させたガラス状物質の模擬デブリを用いた水中試験の目的を資料67ページに示す。模擬燃料デブリの特性と水環境を評価因子とした。資料68ページに模擬デブリの調製方法を、資料69ページに結果を示す。
    その結果、水中での微粒子発生量は、温度や平衡酸素分圧、水の交換頻度と相関する傾向を確認した。発生した微粒子はいずれも鉄系物質であり、ウランを含有していなかった。微粒子発生は鉄含有量の増加、および、水交換頻度の増加により増大した。

    〇 第2,3期の気中試験結果(鉄析出物とガラスからなる模擬デブリ)(資料:70~71ページ)

    鉄あるいは酸化鉄を析出させたガラス状物質の模擬デブリを用いた気中試験の結果を70、71ページに示す。気中での微粒子発生は温度上昇により増大した。微粒子はほとんどが鉄系物質であり、ウランは含有していなかった。一部試料では、微粒子中にシリコンが検出された。鉄金属が析出している模擬デブリでは、微粒子発生が大きいことが示された。鉄系物質を析出させた模擬デブリの気中、水中試験では、反応の見かけの活性化エネルギーを評価した。

    〇 第2,3期の気中試験結果(酸化物と鉄析出物が混在しているガラス状マトリックスの模擬デブリ)(資料:72~73ページ)

    ウランとジルコニウムの酸化物析出物、および鉄あるいは酸化鉄をそれぞれ析出させたガラス状物質の模擬デブリの調製方法と水中試験の結果を72、73ページにそれぞれ示す。それぞれの析出物どうしの相互作用の効果はほとんど観測されなかった。模擬デブリ調製時に、析出物が化合すると微粒子発生に影響する可能性が示された。

    経年変化が発生する条件評価
    〇 経年劣化要因の推定(資料:41ページ)

    第一期に実施した模擬デブリ経年変化試験により、気中および水中での微粒子発生要因、および、鉄系析出物が介在する微粒子発生要因を推定した。

    〇 気中でのデブリ経年劣化要因の評価(48、50ページ)

    窒素雰囲気(現状で燃料デブリが堆積しているPCV内部を模擬)では微粒子発生は観測されなかった。気中に酸素が含有される条件では微粒子発生が観測され、酸素濃度の上昇にともなって微粒子発生量が増加した。併せて、模擬燃料デブリ中のジルコニウムとウランの比が大きいと微粒子化が進む傾向があること、模擬燃料デブリが急冷され組織が微細化している場合に微粒子化が進みにくい傾向があること、も示された。これらのことから、燃料デブリ取出し前や取出し中に燃料デブリ表面が冷却水に覆われている状態であれば(空気と直接接触しない条件であれば)、また、燃料デブリの保管を窒素ガスなどの低酸素分圧雰囲気で実施すれば、気中条件での微粒子化を抑制できる可能性があると推定された。さらに、燃料デブリの組成や形成条件により微粒子化に影響が出る可能性が推定された。

    〇 水中でのデブリ経年劣化要因の評価(58~62ページ)

    カバーガスが窒素雰囲気(現状で燃料デブリが堆積しているPCV内部を模擬)では微粒子発生は観測されなかった。カバーガス中に酸素が2%含有される条件では微粒子発生が観測され、カバーガスが空気の条件では微粒子発生量が増加した。併せて、燃料デブリ中に酸化物析出物が介在する場合、その選択的酸化による局所体積変化があると微粒子発生が増加する可能性が示された。また、水の交換頻度が大きいと微粒子発生が増大した。水中にウランが微量溶出し、その溶出量はpHの影響を受けることが確認されたが、微粒子発生への影響は見られなかった。これらのことから、燃料デブリ取出し前や取出し中に冷却水中の溶存酸素が制御されている条件であれば、また、燃料デブリの保管を窒素ガスなどの低酸素分圧雰囲気で実施すれば、微粒子化を抑制できる可能性があると推定された。

    〇 鉄や酸化鉄の析出物が介在するデブリ経年劣化要因の評価(69~71、73ページ)

    気中条件では、温度、雰囲気が、水中条件ではカバーガス雰囲気、水の交換頻度が、それぞれ微粒子発生に影響することが示された。また、金属鉄が析出している場合、微粒子発生が増加することが示された。しかし、このメカニズムで発生する微粒子はウランを含有しないことが確認された。析出物中で鉄系物質とウランやジルコニウムが化合している場合にはさらに調査が必要である。

    燃料デブリの経年変化予測及び影響評価
    〇 燃料デブリ経年変化の予測(気中、第1期試験)(資料:51-54ページ)

    経年変化を予測評価するため、試験温度を変化させて温度依存性データを取得し、アレニウス式にあてはめてみかけの活性エネルギー(Ea)を算出した(気中条件での微粒子発生のみかけの活性化エネルギー65 kJ/mol)。そこから、温度加速倍率を下式で評価した。
    Exp [(Ea/R)・(1/T – 1/T’)]
    ここで、Rは気体定数8.3145 J/mol/K、TとT’が温度の違いを示す。
    この評価式から、50℃での微粒子発生に対し、110℃では約40倍の加速化が起こると評価された。温度加速倍率を実温度50℃での時間依存性に換算したところ(参考文献 J.L. Vandegrift et al., Nucl. Mater. Energ. 20 (2019) 100692.)、微粒子発生は、経過時間1.5年までは時間に対しほぼ一定速度で推移すると評価された。この際の評価式は
    y = 0.0048 x
    ここで、yは微粒子発生量(mg/cm2)を、xは経過時間(year)を示す。
    さらに、130℃空気中での加速化試験を経過時間1000hまで追加実施し、微粒子発生の時間依存性の変化を調査した。微粒子発生の増加傾向は時間に対し約0.64乗となった。このことから、経過時間1.5年以降14年までの評価式は
    y = 0.0055 x0.6389
    微粒子発生メカニズムとしては、Zr(O)と(U,Zr)O2が共存する模擬燃料デブリでは微粒子が発生し、二酸化物のみで形成される模擬燃料デブリではほとんど微粒子発生が見られなかった。このことから、時間経過に伴って、微粒子発生速度が漸減する理由として、微粒子発生の主要因と推定されるデブリ表面近傍のZr(O)相が漸減する可能性が示唆される。これらの微粒子発生メカニズムを考慮すると、微粒子中にはPuやAm, Cmなどのマイナーアクチニドが混入されると推定された。気中試験での評価結果のまとめを資料54ページにまとめている。

    〇 燃料デブリ経年変化の予測(水中、第1期試験)(資料:64-66ページ)

    経年変化を予測評価するため、試験温度を変化させて温度依存性データを取得し、アレニウス式にあてはめてみかけの活性エネルギー(Ea)を算出した(水中条件での微粒子発生のみかけの活性化エネルギー50 kJ/mol)。この値は、UO2の気中酸化の活性化エネルギーの文献値150 kJ/mol(参考文献:R.J. McEachem, P. Tayler, J. Nucl. Mater. 254 (1998) 87.)より小さいが、他方で、表層参加の活性エネルギーはより小さい値を示すという文献(参考文献:G. Leinders et al., Inor. Chem. 57 (2018) 4196-4204.)もあり、燃料デブリの酸化のみかけの活性化エネルギーがUO2より小さいのは妥当と推定した。そこから、温度加速倍率を下式で評価した。
    Exp [(Ea/R)・(1/T – 1/T’)]
    ここで、Rは気体定数8.3145 J/mol/K、TとT’が温度の違いを示す。
    この評価式から、30℃での微粒子発生に対し、90℃では約30倍の加速化が起こると評価された。温度加速倍率を実温度30℃での時間依存性に換算したところ(参考文献 J.L. Vandegrift et al., Nucl. Mater. Energ. 20 (2019) 100692.)、微粒子発生は、経過時間0.3年までは時間に対しほぼ一定速度で推移すると評価された。この際の評価式は
    y = 6.0 x
    ここで、yは微粒子発生量(mg/cm2)を、xは経過時間(year)を示す。
    微粒子発生メカニズムとして、水中の溶存酸素濃度に依存することが示された。窒素カバーガスと平行する水中では微粒子発生が確認されなかった。また、(U,Zr)O2相部分が選択的に酸化し、ガラス部分に亀裂が伝播することで微粒子が形成されることが推定された。これらの微粒子発生メカニズムを考慮すると、カバーガスを低酸素濃度で管理することで、水中での微粒子発生を抑制できると考えられる。他方、取出した燃料デブリを乾燥処理・保管する際には、付着した水中に微量の微粒子が発生し、それが乾燥と共に期中に飛散する可能性は残されている。従って、燃料デブリの保管を乾燥空気雰囲気で実施し、付着水の残留を防止すれば、水中での微粒子化は起こらないと考えられる。また、微粒子中にはPuやAm, Cmなどのマイナーアクチニドが混入されると推定された。水中試験での評価結果のまとめを資料66ページにまとめている。

    〇 燃料デブリ経年変化の予測のまとめ(資料:74-76ページ)

    第2,3期に実施した試験では、気中では、微粒子のほとんどがウランを含まず、鉄が主成分であった。鉄金属を含むfガラス状物質では、鉄の酸化による体積変化でガラス状物質の亀裂が発生し、微粒子発生した可能性が示唆された。水中では、微粒子のほとんどがウランを含まず、鉄が主成分であった。微粒子発生量は、水の交換頻度や水中の溶存酸素により上昇した。温度依存性は小さかった。鉄に起因する微粒子発生の場合には、PuやAm, Cmなどのマイナーアクチニドが微粒子に随伴する可能性は低いと示唆される。
    試験条件のまとめ(資料:75ページ)、試験結果に基づく燃料デブリ経年変化予測と影響評価の結果(資料:76ページ)を示す。

    〇 燃料デブリの経年変化特性の推定技術の開発(東芝エネルギーシステムズ株式会社提案のプロジェクト、2019-2020年度実施)の成果まとめ (資料:77ページ)

    本研究では、1F燃料デブリが長期間おかれる環境下での経年変化の発生有無および発生する場合の挙動を明らかにするために、燃料デブリ経年変化の要因を設定し、模擬燃料デブリを用いて気中および水中試験を行い、以下の知見を得た。
    • 気中では、空気雰囲気において、Zr(O)と二酸化物の組織を有する模擬燃料デブリで微粒子発生が見られた。水中では、空気をカバーガスとする平衡水中で、二酸化物の介在物を有するガラス状模擬燃料デブリで微粒子発生が見られた。また、鉄や酸化鉄(FeO)の析出物を含むガラス状模擬燃料デブリでは、気中、水中共に鉄さび形成にともなう微粒子発生が見られた。
    • Zr(O)と二酸化物、あるいは、二酸化物とガラス状物質からなる模擬燃料デブリからの微粒子発生は、試験温度、気中の酸素濃度、水中の溶存酸素濃度などに依存して増加した。酸素濃度を抑制することで微粒子化が抑制される傾向を示した。
    • 微粒子発生の温度依存性から、みかけの活性化エネルギーを算出し、気中、および水中での微粒子発生の経年変化推定式を予備的に求めた。今後、長期予測性の向上や、微粒子発生する燃料デブリの組成条件、環境影響因子の条件を明確にするため、試験データを拡充し、微粒子化挙動をより明確にすることが重要と考えられる。