「上部ルースデブリの詳細分析データ」の版間の差分

提供:debrisWiki
ナビゲーションに移動 検索に移動
79行目: 79行目:
 これらのことから、約973-1073Kで発生するZry被覆管のバルーニングで拡大した燃料ペレットとZry被覆管のギャップに、燃料棒の上部で溶融したU-Zr-Oメルト(#燃料/被覆管界面で形成されるため、形成時は亜酸化状態、[[燃料デブリふるまいの要素現象#.E5.8F.82.E8.80.83.EF.BC.97.EF.BC.9A.E7.87.83.E6.96.99.E6.A3.92.E3.81.AE.E6.BA.B6.E8.9E.8D.E3.83.BB.E7.A0.B4.E6.90.8D.E3.83.A1.E3.82.AB.E3.83.8B.E3.82.BA.E3.83.A0|'''参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム''']])が溶落して堆積したと推定された。メルトがさらに下方に溶落して形成されたボイド中に水蒸気が侵入して、U-Zr-Oメルト中のZrを選択的に酸化することで、ボイド周辺のZr濃化層が成層化して形成されたと推定された。U-Zr-Oメルトは凝固時に相分離するが、亜酸化状態のメルトは、α-Zr(O)、U-Zr合金、Ni-Fe-Cr(-Zr)合金に相分離したと推定された。これは、U-Zr-Fe-O系の平衡状態図からの推定と整合していた。相分離が観察されていることから、1A粒子は徐冷されたと推定された。
 これらのことから、約973-1073Kで発生するZry被覆管のバルーニングで拡大した燃料ペレットとZry被覆管のギャップに、燃料棒の上部で溶融したU-Zr-Oメルト(#燃料/被覆管界面で形成されるため、形成時は亜酸化状態、[[燃料デブリふるまいの要素現象#.E5.8F.82.E8.80.83.EF.BC.97.EF.BC.9A.E7.87.83.E6.96.99.E6.A3.92.E3.81.AE.E6.BA.B6.E8.9E.8D.E3.83.BB.E7.A0.B4.E6.90.8D.E3.83.A1.E3.82.AB.E3.83.8B.E3.82.BA.E3.83.A0|'''参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム''']])が溶落して堆積したと推定された。メルトがさらに下方に溶落して形成されたボイド中に水蒸気が侵入して、U-Zr-Oメルト中のZrを選択的に酸化することで、ボイド周辺のZr濃化層が成層化して形成されたと推定された。U-Zr-Oメルトは凝固時に相分離するが、亜酸化状態のメルトは、α-Zr(O)、U-Zr合金、Ni-Fe-Cr(-Zr)合金に相分離したと推定された。これは、U-Zr-Fe-O系の平衡状態図からの推定と整合していた。相分離が観察されていることから、1A粒子は徐冷されたと推定された。


 さらに、残留していたZry被覆管の外周部の酸化皮膜の膜厚が限定されていること、U-Zr-Oメルトとペレットとの相互作用がほとんど見られないこと、β-Zrが形成されていること、などから、1A粒子のピーク温度は、1400-1500Kと推定された。粒子表面にFeが付着していることで、粒子が赤褐色に見えていた。U-Zr-Oメルト相中にわずかにSS成分が混入されていたことから、事故初期に形成されると考えられる燃料集合体部材相互の共晶溶融反応(例:Zry/インコネル)が、燃料溶融のトリガーになっていた可能性が示唆された。<gallery widths="360" heights="230">
 さらに、残留していたZry被覆管の外周部の酸化皮膜の膜厚が限定されていること、U-Zr-Oメルトとペレットとの相互作用がほとんど見られないこと、β-Zrが形成されていること、などから、1A粒子のピーク温度は、1400-1500Kと推定された。粒子表面にFeが付着していることで、粒子が赤褐色に見えていた。U-Zr-Oメルト相中にわずかにSS成分が混入されていたことから、事故初期に形成されると考えられる燃料集合体部材相互の共晶溶融反応(例:Zry/インコネル)が、燃料溶融のトリガーになっていた可能性が示唆された。
ファイル:ルースデブリ 1.png|'''<big>図3(a) 1A粒子の断面金相(研磨後)</big>'''
[[ファイル:ルースデブリ 1.png|左|サムネイル|500x500ピクセル|'''<big>図3(a) 1A流離の断面金相(研磨後)</big>''']]
 
<gallery widths="360" heights="230">
ファイル:ルースデブリ 2.png|'''<big>図3(b) ボイド周辺の拡大BSI</big>'''
ファイル:ルースデブリ 2.png|'''<big>図3(b) ボイド周辺の拡大BSI</big>'''
ファイル:ルースデブリ 3.png|'''<big>図3(c) U-Zr-O溶融凝固物の拡大金相</big>'''
ファイル:ルースデブリ 3.png|'''<big>図3(c) U-Zr-O溶融凝固物の拡大金相</big>'''

2024年6月27日 (木) 12:22時点における版

 ここでは、参考文献[1]に基づき、上部ルースデブリの微細構造の分析データをまとめる。

上部ルースデブリのサンプリング

 図1に、サンプリング位置を示す。ドリルタイプサンプラーを用い、炉心中央の燃料集合体部位H8と、中間領域の燃料集合体部位E9、から、深さ方向に、計11か所からサンプリングが行われた。サンプル重量は、それぞれ約17~170gであった。分析では、まず、外観観察、粒度分布、かさ密度、線量、がサンプルごとに測定された。次に、溶融凝固の痕跡を有する29個のデブリ粒子を選定し、微細構造分析(SEM/EDX, 金相, オージェ分光分析)が行われた。オージェ分光分析(SAS)では、標準試料を用いて、定量性向上+酸素濃度分析が行われた。これらの分析結果に基づき、上部ルースデブリ粒子は、5グループに類型化された。

  Type-I 破砕されたペレット

  Type-II 酸化・破砕された燃料被覆管

  Type-III 燃料棒の溶融凝固物: (U,Zr)O2

  Type-IV 金属材料の溶融凝固物

  Type-V 燃料棒成分と構造材成分の酸化物の混合物

さらに、サンプルの一部が、酸溶解され化学分析/放射線分析が行われた。また、自然発火性、脱水性等に対して、実デブリ粒子を用いた検証試験が行われた。

 図2に、詳細分析に供された29個の粒子の外観写真を、サンプル採集場所、粒子のサイズ、Type-I~Vの分類とあわせて示す。なお、3L,3M粒子については、元の文献に外観写真が掲載されていない。粒子タイプについては、多くの粒子が5グループの成分の混合・凝集物となっていた。

図1 上部ルースデブリのサンプリング位置[1]























.

上部ルースデブリ粒子の微細組織の分析結果

 微細組織の分析方法において、以下が特記される。

 #BSI(Back-Scattered Electron Image)は、重元素の存在部位が明るく、軽元素の存在部位が暗く、示されるため、デブリ粒子内部での元素の概略分布を理解するのに有効である。

 #EDX(Energy Dispersed X-ray)分析は、酸素、炭素などの軽元素の検出感度や分析精度が低いため、この文献では、金属成分の比のみが示されている。

 #金相写真(Metallograph)は、研磨後(as-polished)、エッチング後(after atching)などで撮影されている。エッチングすることで、結晶粒界などが選択的に溶融するため、結晶粒のサイズや分布などの微細構造がより明らかに示される。また、故意に強くエッチングすることで(オーバーエッチング)、酸溶融しにくい部分だけが取り残され、デブリ粒子中の元素分布が観察しやすくなる場合がある。

1A粒子(炉心中央、表面から採集)

 図3(a)に、1A粒子の断面金相写真を示す。前述の図2(a)に粒子の外観写真を示す。写真上部にZry被覆管の一部が、下部に燃料ペレットの残差が確認できる。両者の間には、U-Zr-Oメルトの凝固層が存在しており、さらに、その内部に断面が楕円形形状のボイドが形成されていた。また、Zry被覆管の外表面には酸化皮膜が形成されていた。図3(b)に、ボイド周辺を拡大して撮影したBSIを示す。Zry被覆管の外周に軽元素が付着していること、Zry被覆管とUO2ペレットとの間の物質は、Zryより明るく示され、Uが多く含有していること、ボイド周辺には、暗く見える層が存在し、おそらく選択的に酸化したZrが濃化していること、などがわかる。EDX点分析により、Zry外表面の付着物はSiとCaをわずかに含むFeが主成分であることが示された。また、図3(b)の領域6の面分析により、U-Zr-Oメルト領域はZrリッチで、Zrを約87wt%、Uを約11wt%含むこと、Niが約2wt%と微量のCr,Feが含有されていることが示された。図3(c)(d)に、図3(b)の領域7周辺の拡大金相と拡大BSIをそれぞれ示す。金相からは、2種類の合金相が析出していることがわかる。コントラストを変えて撮影したBSIでは、Uリッチの明相(U,Zr合金相と推定)とα-Zr(O)相が、凝固時に析出していること、ボイド周辺でZr酸化物が濃化していることが確認できる。さらに、ボイド周辺の酸化物層は2相に成層化しており、ボイドに近い部分ではほとんどZrO2から、中間層はほとんど(U,Zr)O2からなっていた。わずかにSnが検出された。また、残留していたUO2ペレット内には、わずかにFe-Zrからなる金属相が侵入していた。ペレット内の結晶粒サイズは10ミクロン程度であり、ほとんど結晶成長は見られなかった。さらに、Zry被覆管の歪み程度とペレットと被覆管のギャップ幅が約1mmほどに拡大しており、Zry被覆管は事故時の内圧上昇によりバルーニングしていたと推定された。U-Zr-Oメルトと燃料ペレットおよびZry内面はよく濡れていたが、ほとんど相互作用は見られなかった。

 これらのことから、約973-1073Kで発生するZry被覆管のバルーニングで拡大した燃料ペレットとZry被覆管のギャップに、燃料棒の上部で溶融したU-Zr-Oメルト(#燃料/被覆管界面で形成されるため、形成時は亜酸化状態、参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム)が溶落して堆積したと推定された。メルトがさらに下方に溶落して形成されたボイド中に水蒸気が侵入して、U-Zr-Oメルト中のZrを選択的に酸化することで、ボイド周辺のZr濃化層が成層化して形成されたと推定された。U-Zr-Oメルトは凝固時に相分離するが、亜酸化状態のメルトは、α-Zr(O)、U-Zr合金、Ni-Fe-Cr(-Zr)合金に相分離したと推定された。これは、U-Zr-Fe-O系の平衡状態図からの推定と整合していた。相分離が観察されていることから、1A粒子は徐冷されたと推定された。

 さらに、残留していたZry被覆管の外周部の酸化皮膜の膜厚が限定されていること、U-Zr-Oメルトとペレットとの相互作用がほとんど見られないこと、β-Zrが形成されていること、などから、1A粒子のピーク温度は、1400-1500Kと推定された。粒子表面にFeが付着していることで、粒子が赤褐色に見えていた。U-Zr-Oメルト相中にわずかにSS成分が混入されていたことから、事故初期に形成されると考えられる燃料集合体部材相互の共晶溶融反応(例:Zry/インコネル)が、燃料溶融のトリガーになっていた可能性が示唆された。

図3(a) 1A流離の断面金相(研磨後)

1B粒子(炉心中央、表面から採集)

 図4(a)に、1B粒子の断面金相写真を示す。前述の図2(b)に粒子の外観写真を示す。燃料ペレットのおよそ1/4断面が確認される。また一部(図中の領域H)に溶融凝固物が付着していることがわかる。ペレット内部と、付着物がある領域の拡大金相写真を、図4(b)(c)にそれぞれ示す。ペレット内部では、結晶粒のサイズが最大でも12ミクロンで、ほとんど結晶成長していないことがわかる。一方、付着物はペレットに比べて稠密であり、わずかにペレットの結晶粒界面に侵入していた。EDX分析により、付着物はU-Zr-Oの溶融凝固相と評価された。また、付着物相内に濃度勾配があり、ペレット側に近づくにつれて、U濃度が増加した。

 これらのことから、1B粒子は、Zry被覆管が破損して、破砕した燃料ペレットが露出したものと推定された。結晶粒がほとんど成長していないこと、および、U-Zr-Oメルトが付着していたことから、ピーク温度は<2200Kと推定された。さらに、U-Zr-O相が相分離していないことから、1B粒子は急冷したと推定された。

1E粒子(炉心中央、表面から採集)

 図5(a)に、1E粒子の断面金相写真を示す。前述の図2(c)に粒子の外観写真を示す。粒子の中央には、溶融凝固したZry被覆管が存在し、図中で下の方には、燃料ペレットがわずかに残留していた。両者の界面には、反応層が形成されており、その内部には、還元されたU金属がわずかに存在していた。図中上の方には、ZrO2酸化皮膜層が見られ、さらにその外表面には(U,Zr)O2の溶融凝固層が付着していた。これらのことから、1E粒子は、破損したZry被覆管が主成分であり、その内表面に燃料ペレットが、外表面には、上方から溶落してきた二酸化物デブリが付着して形成されたと考えられた。図5(b)に、燃料ペレットとZry被覆管の界面の拡大BSIを示す。燃料/被覆管界面では、事故時に成分が相互拡散し、複雑な拡散経路を構成することが知られているが[参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム)、1E粒子で形成された拡散経路が確認できる。Point-1~11について、EDX点分析が行われており、Uが界面を通じてZry側に拡散し、様々な反応層が形成されたことがわかる(U-Zr合金相、(Zr,U)O2相、α-Zr(O)相)。さらに、特筆すべきこととして、界面層の一部(おそらく金属相中)にFe,Crが検出された(Point-7)。ペレット内の結晶粒は平均30ミクロン程度に成長していた。Zry被覆管のバルク部分は、酸素固溶したα相(α-Zr(O))とβ相(β'-Zr)から形成されており、いずれも溶融凝固した痕跡が見られた。

 図5(c)には、Zry被覆管とZrO2皮膜の界面の拡大BSIを示す。Zry被覆管側は、主にα-Zr(O)とZrO2に相分離していた。他方、ZrO2皮膜側では、バルクはZrO2相だったが、成分拡散の痕跡を示す、ひも状の構造が観測された。この構造はZr金属を主成分とし、わずかにUを含有していた。これは、外周部に付着した(U,Zr)O2溶融凝固物から、ZrO2皮膜内部を還元されたUが拡散してきたことを示唆している。また、Zry/ZrO2界面には、Al,Fe,Crを多く含む層が存在していた。Alは、可燃性毒物棒(Al2O3-B4C)由来と推定された。図5(d)には、(U,Zr)O2とZrO2の界面の拡大BSIを示す。(U,Zr)O2領域では、比較的均質にUとZrが分布しているのに対し、ZrO2領域では、Uがひも状に濃化している様子がわかる。Point-1~4および、その周辺の面領域について、EDX分析が行われた。付着物のバルクでは、平均で11wt%U-89wt%Zrという組成であったが、ZrO2層内のひも状領域では、39.9wt%U-60.1wt%Zrという値が得られた。また、界面には、Al,Fe,Cr,Snなどを含むZr相(酸化物と推定)が存在していた。図5(e)には、付着物から、ZrO2皮膜にかけてのBSI像に、オージェ分光分析での元素濃度点分析部位を重ねて示す。界面からの距離によって、U,Zrに濃度勾配があること、また、酸素濃度が二酸化物の値である66.6at%に対して、外周部でやや高く、界面近傍でやや低いことがわかる。

 これらのことから、1E粒子は、Zryの溶融温度(~2245K)以上の温度に到達し、内側ではペレットとZry被覆管の相互作用、外側では、付着した(U,Zr)O2メルトとZrO2皮膜の相互作用が発生していたと推定された。また、図5(d)(e)で確認されるように、(U,Zr)O2付着物中の組成は比較的均質であり、この部分が>2800Kで一時溶融していたと推定された(おそらく、燃料棒上部で>2800Kで溶融し、この部位に移行して付着)。付着物の外表面で、酸素濃度が66.6at%を超えていたことから、外周部では、凝固時に水蒸気と反応して酸化度が上昇したと推定された(#温度上昇局面では、相当量の水素が発生するため、66.6at%を大きく超えるような酸化度には到達しにくい。参考7:燃料棒の溶融・破損メカニズム参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇)。また、Zry被覆管が溶融すると、そこに向かって、付着物から酸素が内包拡散したと推定された。このため、ZrO2酸化皮膜内で酸素が欠損し、ひも状の金属相が形成されたと推定された。それぞれの拡散層内でUやZrに濃度勾配があることから、1E粒子は徐冷されたと推定された。また、界面近傍にAl,Fe,Crなどを含む相が形成されていたことから、可燃性毒物棒が比較的初期に溶融開始し、燃料溶融のトリガーになっている可能性が示唆された。


1H粒子(炉心中央、表面から採集)

 図6(a)に、1E粒子の断面金相写真を示す。前述の図2(d)に粒子の外観写真を示す。

参考文献

[1] D.W. Akers, E.R. Carlson, B.A. Cook, S.A. Ploger and J.O. Carlson, TMI-2 core debris grab samples -Examination and analysis, GEND-INF-075-PT-1 and GEND-INF-075-PT-2, 1986.