「上部プレナム構造物取り外し計画の概要」の版間の差分
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=== デブリ除去ツール === | === デブリ除去ツール === | ||
スライドハンマー方式を基本に、様々なデブリ除去ツールの候補概念について、機能確認試験を実施した。機能確認試験に用いる模擬試験装置は、CRGA1体と2x3の上部格子を模擬して製作した。模擬の上部端栓を、Agで上部格子にろうづけ、あるいは溶接し、機能確認試験を行った。その結果、スライドハンマー方式を採用することで、機械的な固着やAgのろうづけ程度の融着であれば、端栓の中央を打撃することでうまく外れることが確認された。しかし、上部格子と端栓が相互に溶融して融着していた場合、チゼルのようなツールが必要かもしれないと結論された。 | |||
'''図9'''に、採用されたデブリ除去ツールの模式図を示す[6]。長尺部は6.7m長で、全重量約25kgの、デブリ除去ツールが3タイプ設計製作された。機能確認試験の結果を反映し、打撃を上部端栓の中央に均質に伝えるため、レファレンスタイプでは、先端構造はh型となっている。このほかに直線型、オフセット型(打撃位置が中央からはずれている方式)が準備された。先端以外は共通設計となっている。長尺ツールの上部に円環状のスライドハンマー(約11kg)を取り付け、これを手動で約1m引き上げてから落下させることでツールの先端構造に衝撃を与え、デブリを打撃して撤去する概念である。作業者は上部にあるT型ハンドルを用いて、打撃軸の位置決めを行う。また、高さ位置をマーキングし、打撃によってどこまで位置がさがったかが確認できる構造であった。 | |||
この他に、付着ルースデブリを除去するために、高圧水によるフラッシングも併用された。 | |||
=== 最終リフト用の移送ツール === | |||
通常の燃料交換では、燃料移送Canalを水没させずに、ポーラークレーンからPendantなどの吊り具を降ろして吊り上げ、プレナム構造物を貯蔵スタンドまで移動する。しかし、プレナム構造物に本来取り付けられていた吊り上げラグの固定ボルトの残留強度は検証できない。さらに、プレナム構造物はひずんでおり、高線量で、移送作業全てを遠隔作業で行う必要があった。各種の吊り具について、以下のような検討が行われ、一部は新たに設計製作された。 | |||
==== ポーラークレーン ==== | |||
ヘッド取り外し前に実施された負荷試験で170トンまで使用可能であると検証された。プレナム構造物はヘッドより軽く、様々な吊り具の重量を追加しても、ポーラークレーンが使用できると判断された。ポーラークレーンは、約10cm/分の低速運転モードから、約80cm/分の高速運転モードまで可変可能であった。ポーラークレーンの横移動は、移動トロリーで行われた。その移動速度は、約15cm/分の低速運転モードから、約約7m/分の高速運転モードまで可変可能であった。しかし、クレーンのブリッジは、最初のおよその位置決めのみに用い、移送作業中は固定された。クレーンの操作は、遮蔽エリアから遠隔で行われた。 | |||
==== ロードセル、Tripod ==== | |||
プレナム構造物と吊り具の重量は、水中で約50トン、大気中で約57トンと評価された。Pendant3個の能力は75トンであり、最終リフトの諸段階で、このキャパシティを超える可能性があった。そこで、約200トンの耐荷重をもつロードセルが、ポーラークレーンとTripodに取り付けられた。Pendantとロードセルの荷重をバランスさせながらプレナム吊り上げとレベリングが行われた。重量物リフトの専門家が、遮蔽スペースで、作業を指導した。 | |||
荷重を分散させるためのTripodは、ヘッド取り外しと同じものが使用された。 | |||
==== Pendant ==== | |||
プレナム構造物の最終リフトでは、Pendant先端が水没するため、約7cm径のSS棒製であらたに3本のPendatが設計製作された。全長約5.2mで、1本は固定長さ、2本は±約15cm可変できるタイプであった。1本ずつのPendantの耐荷重は25トンであった。'''図10'''に、Pendant取り付け治具を示す[6]。ペンダントの下端は、伝達ブロックとアームからなっており、約5cmサイズのピンに取り付けられている。このピンが、プレナムリフト時かかる横方向モーメントがPendantに伝わるのを防止する。ペンダントを引き上げることで、アームが固定される。 | |||
==== Hydra-set ==== | |||
ここから、、、 | |||
レベリングのツール。窒素による空圧で稼働する油圧式。Tripodとpendantの間に取り付け。 | |||
±6インチの長さ可変。25トンキャパ。計器盤の例(図7、こういうのをカメラで監視しながら運転) | |||
Hydra-setsはバブル式水位計と連動。プレナム側のkeywayとIIFや容器型のkeyの固着可能性に対し、正確なレベリングが必要。 | |||
'''フレキシブルプラスチックコンテナ'''がtubular truss frame(管状トラスフレーム?三角形状を維持するフレーム)の上での、移動時の汚染バリアとして新たに設計。Canalの水とプレナムが接触しないように、圧力容器内の水が入り込まないように | '''フレキシブルプラスチックコンテナ'''がtubular truss frame(管状トラスフレーム?三角形状を維持するフレーム)の上での、移動時の汚染バリアとして新たに設計。Canalの水とプレナムが接触しないように、圧力容器内の水が入り込まないように | ||
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2025年2月5日 (水) 17:46時点における版
圧力容器ヘッド取り外しの後に、上部プレナム構造物が撤去された。上部プレナム構造物は、直径4m、高さ3.5mのボルト締めと溶接で組み立てられたSS製の構造物であり(設計重量55トン)、図1に示すように、炉心上部の炉心サポート遮蔽内に設置されていた[1]。プレナム構造物は、運転中に、燃料集合体の上部を固定し、制御棒挿入のガイドとなる役割を持っていた。このため、正確な位置合わせが必要であり、精密なオス/メス構造(key/keyway構造)により、炉心サポート遮蔽との間のクリアランスは1.3mm、燃料集合体との間のクリアランスは0.25mmであった。Quick Look調査により、事故時の高温で、炉心上部が大きく損傷していることが確認された。また、上部格子の下部は一部溶融し、上部端栓や燃料集合体の残留上部が上部格子に固着or融着していた。また、プレナム構造物が高温で歪み、設計条件のクリアランスは閉塞していると推定された。したがって、通常の方法で吊り上げるのは難しいと判断された。 一方で、プレナム構造物の撤去が、通常の燃料交換作業時の手順と同様に、大気中で一体物として実施できるかどうかを判断する必要があった。付着デブリや放射化による線量が大きかったり、事故時の高温で十分な構造強度が担保されない場合には、燃料移送Canal全体を水没させ、プレナム構造物を水中で取り外す方法を採用する必要が指摘された。これは、以降の燃料取り出し工法にも大きく影響する重要な判断ポイントであった。当初は、図2に示すように、燃料交換Canalを全水没させ、水中でプレナム構造物を吊り上げ、Canalの端にある貯蔵スタンドに移送する方法が検討された[2]。しかし、Quick Look調査で、圧力容器内での燃料損傷が激しいことが確認され、図2の工法では、汚染水の処理量やリークが課題になること、燃料デブリの取り出しをすべて遠隔で高台の作業エリアから行う必要があること、などが課題として指摘された[2]。
そこで、プレナム構造物内部の調査を行って、損傷状態や周辺構造物との固着程度や付着デブリの状態を確認し、大気中での撤去が可能かどうかの検討と、付着デブリの除去作業、さらに必要があればフラッシングによるプレナム構造物のクリーニング作業を実施することとなった。Quick Scan調査の結果などを受けて、プレナム構造物撤去の第一段階として、冷却水中で初期リフトを行い、その位置でさらにプレナム構造物の状態調査と付着デブリの除去を行いつつ、大気中での最終撤去(Final Lift)が可能かどうかが判断されることとなった[1,4]。初期リフトでは、油圧ジャッキにより2段階で約18cmジャッキアップされた。初期リフト位置で約5か月保持され、内部調査やデブリ撤去作業が行われた。並行して、プレナム構造物撤去とデブリ取り出し方法に関する最終レビューが行われ、プレナム構造物は完全遠隔作業で大気中で撤去し(Dirty-Lift工法)、Canal最深部に貯蔵すること、燃料デブリ取り出しは、IIF上に設置される遮蔽付きの回転式作業プラットフォーム(SWP: Shielded Working Platform)からの長尺ツールによる手作業で実施すること(完全遠隔ロボット方式は採用しないこと)が決定された[4,5]。
ここでは、プレナム構造物の調査、付着デブリの除去、ジャッキアップと最終吊り上げ・移送の方法、モックアップ試験、などについてまとめる。
参考: Quick Look調査
参考: 圧力容器ヘッド取り外し:Underhead Characterization
プレナム構造物の内部調査
プレナム構造物を一体物で取り外せるかどうか、および、固着or融着している上部端栓や燃料集合体上部を撤去できるかどうかを確認するためのビデオ画像が行われた[1,3]。ヘッド撤去後にIIF上に設置されていた、仮設作業プラットフォームからいくつかのパネルをとりはずし、冷却水中にビデオカメラを吊り降ろし、プレナム構造物と周辺の画像調査が行われた[1,3]。プレナム構造物内部では、69本の制御棒案内構造物(CRGA:Control Rod Guide Assembly)が、上部ではプレナムカバーに溶接され、下部では上部格子にボルト締めされ(図1)、プレナム構造物の構造強度を保証していた。
具体的な調査個所は、
(i) プレナムカバーと圧力容器側のフランジ表面:付着デブリの堆積状態、プレナム構造物とフランジのクリアランス、油圧ジャッキ設置位置の表面状態、等の確認
(ii) 炉心サポート遮蔽とプレナム構造物の円環状の接触状態:LOCA bossなどの構造物とのギャップ、接触状態、付着デブリの状態、等の確認
(iii) プレナム構造物内部と底部:CRGAと上部格子リングのボルト締めの状態(#一体物で吊り上げ可能かどうか)、APSR残留状態(#プレナム構造物内に残すか、炉心部に落とすか)、上部端栓や燃料集合体の固着量、等の確認
であった。ビデオ調査により、プレナム構造物が若干歪んでいることが初めて確認された。しかし、歪みは最大1cm程度であり、溶接部やボルト締め部はほとんど損傷や腐食がなく、機械的に吊り上げ可能と判断された[1]。
また、プレナム構造物の下の方に燃料デブリがぶら下がっていることが確認された(#Quick Look調査で推定されていた物量よりも多い量であった)。上部格子の底面パッドには一部損傷があった。プレナム構造物の下部(制御棒案内管の下の方)に、比較的多くの燃料デブリがあることが検出された。プレナム構造物に付随して圧力容器外に持ち出される燃料成分を減らすため、固着している上部端栓をたたき落とすツール(スライドハンマー)が開発され、デブリ除去作業が行われた[1,3]。この段階で、APSR挿入試験で挿入され残留していたAPSRも撤去された。
参考: APSR挿入試験
初期リフト
炉心サポート遮蔽のフランジの上に、あらたに設計製作された油圧ジャッキ4基(図4)を設置し、2段階にわけて約18cmの初期リフトが行われた。油圧ジャッキをプレナム構造物の4つの角の外側に設置し、相互にレベル調整しながらジャッキアップが行われた。
まず、プレナム構造物が5cmジャッキアップされ、支持格子と離れていることが確認された。あらかじめ、スライドハンマーで、固着していた上部端栓や燃料集合体が除去されていたが、ビデオ調査により、大きな付着デブリが残っていないことを確認してから、合計で約18cmジャッキアップされた。この段階で、付着デブリがさらに落下した。初期リフト後に、約5か月間、この位置でプレナム構造物が保持され、内部調査と付着デブリの除去が行われた。その結果、構造強度は一体物としてのFinal Liftに十分であること、遮蔽エリアからの完全遠隔作業で実施すれば大気中での移送が可能であること、付着デブリの物量が少なく移送時のバリアは必要ないこと、などが判断された。一方で、本来の吊り上げラグの強度やプレナム内の機械的な接合部の強度は保証できないため、新たな吊り上げペンダントをプレナムの溶接部に取り付けて最終リフトする必要があると判断された[1]。
初期リフトに向けて、作業プラットフォーム、ビデオ調査ツール、マニピュレータ、モニタリング系、通信系が整備された(後述)。さらに、油圧ジャッキアップシステム、バブル型水位計、ぶら下がりデブリの除去ツール(スライドハンマー)が新たに設計製作された(後述)。
初期リフト後の内部調査により、Canal浅瀬部分をドライに維持して準備作業を効率的に行い、完全遠隔操作でプレナム移送が実施できれば、作業員の被ばくを抑制しつつ大気中での最終リフトと貯蔵が可能と判断された[1,4]。この工法変更により、以降の燃料デブリ取り出しも、より信頼性の高い方法で行うことができると判断された。
最終リフト
最終リフトでは、まず、プレナム構造物に水中で吊り具を取り付け、初期リフトで使用した油圧ジャッキなどを撤去する。次に、IIF上部の作業プラットフォームを撤去して、ポーラークレーンでプレナム構造物を圧力容器上部の待機中に吊り上げ、横移動させて、Canal最深部の冷却水中にある貯蔵スタンドの上に格納する。プレナム構造物撤去後ただちに、IIF上に作業プラットフォームを設置し、燃料デブリ取り出し準備作業を開始する。このために、以下の作業が行われた。
建屋側の準備作業
以下の準備作業が行われた[1]。これらの作業では、ヘッド撤去作業で得られた教訓が反映された[7]。
- ポーラークレーンへの直接アクセスルートの整備:ワイヤーロープで動く足場を設置し、ポーラークレーンが故障した場合に修理担当者が短時間でアクセスできるように
- プレナム位置決めカメラ、ポーラークレーンのターゲットカメラ、レベルゲージ、などをバックアップも含めて取り付け・整備
- プレナム構造物が吊り具から外れなくなった場合の代替手順の整備と訓練:Tripodにブリッジ側から移動足場でアクセスして、ペンダントの上のピンをとりはずす方法を準備。この場合、ペンダントはプレナム構造物側に一時的に残るため、ペンダントごと貯蔵できるように貯蔵スタンドを準備
- 作業員の監視・待機エリアの整備:主要機器のトラブル対応要員も待機
- ポーラークレーンのメンテナンス、年1度の点検をプレナムリフト直前に実施
- 不測の事態が発生した場合、燃料移送Canalにホウ酸水を注水できるように準備
- Canal最深部とCanal浅瀬の間に金属製のダムを取り付け、最深部の水位をかさまし、Canal最深部の冷却水処理系を設置・稼働開始
- IIF周囲に、回転式作業プラットフォームの支持台を設置(#プレナム落下事故の際に、CSPを守る)
プレナム構造物の調査と除染
初期リフト後に、以下の調査が行われた[1]。
- 最終リフトルートの確認(#圧力容器から上に抜けるように)
- 水中カメラで、吊り上げラグの状態確認
- IIFと圧力容器の固定状態の確認(#プレナム構造物をリフトアップしても、IIFのリークタイト状態が影響を受けないことを確認)
- プレナム構造物の除染(#デブリがまだ付着、この段階では、CRGA内にホースを挿入し、高圧ポンプでホウ酸水を注水する方式)
- 最終リフトツール、観測ゲージ、監視カメラの取り付けと油圧ジャッキの回収(#リフト方式が変わる際に発生する、プレナム構造物の回転モーメント対策)
プレナム移送チーム
現場作業チームは、吊り上げ作業責任者、Hydra-set(プレナム移送中のレベリング装置)運転員、ポーラークレーン運転員、線量計技術者で構成された。指揮センターには、炉主任、タスク責任者、建屋立ち入り責任者、安全部局の責任者、被ばく管理の責任者が待機した。実作業の前日にドライランが行われた(後述)。
プレナム移送作業
第一段階で、安定に水平移動できる位置まで約5.8m吊り上げられ、IIFトップの位置関係がビデオで確認された。目標値は、作業プラットフォームの上15cmとされたが、実際にはそれより15~30cm上まで吊り上げられた。ついで、1時間以内に、Canal最深部への移送に障害がないこと、プレナム構造物のレベリングとPendantごとの荷重制限が所定値以内に維持されていることが確認された。一方で、プレナム撤去により圧力容器内の水位が約40cm低下した。
第二段階で、Canal最深部まで水平移動が約1時間かけて行われた。Canal浅瀬に設置したビデオカメラにより、約2m上を通過したプレナム構造物下部の損傷状態が撮影された。損傷は局所的で、一部で上部格子が溶融し溶け落ちていた(図5)。設計値では、プレナム構造物と吊り具の合計重量は約66トンだったが、最終リフトでの実測値は約44トンであった。ビデオ映像からは、事故時の損傷による脱落重量は約1トンと推定された。設計重量と実測値の違いは、プレナム構造物に実物が設計図面と異なっていたためと判定された。
第3段階で、貯蔵スタンド上のカメラで位置決めを行い、約1時間かけて約6.4m吊り降ろされた。プレナムの着座でにより、Canal最深部の水位が約15cm上昇した。次の現場作業クルーに交代して吊り具の取り外しが行われた。
ヘッド取り外しの教訓を活かして準備することで、プレナム構造物撤去は、実質約3時間で終了することができた。
教訓
ヘッド取り外しと同様に、プレナム構造物撤去後すぐに反省会が開催され、教訓がまとめられている[1]。
統合システムのチェックについて
製造業者のチェックリストは、TMI-2現場での実際の使用条件ではなく、仕様書に記載された要件を満たしている。したがって、重要機器や特殊機器については、建屋内で使用する前に、統合システムとして機能確認、モックアップを行うのが重要である。このようなオンサイトチェックは、建屋内の他の装置ツールとのインターフェースをできるだけ忠実に再現して実施すべきである。ヘッド取り外しで得られた教訓を反映し、プレナム最終リフトではこの方式が採用され、いくつかの修正が行われた。デブリ取り出しでもこのような統合システムのチェックが必要である。
完成製品のサイズについて
いくつかの現場部品の実測サイズは本来の設計図と異なっていた。重要部分については、設計図の値を用いるのではなく、現場で実測する必要がある。燃料デブリ取り出しにおいては、長尺ツールなどの不要な作り直しにつながりかねないとされた。
トレーニングとドライラン
モックアップ装置を用いたトレーニングは、作業の効率的で安全な進捗と、ALARAの観点で非常に有効である。特に、前日に実施したドライランが極めて有効であった。プレナムリフトの現場作業で障害になりそうな箇所をあらかじめ確認できた。具体的には、ポーラークレーン吊り上げ後のプレナムの位置決めで問題が発生し、高線量環境が長時間化した可能性が指摘された。燃料デブリ取り出しでも、ドライランが有効である。
ドライラン(Dry Run)とは
技術レビュー委員会の指示で、本作業の前日に、本作業と同じチームで、本作業のリハーサルが実施された[1]。
- チェックリスト確認:現場チームリーダーが、すべての機器が正しい位置にあり、適切に運転されていることを確認
- 吊り上げ具の最終確認:ツールに損傷がないこと、ピンにゆるみがないこと、ケーブルがただしく止められていること、不要な電気接続が外れていること、など確認
- ポーラークレーンのプレナム上の位置取り確認、移送ターゲットの確認、不測の事態のクレーンへのアクセス確認、クレーンの作動試験、各種吊り具をプレナムの真上まで移動するテスト実施、ケーブル着脱テスト、ケーブルマネージメント系の動作確認
- ポーラークレーンの貯蔵スタンド上の位置取り確認、トロリーでクレーンを移動、ケーブル着脱、ケーブルマネージメントの確認、着座ターゲットの確認、貯蔵スタンドの近くまで吊り具を移動するテスト、クレーンをもとの位置に戻すテスト(#この際に、Tripodと配管系の干渉が見つかり、移送ルートを修正)
- Pendantとリブの取り付け試験、水中カメラで監視しつつ、取り付け。若干吊り上げ負荷をかけ、ロードセルの動作を確認
- リフト側のセットアップ確認後に、バブル水位計と監視カメラ取付、レベルゲージ取り付け、レーザー系の動作確認、監視カメラの位置確認、Hydra-setの位置をロック、ロードセルの動作確認、線量計の動作確認、通信系の動作確認
- その後、ポーラークレーン以外の設備には一晩中通電(本作業でのウォームアップ時間を短縮するため)
プレナム構造物撤去用の設備・ツール
プレナム構造物撤去ツールについては、B&W社が設計し、現場作業はGPU社が担当した。主に、以下の設備・ツールが設計製作された。
- ポータブル作業プラットフォーム
- プレナム内部や周辺の調査ツール
- 初期リフト用に油圧ジャッキ
- ぶら下がりデブリ撤去ツール
- 最終吊り上げツール
- モックアップ試験設備
また、途中で工法が変更されたために製造されなかったが、
- プレナム移送バリア(TCB: Transfer Containment Barrier)
- 貯蔵スタンド
の予備設計が行われた。
設計での要点は、作業員被ばくのALARAコンセプトであり、信頼性が高いこと、作業時間が短縮されること、他の設備・ツールとの安全性/作業性が一貫していることが重視された。また、汚染を拡散しないために、できるだけ隙間のない構造を持つ機器が製作された。これは、取り外し時の汚染水の付着をできるだけ減らすためであり、この設計コンセプトにより、使用後の除染作業が容易になった。
ポータブル作業プラットフォーム
図6に模式図を示す。レール構造の上に、ユニバーサル構造の遮蔽付き鉄プレート(1cm厚)を複数枚設置する。鉄プレートには3cm径の穴があけられており、IIF上に設置された作業プラットフォームの一部を交換して設置された[3]。
調査ツール
プレナム構造物内部と周辺の主な調査個所は、(a)油圧ジャッキの接地面、(b)プレナム構造物と炉心サポート遮蔽とのクリアランス、(c)上部プレナム構造物内の接合箇所や溶接個所、(d)付着デブリやぶら下がりデブリの状態、であった。2種類のカメラ(4cm径、7.3cm径)、光源、カメラ制御系、モニター、レコーダーが準備された。各メーカーのカメラを比較(感度、コントラスト、解像度、走査の直線性、SN比)し、候補機材と光源を選定した上で、濁った水中で機能確認試験が行われた。各メーカーの使用実績の比較も行われた。ビデオカメラをオーバーヘッドクレーンで吊り降ろし、オペレーターが細かい位置決めを実施する方式であった(#オペレーターが重量を保持する必要はない)。ハンドリング部と調査先端部は、取り換え可能であった。
ビデオカメラ用のマニピュレータは、ソフトケーブルでの吊り下げ方式(#Quick Look調査と同様)と固定長ポールの先端に取り付ける方式が用いられた。前者は、作業員の熟練が必要だが、ポールがアクセスできない周辺部にもアクセス可能であった。固定長方式は、短時間で効率的に予定した場所にカメラを移動可能であった(図7)[6]。固定長方式では、カメラのピボット操作が可能であった。光源は8個取り付けられ、独立に動作する方式であった。3個が全体を照らし、5個が調査個所を照らすことに用いられた。
ビデオ監視作業は、ポータブル作業プラットフォーム上とブリッジ上の遠隔作業エリアから行われた。調査ツールの位置決めは作業プラットフォーム上の作業員が行い、ビデオ撮影や観測位置の調整作業は遠隔作業エリアで行われた。カメラ5台(+スペア1台)の制御ユニットが遮蔽エリア内に設置された。これは、カメラや光源の操作ツールは、長尺ツール作業員の近くに置くべきではないためである。長尺ツール作業員の近くには、観察用のモニターラックが置かれた。この方式は、以降のデブリ取り出しでも使用された。
油圧ジャッキシステム
最大約22cmジャッキアップできる油圧ジャッキが設計され、スペアを含む4基が製作された。油圧ジャッキは遮蔽エリアから遠隔操作可能で、ジャッキ計器の指示値は遮蔽エリアでモニターされる方式であった。油圧ジャッキの油圧、空気圧、電気系などの制御系は、作業プラットフォーム外部から束ねて配線・配管された。ジャッキは、炉心サポート遮蔽フランジ上の約7cm幅の円環部分に設置された。炉心サポート遮蔽のフランジを下に押して、プレナムを上にジャッキアップする方式であった。
図8に、油圧ジャッキの構造を示す[6]。油圧シリンダー、メインフレーム、メカニカルフォロワー、2基の変位変換機、などで構成されている。油圧媒体が冷却水中にリークしないように、油圧を解除した後は、メカニカルフォロワー(ネジ式、シリンダーの中に配置)で支える構造である。フォロワーのトップは空圧で稼働し、メカニカルフォロワーのジャッキングフットに対する位置が調整される。プレナム構造物の設計重量の4倍のリフト能力を持つことで(1基あたり約50トン)、固着していても取り外せる設計であった。
デブリ除去ツール
スライドハンマー方式を基本に、様々なデブリ除去ツールの候補概念について、機能確認試験を実施した。機能確認試験に用いる模擬試験装置は、CRGA1体と2x3の上部格子を模擬して製作した。模擬の上部端栓を、Agで上部格子にろうづけ、あるいは溶接し、機能確認試験を行った。その結果、スライドハンマー方式を採用することで、機械的な固着やAgのろうづけ程度の融着であれば、端栓の中央を打撃することでうまく外れることが確認された。しかし、上部格子と端栓が相互に溶融して融着していた場合、チゼルのようなツールが必要かもしれないと結論された。
図9に、採用されたデブリ除去ツールの模式図を示す[6]。長尺部は6.7m長で、全重量約25kgの、デブリ除去ツールが3タイプ設計製作された。機能確認試験の結果を反映し、打撃を上部端栓の中央に均質に伝えるため、レファレンスタイプでは、先端構造はh型となっている。このほかに直線型、オフセット型(打撃位置が中央からはずれている方式)が準備された。先端以外は共通設計となっている。長尺ツールの上部に円環状のスライドハンマー(約11kg)を取り付け、これを手動で約1m引き上げてから落下させることでツールの先端構造に衝撃を与え、デブリを打撃して撤去する概念である。作業者は上部にあるT型ハンドルを用いて、打撃軸の位置決めを行う。また、高さ位置をマーキングし、打撃によってどこまで位置がさがったかが確認できる構造であった。
この他に、付着ルースデブリを除去するために、高圧水によるフラッシングも併用された。
最終リフト用の移送ツール
通常の燃料交換では、燃料移送Canalを水没させずに、ポーラークレーンからPendantなどの吊り具を降ろして吊り上げ、プレナム構造物を貯蔵スタンドまで移動する。しかし、プレナム構造物に本来取り付けられていた吊り上げラグの固定ボルトの残留強度は検証できない。さらに、プレナム構造物はひずんでおり、高線量で、移送作業全てを遠隔作業で行う必要があった。各種の吊り具について、以下のような検討が行われ、一部は新たに設計製作された。
ポーラークレーン
ヘッド取り外し前に実施された負荷試験で170トンまで使用可能であると検証された。プレナム構造物はヘッドより軽く、様々な吊り具の重量を追加しても、ポーラークレーンが使用できると判断された。ポーラークレーンは、約10cm/分の低速運転モードから、約80cm/分の高速運転モードまで可変可能であった。ポーラークレーンの横移動は、移動トロリーで行われた。その移動速度は、約15cm/分の低速運転モードから、約約7m/分の高速運転モードまで可変可能であった。しかし、クレーンのブリッジは、最初のおよその位置決めのみに用い、移送作業中は固定された。クレーンの操作は、遮蔽エリアから遠隔で行われた。
ロードセル、Tripod
プレナム構造物と吊り具の重量は、水中で約50トン、大気中で約57トンと評価された。Pendant3個の能力は75トンであり、最終リフトの諸段階で、このキャパシティを超える可能性があった。そこで、約200トンの耐荷重をもつロードセルが、ポーラークレーンとTripodに取り付けられた。Pendantとロードセルの荷重をバランスさせながらプレナム吊り上げとレベリングが行われた。重量物リフトの専門家が、遮蔽スペースで、作業を指導した。
荷重を分散させるためのTripodは、ヘッド取り外しと同じものが使用された。
Pendant
プレナム構造物の最終リフトでは、Pendant先端が水没するため、約7cm径のSS棒製であらたに3本のPendatが設計製作された。全長約5.2mで、1本は固定長さ、2本は±約15cm可変できるタイプであった。1本ずつのPendantの耐荷重は25トンであった。図10に、Pendant取り付け治具を示す[6]。ペンダントの下端は、伝達ブロックとアームからなっており、約5cmサイズのピンに取り付けられている。このピンが、プレナムリフト時かかる横方向モーメントがPendantに伝わるのを防止する。ペンダントを引き上げることで、アームが固定される。
Hydra-set
ここから、、、
レベリングのツール。窒素による空圧で稼働する油圧式。Tripodとpendantの間に取り付け。
±6インチの長さ可変。25トンキャパ。計器盤の例(図7、こういうのをカメラで監視しながら運転)
Hydra-setsはバブル式水位計と連動。プレナム側のkeywayとIIFや容器型のkeyの固着可能性に対し、正確なレベリングが必要。
フレキシブルプラスチックコンテナがtubular truss frame(管状トラスフレーム?三角形状を維持するフレーム)の上での、移動時の汚染バリアとして新たに設計。Canalの水とプレナムが接触しないように、圧力容器内の水が入り込まないように
貯蔵スタンドを新たに設計。密封されたプレナム構造物を貯蔵。薄い鉄板(チャンネルでサポート)が長期的なIIFカバーとして設計(長期的な水の混合を防止)。
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6.ビデオ系
Fig.8
1A/1B: プレナム上昇監視、1基はバックアップ。Canal浅瀬。初期リフトの位置監視。ファイナルリフトでのIIF乗り越え位置監視。高さ側の制限を超えないように。貯蔵スタンドとの相対位置。
2A/2B: ポーラークレーンのターゲット、1基はバックアップ。
3: リフトステーションモニター。
4: バブルレベルモニター。水位。(図9)
5~8: エリアカメラ。
9: プレナム底部。Canal浅瀬の床。上部格子の損傷状態をモニター。
7.音響系
8.吊り上げ高さゲージ(図10)
9.最大高さ位置ゲージ(図11)
10.レーザー、高さゲージとあわせて高さ位置を監視
11.バブル型水位計、高さ位置決め
12.ペンダント取り付けプラットフォーム
ペンダントをプレナムのリブに取り付け、ペンダント取り付け状態の監視、レベルゲージの装荷、水位計の装荷、などの作業を実施。
13.ケーブルマネージメント
なるべく束ねる。束を固定する。
〇モックアップ装置
機能確認、トレーニング、被ばく線量低減、ツールの取り合い
さらに、負荷試験、特にジャッキ、複雑系の総合チェック
4個のモックアップ装置
(i)インターフェーステストアッセンブリ(ITA)
(ii)ジャッキの品質試験
(iii)ジャッキ総合試験アッセンブリ
(iv)最終吊り上げでの移送、貯蔵アッセンブリ
(1)設計
(i)ITA
プレナム構造物とCore Support Cylinder、IIF、固定プラットフォームのフルスケールシミュレーション用。デブリの調査と除去作業、ジャッキ取り付け、水位計とカメラ取付と調査、上部端栓のスライドハンマーでのたたきおとし、クリーニング、フリーパスの確認、最終吊り上げ移送用のツールの取り付け。
灰色のプラスチックと灰色に塗装したアルミニウムで作成(予想される表面状態を模擬)
水中で使用できるように設計。TMIサイトに置かれる燃料取り出しモックアップ装置の中で使えるようにする予定(84年4月段階、製造中)
(ii)ジャッキ品質確認装置
箱型構造。プレナムカバー上でのジャッキの設置位置、リブの位置、Core Support Shield フランジの表面を再現。ジャッキの負荷試験、機能確認試験に使用(4基+スペア1基)。
ジャッキは油圧の反対方向に負荷がかかる。(84年4月に調達中)
(iii)ジャッキシステム試験アッセンブリ
制御系、油圧計、レベリング、など総合試験
スティール製構造。プレナムの直径とジャッキが置かれる円環状部分+縦方向にジャッキアップする際に障害になる部品。
シリンダーの100%性能まで確認。負荷試験には、アッセンブリに固着した鉄のプレートみたいなものが必要。
このモックアップ試験はB&W社で実施予定
(84年4月に製造に着手)
(iv)吊り上げ、移送、貯蔵テスト模擬
吊り上げ具、移送コンテナ、限られた空間で設置する必要。TMI-2サイトには運べない。
水をはった大型容器、クレーンと支持構造、プレナム構造物の模擬物(炭素鋼製)が必要
吊り上げ具には55トンの荷重をかける必要。
IIFの上部の模擬物も必要。
汚染バリア、貯蔵リング、コンテナ閉じ込め機能、半永久IIF、吊り上げ具などは、別装置で試験。
総合モックアップは水中で。
(84年4月に予備設計中)
4個のテストアッセンブリが、機能確認とトレーニング用に設計された。
1. フルスケールのプレナム構造物、炉心支持シリンダー、IIFの一部。インターフェーステスト用
2. ジャッキの品質確認試験。4基のジャッキの負荷試験。
3. ジャッキ系統の確認。監視系、制御系などの総合試験
4. 吊り上げ、移送、貯蔵試験。
(8)モックアップ装置
6個の試験装置
インターフェース試験、上部端栓除去スタンド、ジャッキの品質管理、ジャッキシステム、リフティングペンダントの負荷試験、3点支持リフトフレーム
インターフェース装置、プレナム構造物、炉心サポートシリンダー、IIF、作業プラットフォーム(ポータブルでないほう)のフルスケール。灰色のプラスチックとアルミ製。燃料取り出しモックアップ試験装置内に水没させて使用。内部調査ツールなどの取り合い、トレーニング
デブリ除去スタンド、除去ツールの機能確認に使用。模擬CRGA、そこを通じて叩き落としツールを挿入、操作性確認。2x3上部格子、模擬燃料デブリや上部端栓。
ジャッキ品質確認、箱型で、ジャッキの設置位置を模擬(プレナムカバー、リブ、炉心さぽーよ遮蔽フランジのトップ)。ジャッキ負荷試験。
ジャッキシステム試験、4基のジャッキの総合試験、油圧ポンプ、制御系、レベリング系、など
鉄枠製。実寸の構造を模擬。鉄枠に最大能力まで荷重かけ。
ペンダント負荷試験、オーバーヘッドクレーンから3個のペンダントを吊り下げ。下は34トンの模擬プレナムに接続。
3点支持リフトフレーム、ジャッキシステム試験装置を改良。3か所にペンダントを取り付け。荷重のバランス、遠隔操作の練習用
参考文献
[1] D.C. Wilson, TMI-2 Reactor Vessel Plenum Final Lift, GEND-054, 1986.
[2] D.E. Scardena, TMI-2 Technical Information and Examination Program 1983 Annual Report, GEND-039, 1984,
[3] M.W. Ales, J.D. Connell, R.V. DeMars, D.A. Nitti, Equipment fro Removal of the TMI-2 Plenum Assembly, GEND-INF-051, 1984.
[4] C.J. Hess, TMI-2 Technical Information and Examination Program 1984 Annual Report, GEND-049, 1985.
[5] G.R. Brown, US-DOE Three Mile Island Research and Development Program 1985 Annual Report, GEND-055, 1986.
[6] XXX、TMI-2 Plenum Assembly Removal Equipment Design, Proceedings of the 1986 Joint ASME/ANS Nuclear Power Conference, July 20-23, Philadelphia, PA, 1986.
[7] ヘッド取り外し