「TMI-2での事故進展に伴うデブリ移行挙動」の版間の差分
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* 100~174分: 一次冷却水ポンプの停止、冷却水の沸騰と炉心の露出開始、炉心の過熱、Zry酸化、初期の炉心下部の閉塞。【'''図2、3'''】 | * 100~174分: 一次冷却水ポンプの停止、冷却水の沸騰と炉心の露出開始、炉心の過熱、Zry酸化、初期の炉心下部の閉塞。【'''図2、3'''】 | ||
* 175~180分: 一次冷却水B系ループの起動・注水、周辺部の燃料集合体の冷却、RPV内圧上昇。これらがきっかけで注水後数分間以内で炉心上部の崩落・炉心形状の喪失、初期の炉心下部閉塞物の上にデブリベッドの形成。炉心崩落により、Zry酸化はいったんほぼ停止。デブリベッドの温度はいったん低下。【'''図4'''】 | * 175~180分: 一次冷却水B系ループの起動・注水、周辺部の燃料集合体の冷却、RPV内圧上昇。これらがきっかけで注水後数分間以内で炉心上部の崩落・炉心形状の喪失、初期の炉心下部閉塞物の上にデブリベッドの形成。炉心崩落により、Zry酸化はいったんほぼ停止。デブリベッドの温度はいったん低下。【'''図4'''】 | ||
* | * 180~200分: デブリベッド内に冷却ガス侵入できず、デブリ再昇温・再溶融開始。 | ||
* | * 200~224分: 炉心下部で溶融デブリプール形成・成長。高圧注水系起動による冷却水水位の回復。しかし、デブリベッド内への冷却水侵入に20分くらい時間を要した可能性(#不確かさが大きい推定)。溶融デブリプール周辺の水没。【'''図5'''】 | ||
* この時発生した高温水蒸気+水素ガスにより、上部格子が一部溶融したと推定('''図6''')。 | |||
* 224~226分: 上部ルースデブリへの冷却水侵入により、上部クラストの上下で圧力差発生。溶融デブリプールが加圧。一方で、下部クラストは冷却継続され、強度を維持。このため、側部クラストが破れ溶融プールの一部がシュラウドに到達、これを破損して短時間でRPV下部ヘッドに移行。冷却水により移行したデブリ凝固。移行したデブリとRPV壁の隙間に水層形成。【'''図9,10'''】 | * 224~226分: 上部ルースデブリへの冷却水侵入により、上部クラストの上下で圧力差発生。溶融デブリプールが加圧。一方で、下部クラストは冷却継続され、強度を維持。このため、側部クラストが破れ溶融プールの一部がシュラウドに到達、これを破損して短時間でRPV下部ヘッドに移行。冷却水により移行したデブリ凝固。移行したデブリとRPV壁の隙間に水層形成。【'''図9,10'''】 | ||
* 226分~15.5時間: RPV底部にホットスポット形成。ホットスポットでのデブリ温度>2773K、鋼材ピーク温度<1373K、加熱時間約30分と評価。下部ヘッドにおけるデブリベッドの冷却、一次冷却系の循環冷却の確立。 | * 226分~15.5時間: RPV底部にホットスポット形成。ホットスポットでのデブリ温度>2773K、鋼材ピーク温度<1373K、加熱時間約30分と評価。下部ヘッドにおけるデブリベッドの冷却、一次冷却系の循環冷却の確立。 |
2024年4月23日 (火) 16:54時点における版
TMI-2事故後の炉心形状、事故時の計測データ、種々のメカニズム解析に基づく炉心物質移行の時系列の推定結果は、参考文献[1][2]にとりまとめられている。
図1に、TMI-2事故でのスクラム後約4時間のRPV内圧力変化と主なイベントを示す。TMI-2事故では、蒸気発生器への主冷却ポンプ停止により、一次冷却系の圧力が上昇し、スクラムに至った。スクラム後100分で冷却水供給が停止し、炉心水位が低下、炉心上部から次第に燃料が露出し、燃料溶融開始した。以降のRPV内でのデブリふるまい(in-vessel phase)は、以下のようにいくつかのフェーズに分けて理解されている。
- 0~100分: 一次冷却水の部分的な喪失。炉心冷却自体は継続。
- 100~174分: 一次冷却水ポンプの停止、冷却水の沸騰と炉心の露出開始、炉心の過熱、Zry酸化、初期の炉心下部の閉塞。【図2、3】
- 175~180分: 一次冷却水B系ループの起動・注水、周辺部の燃料集合体の冷却、RPV内圧上昇。これらがきっかけで注水後数分間以内で炉心上部の崩落・炉心形状の喪失、初期の炉心下部閉塞物の上にデブリベッドの形成。炉心崩落により、Zry酸化はいったんほぼ停止。デブリベッドの温度はいったん低下。【図4】
- 180~200分: デブリベッド内に冷却ガス侵入できず、デブリ再昇温・再溶融開始。
- 200~224分: 炉心下部で溶融デブリプール形成・成長。高圧注水系起動による冷却水水位の回復。しかし、デブリベッド内への冷却水侵入に20分くらい時間を要した可能性(#不確かさが大きい推定)。溶融デブリプール周辺の水没。【図5】
- この時発生した高温水蒸気+水素ガスにより、上部格子が一部溶融したと推定(図6)。
- 224~226分: 上部ルースデブリへの冷却水侵入により、上部クラストの上下で圧力差発生。溶融デブリプールが加圧。一方で、下部クラストは冷却継続され、強度を維持。このため、側部クラストが破れ溶融プールの一部がシュラウドに到達、これを破損して短時間でRPV下部ヘッドに移行。冷却水により移行したデブリ凝固。移行したデブリとRPV壁の隙間に水層形成。【図9,10】
- 226分~15.5時間: RPV底部にホットスポット形成。ホットスポットでのデブリ温度>2773K、鋼材ピーク温度<1373K、加熱時間約30分と評価。下部ヘッドにおけるデブリベッドの冷却、一次冷却系の循環冷却の確立。
これらのフェーズは、大きく、初期フェーズ、トランジエント、後期フェーズに分類されている[3]。初期フェーズは、炉心・燃料露出により、燃料温度が昇温し、炉心の形状が大きく変化する直前までに相当する。制御棒や燃料棒の一部は崩落開始し、炉心の下の方(冷却水水位の直上あたり)には、初期閉塞が形成されている。トランジエントは、炉心・燃料が崩落し、本来形状が喪失する過程に対応する。炉心の下の方でいったん堆積し、デブリベッドを形成する。後期フェーズは、いったん堆積したデブリがさらに下部プレナムに移行して堆積し、崩壊熱で再昇温・再溶融する過程に対応する。再溶融したデブリにより、RPV破損し、デブリがRPV外に移行すると、RPV外フェーズ(ex-vessel phase)に移行する。(BWRでの燃料溶融・崩落の概略的な理解)
TMI-2事故の場合、低融点の物質(Zry、SUS、Ag-In-Cdなど)が先に流下し、炉心下部の水位面近傍で凝固することによりクラストが形成され、これが坩堝の役割を果たすことで溶融プール形成の起点となったと考えられている。1F事故では、炉心・燃料崩落時に、有効燃料部に水位を形成していなかった可能性が高い。また、炉心・燃料崩落以降に、デブリが次第に冠水したTMI-2事故と異なり、1Fでは冷却水の水位が低く維持されていた可能性が高い。これらにより、溶融プールの形成・拡大傾向や。溶融プール周囲のクラスト形成の傾向が異なっていた可能性が考えられる。おそらく、堆積物の底部から冷却水の水位に向けて、急峻な温度勾配を形成していたと推定される。特に、1F2号機では、大規模な溶融プールの形成には至らず、BWRドレナージ型のデブリ崩落や金属デブリの先行溶落が発生していた可能性がある。(参考9:BWRドレナージ型シナリオ、参考10:デブリ溶融プールの形成・拡大と酸化度上昇)
参考文献
[1] J.M. Broughton, P. Kuan, D.A. Petti, E.L., A scenario of the Three Mile Island Unit 2 accident, Nucl. Technol. 87 (1989) 34-53.
[2] E.L. Tolman, P. Kuan, and J.M. Broughton, TMI-2 accident scenario update, Nucl. Eng. Design 108 (1988) 45-54.
[3] M. Kurata et al., Chapter 14 - Advances in fuel chemistry during a severe accident: Update after Fukushima Daiichi Nuclear Power Station (FDNPS) accident, in Advances in Nuclear Fuel Chemistry, edited by M. Piro, pp. 555-625 (2020), Woodhead Publishing Series in Energy.