事故後のRPV内の燃料デブリ分布(主な種類、経験温度)
コアサンプルの採集位置
TMI-2事故の最終形態で観測された領域(図1)に基づいて、サンプル分析が行われ、材料間の反応、組成、酸化度、FP残留などの分析結果に基づき、それぞれの領域の特徴と事故時に経験した温度が推定された[1]。
各領域の概要
- 上部空洞: 最深1.5mの深さ、空間体積9.3m3。周辺部に177個の燃料集合体のうち42個が部分的に残留、うち2個で全長に対し90%以上の無傷の燃料が残留
- 上部ルールデブリ: 上部空洞の直下。厚み0.6~1m、重量26.4トン。
- 溶融・凝固物: 3m径、中央で1.5m厚、周辺で0.25m厚、重量32.7トン。
- ハードクラスト: 溶融・凝固物を、上下及び周辺で覆うクラスト層。
- 切り株燃料集合体: 0.2~1.5m高さ、下部クラストの下で、溶融・凝固物を支える。
- 下部プレナムデブリ: 0.75~1m厚さ、堆積範囲4mφ、重量19.2トン。堆積状態はシンメトリックでない。小山状に堆積。
サンプル採集位置
上部ルースデブリ、上部空洞周辺の燃料集合体、溶融・凝固物、上下・周辺クラスト、切り株燃料集合体、下部プレナムデブリ
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上部空洞周辺に残留していた燃料集合体
径方向/軸方向に大きな温度勾配の痕跡
上部格子のピーク温度: 1500-1700K(溶融状態の痕跡から推定)
状態: 溶融Ag-In-Cdが、上部プレナムスプリングに付着。燃料棒上端の破損、溶融燃料・制御棒・燃料集合体部材が侵入
特記事項: これらの観測結果から、事故進展中に、周辺領域でも燃料棒が下の方で溶融していたと推定。
上部ルースデブリ
図2に、サンプリング部位と、サンプル外観を示す。
主な成分: 形状を維持した燃料ペレット、破砕した燃料ペレット、燃料棒由来の溶融・凝固物
主な物質: UO2、ZrO2、(U,Zr)O2 一方で、Zry金属、燃料集合体部材(スペーサー、グリッド)、制御棒材料はほとんど含まれない
堆積状態: 粒子状物質が非均質に堆積(#上部ルースデブリ中では、酸化や材料間の反応が様々な進展)、粒子状デブリの混合性は高い
サイズ: 90%は、1~5mm
ピーク温度: >2800K(溶融・破砕した(U,Zr)O2を検出)、局所的に3100K(一部にいったん溶融したUO2を検出)
崩落・堆積後の温度: <2000K(#昇温・崩落過程で高温化、以降はあまり温度上昇していない)
特記事項: 溶融初期に溶落した物質(制御棒溶融物、Zr/Fe共晶溶融物、Zr/Ni共晶溶融物、溶融インコネル、溶融SS、U-Zr-Oメルト、等)は、下方に移行し、上部ルースデブリ中には残留しにくかったと推定。
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溶融・凝固デブリ
図3に、典型的なサンプルの断面BSE像(#重元素が明るく見える)。(a)ほぼ酸化物のサンプル、(b)ほぼ金属のサンプル、(c)酸化物/金属混合物
主な成分: 酸化物と金属の混合物、主に酸化物相、主に金属相
存在割合: 金属相領域の体積割合は15%
主な物質: 金属相:制御棒被覆(SS)、スペーサーグリッド(インコネル)、制御材(Ag-In-Cd)が由来の物質
酸化物:(U,Zr)O2
ピーク温度: 2800K(溶融・凝固した(U,Zr)O2を検出)、3100Kに到達した可能性(上部ルースデブリで見られたUO2溶融・凝固物からの推定)
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上部クラスト
図4に、典型的なサンプルの断面SEM像(#重元素が暗く見える)
主な成分: 酸化物と金属の混合物
存在割合: 金属相領域の体積割合は25%
主な物質: 金属相:制御棒被覆(SS)、スペーサーグリッド(インコネル)、制御材(Ag-In-Cd)が由来の物質。Fe-Ni合金、Ag-In-U合金、Ni-Sn合金等、Cdは未検出
酸化物:(U,Zr)O2
ピーク温度: 2800K(酸化物相の主成分が溶融・凝固した(U,Zr)O2)
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周辺クラスト
上部クラストとおよそ同じ状態。
主な成分: 酸化物と金属の混合物、一部に無傷なペレットを検出、金属相中にZrが多い
存在割合: 参考文献[1]で言及なし、おそらく25%
主な物質: 金属相:制御棒被覆(SS)、スペーサーグリッド(インコネル)、制御材(Ag-In-Cd)が由来の物質。Fe-Zr-Ni-Cr合金、Ag-In合金、Zr-Ni-In合金等、金属Zrを多く含む
酸化物:(U,Zr)O2
組成: 金属相の平均組成は、U,Zr,Cdを除くと炉心平均組成に近い(SS, インコネル, 中性子吸収剤)
ピーク温度: 2800K(酸化物相の主成分が溶融・凝固した(U,Zr)O2)
特記事項: 燃料被覆管/制御棒、制御棒/制御棒案内管の共晶溶融物の崩落と推定
下部クラスト
図5に、典型的なサンプルの断面SEM像(#重元素が暗く見える)。
主な成分: 残留ペレットが縦方向に本来形状を維持してスタックし、その周囲を溶融・凝固物が覆っている。
存在割合: 参考文献[1]で言及なし
主な物質: 金属相:制御棒材や燃料集合体部材と、Zr被覆管や制御棒案内管との、共晶溶融・凝固物、内部に100-200ミクロンの丸いUO2析出物
酸化物:ペレットの残留物
組成: 金属相の平均組成は、U,Zr,Cdを除くと炉心平均組成に近い(SS, インコネル, 中性子吸収剤)。Zr-Fe-Ni-Cr合金、Ag-In合金、Zr-Ni-In合金等、周辺クラストよりさらにZrの割合が高い。
ピーク温度: 金属相中にUO2析出物が見られたことから、2200Kに到達し、U-Zr-Oメルトを形成していたと推定
特記事項: 事故初期フェーズで、制御棒材や燃料集合体部材が溶落し、Zr被覆管や制御棒案内管と接触・溶融(Fe/Zr,Fe/Ni共晶:1400K)、これがペレットの隙間やクラックに侵入して形成と推定
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切り株燃料集合体
切り株燃料集合体と、周辺に残留した集合体で、44.5トンの上部ルースデブリ、クラスト、及び、溶融・凝固デブリを支えていた。
ピーク温度: <1100K(溶融の痕跡が見られない)
特記事項: 一部で下部クラストを通過して、Zrリッチ金属が溶け落ち、わずかに下部プレナムに到達していた。
下部プレナムデブリ
図6に、典型的なサンプルの断面金相。
形状・サイズ: 大きな岩石状(0.2mサイズ)~粒子状(<0.1mm)
主な成分: 溶融・凝固した多孔質物質。
主な物質: (U,Zr)O2 ほぼ均質
組成: 酸化物相中のU:Zr比は、上部ルースデブリ、溶融・凝固物、クラスト中でほぼ同じ(炉心平均に比べ、ややUリッチ)
ピーク温度: 2800-3100K
特記事項: 上部のデブリに比べ、I, Ru, Sbの混入が極めて少ない
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観測結果のまとめ
表1に、検出した相状態・組成、ピーク温度の推定結果、等をまとめて示す。
上部ルースデブリ、上部クラスト、周辺クラスト、溶融・凝固物、下部プレナムデブリのピーク温度は、2800-3100Kと推定
下部クラストの温度は、>1400K、最高2200Kと推定
金属相の組成は、場所によって異なっていた。下部クラスト、周辺クラストでは、Zrリッチの合金を多く検出(Zr-Fe-Ni, U-Ag-Cr-Sn-In-Mo-Cd等)。溶融・凝固物中では、ZrとUの混入が少ない(Fe-Ni, Ag-Sn-Cr-Mo-In-Cd等)、また、存在割合自体が少ない(クラスト中25%、溶融・凝固物中15%)。上部ルースデブリでは、Fe-U-Ni-Zrにマイナー成分としてAg-Cr-Sn-In-Mo-Cd。上部ルースデブリと下部プレナムデブリには、SSや制御棒材はほとんど混入されていなかった。
これらの観測結果から、最初に溶落するのは、インコネル製スペーサーグリッドとZry被覆管の共晶溶融物、Zry制御棒案内管とSS制御棒被覆管の共晶溶融物であり、そこにAg-In-Cdが溶融することで流動性が高まったと推定した。燃料温度が1700K以上に急上昇するとZryの溶融が進み、2200Kたりで、ZryメルトへのUO2溶融が進むと推定した。ほぼ同じタイミングでSS被覆管が溶けて、Ag-In-Cdが放出され、様々な金属成分が形成される。このような合金相が崩落した燃料ペレットの隙間に存在していた状態から、下部クラストの形成メカニズムとピーク温度を推定した。
参考文献
[1] R.K. McCardell, M. L. Russell, D.W. Akers, C.S. Olsen, Summary of TMI-2 core sample examination, Nucl. Eng. Des. 118 (1990) 441-449.