分析方法(JAEA 2021年度 受入サンプル共通)

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更新履歴
No 日付 分類 内容 備考 記載者
1 2022/03/30 新規 IRID報告書の内容を転記。 4.1.1(4)項 原稿作成:佐々木・大西(JAEA)

wiki転記:池内(JAEA)

2 2022/10/18 改訂

ICP-MSの定性分析における元素判定の方法について:未知試料の計数率が検出限界(DL)以上、かつ操作ブランクがDL未満の場合の判定方法を追記した。

原稿作成:大西(JAEA)

wiki転記:池内(JAEA)

3 2022/11/22 承認 放射線測定及びICP-MSにおける不確かさ及び定量下限値の評価方法を各分析結果のページから移植した。 池内(JAEA)
4 2023/1/6 改訂 ICP-MSによるZr分析結果の追加に伴い、本文、表1, 2, 図1にZrの分析に係る情報及び図を追記した。 大西(JAEA)

外観 

 搬入された試料を開封し,デジタルカメラにて写真を撮影し,汚れなどの個所を確認した。

イメージングプレート 

 イメージングプレート(コニカミノルタ製,読みとり装置:コニカミノルタREGIUS MODEL110)を用いて試料をイメージングプレートに載せ,露光時間を段階的に増やして複数の露光時間におけるデータを取得し,汚染個所を確認した。

FE-SEM/WDX 

 イメージングプレートで汚染が確認された箇所から取得された試料をホルダに固定し,電界放射走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F,オックスフォードインスツルメンツ製Inca Wave)を用いてサンプルの性状を調査した。SEIとWDXによる面分析により試料表面のU粒子を確認(500倍)し,U粒子の直上および周囲の箇所をWDXにてスポットによる定性分析を実施した。さらに,U粒子の周辺は拡大して周辺の元素(U,Pu,Cs,Sb,Zr,Fe,Cr,Ni,Zn,Mo,Siその他定性分析で確認された有意なピークと推測される元素)をWDXにて分析した。

放射線測定

測定方法

 FMFからAGFに搬入した試料は,後述する条件(ICP-MSの項参照)で溶解するが,溶解前,硝酸溶解後の溶解液および残渣に対し,ゲルマニウム半導体検出器(ORTEC社製,分解能:650 [eV]@5.9 [keV]および1.90 [keV]@1.33 [MeV],同軸型)を用いたγ線スペクトル分析(γ線計測)を0~2000 [keV]の範囲で実施した。

 溶解液はICP-MSの分析方法に示す通り,全量が30 [ml]に調製されている。溶解液から0.1 [ml]をバイアルに分取し,溶解液のγ線計測に供した。得られた値を300倍することにより,溶解液全量に対するγ線量とした。残渣については,ろ過時にフィルタ(孔径:0.45 [μm])上に回収し,フィルタごと測定に供した。

 カウント数からベクレル数への換算には,円柱状の多核種混合標準線源(Am-241,Cd-109,Co-57,Hg-203,Cr-51,Ba-133,Sn-113,Sr-85,Cs-137,Y-88,Co-60)を用いた。ここで,換算において,形状補正などを行っていないため,絶対値の不確かさは大きい。(後述する不確かさの評価において,この不確かさについては考慮していない。)

不確かさ

 不確かさの評価にあたっては,以下の因子を考慮し,算出した。

  • u1=校正線源の不確かさ(7%)
  • u2=効率校正時に測定した校正線源のピークの計数誤差(1.2~2.6%)
  • u3=効率校正に使用するピークの放出率不確かさ(最大の不確かさが0.5%)
  • u4=効率校正式フィッティングの不確かさ(1.7~11%)
  • u5=試料分取時のピペットの計量不確かさ(0.27%,液体試料のみ)
  • u6=試料のピーク面積の不確かさ(0.1~16%)

u1~u6を合成すると

合成不確かさ = √(u12+u22+u32+u42+u52+u62) = 8~21%

上記の式に従い,算出した不確かさを1桁に丸めて表中に記載した。ただし,測定値と不確かさの桁数が同じ場合は,有効数字の2桁で表記した。

定量下限値

 定量下限値については,クーパーの方法に従い算出した(日本の環境放射能と放射線HP,2020)。

ICP-MS

サンプルの溶解

 FMFからAGFに搬入した試料は,上述の放射線計測(ゲルマニウム半導体検出器)を行った後,テフロンビーカー内に入れ,8 [M]硝酸10 [ml]とconc.フッ化水素酸 0.05~0.1 [ml]と供に,合計12~24時間ホットプレート上で加熱した。溶液が沸騰しないように,テフロンビーカー内の溶液温度が75 ℃となるように温度を調整した。蒸発に伴う液量の減少を補うため,4M硝酸5~15 [ml]を途中で追加した。放冷後,固液分離操作のために,メンブレンフィルタ(孔径:0.45 [μm])を用いてろ過を行った後,超純水にて30 [ml]にメスアップした。

測定方法

 ろ過後の試料溶液(30 [ml])から適量を分取し,定量分析対象元素の濃度に応じて希釈した後,ICP-MSでの測定を実施した。測定時の希釈倍率を,表1に示す。また,ICP-MSによる定量分析を行うにあたり,1質量あたりの測定時間を9秒(1秒×3点/質量×3回繰り返し)とした。Zr, Mo,Ni,Cr,Fe,B,Li,Ag,Cs,Nd,Uの核種について,カウント数(計数率)から濃度への換算にあたり,対象核種を含む標準溶液を用いた。濃度の異なる標準溶液を数点計測し,ICP-MSでの測定で得られた計数率および濃度から最小二乗法により検量線を作成し,濃度への換算に用いた。得られた濃度に,希釈倍率と元の試料溶液の体積(30 [ml])を乗ずることにより,元の試料溶液(30 [ml])中に含まれる重量に換算した。

表1 ICP-MS測定時における希釈倍率
試料名 Li B Cr Fe Ni Zr Mo Ag Cs Nd U
2PEN2101 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10
2PEN2102 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10
2WEL2101A 10 10 10 1,000 10 10 100 10 10 10 100
2WEL2101C 10 10 10 100 10 10 10 10 10 10 10
2WEL2102A 10 10 10 10,000 10 10 10 10 10 10 10
2WEL2103A 10 10 10 1,000 10 10 10 10 10 10 10

 また,ろ過後の試料溶液中に含まれる核種には,スミアろ紙やテフロンビーカーから溶出したと考えられる核種も含まれる。そのため,別途,操作ブランク試験を実施して,スミアろ紙やテフロンビーカーから溶出したと考えられる核種の重量を評価した。ブランク試験の手順を以下に示す。  2号機X-6ペネ調査装置付着物(2PEN2101および2PEN2102)については,採取に使用したスミアろ紙と同種のスミアろ紙を,試料溶解に供したテフロンビーカーと同ロットのテフロンビーカーの中で,上述の試料溶解と同条件で硝酸およびフッ化水素酸と供に加熱して得た溶液に対し,ICP-MS測定を行い,検量線を用いて濃度に換算した。得られた濃度に,希釈倍率と溶液の体積(30 [ml])を乗ずることで,スミアろ紙およびテフロンビーカーから溶出したと考えられる各核種の重量を得た。  2号機原子炉ウェル内調査 ウェル差圧調整ライン堆積物,排気ダクト劣化部および排気ダクト点検口表面部(2WEL2101A,2WEL2101C,2WEL2102Aおよび2WEL2103A)については,試料溶解に供したテフロンビーカーと同ロットのテフロンビーカーの中に,硝酸およびフッ化水素酸のみを入れて,上述の試料溶解と同条件で加熱して得た溶液に対し,ICP-MS測定を行い,検量線を用いて濃度に換算した。得られた濃度に,希釈倍率と溶液の体積(30 [ml])を乗ずることで,テフロンビーカーから溶出したと考えられる各核種の重量を得た。  元の試料溶液(30 [ml])中に含まれる各核種の重量から,スミアろ紙やテフロンビーカーから溶出したと考えられる各核種の重量を差し引くことで,試料に含まれる核種重量を評価した。

 検量線法を用いた溶液中の核種濃度の評価,ならびに,試料に含まれる核種重量の評価について,詳細を以下に示す。

 a:検量線の切片 [cps]

 b:検量線の傾き [cps/(ng/ml)]

 y:測定試料の測定値 [cps]

 x:検量線用標準試料の濃度 [ng/ml]

とすると,検量線として以下が得られる。

 y = a +b x

を変形させて,

 x = (y-a)/b

に測定試料の測定値 y [cps]から,核種濃度 x [ng/ml]を求めた。

ここで,

 y1:試料溶解液の測定値 [cps]

 y2:操作ブランク試験で作製した溶液(操作ブランク試料)の測定値 [cps]

とするとき,上式にy1,y2を代入して

 x1:試料溶液中の核種の濃度[ng/ml)

 x2:操作ブランク試験で作製した溶液(操作ブランク試料)中の核種の濃度[ng/ml]

を得て,

 試料に含まれる核種の量 = (x1 - x2) × 希釈倍率 × 試料容積の体積 [ng]

とした。

なお,定量分析時に作成した検量線の一例を図1に示す。

 定量分析対象以外の元素については,定性分析により,未知試料中での含有について判定を行った。ICP-MSによる定性分析を行うにあたり,1質量あたりの測定時間を0.09秒(0.01秒×3点/質量×3回繰り返し)とした。定性分析では,まず,硝酸溶液(ブランク)を複数回測定し,計数率の平均値(μ)および標準偏差(σ)を求め,検出限界(μ+3σ)を算出した。未知溶液試料および操作ブランク試料を同様に測定し,各質量数(質量電荷数比,m/Z比)で検出限界以上の計数率からブランクの平均値(μ)を差し引いて正味計数率とした。未知試料の正味計数率が操作ブランク試料の正味計数率の約2倍を超えるものについては,未知試料中に有意に含まれるものと判断した。
 なお、正味計数率が検出限界以上であり、かつ操作ブランクが検出限界未満であるものは、操作ブランクの計数率に関わらず、未知試料中に有意に含まれるものと判断した。

不確かさ

 定量値の不確かさおよび定量下限値は,以下の通り算出した。 試料測定時および操作ブランク試料測定時の検量線の不確かさを計算し,それらの不確かさを合成することで,定量値の不確かさを求めた。検量線の不確かさについては下記の式(J.N.Miller,2004;AIST工学計測用標準研究部門データサイエンス研究グループ不確かさWeb,2018)から計算した。

u:検量線から求めた濃度の不確かさ

m:検量線用標準溶液の測定回数

yo:測定試料の機器出力

yi:検量線用標準液の各測定値

y-:検量線用標準液の測定値の平均値

x-:xiの平均値


u = syo/b √(1/3+1/m+(yo-y-)2/(b2 Σ(xi-x- )2 ))


なお,syoの計算については以下のとおりである。

syo = √([Σ{yi-(bxi+a)}2 ]/(m-2) )


不確かさ試料測定時の検量線に起因する不確かさをu1,操作ブランク試料測定時の検量線に起因する不確かさu2を合成して,試料の定量値の合成不確かさは以下の式で計算した。

合成不確かさ=√(u12+u22 )

とした。合成不確かさと定量値の商から相対不確かを求めると0.009~87 %であった。

定量下限値

 定量下限値については,バックグラウンドを繰り返し測定しその測定値の標準偏差の10倍の値とした。以下に示すa~eに従い,測定値が定量下限値でないものについては定量を行った。

a.定量する核種に対して,ブランク(標準液を添加していない硝酸,すなわち,単なる硝酸を試料と同じ硝酸濃度に調製した溶液)を複数回測定する。

b.複数回測定して,測定したブランクの計数率 [cps]から平均μと標準偏差σを計算する。

c.試料を測定し,μ+10σを超えているか確認する。

d.μ+10σを超えない場合は,定量下限以下のため定量しない。

e.μ+10σを超える場合は,検量線を使って定量する。

μ+10σを濃度に換算した結果の一例を表2に示す。

表2 定量下限一覧(一例)
核種 定量下限値 (ppb)
Li-6 1.30E-02
Li-7 7.93E-02
B-10 8.90E-01
B-11 3.46E+00
Cr-52 2.57E-01
Cr-53 4.26E-03
Fe-56 1.60E+01
Fe-57 1.64E-01
Ni-60 4.80E-03
Ni-61 2.49E-03
Ni-62 1.53E-02
Mo-95 4.68E-02
Mo-97 3.44E-02
Mo-98 6.58E-02
Zr-90 8.22E-02
Zr-91 3.38E-02
Ag-107 5.15E-03
Ag-109 7.96E-03
Cs-133 5.07E-02
Nd-143 1.49E-04
Nd-145 5.40E-04
Nd-146 2.02E-03
U-234 5.53E-04
U-235 3.53E-04
U-236 3.13E-04
U-238 3.32E-02

参考文献

AIST工学計測用標準研究部門データサイエンス研究グループ不確かさWeb(2018):“化学分析における不確かさの評価事例~ポイントと手法~”,https://unit.aist.go.jp/riem/ds-

J. N. Miller(2004):J. N. Miller著,宗森信,佐藤寿邦訳(2004) “データのとり方とまとめ方―分析化学のための統計学とケモメトリックス”,2版, 共立出版, p142~148.

日本の環境放射能と放射線HP(2020):“放射能測定法シリーズNo.7 ゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリー”, https://www.kankyo-hoshano.go.jp/wp-