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 図2に、TMI-2で使用されていた燃料集合体の模式図を示す。15x15の燃料集合体内に、燃料棒(ジルカロイ被覆管)、および、制御棒案内管と計装管(ジルカロイ-4製)が配置されている。燃料棒の軸方向には、数か所でスペーサーグリッド(インコネル製)が配置され、上端と下端は、ステンレス製の金具で束ねられている。上端下端金具内にはインコネル製のスプリングが装着されている。さらに、各燃料集合体内には、可燃性毒物棒スパイダー、制御棒スパイダー、軸方向出力平坦化棒スパイダー(APSR: Ax1al Power Shaping Rod APSR)の3タイプのスパイダーのうち、ひとつのタイプが案内管を通じて上部から挿入される構造になっている(図3)。

 図4に、分析に供された2個の燃料集合体の炉心上部残留物(D-141-3D-153-9)の外観写真を示す。D-141-3では、上部スペーサーグリッドから制御棒スパイダーの上部までが、ほぼ無傷で残留していた。図4左図では、上部スペーサーグリッドの下あたりの外観を示している。上部スぺーサーグリッドの下では、燃料棒や制御棒が一部ぶら下がっており、これらは、分析のために除去された。ステンレス製の制御棒被覆管は、途中で溶融して崩落した痕跡が観測された。一方で、ジルカロイ製の燃料棒被覆管は、溶融でなく脆性破壊で機械的に崩落した痕跡が観察された。この脱落は、事故進展時あるいは収納缶に回収した際に発生したと推定された。制御棒のステンレス被覆管が残留(一部で溶融の痕跡)していたことから、このあたりでの事故時ピーク温度は1673K程度と推定された(表1参照)。スペーサーグリッドが残留していた部分では、ピーク温度が1533K以下であったと推定された(表1参照)。D-153-9では、上部スペーサーグリッドとタイプレートが一部で溶融破損(図4右図の右下領域)し、一部では残留(左上領域)していた。右下領域では、エプロンも溶融していた。左上領域では、燃料棒や制御棒が、上部スペーサーグリッドの20-25cm下まで残留していた。これらの残留状態から、右下領域でのピーク温度は>1673Kと推定された。左上領域では>1533Kと推定された。同じ集合体内で軸方向と径方向に大きな温度勾配が発生していたと推定された。

 図5(a)に、燃料棒の切断面の拡大を示す。ペレットには溶融の痕跡はほぼ見られず、内部にクラックが入っているのが見える。その周囲の燃料被覆管は脆性破断したように崩落していることがわかる。このような崩落メカニズムで、上部ルースデブリベッドが形成された可能性が推定されている。この場合、崩落物の温度は高々2000~2200K程度と推定される。図5(b)に、制御棒の崩落断面の拡大を示す。内部が中空で、中性子吸収剤(Ag-In-Cd)がおそらく溶落し消失していることがわかる。また、ステンレス製の制御棒被覆管とジルカロイ製の案内管の間で共晶溶融が発生していることがわかる。図5(c)には、制御棒の下部の様子を示す。Ag-In-Cdが溶融凝固してスタックしているが、被覆管との界面ではほとんど反応が起きていないことが確認できる。上部端栓近くでは、制御棒被覆管がほぼ本来形状を維持し、Ag-In-CdとInconel製のスプリングのみが溶融していた。これらのことから、制御棒内の温度は1073-1673Kであり、軸方向に大きな温度勾配があったと推定された。

 また、ジルカロイ製の制御棒案内管については、内部で水素化が進んでいた(図6)。一方で、同じ高さレベルでの燃料被覆管では酸化が進み、水素化の痕跡は見られなかった。これらのことから、事故時の水蒸気/水素気流が局所的に異なっていた可能性が示唆された。燃料ペレットは、一部で破砕しており、内部で若干の結晶成長が見られた。燃料被覆管については、軸方向の高さ位置によって、外周部での酸化進展が異なっていた(図7)。これらのことから、軸方向に大きな温度勾配と、水蒸気/水素比の変化があったことが示唆された。

 温度推定の根拠となった、各構成物質の融点や共晶溶融温度を、表1に示す[3]。また、以下に観察結果とそこからの推定をまとめて示す。

 内部調査での観測結果: 177体の燃料集合体のうち、42体が炉心周辺部に部分的に残留しており、そのうち2体が、全長に対して>90%無傷の燃料棒を保持していた。いくつかの集合体は、炉心上部格子からぶら下がるようにして残留していた。

 分析方法: 非破壊検査(in situ CCTV、写真、ガンマ線、中性子計測)、燃料集合体や制御棒/中性子毒物棒集合体、空洞部位から上部金具にかけて

       破壊分析(金相写真、SEM/EDX分析、化学分析(ICP)、放射化学分析)、燃料棒/制御棒の上部端栓から上部スペーサグリッドにかけて

 分析結果: 事故時に径方向/軸方向に大きな温度勾配が発生していた痕跡

       いったん溶融した燃料棒や制御棒の冷却過程が場所によって相違していた痕跡

       溶融Ag-In-Cdが、吹き上がり、制御棒の上部プレナムスプリングに付着した痕跡

       燃料棒上端が破損し、燃料・制御棒・構造材成分が、燃料被覆管の間のギャップに侵入した痕跡

       燃料棒や制御棒が、軸方向の途中で溶融あるいは機械的に脱落した痕跡

 事故時ピーク温度(推定): 上部スペーサーグリッド付近のピーク温度は1500-1700K(# 構成材料の溶融状態の痕跡から推定)、崩落した物質のピーク温度は約2000~2200K(燃料棒/制御棒の崩落切断面、残留ペレットの結晶サイズから推定)

 事故時の状態(推定): 

       事故進展中に、燃料棒や制御棒の軸方向での高温部位が溶融、あるいは機械的に脆化し、それ以下の部分が崩落

       炉心周辺領域で外観形状を維持している燃料集合体についても、下の方では溶融物を形成

       崩落した、燃料棒、制御棒、可燃性毒物棒、などが、ルースデブリベッドを形成

       (# 溶融状態の痕跡から、崩落時のデブリの平均的な温度は約2000~2200K、局所的に(U,Zr)O2やUO2の溶融の痕跡が見られ、それぞれ>2810、>3120Kにと推定)

表1 構成材料の融点、共晶温度など(文献[1,3]などに基づき作成]
材料 融点・相変態温度 (K)
304 type-SS(上部金具、エプロン、グリル、など)融点 1673
718-Inconel(スペーサーグリッド)融点 1533
X-750 Inconel(スプリング)融点 1666
Ag-In-Cd(中性子吸収剤)融点 1073~1100
Zircaloyの、α→β遷移 1245
Zircaloy(燃料棒被覆管、制御棒案内管、計装案内管)融点 2030
UO2(燃料ペレット)融点 3120
(U,Zr)O2 (燃料棒の溶融生成物)融点(U:Zrモル比1:1) 2810
Al2O3-B4C(可燃性毒物)融点 2300
Ni-Zr, Fe-ZrのZrリッチ側共晶溶融(金属部材の界面反応生成物) 1200
Ni-Zr, Fe-ZrのNi,Feリッチ側の共晶溶融(同上) 1500~1600
図2 TMI-2炉の燃料集合体模式図[3]





















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図3 3タイプの集合体スパイダー[3]

















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図4 炉心周辺上部に残留していた燃料集合体の外観[3]
















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図5(a),(b) 炉心上部に残留していた燃料棒と制御棒の切断/崩落部の拡大[3]
図5(c) 炉心周辺に残留していた制御棒下部の拡大[3]
























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図6 残留案内管中でのジルコニウム水素化物の形成[3]























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図7 炉心周辺上部に残留していたジルカロイ被覆管の酸化程度の軸方向変化[3]
























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