燃料デブリの分析(特徴、経験温度)
デブリサンプルの採集位置
TMI-2事故では、事故収束時の圧力容器内の最終形態が推定されている(図1)[1、他]。推定のために、様々な内部調査や採集したサンプルの分析が行われた。圧力容器内からは、上部プレナム内の堆積/付着物、炉心周辺上部に残留していた燃料集合体および構造物、炉心の比較的上部に堆積していたデブリベッド、その下の溶融凝固領域、さらにその下に残留していた切り株状の燃料集合体、下部プレナム堆積デブリ、コアフォーマ領域堆積デブリ、などから、それぞれサンプルが採集され分析が行われた。事故進展の理解とデブリ取り出しに向けたデブリ特性理解に向けて、得られた分析結果に基づいて、それぞれの領域ごとに、事故進展中のピーク温度、構成材料間の反応、デブリ組成、デブリ酸化度、FP残留程度などが評価された[1]。
各領域の概要
- 上部空洞: 最深1.5mの深さ、空間体積9.3m3。周辺部に177個の燃料集合体のうち42個が部分的に残留、うち2個で全長に対し90%以上の無傷の燃料が残留
- 上部ルールデブリ: 上部空洞の直下。厚み0.6~1m、重量26.4トン
- 溶融・凝固物層: 3m径、中央で1.5m厚、周辺で0.25m厚、重量32.7トン
- ハードクラスト: 溶融・凝固物層を、上下及び周辺で取り囲むクラスト層
- 切り株燃料集合体: 0.2~1.5m高さ、下部クラストの下で、溶融・凝固物を支持
- 下部プレナムデブリ: 0.75~1m厚さ、堆積範囲4m径、重量19.2トン。堆積状態はシンメトリックでなく小山状。ハードデブリとルースデブリ
- コアフォーマ領域: 炉心周辺を囲むバッフル板の外側の円環状領域。一部が溶融デブリで破損・開口し、そこから溶融デブリが下部プレナムに移行。コアフォーマ領域内にも約4tのデブリが残留
デブリサンプルの採集場所
- 上部ルースデブリ(本来H8、E9集合体があった位置、それぞれ炉心中央、中間領域)
- 上部空洞周辺の残留燃料集合体
- 溶融凝固層と周辺のクラスト層
- 切り株燃料集合体
- 下部プレナムデブリ
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上部空洞周辺に残留していた燃料集合体
上部空洞周辺に残留していた燃料集合体の分析については、参考文献[1]に分析結果の概略が、参考文献[3]に詳細が報告されている。
図2に、TMI-2で使用されていた燃料集合体の模式図を示す。15x15の燃料集合体内に、燃料棒(ジルカロイ被覆管)、および、制御棒案内管と計装管(ジルカロイ製)が配置されている。燃料棒の軸方向には、数か所でスペーサーグリッド(インコネル製)が配置され、上端と下端は、ステンレス製の金具で束ねられている。上端下端金具内にはインコネル製のスプリングが装着されている。さらに、各燃料集合体内には、可燃性毒物棒スパイダー、制御棒スパイダー、軸方向出力平坦化棒スパイダー(APSR: Ax1al Power Shaping Rod APSR)のうち、ひとつのタイプのスパイダーが案内管を通じて上部から挿入される構造になっている(図3)。
図4に、分析に供された2個の燃料集合体の炉心上部残留物(D-141-3、D-153-9)の外観写真を示す。D-141-3では、上部スペーサーグリッドから制御棒スパイダーの上部までが、ほぼ無傷で残留していた。図4左図では、上部スペーサーグリッドの下あたりの外観を示している。上部スぺーサーグリッドの下では、燃料棒や制御棒は一部無傷でぶら下がっており、これらは、分析のために除去された。ステンレス製の制御棒被覆管は、途中で溶融して崩落した痕跡が観測された。一方で、ジルカロイ製の燃料棒被覆管は、溶融でなく脆性破壊で機械的に崩落した痕跡が観察された。この脱落は、事故進展時あるいは収納缶に回収した際に発生したと推定された。制御棒のステンレス被覆管が残留(一部で溶融の痕跡)していたことから、このあたりでの事故時ピーク温度は1673K程度と推定された(表1参照)。スペーサーグリッドが残留していた部分では、ピーク温度が1533K以下であったと推定された。D-153-9では、上部スペーサーグリッドとタイプレートが一部で溶融破損(図4右図の右下領域)し、一部では残留(左上領域)していた。右下領域では、エプロンも溶融していた。左上領域では、燃料棒や制御棒が、上部スペーサーグリッドの20-25cm下まで残留していた。これらの残留状態から、右下領域でのピーク温度は>1673Kと推定された。左上領域では>1533Kと推定された。同じ集合体内で軸方向と径方向に大きな温度勾配が発生していたと推定された。
図5(a)に、燃料棒の切断面の拡大を示す。ペレットには溶融の痕跡はほぼ見られず、内部にクラックが入っているのが見える。その周囲の燃料被覆管は脆性破断したように崩落していることがわかる。このような崩落メカニズムで、上部ルースデブリベッドが形成された可能性が推定されている。この場合、崩落物の温度は高々2200K程度と推定されている。図5(b)に、制御棒の崩落断面の拡大を示す。内部が中空で、中性子吸収剤(Ag-In-Cd)がおそらく溶落し消失していることがわかる。また、ステンレス製の制御棒被覆管とジルカロイ製の案内管の間で共晶溶融が発生していることがわかる。図5(c)には、制御棒の下部の様子を示す。Ag-In-Cdが溶融凝固してスタックしているが、被覆管との界面ではほとんど反応が起きていないことが確認できる。上部端栓近くでは、制御棒被覆管がほぼ本来形状を維持し、Ag-In-CdとInconel製のスプリングのみが溶融していた。これらのことから、制御棒内の温度は1073-1673Kであり、軸方向に大きな温度勾配があったと推定された。
また、ジルカロイ製の制御棒案内管については、内部で水素化が進んでいた(図6)。一方で、同じ高さレベルでの燃料被覆管では酸化が進み、水素化の痕跡は見られなかった。これらのことから、事故時の水蒸気/水素気流が局所的に異なっていた可能性が示唆された。燃料ペレットは、一部で破砕しており、内部で若干の結晶成長が見られた。燃料被覆管については、軸方向の高さ位置によって、外周部での酸化進展が異なっていた(図7)。これらのことから、軸方向に大きな温度勾配と、水蒸気/水素比の変化があったことが示唆された。
温度推定の根拠となった、各構成物質の融点や共晶溶融温度を、表1に示す[3]。また、以下に観察結果とそこからの推定をまとめて示す。
内部調査での観測結果: 177体の燃料集合体のうち、42体が炉心周辺部に、ほぼ全長を維持して残留、そのうち2体のみが、全長に対して>90%無傷の燃料棒を保持。いくつかの集合体は、炉心上部格子からぶら下がるようにして残留。
分析方法: 非破壊検査(in situ CCTV、写真、ガンマ線、中性子計測)、燃料集合体や制御棒/中性子毒物棒集合体、空洞部位から上部金具にかけて
破壊分析(金相写真、SEM/EDX分析、化学分析(ICP)、放射化学分析)、燃料棒/制御棒の上部端栓から上部スペーサグリッドにかけて
分析結果: 事故時に径方向/軸方向に大きな温度勾配が発生していた痕跡、いったん溶融した燃料棒や制御棒の冷却過程が場所によって相違していた痕跡
溶融Ag-In-Cdが、吹き上がり、制御棒の上部プレナムスプリングに付着
燃料棒上端が破損し、燃料・制御棒・構造材成分が上部の燃料被覆管ギャップに侵入
燃料棒や制御棒が、軸方向の途中で溶融あるいは機械的に脱落
事故時ピーク温度(推定): 上部スペーサーグリッド付近で1500-1700K(# 構成材料の溶融状態の痕跡から推定)、崩落した物質は2000K程度
事故時の状態(推定): 事故進展中に、炉心周辺領域で外観形状を維持している燃料集合体についても、下の方では溶融物に浸漬
溶融した制御棒、破砕された燃料棒、可燃性毒物棒、などが崩落し、ルースデブリベッドを形成(# 溶融状態の痕跡から、崩落時の平均的な温度は2000K程度、局所的には、二酸化物の融点2800Kや、UO2融点3100Kに到達、と推定)
材料 | 融点 (K) |
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304 type-SS(上部金具、エプロン、グリル、など) | 1673 |
718-Inconel(スペーサーグリッド) | 1533 |
X-750 Inconel(スプリング) | 1666 |
Ag-In-Cd(中性子吸収剤) | 1073 |
Zircaloy(燃料棒被覆管、制御棒案内管、計装案内管) | 2030 |
UO2(燃料ペレット) | 3120 |
(U,Zr)O2 (燃料棒の溶融生成物) | 2800 |
Al2O3-B4C(可燃性毒物) | 2300 |
Ni-Zr, Fe-ZrのZrリッチ側共晶溶融(金属部材の界面反応生成物) | 1200 |
Ni-Zr, Fe-ZrのNi,Feリッチ側の共晶溶融(同上) | 1500-1600 |
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上部ルースデブリ
上部ルースデブリサンプルの分析については、参考文献[1]に分析結果の概略が、参考文献[2]に詳細が報告されている。分析データの詳細については、上部ルースデブリの詳細分析データ、に別途まとめた。
上部ルースデブリは2回に分けて、炉心中央(H8集合体のあった部分)と中間領域(E9集合体のあった部分)からサンプリングされた。採集したサンプル重量は、炉心全体重量に対し、わずか0.001%に相当した(サンプルごとに約17gから170gを採集)。図8に、採集部位の詳細を示す[2]。図9に、サンプリング部位と、サンプル外観との関係を示す[1]。それぞれのサンプルは、まず、粒子サイズでふるいにかけられ、およそ分類された。
かさ密度測定の結果から、上部ルースデブリの堆積深さにより、大きく2つのグループに分類された。図8のサンプル-1,3,6(堆積物の上層から中間層)では、かさ密度は3.5-3.8g/cm3であり、サンプル-9,10,11(堆積物の下層)では、5.0-5.5g/cm3であった。粒度分布測定では、サンプル-1,3,6では、1680-4000ミクロンまで分布が広がっていたのに対し、サンプル-9,10,11では、1680-4000ミクロンサイズと297-700ミクロンサイズの2か所に粒子サイズのピークが存在した。このことから、サンプル-9,10,11では、粒度の異なる粒子が混在することで、かさ密度が高くなったと推定された。試料全体としては、1mmを超えるような大きな粒子が多く(約90%)存在していた。堆積物の表面近くでは大きな粒子のみが存在しており、下の方にいくと(表面からおよそ36-56cm以下)、小サイズの粒子が混在していた。サンプル-6でのみ磁性がある金属の溶融凝固粒子が検出された。さらに、採集したデブリ粒子サンプルの一部を使って自然発火性の確認試験が行われた。
上部ルースデブリ中のデブリ粒子の構成成分は、本来炉心を構成するUO2、Zry、インコネル等の物質とは異なっていることが明らかになり、さらにデブリ全体量に対するデブリサンプル量の少なさから、分析結果の代表性に関する議論があった。上部ルースデブリの平均的な特徴を示すデブリ粒子というものは存在せず、いくつかのタイプの粒子や領域が凝集・混合していた。そこで、溶融凝固や物質間の相互作用の痕跡を明らかに残しているデブリ粒子を合計で29個選定し、その微細構造が詳しく分析された。分析データに基づいて、事故時にそのデブリ粒子が経験した化学環境(ピーク温度、酸化度、相互作用)が推定された。これらにより、上部ルースデブリの主要成分は5グループに類型化され、ルースデブリ全体として、どのような特性を有するのかが検討され、デブリ取り出し方法の検討に反映された。[1] #ここで、29個というのは、たまたまそうなった数字であり、微細組織観察の点数は29個で必要充分であったということではない点には留意が必要である。
29個のデブリ粒子の微細組織分析では、金相観察、走査型電顕観察、EDX分析、オージェ電子分光分析、などが行われた。金相観察では、サンプル断面のエッチングの程度を変えて組織観察が行われた。粒子中で、UO2が残留している領域はオーバーエッチングで消失されやすく、(U,Zr)O2が存在する領域は残留しやすい傾向が観測された。粒子断面のエッチングの状態から両相の概略分布が明らかになり、そこから燃料溶融初期に形成されるU-Zr-Oメルトにより、燃料ペレットが次第に溶融するメカニズムがあることが推定された。また、破砕されたUO2ペレットでは、ほとんど結晶成長していないものが多くみられ、事故時のピーク温度は<2000~2200Kと推定された。一方で、一部のデブリ粒子中では、(U,Zr)O2相やUO2が溶融した痕跡が観測され、それぞれピーク温度>2800K、>3100Kと推定された。しかし、サンプル全体としては、このような高温での溶融の痕跡は一部にとどまっており、ルースデブリの平均的なピーク温度は<2000~2200Kと推定された。あるいは、高温に曝されたとしても、その暴露時間は極めて短時間と推定された。また、U-Zr-Oメルトが形成されていた部分では、燃料棒に由来しない成分(Al,Cr,Fe,Ni)の酸化物がわずかに検出された。このような成分は、結晶粒界やボイドの内表面に多く見られた。いくつかの粒子では、このような燃料に由来しない成分の割合の方が多く、第2相を形成していた。このことから、制御棒案内管やスペーサーグリッド、あるいは一部に装荷されていた可燃性毒物棒(Al2O3-B4C)などの溶融が燃料棒溶融進展のトリガーになっている可能性が推定された。中性子吸収材のAg-In-Cdは、上部ルースデブリ中ではほとんど検出されなかった(若干のAg-Ni-Sn合金粒子が検出された)。事故進展過程において、Ag-In-Cd中のIn-Cdは、蒸発あるいは初期の溶落により、上部ルースデブリの外に移行したと推定された。
デブリ粒子の微細構造の分析により、類型化された5タイプの成分を以下に示す。
Type-I: 破損した燃料ペレット
Type-II: 破損した燃料被覆管
Type-III: 多孔質の溶融凝固物(U,Zr)O2
Type-IV: 金属成分(SS,インコネルなど)が溶融凝固した粒子
Type-V: 燃料棒成分の酸化物と構造材成分(SS,インコネル等の酸化物、可燃性毒物棒成分Al2O3)の酸化物の混合物
さらに、デブリ粒子の一部は酸溶解され、ICPによる化学分析が行われた。化学分析では、物質の由来に着目し、以下の5グループに分類して、分析結果が評価された。
- 燃料ペレット+ジルカロイ被覆管
- 中性子吸収剤Ag-In-Cd
- 可燃性毒物棒(B,Gd,Al含有)
- 構造材(SS、インコネル)
- Te含有物質
化学分析では、すべてのサンプルから、UとZrが検出され、事故進展中に、燃料棒成分が溶融混合したことが確認された。また、本来炉心でのU:Zr組成に比べ、ルースデブリ中ではZrの割合が50%以下に減少している分析結果が得られた。このことから、燃料溶融初期にZry被覆管が選択的に溶融し、炉心のさらに下方に移行したと推定された。中性子吸収材については、Agの割合が初期組成に比べて90%以上減少していた。In,Cdはほとんど検出されなかった。可燃性毒物については、AlとGdは、ほぼすべてのサンプル中に存在していた。特に、Gdは初期炉心中にわずか13kgしか装荷されていなかったが、上部ルースデブリサンプル中に広く分布していた。Alはデブリベッドの表面近くに多く存在していた。揮発性FPもデブリベッドの表面近くで比較的多く検出された。これらのことから、デブリベッドの上部は、揮発性物質のトラップとなっていた可能性が示唆された。また、Gdの広い範囲での分布については、事故進展中の溶融の広がり、あるいは、事故終息後の冷却水中での二次的な再分布の可能性が示唆された。構造材は、デブリベッド全体で均質に検出され、Fe.Ni.Cr相互の組成は、炉心本来組成に近かった。しかし、Uに対する相対的な濃度は低下していた。Teは、Alと同様にデブリベッドの表面近くに濃化していた。
さらに、酸溶融したサンプルを用いて放射線分析が行われた。U-235/U-238比、高揮発性FP(I-129,Cs-137)、中揮発性FP(Ru-106,Sb-125)、低揮発性FP(Sr-90,Ce-144)の分布、などが評価された。Ceの検出濃度が高いことから、Ce分布が非均質であった可能性が示唆された。また、NiによるSb-125やRu-106のスカベンジ効果があることが推定された。I-129はサンプル表面に濃化していた。
以下に分析結果をまとめて示す。
内部調査での観測結果: 上部空洞の下に、主に粒子状物質からなるデブリベッド形成(上部ルースデブリ)。堆積厚さ、0.6-1.0m。
サンプリング方法: ドリル型とグリップ型のサンプリングツールで、デブリベッド2か所(炉心中央、炉心中間)に穴を開け、深さ方向に異なる位置から、11個のサンプル(重量は約17g~約170g)を採集。
分析方法: 物理分析(外観写真、ガンマ線、中性子計測、かさ密度、粒度分布)、採集したサンプル全量
微細組織分析(金相観察、SEM/EDX分析、オージェ分光分析)、29個の粒子を選定
破壊分析(化学分析(ICP)、放射化学分析)、採集領域ごとにサンプルの一部を酸溶融
磁性測定、自然発火性確認試験
主な分析結果(分析結果の詳細については、上部ルースデブリの詳細分析データ、に別途まとめた):
〇 外観、形状について
- ほとんどは1~5mmサイズの粒子(約90%)、最大で20mmサイズ
- ルースデブリ表層近くでは、比較的大きな粒子のみ存在し、かさ密度が小さい
- ルースデブリ下部では、大きな粒子と小さな粒子が混在し、かさ密度が大きい
- 様々なタイプの粒子状デブリが非均一に混在
- デブリ粒子の多くで、(U,Zr)O2やUO2溶融の痕跡 =>事故時のピーク温度>2800K, >3100K
- 破損崩落した燃料では、ペレットが溶融した痕跡があまり見られない =>事故時のピーク温度<2000~2200K
〇 炉心の主要構成物質の組成・分布について
- デブリ粒子の構成成分を5グループに類型化
- デブリ粒子の酸化度には偏りがあり、場所によっては70%以上の酸化度を観測 =>デブリの冷却時に、酸化度が上昇した可能性
- 他方、亜酸化状態を維持した領域も観測 =>高温溶融状態が維持された可能性
- U-Zr-O溶融凝固相中にAl,Cr,Fe,Niを検出、粒界に濃化、あるいは空孔周辺析出する傾向 =>構造材や可燃性毒物棒の酸化物がデブリ溶融を促進した可能性
- 本来炉心部にあった構造材(SS,インコネル)の30-50%くらいは、燃料成分とよく混合、一方で上部端栓などは燃料成分とあまり混合していない
- Ag-In-Cdは、酸化して燃料と混合せず、金属の別相を形成。また、ルースデブリベッド中の存在割合自体が少ない
- バルーニングした燃料棒内のギャップ中で、U-Zr-Oメルトが流れ落ち堆積の痕跡。被覆管外部でキャンドリングの痕跡 =>事故時に燃料棒軸方向に大きな温度勾配、燃料棒の上部で溶融進展(>2800K)、燃料棒の中央部ではピーク温度が<2000~2200Kの可能性
- Zrが、本来炉心でのU:Zr比に比べ50%以上減少、Agは90%以上減少 =>先行溶融し、炉心下方に移行と推定
- Uの同位体比は、H8,E9集合体の平均値と、それぞれでほぼ一致 => 崩落時に炉心物質がよく混合
- 主要な炉心物質は、粒子によって濃度の違いがあるが、よく混合して分布
- 溶融した粒子どうしが、別のタイミングで再び相互作用した痕跡 =>溶融凝固が複数回発生と推定
- 揮発性のAg-In-Cdは、堆積物表層付近で検出量が大きく、また、小さなデブリ粒子への吸着量が多い =>デブリベッド上部がトラップとして機能していた可能性
- 本来装荷量の少ない中性子毒物のGdが広く分布 =>デブリ溶融の広がり、あるいは、冷却水を介した二次的な拡散の可能性
〇 FPの分布について
- Te,I-129(および可燃性毒物棒中のAl)は、デブリベッド表面近くに多く検出
- Cs-137の70-80%はデブリベッドから除去。E9サンプル中では、H8サンプルに比べ、Cs-137残留量が18-85%高かった
- Ru-106,Sb-125,Cs-137,Ce-144は、E9サンプル中では、H8サンプルに比べて高濃度で検出された
- Ru-106,Sb-125は燃料から放出され、構造材(特にNi系材料)や、Zrメルトに吸着されていた
- Sr-90はほぼ全量燃料中に残留、微量が冷却水中に移行していた
- 揮発性物質の燃料からの放出は、およそ予想通りだったが、Ru-106は予想より高く、Sr-90は低かった
- Ce酸化物が濃化している粒子が検出された
分析結果からの推定:
〇 事故時ピーク温度・・・崩落・堆積時のピーク温度は、局所的に>2800K、>3100K。大半では<2000-2200K
〇 事故時のデブリふるまいについて
- 燃料破損の初期過程で、燃料棒とスペーサーグリッドなどが相互反応し、燃料溶融のトリガーとなっていた可能性
- デブリ粒子表面に積層化構造があり、キャンドリングや温度急上昇が複数回発生した可能性
- 溶融崩落中に、燃料の一部が溶融均質化。しかし、炉心全体としては溶融は一部にとどまり。多くは粒子状で機械的に崩落・堆積
# 炉心物質の崩落は、高温溶融物のキャンドリングではなく、機械的な崩落(スランピング)が主体だったと推定された。これは、炉内状況理解の進化に大きく貢献した。
- デブリの高酸化度は、高圧水蒸気中での冷却過程で上昇した可能性。# 高温で水蒸気酸化している最中には水素発生するため、>70%のような高酸化度には到達しない。
- 主要な炉心物質のうち、Zr,Fe,Ni,Cr,Al,Ag,Gdのルースデブリ中の平均的な濃度は、本来炉心中での組成に比べて低く、これらの物質が事故進展中に炉心下部に移行していた可能性。In,Cdについては、蒸発で失われた可能性
〇 事故時のFPふるまいについて
- ルースデブリベッドの表面近くは、揮発性物質(Ag,In,Cd,Al,Ru,Sb,Cs,Iなど)のトラップとして働いていた可能性。# そのメカニズムとしては、事故進展中の蒸発と凝縮、あるいは事故後の冷却水中でのイオンの化学吸着などが考えられる。
- Ru-106,Sb-125の蒸発を抑制する何らかの化学メカニズムが存在した可能性。# 有力候補は、Niによる吸着
- Ru,Srについては、酸化物形成することで揮発性が変化した可能性(Ruは高揮発性に、Srは低揮発性に)
- デブリベッド中でのCe再分布メカニズムがある可能性。酸化物の蒸発?
- 主要成分の混合性がよいため、事故時に粒子が良好に混合した可能性、事故後の冷却水を通じた二次的な輸送があった可能性
上部ルースデブリの分析結果による、事故進展・炉内状況推定の精緻化
ここから記述継続、、、
ここでは、具体的に、分析データでどのような精緻化がなされたのかをまとめる。
〇 燃料温度について
- 事故時のピーク温度や温度履歴の推定では、成分の溶融過程の痕跡を残している粒子が選定された(図11(a)(b)に例示)。
- 分析された粒子の多くでは、燃料被覆管成分は多く失われているものの、燃料ペレット内に結晶成長の痕跡が見られず、最高到達温度は<2000Kと推定された。一方で、(U,Zr)O2のメルトを形成した部分や、メルトの酸化度が>70%近くまで上昇していた部分など、が検出され、燃料と被覆管の間で激しい化学反応が発生していたと推定された(>2800K)。両者を矛盾なく説明できる事故進展過程の推定が必要となった。
- 分析された粒子の一つで、被覆管バルーニングで拡大した燃料/被覆管ギャップ中に、燃料棒上部から溶落してきたU-Zr-Oメルトが堆積している状態が検出され、温度推定に大きく貢献した(図11(a))。
- 大きな発熱を有するZr金属(orメルト)がどこまで維持され、その酸化反応がどこまで継続するのかが温度上昇のかぎとなると推定された。したがって、外周部でZrO2皮膜が残留し、内部にUO2ペレットが残留し、両層の中間で被覆管が溶融してU-Zr-Oメルトが形成される条件では、さらに、激しい温度上昇が起こると推定された。このような現象は、被覆管バルーニングで、被覆管とペレットの間にギャップが形成された部位に、上部からZrを含むメルトが溶け落ちてくると発生しやすいと推定された。
- これに対し、被覆管成分が、構造材との共晶溶融などでメルトとして事故初期に下方に移動したり、あるいは、酸化によって破砕され、崩落したりするような条件では、燃料温度の急激な上昇が起こりにくく、粒子状デブリとして機械的に崩落すると推定された。
〇 デブリふるまいについて
P.139から
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溶融・凝固デブリ
図3に、典型的なサンプルの断面BSE像(#重元素が明るく見える)。(a)ほぼ酸化物のサンプル、(b)ほぼ金属のサンプル、(c)酸化物/金属混合物
主な成分: 酸化物と金属の混合物、主に酸化物相、主に金属相
存在割合: 金属相領域の体積割合は15%
主な物質: 金属相:制御棒被覆(SS)、スペーサーグリッド(インコネル)、制御材(Ag-In-Cd)が由来の物質
酸化物:(U,Zr)O2
ピーク温度: 2800K(溶融・凝固した(U,Zr)O2を検出)、3100Kに到達した可能性(上部ルースデブリで見られたUO2溶融・凝固物からの推定)
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上部クラスト[4]
図4に、典型的なサンプルの断面SEM像(#重元素が暗く見える)
主な成分: 酸化物と金属の混合物
存在割合: 金属相領域の体積割合は25%
主な物質: 金属相:制御棒被覆(SS)、スペーサーグリッド(インコネル)、制御材(Ag-In-Cd)が由来の物質。Fe-Ni合金、Ag-In-U合金、Ni-Sn合金等、Cdは未検出
酸化物:(U,Zr)O2
ピーク温度: 2800K(酸化物相の主成分が溶融・凝固した(U,Zr)O2)
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周辺クラスト[4]
上部クラストとおよそ同じ状態。
主な成分: 酸化物と金属の混合物、一部に無傷なペレットを検出、金属相中にZrが多い
存在割合: 参考文献[1]で言及なし、おそらく25%
主な物質: 金属相:制御棒被覆(SS)、スペーサーグリッド(インコネル)、制御材(Ag-In-Cd)が由来の物質。Fe-Zr-Ni-Cr合金、Ag-In合金、Zr-Ni-In合金等、金属Zrを多く含む
酸化物:(U,Zr)O2
組成: 金属相の平均組成は、U,Zr,Cdを除くと炉心平均組成に近い(SS, インコネル, 中性子吸収剤)
ピーク温度: 2800K(酸化物相の主成分が溶融・凝固した(U,Zr)O2)
特記事項: 燃料被覆管/制御棒、制御棒/制御棒案内管の共晶溶融物の崩落と推定
下部クラスト[4]
図5に、典型的なサンプルの断面SEM像(#重元素が暗く見える)。
主な成分: 残留ペレットが縦方向に本来形状を維持してスタックし、その周囲を溶融・凝固物が覆っている。
存在割合: 参考文献[1]で言及なし
主な物質: 金属相:制御棒材や燃料集合体部材と、Zr被覆管や制御棒案内管との、共晶溶融・凝固物、内部に100-200ミクロンの丸いUO2析出物
酸化物:ペレットの残留物
組成: 金属相の平均組成は、U,Zr,Cdを除くと炉心平均組成に近い(SS, インコネル, 中性子吸収剤)。Zr-Fe-Ni-Cr合金、Ag-In合金、Zr-Ni-In合金等、周辺クラストよりさらにZrの割合が高い。
ピーク温度: 金属相中にUO2析出物が見られたことから、2200Kに到達し、U-Zr-Oメルトを形成していたと推定
特記事項: 事故初期フェーズで、制御棒材や燃料集合体部材が溶落し、Zr被覆管や制御棒案内管と接触・溶融(Fe/Zr,Fe/Ni共晶:1400K)、これがペレットの隙間やクラックに侵入して形成と推定
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切り株燃料集合体[4]
切り株燃料集合体と、周辺に残留した集合体で、44.5トンの上部ルースデブリ、クラスト、及び、溶融・凝固デブリを支えていた。
ピーク温度: <1100K(溶融の痕跡が見られない)
特記事項: 一部で下部クラストを通過して、Zrリッチ金属が溶け落ち、わずかに下部プレナムに到達していた。
下部プレナムデブリ[5]
図6に、典型的なサンプルの断面金相。
形状・サイズ: 大きな岩石状(0.2mサイズ)~粒子状(<0.1mm)
主な成分: 溶融・凝固した多孔質物質。
主な物質: (U,Zr)O2 ほぼ均質
組成: 酸化物相中のU:Zr比は、上部ルースデブリ、溶融・凝固物、クラスト中でほぼ同じ(炉心平均に比べ、ややUリッチ)
ピーク温度: 2800-3100K
特記事項: 上部のデブリに比べ、I, Ru, Sbの混入が極めて少ない
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観測結果のまとめ
表1に、検出した相状態・組成、ピーク温度の推定結果、等をまとめて示す。
上部ルースデブリ、上部クラスト、周辺クラスト、溶融・凝固物、下部プレナムデブリのピーク温度は、2800-3100Kと推定
下部クラストの温度は、>1400K、最高2200Kと推定
金属相の組成は、場所によって異なっていた。下部クラスト、周辺クラストでは、Zrリッチの合金を多く検出(Zr-Fe-Ni, U-Ag-Cr-Sn-In-Mo-Cd等)。溶融・凝固物中では、ZrとUの混入が少ない(Fe-Ni, Ag-Sn-Cr-Mo-In-Cd等)、また、存在割合自体が少ない(クラスト中25%、溶融・凝固物中15%)。上部ルースデブリでは、Fe-U-Ni-Zrにマイナー成分としてAg-Cr-Sn-In-Mo-Cd。上部ルースデブリと下部プレナムデブリには、SSや制御棒材はほとんど混入されていなかった。
これらの観測結果から、最初に溶落するのは、インコネル製スペーサーグリッドとZry被覆管の共晶溶融物、Zry制御棒案内管とSS制御棒被覆管の共晶溶融物であり、そこにAg-In-Cdが溶融することで流動性が高まったと推定した。燃料温度が1700K以上に急上昇するとZryの溶融が進み、2200Kあたりで、ZryメルトへのUO2溶融が進むと推定した。ほぼ同じタイミングでSS被覆管が溶けて、Ag-In-Cdが放出され、様々な金属成分が形成される。このような合金相が崩落した燃料ペレットの隙間に存在していた状態から、下部クラストの形成メカニズムとピーク温度を推定した。
デブリの分類 | 主な分析結果 | 事故時ピーク温度(K) | 事故時の状態推定 |
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炉心周辺に残留していた燃料集合体 | ・溶融制御棒材、溶融燃料などが上部構造物に付着
・炉心の径方向部位によって、残留状態が変化 ・軸方向の途中で、機械的あるいは溶融により、燃料棒や制御棒が切断 ・残留物中では、主に金属系の構造物で溶融進展の痕跡、一方、燃料ペレットは本来形状をほぼ保持 |
1500~1700 | ・炉心外周部で、外観形状を維持している燃料棒についても、下の方では事故時に溶融していた。
・残留している燃料集合体や炉心上部構造物内で、事故時に大きな径方向/軸方向の温度勾配が発生していた。 ・燃料棒や制御棒、そのほかの構造物は、溶融状態および粒子状態で、ルースデブリベッドとして崩落した。 |
上部ルースデブリ | ・外観形状の特徴から、ルースデブリを5群に類型化
・堆積深さ方向に、かさ密度と粒度分布の相違(堆積物下層では、小サイズ粒子が隙間を充填することで、かさ密度増加) ・U,Zrはサンプル中に広く分布、しかしU:Zr組成は、本来の炉心組成に比べ、50%以上Zrが少ない ・Agは、90%以上消失 ・Gdは、サンプル中に広く分布 ・Alは、堆積物上層に多く存在 ・構造材成分(SS.インコネル)は、堆積物中に比較的均質に存在、その組成は、本来組成に近い |
局所的に、>2800、>3100
(溶融・崩落中) デブリ全体としては、<2000 (崩落途中、堆積後) |
・燃料棒は、一部で局所的に溶融し、U-Zr-Oメルトを形成して下方向に溶落(>2200K)。一部では、溶融(U,Zr)O2形成(>2800K)、さらに、UO2にも溶融の痕跡(>3100K)
・Zrを多く含むU-Zr-Oメルトは、さらに下方に移行し、U:Zr比に、軸方向の濃度分布ができた可能性 ・燃料棒の大部分は、機械的に破損し、崩落(<2000K)、粒子状で堆積 ・制御棒や燃料集合体部材は、共晶反応で溶融し、下方に溶落。 ・堆積時に、比較的下層では、かさ密度が増加 ・揮発性FP(Te,Iなど)やAlが再分布(表面近くに多く残留、# ルースデブリが揮発性物質のトラップになっていた可能性) ・Gdは比較的均質に存在し、溶融が広がっていた可能性を示唆 |
溶融・凝固デブリ | 酸化物:(U,Zr)O2、U:Zr比ほぼ一定
金属:SS,インコネル,Ag-In-Cd由来の合金(U,Zr,Cd金属はあまり含まれない) 金属の体積割合:15% |
2800~3100 | ルースデブリや初期のクラストが再溶融・凝固 |
上部クラスト | 酸化物:(U,Zr)O2、U:Zr比ほぼ一定
金属:SS,インコネル,Ag-In-Cd由来の合金(Fe-Ni, Ag-In-U, Ni-Sn)、U金属を含む 金属の体積割合:25% |
2800~3100 | 再溶融したデブリの一部がクラスト形成 |
周辺クラスト | 酸化物:(U,Zr)O2、U:Zr比ほぼ一定
金属:SS,インコネル,Ag-In-Cd由来の合金(Fe-Zr-Ni-Cr, Ag-In, Zr-Ni-In)、Zr割合が多い 金属の体積割合:25% |
2800~3100 | 再溶融したデブリの一部がクラスト形成 |
下部クラスト | 残留したペレットスタックの周囲に溶融・凝固物が侵入
溶融・凝固物中にUO2粒子析出 |
>1400 (金属メルト形成)
~2200 (溶融・凝固相) |
崩落した燃料棒、制御棒、燃料集合体部材などの金属成分が溶融・凝固し、ペレットの隙間やクラックに侵入
一部、U-Zr-Oメルト形成 |
切り株燃料集合体 | 上部で下部クラストと連結
Zrメルトが一部、下部プレナムまで溶落した痕跡あり |
<1100 | 上部のデブリを支持 |
下部プレナムデブリ | 岩石状~粒子状
溶融・凝固した多孔質 均質な(U,Zr)O2が主成分 I, Ru, Sbなどの混入が少ない |
2800~3100 | 炉心部の溶融デブリが短時間で移動し、凝固 |
関連項目
参考文献
[1] R.K. McCardell, M. L. Russell, D.W. Akers, C.S. Olsen, Summary of TMI-2 core sample examination, Nucl. Eng. Des. 118 (1990) 441-449.
[2] D.W. Akers, E.R. Carlson, B.A. Cook, S.A. Ploger and J.O. Carlson, TMI-2 core debris grab samples -Examination and analysis, GEND-INF-075-PT-1 and GEND-INF-075-PT-2, 1986.
[3] S.M. Jensen, D.W. Akers, R.W. Garner and G.S. Roybal, Examination of the TMI-2 core distinct components, GEND-INF-082, 1987.
[4] D.W. Akers, C.S. Olsen, M.L. Russell and R.K. McCardell, The TMI-2 lower core region: Examination and analysis, GEND-INF-092, 1988.
[5] C.S. Olsen, D.W. Akers and R.K. McCardell, Examination od debris from the lower head of the TMI-2 Reactor, GEND-INF-084, 1988.