「炉心上部構造物(UCSA)の切断解体」の版間の差分
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1987年から、炉心部からの破損燃料集合体と溶融凝固デブリの取り出しと並行して、炉心下部構造物(LCSA)と炉心上部構造物(UCSA)の解体撤去とデブリ回収計画の検討が具体的に進められた[1]。 | 1987年から、炉心部からの破損燃料集合体と溶融凝固デブリの取り出しと並行して、炉心下部構造物(LCSA)と炉心上部構造物(UCSA)の解体撤去とデブリ回収計画の検討が具体的に進められた[1]。 | ||
LCSAについては、初期案として、中央部に約1. | LCSAについては、初期案として、中央部に約1.2m角の開口部を設け、そこから長尺ツールや真空吸引システムを挿入して、LCSA内の堆積デブリや下部プレナムの堆積デブリを回収する工法が提案された[2]。しかし、下部プレナム調査[3]とコアボーリング調査[4]により、約9~19トンのデブリが下部プレナムに広範囲に堆積していることが明らかになり、さらに、炉心部からの溶融凝固デブリや切り株燃料集合体の取り出し作業後のビデオ調査により、数トン規模で粒子デブリや破損燃料棒がLCSA内に崩落したことから、5層構造のLCSAを1層ずつ、できるだけ広範囲に切断解体して撤去し、大きな開口部を形成する工法に修正された[1]。 | ||
1988年に、ほぼ1年かけて、主に、コアボーリング装置(CBM)とプラズマアークトーチによる切断システム(ACES)を用いてLCSAの切断解体が行われた[1]。また、LCSA内の堆積デブリについては、冷却水を用いたフラッシングや、長尺ツールによる破砕・クリーニング、および、エアリフトによる吸引回収が行われた。 | |||
1989年の第1四半期に、下部プレナムデブリの破砕・回収作業が進められ、第2四半期から、UCSAの切断解体とコアフォーマ領域からのデブリ取り出しが開始された[1]。ここでは、UCSAの切断解体とコアフォーマ領域からのデブリ取り出しの概要をまとめる。 | |||
'''<big>参考:炉心下部構造物(LCSA)の切断解体</big>''' | |||
'''<big>参考:下部プレナム調査</big>''' | |||
'''<big>参考:ボーリング調査</big>''' | |||
== UCSAの構造とデブリ堆積状態 == | |||
'''図1'''に、UCSAの全体構造を示す[1]。 | |||
* 炉心支持遮蔽(CSS: Core Support Shield): 約3.8m径、約2.9m高さからなる、SS製の円筒構造で、その上部フランジは圧力容器に固定されている。下部フランジは容器槽にボルト固定されている。炉心と上部プレナム構造物の重量を圧力容器に伝える役割を担っている。また、コールドレグから来た冷却水を圧力容器底部に流し、炉心部で加熱された冷却水をホットレグに流すという冷却水フローを形成する役割も担っている。本来は、上部プレナム構造物と接続しているが、上部プレナム構造物はすでに撤去されている。 | |||
* 熱遮蔽(Thermal Shield): 約3.8m径、約4.2m高さからなる、SS製の円筒構造で。約5cmの厚身を有し、容器槽の外側を囲んでいる。容器槽との間のギャップは約2.5cmの円環状である。圧力容器内壁とのギャップは約25cmの円環状である。下部プレナムの初期の調査はここを通じて行われた。3本の計測配管が、外側ギャップ内に配置され、熱遮蔽にボルト止めされている。炉心部の熱を遮蔽する役割を担っており、耐力壁でなく、冷却水のフローを作る役割は持っていない。 | |||
* 容器槽(Core Barrel Assembly): 約3.7m径、約4.3m高さ、約5cm厚さのSS製の円筒構造で、上部でCSSにボルト止、下部でLCSAにボルト止めされている。炉心重量を保持する役割を担っている。運転中はバイパスフローにより、UCSAを冷却する。その内側に、水平のコアフォーマプレート(8層)と垂直のバッフルプレート(36枚)がとりつけられている。その内部に燃料集合体を保持し、冷却水のフローを作る役割を担っている。 | |||
* コアフォーマプレート: 約3.2cm厚さのSS製で、容器槽の内側に8層構造で取り付けられている。容器槽にボルト止めされている。水平プレート面に約3.3cm径のフローホールがある。 | |||
* バッフルプレート: 約1.9cm厚さのSS製で、コアフォーマープレートにボルト固定されている(864本)。そのうち、108本はロッキングピンで溶接固定されている。バッフルプレート相互でもボルト固定されている。(612本)。いずれも溶接固定である。接続ボルトは、くぼみにボルトヘッドが埋まる方式で接続されている。バッフルプレートは、場所によって113~20cm幅であり、4枚の113cm幅プレートと、炉心角部分の階段形状プレートで形成されている。 | |||
== UCSAの破損とデブリの堆積状態 == | |||
コアフォーマ領域に、ビデオカメラとファイバースコープを挿入して画像調査が行われた。また、炉心側からのγ線測定も行われた。その結果、以下の観測結果が得られた。 | |||
* バッフル板に大きな開口部が1箇所(約1.8m高さ x 0.6m幅)形成されていた(炉心南東側、R6/R7集合体付近)。また、コアフォーマプレートが一部欠落し、近くにもう1箇所小さい開口部が存在していた。'''図2'''に、周辺のデブリを回収した後のこの領域の写真を示す[5]。 | |||
* この開口部を経由して、溶融デブリが、ほぼ全周にわたって侵入し、堆積していた。さらに、フローホールを経由して下層のコアフォーマプレートに移行し、一番下のコアフォーマプレートからLCSAや下部プレナムにも移行していた。 | |||
* R6/R7領域以外では、UCSAの構造材とデブリの相互作用の痕跡は見られなかった。 | |||
* 溶融凝固デブリは、多くのコアフォーマプレートのフローホール内に存在し、これを閉塞していた。 | |||
* UCSA内のデブリ量は約4.1トンと推定された。 | |||
* コアフォーマ内のデブリ分布は非均質だが、デブリの存在しない場所はなかった。'''図3'''に、デブリ分布の推定図を示す[6]。比較的下層にデブリが多く存在していることがわかる。 | |||
* バッフルプレートには一部変色が見られ、高温物質と接触したためと推定された。また、開口部近くの南東部のバッフルプレートの間にクラックが見つかった。 | |||
* バッフルプレートやコアフォーマプレートの上に、溶融凝固デブリのうすいフィルム構造が観測された。 | |||
* コアフォーマプレートの水平面には、微粒子デブリが堆積しており、一部はフラッシング可能と判断された。下層のコアフォーマプレートには溶融凝固デブリが固着していると推定された。これは長尺ツールなどで破砕可能と判断された。 | |||
* バッフルプレートの取り付けボルトのくぼみにデブリが堆積していた。しかし、ボルトの損傷は見られなかった。 | |||
* 容器槽と熱遮蔽の間のビデオ調査では、容器槽の損傷とデブリ堆積は見られなかった。容器槽はデブリにより貫通されていないと判定された。 | |||
* バッフルプレートへの接触γ線測定では、炉心中央位置で3000R/h、上下では若干小さい値が得られた。 | |||
== UCSAの解体とデブリ取り出し工法の検討 == | |||
1987: | |||
・課題は、バッフル板の裏側にどうやってアクセスするか | ・課題は、バッフル板の裏側にどうやってアクセスするか | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
[1] J.M. Rodabaugh et al., Disassembly and Defueling of the Three Mile Island Unit 2 Upper Core Support Assembly, Nucl. Technol. 87 (1989) 1117-1121. | [1] J.M. Rodabaugh et al., Disassembly and Defueling of the Three Mile Island Unit 2 Upper Core Support Assembly, Nucl. Technol. 87 (1989) 1117-1121. | ||
[2] L.H. Porter and W.E. Austin, Disassembly and Defueling of the Three Mile Island Unit 2 Reactor Vessel Lower Core Support Assembly, Nucl. Technol. 87 (1989) 595-608. | |||
[3] 下部プレナム調査 | |||
[4] ボーリング調査 | |||
[5] R7の様子 | |||
[6] デブリ分布推定 |
2025年8月26日 (火) 10:01時点における版
1987年から、炉心部からの破損燃料集合体と溶融凝固デブリの取り出しと並行して、炉心下部構造物(LCSA)と炉心上部構造物(UCSA)の解体撤去とデブリ回収計画の検討が具体的に進められた[1]。
LCSAについては、初期案として、中央部に約1.2m角の開口部を設け、そこから長尺ツールや真空吸引システムを挿入して、LCSA内の堆積デブリや下部プレナムの堆積デブリを回収する工法が提案された[2]。しかし、下部プレナム調査[3]とコアボーリング調査[4]により、約9~19トンのデブリが下部プレナムに広範囲に堆積していることが明らかになり、さらに、炉心部からの溶融凝固デブリや切り株燃料集合体の取り出し作業後のビデオ調査により、数トン規模で粒子デブリや破損燃料棒がLCSA内に崩落したことから、5層構造のLCSAを1層ずつ、できるだけ広範囲に切断解体して撤去し、大きな開口部を形成する工法に修正された[1]。
1988年に、ほぼ1年かけて、主に、コアボーリング装置(CBM)とプラズマアークトーチによる切断システム(ACES)を用いてLCSAの切断解体が行われた[1]。また、LCSA内の堆積デブリについては、冷却水を用いたフラッシングや、長尺ツールによる破砕・クリーニング、および、エアリフトによる吸引回収が行われた。
1989年の第1四半期に、下部プレナムデブリの破砕・回収作業が進められ、第2四半期から、UCSAの切断解体とコアフォーマ領域からのデブリ取り出しが開始された[1]。ここでは、UCSAの切断解体とコアフォーマ領域からのデブリ取り出しの概要をまとめる。
参考:炉心下部構造物(LCSA)の切断解体
参考:下部プレナム調査
参考:ボーリング調査
UCSAの構造とデブリ堆積状態
図1に、UCSAの全体構造を示す[1]。
- 炉心支持遮蔽(CSS: Core Support Shield): 約3.8m径、約2.9m高さからなる、SS製の円筒構造で、その上部フランジは圧力容器に固定されている。下部フランジは容器槽にボルト固定されている。炉心と上部プレナム構造物の重量を圧力容器に伝える役割を担っている。また、コールドレグから来た冷却水を圧力容器底部に流し、炉心部で加熱された冷却水をホットレグに流すという冷却水フローを形成する役割も担っている。本来は、上部プレナム構造物と接続しているが、上部プレナム構造物はすでに撤去されている。
- 熱遮蔽(Thermal Shield): 約3.8m径、約4.2m高さからなる、SS製の円筒構造で。約5cmの厚身を有し、容器槽の外側を囲んでいる。容器槽との間のギャップは約2.5cmの円環状である。圧力容器内壁とのギャップは約25cmの円環状である。下部プレナムの初期の調査はここを通じて行われた。3本の計測配管が、外側ギャップ内に配置され、熱遮蔽にボルト止めされている。炉心部の熱を遮蔽する役割を担っており、耐力壁でなく、冷却水のフローを作る役割は持っていない。
- 容器槽(Core Barrel Assembly): 約3.7m径、約4.3m高さ、約5cm厚さのSS製の円筒構造で、上部でCSSにボルト止、下部でLCSAにボルト止めされている。炉心重量を保持する役割を担っている。運転中はバイパスフローにより、UCSAを冷却する。その内側に、水平のコアフォーマプレート(8層)と垂直のバッフルプレート(36枚)がとりつけられている。その内部に燃料集合体を保持し、冷却水のフローを作る役割を担っている。
- コアフォーマプレート: 約3.2cm厚さのSS製で、容器槽の内側に8層構造で取り付けられている。容器槽にボルト止めされている。水平プレート面に約3.3cm径のフローホールがある。
- バッフルプレート: 約1.9cm厚さのSS製で、コアフォーマープレートにボルト固定されている(864本)。そのうち、108本はロッキングピンで溶接固定されている。バッフルプレート相互でもボルト固定されている。(612本)。いずれも溶接固定である。接続ボルトは、くぼみにボルトヘッドが埋まる方式で接続されている。バッフルプレートは、場所によって113~20cm幅であり、4枚の113cm幅プレートと、炉心角部分の階段形状プレートで形成されている。
UCSAの破損とデブリの堆積状態
コアフォーマ領域に、ビデオカメラとファイバースコープを挿入して画像調査が行われた。また、炉心側からのγ線測定も行われた。その結果、以下の観測結果が得られた。
- バッフル板に大きな開口部が1箇所(約1.8m高さ x 0.6m幅)形成されていた(炉心南東側、R6/R7集合体付近)。また、コアフォーマプレートが一部欠落し、近くにもう1箇所小さい開口部が存在していた。図2に、周辺のデブリを回収した後のこの領域の写真を示す[5]。
- この開口部を経由して、溶融デブリが、ほぼ全周にわたって侵入し、堆積していた。さらに、フローホールを経由して下層のコアフォーマプレートに移行し、一番下のコアフォーマプレートからLCSAや下部プレナムにも移行していた。
- R6/R7領域以外では、UCSAの構造材とデブリの相互作用の痕跡は見られなかった。
- 溶融凝固デブリは、多くのコアフォーマプレートのフローホール内に存在し、これを閉塞していた。
- UCSA内のデブリ量は約4.1トンと推定された。
- コアフォーマ内のデブリ分布は非均質だが、デブリの存在しない場所はなかった。図3に、デブリ分布の推定図を示す[6]。比較的下層にデブリが多く存在していることがわかる。
- バッフルプレートには一部変色が見られ、高温物質と接触したためと推定された。また、開口部近くの南東部のバッフルプレートの間にクラックが見つかった。
- バッフルプレートやコアフォーマプレートの上に、溶融凝固デブリのうすいフィルム構造が観測された。
- コアフォーマプレートの水平面には、微粒子デブリが堆積しており、一部はフラッシング可能と判断された。下層のコアフォーマプレートには溶融凝固デブリが固着していると推定された。これは長尺ツールなどで破砕可能と判断された。
- バッフルプレートの取り付けボルトのくぼみにデブリが堆積していた。しかし、ボルトの損傷は見られなかった。
- 容器槽と熱遮蔽の間のビデオ調査では、容器槽の損傷とデブリ堆積は見られなかった。容器槽はデブリにより貫通されていないと判定された。
- バッフルプレートへの接触γ線測定では、炉心中央位置で3000R/h、上下では若干小さい値が得られた。
UCSAの解体とデブリ取り出し工法の検討
1987:
・課題は、バッフル板の裏側にどうやってアクセスするか ・バッフル板のタイプは2種類 ・集合体5個分の幅を持つプレートが炉心サイドに、角用のステップ構造をもつプレートが4枚(合計8枚)
2つのアプローチ:
・幅広プレートをプラズマアークで縦方向に切断。次に水平方向に切断。ボルト位置をかわしての切断。プレート取り外し、開口部形成。
・角プレートは4つに解体、 ・この方法で切断すれば、ボルト1476本の内、576本をはずせば、コアフォーマへのアクセスが可能となる。
バッフル板撤去後のデブリ回収:
・バッフルフローホールやボルト周辺の固着デブリ
・最下部は、下部格子との接合部、プラズマアークで切断
・コアフォーマプレート、バッフルプレート、コアバレルの内側の固着デブリのかきとり
・ルースデブリのフラッシング ・複数種類のツールが必要となる。
・4.2トンがコアフォーマ領域に(1987.12のビデオ調査)
1988
UCSA取り出し計画
・UCSA取り出し計画完成、認可。
① プラズマアークで、バッフル板の全長縦切り、8か所で。
② 油圧打撃レンチで取付ボルト撤去、バッフル板とコアフォーマの接続解除
③ バッフル板の何か所かを撤去、コアフォーマに堆積しているデブリへのアクセス
④ レンチで撤去できないボルトは、コアボーリング装置利用
・1988年に、必要ツールの設計・製作・機能確認 ・プラズマアークで予備的なボルト撤去実施、5本成功。4本は装置故障でうまくいかず。さらに、画像データの不足で開口部のクリーンアップ不十分
1989
・つづいて、UCSA解体撤去とコアフォーマ侵入デブリ回収の完了
・炉内物質の99.7%を取り出し ・89年の進捗は、LCSAの解体とデブリ取り出し、下部プレナムデブリ取り出し、UCSA解体とデブリ取り出し、クリーンアップと調査
・バッフル板は36枚、水平方向のコアフォーマプレートにボルトでとりつけ。バッフル板の外側をコアフォーマ領域と言う。
・解体手順 ① バッフル板を縦方向に8か所で切断、プラズマトーチ、手動マニピュレータ。36枚すべてをバラバラに解体するのは時間がかかるため8か所だけ
② 864本のコアフォーマへの取付ボルト撤去。油圧レンチ。ドリル。
③ 2本のクランプを切り出した8分割のバッフル板の上部にとりつけて、コアフォーマプレートから分離。表裏面をフラッシング
④ コアフォーマ領域に堆積していたデブリかき落とし(ウォータージェット、0.76L/秒、82,737 kPa)、真空吸引、大きな粒子は叩き落とし
⑤ 8分割分繰り返し。いったんデブリ吸引した領域にデブリが再度移行しないように、防護プレート取り付け ⑥ 下部プレナムの残留デブリを最後に回収 4.1.4. 最終的な取りだし ・残留デブリのピックアップ、真空吸引 ・炉心上部から下部に向けて、フラッシング、かきとり ・最終作業は1989.12に開始、1990初旬に終了予定
1990
・UCSAに一時的にとりつけたシュラウドも、バッフルプレートの解体、コアフォーマプレートからのデブリ回収の後に、解体予定。バッフルプレート撤去後に、コアフォーマ領域にデブリが侵入しないように取り付けていた。
UCSAについて、再度真空吸引処理
参考文献
[1] J.M. Rodabaugh et al., Disassembly and Defueling of the Three Mile Island Unit 2 Upper Core Support Assembly, Nucl. Technol. 87 (1989) 1117-1121.
[2] L.H. Porter and W.E. Austin, Disassembly and Defueling of the Three Mile Island Unit 2 Reactor Vessel Lower Core Support Assembly, Nucl. Technol. 87 (1989) 595-608.
[3] 下部プレナム調査
[4] ボーリング調査
[5] R7の様子
[6] デブリ分布推定