「下部プレナムデブリサンプルの分析データ」の版間の差分
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この時点までの調査で、以下の炉内状態がおよそ解明されていた。 | この時点までの調査で、以下の炉内状態がおよそ解明されていた。 | ||
2025年7月4日 (金) 10:54時点における最新版
1985年7月に実施された下部プレナム周辺部の調査において、熱遮蔽の外側で容器槽との間の円環状の領域を通じて圧力容器上部から長尺ツールを挿入し、ビデオ調査とサンプリングが行われた[1]。図1に、下部プレナム調査の概要を示す[1]。開口部7と11を通じて、その周辺の粒子デブリ16個が採集され、INELとANL-Eにおいて分析が行われた[2]。粒子の重量は、最小0.4gから最大で553.9gであり、サイズは粉末状から最大で6.3cmであった。断面形状はおよそ均質で、密度は6.57~8.25g/cc(平均7.07g/cc)、閉空孔率は8~30%(平均25%)であった。マトリックス相の主成分は(U,Zr)O2であり、その内部にわずかにUO2が残留していた。(U,Zr)O2相には溶融凝固の痕跡が見られ、UO2相は融点近傍まで温度上昇した形跡が見られたことから、デブリの最高温度は3120K近くに到達していたと推定された。結晶粒界には、Fe-Cr-Al等を主成分とする酸化物の第二相が析出していた。また、空孔や結晶粒界に、わずかに、金属粒子が析出しており、その成分はNi-Sn-Ru、Mo-In-Agなどであった。U:Zr比は、60~70wt%:10~15wt%であり、炉心平均より、ややZrの割合が小さかった。高揮発性、中揮発性FPの保持率としては、サンプル平均として、Cs-137が13%、I-129が3%、Sb-125が2.5%、Ru-106が6%と評価された。Cs-137については、炉心部から回収された溶融凝固層中の保持率より大きく、空孔内に多く閉じ込められていた。低揮発性FPの保持率、および、U富化度の分析値から、下部プレナムデブリの平均的な組成は、事故前に炉心中央に装荷されていた燃料集合体(U富化度1.98%)と炉心中間に装荷されていた燃料集合体(U富化度2.64%)の平均値と整合していた。このことから、炉心外周に装荷されていた燃料集合体(U富化度2.96%)由来の成分は、あまり混合していないと評価された。
この項目では、下部プレナムデブリの分析結果の詳細をまとめる。
参考:下部プレナム調査
参考:分析調査のニーズ
分析計画と分析方法
下部プレナムデブリの採集と分析は、圧力容器内部調査の進展を受けて改定されたCore Examination Planの一環として実施された[3]。事故シナリオの解明と、圧力容器内からのデブリ取り出し工法への知見反映を目的として、デブリの物理的な特性(重量、密度、形状、形態、空孔率)、化学的な特性(組成、微細組織、事故時ピーク温度)、FP残留割合、機械的な特性(破砕性、切断性、掘削性)の調査が行われた。分析技術、手順は、ホットラボでの未知サンプル分析で用いられる一般的な手順を元に選定された。
分析結果
物理的な特性、試料の小分け
- 密度と空孔率測定、および、外観観察の後に、それぞれのデブリ粒子がいくつかに分割され、微細組織観察、化学・放射化学分析、切断・掘削試験、圧縮強度試験、が、それぞれ行われた。
- 図2に、試料の外観を示す[2]。図1の開口部7近傍から採集されたデブリ粒子のうち大きなもの3個、開口部11近傍から採集されたデブリ粒子のうち大きなもの8個の分析が主に行われた。
密度、空孔率
- 表1に、各粒子の乾燥重量と密度(閉空孔率の補正無し、開空孔は考慮)、及び、開空孔率を示す。
- 密度は、測定を実施した9個のデブリ粒子について、6.57~8.25g/cc(単純平均7.07g/cc)となった。
- 閉空孔率は、測定を実施した7個のデブリ粒子について、1個は8%、それ以外の6個は23~31%(後者の6個の単純平均25%)となった。
- 開空孔率は、おおむね3%以下で、バルクの空孔率に比べて小さい値となった。これは、空孔が連結していない傾向を示していると推定された。
- 空孔率で補正しなおした、デブリ粒子のバルク密度は、1個の粒子を除く単純平均として9.78±0.53g/ccとなった。残り1個の粒子は、7.8g/ccとなった。
- 炉心部でZrが100%酸化したと仮定すると、デブリ主成分の組成は81%UO2-19%ZrO2となる。これらの成分の理論密度を単純に加重平均すると、(U,Zr)O2の密度は9.53g/ccと評価される。これは、上述のデブリ粒子のバルク密度と整合していた。
- 一方で、バルク密度が7.8g/ccの粒子から、主成分の組成を逆算すると45%UO2-55%ZrO2でとなって、化学分析の結果と整合しなかった。この粒子には、見えていない大きな空孔があるのではと推定された。
粒子ID番号 | サイズ [インチ] | βγ線量 [R/hr] | 乾燥重量 [g] | かさ密度 [g/cc] | 開空孔率 [%] |
---|---|---|---|---|---|
7-1 | 1.2 x 1.0 x 0.8 | 1.6 | 50.1 | 6.57 | 0.0 |
7-6 | 0.4 x 0.2 x 0.2 | 0.13 | 1.0 | - | - |
7-7 | 0.2 x 0.2 x 0.1 | 0.10 | 0.4 | - | - |
11-1 | 1.5 x 0.7 x 0.6 | 1.2 | 39.7 | 8.08 | 2.0 |
11-2 | 1.8 x 1.3 x 1.2 | 3.0 | 123.9 | 6.79 | 2.75 |
11-4 | 1.8 x 1.0 x 1.0 | 2.9 | 107.1 | 6.72 | 3.14 |
11-5 | 2.5 x 2.5 x 2.2 | 7.5 | 553.9 | 6.47 | 1.99 |
11-6 | 0.7 x 0.7 x 0.4 | 0.5 | 12.7 | 6.3 | 5.0 |
11-7 | 1.6 x 1.2 x 1.1 | 3.2 | 118.8 | 7.09 | 1.20 |
11-10 | 0.4 x 0.2 x 0.2 | 0.7 | 0.6 | - | - |
11-11 | 0.5 x 0.5 x 0.5 | 3.5 | 5.5 | - | - |
外観、試料分割
- デブリ粒子ごとに切断して、サンプルを小分けし、様々な分析が行われた(粒子サイズの小さい7-6,7-7,11-10,11-11は除く)。
- 7-1粒子: 表面に、赤と黄色の付着物あり。樹脂埋めせずに5個に分割された(図3)[2]。それぞれ、研磨断面の微細組織分析、酸溶解させて化学・放射化学分析、塊サンプルの圧縮試験、XRD分析、ANL-Eに送付して酸素濃度分析、に供された。しかし、XRDでは、有用なデータは取得できなかった。
- 11-1粒子: 表面に、赤オレンジ色と黄色の析出物あり。微細組織、放射化学、ANL-E送付に小分けされた。切断中に一部が破砕した。セラミック中に金属微粒子をが観測された。
- 11-2粒子: 赤オレンジ色の付着物あり。大きな空孔が存在していた。微細組織、放射化学、掘削試験用に小分けされた(図4)[2]。
- 11-4粒子: 黄色い付着物あり。微細組織、放射化学分析用に、2個ずつ切り分けられた。
- 11-5粒子: 大きな空孔が存在していた。放射化学、微細組織、圧縮試験サンプルとして切り分けられた(図5)[2]。
- 11-6粒子: 一部に酸化したZry被覆管の残差が存在していた。
- 11-7粒子: 黄色い付着物あり。
切断・掘削試験、圧縮試験
- 粒子7-1と粒子11-1の一部を使って切断試験が行われた。これらの粒子から採集したサンプルを樹脂埋め無しで切断し、その際の切断速度が測定された。
- 測定値は、それぞれ245、285 mm2/分となった。一般的な火成岩での切断速度は120 mm2/分であり、デブリ粒子は空孔が多く切断速度が大きいと評価された。
- 粒子11-2の一部を使って、サンプルを万力ではさみ、3種類のドリルピット材(WC、Co鋼、ダイアモンド)を用いた掘削試験が行われた。
- 図6に、試験結果を示す。Co鋼ピットは自重ではデブリを貫通せず、38 kgの負荷をかけることで若干掘削された。WCピットは掘削可能だったが、掘削材の損耗が大きかった。ダイアモンドピットの掘削性が最も良好だった。
- 粒子7-1の一部を使って、樹脂埋め無しで切りだし、圧縮試験が行われた。粒子11-5の一部では、樹脂埋めしてから切断し、樹脂をできるだけのぞいてから圧縮試験が行われた(図7)[2]。さらに、粒子7-6の一部で追加試験が行われた。
- 測定値は分散しており、粒子7-1、7-6、11-5でそれぞれ、破砕時の荷重は、6230 Nt、756 Nt、15,570 Ntであった。
- このうち、粒子11-5は形状が直方体に近かったので、圧縮強度に換算し、111.4 MPaという値が得られた。この値が、空孔率約30%の下部プレナムデブリでの推奨値とされた。デブリ密度を理論密度の95%にした場合の、圧縮強度に外挿すると、224.5MPaという評価値が得られた。これに対し、UO2の圧縮強度の文献値は90~100 MPa(# 圧縮ではなく、引張での計測値)であり、セラミックが一般的に圧縮に強いことを考慮すると、今回得られた評価値は合理的な範囲と評価された。
微細組織観察
- 図8に、典型的なデブリ粒子断面の金相写真(粒子11-2)を示す[2]。下部プレナムデブリは、ほとんどセラミック相で形成されており、空孔率は8~31%であった。局所的に空孔がほとんどない領域が見られた。
- 図9に、粒子11-2の微細組織の拡大金相写真と反射電子線像(BSI)を示す[2]。比較的結晶サイズの小さい領域-1の金相写真では、マトリックスが一次相とその周囲を囲む二次相に相分離していた。また、結晶粒界に析出物相が形成されていた。比較的結晶サイズの大きい領域-2のBSIでも、マトリックスが一次相と二次相に分離しており、結晶粒界が存在していた。また、結晶粒界の内部に共晶組織が存在していた。BSI像では、重元素の存在部位がより明るく示されることから、マトリックス相にはUが多く含まれ、結晶粒界相はFe.Cr,Alなどの成分が多く含まれている酸化物の第二相と推定された。結晶粒界の共晶組織からは、結晶粒界部分の凝固時に、Uリッチな相が析出した、と推定された。
- EDX点分析から、マトリックス相の主成分はUとZrと評価され、平均的な組成は66.9wt%Uと15.6wt%Zrであった。残りは、0.9Fe-0.4Cr-0.3Si-0.1Ni(wt%、酸素を除く)であった。これらのカチオンが、定比酸化物として混合していたと仮定すると、デブリマトリックスの平均組成は、75.9UO2-21.1ZrO2-1.8FeO-0.6Cr2O3-0.7SiO2-0.2NiO(wt%)と評価された。
- マトリックス第二相の組成は、一次相とほぼ類似しているが、若干Zr濃度が低かった。また、マトリックス第二相では酸化度がやや高い可能性が考えられた(カチオン濃度の合計値が、第一相より小さい)。
- 結晶粒界相(黒色相)は、Fe-Crの酸化物が主成分でAl-Niを含んでいた。
- 結晶粒界相(黒色相)にUO2-ZrO2が含まれていないと仮定し、EDXで検出しにくいAlの濃度は、他のカチオン分析値からの差分で見積もると、黒色相の組成は、26.9FeO-28.1Cr2O3-38.7Al2O3-4.8NiO-2.0SiO2(wt%)と評価された。事故前の炉心物量を考慮すると、Al組成が大きすぎるため、おそらく、別の元素が含まれていると推定された。
- 空孔内に金属析出物が観られた(図10)[2]。大きな金属粒子の主成分はAgであった。また、結晶粒界にも、わずかに金属析出物が存在していた(図11)[2]。
- 最も大きい粒子11-5の内部に、UO2析出相が検出された(図12)[2]。UO2領域と(U,Zr)O2領域で空孔サイズが異なり、(U,Zr)O2の方が空孔が大きいことがわかる。(U,Zr)O2相は、一度溶融してから凝固したと推定された。UO2相は、おそらく溶融はしていないが、空孔の状態から融点直下まで到達していたと推定された。
- マトリックス相主成分の(U,Zr)O2の融点は2810K程度、1mol%程度のFe-Cr酸化物が含有されると、やや融点低下すると推定された。これに対し、結晶粒界側はFe-Cr-Ni酸化物が50mol%以上であり、その融点は2810Kかなり低いと推定された。固相線温度(solidus)は、1573~1673Kまで低下したと推定された。
- これらの観測結果から、金属材料は、溶融状態でセラミックと機械的に混合した後で、酸化されてセラミックと化学的に混合した可能性、あるいは、金属材料とZryが反応して低融点の金属メルトが形成され、金属メルトが水蒸気酸化されてセラミックメルトを形成、その後UO2と反応した可能性、などの形成メカニズムが推定された。
- Alの由来は、可燃性毒物棒(Al2O3-B4C)、あるいは、熱電対などの絶縁物と推定された。
- 溶融デブリが凝固する過程で、まず、高融点の(U,Zr)O2を主成分とするマトリックス相が析出し、残されたFe系酸化物メルトが、さらに温度低下した際に凝固したと推定された。
化学分析
- 切断したデブリ粒子サンプルの断面から、約20~100mgを分取して(合計37測定点)、炉心にもともと存在していた主要17元素を対象に、ICP発光分析が行われた。サンプル調製はINELで行われ、ICP発光分析はハンフォードで行われた。
- 表2に、分析結果を示す[2]。分析結果は、燃料と被覆管成分(U,Zr,Sn)、制御材成分(Ag,In,Cd)、可燃性毒物成分(Al,B,Gd)、構造材主成分(Fe,Cr,Ni)、構造材副成分(Mn,Nb,Si,Mo,Cu)に分けて検討された。
燃料と被覆管成分について
- U,Zrの組成の変動幅は小さく、62.3~72.2 wt%-U(単純平均65.0 wt%)、10.7~15.6 wt%-Zr(平均12.6 wt%)であった。Zry副成分のSnは検出されなかった。
- 炉心初期インベントㇼのZr/U=0.28に対し、分析値は0.19と、Zr相対濃度が小さい結果が得られた。
- 炉心初期インベントリでのUO2,ZrO2は、それぞれ65.8 wt%と18.0wt%と換算される。Uの分析値はこの値と近いが、Zrの分析値はやや低い値となった。燃料溶融、被覆管酸化の過程で、Zrの一部が別な部位に行った可能性が考えられる(# 例えば、炉心部の上下クラスト層)。これらの測定誤差は±15%と見積もられた。
- U,Zrがすべて二酸化物だったと仮定すると、デブリ中の酸素濃度は14~16wt%と評価される。これに対し、ICP発光分析で同定された金属元素の合計値は79.8~84.5であり、残りが酸素だと仮定すると、酸素濃度は15.5~20.2wt%と評価される。両者はおよそ整合しており、下部プレナムデブリが、構造材も含めてほぼ酸化していたと推定された。
制御材成分について
- Agは、7-1-Bサンプル(デブリ粒子の中央)でのみ同定された(0.22wt%)。この値は、炉心インベントリよりもかなり小さかった。Agは、微粒子状でマトリックス内に析出しており、粒子表面への偏在はほとんど見られなかった。
- Cdは、2個のサンプルで検出された(粒子11-2の中央、粒子11-7の表面)。いずれも、ICP発光分析での検出限界ぎりぎりの値であった。測定値は、炉心インベントリよりかなり小さく、Cdはほぼ失われていると推定された。
- Inは、検出されなかった。しかし、炉心インベントリの値自体が、すでに、ICP発光分析でのIn検出限界以下である。
可燃性毒物成分について
- Al,B,Gdのうち、Bだけ同定された。しかし、冷却水にBが存在することから、その由来は確定できなかった。
- 唯一言えることは、Bは比較的均質にデブリ内に存在しているということであった。
構造材成分について
- Feは、比較的均質で(1.8~3.7 wt%)、炉心インベントリ(2.7 wt%)とおよそ整合する分析結果が得られた。偏在は見られず、サンプル中に均質に存在していた。
- Crは、比較的均質で(0.6~1.0 wt%)、炉心インベントリ(0.9wt%)とおよそ整合する分析結果が得られた。Feと同様にサンプル中に均質に存在していたが、空孔近傍では濃度勾配があった。
- Niは、測定結果が0.6~0.9 wt%であり、測定箇所の約半数で検出された。他の箇所では測定限界以下であった。炉心インベントリは0.8wt%であった。FeやCrと酸化条件が異なると推定された。
- Moは、ほとんどの測定部位で炉心インベントリ(0.03wt%)より大きい値(0.09~0.14 wt%)で検出された。Moの由来は、Inconelであり、SSには含有されていない。燃料集合体1体当たり、SS304は15.1kg、Inconel-718は6.8kgが使用されており、このうちInconel成分が選択的に酸化されデブリにデブリ中に固溶した可能性が考えられた。
- Cuは、7-1-Bと11-2-Cでのみ検出された(0.2と0.7 wt%)。炉心インベントリは0.001wt%であり、インコネルのマイナー成分として存在していた。Cuは偏析していた可能性が示唆された。
炉心物質 | デブリ粒子サンプル中の平均値(wt%) | 事故前の炉心インベントリ(wt%)
(酸素:8.5wt%) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
7-1-B | 11-1-A | 11-1-C | 11-2-C | 11-4-B | 11-4-D | 11-5-C | 11-6-B | 11-7-C | ||
燃料棒成分 | ||||||||||
U | 65.3 | 66.8 | 64.2 | 63.2 | 65.1 | 65.6 | 64.0 | 69.5 | 62.3 | 65.8 |
Zr | 12.0 | 12.8 | 13.0 | 12.9 | 15.0 | 12.1 | 12.2 | 11.7 | 12.6 | 18.0 |
Sn | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | 0.3 |
制御材成分 | ||||||||||
Ag | 0.22 | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | 1.8 |
In | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | 0.3 |
Cd | ND | ND | ND | 0.025 | ND | ND | ND | ND | 0.065 | 0.1 |
可燃性毒物成分 | ||||||||||
Al | コンタミのため、この表には含まれていない | 0.2 | ||||||||
B | 0.094 | 0.12 | ND | 0.071 | 0.066 | 0.12 | 0.077 | 0.36 | 0.096 | 0.1 |
Gd | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | 0.01 |
構造材成分 | ||||||||||
Fe | 2.40 | 1.88 | 2.28 | 2.48 | 2.90 | 3.70 | 2.04 | 1.83 | 2.41 | 3.0 |
Cr | 0.95 | 0.59 | 0.60 | 0.79 | 0.99 | 0.96 | 0.65 | 0.58 | 0.61 | 1.0 |
Ni | ND | ND | 0.24 | ND | 0.26 | ND | 0.20 | ND | 0.24 | 0.9 |
Mn | ND | 0.087 | ND | 0.068 | 0.085 | 0.089 | 0.065 | 0.068 | 0.062 | 0.08 |
Nb | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | ND | 0.04 |
Si | コンタミのため、この表には含まれていない | 0.04 | ||||||||
Mo | 0.14 | 0.19 | 0.12 | 0.093 | 0.13 | 0.21 | 0.11 | 0.21 | 0.12 | 0.03 |
Cu | 0.46 | ND | ND | 0.21 | ND | ND | ND | ND | ND | <0.01 |
検出量の合計
(サンプル重量に対する割合) |
81 | 82 | 80 | 80 | 84 | 84 | 81 | 84 | 80 | -- |
放射化学分析
- ANL-EとINELで放射化学分析が行われた。INELではγ線分析が行われた、ANL-Eでは、デブリ粒子断面のオートラジオグラフ撮影が行われた。
- 測定結果は、ORIGEN-IIで解析した炉心インベントリと比較された。
オートラジオグラフ
- デブリ粒子11-2,11-4,11-5,11-6,11-7のβγオートラジオグラフが撮影された(図13)。
- 高線量箇所は、結晶粒界や空孔内部であった。
- 結晶粒界の主要線源はCo-60、空孔内はCs-137であった。
放射線測定
- 表3に、放射化学測定の結果を示す。
ORIGEN-II解析値との比較
- 炉心部で、中央部と中間部の燃料集合体が崩落していたこと、周辺部の燃料集合体が残留していたことから、ORIGEN-II解析で得られた炉心中央と中間部の平均組成(U富化度1.98と2.64%の領域)に対して、FP分析結果が比較検討された。全炉心平均に比べると、炉心中央と中間では、Uに対して8~21%FP濃度が高いと評価された。
- 低揮発性、中揮発性、高揮発性に区分して、FPのふるまいが考察された。
低揮発性FPについて
- Ce-144の検出率は83~152%であったが、局所的に平均燃焼度より約20%高いCe混入部位が存在していた。Ce-144は、デブリ移行過程でUと同伴し、デブリ内で均質化されるが、一部に炉心部での燃焼度違いを反映した部位があると推定された。
- 全体的には、分析値のばらつきは±15%の精度で、ORIGEN-II解析値(炉心中央+中間)と整合していた。
中揮発性FPについて
- 中揮発性として、Sr-90,Eu-154,Ru-106,Sb-125について考察された。
- Sr-90とEu-154はCe-144と類似の傾向が見られた。Sr-90は68~177%の捕捉率、Eu-154は57~88%の捕捉率であった。
- Sr-90濃度が局所的に高い位置は、Ce-144とおよそ一致しており、高燃焼度部位が残留していたと推定された。
- Eu-154は、その形成過程に中性子捕獲があるため、ORIGEN-II解析で誤差が大きい課題がある(# ORIGEN-IIより30%ほど小さい分析値が得られた)が、その分布傾向はCe-144,Sr-90と類似していた。
- Ru-106とSb-125は、下部プレナムデブリからかなり放出されていたと推定された。
- Sb-125は、多くの測定点で検出限界以下であり、単純平均値は2.5%、検出されたサンプルのみでの平均は6.7%であった。
- Ru-106は、単純平均6.2%、最大16%であった。
- Sb-125とRu-106は、他のFPとの同伴性はみられず、おたがいの同伴性も見られなかった。
- 上部ルースデブリの分析では、Sb-125とRu-106と構造材等の金属成分との同伴性が同定されたが、下部プレナムデブリ中には金属物質がほとんど存在しておらず、デブリ以外の場所に移行した可能性が考えられた。
高揮発性FPについて
- 高揮発性FPとして、Cs-137,I-129について分析・評価された。
- Cs-137は、分析値のばらつきが大きかった(0.38~35.5%、単純平均13%、炉心インベントリに対して)。
- Cs-137は、空孔内に多く保持されていた。このため、炉心部の溶融凝固層中より大きい値で保持されていた。
- I-129は、分析値のばらつきが大きかった(0.11~22%保持、平均2.8~3.2%)。
- Teは、ICP発光分析では同定されなかった。
核種 | ORIGEN-II解析値
炉心中央(1.98%)と炉心中間(2.64%) 集合体の平均値、μCi/g) |
デブリ粒子サンプル中の平均値
Uに対して規格化(%) 上の数値は、炉心中央と炉心中間の集合体についての評価値 下の()の数値は、炉心全平均に対する評価値 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
7-1-B | 11-1-A | 11-1-C | 11-2-C | 11-4-B | 11-4-D | 11-5-C | 11-6-B | 11-7-C | ||
Ce-144 | 5.69 x 102 | 111
(120) |
90
(97) |
106
(114) |
103
(111) |
111
(120) |
109
(118) |
93
(101 |
93
(101) |
105
(113) |
Sr-90 | 7.74 x 103 | 93
(101) |
93
(100) |
93
(101) |
126
(137) |
131
(142) |
119
(129) |
90
(97) |
171
(185) |
142
(153) |
Eu-154 | 6.6 x 101 | 71
(86) |
66
(80) |
74
(90) |
66
(80) |
68
(82) |
68
(83) |
77
(93) |
75
(91) |
69
(84) |
Ru-106 | 3.37 x 102 | 6.4
(7.4) |
3.5
(4.1) |
6.0
(7.0) |
5.3
(6.2) |
7.9
(8.7) |
5.7
(6.6) |
7.1
(8.2) |
ND | 5.8
(6.7) |
Sb-125 | 2,73 x 102 | 8.2
(9.3) |
ND | 4.5
(5.1) |
3.0
(3.4) |
8.8
(10) |
6.2
(7.0) |
4.3
(4.9) |
ND | ND |
Cs-137 | 8.90 x 103 | 20
(22) |
10
(11) |
6.6
(7.2) |
10
(11) |
19
(21) |
16
(18) |
7.0
(7.6) |
14
(15) |
15
(16) |
I-129 | 2.81 x 10-3 | 4.4
(4.9) |
1.1
(1.2) |
0.47
(0.52) |
2.5
(2.8) |
11
(12) |
0.90
(1.0) |
0.99
(1.1) |
2.3
(2.6) |
1.3
(1.4) |
U富化度
サンプルごとにU富化度の分析が行われた。表4に結果をまとめる[2]。炉心中央の1.98%富化度の集合体と、炉心中間の2.64%富化度の集合体の平均値に近い値が得られている。
デブリ粒子 | 分析位置ごとのU-235富化度(%) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
測定点1 | 測定点2 | 測定点3 | 測定点4 | 測定点5 | 測定点6 | 測定点7 | 測定点8 | 測定点9 | |
7-1-B | 2.2 | 2.3 | 2.3 | 2.4 | 2.6 | ||||
11-1-A | 2.0 | 1.8 | |||||||
11-1-C | 2.3 | 2.9 | |||||||
11-2-C | 2.4 | 2.6 | 2.2 | 2.2 | 2.6 | 2.5 | |||
11-4-B | 2.2 | 2.4 | 2.3 | 2.6 | |||||
11-4-D | 2.6 | 2.3 | 2.2 | ||||||
11-5-C | 2.2 | 2.1 | 2.3 | 2.2 | 2.2 | 3.1
(不確かさが大きい) |
未評価 | 2.2 | 2.2 |
11-6-B | 2.5 | 2.3 | 2.4 | ||||||
11-7-C | 2.6 | 2.5 | 2.1 |
事故シナリオの評価
下部プレナムから採集されたサンプルの分析結果に基づいて、事故時のデブリ温度の推定、下部プレナムデブリの組成と酸化度・相状態の評価、FP保持率の評価、等が行われた。
炉内の状態
この時点までの調査で、以下の炉内状態がおよそ解明されていた。
- 上部空洞: 炉心上部の約26%(9.2m3)は燃料が崩落し、深さ約1.5mの空洞が形成されていた。炉心周辺には、42体の燃料集合体が一部残留していた。
- 上部ルースデブリベッド: 空洞の下に、約0.6~1.0m深さで粒子状のデブリからなる上部ルースデブリベッドが堆積していた。デブリ粒子の多くは、1~4mmサイズで、破砕されたペレット、溶融凝固した(U,Zr)O2粒子、破砕された燃料被覆管、溶融凝固した金属材料(中性子吸収材、構造材)などで形成されていた。(U,Zr)O2粒子に溶融の痕跡が見られ(>2810K)、UO2粒子の一部も溶融の痕跡が見られた(>3120K)。しかし、デブリベッドの平均的な温度は2000Kと推定された。それ以上の高温に曝されていたとしても極めて短時間と推定された。
- 溶融凝固層: デブリベッドの下には、溶融凝固層が堆積していた。溶融凝固層の周辺は、比較的固く稠密なクラスト層であり、金属相とセラミック相が混在していた。一部、形状維持したペレットや、燃料棒、構造材なも凝集していた(agglomerate)。溶融凝固層の内側領域は、主にセラミックの溶融凝固物からなっており、一部に金属相が混在していた。周辺のクラスト層に比べ、脆い物質であった。
- 切り株燃料: 炉心下部には、切り株状の燃料集合体が残留していた。その上部は炉心全体として漏斗型になっており、下部クラスト層を介して、溶融凝固層の重量を支える構造となっていた。炉心中央で最も残留長が短く、約0.5mであった。
図14に、下部プレナム調査の概略を示す[2]。圧力容器周辺のダウンカマーからの調査により、図で薄い灰色で示した領域のビデオ調査が行われた。さらに、ボーリング調査により、3か所が下部プレナムまで貫通され、その周囲のビデオ調査が行われた。これらの調査に基づいて、下部プレナムデブリの堆積高さの分布が評価された[1]。下部プレナムデブリサンプルは、炉心の南と南西から取得された。
- 下部プレナムデブリ: セラミックの溶融凝固物が主成分であり、炉心部の溶融凝固層に比べて均質であった。サイズは、微粒子から15cm以上の塊状デブリまで広く分布していた。重量は、約15トンと推定された。この時点では、炉心部からのデブリ移行経路は判明していなかったが、炉心東側のP6,R7集合体近くと推定された(#その後の調査で、バッフル板を破り、コアフォーマ領域から移行したことが明らかになった)。
これらの観測結果に基づいて、デブリの物量と体積が評価された(表5)[2]。
領域 | 容積、体積(m3) | 重量(トン) |
---|---|---|
事故前の炉心 | 33.5 | 126.5 (Zr酸化度は不明) |
上部空洞 | 9.2 | -- (上部格子板に燃料集合体上部が一部固着、ぶらさがり) |
上部ルースデブリベッド | 6.7 | 23.7 ± 1.2 |
溶融凝固層 | 3.5 | 25.6 ± 6.6 |
切り株燃料、炉心周辺燃料 | 14.1 | 47.0 ± 3.8 |
下部プレナムデブリ | 4.5 | 15.0 ± 5.0 |
事故シナリオ
- 事故時ピーク温度: 少なくとも2810Kに到達していた。局所的にUO2溶融に近い状態の痕跡があり、3120Kに近い温度に到達していた。一方で、Fe-Cr-Alを主成分とする酸化物が共存し、結晶粒界などに第2相として析出していた。その融点は、1573~1673Kと推定された。下部プレナム移行後のデブリ中で、まず、U,Zrを主成分とするマトリックスが凝固し、つぎに、Fe,Cr,Alなどを主成分とする第2相が固化したと推定された。
- デブリのふるまい: デブリ中に様々なサイズの空孔が存在し、分布は非均質であった。空孔がほとんど存在しない領域も見られた。このことから、炉心部での溶融進展が、単純均質なマクロ領域のプロセスでなく、局所的に異なって進行していたと推定された。炉心上部からキャンドリングやスランピングで落ちてきたデブリが、いったん固化した後で、局所的に異なった条件で溶融進展したと推定された。
下部プレナムデブリの特性
- 炉心物質について: 主要成分の分布は比較的均質であった。また、炉心部からの移行過程で、途中の構造物とあまり反応していないと推定された。UとSSの重量比は炉心平均に近い値であった。Ag-In-Cdは、平均的な残留割合が、1.6%Ag-0.3%In-0.1%Cdであり、測定限界以下のデブリサンプルも多かった。下部プレナムまで到達する前に、大部分が蒸発・放出されていたと評価された。
- FP保持について: Ru-106,Sb-125については、デブリサンプル中のセラミック相中での保持率は小さかった。金属材料側に移行している可能性が考えられた。低揮発性FPは、Uとほぼ同伴しており、炉心中央と炉心中間の集合体の平均燃焼度からの推定値と整合していた。しかし、一部で保持率の異なるサンプルがあり、相互作用ゾーンがあった可能性が示唆された。Cs-137は、炉心部の溶融凝固層に比べて、保持率が高く、空孔内に多く保持されていた。表6に、事故前の炉心インベントリに対する(ORIGEN-II解析値、炉心中央と炉心中間の集合体の平均値)、下部プレナムサンプルの分析結果から評価したFP保持率を示す[2]。(#Eu-154については、中性子捕獲を含むため、解析精度が低い)
核種 | 区分 | 保持率の平均値(%) | 分析値の範囲 |
---|---|---|---|
Ce-144 | 低揮発性 | 102 | 90~111 |
Sr-90 | 中揮発性 | 117 | 90~171 |
Eu-154 | 中揮発性 | 70 | 66~77 |
Ru-106 | 中揮発性 | 5.9 | 3.5~7.5 |
Sb-125 | 中揮発性 | 5.8 | 0~8.2 |
Cs-137 | 高揮発性 | 13.1 | 6.6~20 |
I-129 | 高揮発性 | 2.8 | 0.47~117 |
分析結果のまとめ
- 下部プレナムデブリの主成分はUO2-ZrO2の混合二酸化物、結晶粒界に第二相(Fe-Cr酸化物が主成分、Ni-Alを含む)、結晶粒界や空孔内にわずかに金属析出物が存在(Ag、Ni-Sn-Ag-Ru合金、など)
- 密度は6.57~8.25g/cc、80%UO2-20wt%ZrO2の理論密度に20%の空孔率をかけた値と整合
- 切断性については、ダイアモンドソーで容易に切断可能、空孔が多いので火成岩溶岩より切断速度が大きい
- 圧縮強度の評価値は、111.4MPa
- デブリ組成は、炉心物質(炉心中央と炉心中間)が均質に混合した状態と整合し、酸化度は2.0に近い(#高次酸化物は見られない)
- 事故時のピーク温度は>2810K
- Bは均質に存在し、おそらく冷却水由来
- 中性子吸収材(Ag-In-Cd)はほとんど検出されず。下部プレナムに移行するまでに放出され、炉心部or下部プレナム底層など、別部位に存在していると推定
- 構造材(SS、Inconel)は炉心平均組成程度混入、Crが空孔近くで濃化しており、構造材の酸化物が炉心物質の溶融を促進した可能性を示唆
- マイナー成分のCuはデブリ中に偏在
- 非揮発性FP組成は、炉心中央と中間部の平均組成に近く、最外周集合体由来のFPはほとんど混入されていないと推定
- 一方で、いくつかのサンプルでU富化度にばらつきがあり、燃料集合体の境界部のサンプルを反映している可能性
- Ce-144とSr-90は、Uとはほぼ同伴し、保持率ほぼ100%
- Eu-154は、保持率70%程度(放射線測定誤差が大きい)
- Sb-125とRu-106は、バルクデブリ中にあまり損座していない。炉内の別部位に濃化している可能性。可能性としては、圧力容器の金属接合部や炉心部の金属デブリ
- Cs-137は平均13%が残留、I-129は平均2.8%が残留、炉心部に比べCs-137の保持率が高い
参考文献
[1] J.P. Adams and R.P. Smith, TMI-2 Lower Plenum Video Data Summary, EGG-TMI-7429, 1987.
[2] C.S. Olsen et al., Examination of Debris from the Lower Head of the TMI-2 Reactor, GEND-INF-084, 1988.
[3] M.L. Russel et al., TMI-2 Accident Evaluation Program Sample Acquisition and Examination Plan for FY 1987 and Beyond, EGG-TMI-7521, 1987.
[4] D.W. Akers and C.S. Olsen, TMI-2 Lower Vessel Debris Examinations, NUREG/CP-0082, 1986.