「リードスクリューサンプルの分析と自然発火性試験」の版間の差分
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2024年12月5日 (木) 15:48時点における版
Quick Look調査[1]の一環として、上部プレナム内の構造物の外観を観察した。その結果、上部プレナム構造物や、制御棒駆動機構のリードスクリューや案内管・支持管の表面に広範囲に最大で数10μm厚さの付着物(付着デブリ)が存在していた(一部は固く固着)。一方で、TMI-2のデブリ取り出し基本計画[2]では、空気中で、上部ヘッドと上部プレナム構造物を取り外して貯蔵プールに移送し、その後に、圧力容器の上部に円環状の構造物(IIF: )を取り付け、その内部を冷却水で満たしてデブリ取り出し作業の作業スペースとすること、また、IIFの上に回転式の作業台を設け、そこからデブリ取り出し用の各種ツールを圧力容器内に挿入すること、となっていた。PEISレポート[3]で指摘されたように、炉心物質の一部は、事故時に自然発火性の物質を形成する可能性があり、上部ヘッドや上部プレナム構造物の取り外しの前に、安全検討が必要とされた。そこで、制御棒駆動用のリードスクリューとその支持管を一部切り出し、その付着物について詳細な分析が実施された[4-7]。また、サンプルの一部を分離し、自然発火性に関する基礎試験が行われた[8]。
リードスクリューサンプルの分析
記載予定
リードスクリュー支持管の分析
炉心中央のH8集合体用にとりつけられていた制御棒駆動機構のリードスクリュー支持管の一部(約9cm長さ)を切り出し(図6)、バッテル研究所において付着物の分析が行われた[7]。その分析結果は、リードスクリューの分析結果(上述)とおよそ整合していた。付着物ははがれやすいルース付着物(LAD: Loosely Adherent Deposit)とその下の固着した付着物(AD: Tightly Adherent Deposit)に分類された。AD中には金属粒状の粒子が含まれていた。付着物は、Fe,Ni,Crが主成分で、わずかにU,Zr,Snなどの炉心構成物質由来の成分と、Cs-134,Cs-137,Co-60,Sb-125,Ce-144,Sr-90などの核分裂生成物が含まれていた。金属粒状の物質はAg-In-Cdが主成分であった。これは、溶融・蒸発・凝縮プロセスで輸送されたと推定された。母材の微細組織観察では、結晶粒界に炭化物相の析出を観測し、事故時に510~732℃を経験したと推定された。
分析項目としては、約9cm長のサンプル全体について、目視観察、写真撮影、軸方向γ線プロファイル、がそれぞれ実施された後に、サンプルが7個に輪切りされ、付着物の元素分析と微細組織分析、酸洗浄による除染係数評価、放射化学分析、母材の微細組織分析、が、それぞれ行われた。
参考:TMI-2サンプル分析で用いられた分析技術(リンク先)
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目視観察・写真撮影・線量測定
図7に、付着物の全体像を示す[7]。付着物はおよそ黒色で全体的に薄く分布していた。一部に黄色/オレンジ色の付着物があり、炉心に近い側では1mmサイズの金属粒状の物質が付着していた。βγ線量計の計測値は、接触で35R/hr、1m距離で70mR/hrであった。γ線分光では、主にCs-134とCs-137が検出された。また、微量のCo-60,Sb-125,Ce-144が検出された。
除染係数の評価
5つの異なった溶液を調製し、輪切りにしたリードスクリュー支持管サンプル7個のうち5個について、浸漬試験が行われた。浸漬前後での線量変化から除染係数が評価された。
- 浸出溶液1:イオン交換水
- 浸出溶液2:ホウ酸水(2500ppm-B)、pH:7.5(水酸化ナトリウムと界面活性剤で調製)
- 浸出溶液3:5wt%炭酸ナトリウム + 1wt%過酸化水素
- 浸出溶液4(2段階処理):Aステップでは、10%水酸化ナトリウム+3%硝酸カリウム溶液。Bステップでは、25g/Lシュウ酸と50g/Lクエン酸アンモニウムの溶液
- 浸出溶液5:10wt%硝酸 ; 0.1Mフッ酸
図8に、浸出溶液中のCs線量の時間変化を示す[7]。浸出溶液1,2,3では、Csはほとんど溶出しなかった。浸出溶液4では、Aステップで水酸化ナトリウム+硝酸カリウム溶液中に3時間浸漬し、Bステップでシュウ酸+クエン酸アンモニウム溶液に浸漬させた。Aステップのデータの傾向から、もう少し浸漬時間をのばせば浸出量が増えたと推測される。Bステップでは、最初溶解度が増加するが、途中でサチる傾向が見える。浸出溶液4については、Aステップ単独試験、Bステップ単独試験、A/Bステップで浸漬時間を増やした試験が追加で実施されている。A、Bステップの単独試験では、いずれも溶出量がサチってくるが、2段階試験として行うことで、Csの約90%が除染された。浸出溶液5では、母材も一部溶融することで、25分以内に、Csのほぼ全量が溶出された。Csの溶出量をCsの残留量で割り、除染係数を評価すると、溶液1,2,3では約1,溶液4(2ステップ)では約8.8、溶液5では残留量は検出限界以下(除染係数∞)と計算された。
付着物の回収と溶解処理
付着物は、実機運転中に形成される表面酸化膜層の上に、およそLAD(ルース付着物)とAD(ハード付着物)として、層状に存在していた。この層状構造はリードスクリューサンプルでも観測された。LADは、輸送や取り扱い中に一部が剥がれ落ち、残りは、ステンレス製のブラシではぎ取った。ADはさらにかなやすりで削り取った。これらの操作により、リードスクリュー支持管の付着物を、OD-LAD(支持管外側のルース付着物)、ID-AD(同ハード付着物)、ID-LAD(支持管内側のルース付着物)、ID-AD(同ハード付着物)に4分割した。はぎ取ったサンプルは、硝酸+フッ酸にはほとんど溶解せず、ついで、炭酸ナトリウムによるアルカリ溶融を試みたが、これもうまくいかなかったので、溶融媒体をピロ硫酸カリウム(K2S2O7)に変えてアルカリ溶融が行われた。
溶解処理は以下の手順で行われた。数mgのLADやADを分取し、磁器坩堝中でK2S2O7と混合、坩堝をバーナーの上でゆっくり加熱しK2S2O7を溶融しSO3メルトを作成させた。SO3メルト形成後すぐにLADやADはその中に溶融した。冷却後の坩堝内に、2N-H2SO4(硫酸)を添加、メルトはただちに酸に溶融した。しかし、若干のコロイドが形成されたため、90℃でゆっくり再加熱しコロイドを溶融させた。最後に、2N硫酸で所定量にメスアップし分析溶液とした。
参考:TMI-2サンプル分析で用いられた分析技術(リンク先)
化学分析
化学分析としては、ICP-AES、XRD、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis), SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)が用いられた。多くの炉心物質由来の元素を検出した。このうち、LAD中に検出された金属粒子はAg-In-Cdが金属の液体か気体でゆそうされ、構造物表面に付着し酸化されたものと推定された。微量のCs,I,Uも検出された。
(1) ICP-AES分析
B,Na,Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Zr,Mo,Ag,Cd,In,Sn,Pb,Uを測定対象元素とした。Csは原子吸光分析で測定した(ICP-AESより高感度と予想)が、うまく測定できなかった。Uは、原因不明だが。何らかの干渉により同定できなかった。表2に、分析結果を示す。高濃度でFeとNiを検出したのは、リードスクリュー支持管の母材を削り出したためである。
(2) XRD分析
ADサンプルでは、母材であるインコネル由来と考えられるTaeniteとMagnetite(Fe3O4)を検出した。LADサンプル中にわずかにAgを検出した。
(3) ESCA分析
ESCAでは、得られる測定ピークのシフトにより、元素の結合状態に関する情報が得られる。ADについて、Cd-TeとAg-Inを検出した。LADについて、Ag-In-Cd、Bを検出した。これらの化学形態は、BO,InO,CdO,AgOと推定された。主成分としてFe,Ni,Crが検出され、Feの化学形態はFe3O4と同定された。Ni,CrはおそらくNiOとCr2O3だが十分に検出できなかった。
(4) SIMS分析
SIMSは軽元素の分析に適しているが、本分析では有用な情報は得られなかった。
(5) 比放射能測定
Cs-137とCs-134の比放射能測定が行われた。Cs-137/cs-134の比は、およそ21.7から23.9の範囲で一定していた。LADに比べ、ADの方がCs線量が大きかった。
(6) Sr-90分析
Sr-90分析では常に非放射性のSrを添加して、以下の分析作業中のSrのふるまいをトレースした。LAD中に微量のSr-90を検出した。
微細組織分析
(1) 金相
試料の一部をエポキシ樹脂に埋めて、SiC研磨剤+研磨紙、あるいはダイアモンドペーストで研磨された。水への溶出を防ぐため研磨媒体にはケロシンを使用し、研磨後の洗浄にはヘキサン(Hexane)が使用された。LST切断サンプルの下端に粒子状物質の付着を検出された(図9)[7]。粒子状付着物は、案内管外表面でもわずかに検出された。構造材表面に、LADとADが層状に付着している様子が確認された。図10に、支持管内側と外側の付着物(金相)を比較してしめす。外側にのみ、粒子状物質が付着していることがわかる[7]。
(2) SEM/EDX
図11に、支持管外表面の付着物のSEM像(モザイク像)を示す。付着物中に、様々な元素の凝集が観測された。代表的な検出部位を図11中に示す。EDXでは、Csは同定されなかった。付着物中にいくつかのU粒子が確認された。LAD中に見られる比較的大きな粒子の主成分はAg-In-Cdだったが、炉心に装荷された中性子吸収材の組成とは異なっており、また、一定値ではなかった。付着物の主成分はFe,Crであった。TDの厚さは、支持管の外表面でおよそ15-40μm、内表面でおよそ13-30μm、LADの厚さは、外表面で4-35μm、内表面では均質ではないがおよそ20μmであった。図12に、付着物の表面のSEM像を示す。付着物表面がポーラスなのが確認できる。ところどころにAgリッチの粒子を検出した。
事故時の温度履歴の推定
切り出した支持管の母材サンプルについて、事故時に経験した温度履歴を調べるために、微細組織分析を行った。
参考文献
[1] Quick look inspection: Report on the insertion of a camera into the TMI-2 reactor vessel through a leadscrew opening, GEND-030, vol.1, 1983.
[2] The Cleanup of Three Mile Island Unit 2 A Technical History 1979 to 1990, EPRI NP-6931.
[3] PEIS-Decontamination and Disposal of Radioactive Wastes Resulting from TMI-2, NUREG-0683, Vol. 1, 1981.
[4] G.M. Bain and G.O. Hayner, Initial Examination of the Surface Layer of a 9-inch Leadscrew Section Removed from TMI-2, Final Report, EPRI RP2056-2, Task 1, 1983.
[5] K. Vinjamuri, D.W. Akers, R.R. Hobbins, PRELIMINARY REPORT: EXAMINATION OF H8 AND B8 LEADSCREWS FROM THREE MILE ISLAND UNIT 2 (TMI-2), EGG-TMI-6685,1985.
[6] K. Vinjamuri, D.W. Akers, R.R. Hobbins, EXAMINATION OF H8 AND B8 LEADSCREWS FROM THREE MILE ISLAND UNIT 2 (TMI-2), GEND-INF-052,1985.
[7] M.P. Failey, V. Pasupathi, M.P. Landow, M.J. Stenhouse, J. Ogden, R.S. Denning, Examination of the Leadscrew Support Tube from Three Mile Island Reactor Unit 2, GEND-INF-067, 1986.
[8] R.L. Clark, R.P. Allen, M.W. McCoy, TMI-2 Leadscrew Debris Pyrophoricity Study, GEND-INF-044, 1984.