「1号機の事故進展」の版間の差分

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[[カテゴリ:事故進展]]

2020年12月1日 (火) 11:39時点における版

原子炉スクラム〜炉心損傷

1号機における事故進展推定シナリオを,原子炉スクラム後約24時間(水素爆発)までについて,図1.1に示す。緊急注水系が機能せず,事故初期段階においてほとんど注水が実施されなかったことから,スクラム後4~5時間後には炉心損傷が始まり,炉心部に高温の溶融燃料プールが形成された可能性が高い。高温の燃料デブリによって炉内のシュラウド等構造物の損傷・溶融が起こった可能性がある[1]

図1.1: 1号機事故進展 事故発生24時間後まで

炉心損傷〜燃料デブリの下部プレナム移行

スクラム後11~12時間後には高温の燃料デブリが下部プレナムへスランピングしたと推定される。ここまでのシナリオ(RPVの減圧が行われず,炉心に冷却水が存在した条件での炉心損傷開始,下部プレナムへの短時間でのスランピング)という点で,1号機初期の事故進展はTMI-2と類似している可能性がある。スランピング時の下部プレナムにおける冷却水残量や伝熱状態によっては,燃料デブリがすべて固化しなかった可能性もある。下部プレナムにおいて燃料デブリが一度固化したか溶融状態であったかについては不確かさが大きい。

燃料デブリの下部プレナム移行〜RPV破損

RPV破損時までには燃料デブリは下部プレナムで一部が再溶融し,溶融プールが再度形成された可能性がある。スクラム後およそ15時間後の3/12 6:00過ぎから約25分の間にD/W圧力が上昇しており,このタイミングでRPVが破損し,約25分という短時間に高温の燃料デブリのペデスタルへの移行が起こったと考えられる。水位計データに関して,原子炉水位計測の原理図を図1.2に示す。水位計は,炉心損傷開始後には基準面器配管内部の水の蒸発によって,正しい値を示していなかったと推定される。炉側配管についてはドライアウト後もある程度の水は残っていたと推定されるが,3/12 6:30から水位計データは水位の減少を示しており,これが炉側配管内の水が蒸発したことに対応していると考えられる(図1.3)。燃料デブリがペデスタルに移行したことで格納容器内部の温度が上昇し,炉側配管内の水が蒸発したと考えられ,この時刻以降は格納容器側に熱源が存在していることとなる。正門付近で測定された線量についても,限定的ではあるが3/12 6:00以降に上昇がみられる。ただし,風向きや風速に大きく影響されるため,単純な推測は難しい。D/W圧力,水位計および正門付近線量計を併せたこれらの推定により,3/12 6:00過ぎから約25分の間に燃料デブリがRPVからペデスタルへ移行したと推定した。

図1.2: 原子炉水位計測の原理図[2]
図1.3: 1号機事故進展(圧力・炉心水位・正門付近線量計)

RPV破損〜水素爆発

原子炉スクラム後約1か月後までについて,図1.4に示す。ほぼ全量の燃料デブリがペデスタルに移行し,ペデスタル床一面にデブリが広がり,MCCIが発生し,コンクリートは浸食されている可能性が高い。ただし,MCCIがどの程度起こっているかについての不確かさは大きい。これはRPV破損によってペデスタルに移行した時点,及びその後の燃料デブリの熱状態の不確かさが大きいためである。3/12 6:00以降,D/W圧は約0.74 MPaでほぼ一定となっており,これはPCVトップフランジのリークが生じる“閾”圧力となっていると推測される。約0.74 MPa を超えている期間に関しては,ペデスタル内で発生した高温蒸気によって,D/W圧が上昇しているものと思われ,これに対応して燃料デブリの一部は急激に冷却されていると考えられる。Uを含んだ粒子が原子炉建屋ウェルプラグで確認されているが,これらの粒子は上昇気流によってD/W上部に運ばれ,PCVトップフランジを経由して,原子炉建屋ウェルプラグまで到達したと推測される。1号機では3/12 15:36に原子炉建屋において水素爆発が起きている。水素発生の原因としては,炉心における冷却水-Zr反応およびMCCIが挙げられるが,前者による水素の多くは既に原子炉建屋から排出されていた可能性が高い。水素の放出経路としては以下の2つが考えられる。

  • 炉心で発生した水素→逃し安全弁(SRV)→S/C→D/W→PCVトップフランジ→原子炉建屋
  • MCCIで発生した水素→D/W→PCVトップフランジ→原子炉建屋
図1.4: 1号機事故進展 事故発生4週間後まで

水素爆発以降

高温の燃料デブリがペデスタルへ移行した後,約10日間にわたりペデスタルには十分な冷却水が注入されなかった可能性がある。そのため,ペデスタル内には高温水蒸気(STAR-CCM+コードを用いた概略解析[1]によると約400°C)が充満し,ペデスタル内壁は輻射によって加熱(STAR-CCM+コードを用いた概略解析[1]によると約800°C)されたことが推定され,この段階でコンクリートやその他の構造材の一部が損傷した可能性がある。また,溶融した燃料デブリの凝固メカニズムは,燃料デブリの特性に大きく影響する可能性がある。特に,燃料デブリが徐冷されたのか急冷されたのかは重要なパラメータになると考えられる。

事故後の状態および内部調査結果

※最終状態のまとめと、推定図および内部調査結果の比較等を記載

参考文献

  1. 1.0 1.1 1.2 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構(2018), http://irid.or.jp/_pdf/20170000_01.pdf
  2. 東京電力HD(2017):福島第一原子力発電所1~3号機の炉心・格納容器の状態の推定と未解明問題に関する検討第5回進捗報告,平成29年12月25日, https://www.tepco.co.jp/decommission/information/accident_unconfirmed/