「Reactor Core Topography計画」の版間の差分
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<span style="color:blue">'''Reactor Core Topography計画'''</span>[1]では、[[Quick Look計画の概要|<span style="color:blue">'''Quick Look調査'''</span>]] [2]で存在が確認された上部空洞内に、超音波探査プローブを挿入し、空洞の形状やデブリ堆積物の状態を確認した。プローブの設計製作、機能確認試験、運用方法の整備、運転員の訓練、現場組み立て、測定、撤去を5か月弱で達成した。観測の結果、上部空洞の容積が約9.3m<sup><small>3</small></sup>(本来炉心容積の約26%)であること、177体の燃料集合体のうち42体で燃料棒の一部がほぼ全長にわたって残留し、そのうち2体は>95%の燃料棒が無傷で残留していたが、それ以外の燃料集合体は崩落し、本来位置から失われていたこと、空洞深さは平均で1.5m、最深部で2mであること、などが明らかになった。また、上部格子に、最長で約30cmの燃料集合体上部が非均一に残留していた。軸方向出力調整棒のうち5体が、かなりの残留長さを有して上部格子からぶら下がっていた。空洞の床面には、破損した燃料棒や、上部端栓とスパイダーの固着物などが崩落して堆積しており、平たんではなかった。 | <span style="color:blue">'''Reactor Core Topography計画'''</span>[1]では、[[Quick Look計画の概要|<span style="color:blue">'''Quick Look調査'''</span>]] [2]で存在が確認された上部空洞内に、超音波探査プローブを挿入し、空洞の形状やデブリ堆積物の状態を確認した。プローブの設計製作、機能確認試験、運用方法の整備、運転員の訓練、現場組み立て、測定、撤去を5か月弱で達成した。観測の結果、上部空洞の容積が約9.3m<sup><small>3</small></sup>(本来炉心容積の約26%)であること、177体の燃料集合体のうち42体で燃料棒の一部がほぼ全長にわたって残留し、そのうち2体は>95%の燃料棒が無傷で残留していたが、それ以外の燃料集合体は崩落し、本来位置から失われていたこと、空洞深さは平均で1.5m、最深部で2mであること、などが明らかになった。また、上部格子に、最長で約30cmの燃料集合体上部が非均一に残留していた。軸方向出力調整棒のうち5体が、かなりの残留長さを有して上部格子からぶら下がっていた。空洞の床面には、破損した燃料棒や、上部端栓とスパイダーの固着物などが崩落して堆積しており、平たんではなかった。 | ||
== | == プローブの設計と動作確認 == | ||
<span style="color:blue">'''CTDAシステム(Core Topology Data Acquisition)'''</span>の設計要件は以下の項目であった。 | <span style="color:blue">'''CTDAシステム(Core Topology Data Acquisition)'''</span>の設計要件は以下の項目であった。 | ||
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* 建屋内の環境に耐えること(温度、線量) | * 建屋内の環境に耐えること(温度、線量) | ||
* 圧力容器内での測定中に10<sup><small>6</small></sup> R/hrの線量に耐性があること | * 圧力容器内での測定中に10<sup><small>6</small></sup> R/hrの線量に耐性があること | ||
* 圧力容器内での測定中に15- | * 圧力容器内での測定中に15-60 ℃の水中で使用できること | ||
* | * 作業プラットフォームから12 m下まで吊り降ろし作動できること | ||
* | * 測定データは、横方向に40 mm、範囲として12 mmの解像度をもつこと | ||
* 建屋内で作業する技術者に対し、ALARAのポリシーで被ばく量の抑制をすること | * 建屋内で作業する技術者に対し、ALARAのポリシーで被ばく量の抑制をすること | ||
* 空洞のサイズ、形状、表面状態を測定すること(プローブが、プローブ自身の位置を確定した上で、軸方向に稼働、径方向に回転) | * 空洞のサイズ、形状、表面状態を測定すること(プローブが、プローブ自身の位置を確定した上で、軸方向に稼働、径方向に回転) | ||
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この要件を満たすように、圧力容器内で位置がわかっているプローブから、パルスエコー型の指向性の超音波を照射し、反射面までの距離を測定するシステムが設計された。 | この要件を満たすように、圧力容器内で位置がわかっているプローブから、パルスエコー型の指向性の超音波を照射し、反射面までの距離を測定するシステムが設計された。 | ||
'''図1''' | '''図1'''に、プローブの挿入図面を示す。圧力容器の上部ヘッドを取り外した後に設けられた回転式の作業プラットフォームの中央から、炉心中央のCRDM配管を通じて、<span style="color:blue">'''boom'''</span>と呼ばれる中空のアームの先端にプローブを取り付けて、CRDM配管内を通過して吊り降ろした様子が確認できる。'''図2'''には探査プローブの概略図を、'''図3'''には探査プローブの設計図を示す。プローブの全長が75.5 mmで、直径が35mmであることがわかる。また、プローブの側面に、10個(周波数の異なる2個1組のペアを、照射角度を変えて5組)取り付ける構造となっている。送受信機は、以下では<span style="color:blue">'''transducer'''</span>と称する。さらに、別の2個(1組)はプローブの下端から真下を向いている。プローブの側面には空気抜きと冷却水循環のためのスロットが配置されている。同軸ケーブルは、プローブから作業台まで接続部がなく、エポキシ樹脂で保護されて、boomの中に配置された。'''図4'''には、音波パルス照射の概念図を示す。真下に取り付けた2個のtransducer(これを基準の0°方向としている)で堆積物との距離を測定し、水平方向(90°)のtransducerで側壁面との距離を測定する構造となっている。また、l基準に対して、35,60,120,135°のtransducerを配置し、空洞の立体構造が測定できるようにしている。この角度はと位置は、いくつかのケースで模擬空洞を仮定して、最適配置として選定した。最も重要な90°向きのtransducerを、データを最も多く取得できるプローブの一番下に配置し、もっとも利用価値の低い135°向きのtransducerを、プローブの一番上に配置している。プローブは、上部格子の位置から、軸方向に、0.1 mm単位で1.8 m移動できる。また、回転モーターとギアボックスにより、1.8°単位で回転できる。 | ||
プローブの信頼性については、すべてINELでの使用実績がある保守的でプルーブンな要素技術の組み合わせで設計が行われた。また、すべての要素システムと全体システムについて、FEMA(Failure Mode and Effects Analysis)が実施され、想定される故障モードごとに、その結果と修復過程について検討がなされた。FEMAで検出された弱点は、システム改良やソフトウェア改良で対応した。また、必要なスペア部品の交換方法にも反映された。メンテナンス性については、できるだけモジュール化をはかり、Camac(Computer Automated Measurement And Control)システムが導入された。オンボードのスライドイン方式でスペアパーツを準備し、故障があった場合には、短時間で容易に交換できるようにした。また、故障個所を系統から分離し、別途診断できるようにした。すべてのオペレーションについてマニュアルと図面を準備し、トラブル対応が短時間で容易にできるようにした。動作時には、システム設計者が現場で立ち会った。利便性については、作業時間8時間とトラブル発生時に復帰まで2時間を見込み、200時間の総合テストオペレーションと、200時間の各モジュールのテストオペレーションをTMI-2のサイトで実施した('''#しかし、これでも現場作業時間の短縮化には十分でなかったと記載されている''')。テストオペレーションは、SPERT-II炉の地階サンプの空間(1.8 x 2.5 x 2.5 m)を利用した。 | |||
== 現場でのデータ採集作業 == | |||
プローブの搬入、設置、動作確認は、計画より短い45分間で終了した。次に、上部格子の位置までプローブを下げ、角度の基準位置を確定した。さらに、250 mm下方に吊り下げて、予備調査としてtransducerの動作確認を実施した。正確な距離の測定には、冷却水中での実効的な音速の補正が必要であり、この値は、水温、溶質濃度、浮遊粒子などに影響を受けるため、in situで実測する必要があった。そこで、波長の異なる(10MHz、2.25MHz)transducerをペアで装荷し、in situで補正を行った。しかし、この段階で、10 MHzのtransducerのうち2個が正確に作動しないトラブルが発生した(予想以上に大きいノイズが発生)。この予備調査により、上部空洞の深さとおよその直径が明らかになった。また、水温が35°で、空洞の下部では上部より1°高いが、冷却水はほとんど対流していないことが明らかになった。 | |||
第一回のフルサーベイは、3組の稼働できるtransducerで実施した。あらかじめプラスチック製の空洞モデルを作っておき、その内表面にサーベイした結果を逐次反映しつつ、測定を行った。第一回のサーベイでは、空洞底部と上部格子の大部分は未測定だったが、上部格子から多くの燃料集合体がぶら下がっていることが明らかになった。第二回のフルサーベイでは、初日に作動しなかったtransducerが復活し、より正確で広範囲のデータを取得した。三日目に装置の解体撤去作業を実施した。作業員の被ばく量は、計画量を十分下回った。 | |||
== 測定データの処理 == | == 測定データの処理 == | ||
測定データは、3段階で処理された。 | 測定データは、3段階で処理された。 | ||
=== | === 実測データ採集と調整 === | ||
プローブの径方向と軸方向の位置を確定した後で、transducerが向いている方向を定め、3次元の点群データ(5 x 10<sup><small>5</small></sup>個)を、エコーが反射された位置としてメインコンピューターで読み取り計算した。次に、空洞を51mm巾で3軸方向(x,y,z)に輪切りして、解析した反射表面位置をプロットした。さらに、π方向で、角度2°ごとにスライスしたデータを重ね合わせた。角度方向の図は、プローブからの位置によりコンターをつけて画像化した('''図5''')。資料が古いため画質が悪いが、空洞中央のプローブに近いほど明るい色でコンターをつけている。空洞床面は平たんでなく、複数個の谷と丘が見られる。また、堆積物は、炉心外周にあるコアフォーマー(バッフル板)の近くでやや盛り上がっていることがわかる。一部に破損した燃料集合体の上部構造物が形状を一部維持して崩落していた。さらに破損した燃料棒が折り重なって堆積している部位も見られた('''図6''')。また、上部格子付近にはかなりの量のデブリが残留しており、分布は非均質であったが、上部格子からの距離は最長で30cmほどであった。また、軸方向出力調整棒(APSR)がかなりの残留長さをもって5か所で残留していた。燃料集合体の上部がかなり残留してぶらさがっている個所も1か所あった。'''図7'''には、上部格子からぶら下がっていた燃料集合体の外観写真を示す。 | |||
この時点で、transducerが向いている角度の精度に課題があることがわかった(# プローブから反射面までの距離があるため、わずかな音波パルス照射角度の違いが誤差につながる)。そこで、水平方向(90°)を向いているtransducerの測定値に対して、角度補正をすることとした(水平位置が正確に90°でなくても、測定結果全体としての相対的な位置関係の精度が向上した)。これにより、角度の測定誤差は0.5~2°に抑制された。 | |||
=== | === 手作業によるデータ調整 === | ||
4個の反射表面マップを重ね合わせ、手作業で疑信号を除去、陰になっている部分を補完した。また、プローブから遠い部分では、点群データがまばらになるため、手作業でこれを補完した。次に、堆積状態に高さ方向のコンターをつけてマップを作成した。これをCADの入力データとした。 | |||
=== CADデータの整備とマップ作成 === | === CADデータの整備とマップ作成 === | ||
CADにより、空洞の床面近く、中央部、上部格子の下付近の3段階の物理モデルを作成し、マップとアクリル模型を作成した('''図8''')。各種のエラー要因を総合した測定誤差は、空洞中央部で約13 mm、上部格子付近で約18 mm、空洞床面で約40 mmと評価された。 | |||
== 測定結果の評価 == | |||
上部空洞を、bottom(上部格子から198.1~106.7 cmの範囲)、central(同じく101.6~40.6 cmの範囲)、top head(同じく35.6~5.1 cmの範囲)に分割し、堆積物の高さを等高線図としてマッピングした('''図9(a)~(c)''')。その結果、以下の知見が得られた。 | |||
* 空洞容積:9.3 m<sup><small>3</small></sup>(本来炉心の約26%) | |||
* 空洞底面の位置:平均1.5 m、最深部2.0 m、堆積状態は平たんでなく谷と丘が存在、数か所で破損した燃料棒が折り重なって堆積('''図9''') | |||
* 空洞範囲:径方向には、ほぼコアフォーマーの近くまで到達 | |||
* 上部格子周辺:破損した燃料集合体の上部が広い範囲で固着・ぶらさがり、5個の軸方向出力調整棒がぶら下がり、それらの下端は不規則に切断・崩落 | |||
* 燃料棒の残留:42体の燃料集合体で、ほぼ全長を維持した燃料棒が一部残留、2体では>95%の燃料棒がほぼ無傷で残留 | |||
<nowiki>#</nowiki>APSRなどの陰になっている部分には音波が届かないため、データ取得できていない。 | |||
* 空洞領域:ほぼ円筒状の空間が広がっていた。炉心南西側で比較的燃料集合体の残留が多く、一か所では、燃料集合体が半島状に残留していた。 | |||
* コアフォーマの露出:P5,R6,R7集合体付近で最も露出が多かった。このあたりで、コアフォーマの歪は約70 mm(測定誤差14 mm)と評価された。 | |||
* 空洞底部では、B10,F5,P5集合体あたりに堆積物の谷があった。ここには冷却材のフローチャンネルがあったと推定された。また、燃料集合体上部とスパイダーの固着物が堆積 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |
2024年11月15日 (金) 17:38時点における版
概要
Reactor Core Topography計画[1]では、Quick Look調査 [2]で存在が確認された上部空洞内に、超音波探査プローブを挿入し、空洞の形状やデブリ堆積物の状態を確認した。プローブの設計製作、機能確認試験、運用方法の整備、運転員の訓練、現場組み立て、測定、撤去を5か月弱で達成した。観測の結果、上部空洞の容積が約9.3m3(本来炉心容積の約26%)であること、177体の燃料集合体のうち42体で燃料棒の一部がほぼ全長にわたって残留し、そのうち2体は>95%の燃料棒が無傷で残留していたが、それ以外の燃料集合体は崩落し、本来位置から失われていたこと、空洞深さは平均で1.5m、最深部で2mであること、などが明らかになった。また、上部格子に、最長で約30cmの燃料集合体上部が非均一に残留していた。軸方向出力調整棒のうち5体が、かなりの残留長さを有して上部格子からぶら下がっていた。空洞の床面には、破損した燃料棒や、上部端栓とスパイダーの固着物などが崩落して堆積しており、平たんではなかった。
プローブの設計と動作確認
CTDAシステム(Core Topology Data Acquisition)の設計要件は以下の項目であった。
- 38mm径のCRDM(Control Rod Drive Mechanism)を撤去した配管内を通過できること
- 建屋内の作業プラットフォームから遠隔操作プローブまで同軸ケーブル一本でデータ転送できること
- プローブの姿勢制御には建屋に既設のワイヤーなどを利用すること
- 建屋内の環境に耐えること(温度、線量)
- 圧力容器内での測定中に106 R/hrの線量に耐性があること
- 圧力容器内での測定中に15-60 ℃の水中で使用できること
- 作業プラットフォームから12 m下まで吊り降ろし作動できること
- 測定データは、横方向に40 mm、範囲として12 mmの解像度をもつこと
- 建屋内で作業する技術者に対し、ALARAのポリシーで被ばく量の抑制をすること
- 空洞のサイズ、形状、表面状態を測定すること(プローブが、プローブ自身の位置を確定した上で、軸方向に稼働、径方向に回転)
この要件を満たすように、圧力容器内で位置がわかっているプローブから、パルスエコー型の指向性の超音波を照射し、反射面までの距離を測定するシステムが設計された。
図1に、プローブの挿入図面を示す。圧力容器の上部ヘッドを取り外した後に設けられた回転式の作業プラットフォームの中央から、炉心中央のCRDM配管を通じて、boomと呼ばれる中空のアームの先端にプローブを取り付けて、CRDM配管内を通過して吊り降ろした様子が確認できる。図2には探査プローブの概略図を、図3には探査プローブの設計図を示す。プローブの全長が75.5 mmで、直径が35mmであることがわかる。また、プローブの側面に、10個(周波数の異なる2個1組のペアを、照射角度を変えて5組)取り付ける構造となっている。送受信機は、以下ではtransducerと称する。さらに、別の2個(1組)はプローブの下端から真下を向いている。プローブの側面には空気抜きと冷却水循環のためのスロットが配置されている。同軸ケーブルは、プローブから作業台まで接続部がなく、エポキシ樹脂で保護されて、boomの中に配置された。図4には、音波パルス照射の概念図を示す。真下に取り付けた2個のtransducer(これを基準の0°方向としている)で堆積物との距離を測定し、水平方向(90°)のtransducerで側壁面との距離を測定する構造となっている。また、l基準に対して、35,60,120,135°のtransducerを配置し、空洞の立体構造が測定できるようにしている。この角度はと位置は、いくつかのケースで模擬空洞を仮定して、最適配置として選定した。最も重要な90°向きのtransducerを、データを最も多く取得できるプローブの一番下に配置し、もっとも利用価値の低い135°向きのtransducerを、プローブの一番上に配置している。プローブは、上部格子の位置から、軸方向に、0.1 mm単位で1.8 m移動できる。また、回転モーターとギアボックスにより、1.8°単位で回転できる。
プローブの信頼性については、すべてINELでの使用実績がある保守的でプルーブンな要素技術の組み合わせで設計が行われた。また、すべての要素システムと全体システムについて、FEMA(Failure Mode and Effects Analysis)が実施され、想定される故障モードごとに、その結果と修復過程について検討がなされた。FEMAで検出された弱点は、システム改良やソフトウェア改良で対応した。また、必要なスペア部品の交換方法にも反映された。メンテナンス性については、できるだけモジュール化をはかり、Camac(Computer Automated Measurement And Control)システムが導入された。オンボードのスライドイン方式でスペアパーツを準備し、故障があった場合には、短時間で容易に交換できるようにした。また、故障個所を系統から分離し、別途診断できるようにした。すべてのオペレーションについてマニュアルと図面を準備し、トラブル対応が短時間で容易にできるようにした。動作時には、システム設計者が現場で立ち会った。利便性については、作業時間8時間とトラブル発生時に復帰まで2時間を見込み、200時間の総合テストオペレーションと、200時間の各モジュールのテストオペレーションをTMI-2のサイトで実施した(#しかし、これでも現場作業時間の短縮化には十分でなかったと記載されている)。テストオペレーションは、SPERT-II炉の地階サンプの空間(1.8 x 2.5 x 2.5 m)を利用した。
現場でのデータ採集作業
プローブの搬入、設置、動作確認は、計画より短い45分間で終了した。次に、上部格子の位置までプローブを下げ、角度の基準位置を確定した。さらに、250 mm下方に吊り下げて、予備調査としてtransducerの動作確認を実施した。正確な距離の測定には、冷却水中での実効的な音速の補正が必要であり、この値は、水温、溶質濃度、浮遊粒子などに影響を受けるため、in situで実測する必要があった。そこで、波長の異なる(10MHz、2.25MHz)transducerをペアで装荷し、in situで補正を行った。しかし、この段階で、10 MHzのtransducerのうち2個が正確に作動しないトラブルが発生した(予想以上に大きいノイズが発生)。この予備調査により、上部空洞の深さとおよその直径が明らかになった。また、水温が35°で、空洞の下部では上部より1°高いが、冷却水はほとんど対流していないことが明らかになった。
第一回のフルサーベイは、3組の稼働できるtransducerで実施した。あらかじめプラスチック製の空洞モデルを作っておき、その内表面にサーベイした結果を逐次反映しつつ、測定を行った。第一回のサーベイでは、空洞底部と上部格子の大部分は未測定だったが、上部格子から多くの燃料集合体がぶら下がっていることが明らかになった。第二回のフルサーベイでは、初日に作動しなかったtransducerが復活し、より正確で広範囲のデータを取得した。三日目に装置の解体撤去作業を実施した。作業員の被ばく量は、計画量を十分下回った。
測定データの処理
測定データは、3段階で処理された。
実測データ採集と調整
プローブの径方向と軸方向の位置を確定した後で、transducerが向いている方向を定め、3次元の点群データ(5 x 105個)を、エコーが反射された位置としてメインコンピューターで読み取り計算した。次に、空洞を51mm巾で3軸方向(x,y,z)に輪切りして、解析した反射表面位置をプロットした。さらに、π方向で、角度2°ごとにスライスしたデータを重ね合わせた。角度方向の図は、プローブからの位置によりコンターをつけて画像化した(図5)。資料が古いため画質が悪いが、空洞中央のプローブに近いほど明るい色でコンターをつけている。空洞床面は平たんでなく、複数個の谷と丘が見られる。また、堆積物は、炉心外周にあるコアフォーマー(バッフル板)の近くでやや盛り上がっていることがわかる。一部に破損した燃料集合体の上部構造物が形状を一部維持して崩落していた。さらに破損した燃料棒が折り重なって堆積している部位も見られた(図6)。また、上部格子付近にはかなりの量のデブリが残留しており、分布は非均質であったが、上部格子からの距離は最長で30cmほどであった。また、軸方向出力調整棒(APSR)がかなりの残留長さをもって5か所で残留していた。燃料集合体の上部がかなり残留してぶらさがっている個所も1か所あった。図7には、上部格子からぶら下がっていた燃料集合体の外観写真を示す。
この時点で、transducerが向いている角度の精度に課題があることがわかった(# プローブから反射面までの距離があるため、わずかな音波パルス照射角度の違いが誤差につながる)。そこで、水平方向(90°)を向いているtransducerの測定値に対して、角度補正をすることとした(水平位置が正確に90°でなくても、測定結果全体としての相対的な位置関係の精度が向上した)。これにより、角度の測定誤差は0.5~2°に抑制された。
手作業によるデータ調整
4個の反射表面マップを重ね合わせ、手作業で疑信号を除去、陰になっている部分を補完した。また、プローブから遠い部分では、点群データがまばらになるため、手作業でこれを補完した。次に、堆積状態に高さ方向のコンターをつけてマップを作成した。これをCADの入力データとした。
CADデータの整備とマップ作成
CADにより、空洞の床面近く、中央部、上部格子の下付近の3段階の物理モデルを作成し、マップとアクリル模型を作成した(図8)。各種のエラー要因を総合した測定誤差は、空洞中央部で約13 mm、上部格子付近で約18 mm、空洞床面で約40 mmと評価された。
測定結果の評価
上部空洞を、bottom(上部格子から198.1~106.7 cmの範囲)、central(同じく101.6~40.6 cmの範囲)、top head(同じく35.6~5.1 cmの範囲)に分割し、堆積物の高さを等高線図としてマッピングした(図9(a)~(c))。その結果、以下の知見が得られた。
- 空洞容積:9.3 m3(本来炉心の約26%)
- 空洞底面の位置:平均1.5 m、最深部2.0 m、堆積状態は平たんでなく谷と丘が存在、数か所で破損した燃料棒が折り重なって堆積(図9)
- 空洞範囲:径方向には、ほぼコアフォーマーの近くまで到達
- 上部格子周辺:破損した燃料集合体の上部が広い範囲で固着・ぶらさがり、5個の軸方向出力調整棒がぶら下がり、それらの下端は不規則に切断・崩落
- 燃料棒の残留:42体の燃料集合体で、ほぼ全長を維持した燃料棒が一部残留、2体では>95%の燃料棒がほぼ無傷で残留
#APSRなどの陰になっている部分には音波が届かないため、データ取得できていない。
- 空洞領域:ほぼ円筒状の空間が広がっていた。炉心南西側で比較的燃料集合体の残留が多く、一か所では、燃料集合体が半島状に残留していた。
- コアフォーマの露出:P5,R6,R7集合体付近で最も露出が多かった。このあたりで、コアフォーマの歪は約70 mm(測定誤差14 mm)と評価された。
- 空洞底部では、B10,F5,P5集合体あたりに堆積物の谷があった。ここには冷却材のフローチャンネルがあったと推定された。また、燃料集合体上部とスパイダーの固着物が堆積
参考文献
[1] L.S. Beller and H.L. Brown, Design and Operation of the Core Topography Data Acquisition System for TMI-2, GEND-INF-012, 1984.
[2] Quick look inspection: Report on the insertion of a camera into the TMI-2 reactor vessel through a leadscrew opening, GEND-030, vol.1, 1983.