「ウラン含有粒子の特性のまとめ」の版間の差分
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2024年2月21日 (水) 15:19時点における版
ここでは、1F建屋内から採集した各種サンプルの分析データから推定される、ウラン含有粒子の特性をまとめる。
サンプリング位置と時期、サンプル番号
図1に、令和4年度までに、国内のホットラボで分析した各種サンプルの採集位置と、このまとめで用いるサンプル番号を示す。
1号機では、エアロック室堆積物(2015.12採集:1u-1)、PCV底部堆積物(2017.4採集:1u-2)、X-2ペネ堆積物(2019.5採集:1u-3)、ウェルプラグ調査スミア(2019.7/8採集:1u-4)を分析した。さらに、X-2ペネアクセスルート構築関連としてガス管理設備とAWJ装置のスミアサンプルを追加分析した(1-u3)。PCV底部堆積物については、再分析を実施した(1u-2)。さらに、SGTS室調査時のサンプル(1u-5)を分析した。1u-1以外からウラン含有粒子が検出された。
2号機では、オペフロ養生シート(2014.3採集:2u-1)、TIP配管内閉塞物(2013.7採集:2u-2)、PCV内部調査装置の通過したX-6ペネ内堆積物、カメラ、シールリングスミア(2017.1/2、2018.1、2019.2採集:2u-3/4/5)、トーラス室滞留水ろ過物 (2019.3採集:2u-6)、X-6ペネ調査装置付着物(2020.12採集:2u-7)、原子炉ウェル内調査でのウェル差圧調整ライン堆積物、ダクト劣化部、点検港表面部(2021.4採集:2u-8/9/10)、X-53ペネPCV貫通部(2021.9/10採:2u-11)、シールドプラグ穿孔内堆積物(2021.8採集:2u-12)、FHM遠隔操作室スミア(2022.8採集:2u-13)、SGTS室調査サンプル(2021.1採集:2u-14)を分析した。
3号機では、PCV内部調査装置スミア(2017.7採集:3u-1)、トーラス室滞留水ろ過物(2019.3採集:3u-2)、RHR熱交換器残留水(2021.12採集:3u-3)を分析した。
さらに、1/2号機共用のSGTS配管内部スミア(2020.5採集:1u2u-1)を分析した。
ウラン含有粒子の特徴と分布
検出されたウラン含有粒子の外観形状・相・結晶状態を、図2にまとめて示す。
検出された主な相・結晶構造について(参考12:デブリ溶融プールの凝固、参考15:高酸化度デブリの特性)# 参考資料作成後にリンクする。:
Uリッチ立方晶(Fe含有) → 高温溶融した高酸化度デブリメルト由来の可能性、デブリメルトからUとFeが選択的に蒸発し、凝縮した可能性
U:Zr=約1:1立方晶 → デブリメルトが急冷した際に、高温安定固相が形成され、そのまま維持された可能性
Uリッチ立方晶(Zr含有) → デブリメルトが徐冷した際に、低温安定固相が形成され、析出した可能性
Zrリッチ正方晶 → デブリメルトが徐冷した際に、低温安定固相が形成され、析出した可能性
Zrリッチ単斜晶 → デブリメルトが徐冷した際に、低温安定固相が形成され、析出した可能性
α-Zr(O) → 亜酸化状態のデブリメルト(U-Zr-O)からの凝固時に析出した可能性
Spinel(FeCr2O4、Fe3O4) → 鋼材成分由来、ウラン含有相の近傍に存在する場合にデブリメルトとの相互作用を示唆。金属デブリメルトの酸化過程で形成される場合には、Crが選択的に酸化される可能性
# デブリメルトが徐冷した場合には、Uリッチ相とZrリッチ相が近くに存在すると考えられる。
# 鋼材や未酸化Zrを主成分とし、UやBを少量含有する金属デブリメルトが酸化される過程では、まず、U,Zrが酸化され、次にCrが酸化されると考えられる。
粒子の外観・形状について:
角張った形状 → 固体状物質の破砕・飛散、あるいは、メルトからの凝固・析出の可能性(背景 黄土色 )
丸みを帯びた形状 → 液滴の飛散・凝縮、あるいは、気体からの凝縮の可能性(背景 薄青 )
両者が混在あるいは判定できない(背景 薄緑 )
ウラン含有粒子の特徴に基づく、事故時のデブリふるまいの逆推定
分析点数が少ないため、不確かさが大きいが、これまでの分析結果から、以下のような推論が提示できる。
1号機
D/Wでは、溶融デブリの徐冷由来と推定されるU粒子を検出(●▲)した。これは、下部プレナムからペデスタルに崩落した燃料デブリが長時間高温状態を維持しゆっくり凝固したという、1号機事故シナリオと整合している。
また、PCVの周辺領域(ウェルプラグ、X-2ペネ)では、高温で溶融した高酸化度メルト由来、あるいは、いったん蒸発して凝縮したと推定される、Feを含有し、Zrをあまり含有しないU粒子を検出(〇)した。これも上述の1号機事故シナリオと整合している。
他方、これまでに、燃料デブリとコンクリートとのMCCIを示唆するU粒子は検出されていない。
検出されたU粒子の周辺には、鋼材由来と考えられるFe金属あるいはFeの酸化物が多く存在しており、燃料デブリと鋼材の相互作用があったことが示唆される。Crを含有するSpinel相がU粒子の近傍で検出されており、下部プレナムあるいはペデスタル内での金属デブリメルトの再酸化過程で、U粒子が形成されたことを示唆している。
一部で、α-Zr(O)が検出され(◆)、崩落時の燃料デブリが亜酸化状態であった可能性が示唆されている。これは、1号機の燃料デブリが、事故進展中に亜酸化状態を維持していた可能性と整合している。
# 令和4年度に実施されたPCV内部調査で、ペデスタル開口部に近い領域で採集されたサンプルの分析で、燃料デブリと鋼材との反応由来の物質が検出されるか、あるいはコンクリートとの反応由来の物質が検出されるかが注目される。
2号機
ほとんどの領域で、溶融デブリの急冷由来と推定されるU粒子を検出(◎)した。これは、下部プレナムから、比較的温度の低い金属デブリメルトが主に溶落し、ペデスタル底部で短時間で凝固したという、2号機事故シナリオと整合している。
他方、RPVから滴っている冷却水中に含まれていた物質が付着していたと考えられる、内部調査カメラのスミアからは、溶融デブリの徐冷由来と推定されるU粒子を検出(▲)した。しかし、Zrリッチ側のU粒子だけが見つかっており、Uリッチ側のU粒子は、これまでに検出されていない。このことから、金属デブリメルトが選択的にペデスタル内に移行した後に、RPV下部プレナムに残留していたデブリは徐冷された可能性が考えられる。また、Uリッチ粒子が見つかっていないことから、残留していたデブリはすべて溶融しておらず、Zrを多く含むU-Zr-Oメルトが形成されていた可能性、Uリッチ成分は固相であった可能性を示唆している。
溶融デブリが崩落した痕跡とみられるグレーチング開口部の下(UTPが見つかったあたり)の対面にある、X-6ペネとX-53ペネの内部から採集されたサンプルのみから、飛来した鋼材成分と燃料デブリ成分が再凝集したような大粒径のU粒子(数10~100ミクロン)が検出された。このことから、これらのペネの内部がかなりの高温状態になっていた可能性が示唆される。U粒子内で、Zr酸化物とFe酸化物が別相を形成していたことから、最高温度は高々1400℃と推定される。これは、2号機事故シナリオで推定されている、下部プレナムからの金属デブリメルトの溶落温度と整合している。
また、Uリッチ領域のごく近傍にCrの酸化物を含むSpinel相が形成されており、溶融デブリと溶融鋼材の間で化学的な相互作用があったこと、形成された金属デブリメルトが徐々に酸化した可能性が示唆される。下部プレナムで主に金属デブリが溶融状態であった時に、冷却水がかかることで、一部が酸化され、このようなU含有粒子が形成された可能性も考えられる。
Fe-U-Zr-O四元系状態図からは、形成される金属デブリメルト中に、Uが最大で10 mol%溶融すると推定される。これまでに検出されたU粒子は、この推定と整合している。
# 2号機での試験的取り出しデブリサンプルの分析結果に基づく、これらの推定結果の検証が期待される。
3号機
ペデスタル内の観測装置のスミアサンプル中に、様々な化学状態のU含有粒子がが混在していることが確認された。いずれも徐冷により形成された粒子と推定された。さらに、U含有粒子の周辺に鋼材由来と考えられるFeが多く存在していることから、下部プレナムでのデブリ再溶融~ペデスタル内での堆積・再凝固の過程で、鋼材と燃料デブリの複雑な化学反応があったことが示唆される。一部で、α-Zr(O)が検出(◆)されていることから、事故進展途中の燃料デブリは亜酸化状態であったと推定される。これらは、3号機の事故シナリオと整合している。
分析結果から、亜酸化デブリがペデスタル堆積物中に混入、あるいは、堆積物の底部で成層化している可能性が示唆される。
# ペデスタル開口部周辺を調査できれば、1号機のような状態が起きていたかどうかを確認できると期待される。また、ペデスタル堆積物の深さ方向の状態に関する情報が得られる可能性もある。
# 原子炉ウェル上部(ウェルプラグなど)からサンプル取得できれば、そこに急冷由来のU粒子が存在しているかどうかを調査することで、3号機のデブリ崩落初期に2号機のような金属溶融デブリの先行崩落があったかどうかに係る情報が得られる可能性がある。
ウラン含有粒子の形成メカニズム(仮説):金属デブリメルトの水蒸気酸化
ここでは、ウラン含有粒子の形成メカニズムの仮説の一つとして、下部プレナムでのデブリ堆積・再溶融時、あるいは、ペデスタル内に崩落途中・崩落後の、金属デブリメルトの水蒸気酸化についてまとめる。現時点では、仮説の一つであり、今後の実デブリ分析で検証していく必要がある。1Fの1~3号機の事故シナリオでは、炉心部で破損・溶融し下部プレナムに堆積した燃料デブリ中に含まれるジルコニウム(Zr)の酸化度は、50~80%くらいと推定されている。また、デブリ堆積時には下部プレナムに冷却水が残留すること、CRDやCRGTがデブリ冷却のフィンの役割を担うと考えられることから、燃料デブリはいったん冷却・固化されたと推定されている(#1号機では、一部溶融状態を保っていた可能性もある)。崩壊熱により冷却水が蒸発し、デブリがドライアウトすると、デブリ温度が再び上昇し、デブリは再溶融する。Zr酸化度が100%でない場合には、再溶融過程において、燃料デブリ中の金属成分が先に溶融し、さらに温度上昇すると酸化物成分が溶融すると考えられる。その結果として、下部プレナムの燃料デブリは、金属メルトと酸化物固相、あるいは酸化物メルトが共存する状態を形成すると考えられる。(参考11:下部プレナム堆積後のデブリ再溶融、参考15:MASCA模擬試験)# 参考資料作成後にリンクする。
ここで、金属デブリの主成分は、鋼材(SS)、金属Zrに加えて、金属Zrによって還元される金属Uとなる。また、酸素も数mol%~十数mol%溶融している可能性がある。本節では、金属デブリが溶融して形成される金属デブリメルトをFe-U-Zr-Oメルトと書くこととする。これに対して、酸化物デブリの主成分は、二酸化ウラン(UO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)であり、一酸化鉄(FeO)を若干含むと考えられる。金属デブリメルトは、そこに含有されるUやFeの濃度によって比重が大きく変化することが知られている(参考15:MASCA模擬試験)# 参考資料作成後にリンクする。炉心崩落~下部プレナムでのデブリ再溶融において、Zrの酸化度が低く抑えられている場合には、金属デブリメルト中のU濃度が高くなり、その比重は増加する。酸化物メルトの比重よりも大きくなるため、金属デブリメルトは、酸化物デブリメルトの下に成層化すると考えられている。一方で、Zr酸化度が高い場合、あるいは、金属デブリ中に鋼材が多く溶融する場合には、比重が減少し、金属デブリメルトは酸化物デブリメルトの上に成層化する。また、金属デブリの溶融温度は酸化物デブリの溶融温度より数100℃以上低いため、金属デブリメルトと酸化物デブリ固相が共存するケースもおこりうる。下部プレナムに堆積したデブリ中には、再昇温・再溶融過程で、このような化学的な特性を有する金属デブリメルトが形成されたと考えられる。金属デブリメルト中には、CRD、CRGT等の鋼材が次第に溶融していくと考えられる。いったんメルトを形成した後には、メルトが温度上昇するよりは、鋼材を溶融しメルトが成長することが起こりやすかった可能性が考えられる。Fe-U-Zr-O四元系の平衡状態図(図3)に基づくと、約1500℃(1773K)~約2400℃(2673K)の広い温度範囲で、二酸化物の固相(図3中に①で示す)とFe-U-Zr-Oメルト(同じく②で示す)が、固液二相の共存状態を形成すると考えられる。温度上昇にともなって、固液混合のうち液相の割合が上昇する。2号機では、この金属デブリメルトが先行的にペデスタル内に崩落したと推定されている。
金属デブリメルトは、下部プレナムでのデブリ堆積・再溶融時、あるいは、ペデスタル内に崩落途中・崩落後に、水蒸気雰囲気に曝されていたと考えられる。したがって、水蒸気による酸化が発生したと推定される。化学的な特性に基づくと、金属デブリメルト中のUとZrが選択的に酸化され、金属メルト中で二酸化物として固化・析出すると考えられる。析出物が急冷されると二酸化は高温立方晶からなり、徐冷されるとUリッチの低温で安定な立方晶とZrリッチな正方晶などが形成される(前項:ウラン含有粒子の特徴と分布を参照)。ついで、鋼材中に含まれるCrが酸化すると考えられる。水蒸気雰囲気下でのCrの酸化形態はSpinel相(FeCr2O4)と考えられ、おそらく、先に析出する二酸化物相の周辺に析出すると考えられる。これらの析出物の周辺には、鋼材成分が残留すると考えられる。
ウラン含有粒子の分析データ(限定公開)
各サンプル中で検出されたウラン含有粒子の特性については、別ページで詳細にまとめる。なお、このデータは関係者限定での公開となる。
※各担当者様 (2024.01.31 )