「デブリの自然発火性確認試験」の版間の差分
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== TMI-2事故炉の内部調査と文献調査 == | == TMI-2事故炉の内部調査と文献調査 == |
2025年5月1日 (木) 10:17時点における版
TMI-2の燃料デブリ取り出しでは、上部ヘッドと上部プレナム構造物を取り外してから、圧力容器の上部に設置した回転式の作業プラットフォーム(SWP: Shielded Working Platform)から長尺ツールと収納缶を挿入して、燃料デブリを取り出す工法が採用された。この際に、上部プレナム構造物に付着していたデブリや圧力容器内に堆積していた粒子状のデブリが、事故後初めて大気中に曝されることになる。これらのデブリ中には、Zr金属、Zr系合金、Zr水素化物、部分酸化したZr(α-Zr(O),β’-Zr)、などの自然発火性をもつ物質が含まれている可能性があると考えられた。そこで、米国原子力安全委員会(NRC)と技術アドバイザーグループ(TAAG#: Technical Assistance and Advisory Group)により、上部ヘッドや上部プレナム構造物の撤去やデブリ取り出しにおける安全評価項目として、デブリの自然発火可能性について検討が必要と指摘された[1]。
#TAAG:TMI-2原発を所有するGPU社の社長が立ち上げた、GPU社から独立した廃炉・デブリ取り出し技術のレビューのための会議体である。約10人の専門家委員と、重要課題ごとの臨時委員で構成され、GPU社、NRC、DOEなどから提示された現場作業に関するリクエストに対応し、作業安全性のクロスチェックを実施した。
そこで、GPU社、アイダホ国立研究所(INEL)などにおいて、文献調査と実際のデブリを用いた模擬試験により、TMI-2デブリの自然発火可能性について検討された[2]。文献調査では(#特に原子力産業でのZr金属取り扱いの経験[3]を調査)、高温にさらされた炉心物質で起こりうる物理化学的な反応が整理され、TMI-2での燃料・デブリ取り扱いにおいて自然発火反応が起こることはほぼありえないと結論された。実デブリを用いた自然発火性確認試験では、圧力容器内から採集されたZrを含有する3種類のデブリを用いて、粒度分布測定、Zr濃度測定、熱分析試験、プロパントーチやアークプラズマによる着火試験、テスラコイルスパークによる着火試験、酸素中での打撃試験、などが行われ、いずれの試験でも自然発火性が見られないことが確認された。これは、事故進展中にほとんどのZr含有物質は高温水蒸気環境で酸化しているという事故進展解析の結果とも整合していた。さらに、仮に、単体では自然発火の可能性がある粒子が残留していても、それ以外の物質によって希釈されているため、局所的に自然発火が発生したとしても、その周囲に広がらないと評価された。
一方、Pacific Northwest Laboratory(PNL)では、リードスクリューに付着していたデブリの自然発火性に関する総合的な試験が実施された[4]。H8(炉心中央の燃料集合体位置)の制御棒スパイダーのリードスクリューが回収され、そこから約20cmのサンプルが切りされ、その付着デブリについて、粒度分布、化学状態、組成などが分析された。熱分析装置を使った昇温試験も行われた。これらの試験において、付着デブリの自然発火性は見られなかった。
これらの評価結果にもとづいて、デブリの自然発火性が重要課題であるという問題は排除された[2,4]。得られた知見は、上部ヘッドと上部プレナム構造物の撤去、および燃料デブリ回収システムにおけるデブリ自然発火性に関する安全審査の根拠となった。#一方で、文献調査と微量サンプルの模擬試験だけでは、サンプル代表性の課題により、実際に堆積しているデブリ中のZrの状態を完全に理解することは困難とされ、現場作業においては、デブリの自然発火性イベントが発生した場合でも、その影響を最小化できるような対策が準備されるべきと指摘された。このため、微粒子デブリが飛散した場合にこれを沈降させるホウ酸水ミスト装置の設置や、緊急時に圧力容器上部の燃料交換Canalにホウ酸水を注入するシステムの整備、などの安全対策が行われた[5]。
この項目では、デブリの自然発火性に関する検討結果をまとめて示す。なお、PNL試験の結果は別項目(リードスクリューサンプルの分析と自然発火試験[4])で示す。
参考:圧力容器ヘッド取り外し
TMI-2事故炉の内部調査と文献調査
Quick Look調査[6]で、炉心上部にルースデブリベッドが存在し、塊状や粒子状のデブリが約1m深さで堆積していることが確認された。事故進展解析では、ルースデブリベッド層の下に溶融凝固したデブリ層とほとんど無傷の切り株燃料集合体があると推定された。図1に、Quick Look調査の時点で判明していた炉内状況推定図を示す。また、上部プレナム構造物には相当量の付着デブリが存在していることが確認された。NRCとTAAGにより、これらのデブリ中には自然発火性物質が含まれている可能性があり、その安全な取扱いについて検討が必要であると指摘された[1]。一般的には、自然発火の可能性を有するのは、IA,IIA,IIB,IIIB,IVB族の金属(Li,Rb,Cs,Mg,Ca,Zn,Th,U,Pu,Ti,Zr,Hfなど)を含む物質とされている。事故前のTMI-2炉心には、炉心インベントリとして、ジルカロイ-4が18.8%、Ag-In-Cdが2.2%、S.S.が1.3wt%、Inconelが1.0wt%存在しており(事故による酸化の効果を除く)、自然発火の可能性物質としては、ジルカロイ金属、ZrとUO2ペレットの反応生成物(亜酸化物: U-Zr-O)、Zr水素化物、Zr系の合金、等が対象となる。
自然発火性にかかわる用語の定義
まず、自然発火性(Pyrophoricity)の正確な定義を関係者で共有することが必要とされた。この用語は、燃焼理論で使われる数値解析から、農業、燃料、冶金分野で発生した火災や爆発まで、広い分野で使われているため、専門家・技術者の専門性によって理解が異なることが懸念されたためである。文献[7]を参照して、以下のように関連する技術用語の定義がまとめられた[2]。
自然発火現象: 全ての金属元素は、その酸化に適合した雰囲気(酸素濃度、湿分)では酸化しうる。特定条件で急速に酸化・発熱が進行し、自己継続的に燃焼が進む現象を自然発火という。自然発火が起こりうる物質を、自然発火性物質と呼び、Zrおよびその化合物は、それに含まれる。一方、自然発火性を示さない物質は、酸化速度が遅く、発熱量が小さいため、自然発火条件に到達しない。
自然発火性物質(Pyrophoric Material): 54.4℃以下の温度で、自発的に発火する液体or固体のことをいう。
発火あるいは点火(Ignition): 自己持続的な燃焼を開始するプロセスである。
パイロット発火あるいは点火(Pilot Ignition): 外部の小規模な炎、スパーク、光などに誘起されて発火した場合には、パイロット発火という。
自発発火(Autoignition)、自発発火(Spontaneous Ignition): 外部のパイロットソースなしで点火した場合には、自動発火、あるいは自発発火という。
#固体や液体のパイロット発火や自発発火の研究により、自然発火現象には、多くの因子が影響することがわかっている。雰囲気の組成、流速、固体や液体のサイズと形状、不純物濃度と種類、存在する水の量、液体や固体の事前の取り扱い方法などである。
発火温度(Ignition Temperature): 発火温度の下限値である。一般には、パイロット発火温度は、自発発火温度よりかなり低い。
燃焼(Combustion): 燃料(凝縮物orガス)や酸化性物質の自己継続的な発熱反応をいう。
#化学的には、その物質の最も高次の酸化度に到達していない物質は酸化しうる。つまり、すべての金属は、その酸化に適合した雰囲気中では酸化しうる。酸化に適合した雰囲気(空気や湿分)では、いくつかの金属は急速に酸化・発熱し、自然発火温度に到達しうる。逆に、いくつかの金属では、酸化速度がおそく、自然発火温度にはけっして到達しない。Zrは前者に分類される。
また、爆燃や爆発という用語が、燃焼と組み合わせて用いられることがあるため、デブリの自然発火に直接関係しないが、それらの定義もまとめられている[6]。
爆燃(Deflagnation): 燃焼性のガスから、反応しない物質に対して、熱伝導、対流、輻射で発熱反応が伝播することをいう。
爆発(Detonation): 反応に関与あるいは反応を維持する物質中での衝撃波をともなう発熱反応のことをいう。本質的な加熱メカニズムは衝撃波による圧縮であり、温度上昇は、熱伝達ではなく、むしろ、衝撃波による圧縮によって引き起こされる。
TMI-2デブリと模擬物質を用いた自然発火性確認試験
TMI-2事故で発生したデブリ中で自然発火の可能性がある物質として、Zr金属、量論組成でないZr酸化物やZr水素化物、Zry被覆管とUO2ペレットの反応で形成されるZr-U系の固体が考えられる。
文献調査
従来実施された、Zry被覆管とUO2ペレットの反応基礎試験では、自然発火性を有する物質が形成はみられていない[7]。しかし、Zry被覆管とUO2ペレットの相互作用で形成された物質が特定の環境(surface-to-volunme ratio)に曝されると、自然発火する可能性がある。Zr金属については、自然発火性に関するレビューが行われている[8,9]。重要課題として、Zrは1200℃以上の高温で、水蒸気あるいは水素-水蒸気雰囲気に曝されると、水素を吸蔵するという特性が指摘された(#温度1200~1700℃において、Zr-水蒸気反応で形成された水素の最大20%がZrに吸蔵されたという報告がある)。一方で、Zr金属やZr水素化物自体は、容易に自然発火する化学形態ではないと指摘されている。自然発火は、化学形態よりむしろ、surface-to-volume ratio、雰囲気の酸素濃度や湿分量に影響される。これらの文献中には、新たな金属表面が急に酸素を含む雰囲気に曝されたときの自然発火の境界条件が示されている。
TMI-2でのデブリサンプルの採集
TMI-2デブリの自然発火性を定量的に評価するために、TMI-2炉内から、以下の3種類のデブリがサンプリングされた(図1参照)。
- リードスクリューの付着デブリ
- 上部プレナム構造物カバーの付着デブリ
- 上部ルースデブリ
リードスクリューは約7mのステンレス製ロッドで、一部にネジ構造を有し、下部で制御棒スパイダーに接続されていた。事故時には制御棒スパイダーは炉心に全装荷されていた。Quick Lookのビデオカメラ調査により、リードスクリューのネジ部分に微粒子状の付着デブリが存在していることが確認された。Quick Look調査において、3本のリードスクリューが回収され、INEL(Idaho National Engineering Laboratory)に輸送され、分析が行われた。サンプルの一部は、PNL、B&W社、GPU社のホットラボに輸送され、分析が行われた。
Quick Lookのビデオカメラ調査の際に、上部プレナム構造物カバーの上に微粒子状の物質が堆積していることが確認された。事故時に上部プレナムの上を通過した水流か蒸気流で運ばれた物質が、ここに凝縮・堆積したと推定された。このデブリは、粒子状や粉末状のデブリを回収するために開発された真空吸引システムを用いて、スラリー状でサンプリングされた。このデブリについては、時間的な制約のため、TMI-2サイト内で自然発火性確認試験が行われた(#上部ヘッド取り外し作業の開始が迫っていたことと、それまでに実施された模擬試験により、自然発火性の可能性が極めて低いことが明らかになっていたため)。
上部ルースデブリのサンプリング計画により、炉心中央と、炉心中間位置の粒子状デブリがサンプリングされた(図2)。それらを輸送キャスクにいれ、INELへ移送し、分析が行われた。
自然発火性確認試験の結果
3種類のデブリサンプルと標準サンプル(Zr金属、Zry金属、Zr水素化物、Fe等の粉末試料、およびこれらを混合した模擬デブリ)を用いて、自然発火性とパイロット発火性の確認試験が行われた。
リードスクリュー付着デブリ
炉心中央(H8)から回収したリードスクリューの中央部分約30cmを切り出し、PNL、B&W、GPU社のホットラボで分析が行われた[10,11,12]、残りの部分の分析はINELで行われた[13]。表1に、4機関で実施された付着デブリの組成分析結果を比較して示す。分析結果は大きく異なっている。その理由は、サンプリングされた場所の違い、付着デブリのかきとり方法の違い、物量の違い、分析方法の違い、などが考えられる。自然発火可能性を有するZrがある程度の組成で含有されていることがわかる。さらにPNLでは、熱分析装置を用いて、リードスクリュー付着デブリの自然発火性に関する確認試験が実施された。その結果、空気中で500℃まで発熱反応がなく、吸熱反応の相転移が310-450℃で発生したと報告された[10]。また、XRDでは、自然発火可能性のある物質は検出されなかった。
元素 | GPU社分析値 | B&W社分析値 | PNL分析値 | INEL分析値 |
---|---|---|---|---|
B | NR | 0.5 | 0.7 | 0.5 |
Cr | 3.8 | 3.2 | 0.8 | 22.0 |
Fe | 33.8 | 31.5 | 9.4 | 37.0 |
Ni | 1.6 | 1.6 | NR | <0.1 |
Zr | 25.4 | 8.1 | 7.2 | 0.4 |
Mo | 4.9 | <0.1 | 0.1 | NR |
Ag | NR | 14.8 | NR | <0.1 |
U | 22.8 | 15.0 | NR | ND |
合計 | 92.3 | 74.7 | 18.2 | 59.9 |
NR: Not reported, ND: Not detected
プレナムカバー付着デブリ
圧力容器ヘッド取り外しの準備工程である、ヘッド内詳細調査計画(Underhead Data Acquisition)では、冷却水の水位を上部プレナムカバーの下まで下げる必要があった。この際に、プレナムプレートの上に付着しているデブリが事故後初めて大気にさらされることになる。それまでに、多くのテストで、デブリの自然発火可能性は極めて小さいと結論付けられていたが、最終的な確認として、プレナムカバー付着デブリのサンプリングが行われた。時間的な余裕がなかったので、限られた項目でのパイロット点火性に関する確認試験と分析が、TMI-2のオンサイトラボで実施された。実施項目は、プレナムカバー付着デブリを、(1)スパークに曝すテスト、(2)金属治具でたたくテスト(ストライクテスト)、(3)炎による着火テスト、であった。
(1) スパークテスト
アスベストボードの上にデブリサンプルを置き、テスラコイルで発生させた高圧スパークにさらされた。デブリが点火するかどうか目視で観察された。
(2)ストライクテスト
プラスチックバッグの中に、デブリサンプルと金床とハンマーを入れ、酸素を注入してからバッグを封入し、デブリ粒子をたたいた。
(3) 炎による着火テスト
アスベストボードの上にデブリサンプルを置き、プロパンガストーチ(華氏2300°の炎)に曝された。
これらの3試験のうち、スパークテストが最も重要で、炎テストは過剰な環境であると記述されている。いずれの試験も、パイロット点火条件であり、自発発火条件ではない。プレナムカバー付着デブリは、若干量の水を含んでいた。また、茶褐色の浮遊物が見られた(付着物内部には銀色の微粒子が存在していた)。これをろ過して、20-40mgの物質を採集し、上記の3試験が行われた。いずれの試験でもパイロット点火性なしと結論された。この試験の結果をうけて、圧力容器内の水位低下が開始された。水位低下作業や、それ以降のデブリ取り出し作業において、圧力ヨプ気内でなんの自然発火現象も見られなかった。
上部ルースデブリ
上部ルースデブリベッドの炉心中央部と中間部の深さ約56cmから、約150g(約30cm3)のデブリ粒子がサンプリングされた。これらは、それぞれH8B、E9BサンプルとID番号が振り付けられた。図3に外観写真を示す。H8B,E9Bサンプルの分析の前に実施された、H8Aサンプル(堆積深さ8cmから採集)の分析では、強酸に可溶性のデブリ(硝酸+フッ酸に90%以上が溶解)の主成分はU,Zr,Fe、副成分はNi,Cr,Ag、微量はSr,Al,Inと同定された。不溶解残差の主成分はZr,Cr,Fe,U、副成分はAl,Ni,Ag,Si,Sn、微量はMn,Cu,In,Bと同定された。これらの分析結果が、パイロット発火試験の参考知見に用いられた。H8BとE9Bサンプルをふるいわけした後で、体積分率の大きい粒子サイズ群から、粒子をサンプリングし、パイロット点火試験をが行われた。図4に、デブリ粒子の粒度分布の分析結果を示す。穀物ダストや鉄くずなどの無害な粒子でも、63μm以下の微粒子ではsurface-to-volume ratioが大きいと発火するというパイロット点火に関する基礎知見があるが、TMI-2の上部ルースデブリでは、そのサイズの粒子の体積分率は極めて小さかった。従って、燃料デブリ取り出し時の課題として、主にそれより大きなサイズのデブリ粒子についてパイロット点火試験が行われた。パイロット点火試験は、乾燥条件と湿潤条件(10wt%の水をサンプルに添加)で実施された。このうち、湿潤条件については、3~16wt%の含有水が存在すると、パイロット点火をが促進されるという知見に基づいて選定された[14]。
表2に、試験結果結果を示す。どの条件でもスパークによるパイロット点火は見られなかった。H8Bの4mm以下の粒子の中で、最も発火しやすいと推定された、破砕した被覆管由来の粒子、とポーラスなセラミック粒子、を1個ずつ採集し、プロパンガスの炎によるパイロット点火試験も実施された。いずれの粒子でも発火性は見られなかった。
サンプル | デブリ粒子サイズ | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
>4000μm | 4000~2000μm | 2000~1190μm | 1190~734μm | 734~320μm | 320~149μm | 149~74μm | 74~44μm | <44μm | |
H8B
炉心中央、深さ約56cmから採集 |
NI | NI | NI | NI | NI | NI | NI | NR | NR |
E9B
炉心中間、深さ約56cmから採集 |
NI | NI | NI | NI | NI | NI | NI | NI | NR |
いずれの試験も、乾燥空気雰囲気と10wt%含有水を添加した2条件で実施された。
NI: No pilot ignaited、NR: Sample not run because of insufficient material.
模擬物質試験
模擬デブリとして、各種試薬の粉末と混合物を用いて、乾燥or湿潤条件でパイロット点火試験が実施された。用いられた試薬は、Zr粉末<44μm、Zry-2粉末44~177μm、Zr水素化物粉末<48μm、Zr二酸化物粉末<44μm、Fe粉末<149μm、U二酸化物粉末<44μm、およびこれらの混合物である。用いられた単物質の粉末(Zr金属、水素化物など)は、パイロット点火の可能性があるという結果が得られた。しかし、混合物ではパイロット発火は極めて起こりにくいという結果であった。
さらに、オークリッジ国立研究所(ORNL)で、<1kg規模で、模擬デブリ溶融試験(Zry,UO2ペレット,Ag-In-Cd,Feなど使用)が行われた(>2000℃、水蒸気雰囲気)。得られた模擬デブリは黒色で、ガラス状の外観を持っており、ZryとUO2の反応進展にともなって形成された物質と推定された。このサンプルもパイロット点火試験に供試された(1cm~300μmサイズの粒子)。その結果、約250gの1cmサイズの模擬粒子デブリを、ガラス容器に入れてゆすったところ、何回かスパークが発生した。しかし、発火は継続しなかった。若干発生したスパークは、反応界面に形成されたわずかな金属相(1-5μm厚さ)に起因すると推定された。この模擬デブリサンプルを用いた燃焼試験実施(300μm~5mmサイズ粒子、約35g)が、パイレックスガラス中の空気雰囲気で実施された。何回かスパークが発生したが、燃焼は継続しなかった。TMI-2で多く見つかっている数mmサイズの模擬デブリ粒子を用いたパイロット発火試験も実施された。サイズの大きい粒子ではスパークは観測されず、いくつかの粒子は熱衝撃で割れる結果となった。
まとめ、自然発火可能性の評価結果
デブリの自然発火性に関する過去知見は、TMI-2デブリ取り扱いにおいて、参照すべきである。TMI-2から回収した3タイプのデブリを用いて実施した自然発火性確認試験では、どの試験条件でも、自然発火性、パイロット発火性が観測されなかった。また、プレナムカバーの空気への暴露、リードスクリュー付着デブリの空気への暴露、ルースデブリの輸送の際の空気中での取り扱いなどの、TMI-2での現場作業においても、自然発火性は観測されなかった。ORNLで実施した模擬デブリ試験では、いくらかの単独粒子表面でスパークが発生したが、燃焼は継続しなかった。
これらのことから、実デブリの取り扱いでは、ことさらに自然発火性物質を取り扱うような対策をする必要はないと結論づけられた。さらに、実際のデブリ取り扱いで想定されている以下の条件が、自然発火性のハザードをさらに下げると指摘された。GPU社と別に評価を行ったNRCも同様の結論に至っている[15]。
- 燃料取り出しは室温で実施され、少なくとも上部ルースデブリ取り出しにおいては、パイロット発火のソースとなる切断トーチは使用される予定がない。
- 酸化したデブリや構造材は、自然発火性物質の希釈材として機能する。
- デブリ取り出しは水中で行われ、水は、仮に自然発火が起きた際にヒートシンクとして働く。
TMI-2でのデブリ取り扱いにおいて、デブリの自然発火は極めて起こりにくい現象と評価されたが、一方で、フレッシュな金属面が水中に露出する可能性、デブリの酸化や水の放射線分解で水素が発生する可能性を完全に否定することはできない。特に、水素ガスの蓄積は課題であり、水素ガスが蓄積しないようなエンジニアリング対策(ベント、水素の制御された燃焼、再結合処理)は必要となると指摘されている。
さらに、この時点で炉心の下部に存在すると推定されていたU-Zr-O金属相や切り株燃料集合体は、部分的に酸化された化学活性が残留するZrを含み、自然発火のソースになりうると評価されている。したがって、以下の追加試験が提案されている。
(1) 次の段階で採集される溶融凝固デブリサンプルを用いたパイロット発火試験と化学分析
(2) 同じく、切り株燃料に残留する部分的に酸化したZryサンプルを用いたパイロット発火試験と化学分析
参考文献
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[5] P.R. Bengel, M.D. Smith, G.A. Estabrook, TMI-2 Reactor Vessel Head Removal, GEND-044, 1985.
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[10] R.L. Clark, R.P. Allen, M.W. McCoy, TMI-2 Leadscrew Debris Pyrophoricity Study, GEND-INF-044, 1984.
[11] G.M. Bain and G.O. Hayner, Initial Examination of the Surface Layer of a 9-incg Leadscrew Section Removed from Three Mile Island-2, The Babcock & Wilcox Company Lynchburg Research Center, Final Report to EPRI, Research Project 2056-2, NP-3047, 1984.
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