「デブリの自然発火性確認試験」の版間の差分

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 TMI-2では、上部ヘッドと上部プレナム構造物を取り外し、圧力容器の上部からデブリを取り出す工法が採用された。この際に、デブリや炉心物質が大気中に曝される。デブリが微粒子を含んでいたり、容易に酸化される物質だったりする場合には、自然発火が起こる可能性がある。また、炉心物質中には自然発火性を持ちうる物質(Zr金属、Zr系合金、Zr水素化物、部分酸化したZr(α-Zr(O),β’-Zr)、など)が存在している。これらのことから、TAASにより、上部ヘッドや上部プレナム構造物の取り外しや、デブリ取り扱いにおける自然発火性について検討が必要と指摘された。そこで、文献調査と模擬試験により、TMI-2デブリの自然発火可能性について検討された [1,2]。Pacific Northwest Laboratory(PNL)では、リードスクリューに付着していたデブリの自然発火性に関する総合的な試験が実施された[2]。H8(炉心中央)のリードスクリューから、約20cmのサンプルを切り出し、付着デブリについて、粒度分布、化学状態、組成などが分析された。また、熱分析装置を使った昇温試験も行われた。しかし、付着デブリの自然発火性は見られなかった。
 
参考:
 
 他方、GPU社では、自然発火性についての文献調査(#特に原子力産業でのZr金属取り扱いの経験を調査)で、高温にさらされた炉心物質で起こりうる反応を整理し、TMI-2でのデブリ取り扱いにおいて自然発火反応が起こることはほぼありえないと結論された。さらに、圧力容器内から採集されたZrを含有する3種類のデブリを用いた模擬試験で、自然発火性が見られないことが確認された[1]。これは、事故進展中にほとんどのZr含有粒子は高温水蒸気環境で酸化しているという事故進展解析結果と整合していた。また、仮に自然発火の可能性がある粒子が残留していても、それ以外の成分によって希釈されているため、仮にきわめて局所で自然発火が発生したとしても、その周囲に広がらないと評価された[1]。
 
 これらの評価結果にもとづいて、燃料デブリ回収システムが開発された。<u>#一方で、デブリ中のZrの酸化状態の完全な理解は困難であったため、取り扱い時には、自然発火性イベントに対する懸念を最小化するような方法が採用された。</u>デブリの自然発火性調査と模擬試験の結果と、自然発火を防止するようにデザインされた燃料デブリ取り出し方法により、デブリの自然発火性が重要課題であるという問題は排除された[1]。この項目では、以下で、GPU社での検討結果をまとめて示す。
 
== TMI-2事故炉の内部調査と文献調査 ==
 Quick Lookでルースデブリベッドの存在を確認。その表面には砂状、粒子状のデブリが約1m深さで堆積。事故進展解析により、ルースデブリ層の下に溶融凝固したU-Zr-O相とほとんど無傷の切り株燃料集合体があると推定。(図1:カメラ調査時点で判明していた炉内状況)
 
デブリ中には自然発火性物質が存在する懸念あり(USNRC)。基本的には金属系の物質。可燃性の金属として一般的に言われるのは、IA,IIA,IIB,IIIB,IVB族の金属(アルカリ金属、Mg,Ca,Zn,Th,U,Pu,Ti,Zr,Hf)
 
TMI-2の本来炉心には、ジルカロイ-4が18.8%、Ag-In-Cdが2.2%、SSが1.3wt%、Inconelが1.0wt%存在。したがって、自然発火の可能性物質としては、Zry,Zr-UO2系の亜酸化物、Zr水素化物
 
TMI-2のデブリ取り出し計画では、上部ヘッド取り外し、プレナム構造物の取り外し、上部からツールをいれて、デブリ取り出しとクリーンアップ。圧力容器内が大気にさらされる。これらの作業における自然発火可能性に関する課題について技術的な評価が必要[1]。
 
<nowiki>#</nowiki>まず、自然発火性(Pyrophoricity)の正確な定義の共有が必要。この用語は、燃焼理論で使われる数値解析から、農業、燃料、冶金分野で発生した火災や爆発まで、広い分野で使われている。初期のレポートでは、それが書かれていた時代の知見として、貯蔵されていたジルコニウムスクラップの自然発火について報告されている。[2]
 
用語の定義は、[3]にまとめられている。
 
 
Pyrophoric Material: 54.4℃以下の温度で、自発的に発火する液体or固体
 
Ignition, Pilot Ignition, Autoignition: 点火とは、自己持続的な燃焼を開始するプロセス。もし、点火が外部の小規模な炎、スパーク、光によって引き起こされた場合には、パイロット点火という(何らかの導入があった点火)。もし、外部のパイロットソースなしで点火された場合には、自動点火(自発点火:spontaneous ignition)という。固体や液体のパイロット点火や自発点火の研究により、多くの因子が影響することがわかっている。雰囲気の組成、流速、固体や液体のサイズと形状、不純物濃度と種類、存在する水の量、液体や固体の事前の取り扱い方法
 
Ignition Temperature: 点火に必要な温度下限。一般にはパイロット点火温度は、自発点火温度よりかなり低い
 
Combustion: 燃焼とは、燃料(凝縮物orガス)や酸化性物質の自己継続的な発熱反応
 
 
化学的には、その最も高次の酸化度に到達していない物質は酸化しうる。つまり、すべての金属は、適合した雰囲気中では酸化しうる。より適合した雰囲気(空気、湿分)では、いくつかの金属は急速に酸化・発熱し、点火温度に到達しうる。いくつかの金属では、酸化速度がおそく、点火温度にはけっして到達しない。Zrは前者の金属のひとつである。
 
また、deflagnation(爆燃)、detonation(爆発)という用語が、燃焼と組み合わせて用いられる。デブリの自然発火には関係しないが、これらの用語の定義も示す[3]。
 
Deflagnation: 燃焼性のガスから反応しない物質に対して、熱伝導、対流、輻射で発熱反応が伝播すること。
 
Detonation: 反応に関与あるいは反応を維持する物質中での衝撃波をともなう発熱反応。本質的な加熱メカニズムは衝撃波による圧縮、温度上昇は、熱伝達でもたらされるより、むしろ、衝撃波による圧縮による。
 
== 参考文献 ==
[1] V.F. Baston, W.E. Austin, K.J. Hoffstetter, D.E. Owen, TMI-2 Pyrophoricity Studies, GEND-043, 1984.
 
[2] R.L. Clark, R.P. Allen, M.W. McCoy, TMI-2 Leadscrew Debris Pyrophoricity Study, GEND-INF-044, 1984.

2024年12月20日 (金) 13:52時点における版

 TMI-2では、上部ヘッドと上部プレナム構造物を取り外し、圧力容器の上部からデブリを取り出す工法が採用された。この際に、デブリや炉心物質が大気中に曝される。デブリが微粒子を含んでいたり、容易に酸化される物質だったりする場合には、自然発火が起こる可能性がある。また、炉心物質中には自然発火性を持ちうる物質(Zr金属、Zr系合金、Zr水素化物、部分酸化したZr(α-Zr(O),β’-Zr)、など)が存在している。これらのことから、TAASにより、上部ヘッドや上部プレナム構造物の取り外しや、デブリ取り扱いにおける自然発火性について検討が必要と指摘された。そこで、文献調査と模擬試験により、TMI-2デブリの自然発火可能性について検討された [1,2]。Pacific Northwest Laboratory(PNL)では、リードスクリューに付着していたデブリの自然発火性に関する総合的な試験が実施された[2]。H8(炉心中央)のリードスクリューから、約20cmのサンプルを切り出し、付着デブリについて、粒度分布、化学状態、組成などが分析された。また、熱分析装置を使った昇温試験も行われた。しかし、付着デブリの自然発火性は見られなかった。

参考:

 他方、GPU社では、自然発火性についての文献調査(#特に原子力産業でのZr金属取り扱いの経験を調査)で、高温にさらされた炉心物質で起こりうる反応を整理し、TMI-2でのデブリ取り扱いにおいて自然発火反応が起こることはほぼありえないと結論された。さらに、圧力容器内から採集されたZrを含有する3種類のデブリを用いた模擬試験で、自然発火性が見られないことが確認された[1]。これは、事故進展中にほとんどのZr含有粒子は高温水蒸気環境で酸化しているという事故進展解析結果と整合していた。また、仮に自然発火の可能性がある粒子が残留していても、それ以外の成分によって希釈されているため、仮にきわめて局所で自然発火が発生したとしても、その周囲に広がらないと評価された[1]。

 これらの評価結果にもとづいて、燃料デブリ回収システムが開発された。#一方で、デブリ中のZrの酸化状態の完全な理解は困難であったため、取り扱い時には、自然発火性イベントに対する懸念を最小化するような方法が採用された。デブリの自然発火性調査と模擬試験の結果と、自然発火を防止するようにデザインされた燃料デブリ取り出し方法により、デブリの自然発火性が重要課題であるという問題は排除された[1]。この項目では、以下で、GPU社での検討結果をまとめて示す。

TMI-2事故炉の内部調査と文献調査

 Quick Lookでルースデブリベッドの存在を確認。その表面には砂状、粒子状のデブリが約1m深さで堆積。事故進展解析により、ルースデブリ層の下に溶融凝固したU-Zr-O相とほとんど無傷の切り株燃料集合体があると推定。(図1:カメラ調査時点で判明していた炉内状況)

デブリ中には自然発火性物質が存在する懸念あり(USNRC)。基本的には金属系の物質。可燃性の金属として一般的に言われるのは、IA,IIA,IIB,IIIB,IVB族の金属(アルカリ金属、Mg,Ca,Zn,Th,U,Pu,Ti,Zr,Hf)

TMI-2の本来炉心には、ジルカロイ-4が18.8%、Ag-In-Cdが2.2%、SSが1.3wt%、Inconelが1.0wt%存在。したがって、自然発火の可能性物質としては、Zry,Zr-UO2系の亜酸化物、Zr水素化物

TMI-2のデブリ取り出し計画では、上部ヘッド取り外し、プレナム構造物の取り外し、上部からツールをいれて、デブリ取り出しとクリーンアップ。圧力容器内が大気にさらされる。これらの作業における自然発火可能性に関する課題について技術的な評価が必要[1]。

#まず、自然発火性(Pyrophoricity)の正確な定義の共有が必要。この用語は、燃焼理論で使われる数値解析から、農業、燃料、冶金分野で発生した火災や爆発まで、広い分野で使われている。初期のレポートでは、それが書かれていた時代の知見として、貯蔵されていたジルコニウムスクラップの自然発火について報告されている。[2]

用語の定義は、[3]にまとめられている。


Pyrophoric Material: 54.4℃以下の温度で、自発的に発火する液体or固体

Ignition, Pilot Ignition, Autoignition: 点火とは、自己持続的な燃焼を開始するプロセス。もし、点火が外部の小規模な炎、スパーク、光によって引き起こされた場合には、パイロット点火という(何らかの導入があった点火)。もし、外部のパイロットソースなしで点火された場合には、自動点火(自発点火:spontaneous ignition)という。固体や液体のパイロット点火や自発点火の研究により、多くの因子が影響することがわかっている。雰囲気の組成、流速、固体や液体のサイズと形状、不純物濃度と種類、存在する水の量、液体や固体の事前の取り扱い方法

Ignition Temperature: 点火に必要な温度下限。一般にはパイロット点火温度は、自発点火温度よりかなり低い

Combustion: 燃焼とは、燃料(凝縮物orガス)や酸化性物質の自己継続的な発熱反応


化学的には、その最も高次の酸化度に到達していない物質は酸化しうる。つまり、すべての金属は、適合した雰囲気中では酸化しうる。より適合した雰囲気(空気、湿分)では、いくつかの金属は急速に酸化・発熱し、点火温度に到達しうる。いくつかの金属では、酸化速度がおそく、点火温度にはけっして到達しない。Zrは前者の金属のひとつである。

また、deflagnation(爆燃)、detonation(爆発)という用語が、燃焼と組み合わせて用いられる。デブリの自然発火には関係しないが、これらの用語の定義も示す[3]。

Deflagnation: 燃焼性のガスから反応しない物質に対して、熱伝導、対流、輻射で発熱反応が伝播すること。

Detonation: 反応に関与あるいは反応を維持する物質中での衝撃波をともなう発熱反応。本質的な加熱メカニズムは衝撃波による圧縮、温度上昇は、熱伝達でもたらされるより、むしろ、衝撃波による圧縮による。

参考文献

[1] V.F. Baston, W.E. Austin, K.J. Hoffstetter, D.E. Owen, TMI-2 Pyrophoricity Studies, GEND-043, 1984.

[2] R.L. Clark, R.P. Allen, M.W. McCoy, TMI-2 Leadscrew Debris Pyrophoricity Study, GEND-INF-044, 1984.