「TMI-2での内部調査、デブリ取り出しの概要」の版間の差分
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観測結果:炉心上部に空洞を発見、空洞の下には、崩落・堆積したとみられるルースデブリ層を発見、炉心周辺部に燃料集合体が残留していることを確認 | 観測結果:炉心上部に空洞を発見、空洞の下には、崩落・堆積したとみられるルースデブリ層を発見、炉心周辺部に燃料集合体が残留していることを確認 | ||
観測結果からの直接の推定:空洞の容積を概算、そこから崩落した炉心物質の物量を概算。最深1.5mの深さ、空間体積9.3m<sup><small>3</small></sup>。 | |||
デブリサンプル分析:上部ルースデブリの表面近傍のサンプル採集、炉心周辺部の燃料集合体の一部を切り出し採集(上部格子近く、ルースデブリ堆積面あたり) | デブリサンプル分析:上部ルースデブリの表面近傍のサンプル採集、炉心周辺部の燃料集合体の一部を切り出し採集(上部格子近く、ルースデブリ堆積面あたり) | ||
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([[TMI-2での事故進展に伴うデブリ移行挙動|参考:TMI-2での事故進展に伴うデブリ移行挙動]]) | ([[TMI-2での事故進展に伴うデブリ移行挙動|参考:TMI-2での事故進展に伴うデブリ移行挙動]]) | ||
周辺部に177個の燃料集合体のうち42個が部分的に残留、うち2個で全長に対し90%以上の無傷の燃料が残留 | |||
2024年5月13日 (月) 17:31時点における版
内部調査、デブリ取り出し作業の概略経緯
1979年3月に、米国スリーマイル原子力発電所2号機(TMI-2)で過酷事故が発生した。原子炉圧力容器内部の損傷状況の把握は、燃料(破損燃料集合体や燃料デブリ)や構造物の取り出し方法の選定や、事故シナリオの解明に向けた重要な情報となる。ここでは、TMI-2事故における、原子炉圧力容器の内部調査とデブリ取り出しの概要をまとめた。関連情報を時系列にまとめることで、どの段階でどのような情報が得られ、それがどのようにデブリ取り出し方法の選定や事故シナリオの解明に活用されたのかを整理した。
図1に、内部調査とデブリ取り出しの経緯を概略的に示す。また、図2に、内部調査やサンプル分析によって解明されたTMI-2事故での原子炉圧力容器内の最終形態の模式図を示す。事故翌年(1980年)の7月から、建屋内へ立ち入り調査と除染作業が開始された。さらに、事故から3年後(1982年)の7月から、原子炉圧力容器の内部調査が開始され、内部の様子が段階的に明らかにされた。
まず、テレビカメラによる圧力容器上部の調査が行われ、上部炉心構造物の状態(上部格子に一部溶融の痕跡)や本来炉心があった部分の上部に空洞があることが確認された。さらに、空洞部分にソナーを挿入し、炉心周辺部に残留していた燃料集合体の状態や空洞部の下に堆積していた上部ルースデブリの状態が調査された。ついで、上部ルースデブリのサンプリングと分析、および、プランジャと飛ばれる探針を使った上部ルースデブリの深さ方向調査が実施され、炉心中央部に探針が貫通できない硬い層(上部クラスト層)があることが明らかになった。
この間、上部ルースデブリを対象に、デブリ取り出し工法が検討された。遠隔手動により、まず、原子炉圧力容器内の上部構造物を解体して取り出し、次に、あいた空間に、破損燃料や燃料デブリを回収しキャニスターに装荷する作業台を設置する。キャニスターに装荷したデブリは、原子炉圧力容器外に取り出し、燃料移送管で使用済み燃料プールに移送、貯蔵ラックに一時保管した後で、輸送キャニスターに収納し、INELに輸送するという工法が採用された[1]。これに基づいて、1984年7月に原子炉圧力容器の上蓋が解放され、上部炉心構造物の解体・取り出しが開始された。1985年5月には、燃料・デブリ取り出し用の回転式遮蔽作業台が、上部炉心構造物を取り出した後に設置され、同年10月には、上部ルースデブリの取り出しが開始された。一方、上部クラスト層以下については、この時点でほとんど情報が得られていなかったため、炉心上部での作業と並行して、1985年2,7,12月に、ダウンカマーからテレビカメラを挿入し、炉心下部の調査が行われた。その結果、下部炉心構造物の形状がおおむね維持されていることや、デブリとみられる堆積物が底部に非均質に堆積しており、非常に細かい物質と岩石状の物質が混在していることが明らかになった(下部プレナムルースデブリ、下部プレナムハードデブリ)。
1986年6月に上部ルースデブリの取り出しが終了した後、同年7月に、上部クラスト層以下に対して、ボーリング調査が10か所行われた。ボーリングで採集したサンプルの分析とボーリング孔内面のビデオカメラ調査により、上下クラスト層の間に溶融凝固したとみられるもろい多孔質層があることが明らかになった。また、溶融凝固層は炉心中央で厚く、周辺にいくにつれて薄くなり、炉心外周部あたりでは上下クラスト層が一体化して周辺クラスト層を形成していることが明らかになった。さらに、ボーリングした穴を利用して、下部プレナムにテレビカメラを挿入し、下部クラスト層の下の状態を観測した。そこには本来形状をほぼ維持している切り株状の燃料集合体が存在していることが確認された。これらの情報に基づき、上部クラスト層より下のデブリについては、取り出し方法を変更することが検討された[1]。すなわち、硬い層については、ボーリング装置で粉砕し長尺工具で取り出すこと、炉心周辺部に残留する燃料集合体と切り株燃料集合体については、切断引き抜きで取り出すことに変更された。1987年3月までに、クラスト層とそれに囲まれた溶融凝固層、及び、炉心周辺部に残留していた燃料集合体の取り出しは終了し、さらに、1987年の4~12月に切り株燃料集合体の取り出しが行われた。
上部クラスト以下のデブリの取り出し過程で、溶融デブリの一部が、南東側のバッフル板を破損して、バッフル板と圧力容器槽の間のコアフォーマ領域に侵入していることが明らかになった。そこで、1987年2,10月に、コアフォーマ領域にファイバースコープを挿入した調査が行われた。また、1987年3月には、下部炉心構造物のテレビカメラ調査が行われた。さらに、切り株燃料集合体の切り出しと並行して、次第に露出してくるバッフル板のテレビカメラ撮影が行われた。これらの調査により、コアフォーマ領域の全周に対して約3/4に溶融凝固物が侵入していることや、溶融凝固物はコアフォーマ領域やその手前にある炉心周辺部の燃料集合体の冷却剤流路を通じて下部プレナムに移行したことが明らかにされた。
1988年1月からは、下部炉心構造物の切断と下部プレナムデブリの取り出しが開始された。これらの工程では、ボーリング装置やプラズマアーク装置がデブリや構造物の切断に利用され、取り出し作業はテレビカメラ撮影された。1989年3月時点で、デブリ取り出しの進捗率は約78%に達し、1990年上半期には取り出し作業はほぼ終了した。
内部調査で得られた知見
ここでは、1982年7月から開始され、燃料取り出しの進捗に即して、段階ごとに行われた様々な内部調査において、どのような知見が得られたのかをまとめた。
上部炉心構造物
調査方法:テレビカメラ
観測結果:上部格子以外はほぼ健全、上部格子の一部に溶融の痕跡と変色
観測結果からの直接の推定:溶融の痕跡から、事故時のピーク温度を推定。変色の様子から構造物が事故進展中に水蒸気酸化した可能性を推定
事故シナリオの推定:上部ルースデブリが再冠水した際に発生した水蒸気流により、上部格子の溶融・酸化が発生
炉心上部の空洞
調査方法:テレビカメラ、ソナー
観測結果:炉心上部に空洞を発見、空洞の下には、崩落・堆積したとみられるルースデブリ層を発見、炉心周辺部に燃料集合体が残留していることを確認
観測結果からの直接の推定:空洞の容積を概算、そこから崩落した炉心物質の物量を概算。最深1.5mの深さ、空間体積9.3m3。
デブリサンプル分析:上部ルースデブリの表面近傍のサンプル採集、炉心周辺部の燃料集合体の一部を切り出し採集(上部格子近く、ルースデブリ堆積面あたり)
(参考:燃料デブリの分析(特徴、経験温度))
事故シナリオの推定:スクラム後174分での冷却水投入タイミングで高温酸化し脆化した燃料棒が崩落
上部ルースデブリ
調査方法:テレビカメラ、ソナー、探針(プランジャ:63か所)
観測結果:上部ルースデブリ層の堆積厚さを測定、その下には、探針が貫通できない硬い層があること、および硬い層は平滑面でなく凹凸があり、比較的外周側で馬蹄形リング状に盛り上がっていることを検出
観測結果からの直接の推定:堆積物の容積とデブリサンプルの密度分析から、上部ルースデブリの物量と堆積厚さ分布を概算
デブリサンプル分析:上部ルースデブリの取り出し作業中にデブリサンプルを数か所採集・分析
(参考:燃料デブリの分析(特徴、経験温度))
事故シナリオの推定:崩落した炉心物質のうち上の方は、崩落後にあまり再昇温・再溶融せず、粒子状を維持、冷却水注入により再冠水され、冷却。再冠水時に、残留していた金属成分が酸化し、水素・水蒸気発生。粒子状の上部ルースデブリ中への冷却水侵入にはある程度時間を要し(スクラム後200分以降)、その重量増加により上部クラストを圧迫し、溶融凝固デブリの噴出につながったと推定
炉心周辺部に残留していた燃料集合体
(ここから)
調査方法:テレビカメラ、ソナー、探針(プランジャ:63か所)
観測結果:上部ルースデブリ層の堆積厚さを測定、その下には、探針が貫通できない硬い層があること、および硬い層は平滑面でなく凹凸があり、比較的外周側で馬蹄形リング状に盛り上がっていることを検出
観測結果からの直接の推定:堆積物の容積とデブリサンプルの密度分析から、上部ルースデブリの物量と堆積厚さ分布を概算
デブリサンプル分析:上部ルースデブリの取り出し作業中にデブリサンプルを数か所採集・分析
(参考:燃料デブリの分析(特徴、経験温度))
事故シナリオの推定:崩落した炉心物質のうち上の方は、崩落後にあまり再昇温・再溶融せず、粒子状を維持、冷却水注入により再冠水され、冷却。再冠水時に、残留していた金属成分が酸化し、水素・水蒸気発生。粒子状の上部ルースデブリ中への冷却水侵入にはある程度時間を要し、その重量増加により上部クラストを圧迫し、溶融凝固デブリの噴出につながったと推定
周辺部に177個の燃料集合体のうち42個が部分的に残留、うち2個で全長に対し90%以上の無傷の燃料が残留
上部ルースデブリの堆積厚さが0,1~1.55mであること、および、回収したデブリサンプルの分析データを用いて、その重量が約26.4tであること、
参考文献
[1] 渡会偵祐、井上康、舛田藤夫、TMI-2号機の調査研究結果、日本原子力学会誌 解説 vol. 32 (No. 4) (1990) 338-350.