「RPV下部ヘッドで採取された燃料デブリ試料の分析結果(微細構造)とデブリ移行メカニズムの推定」の版間の差分

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 TMI-2事故炉の下部プレナムに堆積していた"岩石状"デブリサンプル【'''図1'''】(シュラウドとRPV側面内壁の間のダウンカマー付近から採集)の分析と、それに基づくデブリの下部プレナムへの移行・堆積メカニズムの推定が行われている[1]。
 TMI-2事故炉の下部プレナムに堆積していた"岩石状"デブリサンプル【'''図1'''】(シュラウドとRPV側面内壁の間のダウンカマー付近から採集)の分析と、それに基づくデブリの下部プレナムへの移行・堆積メカニズムの推定が行われている[1]。


 主成分はUとZrの二酸化物:(U,Zr)O<small><sub>2</sub></small>の固溶相であり、わずかに、(Fe,Cr,Ni,Al)の酸化物相が存在していた。
 サンプル中には、UとZrの二酸化物:(U,Zr)O<small><sub>2</sub></small>の固溶相からなっており、わずかに、(Fe,Cr,Ni,Al)の酸化物相が存在していた。


 サンプルの大部分では、丸い二酸化物の結晶(U:Zr比がおよそ一定)と、粒界に析出相が見られ、デブリメルトが急冷したことを示した【'''図2'''】。粒界に析出した相は酸化物であり、共晶構造を持っていた【'''図3'''】。
 サンプルの大部分では、丸い形状の二酸化物の結晶(U:Zr比がおよそ一定)と、その粒界に析出相が見られた。これは、デブリメルトが急冷したことを示唆している【'''図2'''】。粒界に析出した相は酸化物であり、共晶構造を持っていた【'''図3'''】。


 一方で、サンプルの一部に空隙が見られ、その周辺では、酸化物相の相分離を示す共晶構造が観測された【'''図4、5'''】。これは、サンプルの一部が徐冷されたことを示唆している。
 一方で、サンプルの一部にボイドが多く存在する領域があり、ボイドの周辺では、酸化物相の平均組成が、バルク領域と異なっていた。さらに、相分離を示す共晶構造が観測された【'''図4、5'''】。これは、ボイド周辺では、デブリメルトが徐冷されたことを示唆している。


 結晶粒界の融点は、その組成から、約1600Kと推定された。このことから、UとZr二酸化物の固溶体が析出した後も、粒界部分は鋼材の融点以下まで液相状態を維持していたと推定される。すなわち、デブリは濡れた砂のような状態となっており、RPV鋼材との接触性が悪く、これをあまり溶融しなかったのではないかと推定される。
 結晶粒界の融点は、その組成から、約1600Kと推定された。このことから、UとZr二酸化物の固溶体が析出した後に、デブリメルト中に存在していたFe,Cr,Ni,Alなどの酸化物が濃化した粒界部分は、鋼材の融点以下まで液相状態を維持していたと推定される。すなわち、凝固途中のデブリは、丸い形状の固相と粒界の液相からなる"濡れた砂"のような状態となっていたと推定される。このため、RPV鋼材との接触性が悪く、RPV鋼材の溶融があまり進まなかったのではないかと推定されている。


== マトリックス領域の分析結果 ==
== 成分が比較的均質分布していた領域の分析結果 ==
 サンプルは全体的に岩石状で、表面はごつごつしている【'''図1'''】。
 サンプルは全体的に岩石状で、表面はごつごつしていた【'''図1'''】。


 断面拡大BSE像で見られた結晶構造(丸い結晶粒の集合、わずかな結晶粒界の存在)は、典型的な'''急冷組織'''(as cast)を示す【'''図2'''】。
 断面拡大BSE像で見られた結晶構造(丸い結晶粒の集合、わずかな結晶粒界の存在)は、典型的な'''急冷組織'''(as cast)を示す【'''図2'''】。BSE像では、明るい部分が重元素に対応するため、試料全体にUが均質に分布し、粒界には、Zrなどの軽元素が濃化していることがわかる。


 結晶は単相【'''図3(a)'''】で、UO<small><sub>2</sub></small>とZrO<sub><small>2</small></sub>の二元系状態図において、固溶体の高温安定相が急冷した状態と整合している【'''図6'''】。EPMAで求めたバルク相の平均組成は、'''35at%-ZrO<sub><small>2</small></sub>'''であった。
 結晶は単相【'''図3(a)'''】で、UO<small><sub>2</sub></small>とZrO<sub><small>2</small></sub>の二元系状態図で見られる、固溶体の高温安定相が急冷した状態と整合している【'''図6'''】。EPMAで求めたバルク相の平均組成は、'''35at%-ZrO<sub><small>2</small></sub>'''であった。


 結晶粒界に、二相分離の痕跡がある場所が存在していた【'''図3(b)'''】。粒界は、バルク相に比べてZrリッチであり、凝固過程で液相にZrO<sub><small>2</small></sub>が濃化したことが示唆された。(濃化のメカニズムは後述する。)<gallery widths="350" heights="350">
 結晶粒界に、二相分離の痕跡がある場所が存在していた【'''図3(b)'''】。粒界は、バルク相に比べてZrリッチであり、凝固過程で液相にZrO<sub><small>2</small></sub>が濃化したことが示唆された。これは、状態図を用いたZr濃化のメカニズムで説明できる(後述)。<gallery widths="350" heights="350">
ファイル:下部プレナムデブリ外観.png|'''<big>図1 TMI-2下部プレナムから採集された岩石状デブリの外観 [1]</big>'''
ファイル:下部プレナムデブリ外観.png|'''<big>図1 TMI-2下部プレナムから採集された岩石状デブリの外観 [1]</big>'''
ファイル:下部プレナムデブリ拡大BSE.png|'''<big>図2 図1の断面拡大BSE像 [1] (#重金属存在部位が明るく見える)</big>'''
ファイル:下部プレナムデブリ拡大BSE.png|'''<big>図2 図1の断面拡大BSE像 [1] (#重金属存在部位が明るく見える)</big>'''

2024年5月8日 (水) 09:00時点における版

概要

 TMI-2事故炉の下部プレナムに堆積していた"岩石状"デブリサンプル【図1】(シュラウドとRPV側面内壁の間のダウンカマー付近から採集)の分析と、それに基づくデブリの下部プレナムへの移行・堆積メカニズムの推定が行われている[1]。

 サンプル中には、UとZrの二酸化物:(U,Zr)O2の固溶相からなっており、わずかに、(Fe,Cr,Ni,Al)の酸化物相が存在していた。

 サンプルの大部分では、丸い形状の二酸化物の結晶(U:Zr比がおよそ一定)と、その粒界に析出相が見られた。これは、デブリメルトが急冷したことを示唆している【図2】。粒界に析出した相は酸化物であり、共晶構造を持っていた【図3】。

 一方で、サンプルの一部にボイドが多く存在する領域があり、ボイドの周辺では、酸化物相の平均組成が、バルク領域と異なっていた。さらに、相分離を示す共晶構造が観測された【図4、5】。これは、ボイド周辺では、デブリメルトが徐冷されたことを示唆している。

 結晶粒界の融点は、その組成から、約1600Kと推定された。このことから、UとZr二酸化物の固溶体が析出した後に、デブリメルト中に存在していたFe,Cr,Ni,Alなどの酸化物が濃化した粒界部分は、鋼材の融点以下まで液相状態を維持していたと推定される。すなわち、凝固途中のデブリは、丸い形状の固相と粒界の液相からなる"濡れた砂"のような状態となっていたと推定される。このため、RPV鋼材との接触性が悪く、RPV鋼材の溶融があまり進まなかったのではないかと推定されている。

成分が比較的均質分布していた領域の分析結果

 サンプルは全体的に岩石状で、表面はごつごつしていた【図1】。

 断面拡大BSE像で見られた結晶構造(丸い結晶粒の集合、わずかな結晶粒界の存在)は、典型的な急冷組織(as cast)を示す【図2】。BSE像では、明るい部分が重元素に対応するため、試料全体にUが均質に分布し、粒界には、Zrなどの軽元素が濃化していることがわかる。

 結晶は単相【図3(a)】で、UO2とZrO2の二元系状態図で見られる、固溶体の高温安定相が急冷した状態と整合している【図6】。EPMAで求めたバルク相の平均組成は、35at%-ZrO2であった。

 結晶粒界に、二相分離の痕跡がある場所が存在していた【図3(b)】。粒界は、バルク相に比べてZrリッチであり、凝固過程で液相にZrO2が濃化したことが示唆された。これは、状態図を用いたZr濃化のメカニズムで説明できる(後述)。

図3 マトリックス相の拡大BSE像 (a) 結晶粒の様子、(b) 結晶粒界の様子 [1]







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ボイドが多い領域の分析結果

 サンプルの一部に、ボイドが多く存在する領域が観測された【図4】。ボイド周辺では、BSE像の色合いから、析出相の組成が異なっていると推定される【図5】。

 図5の領域には、(U,Zr)O2固溶相のほかに、U-Zr-Fe-O相、Fe-Cr-O相が検出された。これは、メルトの徐冷過程での析出と推定される。

 (U,Zr)O2固溶相の組成は、上述のマトリックス相の組成と類似していた。この相が

 U-Zr-Fe-O相では、Zrがやや高濃度であり、Feの酸化度はFeOと推定された。

 








参考文献

[1] R.V. Strain, L.A. Neimark, J.E. Sanecki, Fuel Relocation Mechanisms Based on Microstructures of Debris, Nucl. Technol. 89 (1989) 187-190.