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* インコアモニターについて(圧力容器下部から、燃料集合体のうち52体に挿入、本来のリード線の全長39m)、炉心下部の比較的損傷を受けていない領域でのモニターのサバイバル状態を調査(364本のSPND、52本のバックグランド検出器、52個の熱電対)、炉心の中央で損傷がさらに大きく、ほとんどの計測系が生き残っていなかった。熱電対は52個が全滅、SPND系は416本(364+52)中22本が生き残り。 | * インコアモニターについて(圧力容器下部から、燃料集合体のうち52体に挿入、本来のリード線の全長39m)、炉心下部の比較的損傷を受けていない領域でのモニターのサバイバル状態を調査(364本のSPND、52本のバックグランド検出器、52個の熱電対)、炉心の中央で損傷がさらに大きく、ほとんどの計測系が生き残っていなかった。熱電対は52個が全滅、SPND系は416本(364+52)中22本が生き残り。 | ||
* APSRについて、APSR8本を、事故直後の25%引き抜き位置から、圧力容器内に挿入する試験が実施され、荷重、ノイズ、トルクなどが計測された。2本は、全挿まで5%位置まで、1本は18%位置まで、3本はほとんど動かなかった。これらは、炉内状況の推定に参考知見として用いられた。その後、制御棒や可燃性毒物棒のリードスクリューの接続外し作業が行われた。 | * APSRについて、APSR8本を、事故直後の25%引き抜き位置から、圧力容器内に挿入する試験が実施され、荷重、ノイズ、トルクなどが計測された。2本は、全挿まで5%位置まで、1本は18%位置まで、3本はほとんど動かなかった。これらは、炉内状況の推定に参考知見として用いられた。その後、制御棒や可燃性毒物棒のリードスクリューの接続外し作業が行われた。 | ||
'''<big>参考:APSR挿入試験</big>''' | <span style="color:blue">'''<big>参考:APSR挿入試験</big>'''</span> | ||
* ポーラークレーンについて: レールとトロリーの電気駆動系、ペンダントケーブルの一部、が事故時の水素燃焼により損傷。修理・交換。目視確認、非破壊検査。再稼働準備。 <br />・線量計による損傷状態評価について: 4個の線量モニターを建屋から回収、事故時の建屋内環境と損傷モードの調査 <br />・圧力伝達器(Pressure Transmitter):58個が建屋内に、安全設備と接続。事故時の損傷状態を調査 ・電気コンポネントとDiscrete Device:建屋内。事故時のサバイバル状態を調査。ボルトナットの接続状態なども含む。約70個の電気コンポネントを調査、うち23個は総合除染試験の効果を確認するために再調査。12個の電気コンポネントは事故で不具合発生。4個は詳細調査のため、建屋から搬出。さらに5個を搬出予定 ・ケーブル、コネクション、貫通部:全長152kmのケーブルやコネクションが建屋壁床を貫通して配線。 ・抵抗温度計(RTD):事故時の建屋内の温度。(Fig.11、事故時の建屋内温度変化) | * ポーラークレーンについて: レールとトロリーの電気駆動系、ペンダントケーブルの一部、が事故時の水素燃焼により損傷。修理・交換。目視確認、非破壊検査。再稼働準備。 <br />・線量計による損傷状態評価について: 4個の線量モニターを建屋から回収、事故時の建屋内環境と損傷モードの調査 <br />・圧力伝達器(Pressure Transmitter):58個が建屋内に、安全設備と接続。事故時の損傷状態を調査 ・電気コンポネントとDiscrete Device:建屋内。事故時のサバイバル状態を調査。ボルトナットの接続状態なども含む。約70個の電気コンポネントを調査、うち23個は総合除染試験の効果を確認するために再調査。12個の電気コンポネントは事故で不具合発生。4個は詳細調査のため、建屋から搬出。さらに5個を搬出予定 ・ケーブル、コネクション、貫通部:全長152kmのケーブルやコネクションが建屋壁床を貫通して配線。 ・抵抗温度計(RTD):事故時の建屋内の温度。(Fig.11、事故時の建屋内温度変化) | ||
== WIP(Waste Immobilization Program)、1981年以降 == | == WIP(Waste Immobilization Program)、1981年以降 == | ||
[[ファイル:年報3.png|サムネイル|600x600ピクセル|'''<big>図3 EPICOR-IIライナー埋設処分用の高強度コンテナ(HIC)[2]</big>''']] | [[ファイル:年報3.png|サムネイル|600x600ピクセル|'''<big>図3 EPICOR-IIライナー埋設処分用の高強度コンテナ(HIC)[2]</big>''']] |
2025年6月2日 (月) 16:31時点における版
TMI-2事故炉の廃炉に向けて、GPU社、EPRI、NRC、DOE(GEND)が協議を行い、廃炉(特に圧力容器からの燃料取り出し、原子炉建屋内の環境整備)に必要となる知見の効果的、効率的な取得と実作業への反映のために、マネージメントおよびサポート体制の整備と必要なタスクの整理が行われた。また、TMI-2の廃炉過程で得られる知見・データは、実機サイズでのシビアアクシデントの理解や事故で発生した放射性廃棄物の取り扱い・処理技術の開発にも極めて有用であることから、GPU社が進める廃炉作業を遅延させない範囲において、これらに係る内部調査やサンプル採集と分析などが進められることとなった[1]。原子炉建屋や燃料取り扱い建屋の内部調査、さらに、圧力容器内や冷却水系(RCS: Reactor Coolant System)の廃炉に向けた作業は、1980年から本格的に進められた。このうち、DOEは、以下の分野を主担当した[1]。
- 安全機器や設備のサバイバル状態
- 建屋内の線量分布、環境影響、線量低減、廃棄物
- 知見とデータのアーカイブ
- 炉心と燃料の状態
1980.3月に、これら課題の実行計画(TI&EP: Technical Information & Examination Program)が策定された。さらに、1981年に、廃棄物安定化プログラムと炉内状況の評価プログラムと統合されて改定され、以下の3分野で研究開発プログラムが整理された。
- 事故炉からのデータ取得(DAP: Data Acquisition Program)
- 廃棄物安定化(WIP: Waste Immobilization Program)
- 事故炉の状態評価(REP: Reactor Evaluation Program)
これらの年度ごとの進捗が年次レポートとして刊行された[1-10]。本項目では、DOE年次レポートの概要をまとめる。
年度ごとの進捗概要
図1にTMI-2号機プラントの構成を示す[2]。原子炉建屋内には、原子炉圧力容器の周囲に、加圧器、蒸気発生器、冷却水循環ポンプ、緊急時の注水タンク、冷却水ドレインタンク(RCDT: Reactor Coolant Drain Tank)などが配置されている。地階にはサンプ(排水溝)があり、排水ポンプが設置されている。隣接する補助建屋には、冷却水の浄化系が設置されており、脱塩装置の前後にフィルターが取り付けられている。また、冷却水の貯留タンク(RCBT: Reactor Coolant Bleed Tank)や、廃液タンクが設置されている。建屋買いにはホウ酸水の貯蔵タンクが置かれている。タービン建屋内には、タービンと水蒸気の凝縮器(コンデンサ)、発電機、ポンプなどが配置されている。
1980年
- TMI-2廃炉と関連作業、調査、データ取得にかかわる総合計画(TI&EP)がとりまとめられた(GEND-001レポート)[12]。
- 総合計画の実行プランを策定する専門家グループとして、EG&G社の専従スタッフ12名と、パシフィックノースウェスト国立研究所(PNL)、サンディア国立研究所(SNL)、エクソン社などから派遣された専門家により、Technical Integration Office(TIO)が設置された。(TMI-TIO Program Management Plan, 1980)
- 安全機器や設備のサバイバル状態については、建屋内線量計の回収、内部調査用のポータブルビデオカメラシステムの調達、建屋内の固定監視カメラの調達、12個の安全機器の再稼働試験が行われた。
- 建屋内の線量分布調査と線量低減(環境改善)、廃棄物については、廃炉作業にともなって事故時の情報を持ったサンプルが失われる前に、建屋内のサンプル採集(圧力容器内冷却水、RCBT、原子炉建屋内の雰囲気、水素再結合設備の配管、など)が進められた。また、公衆用のモニタリングシステムが開発され、建屋から5マイル以内に居住している住民が訓練され、放射性微粒子を自分たちで測定できるようになった。
- 知見とデータのアーカイブについては、1980.7月に、原子炉建屋内の換気が行われ、滞留していたKr-85が排出された。以降、原子炉建屋内へのルーチン的な立ち入りが開始された。また、補助建屋と燃料取り扱い建屋に滞留していた事故由来水の処理が、EPICOR-IIにより完了した。その処分に向けて、EPICOR-IIの高線量樹脂やライナー(樹脂の容器)の特性評価と処分技術の検討が開始された。さらに、事故対応に係る知見が、1980年9月までに、全米の原子力技術者3000人で共有された。
- 炉心と燃料の状態については、ヘッドから圧力容器内にカメラを挿入する調査の基本計画が立案され、また、燃料やデブリの収納缶の概念設計と、燃料やデブリの回収ツール・手法の検討が開始された。
1981年
- 基本的なプロジェクト内容に大きな変更はないが、TMI-2事故炉のTechnical Information and Examination Program(TI&EP)が改定され、事故炉からのデータ取得(DAP: Data Acquisition Program)、廃棄物安定化(WI: Waste Immobilization)、事故炉の状態評価(REP: Reactor Evaluation Program)に再編された。
- DAPは、事故情報の採集(設備・プラントデータ、水素燃焼損傷の評価)、除染・廃炉・調査技術の開発、FP移行の理解、ソースターム評価、を担当する。
- WIPは、安全でコスト効率的な放射性廃棄物の取り扱い・輸送、および商用処分施設への処分、を担当し、主な対象物は、EPICOR-IIのイオン交換ライナーと浸水型脱塩システム:SDS(Submerged Demineralizer System)のゼオライト吸着塔とする。
- REPは、オフサイト試験でのデータ採集、炉内アクセス方法の開発とデータ採集、を担当し、当面は、ヘッド撤去までの炉心内部の損傷状態の調査、事故市内炉評価、燃料やデブリ取り出しに向けた炉内データの採集、モックアップ試験などの計画を策定する。
DAP
- エリア線量計HP-R-211と、ルースパートモニタリングシステムコンバーター(Loose Part Monitoring System Converter)の分析が完了した。
- 自己発電型中性子検出器(SPND:Self-Powered Neutron Detector)の測定値による事故時の温度評価が完了した。
- 計測機器および電気系統の情報を原子力事業者に転送するプログラムが導入された。
- 原子炉建屋地階サンプ滞留水と、メイクアップ(makeup)フィルター5B系統の付着物、のサンプリングと分析が行われた。
- RCBT、建屋内エアクーラー、305フィート高さ床面、のγスキャンが行われた。
- 原子炉建屋内の総合除染試験計画とポーラークレーンの検査計画が立案された。
- 原子炉建屋内の多くの場所で、コンクリートと金属のコアサンプルが採集された。
- 作業員のルーチン的な立ち入りに向けて、携帯サーベイメーターの較正が行われた。
- 事故時に発生した建屋内の水素燃焼による設備や機器の損傷評価が実施された。
- EPICOR-IIプレフィルターPF-16が、バッテルコロンバス研究所(BCL)に輸送され、予備分析が開始された。
- 事故時に発生した建屋内での水素燃焼の原因探索、安全機器・設備のサバイバル状態の調査、FPふるまい・分布の調査が進められた。
WIP
- EPICOR-II樹脂を300年間保管可能な、液体や固体廃棄物用の収納コンテナ(HIC: High Integrity Container)の設計が開始された。
- 原子炉建屋に滞留していた高レベルの汚染水を処理するSDSシステムの開発支援として、イオン交換剤への適切なゼオライト混入量の評価と、ゼオライトのガラス固化模擬試験が行われた。
- 高線量SDSライナーとEPICOR-IIプレフィルターの処理に関する研究開発と、廃棄物輸送の責任体制について、DOE、GPU社、NRCがおよそ合意した。
REP
- 圧力容器ヘッド内部調査に向けて、内部調査装置とヘッド貫通方法の開発が進められた。
- 既存知見による、炉心損傷程度と損傷範囲の予備評価が完了した。
- 破損燃料収納缶の予備設計が行われた。
- 燃料取り出しと圧力容器内の構造物解体のための設備と方法について概念検討が行われた。
1982年
DAP
- 原子炉建屋内の安全設備と電気系統について、事故時のサバイバル状態について各種機器・設備の調査が継続された。ポーラークレーン再稼働の技術支援が行われた。圧力容器内については、APSR(Axial Power Shaping Rod)挿入試験が実施され、インコアモニターのin situ試験が継続された。得られた知見は、炉内状況推定に利用された。
- 線量と環境放出については、一次系液体・固体サンプル分析の継続、計量管理システムの開発、事故時ソースターム評価、建屋地階サンプル採集、建屋地階やRCBTキュービクルなどのCCTV調査、などが進められた。また、原子炉建屋内の総合除染試験が実施され、各種の除染技術について性能・効果が検証された。事故時の水素燃焼解析が継続された。
- 炉内状況の調査に関しては、炉内調査技術の検討が継続され、Topography調査ツールの設計・製作と、採集される炉内サンプルの保管方法が検討された。
WIP
- DOEとNRCがTMI-2廃棄物の取り扱い方法に合意した(廃棄物の一部を、DOEが研究開発に利用することを含む)。
- EPICOR-II廃棄物からのガスサンプリングデバイス開発(実廃棄物2体に適用)、高強度コンテナ(HIC)の検証試験が行われた。
- 高汚染SDSが研究機関に輸送され、ライナーのガラス固化技術の開発継続、汚染樹脂の分析が開始された。
REP
- 初めての炉内ビデオ調査として。Quick Look調査が実施された。
- ヘッド撤去の準備として、制御棒61本とAPSR8本のリードスクリューの接続外し、撤去技術の安全評価などが進捗した(ヘッド撤去は1983年に予定された)。
- プレナム構造物撤去と燃料デブリ回収方法の具体的な実行計画の検討が開始された。
安全機器や設備のサバイバル状態、1980年まで
事故時の安全設備の適切な制御と運転はアクシデントマネージメントの鍵であり、TMI-2事故進展中の稼働状況に係る知見を得ることは重要である。Instrumentation and Electrical Equipment Survivability Planning Group(IEPG)が設置され、破損モードの同定、設計時の動作標準条件と実動作の比較、クラス1E設備の脆弱性の分析、品質管理、規制基準、設計などへの修正点の提案、TMI-2事故進展理解の向上、等のために、
- 安全機器や設備の現地調査と動作試験
- コンポネントのテスト目的と方法の決定
- アーカイブとして保管するコンポネントやサンプルの決定
が実施されることとなった。
約200個の機器デバイスのサーベイ計画が立案され、初期に調査されるべき安全設備12個を同定し、そののサーベイが実施された。また、コンポネントの撤去、防護、動作試験(例:線量計HP-RT-211を撤去し、SNLに送付)が進められた。さらに、付属するケーブル類、ソースレンジアンプ(N1-AMP-2)、チャージアンプ(YM-AMP-7023)などが回収予定とされた。建屋内の画像調査については、CCTVシステムが原子炉建屋内に導入され、ポータブルTVカメラやポータブル暗視カメラが準備された。安全システムのレビューが進められ、初期にデータ分析が必要な安全・モニタリング設備として、SPNDが重要であることが同定された。
建屋内の線量調査と線量低減(環境改善)、廃棄物、1980年まで
総合計画レポート[11]において、TIO専門家により、放射性物質の移行と堆積・分布状態にかかわるデータ取得計画(Recommended Data Acquisition Tasks at TMI-2 Relating to Fission Products Transport, Deposition, and Environments Characterization)と、除染と被ばく抑制に係るデータ取得計画(Recommended Data Acquisition Tasks at TMI-2 Relating to Decontamination and Personnel Exposure Control)におけるタスクが整理された。
原子炉一次系について、サンプリングの対象物が選定された(RCS系スラッジ、冷却水浄化フィルターと樹脂、RCS冷却水、RCBTサンプル、ドレインタンク底部のスラッジや粒子)。また、圧力容器内以外の一次系に堆積しているデブリの堆積位置や状態の測定に向けて、ガンマスキャン、中性子、超音波、赤外などの測定方法のレビューが行われた。原子炉建屋内については、エアクーラー、建屋地階サンプ、水素再結合器、建屋雰囲気、等のサンプリングの優先度が高いとされた。放射性物質の環境放出と建屋内コンクリートや設備表面の堆積については、原子炉建屋床面の線量マップ作成、設備表面サンプルの分析、さらに、初期の除染試験が行われた。作業員の被ばく線量の適切なコントロールが重視され、ALARAの考え方に基づくことが示された。環境への放射性物質放出評価について、TMI-2炉周辺のモニタリング計画が提示された。
放射性廃棄物の取り扱いについては、冷却水系や除染対象となる各種の溶液からの放射性物質除去、処理により汚染されるイオン交換樹脂やライナーなどの安定化、および、最終的な廃棄体の調製、移送、処分について、概要計画が示された。短期プロジェクトとして、18課題が整理され、それぞれについてワークスコープ、スケジュール、予算見積もりが行われた。同定された研究開発課題は、中間貯蔵の基準策定、イオン交換剤の安定化と線量や化学反応の影響調査、イオン交換剤やスラッジフィルターなどの固化処理技術、脱水したイオン交換剤の高強度の貯蔵・輸送・貯蔵コンテナの開発、放射性廃棄物の減容技術、イオン交換方式の高性能化、などに係るものであった。また、SDSイオン交換樹脂やEPICOR-IIのプレフィルターライナーの分析計画が策定された。
知見とデータのアーカイブ、1980年まで
TMI-2知見の産業界への効果的な共有、および、産業界側のニーズの整理の重要性が指摘され、公式に承認されたTMI-2事故情報としてGENDレポートが刊行されることとなった。また、GENDレポートに準ずる非公式レポートとしてGEND-INFレポートが刊行されることとなった。以下の項目の調査の重要性が共有された。
- 安全設備と電気系統のサバイバル状態
- FP移送と付着・体積
- 建屋の除染、廃棄物減容技術
- 圧力容器内へのアクセスとモニタリング
- 放射性廃棄物の取り扱い
- 原子炉建屋の損傷
- 原子炉建屋地階の排水溝デブリの同定
- 一次系圧力バウンダリ
- プラント運転にかかわる機器やコンポネントのサバイバル状態(ポンプ、バルブ、など)
- 臨界性制御
- 炉心損傷状態、燃料取り出し方法
- 破損燃料や炉心物質の格納と輸送
- 事故時の燃料ふるまい
炉心と燃料の状態、1980年まで
TIOにより、圧力容器内の調査計画として、廃炉工程5段階について、基本計画が立案され、内部調査や燃料取り出しの進捗に伴って修正されることとなった。(Recommendations on TMI-2 Core Damage Examinations, 1980)
- ヘッド撤去前
- 上部プレナム構造物撤去前
- 燃料取り出し開始前
- 燃料取り出しの進捗中
- 燃料取り出し完了後
また、GEND-001レポートにおいて、最初の取り出し方法や代替法などのとりまとめ(Scoping Studies of the Alternative Options for Defueling, Packaging, and Disposal of the TMI-2 Spent Fuel Core)と。事故シナリオの評価に向けた調査項目(TMI-2 Fuel and Core Components Examinations, 1980)が示された[11]。
まず、通常の燃料交換に準ずる方法での燃料取り出しが可能かどうかを確認するために、初期の圧力容器内の調査方法として、圧力容器上部ヘッドに取り付けられている制御棒駆動メカニズム(CRDM: Control Rod Drive Mechanism) を撤去して、ヘッド開口部から小型CCTVカメラを挿入し、制御棒案内管アッセンブリ(CRGA: Control Rod Guide Assembly)上部から燃料集合体の上部付近を調査する基本計画が整理された。併せて、CCTV挿入箇所の調査基本計画が立案された。
また、インコアモニターの現状調査により、圧力容器内の状態を推定する調査計画が立案され、生き残っているモニターからの信号取得方法や補正方法が検討された。
核燃料物質の計量管理については、通常は燃料集合体ごとの管理が行われるが、事故炉で発生する破損燃料やデブリの計量についての計量方法の検討が開始された。この横目は、以下の3段階で行われることとなった。
- Phase-I: 課題の同定、計量管理システムの定義
- Phase-II:詳細設計、機器、方法、コンピューター制御
- Phase-III:機器システム製作、プログラミング
破損燃料の回収・保管技術については、候補技術の抽出とスクリーニングと、破損燃料収納缶の概念設計が行われた。この項目は、以下の5段階で行われることとなった。
- Phase-I: 候補技術の抽出とスクリーニング
- Phase-II: 選定された技術の基礎試験と、破損燃料やデブリ取り出しに向けた概念設計
- Phase-III: Phase-IとIIの技術レポート
- Phase-IV: 装置・機器設計と製作、運転方法の開発
- Phase-V: 未照射材を用いたフルスケールモックアップ
さらに、長期間にわたり、破損燃料や炉心物質がホウ酸水溶液中に保持されることの影響評価が行われ、鋼材の腐食増加などは起こらないと結論された。
炉内状態の推定については、最初のとりまとめレポートが1981年に発行されることとなった。
DAP(Data Acquisition Program)、1981年以降
1981年
安全機器や設備のサバイバル状態
- 建屋内機器の状態調査について、エリアモニター2台、ルースパートモニター(LPM)チャージコンバーター2台、ソースレンジ中性子チャンネルプリアンプ1台、マルチコンダクターケーブル1セットが原子炉建屋から回収された。
- SNLで、エリアモニターHP-R-211の分析が行われ、線量影響が評価された。事故時の建屋内線量は10R/hと評価され、この線量計の設計上限値を超えていた。詳細は、GEND-INF-008で報告された[13]。また、HP-R-211のコネクターとケーブルの接続不良について、高線量による絶縁不良が解析された。ケーブル自体の損傷は見られなかった。
- チャージコンバーターについては、YM-AMP-7023と7025のテストが行われた。事故時の高線量でこれらの機器は故障していたことが確認された。また、金属酸化物半導体(MOS)を装荷したField-Effect Transistorの動作確認が行われ、高線量(約105 Rad)により半導体が劣化していたことが確認された。
- ソースレンジプリアンプNI-AMP-2も回収されて損傷状態が検査されたが、機器自体には大きな損傷は見られなかった。ケーブルコネクションに課題があった可能性があり、調査が継続されることtなった。
- INELで、SPNDの事故時の高温環境に対するレスポンスの分析が行われた。その結果、事故進展中の定量的な温度と時間変化のモニターとしては使えないことが確認された。
- 1980年度に選定された12個の安全設備[11]のin situ動作試験が行われ、おのおのの動作状況が確認された。さらに、22個の全然設備のin situ試験が継続されている。
建屋内の線量調査と環境改善
- この分野については、(1)FP輸送と付着、(2)除染と作業員被ばく低減、(3)事故評価、が進められた。
原子炉一次系について
- 燃料棒の破損箇所、FP分布、腐食状態評価に向けて、一次系のサンプリング部位が同定された(図2)[1]。メイクアップ系と浄化系の冷却水フィルターと付着・堆積物、RCS冷却水とスラッジ(圧力容器外)、RCBT水、が重要サンプリングポイントとして同定された。
- メイクアップ系と浄化系については、フィルター5B,2A,2B,4A,4Bの回収方法が検討された。フィルターと付着物が、B&W社、EG&G社に、分析のために輸送された。予備分析の結果、付着物は酸に可溶性および難溶性で、ほとんどが1~5ミクロン以下の粒子であった。線量は、470 μCi/g(α線)、2.3 x 104 μCi/g(ベータ線)であった。
- 液体サンプルについては、毎週1回の頻度でサンプリングが行われた。さらに、150 mlのサンプル(浮遊物込み)が採集され、エクソン社(ENICO)とEG&G社で分析された。分析項目は、外観調査、γ分光、α/β測定、I-129、H-3、C-14、Ce-144の分析、元素分析、pH測定、電気伝導度、密度、であった。ろ過後のサンプルについては、秤量、XRD、DCES(Direct Emission Spectroscopy)、ガンマ分光、が行われた。分析結果の詳細は、GEND-015で報告された[14]。
- スラッジサンプルについては、圧力容器、加圧器、蒸気発生器シート、主蒸気配管、などからのスラッジサンプル回収方法が検討された。かきとり方法が最も簡便だが、蒸気発生器にしかつかえないと判定された。冷却水中にスラッジを巻き上げて濁りとして回収する方が実用的と指摘された。
- RCBTサンプルについては、サンプル回収され、INELで分析が行われた。
- RCS系の燃料物質の付着・堆積状態については、サンプル分析方法について、GEND-018にとりまとめられた[15]。
- ポータブルγ線検出器の現地試験が行われた。
原子炉建屋とサポート系について
- 原子炉建屋内の線量分布測定が行われ、線量マップがとりまとめられた。線量分布は非均質であり、ホットスポットが同定された。圧力容器ヘッド上で、作業プラットフォームを支える円筒形構造物(サービスストラクチャー)や原子炉建屋の比較的上層階の床面でのβ線量が相対的に高い、などの結果が得られた。
- エアクーラーサンプル、地階サンプサンプルの採集と分析が行われた。
設備や床面の堆積物、環境放出について
- 原子炉建屋内床面の堆積物サンプルの採集と分析が行われた。
事故シナリオ評価について
- 事故時の建屋内温度分布の推定が行われ、GEND-020とに評価結果がまとめられた[16]。
- 事故進展中に原子炉建屋内で発生した水素燃焼について予備的な検討が行われた。
除染効果の評価について
- 1982年に実施予定の総合除染試験にむけて、概要計画が策定された。
建屋内エントリー
- 24回の原子炉建屋内エントリーにおいて、総合除染試験の準備やサンプリングなどの作業が行われた。
個人線量計
- 作業員の被ばく低減について、ALARA(As Low As Reasonably Acheivable)の考え方に基づくことが確認された。
- 作業員被ばく低減方針について、GEND-004にとりまとめられた[17]。
炉内調査計画の検討
- 1981.10から、INELのリードの下で、建屋内及び圧力容器内の調査、サンプリング、取り扱い、格納、分析の、計画と実行プランを具体化開始した。
- In-Vessel Data Acquisition Planの検討では、データ採集の目的が4項目に整理された。計画案のレビューが行われた。
- 現行のプラント設計基準の改良あるいは検証
- NRCの規制サポート
- 解析コードの高度化
- コスト効率、実効性
廃棄物取り扱い
- 事故により、約1900m3の汚染水が補助建屋と燃料取り扱い建屋に移行した。これらは、EPICOR-IIで処理された。
- 処理後のライナー(高線量50個、低線量22個)のうち、高線量の1個:PF-16をバッテルコロンバス研究所に移送し、分析が行われた。
- バッテル研究所では、外観観察、ガス分析、コアサンプル分析、液体サンプル分析、γスキャンが行われた。
文書化、アーカイブ
- アーカイブの保管体制が整備され、知見・データの文書化方法、今後のデータ点数増大対策、およびデータの品質管理、等の放送が確認された。
- 公式レポートは、GEND-XXXとナンバリングされ、広い研究開発分野において重要であり、かつ、研究プロジェクトの終了によるなんらかの推奨を含むものとされた。
- 非公式レポートは、GEND-INF-XXXとナンバリングされ、予備的な検討結果や全体プロジェクトとのうちの一部の成果をまとめたものとされた。
- 1981年内に、14本のGENDレポートと、12本のGEND-INFレポートが刊行された。
1982年
安全機器や設備のサバイバル状態
- インコアモニターについて(圧力容器下部から、燃料集合体のうち52体に挿入、本来のリード線の全長39m)、炉心下部の比較的損傷を受けていない領域でのモニターのサバイバル状態を調査(364本のSPND、52本のバックグランド検出器、52個の熱電対)、炉心の中央で損傷がさらに大きく、ほとんどの計測系が生き残っていなかった。熱電対は52個が全滅、SPND系は416本(364+52)中22本が生き残り。
- APSRについて、APSR8本を、事故直後の25%引き抜き位置から、圧力容器内に挿入する試験が実施され、荷重、ノイズ、トルクなどが計測された。2本は、全挿まで5%位置まで、1本は18%位置まで、3本はほとんど動かなかった。これらは、炉内状況の推定に参考知見として用いられた。その後、制御棒や可燃性毒物棒のリードスクリューの接続外し作業が行われた。
参考:APSR挿入試験
- ポーラークレーンについて: レールとトロリーの電気駆動系、ペンダントケーブルの一部、が事故時の水素燃焼により損傷。修理・交換。目視確認、非破壊検査。再稼働準備。
・線量計による損傷状態評価について: 4個の線量モニターを建屋から回収、事故時の建屋内環境と損傷モードの調査
・圧力伝達器(Pressure Transmitter):58個が建屋内に、安全設備と接続。事故時の損傷状態を調査 ・電気コンポネントとDiscrete Device:建屋内。事故時のサバイバル状態を調査。ボルトナットの接続状態なども含む。約70個の電気コンポネントを調査、うち23個は総合除染試験の効果を確認するために再調査。12個の電気コンポネントは事故で不具合発生。4個は詳細調査のため、建屋から搬出。さらに5個を搬出予定 ・ケーブル、コネクション、貫通部:全長152kmのケーブルやコネクションが建屋壁床を貫通して配線。 ・抵抗温度計(RTD):事故時の建屋内の温度。(Fig.11、事故時の建屋内温度変化)
WIP(Waste Immobilization Program)、1981年以降
1981年
高強度コンテナ(HIC)開発
- EPICOR-II廃棄物の埋設方法としてHICに格納しある程度の深度に埋設する方法が選定された。理由は、比較的安価、取り扱い時の作業員被ばくがALARAに整合、廃棄物を長期間固定可能、ということであった。
- HIC設計条件として、液体/固体廃棄物を300年保管可能、ガスのベント可能、地下約30mで圧力約3気圧に耐性、長期間の容器内外の腐食耐性が抽出された。図3にHICの模式図を示す[2]。性能確認試験計画が立案された。
SDS廃棄物技術
- 事故時に約2300m3の汚染水が原子炉建屋地階に滞留した。これは、SDS系で処理された(1982年運転開始)。図4に、SDS系の系統図を示す[2]。
- SDS由来の放射性廃棄物の減容化、低レベル廃棄物の焼却処理技術の開発が行われた。
- ゼオライトと樹脂の安定化技術、ガラス固化技術、有機物(樹脂)のガラス固化技術、ゼオライトのガラス固化模擬試験、有機物のガラス固化、補助建屋での初期の汚染水処理に使われたEPICOR-Iの汚染有機物の処理、等が行われた。
REP(Reactor Evaluation Program)、1981年以降
1981年
- 4個のタスクに分割された。
- ヘッド撤去前の炉心損傷評価: 今後の炉内状況推定のベンチマークとなる、炉内調査方法やツール開発の参照データ、圧力容器内部調査計画検討
- 炉内状態観測システム: 圧力容器内の観察、サンプリングへのニーズ整理、画像調査、サンプル選定、取り出し、分析、トポグラフィー、パノラマ写真、構造マップ
- 炉心解体と現場データ採集: 燃料構造材の安全な撤去、調査、ヘッドとプレナムの貯蔵、燃料貯蔵
- モックアップ試験装置: 構造物解体、燃料取り出しツール、フルスケール
ヘッド撤去前の炉心損傷評価
- プレナム及び炉心上部の内部調査計画の詳細化、アクセスルート検討、作業安全性評価が進められた。
- 内部調査の目的として、プレナム構造物への炉心物質付着の物量と分布、プレナム構造物の変形、デブリベッド形成の可能性、制御棒CRDMとリードスクリューの接続状態、プレナム構造物の溶接部や接合部の損傷、圧力容器との接合状態が整理された。図5に、当初計画されたアクセスルートと重点調査個所を示す[2]。
- インコアモニター案内管を通じた炉内状況推定が計画された。炉心には、52本のモニターが装荷されていた。図6にインコアモニター調査の概要を示す[2]。
炉内状態観測システム
- コアマッピング方法の検討、炉内状況マッピング技術の選定、CCTV、超音波探査、等が行われた。
炉心解体と現場データ採集
- 炉内状況に係る現状情報の整理が、GEND-007にとりまとめられた[18]。以降の検討のベンチマークとして利用された。表1に、この時点での炉内状態の推定状況を示す。
- また、ソースターム評価として、ヘッド内面とプレナム構造物へのFPや燃料物質の付着評価が着手された。
- ホウ酸水中に、長期にわたって、破損燃料が放置されるため、腐食影響の評価が行われた。影響は軽微と評価され、GEND-INF-014にとりまとめられた[19]。
- この時点では、炉心損傷は比較的軽微と予想されており、燃料集合体1体をそのまま格納できる収納缶が開発された(GEND-011)[20]。
- この時点では、約50%の燃料集合体が酸化していると推定されており、その結果形成される粒子状デブリは最大で約64トンと推定された。このため、約40μm以下の粒子を回収する真空吸引システムの検討が開始された。
- プレナム構造物の撤去方法の検討が開始され、一体物として強度を維持して撤去できるかどうか、他の構造物と接合状態(どのように分離するか)が重要な調査項目であることが確認された。
- 計量管理について、最初のとりまとめが、GEND-016に報告された[21]。
モックアップ試験装置
- タービン建屋内に、圧力容器上部のフルスケールモックアップ設備を設置することが計画された。課題は、プレナム撤去時に水没させるかどうかであった。
参考文献
[1] Technical Integration Office, TMI-2 Information and Examination Program Technical Integration Office Annual Report, GEND-003, 1981.
[2] Technical Integration Office, TMI-2 Information and Examination Program 1981 Annual Report, GEND-022, 1982.
[3] 1983
[4] 1984
[5] 1985
[6] 1986
[7] 1987
[8] 1988
[9] 1989
[10] 1990
[11] 1991
[12] GEND Planning Report, GEND-001, 1980.
[13] F.T. Soberano, Examination of Solenoid Valves AH-EP-5037 and AH-EP-5039 and Limit Switches AH-KS-5037 and and AH-KS-5039, GEND-INF-008, 1984.
[14] J.D. Yesso et al., Reactor Coolant System and Reactor Coolant Bleed Tank Sample Analysis, GEND-015, 1982.
[15] K. Vinjamuri et al., Nondestructive Techniques for Assaying Fuel Debris in Piping at Three Mile Island Unit 2, GEND-018, 1981.
[16] M.B. Murphy and R.E. Heintzleman, Examination Results on TMI-2 LPM Charge Converters YM-AMP-7023 and YM-AMP-7025, GEND-020, 1982.
[17] B.L. Rich et al., Interim Status Report of the TMI Personnel Dosimetry Project, GEND-004, 1981.
[18] D.W. Croucher, Three Mile Island Unit-2 Core Status Summary: A Basis for Tool Development for Reactor Disassembly and Defueling, GEND-007, 1981.
[19] The Potential Effects of Post-Accident Corrosion on the Evaluation of the TMI-2 Core and Reactor Internals, GEND-INF-014, 1982.
[20] G.A. Toeness, Canister-Design Considerations for Packaging of TMI-2 Damaged Fuel and Debris], GEND-011, 1981.
[21] P. Goris and D.D. Scott, Accountability Study for TMI-2 Fuel, GEND-016, 1981.